そして同時進行でPSO2のレベリングもしてるので執筆に取れる時間が無いという…………。
ピッピッピ…………と断続的に機械音が響く。
暗い病室。寝台に眠る少年…………有栖の手を握り、悠希は黙ってその傍らに座っていた。
「有栖………………」
ぽつりと呟くその言葉は、けれど眠る親友には届かない。
ただぎゅっと手を握り締め、親友の無事を祈る。
と、その時、すっと背後の扉が開く音がする。
振り返る、そしてそこにいる人物の姿を認め…………。
「あなたが…………キョウジさん?」
「そういうお前が、門倉悠希だな」
スーツ姿の男、葛葉キョウジがそこにいた。
魔法による応急処置は終わり、一命は取りとめはした。だがその胸から流れ出した血はあまりにも多く、依然として危険な状態であることには代わり無かった。
もし有栖と自分の立場が逆だったなら、もっと正しい対処ができたのだろうが、サマナーになって一日目の悠希にそれを求めるのは酷というものである。
結果的に、119番に連絡し、有栖は救急車で病院に搬送され、その銃創について事情を聞かれることとなった。
と言っても、悠希自身何が起こったのか分からない。ただ突然有栖の胸から血が弾け、有栖が倒れた、そうとしか言えないのだ。
救急車で運ばれ病院に着くと同時にすぐさま集中治療室へと搬送された親友の姿を見送りながら、悠希はやってきた警察へ事情を話す…………と言っても、悪魔だなんだという話はしないが。
警察としてもさすがに悠希が銃を使って有栖を撃った、とは考えなかったらしい、すぐに開放されて警察による現場での調査が始まった。
それは別の話としても、それからしばらくして有栖の治療を待ちながら椅子に座ってぼんやりとしていた俺だったが、その時、有栖の携帯が鳴った…………有栖が搬送された時に有栖の荷物も一緒に持ってきていたのだ。
着信者名は『キョウジ』、自分の知らない名前だ。出て良いのか迷ったが、もし知り合いなら有栖の現在の状態を伝える必要があると通話ボタンを押し…………。
『門倉悠希だな』
何故か自分の名を呼ばれた。
「えっと、そちらは?」
しばし考えてみたが、結局大した考えは浮かばず、ありきたりな質問で返す。
『葛葉キョウジ。覚えなくてもいい、そっちで治療を受けているバカの上司のようなものだと覚えておけ』
感情の色が読めない、けれど冷たいと言うわけではない。言葉の端々にやれやれ、と言った呆れの感情が僅かに感じられる。どうやら有栖の知り合いなのは間違いないらしく、そして現状を理解もしているらしい。
『だいたいの状況は分かっている。お前のしたことが不可抗力であることも分かっている。ただ面倒なことになっているのは間違いない。今そちらに向かっているから、お前はそのバカと共ににいろ』
一方的にかかってきた電話は、一方的に切られる。
思わず目を丸くし、沈黙するが、通話の切れた電話は何の反応も示さない。
それからしばらくして、集中治療室のランプが消え、有栖が運ばれて出てくる。
一先ずの治療が終わったこと、しばらく入院が必要であることを告げられ、共に病室へと向かう。
医者も看護士も処置を終え、出て行った中、一人病室に残り、有栖の様子を傍らでずっと見ている。
そうして。
「あなたが…………キョウジさん?」
「そういうお前が、門倉悠希だな」
冒頭に戻る。
* * *
ガキン、と振り下ろされた刃を押し止める一本の剣。
魔王ウリエルが自身のサマナーへの凶刃を止めると同時に、魔王モトと魔王スルトが各々の魔法を解き放つ。
「おお神よ、われらが主よ。御恵みにより、あなたが忌み嫌うすべてのことから私どもを守りたまえ」
神父がソレを呟きながら、バックステップ…………後退する。
「また、あなたに似つかわしきものを付与し給え。あなたのご恩恵のより多くを私どもに与え、祝福し給え。私どもの所業を許し、罪を洗い流し給え」
態勢を立て直した神父が、飛来する魔法をけれど両の刃で切り裂き、魔法が弾ける。
「そして、恵み深きご容赦により、私どもを許したまえ」
だが魔法を切り裂くと言う無茶をした神父にできた大きな隙をウリエルが逃さず…………。
「煉獄の憤炎」
部屋全体を多い尽くさんとせんばかりの勢いで炎が噴出す。
神父の体があっと言う間に呑み込まれ、その体を焼き尽くそうとし…………。
「Amen」
完成した聖句がその身を守る。
いかなる攻撃からもその身を守り抜く、無敵の神の盾がその身を覆う。
同時に傷ついた体が癒され、その身を完全なものとしていく。
さらには補助魔法によって強化されたその身は、当初よりも遥かに強く、強靭で、素早い。
「最早貴様らを神の身元に送るのも穢らわしい」
二刀を十字に構える。すっとその二刀を腰のあたりまで引き。
「今ここで地獄の底まで送ってやる、自身の罪を後悔せよ」
走った。俊足、ならぬ、瞬足。縮地法と言っても良い。一歩、たったの一歩で王との距離を詰め…………。
「モト、龍の眼光」
王の言葉にモトから強烈な威圧が発せられる。
眼光系スキルは総じて、その身から発せられる威圧で敵を動けなくするスキルだ。威圧によって相手が萎縮し、身動きを止めてしまったその隙をついてこちらが行動する。結果的に自身の行動が増えたように見えるだけで、究極的には相手の行動を潰してしまうスキルだ。
誰も知らない事実ではあるが、このスキルは、本来サマナーと契約してしまうと消滅する。
同じ悪魔すらも縫いとめるほどの強烈な威圧と言うのは、分霊の本体から引っ張ってくることによって発現する。
だがサマナーと契約してしまった瞬間から、契約により悪魔がその力を引き出すための寄代は本体ではなく、サマナーとなってしまう。所詮ただの人間であるサマナーでは悪魔を震え上がらせるほどの威圧感を身にまとうことは不可能だ。
けれど、けれど、だ。今このモトはその威圧を使った。それがどういう意味なのか…………それを知る者は王ただ一人である。
まあ……………………だからと言ってそれが成功するかどうかはまた別の問題ではあるのだが。
「そんなものが効くかあああああ!!!」
パリン、と何かが割れたような音。そして目に見えぬその身の拘束を振り切って神父が超高速でその刃を振りぬく。
「なっ…………にぃ…………」
初めて王に動揺が走った。その表情から余裕が剥がれ…………だが、すぐさま元に戻る。
「っく…………っくはははは」
王から発せられる尋常ならざる気配に驚き、神父がすぐさま下がる、と同時に王の傍をウリエル、スルト、モトが固める。
「バアルはあっさりと殺され、俺の自慢の三体でも攻めきれず、その三体の守りを抜いて俺へと傷を付ける…………か。これは予想外だったなあ、ああ、本当に予想もしてなかった」
お前たちがこの程度なんてな。
* * *
「えっと…………つまり、サマナーっていうのは全員、ヤタガラスっていう組織に所属していて、あなたはその組織に一員で有栖に指示を出す立場ってことでいいんですか?」
キョウジの話を総合するとそういうことになる…………のだろうか?
「全員が全員所属しているわけではないがな。ついでに言えば、俺はヤタガラスに所属しているのではなく、クズノハからの出向だがな」
「クズノハ?」
気にするな、と言うキョウジの言葉に従う。そんなことは後で有栖に尋ねればいいだけの話だ。
「さて、では本題に入ろうか…………」
すっとキョウジの視線が細くなり、自身の見つめる。その動作に、思わず背筋が冷たくなった。
「本題一つ目は、注意勧告だ」
「注意…………?」
「そうだ、お前、こいつを助けた時に病院に電話したな?」
確かにあの時、自分は119番に連絡した。連絡して有栖を運んでもらった。
「本来サマナーを表の病院に関わらせるべきじゃない。サマナー…………いや、デビルバスターが負う怪我ってのはどうあってもまっとうなもんじゃないからな。そもそも普通の医者が処置すらできない場合だってあるし、最悪の場合、悪魔絡みの事件に否応無しに巻き込んでしまうこともあるかもしれない」
お前の時のように、な。と言ったキョウジの言葉に、自身の犯したことの大きさにようやく気づき、顔を青ざめる。
だがそれに反論したのも、またキョウジだった。
「今回はただの銃創だけで、特に問題は無かった。いや、問題が無いわけではないが、誤魔化しも簡単だから安心しろ。お前が今日初めてサマナーになったのも有栖から聞いている。そのために葛葉の修練場を使うこともな。だから迅速に対応できた…………だが次からはそうはいかない。また今日のように都合良く何もかも誤魔化せるとは限らん、その時になってお前にまた同じことをされては困る。そのために俺が来た」
そう言ってキョウジがメモ用紙を差し出してくる。そこに書かれているのは、どこかの電話番号とメールアドレス。
「これは?」
「俺の番号とアドレスだ。今度からサマナー関連のことはこっちにかけてこい」
一つ頷く。まあ基本的には有栖に頼れば良い、と言うことなので本当にかける時は今回のような緊急時だけだろうが。
「一つ目の用件はそれだけだ。今後気をつけてくれればそれでいい」
キョウジがそう言い、一旦話を区切る。
それから続きを促すように、自身から声をかける。
「それで、二つ目は?」
そう尋ねると、キョウジはけれど続きを語らずじっと自身を見つめる。
「えっと…………二つ目は?」
急かしたわけではないが、じっと見つめられるのに居心地の悪さを感じ、そう言うと、ようやくキョウジが口を開いた。
「一つ、お前の苗字は門倉である」
「え? え、あ…………はい」
「二つ、お前の祖父の名は道三である」
「えっと、はい…………なんで爺さんの名前を?」
「三つ、お前はジコクテンと契約をした」
「…………はい、そうですけど」
用件が何か、と身構えていただけに唐突に質問の連続に目を丸くする。
けれど全てに頷いた自身を見て、キョウジがまた黙りこくる。
「えっと、あの、それが何か?」
スーツ姿に夜なのにサングラス、と言う大人びた、というより怪しい雰囲気のキョウジの姿に最初から圧倒されている悠希としては、目の前の男が黙るたびに、どうにも居心地の悪さを感じてしまう。
そんな悠希の心中を知ってか知らずか、黙りこくっていたキョウジは再び口を開き…………。
「二つ目の用件だ…………お前に門倉の遺産を継いでもらう」
そう言った。
* * *
面倒な…………。
それが少女、葛葉朔良の正直な感想だった。
葛葉朔良と言う少女の立ち居地を一言で表すなら…………中途半端、だ。
ライドウ候補、と言うだけで葛葉の里の同期の中では一つ飛びぬけた存在ではある。
だが所詮候補、ライドウではない以上、うやまれることも無く、これと言った権威があるわけでもない。
即ち、朔良の地位とは、里の人間のライドウへの畏怖のみで形成されているものであり、一度里の外へと出てしまえば、大した意味を持たない。
葛葉キョウジ、と言うの存在を言い表すなら…………異端、だ。
葛葉四天王の内には数えられておらず、そもそも葛葉の血を引いていることすらも少ない。
だが、葛葉の名を冠し、世襲させている確かな名の一つではある。
里でちゃんとした役割を宗家から直々に割り振られ、そのために動く。
当たり前ではあるが、朔良と現葛葉キョウジを比べれば、葛葉キョウジのほうが立場は上だ。
だからと言って、キョウジに朔良への命令権があるか、と言われるとそれは違う、と言える。
朔良もキョウジも同じ宗家から別々の命を与えられている。
つまり見方を変えれば同僚と言えなくもない。
対等とは言い難いが、少なくとも一方的な命令を与えられるような関係でもない。
のだが…………。
「連れに行って来い、って勝手に告げて勝手に切るとか、どういう神経してるのよ」
夜、今日もまた巡回のために出かけようとしていた自分に突然かかってきた電話。
かけてきたのは葛葉の掃除屋、葛葉キョウジ。
『駅に銀髪の女がいる。そいつを東にある病院まで連れに行って来い』
それだけを言い残し、即座に電話が切れる。
「ちょ、ま、まちなさ…………」
一言も喋る間も無く切れた携帯を見つめ、投げ捨てたい衝動にかられたが、何とか堪える。
正直、無視しても良かったのだが、今日巡回する方面でちょうど駅方面であり、指定された病院も順回路に入っている。これを予期していたのか、偶然なのかは知らない。だが、顎で使われているようで多少癪ではあるが、物のついでと言うことで駅へと向かう。
こういう時、きっぱりと無視できないあたり、以前に有栖が言っていたように、律儀な、と言うべきか、損な性格なのだろう。
それを厭わしく思ったことは無いが、それでも他人に良いように使われるようなら考え直すべきかも知れない。
そんなことを考えながら駅へと向かい。
「私は確認する。あなたが葛葉であるか、と」
そして出会う。
「私は求める、先の問いの答えを」
夜に浮かぶ月に照らされ輝く銀の髪を棚引かせ。
「私は先に答える。私の名前は」
レース、フリル、リボンで装飾された黒い黒い上下が一つ繋ぎになったソレ…………ゴスロリ服と呼ばれるソレを着た。
「ナトリ」
人形のような少女と。
そしてまさかの新キャラである。
ナトリちゃん。銀髪ロングのゴスロリ着た天然娘。
この子が授業中にふと浮かび上がってきたせいで、それ以降の授業全部聞き流してた。
配役としてはちょっと意外なところに収まります。
そして初めて出てきた悠希の苗字。
これまでの悠希の設定を思い出して、とある作品を思い浮かべればけっこう簡単に苗字の意味を思いつけます。
前々から言ってますが、だいたいの伏線のヒントは作中に転がってます。
そして王がそろそろ本気出してくれそう。
前にこいつが小物っぽいなんて言った人がいたけど、こいつ実力的にはラスボスでもおかしくないですよ?