ペコちゃん可愛い、津波様可愛すぎる。でもやっぱマキちゃんが一番可愛い(ろ、ロリコンちゃうし)
「で? どこに向かってるんだ?」
基本的に先を行く真琴の後ろのあとを付いていっているだけなので、目的地を訪ねる。
「目的地かい? 廃ビル群だよ」
真琴の言葉に、頭の中で街の地図を思い浮かべる。
この吉原市は東西を堺川によって分断され、南北を市電の線路によって分断されている。
今自身たちが通っている城井谷中学は市の北西、川の西側かつ路線よりもやや北あたりに位置する。
逆に自分や悠希の家のある住宅街は市の東側、詩織の家のある高級住宅街はそのすぐ北に位置する。
大よそ中央には吉原駅があり、その周囲は駅前街として賑わっており、商店やデパートなどが多く点在している。
街の北西には、ビジネス街があり、多くの商社ビルの本社などが立っており、人は多いが逆にこの辺りで働く人間以外はあまり用の無い場所でもある。
で、この街で廃ビル群と呼ばれるのは、旧ビジネス街と呼ばれる街の南西に位置する場所にある所有者のいない廃棄されたビルが居並ぶ地帯のことを指す。
元々吉原駅はこの旧ビジネス街の真上辺りにあり、そこに近い場所として、過去には駅前街と一体となって栄えていたらしい…………所謂バブル景気の時代の話だ。
だが、線路の拡張や路線の変更、それに伴う駅の移転、そして止めにバブルがはじけ、次々と会社は倒産、駅前に商店を出していた店も閉店、結局残ったのは持ち主が逃げ出した廃棄された建造物の数々。
現状これをどうするかで市議会のほうでも長年問題になっている、そんな曰く付きの場所である。
「あそこかあ…………あんなとこに何しに行くんだ?」
少しだけげんなりした口調でそう尋ねる。正直言ってあまり行きたい場所では無い。
埃っぽいし、経年劣化した建造物が時々崩れたりするし、何よりあの場所で夢破れた人々の情念がたっぷり染付いていて面倒なものを引き寄せることが時々あって、積極的に行くような場所ではない。
「ふふ、思い出してみなよアリス先輩。さっき言った七不思議」
七不思議…………確か、
別世界へと繋がる抜け道
一度入れば抜け出せない迷いの森
廃れた交差点の中心に浮かぶ幽霊
誰も存在を知らない裏通りの百貨店
学校の校庭に現れる死神
死体安置所で動きだす死体
の七つ、ってまさか。
「廃れた交差点の中心に浮かぶ幽霊って」
「うん、話を聞く限り、旧ビジネス街みたいだよ」
「あの場所で…………七不思議?」
聞けば聞くほど嫌な予感しかしないのだが。
そんな俺の内心を見透かしたのか、真琴が笑う。
「大丈夫、いざとなったらボクがいるし」
「いや、お前を守るために俺がいるんだが」
そんな益体も無いやり取りをしつつ、けれどゆっくりと旧ビジネス街へと俺たちは近づいていく。
何事も無いと良いなあ…………そんなことを考え、けれど無理だろうなあ、と思ってため息を吐いた。
* * *
堆く積まれた瓦礫の山を横目に真琴と二人、並んで歩く。
まだ日は沈んでいないと言うのに、居並ぶ廃ビルが影を作り出し周囲は暗い。
携帯で時刻を確認するとまだ四時前。冬真っ只中と言うことを考慮すれば、五時にはもうこの辺り一帯が真っ暗になるだろう。
「一時間以内に終わらせて帰るぞ?」
隣で興味深そうに周囲を観察する真琴にそう言うと、了解、と返す。
「さすがに懐中電灯の一つも無いのに真っ暗は勘弁欲しいからね、もし今日目的地が見つからないなら今度は用意しておこうか」
「正直俺はこんなとこ何度も来たく無いがな」
金にならない厄介ごとは正直ごめんである。だが真琴が行くなら付いて行くしかないのが悲しいところだ。
「何が簡単な仕事だ、キョウジのやつ」
同じ学校に転入してくる後輩の面倒を半年ほど見るだけ、その程度の仕事だと思っていたら、とんでもない。
いや、仕事内容自体は正しいのだが、その後輩が問題過ぎる。
何せ厄介ごとに自分から首を突っ込みたがるのだ、その度にお守りをさせられている自分もそれに関わることになる。なのにこの後輩、まだ十三歳だから当たり前なのかもしれないが、サマナーとしては未熟なのだ。
素養だけなら一流なのかもしれないが、まだまだいかんせん力も経験も圧倒的に足りてない。精々三流サマナー程度の力量しかない。
必然的に俺の出張る場面も増える。仲魔一体と数は少ないが、レベル70悪魔とこの街であっても規格外な悪魔を従えているので、力量だけ見れば俺も一流サマナーと言っても遜色無い。
まあだからこそ、こうしてお守りを押し付けられているのだろうけれど。
ただ誤解無いように言っておくが、俺は別に真琴が嫌いではない。
人格的には好意が持てるし、彼女と過ごす時間に嫌悪を覚えているわけでもない。
あの部室で平和に過ごす分には気楽で良いとさえ思っている。
だがこうしてどこからとも無く厄介ごとを拾ってくる性質だけは何とかして欲しいと思っているだけである。
そして――――――
「アリス先輩」
「分かってる…………たくよう、お前は何でこうも毎回毎回ピンポイントで当たりを引いてくるんだ?」
――――――拾ってくる話題が、毎回悪魔に関連するような出来事ばかりなのが勘弁して欲しいだけである。
ォォォォォォォォ
地獄の底から響くような低い声。亡霊の
目前の道路と道路の交差するその場所、恐らく噂の交差点に立つ青白い影。
廃れた交差点の中心に浮かぶ幽霊
「モウリョウだね、イギリスだと人の形をしているのはあんまり見ないけれど、こっちだと普通なのかな?」
「また当たりかよ…………アリス」
SUMMON OK?
「ふふ…………ふふふ」
COMPを操作し、自身の仲魔を召喚する。それは小さな小さな少女。真琴と同じ金糸のような綺麗な髪、そして血のように赤い瞳、瞳の色と対称的蒼いワンピース。
魔人アリス、自身と同じ響きの名を持つ少女。それが自身のたった一体、そして最強の仲魔。
「こんにちわ、マコト。ひさしぶり」
「やあ、アリス。久しぶりだね」
自身の隣にいる真琴を見て薄く嗤う少女に、けれど対した驚きも見せず真琴が返す。
オォォォォォォォォォォォ
再度、影が呻く。
それに対し、アリスが嗤う。
「うん…………じゃま」
開いた手のひらを握る。それだけの動作で、目前の影が震えだす。
アリスが握った拳をさっと横に振る。瞬間、影が呻き声と共に薄れ、消える。
「終わりか?」
完全に消え去った影を見て、アリスに尋ねる。
「
アリスが呟いた直後、背筋がぞっと凍るような感覚に襲われる。
「真琴!」
咄嗟に隣にいた真琴の腕を掴み、反対の手で拳銃を抜く。
どこに? そんな疑問はすぐさま解消される。
「おい真琴…………噂の幽霊ってのは一体どいつだ?」
冗談混じりに尋ねると、真琴が苦笑して返す。
「さあ、きっと全部かもね」
右を見ても左を見ても影、影、影、影、影、影、影。
気づけば後ろにもいて、俺たちは十数体の影に囲まれていた。
やばい、即座に気づく、現状の危険性に。
例えば俺、肩書きだけは一流サマナー。だが実際にはアリスが飛びぬけて強いだけで、俺自身はそこまでの強さは無い。鍛えてはいるが、精々レベル25。アリスの強さでごり押ししたパワーレベリングだったせいで、それなりの強さはあるが、いかんせん数が違い過ぎる。
モウリョウは確かレベル10前後の悪魔だったはずだ。レベル差で見れば二倍以上だが、この数相手に全員で自爆特攻なんてされたらアリスは無事でも、俺と真琴が耐え切れない。
せめてもう一体仲魔がいれば後ろを任せて一点突破もできるのだが、今は無いものねだりをしていても仕方がない。
一かばちかで一点突破してみるか? そう結論付けようした、その時。
ォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
突如、足元から光が溢れる。光が地面を伝い、軌跡を描く。
交差点を中心とし、不可思議な紋様を描かれると、呻き声を上げた影……モウリョウたちが次々とその光の中心へと吸い込まれていく。
「なんだっ!?」
突然のことに動揺を隠せず叫ぶ。真琴も真琴で、目を見開き、目の前の光景に見入っていた。
アリスがとんっと軽くジャンプし、後退する。気づけばその表情から笑みは抜けている。ただ油断無く目の前の光景を見つめていた。
そうして見ていると、次から次へとモウリョウたちが吸い込まれていき、全てのモウリョウが消え去ると同時に、光がふっと輝きを失った。
「……………………」
「……………………」
後には絶句した俺たちだけが残されて、けれど動くこともできずにただ立ち尽くしていた。
そうしてどれだけの時間、動けずにいたか、ようやく回り始めた思考で言葉を紡ぐ。
「一体、何だったんだ?」
「……………………分からない」
端的な一言、だがそれだけに真実だった。突然とんでもない数のモウリョウが現れたと思ったら、また突然モウリョウたちが突如現れた光に吸い込まれて消えた。
一体何が起こったのか、謎だけが残る。
「……………………っく、あはは」
乾いた声が響いた。
「あは、あはははははははははははは」
その声の発信源が隣の少女だと気づくと、顔を向ける。
少女は笑んでいた。少女は楽しんでいた。少女は哂っていた。
「あはははははははははははははははは! 謎だ、謎だよ! ボクたちの出番だ、ボクたちの領分だ!」
しばらくそうして笑う少女を見つめていると、ピタリ、と突然笑い声が止む。
そしてぐるん、とこちらを向く。向けられた眼差しに一切の熱が無いことに、背筋がぞくりとした。
「ああ、アリス先輩。久々に楽しいことになりそうだよ」
「…………そうか、俺は厄介なことになりそうだと思ったがな」
げんなりとした自身とは対象的に、少女の瞳に火が宿る。口元は釣り上がり、八重歯が見え隠れする。
そうして少女、悪魔探偵は宣言する。
「契約の名の下、メイスンの名において、全ての謎を暴いて見せよう」
それがこの事件の始まり、一日目だった。
* * *
ぼんやりと空を見上げる。
けれどそこはいつも暗い闇が見えるばかり。
何せ明かりとなるものがほとんど無いのだ、と言うかたった一つしかない。
その唯一の明かりは自身の手元であり、だからこそ余計に目が慣れない。
否、
まあとどのつまり、上を見ても天井は見えない。それだけ分かっていればソレにとっては十分だった。
見えないと分かっている。だがそれでもソレは上を見続ける。
何のために? と問われると困る、何せ自分が何故ここにいるのかも正直良く分かっていないのだから。
空が見たいのか? と言われればそうでも無い。この場所から出たいのか? と言われても別にそうでも無い。かと言ってこの場所にいたいか、と言われてもそうでも無い。
自分が何のためにここにいるのか分からない。だからこそ、ソレにはアイデンティティが無かった。
そしてだからこそ、何がしたいのか、と言う疑問にすら答えることができない。自分のことだと言うのに。
ただ焦燥感にも似た感情がソレにはあった。
何かを忘れているような焦燥感。
かつて身を焦がすほどの熱が人ならぬ身のこの心にもあったはずなのだ。
だがそれが何かを思い出せない。
ああ、もしかしてだから上を見上げているのかもしれない。
こうしていれば、失った何かを思い出せるかもしれないと。
つまるところ、それは現実逃避なのかもしれない。
おかしな話である、悪魔が現実逃避など。
と、その時、真っ暗な闇の世界に何かが動いた。
生き物ではない、そう言った類の動きではない、例えるならば空気、つまり風のような動き。
だがこの閉ざされた世界に風など吹きはしない。
だとすれば、一体何がやってきたのか。
そんなことを考えるも、けれどソレは動きはしない。そんな気力さえ失ってしまった。
だがそんなソレへと何かが降り注ぐ。
「……………………」
ああ、またか。そう思う。
こうして空を見上げていると、時々こうして何かがやってきて自身の中へと注入されていく。
そうすると、不思議と熱の記憶を思い出しそうになる。
だが思い出せない、この程度では足りない。
一体自分は何なんだろう?
それは悪魔にとって致命的な問題だった。
何故未だに消滅していないのかとさえ錯覚するほどの致命的欠陥。
だがそれは生きていた。悪魔に対して生きていると言う表現を使うのも滑稽な話ではあるが、それでも生きていた。
自分は一体何なのだろう?
自分は何故ここにいるのだろう?
今日も悪魔は答えの出ない問いを心中で問いかけた。
頭悩ませて考えた悪魔探偵の決め台詞
「契約の名の下、メイスンの名において、全ての謎を暴いて見せよう」
長い(