有栖とアリス   作:水代

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有栖と異界

 

「「ヒーホー。初めましてだホー。兄弟」」

「オイラはジャックランタンだホー」

「オイラはジャックフロストだホー」

「「イエー!」」

 

 ……………………。

 

 ……………………。

 

 ……………………。

 

「で、何しに来たんだホ? オイラのテリトリーを侵しに来たならやっつけるホ」

「ここで暴れるのを止めるんだホー? でないとサマナーが退治に来るんだホー」

「ヒーホー! 来るなら来るホ、オイラが全員返り討ちにしてやるホ!」

 

 

 

 

 

「と、言うことで交渉決裂だホ」

「あっそ」

 ランタンの言葉に簡素にそう返す。

 まあ正直、言葉で譲歩を引き出すのは無理だとは思っていたので仕方ない。

「サマナー」

 カチャン、と銃の引き金を引いた…………と思ったら、ランタンがこちらを見て言う。

「兄弟を殺さないで欲しいホ」

「殺しはしない…………送り還すだけだ」

 現世にいる悪魔は皆須らく本体から分霊を送られたマグネタイトの塊りに過ぎない。

 唯一の例外がいるとすれば、恐らくアリスくらいだろう。

 だがそんな俺の答えに、ランタンが首を振る。

「そうじゃないホー。サマナーの仲魔にしてやって欲しいホ」

「……………………はぁ?」

 俺の仲魔にしろ…………そんな言葉に思わず声が漏れる。

 無論、考えなかったわけでも無い。

 眼の前のランタンの例に見るに、特異点悪魔…………特異固体は、同じ種族の中でも飛びぬけて強力な存在だ。

 仲魔にできればこれ以上無い戦力になることは間違い無い。

 

 だが。

 

「ダメだ…………危険過ぎる」

 だからこそ、それは難しい。

 殺さなければ殺される…………それを地で行くようなやつら、それが特異固体と言うものなのだから。

 実際、眼の前のランタンの相手をした時も、その後半年は入院するような大怪我だったのだ。

 回復魔法と言う便利なものを併用しながら、それでも半年はかかったのだ。

 実際、ほとんど死に掛けだった、とは医者の弁だ。

「それでも………………お願いだホ」

 ランタンの変わらないカボチャ頭…………繰りぬかれた目からは何の色も見えないはずなのに。

 どうしてか、悲しそうな瞳が見えたような錯覚を起す。

「……………………………………」

 仲魔とは悪魔召喚師にとってパートナーであり、切り札である。

 人によって使い捨ての道具だと言うものもいれば、生涯の友だと言うものもいる。

 その距離感は人それぞれ様々なものではあるが、有栖にとって仲魔とは語感のままに仲間である。

 それも命を預けることができる、気が置けない仲間たち。

「……………………………………」

 だからこそ、悩む。

 ジャックランタンとジャックフロスト。

 同じジャックの名を冠し、同じ妖精種族。何より、別固体でありながら、非常に仲が良いことで有名な彼ら。

 だからこそ、この申し出は予想できたことなのかもしれない。

 

「………………………………条件がある」

 

 正直言えば、断りたい…………だが、これまでも何度も共に戦ってきた仲間の頼み。

 聞いてやりたいと言えばその通りでもある。

 だから、条件を付ける。

 

「俺は命をベットする気はねえぞ…………分かるな?」

 

 俺の仲魔だ。

 この言葉の意味するところは分かるだろう。

 

「了解だホ」

 

 それを理解しながら、けれどランタンは頷く。

 ならば。

 

「なら俺は信じよう」

 

 空へ向け、銃を撃った。

 

 パァン…………と静かな夜空に乾いた音が響き渡った。

 

 

 

「ツンデレ乙」

「……………………アリス、いつから出て来てた?」

「『あっそ』のあたりから」

「……………………」

「『なら俺は信じよう(キリッ』」

「……………………送還(リターン)

「(クスクス)」

「サマナー…………元気出すホ」

「うるせー…………」

 

 最近アリスがサブカルチャーに染まってきている気がする。

 

 

 

 

 帝都東京。日本と言う国の中心、日本の心臓と言ってもいいかもしれない。

 二十三に分けられた地区のとある一つ。

 その地区の中に含まれるとある地のとある街…………比良野。

 そこから西に進むこと車で十五分のそこに、ソレはあった。

「西比良野総合病院、ここだな。間違いねえ…………この感じ、異界化してやがる」

 キョウジに聞いた廃病院跡地とはここのことだろう。

 跡地と言うから整えられているのかと思ったが、まだ建物の半分も崩していないようだ。

 何より看板がまだ残っている辺りに手付かず感が漂う。

 病院と言うだけあって、さぞや霊の吹き溜まりとなっていることだろう。

 そんな場所が異界化している、と言う事実に頭が痛くなってくる。

 

 異界化…………と言う言葉について掘り下げておくべきだろうか?

 

 異界化とは現世の一部が何らかの原因によって異界となる現象のことだ。大抵その原因は強力な力を持った悪魔だ。

 異界と言うのは、魔界とリンクした場所を指す。魔界とリンクすれば、その世界は魔界と同じ()()を得る。

 魔界は端的に言えば悪魔の住む世界だ。

 

 つまり異界化とは、強大な力を持った悪魔がそこに存在するせいで、時空間が歪み魔界と同じ状態となってしまうことだ。

 異界化の九割はこの説明で片付けることができる。

 そして逆説的に言うなら、あらゆる異界は原因を消滅させることで正常な空間に戻すことができる。

 

 異界化した場所では、マグネタイトが空気中に濃密に漂う。だからこそ異界化した場所では悪魔が生まれやすい。

 さらに言うなら、空間が歪んでいるだけで結界が張られているわけでも無いので悪魔を知らない一般人も区別無く巻き込んでしまう。

 だからこそ異界は早急に解決しなければならない。

 と言っても、異界化に一般人が巻き込まれる、と言うのは案外ケースとしては少ない。

 それは、異界化の成り立ちにちょっとした秘密がある。

 異界化するには、原因となる悪魔が…………それも空間を歪ませることができるほど強力な悪魔が必要だ。

 そもそも悪魔は人の強い感情を好む。

 ではこの強い感情とは、一体どういうものか。

 これもまた悪魔によって傾向が違うのだが、最も幅広く好まれているものと言えば、生への執着だ。

 『死にたく無い』俺自身も見に覚えのあるこの感情が、大抵の人間の最も強い感情であり、だからこそ最も幅広い悪魔に好まれる感情だ。

 まあ中には特定の感情にしか反応しない悪魔とかもいるのだが…………絶望を好む悪魔なんて人間から言わせれば最悪以外の何者でも無い。

 話を戻すが、一つの街の中で最もそう言った『生死の危機』が発生している場所とはどこだろうか?

 そう、病院だ。

 だがソレが分かっているからこそ、大抵の病院には結界が張られている。

 誰が? 答えは国だ。

 

 ヤタガラス、と呼ばれる機関がある。

 

 天津神の系譜に連なり日本という国家を霊的に守護する組織、それがヤタガラス。

 

 先日あったキョウジの所属する葛葉と言う組織と似ているが、葛葉が異能者が中心となった少数精鋭の里であることに比べ、ヤタガラスは政府の下で動く超国家機関だ。

 最も、それだけの力を持つヤタガラスをして、協力と言う形を取らざるを得なかった葛葉はそれ以上の異常ではあるが。

 実際戦力としてみるなら葛葉は異常の一言に尽きる。

 帝都守護役は葛葉最強の証である葛葉ライドウ(襲名制)が引き受ける役目であるし、関東守護役や関西守護…………それら全て葛葉の一族が担っているのだからその強さは押して測るべしである。

 実質、日本の怪異に対する戦力の半数以上は葛葉一族であると言えるのかもしれない…………まあ最も俺の知らない政府やヤタガラスの戦力があるのなら話はまた別ではあるが。

 では戦いを葛葉に任せたのならヤタガラスの役目とは何だろうか?

 それは国の目であり耳であり、口であることだ。

 各地に使者を派遣し、異界化するかもしれない場所を監視し、周囲に悪魔がいないか噂を耳にし、それを逐一報告する。いざ葛葉や他のサマナーたちが暴れたならその痕跡を隠し、一般人に秘匿する。

 そうしてこの国の裏側は回ってきた。

 

 と、話が長くなったが、とにかく、ヤタガラスが各地に目を光らせているので、案外人のいる場所での異界化と言うのは起こりにくい。

 

 だが実際に異界化が起こっている。何故? それが人の寄らないような場所だから。

 実際、国家単位の規模だと言っても、怪異などと言うわけの分からない、一般人には決して理解されないものを相手にしているのだ。しかも一般人には秘匿しながら。

 その構成員はさすが国家規模だと言わざるを得ないが、それでも日本全土を監視するには圧倒的に人手が足りないと言わざるを得ない。

 だからこうして人の寄り付かない場所は監視の範囲外だったりする。

 それでも週に一度くらいのペースで見回っているのだから、大したものだと言わざるを得ない。

 さらに言うなら、この周囲一帯はキョウジの縄張りであり、ライドウが入って来ないことも一因かもしれない。

 無論、帝都守護役は今代のライドウの役目ではあるのだが、葛葉キョウジがこの辺り一帯を中心として活動している以上、客観的にはそうなってしまっているのもまた事実だ。

 キョウジの縄張りにおいて、法はたった一つ。

 

 力を示せ。示せないなら死ね。

 

 余りにもらしい、と言えばらしいそれ。だが裏世界の真理とも言える。そしてそれを一番体現しているのはキョウジなのだと、ここでなら誰もが知っている。

 だからこそ、正規の裏の正義の闇の…………古今東西のありとあらゆるサマナーたち、デビルバスターたちが集まってくる。

 強さを求めて、富を求めて、栄光を求めて。

 ここでは強さこそが全てだから。

 

 

 

 一歩足を踏み入れた瞬間に分かる。

「…………くっ、くく」

 濃厚なマグネタイトの臭い。

 いや、五感で捉えれるようなものではない。

 第六感に引っかかるこの感じ。

 だがそれを表現しようと思えば、やはり臭いだろう。

 むせ返るほどに濃厚。COMPの中でアリスが楽しそうに笑う声が聞こえてきそうだ。

 ランタンがここに来た瞬間、生き生きとしているのが分かる。

 ああ、これは凄い。

 一体どれだけ強い悪魔がいればこれほど濃密な臭いがするのか。

「ああ…………楽しみだな」

 しかも今日は満月。

 月の魔力に充てられた悪魔たちが最も活性化する日。

 だが俺の銃弾にかかればそんなものは問題にならない。

 だから、俺にとって満月の日は、最も効率良くマグネタイトを稼げる日でしかない。

 その日にこんな異界にこれたことを幸運に思うしかあるまい。

 

 銃を手に取る。

 

 弾倉を取り出し、弾丸を込める。

 

 弾倉を戻し、スライドを引く。

 

 カチン…………と装填された弾丸が薬室に送られ。

 

「ァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 現われた悪魔に照準を定め…………引き金を引いた。

 

 

 




メガテン知らない人にはけっこうハードル高いかも、って今さらながらに気づいて、異界とかの情報書いてみたけど、やっぱり今さら書いても読まない人は読まないと今さらながらに気づいたで御座る。



一つだけ言うなら、独自設定多いです。
あと原作設定と何か矛盾があれば教えてください。
何か失念している可能性もあるので。

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