返すとネタばらしになる可能性が高いので。
三章終わったらちゃんと返しますので、感想自体はどしどし募集です。
【我は汝、汝は我】
夢を見ている、それをはっきりと自覚していた。
最も、だからどうこうしようなどと思えるほどの心はもう無いのだが。
気づけば何も無い場所にいた。
前後左右、360度全て見渡しても何も無い、ただ闇だけが広がっている。
いや、一つだけあった。
あった、と言うよりは居た、と言うべきか。
自身の前方に赤い蛇がいた。
【ニクイカ?】
蛇が問う。憎いか、そう問うてくる。
果たして自分は憎いのだろうか?
そう聞かれれば憎いと答えるだろう。
だが誰を?
そう聞かれれば答えに窮する。
自分の幸せは奪われたわけではない、壊されたわけでもない。
だって最初から無かっただけなのだから。
だとすれば、一体自分は何を憎めば良いのだろうか。
『お前のことなんて、誰も知らない』
一体、誰を憎めばいいのだろうか?
自身が恨んでいたものは全て虚構でしかなかったと言うのに、この矛先は一体誰に向ければいいのだろう。
【ニクイカ?】
蛇が再度問う。けれど、今度は答えられなかった。
憎いのだろうか、一体誰が憎いのだろうか?
ぐるぐるぐるぐると思考が空回る。
分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない。
分からない…………もう何も、分からない。
* * *
「ふーむ?」
視線の先にいる男がこちらを見て僅かに目を細める。
「……………………よお」
カチリ、と銃を鳴らしながら男へと近づく。
けれど男は特に警戒した様子も無く不敵に笑う。
「誰だ?」
「そっちこそ誰だよ」
銃を男へと向ける、けれど男の表情は変わらない。
それはこの程度では問題ないと思っているからであり。
そんなことは和泉がやられている時点で分かりきっている。
「別にさ、お前がどこの誰でも関係ないんだが」
足元に倒れた和泉にちらりと視線を向け、男へと戻す。
「こいつとは友人でな、悪いが助太刀させてもらうぜ?」
銃の引き金を引く。パン、と短い音と共に銃口から銃弾が射出される。
銃弾が男の胸に突き刺さり………………何も起こらなかった。
血も出なければ、痛がる様子も無い。ただ少しばかり服に穴が開いた程度。
「それで?」
だからどうした、と言った様子で男が軽く手を振り…………。
「マハザンマ」
風が荒れ狂った。咄嗟に腰を落とし、姿勢を低くしてそれに耐える。
「鬱陶しい」
風の音の中で聞こえる男の声、そして同時に…………。
「燃やし尽くせ、ウリエル」
「マハラギダイン」
召還された大天使が手を翳し、炎を発し…………炎が風に巻き去られ、炎の壁が迫ってくる。
風のせいで避けることもできず、けれど炎が迫ってきて…………。
「ランタン」
「ヒーホー」
俺の目の前に現れたジャックランタンが全て吸収する。
さらに炎喰いと言う特性により、吸収した炎を自身の力へと変えて。
「メギドラオンだ」
「ヒーホー!」
灼熱の光球を撃ちだす。ウリエルが即座に男との間に割って入り、それを防ごうとする…………だが。
「ぐ、あああ、あああああああ!!!」
「なにっ?!」
男が瞠目する。恐らく万能耐性あたりでも付与していたのではないか、と推察するが、俺のランタンのメギドラオンはこの世界には存在しない核熱属性である。万能耐性があったとしても防げるわけがない。けれど火炎属性の派生なのか、炎喰いの影響を大きく受けるので、その威力は想像を絶する。
だが同時に俺も驚く。だってそうではないか、ウリエルである。神の火、神の光…………「
何故そんなものがメシアの敵であるはずの騒乱絵札の仲魔になっているのか。
だが、そんなことを考えている余裕はなさそうだ。
メギドラオンが直撃したウリエルが後退し、男の横で崩れ落ちる。
そんな仲魔に視線を向けることも無く、男はじっとこちらを見つめる。
「ふむ…………何者だ? ウリエルを一撃、だと? ベリアルをやったのも貴様か」
「教えてやる義理も無いな」
視線を外さず、けれど姿勢を低くして倒れている和泉を揺さぶる。
「おい、和泉」
軽く揺すっても反応はない。それを見た男が嗤う。
「無駄だ、心根を完全にへし折った…………もう起き上がる気力も、生きていく力も無いだろうよ」
「………………………………何をした、こいつに」
「くく…………教えてやっただけだ、そいつの出自を、な」
出自…………? 昔実験施設に捕らわれていたとか言っていたが。
「何でお前がそんなこと知っている」
そんな俺の問いに対して、男が嗤う。
「教えてやる義理も無いな」
「なら力尽くだ! アリス!」
「メギドラ」
収束する黒い光、そして爆発。俺の後ろに隠れていたアリスが不意打ち気味に魔法を放つ。
「温い、温い! モト、スルト!」
男の言葉と共に棺桶のようなものに入った死神……モトと全身を炎に包まれた魔神……スルトが現れる。
「モト」
「オオオオオオオオオオオ!!!」
モトが雄たけびを上げ、その奥から眼光が覗く。
「っ!!」
その威光に全身が一瞬硬直し。
「マハマカカジャ、マハマカカジャ、マハマカカジャ、マハマカカジャ」
自身の魔力を高める魔法を四度、モトが唱え…………。
「殺せ」
「メギドラオン」
破滅に光を解き放つ。
「来い…………ジャアクフロスト」
それに対して、たった一言、呟く。
そして…………。
「「デビルヒュージョンだホー!!!」」
追加でCOMPから召喚されたフロストが現れ、ランタンと混じり合い…………。
「ヒホヒホヒホ、オイラ参上だ……ホーーーーーーーーーーーーーー?!」
俺の盾になるように、ジャアクフロストが現れると同時にメギドラオンが直撃する。
だが…………。
「ヒホーーーーー!!! オイラにこんなの全然通じないホー!」
万能属性無効の耐性を持つジャアクフロストには通用しない。
倒れるどころか、かすり傷一つ無いフロストの姿に男が目を見開く。
だがすぐ様切り替え、今度はスルトへと指示を出す。
「スルト、焼け!」
「【永劫黒火】マハラギダイン!!!」
スルトの全身で燃え盛る火が、黒く染まっていく、と同時にスルトが剣を振ると、漆黒の炎が迫ってくる。
だが、ジャアクフロストは全く余裕を崩さず。
「ヒホヒホヒホ、片腹痛いホー!」
打ち付けられた炎の波が全てスルトの下へと帰っていく。フロストの火炎反射耐性である。
「ヌオオオオオオオオオオオオ!!!」
そして反射された黒い炎にスルトが焼かれる。自身の黒い炎によって。
「貫通攻撃!?」
その光景に思いがけず驚愕の声が出る。
貫通とは読んで字のごとく…………。
半減、無効、吸収を無視して通常耐性と同じ100%ダメージを通す。
それが貫通攻撃…………なのだが。
気づいたとは思うが、反射耐性だけは無視できない。故にこそ貫通攻撃なら絶対に通る、と言うものではないのだが。
スルトは火炎を吸収する。ランタンと同じ炎喰いを持っている。何故そんなことを知っているかと言われれば、キョウジの仲魔にいるからだ。
そして俺のジャアクフロストは火炎を反射するが、スルトは吸収耐性なので貫通攻撃が通ってしまう。
つまり……………………。
フロストは反射すると、スルト自身は自身の魔法でダメージを受ける。
「そしてモトのメギドラオンは無効化される、っと…………」
「…………………………………………」
男が目を細める。それはそうだろう、恐らく自身の主力だろう属性全てに耐性を持たれているのだろう。
特に万能無効など俺自身、このフロスト以外に聞いたことが無い。耐性を持つランタンとフロストだからだろうか?
そんなことは知らないが、万能耐性を持つ敵と言うのはとにかく数が少ないのだ。
特に、万能属性が全く通用しない敵、と言うのは全くと言っていいほどいない。
だからこそ、相手も予想していなかったのだろう。
自身の絶対を覆される相手がいることを。
「フロスト、マハブフダイン」
「ヒホヒホー! ギャーラークーティーカー!」
ジャアクフロストがスルトへと走る。歩幅自体は短いが、そこは一蹴り一蹴りの力強さで飛距離を稼ぎ、数歩で肉薄。そして。
「フロストパンチだホー!」
拳が突き出される。スルトの弱点でもある、氷属性の最強魔法…………だが。
ゴォォォォ、と黒い炎がそれを遮る。
揺らめき、陰ろう黒い炎が壁一枚挟んでフロストの拳が止める。
「……………………氷結無効、そんなところか」
恐らくあの黒い炎が氷結を無効化し、魔法に貫通を付与しているのだろう。
氷結以外の属性は…………さて、どうだろうか?
「フロスト…………全力で吹き飛ばせ」
「メ ギ ド ラ ダ イ ン だホーーー!!」
突き出した拳、その先に光が収束する。
ズダァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
万能の光が黒い炎を撃ち貫く。超至近距離で爆発した光がフロストの眼前の全てを飲み込み、消し飛ばしていく。
万能魔法の最上級メギドラオンすら越えたその威力。自身の仲魔ながら僅かに冷や汗が出る。
以前から思っていたが、このジャアクフロストは色々と謎が多い。
何故こんな魔法が使えるのか、そもそもこいつのような無茶苦茶な耐性を持つ悪魔は他には知らないし、そもそも二身合体させたわけでもないのに、何故別の悪魔になるのか。
ただ仲魔は仲魔だ。こいつは俺の仲魔だ。それだけは絶対だし、信頼している。だったらそれでいい。
自身の前に立ち、油断無く敵を見るフロストの後姿を頼もしく思いつつ、和泉を抱き起こし再度揺さぶる。
「和泉、おい、起きろ、和泉!」
三度、四度と揺り動かし、その名を呼び………………そして。
和泉の目が微かに動く。
* * *
どうして、どうして自分だけこんな目に会うのだろうか?
檻の中で生きていた頃はずっと思っていた。
どうして自分はこんな目に会っているのだろうか?
なまじ他人のものとは言え記憶があったからこそ。
どうして、どうして、どうして?
そう思わずにはいられなかった。
檻の外に出て、世界と言うものを知って。
そして愕然とした。
世界にはこれほど幸福と言うものが溢れている。
だと言うのに…………。
ドウシテ、ワタシニハソレガナイノダロウ?
欲しい、欲しい、欲しい。
なんで自分には無いのだろうか?
自分も欲しい、あんな幸せが。
あんな…………当たり前の幸せが、欲しい。
救われざるものに救いの手を。
そう言って何人もの人を助けてきた。
だが同時に、自身はいつも手を伸ばしていた。
助けて、助けて、助けて。
無意識の中でそう叫んでいた。
寂しい、誰か隣にいて欲しい。
悲しい、誰かこの手を掴んで欲しい。
虚しい、誰かこの孤独を埋めて欲しい。
世界にはこんなに幸福が溢れていると言うのに。
一皮向けば、こんなにも理不尽と不幸が溢れている。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
私はこんなところにいたいんじゃない。
私はこんなものになりたくはない。
だから助けて、私があなたたちにそうしたように、私の手を取って欲しい。
なんて打算的な女だろうか。
なんて醜い女だろうか。
なんて、なんて、なんて…………。
最低で最悪なそんな思いこそが、自身の根底だなんて。
認められない、認めたくない。
そんなものは、私じゃない!!!
* * *
和泉が、目を開く。
「和泉、おい、大丈夫か?」
ゆっくりと開かれたその瞳を覗きこみ………………。
背筋が凍った。
「「「「「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」」」
ソレが叫ぶ。和泉の姿をしたソレが。
幾人もの声が重なった不可思議な声で、咆哮する。
同時にその姿が徐々に変わっていく、変質していく。
がきん、がきん、とおかしな音を立て、びくりびくりと痙攣しながらその背が伸びる、否伸びすぎである。元の身長よりも一メートル以上その背が伸び、それでもまだ伸びる。
その白い雪のような肌は赤く、赤く染まっていき、赤がどんどんと深くなり、最終的にほぼ黒に近い赤へと変わる。
手も足も胴体と同化するように消え去り、その背から翼が生えてくる。
赤黒く染まりあがった翼のある蛇。一言で言えばそんな外見をしていた。
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」」」」」」
それが咆号する。絶叫する。この世界に生れ落ち、産声を上げる。
「………………く、くく、くははは。なんだこれは、なんだこれは!!!」
そして、砂煙を裂いて、男が現れる。だがそれ以外には出てこない辺り、どうやらスルトもモトもさきほどの一撃でやられたらしい。
男が嗤う。目の前のソレを見て、嗤う。
そして蛇が轟き叫ぶ。男を見て、男に向かい、男へと定め。
「「「「「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」」」
襲い掛かった。
和泉ちゃんシャドー化。以上。
ずっと以前から思ってたことがある。
挿 絵 欲 し い !!!
だが自分じゃ書けないこのジレンマ。こういうの描ける人はうらやましいですよねえ。
なんでウリエル、モト、スルトあんなにあっさり落ちたの?
>>だってさんざんストレイシープさんとか和泉ちゃんが痛めつけたじゃん。
和泉ちゃんどうなるの?
>>なるようになる。良くも悪くも。
王と有栖って相性最悪?
>>王と仲魔の設定作ってる当初は「こんなチートどうやって倒すんだよ」って思ってたのに、実際書いてみると、まさかのジャアクフロストがガチメタ張りである。作者自身びっくりした。一方的過ぎてマジでどうしようか悩んだ。
ちなみにウリエルさんだけはオリスキルで攻撃通るけど、すでに倒れているしね。
モトとスルトは主力完全に塞がられた。最早役立たず。
ところで感想でキャラクターに優しくないと言われた。
解せぬ、俺ほどキャラクターを愛している者もおらぬと言うのに。
某所で相談してみたが、てんぞーさんよりはマシと言う結論になった。
てんぞーさん曰く「主人公もヒロインも死んでからが本番」。
さすが妖怪は格が違ったwww