有栖とアリス   作:水代

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今回なげえええええええええええええええ?!
8000字超えた……だと…………?


悠希と修験界

「散開してみるか?」

「……………………え?」

 有栖のその一言に、思わず声が漏れた。

「そろそろコツも掴めて来ただろ? いつまでも二人でやってても効率が悪いだろ」

「そうなのか?」

「一体の悪魔を倒した時に回収できるMAGは二分割してるからな、効率が悪い。大丈夫だ、この辺に出る悪魔くらいなら悠希でも余裕のはずだ」

 

 と、言われたのは良いものの。

 

「…………俺一人で、とかどんなバツゲームだよ」

 未だ傷つける、と言う行為すら躊躇う自身なのに、一人で敵を倒すなどということができるのだろうか?

「安心するがよい召喚師殿。汝の敵は我が全て切り払おう」

「あ…………ああ、助かる、えっと…………ジコクテン」

 今更ながらこの状況に戸惑っていると、自身の仲魔が頼もしくそう告げた。

 と、同時に有栖に教えられたことを思い出す。

 

『いいか? ジコクテンは本来もっと強大な悪魔だ。今はお前の技量に合わせて、その力を制限してくれてるが、それでもなおその力は強大の一言に尽きる。そんなやつがここで無双してても、すぐにマグネタイトが尽きるのがオチだ。マグネタイトが何かって? 簡単に言えばMPだ。スキルや魔法を使うのに必須のエネルギー。さらに言えばそもそも悪魔を召喚、維持しているだけでも必要なエネルギーだ。だからそれが無くなればお前はもう悪魔を使えなくなる。それはサマナーとしては致命的だ。だからサマナーにとってマグネタイトの管理は必須技能なんだよ。お前のCOMPにもマグネタイトバッテリーが内臓されてる。これは敵を倒せば勝手にマグネタイトを吸収してくれるものだ。お前が悪魔を動かした時に消費するマグネタイトと手に入れるマグネタイトは釣りあってない。だからあまりジコクテンに頼り過ぎるな、かと言っていざと言う時にまで自分で何とかしようとするなよ? 要するに必要以上にジコクテンを使うな、ってことだ。ジコクテンが何か言うかもしれないが、説き伏せろ。デビルサマナーは悪魔を使う人間であって、悪魔に使われる人間じゃないからな』

 

 なんとも無茶なことを言う、と思う。

 ふと視線をやった先にいる巨大な自身の仲魔。

 これを律しろ、とは本当に無茶な話だ。

 ため息を一つ、吐いていると。

「召喚師殿」

 ジコクテンの呼びかけにはっとなって顔を上げる、そこに幽鬼がいた。

「モウリョウどもか、死して尚哀れなものよ」

 ジコクテンの呟きに答えるかのように、幽鬼…………モウリョウが襲いかかってくる。

「っく…………問答無用かよ、ったく」

 その攻撃を飛び退ることで避ける。それから銃を取り出し、照準を付け、引き金を引く。

 こう言う明らかに生物じゃない存在は気にせず撃てるから楽ではある。

 ただこう言う幽霊系の敵は…………。

「オ、オオォォォォォ」

「むっ」

「っち」

 俺やジコクテンの傍まで近づいたモウリョウが声を上げる。

 それに攻撃の兆しを感じた俺とジコクテンはすぐさまその場を離れ…………。

 

 ボォォォォン、とモウリョウの体が爆散する。

 

 自爆。それがこいつらの厄介なところだった。

 自爆する時に自身のマグネタイトの大半を爆発力に変えてしまうので普通に倒した時よりも手に入るマグネタイトが少なくなってしまう。赤字製造機、と有栖が言っていたが言い得て妙である。

 さてところで、ジコクテンは先ほどこう言った…………モウリョウどもか、と。

 気づけば、周囲のモウリョウが群れを成していた。

 

 あまりジコクテンに頼り過ぎるな、かと言っていざと言う時にまで自分で何とかしようとするなよ?

 要するに必要以上にジコクテンを使うな、ってことだ。

 

 ふと有栖の言葉が脳裏に浮かぶ。

 ここは、使って良い場所だよな? 有栖。

 どうしてだか、想像の中で親友が頷いた気がした。

 

「ジコクテン!」

「承知した…………鬼神薙ぎ!」

 

 ジコクテンが右手に持つ大剣を横薙ぎに振るうと、周囲にいたモウリョウたちの半数以上が消し飛ぶ。

「消えろ!!!」

 さらに残ったモウリョウたちへ銃を向け、ただ無心に引き金を引く。

 

 バンバンッバンッバンバン

 バンバンバンッバンバン

 バンッバンバンッバンバン

 

 弾倉(マガジン)を空っぽにするまで撃ち尽くすと、即座に弾倉を落とし、次の弾倉を入れ、弾丸を装填させる。

 撃って、撃って、撃ちまくる。

 そうして二つ目の弾倉が空になったころには、周囲にいたモウリョウの群れは全て消え去っていた。

「…………うむ、良き闘志だったぞ、召喚師殿」

 遮二無二に戦い、荒い息を吐いている俺に、ジコクテンがそう告げる。

「そう、か…………ジコクテンがそう言うのなら、少しは安心だ」

 サマナー生活一日目。なんとかやっていけるかもしれない。この時はまだ、そんなことを考えていた。

 

 

 * * *

 

 

「ミズチ」

「はいはいっと」

 ミズチがスルッと床を這い、一瞬でその間を埋めると同時にイヌガミの喉笛に喰らいつく。

 クォォォォォン

 イヌガミが悲鳴を上げると同時にミズチがその喉笛を食いちぎり、イヌガミが消滅していく。

 仲間がやられたことに怒った他のイヌガミがミズチに襲いかかろうとする、が。

「はい、ごくろーさん、っと」

 ミズチ目掛けて一斉に集まってきたイヌガミの群れに二、三個ほど簡易爆弾を投げ込み…………爆発。

 アオォォォォォン

 二十近いイヌガミの悲鳴が轟くが、まだこの程度では死ぬはずも無い…………が、数秒程度動きを止める。

 そして、その間に銃を構え一匹ずつ撃ち抜いていく。

 空になった弾倉を排出すると、次の弾倉を即座に取り付け数匹残ったイヌガミを撃ち抜き。

 その全てをマグネタイトへと変えたころにはバッテリーにもそれなりの数量のマグネタイトが溜まっていた。

「三千…………まあこのレベル帯ならこんなもんか」

 俺と同じレベルくらいの他のサマナーなら、多少少ないか、と言う程度のはずなのに、俺の仲魔を考えるとまるで足りない。

 かと言ってこのレベル帯の敵ではこんなものか、と言わざるを得ない。

「わざわざ強い敵を倒しに行ってあいつらを使って逆にマグネタイト減らしてちゃ本末転等だしな」

 そう考えると多少我慢してこのまま続行するしかないだろう。

「それに、お前のレベル上げも兼ねてるしな」

「…………ふふ、約束を覚えてもらっていてありがたい限りだよ」

 

 このミズチは晴海町で出会ったあの龍神だ。

 特異点悪魔らしく、本来竜王種のはずのミズチが、龍神種になっている。

 それは置いておくとしても、本来ならあの場限りの契約のつもりだったのだが、小夜から離れた時に、力の大半を小夜の中に置いて来てしまったらしい。

 何やってるんだ、と言う話だが、本人曰く。

「いやあ、小夜と僕との親和性が予想以上に高くてね、粘着テープとかでもそうだけど、強力にくっついてるほど剥がす時には一緒に剥がれてしまうものさ。でもそれだと小夜の魂がボロボロになって最悪廃人になる可能性だってあったしね、仕方ないから僕のほうを切り落として離れるしかなかったんだよ」

 と言う分かるのか分からないのか何とも妙な説明。

 要するに安全に小夜から出てくるためには、力の大半を置いてくるしかなかったらしく、しかも小夜を気にせず無理矢理抜け出しても最後の信者たる小夜を自分で殺すような真似をすれば結局自分の首を絞める結果にしかならない。

 だったら小夜に自分の力を残して、自分は新しく俺の元で力をつければいいのではないだろうか、と言う結論に至ったらしい。

 

 正直非常に珍しい悪魔だ。異端とも言える。

 悪魔にとって力の強さとはある意味絶対に正義だ。

 どんな悪魔でも大なり小なり力を求めようとする。

 だと言うのに自分から弱体化する悪魔など、あと一体くらいしか知らない。

 

 その一体は簡単だ。

 あの日、自分の命を削ってまで俺を助けた…………あの馬鹿だった。

 

 

「じゃあそろそろ下の階に下りるか?」

「そうだね、そろそろこの階じゃ物足りなくなってきたし…………けどいいのかい?」

「何がだ?」

「サマナーの友人がまだ上の階にいるんじゃないのかい?」

 そう、悠希はまだ上の階にいる。俺はすでに二つほど下に降りてきているのでもしこれ以上何かあれば、駆けつけるのが困難になるのだが…………。

「ああ…………まあ、何とかなるだろ」

 俺のそんな答えに、ミズチが納得したような、してないような、曖昧に「ふうん」とだけ呟いた。

 その表情は読めない(蛇だし)が、どこか面白がっているような雰囲気は感じる。

「ほら、次行くぞ…………」

「了解だよ、サマナー」

 そうして俺たちはさらに下の階へと降りる。

 

 時間的に、そろそろだろうか?

 

 悠希には言わなかったが…………あまり同じ階に長く留まり続けると。

 

 やつがやってくる。

 

 けれど悠希ならきっと大丈夫だろう。

 

 そう…………大丈夫のはずだ。

 

 

 * * *

 

 

 カシャン、カシャンと言う、音が聞こえる。

「…………ん? なんだ?」

 悠希が周囲を見渡しても、特に何もいない。

「…………むぅ?」

 だが悠希には見えずとも、ジコクテンには見えたらしい、とある一点の方角を見つめ、大剣を構えた。

 その間にも音は近づいてくる。

 カシャン、カシャン、先ほどよりも近づいてきた音に、悠希の銃を握る手にも力が篭る。

 

 カシャン、カシャン…………そして。

 

「ほおー? なんでい、この辺りが騒がしいと思えば、人間が一人に手ごわそうなやつが一体か」

 

 そこにいたのは鎧武者だった。紅い鎧に烏帽子のようなものを被り、両の手に一本ずつ刀を持っていた。

「中々面白そうな組み合わせじゃねえか。気に入ったぜ、一手し合ってもらおうか!」

 武者がにぃ、と笑いその両の刀を振るう。

 ヒュン、と空気を切る音、それと同時に。

 

 ズゥン、と何かが重くのしかかって来る。

 

 倒れないように体を必死に支える、そして何がのしかかってきたのか、そう思いその手を背に伸ばし…………。

 

 空を切った。

 

 その背には何もいなかった。自身の上には何ものしかかっていない。

 

 だったら、この重さは一体なんだ?

 

「彼の者に気押されるな、召喚師殿。気をしっかり保つのだ」

 ジコクテンの言葉でようやく気づく。

 この体の重さは、ただ目の前の武者が戦闘態勢に入っただけのことだった。

 ただそれだけのことで、文字通り空気が重くなった。

 萎縮してしまった体をそう錯覚してしまったのだ。

 否、錯覚させられたのだ。

 

「遠からん者は音にも聞けい、近く場ばって目にも見よ! 我が名は遮那王。誇り高き源氏の血族にして、古今無双の士なるぞ! 鞍馬山の天狗より授かりし剣の秘儀の数々、特と御覧じよ!!!」

 

 武者が吼える。

 それが、開戦の号砲だった。

 

「雄 渾 撃!!」

 名乗りの直後、こちらへと接近し、振り下ろされた二刀の刃。

 自身が何かを指示するよりも早くジコクテンが俺をかばい、大剣でその一撃を防ぎ…………。

「ぬうううううううううう!!!」

 足で床を削りながら一メートル近く後退させられた。

 あり得ない、そんな言葉が口から出そうになる。

 だってそうではないか、あんな細い刀二本で、どうしてジコクテンの持つあの大剣で防ぎきれないなどと言うことがあるのだろうか?

 だがそんなことを考えた時、またしても有栖の言葉を思い出す。

 

『悪魔と戦うなら常識なんて捨てろ。相手の非常識に一々驚くな。元々悪魔なんて存在に常識を期待するほうが間違ってる。だから一つ言っておいてやる…………』

 

「あり得ないなんてことは、あり得ない…………か」

 そんなものに一々驚いているなら相手の戦力を分析して、勝ち筋を考えろ。

 全く持って一々当てはまってくるのだから、有栖が如何に歴戦のツワモノなのか、と言うのが分かってしまう。

「ジコクテン! 全力でいけ!」

「承った! 鬼神薙ぎぃ!!!」

 真横一閃を薙ぐジコクテンの剣。だがそれは…………。

「っは、この程度か?」

 武者…………遮那王の二刀によって止められていた。

 そうして一撃を止めた遮那王が鼻で笑う。

「弱い弱い弱い!!! なんだこの様は? まるで力が出し切れてねえじゃねえか!! おら、もっとやる気だせよ、出さねえと殺しちまうぞ?!」

 刹那、二刀が閃き、ジコクテンに二筋の傷をつける。

「ぬ、ぬう…………地獄突き!」

 少しよろめきながらもジコクテンが大剣を使って器用に突きを放つ。

「はは、なんだこりゃ? 舐めてんのか? こんなへぼな突きじゃ、赤子も殺せねえぞ?!」

 だがそんな必殺の攻撃も遮那王の二刀であっさりといなされ、カウンター気味に放たれた二刀がさらにジコクテンに傷を作っていく。

 

 完全に押されていた。

 正直、ジコクテンの力があの遮那王に劣っているとは思えない。

 本来、なら。

 

「俺の、せいか?」

 そう、呟いた瞬間。

 

 くす…………くすくす

 

 笑い声が、聞こえる。

 自身の…………背後から。

 ハッとなって振り返る。そこに…………一人の少女がいた。

 金の髪、紅い目、青いワンピース。

 どこかで見覚えのある、少女。

 

「せーかい、せーかい、だいせーかい」

 

 少女が嗤う。自身を、嘲笑う。

 

「あのオジさんがどーしてまけてるのか? かんたんだよ、おにーちゃんがあのオジさんのちからをぜーんぜん、ひきだせてないから」

 

 嗤い、哂い、嘲笑い。そして酷く楽しげに、いともあっさりと、残酷に、真実を告げる。

 

「どうしろってんだよ、分かんねえよ! どうすりゃいいんだよ!」

 

 混乱する頭で少女に内心の怒りをぶつける。その怒りは一体どこから来たのか、理不尽な現実からか、不条理な経緯からか…………それとも、情けない自分自身か。

 そんな自身の問いに、少女が首を傾げる。

 

「どうすれば? なにかすればいいよ?」

 

 そんな曖昧な答えに、ふざけているのかと声を張りあげようとし…………。

 

「おにーちゃんは、いまなにしてるの?」

 

 その言葉にピタリと、体が凍りついた。

 

「ねえ…………あのオジさんはおにーちゃんをまもるためにがんばってるよ?」

 

 だと言うのに、自身は…………。

 

「おにーちゃんは」

 

 一体、何を?

 

「なにをしてるの?」

 

 何も、していない。

 

 ただ、見てるだけで…………何も、できていない。

 

 

 * * *

 

「俺が思うに、だが」

「ふむ?」

「デビルサマナーってのは、一方通行じゃダメなんだ」

「一方通行?」

「ただ悪魔を信じているだけでもダメだし、悪魔から信じられているだけでもダメ。自分だけで戦ってもダメだし、悪魔だけに戦わせてもダメ」

「つまり?」

「サマナーと仲魔が共に戦う。足並みを揃え、互いを運命共同体とし、連帯して戦う。それがサマナーのあるべき姿だと思う」

「だから一方通行はダメ、だと?」

「仲魔を頼らないサマナーはいざと言う時に孤独だ。サマナーと戦わない仲間はいざと言う時サマナーからの助けを期待しない。サマナーにとって仲魔とは駒だ、ってのが一般的な考え方だ。普段はともかく、戦う時は仲魔はサマナーの指示を受けて戦う。けどな、サマナーだって完璧じゃないなら、仲魔だって役立たずじゃない。互いに補うことをできるはずなんだよ」

「つまり仲魔は必ずしもサマナーに従う必要は無い、と?」

「そう言うことじゃない。なんていうんだろうな…………つまりな、意識の問題だ。サマナーの敵は仲魔の敵、仲魔の敵はサマナーの敵。サマナーと仲魔が共に揃って敵を倒す、と言う意識が一致した時、初めてサマナーってのはその本領を発揮できる、そう思ってるんだよ」

「ふーむ、面白い意見ではあるけど…………結局、それがキミの友人を勝てもしない敵にけしかけたのと何か関係があるのかい?」

「なに、単純な話…………サマナーと言う存在に偏見の無く、仲魔からの信頼は厚いが仲魔への信頼の薄い、そんな悠希ならもしかしたら自力でその答えにたどり着くかと思ってな」

「仲魔への信頼が薄い? そうは見えなかったけど?」

「多分、悠希自身も気づいてないだろうよ…………ただ悠希の言動を見てれば何となく分かる。あいつは生き抜く覚悟は決めたが、仲魔と共に生き抜く覚悟が無い。それは情が薄いとかそう言うことじゃなくて、単純に実感が沸かないんだろうよ。何せまともに戦うのが今日が初めてなやつだ、仕方ないだろうけど。まだジコクテンが自身の仲魔なんだって言う実感が無いんだ、多分仲魔ってのを協力者くらいにしか考えてないんだろうよ、仲魔の認識がサマナーのそれじゃない」

「そんな彼を一人にしてきて良かったのかな? さっきから上のほうで大量のマグネタイトが弾けてる感じがしてるけど。多分彼戦ってるよ? 正確には彼の仲魔が」

「実感が沸かないなら、沸かせればいい。認識が甘いなら改めさせれば良い。それでどうにかならないようなら、素直に助けるさ」

「はあ…………彼も大変だねえ、初日からこんなにスパルタで」

「そうかもな…………でもまあ、俺は悠希を信じてるよ。十年近く一緒に過ごしてきた親友だ。そのくらいは信じさせてくれよ」

「信じてるって…………随分と都合の良い言葉だよね」

「言ってくれるな」

 

 

 * * *

 

 

 銃を片手に走り出す。

 心の中でジコクテンに指示を出す。

 マグネタイトパス、とか言うジコクテンへとマグネタイトを供給する糸で俺とジコクテンは繋がっているらしい。

 マグネタイトは感情の産物で、それゆえに感情を伝えやすい性質があるらしく、ジコクテンへの指示は心の中で出すだけで十二分に伝わる、デビルサマナーの必須技能だと有栖は言っていた。

「オラオラオラオラ、そろそろ沈んじまいな!!!」

 高速で両の刀を振るってくる遮那王の怒涛の連打を辛うじて防ぎながらジコクテンがじりじりと後退する。

 遮那王は完全にジコクテンへと焦点を定めており、こちらには気づいていない。

 

 どんな生き物でもそうだが、攻撃中というのは防御が疎かになる。

 攻撃と防御を同時に行なう、と言うのは至難の技なのだから当たり前ではあるのだが。

 見たところ遮那王は完全に直情型な性格だ。

 一方を定めたらそこに向かって一直線で、周囲が目に入らなくなるタイプと見た。

 

 だとしたら、この一撃は絶対に当たる。

 

 ジコクテンに命令を出す。

 その命令に従ってジコクテンが再度大振りに大剣を薙ぎ…………。

「だから効かねえよ!!!」

 その一撃を遮那王が止める…………予定通りに。

 

 バン、バンッバンバン、バンバンバン

 

 立ち止まったその背中に銃弾が突き刺さる。

 狙いをつけて七、八発撃った弾丸のうち五発が遮那王に見事命中し、遮那王の動きが止まる。

「ぐああああああ…………て、てめえ!!!」

 俺の存在に気づいた遮那王が怒り、こちらへと向き直り…………。

「地獄突き」

 その隙を待っていたジコクテンが繰り出した突きが、その腹に深々と突き刺さった。

 

「ぐ…………が…………あ…………っち、負けちまったか」

 

 ジコクテンが大剣を抜くと同時に遮那王が膝をつく。

 負けた、と言う割りに清々しいその表情に、疑問を持つ。

 そんな自身の疑問に気づいたか、遮那王が不敵に笑って言う。

「不思議そうな顔だな、俺が楽しそうなのが…………簡単な話だ。全力で戦って、それで負けたんだ。武士としちゃあ悔いはねえ、そんだけだ」

 そんな生き方は自分には分からない。だが…………きっとそれでいいのだろう、そう思った。

 遮那王が消えていく。徐々にその姿が粒子となって崩れていき…………。

 

 消える刹那、遮那王が俺へ言う。

 

「今度は負けねえぞ、もっと強くなってまた戦いに行くからよ…………だから、てめえらももっと強くなって俺を失望させんなよ?」

 

 俺の答えも聞かず…………それだけ告げて、遮那王は消えていった。

 

「…………………………勝った、のか?」

 どうにも現実感が持てず、口をついて出る言葉。

 そしてそれに答えたのは、自身の仲魔だった。

「…………ああ、召喚師殿の勝ちだ」

「そうか………………うん、そうだな…………()()()の勝ちだ、ジコクテン」

 

 そう呟くと同時に、どっと力だ抜け、床に転ぶと同時に気が遠くなって行く。

 

「悪い…………ちょっと休むから。()()()()

「うむ…………()()()()

 

 自身の仲魔の返答に、どこか安心し、そうして、意識は薄れていった。

 

 




因みに分かってるとは思いますが、遮那王ってのは源義経のことです。

そう言えば、メガテンイマジンでヨシツネ実装されましたね。
全部亜種悪魔なせいで、御魂できないけど。

因みにイメージ的に今のジコクテンさんのレベルは本来の半分くらいの20前後くらいです。悠希の手に入れれるマグネタイトの量でも使えるように合わせるため、存在を保てるぎりぎりのレベルまで力を落としてます。
遮那王は原作ヨシツネよりやや弱く、25くらいですかね。

因みに原作ジコクテンさんはレベル40前後、ヨシツネは35前後くらいです。

さて、今回は悠希メインの話でしたけど、前回の和泉の引きが気になってる人もいるのかな?
次回から二、三話くらい使って和泉と有栖の話を同時進行で半分くらいずつ書いていこうかと思ってます。

ところで、番外編のアリスちゃんに萌えてもいいのよ?
萌えて感想送ってくれてもいいのよ?

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