有栖とアリス   作:水代

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おひさー。メガテン久々に更新です。
メガテン3の理不尽さに久々に泣いた。


有栖と修験界

 

 銃口から放たれた弾丸が、一直線に飛ぶ。

 音速で飛来するソレは、悠希…………の背後にいた一匹の妖精に直撃し、妖精が弾かれるように仰け反り、地に落ちる。

「油断大敵…………悠希の契約した悪魔はこの辺じゃ相手にならないほどに強力な悪魔だ。けどな、デビルサマナーってのは仲魔の強さだけでどうにかなるほど甘いもんじゃない」

 仲魔の強さが重要なのは変わりないが、それだけならより強い悪魔に倒されるだけの話しだ。

 デビルサマナーの力が其の程度ならば、この世界はとっくに滅びている。

 デビルサマナーの真価が其の程度ならば、そもそも悪魔がサマナーに従う道理が無い。

「デビルサマナーが倒されれば、仲魔も全て倒されるのと同じだ。どんな強大な仲魔も、サマナーがいなければ顕現することすらできなくなる。だからデビルサマナーは自身の仲魔よりも強いことが推奨されるんだよ」

 別に自分より弱い仲魔だけを集めろ、と言っているのではない。ただ十全に使いこなすことも出来ない強力な仲魔がいるよりは、自分の使いこなせる範囲の仲魔を集めたほうが効率的だ、と言っている。

 もしくは、自分のより強い仲魔がいるのなら、その仲魔をより使いこなすために、もっと自分を強くする努力をしろ、と言うことか。

 と言ってもこれまでその世界に全く触れてこなかった悠希にそれを言っても仕方が無いのだが。

「一つ一つ覚えていくぞ。ことここに至ってしまった以上、腹を括って、歯を食いしばって、涙をこらえて…………そうして進まないと、本当に死ぬ世界だからな」

 あまりにも今までとかけ離れた世界に絶句する悠希。

 酷だと自分でも思っているが、けれどこの状況は俺がいるだけ僥倖なのだ。

 次にもし、あの水族館の時のような出来事があったとして、その時、俺が傍にいるとは限らない。

 力が無ければ素直に逃げるだろう、立ち向かうだなんて無謀なこと悠希はしない、と思っている。

 だが多少でも力があれば立ち向かってしまうだろう。無謀だと分かっていても、覚悟を決めて死にに行ってしまう。

 長く、深い付き合いだ。それが分かってしまう。水族館での行動がそれを現している。

 本当にいざ、と言う時、こいつは他人のために自分の命を投げ出してしまう。

 口では自分が一番のようなことを言っていても、結局目の前の人間を見捨てることが出来ない。

 デビルサマナーとなった以上は、本人の意思とは関係の無いところで悪魔と出会うかもしれない。

 その時、こいつが生き残ることができるように、守りたいものを守った上で、自分の命すらも守れるように。

 

 伝えれることは、全て伝える。

 

 そう決めた。

 

 

 

 さて、話は変わるが、この神社、実を言うと名前がついていない。

 名も無き神社、そうヤタガラスの間では呼ばれる。

 それは一つの符丁のようなもので、デビルサマナーがヤタガラスの使者と直接接触するための一つの隠れ蓑だったりする。と言っても、大半のデビルサマナーは直接携帯などに連絡が入るので、今時こんな場所に来るのは、クズノハ出身の携帯も持っていない前時代文明の人間くらいだろうが。

 平成の世になり、通信手段の加速度的に増えた現在では、どんどん使われなくなった各地の名も無き神社だったが、全く人が訪れない、と言うことは無いのだ。

 全ての名も無き神社からは、とある一つの異界へと行くことができる。

 

 その名を修験界と言う。

 

 ヤタガラスとクズノハの両者の協力によって人工的に作られた異界であり、ヤタガラスに属したデビルバスターなら誰でも入ることができる。

 名前で察することができるかもしれないが、デビルバスターが自身の修練を積むための異界である。

 一番上から順番に降っていき、下に行くほど強大な悪魔が出てくる、と言うわかりやすい構図になっており、何よりも階層ごとに出現する悪魔の強さがなるべく揃うように作られているので、身の丈にあった階層で無理せず戦うことができる。

 霊脈の力を利用することにより、日本各地に存在する全ての名も無き神社から同じ異界に来ることができ、デビルバスターの質の底上げに役立っている。日本全国全てのデビルバスターが利用するので独占して使用する、などと言うことはできないが、階層一つ一つが果てしなく広大なので、中でデビルバスター同士が出会うことはあまり無い。

 また霊脈の力で次々と悪魔が召喚されており、中の悪魔が尽きることが無いのでマグネタイトが足りない時などにも利用することができる。

 

「で、その入り口がここ」

 そう言って指し示す先は…………井戸である。

 正確には手水舎(ちょうずや)と言う、手を清めるための水の溜まった場所なのだが、干乾び空洞となったそれは、底すら見えない深淵だ。

「じゃ、先に行ってるぞ」

 その淵に手をかけ…………そして、空洞の中へと体を投げる。

 本来なら大して深くも無いはずの底に、けれどたっぷり五秒ほどの時間をかけ、ただただ暗かっただけの景色が一転して明るい場所に出る。

 下を向けばさきほどまでの石畳から一転した木張りの床。そして周囲に建てられた松明。

 無限に広がっているのかと錯覚するほど奥の見通せない広い広いその場所こそが、修験界。

「出て来い…………ミズチ」

 COMPを操作し、先日仲魔になった水の蛇を召喚する。

「はいはい…………っと、また不思議なところに呼び出すね」

 宙を這いながら周囲を見渡し、蛇が呟く。

 と、直後にトンッ、と音がし、悠希がやってくる。

「遅かったな、悠希」

「いや、お前と違って俺はあんなところに飛び込むのはさすがに躊躇する…………って、その蛇?!」

 ミズチを見て悠希が目を見開く。まあ悠希はこいつ…………の片割れに散々な目に合わされていたし、その反応も当然なのかもしれないが。

「こいつは大丈夫だ…………お前を襲ったやつとは違う」

「そ…………そうなの? 噛み付いたりしないか?」

「お前、悪魔を一体なんだと思ってんだよ」

 少々呆れた目で見つめながら、スボンのポケットから取り出したそれを悠希に差し出す。

「えっと、なんだこれ…………携帯?」

 それの見た目は極普通の携帯電話だ。最近発売されたスマートフォンの最新機種。

 ただ…………中身が違う。

「カラスから悠希へ支給されるCOMPだ」

「こんぷ? ってなんだ?」

「デビルサマナーの必須アイテム。まあそれ自体はただの携帯だから、普通に使ってくれてもいいぞ。ただし、欠かさずに持ち歩くことと、失くさないことだけは絶対だ」

「あ、ああ」

 頷く悠希。その手の携帯を少し借りると、データフォルダーを開く。

「アプリに登録されたこの悪魔召喚プログラムを使うことによって、誰にでも悪魔召喚が可能になる。と言っても、この携帯はもう悠希専用だから悠希以外が使ってもデビルサマナー系のプログラムは一切動かない、ただの携帯だけどな」

「えっと? 良く分からんけど、これはもう俺専用の携帯だって覚えとけばいいのか?」

「ああ、悪魔召喚ができる、とびっきりの専用携帯だ。そうだな…………まずはその後ろのジコクテンとCOMP使って再契約してみろ、アプリの中に『contract』って言うのがあるだろ」

 携帯の画面を指で押しながら、言われた通りにする悠希。その横でそれを興味深そうに眺めるジコクテンだが、体がでか過ぎてインパクトが凄い。

 覚束ない指先だが、それでもようやく言われたとおりの画面を見つけたのか、少し安堵したように悠希が息を吐き、指先に力を込める。

「…………えっと、これでいいのか?」

 一瞬画面がピカリ、と光ったかと思うと、傍にいたはずのジコクテンが光となって携帯に吸い込まれていく。

「え、あれ? 消えた?」

 突然のことに驚く悠希に苦笑しつつ、次の行動を指示する。

「大丈夫だ、次は召喚するぞ…………『summon』って言うアプリを押せ」

「えっと、これか?」

 悠希が言われた通りに画面をタッチする、と。

 

 SUMMON OK?

 

 電子音と共に、悠希の傍に再度、ジコクテンが出現する。

「と、まあこれが悪魔召喚だ。普段から悪魔なんて連れ歩けないからな、COMPの中に収容して、必要時に召喚する…………COMPに戻すのは帰還用アプリ『return』だが、まあ今は戻す必要も無いし、召喚しっぱなしでいい」

 悠希が頷き、携帯を使う手を止めるのを見て、俺はさらに続ける。

「それと、これ貸してやる」

 そう言って懐から取り出すのは…………拳銃。小型のもので、悠希のような素人でも使いやすい反動の小さいものだ。

 だが銃は銃だ。それが何なのか認識した悠希の顔を青ざめる。

「お、おま…………それ、銃じゃ」

「当たり前だろ…………確かに悪魔に全部任せてしまうサマナーもいるが、そんなの複数の悪魔を手足のごとく使いこなせる熟練のサマナーだけだ。素人がそんなことしてたらあっさり殺されておしまいだぞ? しかも悠希の仲魔は一体しかいないしな」

 戦闘において一日の長のある俺の言葉に反論できないのか、悠希が唸る。

「言っただろ、もう腹を括って戦うしかないんだよ、弾はやるから躊躇するなよ? 俺はまだこんなことで友人を失くしたくは無いからな?」

「…………ああ、俺だってこんなところで死ぬ気は無い」

 その言葉に、思わず笑みが零れる。

「ああ、なら大丈夫………………俺が絶対に死なせないから、安心しろ」

「……………………有栖」

「あん?」

「もし俺が女だったら、惚れてたわ」

「アホか」

 そう言って、俺たちは笑う。どうなることか、と思っていた先行きだったが…………少しだけ、希望が沸いた。

 

 

 * * *

 

 

 家主のいない家の玄関をゆっくりと歩いて出る。

 用心のため、合鍵で施錠をし、月の綺麗な夜へと足を踏み出す。

 たん、たん、と硬いアスファルトを踏んで歩く和泉の足音が静かな夜に響く。

 薄手の白いキャミソールの上からこれまた真っ白なワンピースを着た和泉。病的なほどに白い肌に、真っ白な髪。

 上から下まで白一色のその姿は、まるで現実味が感じられないほどに幻想的であり。

 だからこそ、こんな街中を歩いていることが、まるで不自然なように感じられた。

 

 だがそれは客観的な意見であり、和泉本人はいたって自然に、そして上機嫌に歩いている。

 それは一重に、今自分の住んでいる場所がその所以ではあるが、そんなこと本人以外に察せるはずも無いのだが。

 和泉の容姿を一言で現すなら、美人と言う言葉が似つかわしい。可愛い、と言うよりは綺麗と言ったほうがよく似合うその容姿だからか、上機嫌に笑みを浮かべていても、それは嬉しそうと言うよりも微笑んでいるような品があった。

 帰宅のために道を歩く人間は数人いたが、全員が全員、和泉のその幻想的な姿に見蕩れ、和泉の姿が見えなくなるまでその場で立ち尽くしていた。

 

 かくして白い妖精は夜の街を歩いていく…………が、その足を止めさせるものが一つ。

 ピリリリリリ、と言う何の設定もされていない今時珍しいくらいの携帯の着信音である。

 突然の着信に和泉はその足を止め、画面に表示された発信者名に顔を歪める。

 数秒葛藤したように動きを止めるが、やがて諦めたように通話ボタンを押す。

「もしもし?」

 そう尋ね、聞こえてくるのは男の声。

『現在地は?』

 余計な挨拶も一切無し、単刀直入な質問に、上機嫌だったはずの和泉の表情は、まるで能面のような無表情へと変わっていた。

「吉原町、南東方面。住宅街探索中」

 和泉もまた不機嫌そうに、必要以上の言葉を交わしたくない、とでも言うように最低限の返答で返す。

『連絡事項だ。メシアが動きだした、各自各々の判断で作戦続行』

「は…………? ちょ、ちょっとまちなさ…………っ!」

 無表情だった和泉が慌てたように返すが、すでに電話が切られていると分かると、その表情に僅かに怒りを滲ませる。

 ともすれば携帯を叩きつけそうな様子ではあったが、深く深呼吸し、冷静さを取り戻す。

「…………………………メシア、ね」

 メシア教は、和泉と言う少女にとって鬼門である。

 少女のこれまでを振り返る上でどうやっても避けられないものであり、自身のこれからにおいても必ずどこかで衝突するだろう相手。

「……………………いつかはこうなるだろうとは思ってたけれど」

 

 こつん、こつん

 

「それでも、思ってたよりずっと早かったわね、ねえ、そう思わない?」

 

 メシアン

 

「……………………………………」

 無言でその場にいたのは一人の男だった。

 フードの付いた、白と蒼のメシア教徒の衣装独特模様が描かれた服だが、そのところどころが紅く染まっていた。

 かちん、と両手に持つ剣を鳴らし、すでに戦闘準備を終えた男はフードの奥に見える金の相貌で和泉を見据える。

「随分と寡黙なのね…………お喋りは嫌いだけれど、寡黙過ぎるのもどうかと思うわよ」

「………………ガイアーズと交わす言葉など無い」

 ようやく開いたと思われた口から出てきた言葉はそれで、和泉は思わずため息を吐く。

「嫌われたものね…………まあ、最も」

 

 私も大嫌いだけどね、あなたたちが。

 

 両の手で銃を抜くと同時に構え、発砲。

 

 両の手の剣でそれらを弾く。

 

 カーン、と言う金属音が辺りに響き…………。

 

 それが開戦の合図となった。

 




試験一日目を超えてようやく最大の山場は乗り越えたものの、まだまだ試験は続くわけで…………金曜日までは更新できません。

推薦機能ってのがあるらしいですね。
作者も一つ書きましたが…………いいな、あれ。誰か書いてくれないかなあ。

ああいう読者の善意って嬉しいですよね。イラストとか。

書いてる作者がキャラの外見ほとんどイメージしてないんですけど、読者は一体どんな有栖くんを想像しているのか。

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