「ああ…………サマナーを狙うぞ」
そう言った俺の言葉にけれど龍神が難色を示す。
「あんまり殺しはしたくないんだけれど、小夜が凄く嫌がってる」
そんな龍神の様子に苦笑しつつ話を進める。
「殺しはしない…………サマナーのほうから情報得ないと不味いしな。だからあくまでも倒すのは魔人だ」
けれど、と前置きして。
「まともにやってもあの魔人に勝ち目がないのは分かるだろ? 戦ってれば先に力尽きるのはこっちだ、その短い間にチャンスが来るとも思えない、と、なれば…………強引にでもチャンスを作るしかないだろ?」
「…………うん、確かにね、それで? その方法はもう考えたの?」
「簡単に、だがな…………確率としては一割ってとこか、このままじゃ賭けるには心もとない。だからこれを八割まで持っていくためにも一つ聞きたい」
「何かな?」
龍神の問いに、やや不安気に、俺は尋ねる。
「お前ら、別々に攻撃できるか?」
「…………………………ハァ…………ハァ」
「…………………………」
「…………………………………………」
乱れた呼吸を整える。仲魔全員を帰還させつつも、けれど油断無く動きを止め、崩れ落ちた魔人を見る。
と、そこでようやく視界の戻ったらしい魔人のサマナーが自身の仲魔を見つめ、それからこちらを見る。
「…………………………そう、やられたのね」
ぽつり、とサマナーが呟き魔人の下に行く。
「当たりかしら?」
地に崩れ落ちた魔人にそう問う少女の言葉に、それまで黙していた魔人が小さな声で答える。
「水と風、だ」
「そう…………自然の理、ならいいわ。私の求めているものとは違う」
一人呟き、結論を出した少女がそっと扇を振ると、魔人が光となって消えていく…………帰還させたのだとすぐに理解し、そしてそれをするということはもう戦う気は無いのだと気づくと、体からどっと力が抜ける。
と、こちらに背を向けて歩こうとしていた少女がふと、足を止め俺のほうを向く。
「………………………………」
「……………………?」
感情の無い瞳でこちらを覗く少女に不気味さを覚え、ついつい警戒しながら見つめ返す。
「……………………思い出したわ、あなた、独立固体が執着していたサマナーね」
「…………何?」
独立固体、その名で思い出すのはついこの間の…………。
「お前、あいつらの仲間か」
その問いに少女が首を傾げる。
「仲間…………? ただの協力関係よ、手段の一致と言っても良い」
「手段の、一致…………?」
異界内で化物を呼び出すあの群体とか言うやつらを思い出し、その王を名乗る独立固体を思い出し、そして魔人を従える目の前の少女を見る。
「何をするつもりか知らないが、ろくな手段じゃないのは確かだな」
「何を当たり前のことを」
何故そんなバカなことを言うのか、そんな表情で少女が続ける。
「世界に見放され」
そうして。
「歴史に見捨てられ」
少女の表情が。
「神にすら見殺しにされた」
一つの感情に染まっていく。
「そんな私たちが」
即ち、憎悪。
「世界と敵対しようとする私たちが今更まともな手段なんて選ぶわけ無いでしょ」
そうして初めて少女の表情が動く…………そこから読み取れる感情は、怒り。
「私たちは別々の目的のために、同じ手段の元動く。私たちは必ず各々の目的を遂げる」
そして少女は手にした扇をばっ、と広げ。
「それが私たち
広げた扇で一度その表情を隠し、そしてぴしっ、と扇を閉じる。
「争乱絵札が一人、
そして閉じた扇でそっと俺を指し。
「次に会ったら確実に殺すわ。努々忘れないようにしなさい」
少なくとも。
「私は今日の屈辱を忘れないわ」
そういい残し、少女…………姫君の姿が虚空へと消えていった。
後に残されたのは俺と龍神、そして小夜の三人。
色々疑問は残ったが、取り合えず今回も生き残った…………今はただそれを喜ぼう。
「別々に? どういうこと?」
「龍神と小夜、今は同じ体に入っているが、龍神は本来の力を取り戻したわけだ…………となるともう小夜の中にいる必要は無いだろ?」
俺の問いに龍神が頷く。
「そうだね、ただ小夜の中にいたほうが無駄なマグネタイトの消費が無いから便利だっただけで、もう体から抜け出しても行けるよ?」
「それは即座に出れるのか?」
「そうだね、小夜は親和性高いし、抜け出すのも簡単だよ」
「その抜け出す時に小夜に一発分で良い、魔法を撃たせるだけの力を残すことは?」
俺の意図が読めないのか龍神が訝しげな表情をする。
「出来ない、もし残るのなら僕の力の大半が残ってしまう」
「…………………………厳しいな。後一手なんだが」
「……………………僕が攻撃できればいいのかな?」
龍神のその問いに俺は頷く。頭の中で戦法は大方組みあがっている。ただ最後の一押し、龍神の一撃があれば完成するのだが…………。
「なら、僕と契約しよう」
「何?」
「キミの仲魔になってマグネタイト供給を受けることが出来れば僕も魔法が使える」
「だが俺のマグネタイトはもうほとんど…………」
「小夜から譲渡すれば良い、人間からなら悪魔の力があれば簡単に吸い取れる」
「……………………」
数秒の沈黙。説得力はある、と言うかたしかにもうそれしか方法は思い浮かばない。
今はこちらの様子を伺っている魔人もいつまでも黙ってはいないだろう。
「……………………仕方ない、アリス、頼んだぞ」
「うん、りょーかいだよ」
「じゃあ、早速契約だ」
「ああ…………」
そうして、俺は…………龍神との契約を果たした。
「取り合えず…………疲れたああああ」
だらり、と体を投げ出し、地に寝転がる。
「お疲れ様…………と言うべきなのかな?」
蛇の姿に戻った龍神が表情は分からないが、恐らく苦笑しながら労いの言葉をかけてくる。
「俺はまだいいが…………小夜が一番お疲れだな。結局巻き込んじまったし」
「…………ううん、怖かったけど、うん。それ以上にすかっとした」
清々しい声でそう言う小夜がこちらを見て笑う。
一段落ついたところでふと気になったことを龍神に尋ねる。
「そう言えば、あいつらは? 一緒に連れてきたって言ったよな?」
「うん、後ろの建物の中だね…………大分弱ってたから龍脈からほんのちょっとだけ力を分けてもらって二人に分けてるよ」
「龍脈から? 大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、ほんの僅か…………生命活動を繋ぐ程度ならね、あまり一気に入れ過ぎると人外になるかもしれないけど」
「おい…………」
ジト目で睨むと大丈夫大丈夫、と返ってくるが本当に大丈夫なのだろうか…………?
っと、そう言えばもう一つ忘れていたことがあった。
「契約解除するぞ」
龍神との契約を切ろうとCOMPに目を向け。
「あ、ちょっと待った」
龍神から待ったがかかる。
「どうした?」
「いやね、今僕の力の大半って小夜の中にあるんだ…………で、今の状態で契約解かれてももう神格になるほどの力残ってないし、しばらくの間キミのところに厄介になっていいかな?」
「小夜から取り戻せばいいだろ?」
ちっちっち、と人型なら指で振ってるだろう姿を想像してしまうほど人間臭く龍神が続ける。
「小夜から力を取り戻してどうせまた信仰不足で眠ってしまうのが目に見えてるからねえ、と言うわけで小夜」
「え、あ、はい」
黙って話しの流れを見ていた小夜が、突然声をかけられびっくりしながらも返事をする。
「キミ、巫女になってみない?」
重たい体を引きずって御殿の中を歩く。部屋と部屋の間が通路で仕切られていて本当に大昔の屋敷を模した迷路のように見えてくる。
気だるい…………今すぐにでも寝転がってそのまま一週間くらい寝てしまいたい。
だがあの二人が奥で待っている、と言うのなら寝てもいられない。
龍神と小夜はまだ話ことがありそうだったので置いてきて、先に悠希と詩織と合流することにした。
龍神曰く、正面入って真っ直ぐひたすら歩けばいい、とのことだったので歩いているのだが。
「………………長いな」
精神的にも肉体的にもどっと疲れた今の状態では非常に長く感じる。
そしてこれから二人に全てで無いにしろ話すことになる事柄を考えると、余計に重くなってくる。
「ああ…………帰りてえな」
だがここで帰っても何も変わらない。どうせ後で旅館に戻ったら会うことになるのだ。
「つうか明日向こうに戻るんだよな…………寝てえなあ」
ぼやきつつ、歩くとすでにいくつ目になるか忘れたが、また新しい障子戸が見えてきて。
「よう」
「…………有栖」
悠希がそこに立っていた。どうやら通路から外の景色を見ていたらしい。
「詩織は?」
「中に…………あ、でもまだ」
「そうか」
疲労のせいか、最後まで話を聞かず、ぼんやりとした頭で障子戸に手をかけ…………開く。
「え?」
「…………は?」
肌色。見えたものを一言で言うならそれ。
タオルで擦られ、僅かに赤みを帯びた陶磁のような白い肌、大き過ぎず小さ過ぎずな胸、どこか淫靡さを醸し出す臍、そして大きく見開かれた目と唖然として開きっ放しの口。
簡潔に言えば…………中で詩織が上の服を全て脱いで体を拭いていた。
「…………あ、りす?」
「え、あ…………わ、悪い」
そっと障子を閉め、ばっと振り返る。
疲労で呆けていた脳が違う意味で呆けた。
あちゃー、と顔を手で覆う悠希。
直後、響いた絶叫。
さまなーのえっち。
COMP越しに聞こえてくるアリスのどこか冷ややかな声が胸に痛かった。
ゴゴゴゴゴゴゴ、と背景に炎の幻影でも見えそうなくらいの気迫。
正座している全身が震えているのは、足の痺れだと思いたい…………決して友人の女の子の気迫にビビッているとかそういうわけではない、と思いたい。
「……………………………………有栖?」
「申し訳ありませんでした」
即座に土下座。
すまん、正直この気迫には逆らえない。
しかも完全に、絶対に、一方的にこちらが悪いので言い訳のしようが無い。
「……………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………」
非常に気まずい空気が室内の漂う。
空気が重い。原因が分かっているが、こちらからは如何ともしがたい。
とにかく土下座する。それから何秒経ったのか…………体感的には十分以上に感じたが実際には一分どころか十秒も無かったのかもしれないが。
やがて、詩織が口を開く。
「……………………反省してる?」
「深く」
「……………………本当に?」
「ああ、本当に」
「ホントのホントに?」
「ホントのホントに」
「……………………………………」
やがて詩織がはあ、とため息を付き。
「いいよ、許す………………次は気をつけてね」
「ああ、悪かった」
ようやく許しが出たので顔を上げる、が詩織の顔を見た瞬間、さきほどの光景を思い出してしまい、思わず顔を紅くする。
「ちょっと、忘れて! さっき見たことはすぐに忘れる!」
それを目ざとく見つけた詩織も顔を赤らめながら叫ぶ。
無茶だ、とは思うが承諾しないとまた同じことの繰り返しになりそうなので、分かった、と言って深呼吸。
「よし、落ち着いた」
「うう…………私はまだ落ち着かないよ」
「有栖も、人の話は最後まで聞けよ?」
「ああ、マジで反省したわ」
どこか空気が弛緩したような感覚。いつもの三人が揃っていることにほっとしている自分がいる。
やはりこいつらは俺にとって大切だ、そう再認識する。
悪魔と戦っているのが自分にとっての非日常。こいつらと一緒にいるときが自分にとっての日常。
日常と非日常の線引きをするためのボーダーライン。
だからこそ、悔やむ。こんなことになってしまったことに。
「悪かったな…………巻き込んじまってよ」
こんな非日常に巻き込んでしまったことに。
それだけは…………悔やんでいる。
コツ、コツと薄暗い廊下に一人分の足音が響く。
「………………………………」
歩く少女、姫君は無言。その足音だけが反響し、音を放っている。
「どうしたの? 姫さん、不機嫌そうだね」
そこに声をかけてくるのは壁に寄りかかって姫君を見つめる一人の少年。
「………………独立固体か」
「ってどうしたの? 随分汚れちゃって、姫さんらしくも無い」
「………………遇ったぞ、お前の言っていたサマナーに」
瞬間、少年の目がすぅっと細まる。
「………………へえ、どうだった?」
「やられた………………が、次で殺す。宣戦布告は済ませてきた」
そう言った瞬間、少年から怒気が溢れ出す。
「それは困る…………あれは俺の獲物だ。俺が殺すんだ」
「宣戦布告さえすれば誰が相手でも戦って良い、それがルールだ。私も興味が沸いたよ、あの人間に」
少年がギロリ、と姫君を睨みつけ…………。
「手を引け、殺すよ?」
いつからか手にしていたナイフを突きつける…………が。
「お前程度が? 私を? 冗談も休み休みに言え」
呟いた瞬間、そのナイフが半ばで折れる…………否、斬れていた。
「きひっ…………
「ヒトキリ…………邪魔するならお前も殺すぞ?」
「きひっきひっ、きひひひひ!! おもしれえ、返り討ちにしてやるよ」
一触即発の空気。今にも互いに殺し合いを始めそうな二人、だが。
「止めろ」
割って入った声。その声に両者が同時に反応し、後退する。
そして。
ズドォォォン
直後、先ほどまで二人がいた場所に降り注いだ炎が爆発し、一瞬でその地面を蒸発させ、抉る。
「キミか…………
「
「けどあれは俺の…………」
「
まるで大人が子供をあやすかのような優しい声音で、
「
それだけを言うと、王は二人の目の前を通り過ぎていく。
「だが次は俺の番だ。
名を呟いた瞬間、虚空からすぅっと空間を彩ったかのように現れる三体の悪魔。
その名は神の炎。
その名は漆黒。
その名は死。
絶対的強さを持った三体の悪魔を従える王が、そうして…………動き出した。
チートくせええええええええええええ。
自分で作っててウリエル、スルト、モトってどんだけ?! って思ってしまった。
ノリだけで勝手に設定生やすもんじゃないな。
因みにここのモトは劇場ありますよ、勿論。
まあ原作と違って割り込み形スキルとか眼光系無効化スキルも作るつもりだけど。
そして題名の割りに友人との話が全然進んでない件。
ただ一から説明しだすと長くなるからカットで。
あと一話作ろうかと思ったけど、やっぱ止めて、もう三章行きます。
三章で今回の話の続きやります。後日談と三章の導入をセットで。
そろそろ感想とか書いてくれていいのよ?