とりま、全部一万以上貯めたから、明日あたりもう一度挑もうと思う。
その手に持つ鉾を一振りすれば大地が燃え上がり、世界を紅蓮に染める。
雄たけびを上げれば空間が軋み、背の羽を一振りすれば風が荒れ狂う。
燃え盛る炎が周囲一体を焦がし、荒れ狂う風がそれを助長させ、炎の領域がぐんぐんと広がっていく。
その炎の中で戦う影が二つ。
「おおおおおおおおおおおおお!!!」
叫び、両の刃を振り下ろす。ガキン、と音を鳴らし、刃は鉾に阻まれる。
即座に神父…………ストレイシープが下がるのとほぼ同時に刃を止めていた鉾がなぎ払われ、炎が湧き上がる。
『その体でよくやりおるわ、だがこれならどうだ…………マハラギダイン!」
目前の魔王…………ベリアルが叫ぶと、ベリアルを中心として炎が噴出す。
「おお神よ、われらが主よ。御恵みにより、あなたが忌み嫌うすべてのことから私どもを守りたまえ」
直前に張った防御ごと炎は自身を飲み込んでいくき、半径百メートル近くを巻き込んだ焦熱の炎が周囲の建造物を溶解させていく。
否、建造物どころか地面までも半分溶解し、溶岩のような有様を見せていた。
桁違い、そんな言葉が浮かぶ。
魔法の威力は魔力の質によって決まる。魔力には量と質があり、量がどれだけ魔法を使い続けられるかを決め、質が同じ魔法の威力をどれだけ高められるかを決める。
同じ魔法を使っても、魔力によっては雲泥の差が出ることなど珍しくも無い…………だが。
「ぐ………………がぁ…………」
黒こげになった服を脱ぎ捨てる。その下にあるのは薄い布地の上着が一枚。
確かに祈りの守り…………神の盾は発動していた。だがこれはどういうことか…………。
単純な話だ。自身の守りを、炎の威力が上回ったのだ。
異常なまでのその火力、さすがのストレイシープも戦慄せざるを得なかった。
これほどの威力、さきほどのウリエルやスルト相手でもお目にかかることはなかった。
レベルに換算して明らかに100を超えているだろう相手。
だが胸に宿す己の意思になんら変化は訪れない。
「破魔の雷光!」
両の刃を通して発する雷撃、それがベリアルに直撃し、一歩後退させる。
『むう…………破魔の力か。多少は痛かったぞ』
けれどそれだけだ、相手の行動になんら支障は来たさない。
格が違う。さきほどまでの相手とは…………。
かと言って先ほどまでの相手…………モトやウリエル、スルトが弱かったわけではない。
ただ、目の前の魔王が規格外過ぎるのだ。
正確には、規格外と言えるだけの力を引き出しているのだ。
現世にやってこれるのは、分霊だけ。その分霊が本体からどれだけの力を引き出せるか、それが悪魔の強さの基準だ。
目の前の魔王の分霊は相当な力を引き出せるらしい…………一種異常なほどに。
基本的に悪魔も人間も蓄積可能な活性マグネタイト量と言うのは一律で決まっている、と言われている。
その上限をレベル99…………即ち到達点と定めてそれ以下を計算している。
先ほど戦ったモト、ウリエル、スルトなどがレベル90以上と言ったところだろう。どの悪魔も強大で、召喚された時点で最低レベル80を超えるような強大な存在ばかりだ。そこからさらに強力になっている以上、90を超えていると言う予想は間違っていないはずだ。
だが、目の前の存在はなんだ?
ほぼ上限に達している先の魔王たちよりも、群を抜いた圧倒的強さ。
まさか、まさかではあるが…………。
「レベルオーバー…………だと…………?」
レベル100から先へと進んだ存在。非常に稀過ぎるそれは既存のものとは比べ物にならない圧倒的な力を持つ。
どうやって現れるのか、どうやって呼び出すのか、その方法は知られていない。
限界と言う枠を破ったその存在は、あまりにも非常識に、あまりにも理不尽に、あまりにも不条理に、一切合財の既存をぶち破り、未知を引き連れる。
だがそうだとすれば納得できてしまう。
目の前の存在のあり得なさが。
自身の瞳に縛られた状態で、ようやく勝負になる。それがどれほどあり得ないことか。
炎に体を焼かれながら、右の刃を振りぬく。鉾であっさり止められる。並の悪魔ならば動くことすらできないはずの自身の縛鎖の聖眼に縛られながら、拘束はちゃんと働いている。所々で動きを束縛されたような動作はある。
能力値も下がっている。最初に感じていたほどの存在感は感じない。
だが、そこまでしてようやく互角だった。否、相手にはまだ余裕が感じられる以上、互角ですら無い。
正確には、そこまでしてようやくまともな戦いになっていた。
だがそれが王の気分一つであっさりと崩れる均衡であることも分かっていた。
何せ相手は先ほどまでの三体をまだ使っていないのだ。召喚はされていることから使えないわけではないようだった。
だとすれば、これは王の余裕を見せているからこその拮抗だ。
切り札を切らねばならない。
「裁き主なる主はのたもう、我より離れよ、されば汝裁きを受けん」
神威にして、神意なる一撃。
断罪なる神の理。
罪を裁きし神の鉄槌。
「天罰!!」
雷鳴が轟くと共に、空から一条の光の柱が落ちてくる。
『ぐ、ぬおおおおおおおおおおおお!!!』
光の柱がベリアルの姿を飲み込む、だが…………。
『温いわああああああ!!!』
世界が震えたかと錯覚するような咆哮が響き、光の柱から炎が噴出す。
目の前が紅蓮一色に染め上げられていく光景に、さすがに唖然とする。
Drak悪魔相手の切り札、それすら破られ一瞬の思考の硬直。
そして気づいた時には、炎の波が目前まで迫り…………。
『ぬうっ?!』
止まった。
『……………………………………』
するすると、まるで吸い込まれるように炎が全てベリアルの元へと戻っていく。
だが肝心のベリアルは驚愕した様子で完全に動きを止めている。
その視線は、自身の背後に向けられていて…………。
だが振り返らない、否、振り返れない。
見えてしまったから。ベリアルの向こう側、そこにいるはずの王。
その王に…………。
銃口を突きつけた少女の姿があったから。
* * *
人間の根底など、そうそう簡単に変わるものではない。
最も分かりやすい例を挙げるなら、
例えトラウマの原因が取り除かれたとしても。
一度傷ついた心はそうそう簡単に癒されたりはしない。
例え治ったように見えても、それは表面的なものであり、PTSDなどに姿を変えて忘れたころにその姿を現す。
何より厄介なのは、実際にその症状が現れるまで本当に治ったかどうか確かめる術が無いことだ。
本人すらも自覚できていないのに、まして他人にその心理を計ることなどできるだろうか。
和泉と言う少女にとって、過去の体験はまさしくそう言う類のものであった。
自身ではもう大丈夫だと思っていた
自身はすでに救われたのだから、もう関係無いと思っていた
いや、本来ならもう大丈夫だったのかもしれない。少なくとも幾度と無く和泉自身それを避けることも無く関わってきたこれまでがあったのだから。
だがそれは傷口にできたかさぶたのごとき脆さであり。
王と言う圧倒的存在を前にして、塞いだはずの傷痕が開いた。
全身が恐怖に震えた。脳裏に過去の
身体的にはすでにどこも問題無い。だと言うのにこの体は震え、蹲り、その足にはぴくりとも力が入らない。
強がっても、見てみぬ振りをしてもしきれぬ本能に刻まれた恐怖が自身の全ての抵抗を打ち崩していく。
崩落したビルのガレキに埋もれながら、それでも和泉にそこを抜け出すどころか、あがくことすらしない。
恐怖に塗りつぶされた心は、体は、本能は、一切の動きを止め、ただ震えるだけであり。
そのまま誰も何もしなければ、和泉と言う少女はずっとそこで震えたまま終わるのだろう。
誰も、何もしなければ。
「和泉!!!」
聞こえた声に、震えが止まる。
恐怖に塗りつぶされた心に、ほんのわずかな理性が宿る。
「………………ぅん」
けれど呟きは言葉にはならず、僅かな呼吸音と共に出て行くだけ。
当然ながら、
だが。
「和泉!! いるのか?!」
再度聞こえる、さきほどまでよりもはっきりとしたその声。
それが誰の声なのか、はっきりと認識した瞬間、まるで霧が晴れていくかのように、恐怖が霧散し思考が明瞭になる。そして自身の状態を思い出し、すぐさま体に力を入れる。
腕の一振りで自身の上の瓦礫を全て吹き飛ばす。
「和泉?!」
それに気づいた彼…………有栖がすぐさま駆けつけてくる。
体を起こす、先ほどまでの震えは嘘のように止まっていた。
ああ…………またか。立ち上がり、有栖の顔を見て、思わず苦笑する。
「また助けられちゃったわね」
埃に煤けた自身の白いワンピースをぱたぱたと掃う。
あちこち破れてしまい、所々破けているところもある。特注の耐火服なので燃えることは無いが、それでも有栖の目の前でこの服は多少恥ずかしいものがあるが、まあ今は致し方ないだろう。着替えている時間も余裕も無い。
「それにしても、有栖くん…………どうしてここに?」
ここより少し離れた地点、遠くで神父風の男と王が戦っているその方向を見ながら有栖が呟く。
「なんとなく嫌な予感がしてな。聞いた話によればガイアとメシアが抗争してるって言うじゃないか…………で、お前のこと思い出してな」
「それって…………心配してくれたってこと?」
「別に……………………そんなんじゃねえよ」
そう言いながら、ぷいっ、と顔を逸らす有栖のその姿に。
堪らなく愛おしさがこみ上げ。
「ふふ…………ありがとう、有栖くん。お陰で助かったわ」
笑ってそう告げた。
* * *
和泉の無事は確認した…………が、嫌な予感はまだ止まらない。
本能が最大級の
先ほどからずっと近くから聞こえる爆音。それがこの予感の正体なのだろうか?
「なあ和泉…………あっちは一体どうなってるんだ?」
その問いに、和泉が少し押し黙り…………やがて口を開く。
「メシア教らしい男と王って名乗ってる男がいるわ」
「王?」
その言葉を最近聞いたような………………否、最近どころか今日聞いたばかりではないか。
「騒乱絵札…………か?」
こくり、と肯く和泉。驚きに目を見開き、けれどどこか納得する。
嫌な予感がする。
先ほどから止まらぬ脳内の
離れているはずのこちらまで届く、びりびりと肌を刺す圧倒的な魔力の波動。
確信する。この先にいるのは…………化け物である、と。
けれど、そんな俺の心情とは裏腹に。
「……………………………………あれ?」
ふと、いつの間にかCOMPから抜け出していたアリスがそんな言葉を呟き、首を傾げる。
そしてそのまま吸い寄せられるようにフラフラと音がするほうへと歩いていく。
「アリス? お、おい!!」
慌ててその後を追う。と、そんな自身の背に和泉が声をかけてくる。
「有栖くん、騒乱絵札はガイアにとってもメシアにとっても敵、それは覚えておいてちょうだい」
それが何を意味するのか、都合良く解釈するならガイアもメシアも今回に限っては…………。
「ああ、了解だ」
そう返し、急いでアリスの後を追った。
* * *
手に力は…………はいる。
足もまだ動く。
さすがの回復力か、この体に異常はどこにも見当たらない。
「…………………………さて」
足元に転がる二丁の銃を拾い上げ、すっと深呼吸する。
どくん、どくん、と心臓の鼓動を感じられる。
静かだった。先ほどまで聞こえていた爆音もいつの間にか耳に入らなくなっていた。
「…………………………そろそろ」
王…………あの男は確かに言った、メシアで過去に行われたあの狂気の実験、その元凶であると。
実際に自身を弄んだのはあの日殺した男たち。だが、その原因となったのは…………先ほどの男。
回顧し、あふれ出しそうになる過去の痛み、けれどそれを怒りで焼き尽くす。
「…………………………殺すわ」
あの男だけは…………自身だけでない、犠牲となって他の子供たちのためにも。
やつだけは…………王だけは、絶対にこの手で殺す。その血を持って、彼らのための購いとする。
「誓いは果たされず、偽りの血が流れる」
謳う、謳う、謳い上げる。
「復讐は満たされず、私は血に渇く」
紅い蛇が哭き、体中の血液が沸騰したように体が熱い。
「今宵の誓いをここに、私が願い、私が誓い、私が果たす」
復讐の誓い。死んでいった彼らの断末魔の叫び、それを思い出し。
「果たされざる
蛇が翼を広げ、紅い魔方陣が自身の足元に現れる。
「今は亡き者の無念を遂げよう、死者の怨嗟は果てしなく続く」
オオオオオオォォォォォォ
蛇の慟哭が暗い夜空に響き。
「復讐するは我にあり」
直後、音すら置き去りにして、その一歩を踏み出した。
「
有栖くん来ただけで復活できる和泉チョロイン、とか思った人。それは違う。
有栖は和泉を救いだしてくれた人、和泉の過去の幻影を打ち砕くのにこれ以上の人はいないからこそ復活できたのです。個人的にチョロインってそんなに好きじゃない。朔良だって最初は憧れから始まってますから。一目惚れって理由付けが適当過ぎて個人的にはやらない。
知ってるか…………すでに3章始まってこの話で6万字くらい書いてるけど、まだ24時間も経ってないんだぜ?
半人半魔 イズミ
LV57 HP770/770 MP250/250
力69 魔51 体27 速61 運46
喰奴
弱点:火炎、氷結、破魔
耐性:電撃、衝撃
吸収:呪殺
ペルソナ
弱点:破魔
耐性:火炎、氷結
反射:破魔、呪殺
スキル不明
特徴
ドラクリア
夜の間、全ステータスが上昇する。満月だと全てのステータスが倍加する。ただし日が出ている間は全ステータスが降下し、新月の日は全ステータスが半減する。
ペルソナ『サマエル』
悪魔の分霊をその身に宿している。宿した悪魔の識能を使用することができ、耐性なども変化する。本来のペルソナとは違うのだが、降魔した悪魔の分霊をペルソナと言う形を持って留めている。
喰奴(アバタール・チューナー)
かつでの人体実験により和泉と合体させられた悪魔、夜魔ヴァンパイアへと変身することができる。現存のステータスにヴァンパイアのステータスを追加するが耐性等はペルソナに準拠する。マグネタイトが枯渇すると正気を保てなくなる。ペルソナを召喚してしない場合、耐性はヴァンパイアのものを優先する。
偽血の徒花(ダーティー・ブラッド)
体内の吸血鬼因子を血液を媒介に活性化させる。行動するたびにHPの一割のダメージを受けるが、力と速のステータスが大幅の上昇し、毎ターンHPが全快する。その他にも何か効力があるらしいが…………?
■■■■■(■■■■・■■■■)
今はまだ見えぬ、真実の欠片。××の××。
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聖人 ストレイシープ
LV73 HP2260/2260 MP540/540
力75 魔59 体71 速69 運48
弱点:火炎
耐性:氷結、電撃、衝撃
無効:呪殺
反射:破魔
ヒートウェイブ、ベノンザッパー、破魔の雷光、天罰
メシアライザー、不屈の闘志、狂信、殺刃十字
備考:あらゆるメシアの敵を殺し続けてきたメシアの狂信者。本名不明。外見は西洋人。髪を刈り上げた三十代前後の男性。自称「ストレイシープ(迷える子羊)」。通称「メシアの処刑人」で、特にガイア教の人間には非常に恐れられている。
口癖は「Jesus.(おお、神よ)」。
狂信 凄まじいまでの信仰心を持ってあらゆる状態異常を無視する(ただし毒などは普通にダメージを食らう)。例え死亡しても三ターンの間、攻撃行動を行える(三ターン無敵)。
殺刃十字(キラークロス) 「この二刀を持って神に帰せ」パッシブスキル。斬撃属性攻撃をした時、同じ攻撃を無条件で繰り出す。一度目の攻撃が外れた場合二度目の攻撃は必中し、二度目の攻撃が命中した時、30%の確率で即死を付与する。
聖者の金眼(ウーィユ・ドレ) 聖金の瞳の縛鎖により、自身のレベル以下のアライメントDark/Chaosに属する存在は全て3ターンのその動きを止める。行動停止状態の敵へあらゆる攻撃は必中となる。ただし、アライメントの両方が条件に当てはまらない場合、この力は無効化される。さらに、どちらか片方のみ条件に当てはまっているか、自身のレベル以下の場合その効力は1ターンのみとなる。さらに、3ターンの間、自身のレベル以上の敵全ての全能力を限界まで下げる。これはデクンダなどでは打ち消せない。
聖痕 Chaos属性の敵に対し、+500%のダメージボーナスを獲得する。また、Chaos属性の敵から受けるダメージを99%減少する。神の使途であると、天より認知された証。神の敵たるChaos属性の悪魔に対する絶対的な強さを誇る。1ターンごとに最大HPMPが半分になる。
聖句 聖句を謳い上げ、神の奇跡を起こす、聖人にのみ許された理。