有栖とアリス   作:水代

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で、できたあああ。
滅茶苦茶苦労した。
軽く三日かけて書きましたよ。


有栖とジャックフロスト

 

 

「ヒーホー! 来たホー! 来たホー! オイラのテリトリーに今夜も一匹、バカチンが来たホ!」

 ゲラゲラと笑うソレ。

 異界化した廃病院を探索し、辿り着いた屋上…………そしてそこで見つけた一匹のジャックフロスト。

 けれどその容姿は通常のフロストといくつか異なる。

 なるほど、これは確かに特異固体だ。

 世界の特異点から生まれた存在だ。

 普通のフロストと違う吊上がった目、そしてその中心にある紅く染まった瞳。

「……………………やべえ」

 素直な心情を吐露する。

 見た瞬間分かる。

 

 これはやばい。

 

「…………ランタン。悪いが…………手加減できる余裕はなさそうだぜ」

 

 SUMMON OK?

 

「わー、つよそー」

「サマナー諦めるの早すぎだホー!」

 

 左腕にはめたCOMPが召喚プログラムを実行。アリスとジャックランタンが召喚される。

「マジでやべえな。ちょっとマジで行くぜ」

 拳銃のマガジンを抜き取り、ベルトに取り付けたポーチから赤い銃弾の入ったマガジンを取り出し、セットする。

「それじゃ一丁…………いってみっか」

 ボンッ、と小さな爆音を立て、拳銃から銃弾が射出される。

 ジャックフロストと言えば、火に弱い…………そんなものはサマナーの間では当たり前のこと。

 だから火炎属性の魔力の詰まったこの銃弾、火炎弾がどれほどの威力を発揮するのか、その様子見の一発…………だったはずなのだが。

「ヒーホッホー! こんな豆鉄砲意味ないホ!」

 腕に当たった銃弾はけれど、着弾箇所に焼け跡一つつけず、フロスト自身なんら効果がなさそうだった。

「…………おいおい、マジかよ」

 たしかにこんな銃弾に込められた魔力は微々たるものかもしれない。

 だが、今のはありえない。

 

 悪魔たちの使う技にはそれぞれ属性がある。

 その最たる例が魔法だろう。

 火炎属性のアギ、氷結属性のブフ、電撃属性のジオ、衝撃属性のザン。

 その基本の四属性に加えて、霊魂などを強制的に昇天させる破魔属性のハマ、呪い殺すの文字通りの呪殺属性のムド。

 最後にそれら全てとは異なる万能属性のメギド。

 この世界にある悪魔たちの技の属性を大雑把に分けるとこの七種類に分類される。

 

 RPGに良くあるように、往々にしてこれらの属性は対の関係になっており、火炎属性に強い悪魔は氷結属性に弱く、逆に氷結属性に強い悪魔は火炎属性に弱い。電撃属性と衝撃属性、破魔属性と呪殺属性もそのような関係になっており、万能属性だけは全てに強いと言う一方的な関係を持っている。

 

 まあこれが絶対に正しいと言うわけでもないのだが、属性がはっきりとした悪魔ほどこの関係に当てはめやすい傾向にある。逆に属性付けが曖昧な悪魔ほど弱点もはっきりしなくなる。

 例えば、俺の仲魔のジャックランタンなら、ランタンの名から連想する通り、火炎属性を吸収してしまう悪魔だが、だからこそ氷結属性には弱い。

 今回で言うなら、ジャックフロストはアイルランドの雪の妖精だ。その属性は極めて簡単で、氷結属性。だからこそ火炎属性が弱点なのだと予想できる。

 

 そして悪魔はどんなに威力の弱い攻撃であろうと、自身の弱点属性の攻撃を食らうとはっきりとしたアクションを示す。例えば、仰け反って数秒動けなくなったり、食らって数秒間弱ったり…………とマイナス方向の変化が現れるはずなのだ。

 そう言う意味では俺の持つ属性弾は非常に便利だ。

 さほどの攻撃力は期待できはしない…………が、弱点属性の弾丸で撃ち抜けば、相手を数秒足止めできたりするのだから。

 それを期待して今撃ったのだ…………だが結果はどうだ。

 まるで堪えた様子はない。

 

 つまり。

 

 このジャックフロストは火炎属性が弱点ではない、と言うことになる。

 

 こちらのジャックランタンは氷結属性に弱いのに…………だ。

 

「ランタン…………マジで今回は諦めろ」

 

 引き攣った表情で…………俺は隣のランタンにそう言った。

 

 

 

 

「ヒーホー!」

 先ほどまで嗤っていたジャックフロストが一つ叫び…………こちらに殴りかかってくる。

「なに?!」

 ピクシー、フロスト、ランタン…………妖精種族と言うのは基本的に魔法が得意なやつらばかりだ。だからこそ、てっきり魔法を使ってくると思い込んでいた俺は反応が遅れ。

「ブフーラだホー!」

 その拳が伸ばされる瞬間、フロストが呟き…………拳に魔力が宿る。

「っ!」

 咄嗟に懐から一枚の鏡を取り出し。

「反射鏡!!」

 俺の言葉に応え、鏡が光を放つ。

「ヒーホッホ! バリアブレイクだホ!」

 俺の前で盾となった光の壁へフロストが拳を向け…………パリン、と音を立てて、あっさりと壁を貫く。

「なっ!?」

 勢い衰えぬフロストの拳が俺の腹部を抉るように振るわれ。

「っか……は……」

 ダン、とトラックにでも撥ねられたかのような勢いでコンクリの壁に叩きつけられる。

「サマナー?! マハラギオンだホー!」

 俺が吹っ飛ばされたことにランタンが一瞬目を向ける、がすぐにその隙を付いてフロストに炎弾を放つ。

 薄情、と言うわけではない。単純に俺がそう言う風に命じただけだ。

 この状況では俺を助けに入るよりも相手の隙を付いて俺への攻撃を中断させたほうが良い。

 

 サマナーと仲魔は特別な糸で繋がれている。

 契約の瞬間から糸が発生し、サマナーはその糸を介して自身の命令を仲魔に伝えるのだ。

 糸は即ちサマナーから供給されるマグネタイトの供給路であり、マグネタイトは感情の産物だ。故に思いや念じたことを他に伝導しやすい。

 故に言葉にせずともサマナーは仲魔に命令を伝えることができる。

 

 今俺がやったのはつまりそういうこと。

 そして。

 

「ふふ…………メギドラ」

 

 密かに背後に回らせたアリスに万能魔法メギドラでフロストに攻撃を仕掛ける。

「ホっ?」

 俺に気を取られ、不意を付かれた形で放たれたマハラギオンに驚いていたフロストは、さらに不意を打ったメギドラに完全に無防備を晒し。

「ホーーーーーーーー!?」

 俺たちのいる病院の屋上の端まで吹き飛ばされる。

 

 これが野良悪魔とサマナーの率いる悪魔との違い。

 サマナーに率いられた悪魔は同族以外とでも協力し合う。

 サマナーに率いられた悪魔はその場その場で最適な技を使える。

 サマナーに率いられた悪魔は仲魔と交代することで無理をする必要がなくなる。

 サマナーに率いられた悪魔は自身の得意とする役割に徹することができる。

 悪魔を従え、悪魔を用い、悪魔を討つ…………それがデビルサマナーと言う存在だ。

 

 フロストが飛ばされ、爆発で巻き上がった砂塵の中へと姿を消すと同時に、すぐさま仲魔たちが傍にやってくる。

「だいじょうぶ有栖?」

「サマナー! 大丈夫かホー!?」

「…………ああ、なんとか大丈夫だ」

 なんてやせ我慢してみたが、普通に肋骨が何本か折れてるな。

「…………薬、あったかな」

 簡単な回復薬を使って自身の傷を癒す。何個か使っている内に状態は大分マシなものになってきた。

「…………よし、いけそうだな」

 体は大分マシになった…………無茶な運動はできないが、指示を出すことくらいならできそうだ。

 問題は…………今の攻撃でどれだけのダメージになったか。

 メギドラは万能魔法メギドの上位魔法だ。

 万能魔法はメギド、メギドラ、メギドラオンの三種類しか無い…………とされている。

 実際どうなのかは知らないが、これまでで確認されているのはそれだけだ。

 万能魔法は全ての魔法の中で頭一つ飛びぬけた威力を持つ。

 メギドラは万能魔法の中では二番目だが、他の属性魔法…………特に四属性の中で言えば威力だけなら最大級のダイン系の魔法と同レベルの威力を誇る。

 その威力の攻撃でしかもほとんどの敵がこの属性に対して、耐性を持たない。

 最上位クラスの悪魔の中には万能属性すら無効化する化け物がいるらしいが、現実にそんな化け物そうそう出てくるわけも無い。

 つまり、万能魔法は、今撃てる中で最強の技の一つである、と言うことだ。

 アリスは並み居る悪魔の中でも特に魔力が高い悪魔の一体だ。そのアリスの撃ったメギドラは並大抵の敵の守りは易々と貫き敵を薙ぎ倒す。

「…………まあ、並の悪魔なら……な」

 だが並大抵では無いのが特異固体悪魔と言うものであり。

 

「ヒーホー…………ヒーホッホー!」

 

 砂塵の奥から聞こえてくる声に、思わず片手で顔を覆う。

「やっぱり持ってやがったか…………万能耐性」

 ランタンがそうだからこそ一つの可能性としては考えていた。

 そして、だからこそ最初にメギドラを当てた。

 万能属性が通用するか否か、その如何によって戦略がまるで変わるから。

 そして結果は通用しない。

 ついでに言えば、フロストもランタンも破魔属性と呪殺属性に耐性を持っている。

 呪殺属性と万能属性の魔法で固めたアリスはこの時点でアウト。

 つまり、火炎属性のランタンが主体となる…………のだが。

「その火炎属性を無効化するっぽいな」

 ランタンの放ったマハラギオン…………一度も触れなかったが、外れたのではない。

 たしかに当たった、それは俺自身が見ている。

 だが、何も効果が無かった。炎に包まれてもフロストは僅かに目を細めただけで一切効いた様子は無かった。

「…………多分、火炎無効のスキル持ってやがるな」

 悪魔合体等で人工的にそういった弱点をスキルでカバーする悪魔を生み出すのは可能だが、天然でそんなのがいるとは思わなかった。

 とにかく、あのフロストはランタンの炎も無効化する…………と、なると。

「軽く詰んでるな、これ」

 アリスで耐性のついた属性でちまちま当てていくしか方法は無いか?

 そう考え、アリスに命令を出そうとした…………その時。

「っ?!」

 一瞬で周囲に広がる爆発的な魔力。

 咄嗟に腕で体を隠し、地面に転がる、と同時。

 

「ブーメランフロステリオスだホー!」

 

 縦横十五メートル前後あったはずの屋上が、一瞬で凍りついた。

 

 

 

「んなっ?!」

 今日何度目の驚きの声だろうか。

 一瞬で凍りついた屋上全体を見て、けれど何度目になるか分からない驚きの声を上げる。

 だが驚きもする。何せ屋上は縦横十五メートル前後ほどの大きさになる。こんな外れにある病院とは思えないほどの大きさの屋上。

 だと言うのに、それが一瞬で凍りつくのだ。

 一体どれほどの冷気だったのか、想像もできない。

 

 と言うかどんだけ無茶苦茶だ…………ガードしたせいで全身に薄く氷が張り付いてやがる。

 

「…………ランタン…………マハラギダイン!!」

 俺の命令にランタンが応え、巨大な炎の球を放つ。

 一瞬で屋上の半分以上の氷が蒸発し、俺の体に張った氷も溶ける。

 視線をやるとジャックフロストはゲラゲラと嗤いながら、こちらを見るだけに留めている。

 

 その余裕…………剥ぎ取ってやるよ。

 

 幸いにも、切り札はこちらもある。

「…………ランタン…………メギドラオン!!!」

「ヒーホー! メギドラオンだホー!」

 周囲から魔力を集い、巨大な熱球がランタンの前に形成される。

「ヒーホー! オイラにそんなの効かないホ。ヒーホー!」

 嗤うフロストを気にもかけず、ただ一言、ランタンに命じる。

「撃て」

「ホー!」

 熱球が放たれる。

 正直、万能属性が効かないと分かった時から考えていた手ではあった。

 だが使えばどうなるか分かっているだけに、できれば使いたくは無かったのだが。

 …………予想以上に敵が強かった。正直初撃喰らってよく俺は生きていた、と思える程度には。

 多分様子見と言う程度に手加減されていたからなのだろうが、それでもアレは強すぎる。

 

 熱球がフロストと衝突する。

 余裕そうな表情だったフロスト…………だが。

 轟音を立てて熱球が破裂する。

 溢れ出た灼熱が屋上を焼き、溶解させる。

 弾けた爆風が周囲一帯を吹き飛ばし、屋上を半壊させる。

 

 瞬間、周辺の景色が一変する。

「…………異界化が、解けた?」

 どうやら今の攻撃が相当深く入ったらしい。

 そう考えた時、思わず崩れ落ちる。

 まだ戦い始めて60秒と経たないと言うのに、すでに緊張で全身が強張っていたようで、足がガクガクだ。

「ランタン…………フロストを探してきてくれ。正直異界化が解けてもアレがやられた、とは思えん」

「了解だホー」

 そう、これで終わりとは正直思えない。

 何せまだ相手は数度の攻撃しかしてない。溜め込んだマグネタイトはまだまだあるだろう。

 と、言うか…………切り札一枚切った程度で終わるようなら、わざわざキョウジが俺に話を持ちかけることも無かっただろう。

「……………………よし、決めた」

 手持ちの道具を見…………それから一つ頷く。

 傍に立つアリスを一瞥し。

「一つ頼みがある」

 そう言った。

 

 

 ジャックランタンがジャックフロストを発見したのは廃病院の一階だった。

「ヒー! ホー! ぶっ倒すホ!」

 怒り心頭、と言った様子でけれどどこか動きが重いその姿は、自身がサマナーの予想通り、それなりの痛手を負っているが、まだまだ戦える状態、と言ったところか。

 何とかしてフロストを仲魔にできないだろうか。

 弱って見えるフロストの姿に、そんな思いが再び湧き出る。

 だが自身のサマナーはそんな危険な賭けのような真似はしないだろう…………だからこそ悩む。

 もう一度進言してみるべきか、それとも…………。

 と、その時。

 マグネタイトパス越しにサマナーからの命令が飛んでくる。

 曰く、フロストを見つけた場合、屋上に誘導しながら時間稼ぎに徹しろ。

 火炎にも万能にも呪殺にも耐性を持つあのフロスト相手にまともなダメージを通せるのは最早ランタンのメギドラオンくらいだと言うのに…………そのランタンに囮をさせる、普通のサマナーならまずあり得ないことを平然と命令してくる。

 サマナーとして失格なのだ、と言うわけでも無い。

 ランタンは自身のサマナーを信じている。

 戦う者としては一流だ。超一流には届かないが、それでも十分なくらいの才覚を持つ。

 サマナーとしては二流。何せ悪魔を頼りにしないのだから、どれだけ上手く使いこなそうと二流としか言えない。

 

 そして。

 

 デビルバスターとしては超一流だ。

 

 どれほどの難敵だろうと、どれほどの強敵だろうと。

 

 悪魔より悪魔らしく、けれどどこまでも人間らしく。

 

 悪魔を殺す、それが自身のサマナーだ。

 

 

 

 

 思いのほかランタンが上手くやってくれている。

 先ほどから廃病院内のあちこちから破壊音が聞こえ、所々が凍結している。

 ランタンも自身からどんどんマグネタイトを吸収していっているのが分かる。

 送るマグネタイトはイコールでランタンの魔力だ。ケチればランタンが魔法を使えなくなる。

 なので仕方ないと言えば仕方ないが、もう少し節約できないものだろうか…………。

 折角溜め込んだマグネタイトがすでに一割以上減っている。

 異界化なんて滅多に起きない以上、できるだけマグネタイトは温存しておきたかったのだが。

「…………まあいい。とりあえず役割は果たしたみたいだな。そっちはどうだ、アリス」

「だいたいおわったよ、さまなー」

 何気に性格歪んでる、と言うか子供らしい残酷さと悪魔らしい非道さが最悪の化学反応を起こした凶悪の一言に尽きる性格のアリスは、これから起こることが楽しみで仕方ないらしい、始終笑顔でニコニコしている。

 

 さて…………ネタばらしをしよう。

 まず一つ目。万能耐性のはずのフロストに何故ランタンのメギドラオンが効いたのか。

 答えは簡単。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その名を核熱属性と言う。この世界にはあり得ないはずの属性。

 故に本来とは違う、捻じ曲がった効力を持つ属性。

 特異点悪魔たるランタンだけが持つ、この世界の理から外れた属性だ。

 本来なら一個の属性として扱うはずが、そんな属性が存在しないこの世界では、火炎属性の上位互換として扱われる。

 限り無く火炎属性に近い故に火炎属性が弱点の敵には同じく弱点となるが、火炎属性とは別個故に無効化スキルの対象にはならない…………と言う謎の属性だ。

 核熱属性が存在しないこの世界では、当然だが核熱耐性を持っている存在がいない。

 つまり、万能属性以上に万能性に富む反則的な属性だ。

 だからこそあのフロストには通用した。しかも威力はメギドラオンのそれと変わりない。さすがにフロストもただで済ませることはできなかった、と言うわけだ。

 

 さて、二つ目のネタばらしだ。

 一体ランタンに時間を稼がせて何をしたか?

 簡単だ…………正攻法じゃ勝てそうにないから、邪道を使うことにした。

 つまり………………。

 

 ドォォォォォォォォォォォォォォン

 

 と、その時。

 聞こえた爆音に口元を歪める。

 

 つまり、病院中にしかけた爆弾で吹っ飛ばすんだよ。

 

 




キリ○グに似てるな……って自分で書いてて思った。

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