有栖とアリス   作:水代

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お久しぶりです。ヌイヌイ二次が完結したので、また更新していきたいと思います。


有栖と百貨店

 

 あっけなさ過ぎる。

 人にしたって、人よりも遥かに強大な悪魔にしたって。

 死ぬ時は一瞬だ…………否、悪魔の場合、死ぬと言うか還ると言うべきか。

 

「…………嘘……だろ……」

 

 呆然となって呟く。

 それほどまでに衝撃的だった。

 だって…………まさか。

 

「弱すぎだろ」

 

 レベル六十にもなるはずの死神が、銃弾一発で消し飛ぶとは思わなかったのだ。

 

「いや、待て待て、さすがにおかしいだろ」

 死神の消滅した校庭をどこか呆然と見つめながらそう呟く。

 隣をふと見やると、真琴がじっと校庭を見て、何かを考えている様子だった。

「……………………どういうことだ、アリス?」

 自身の傍ら、召喚していたアリスにそう問うと、アリスがんー、と小首を傾げて。

 

「ふーせん?」

 

 疑問符の付いた口調でそう答えた。

「ふーせん…………風船?」

「はりぼて?」

 どこでそんな言葉覚えてくるのだろう、と思いつつも、なるほど、と一応の納得をする。

 つまり立派なのは見た目(ガワ)だけで、中身が伴ってなかった、と。

 だが待って欲しい、それはおかしいのではないだろうか。

 

「だったらどうしてあの姿で現界してるんだ?」

 悪魔がこちらの世界に現界する時、必要量のマグネタイトが無ければその分霊はスライムへと成り下がる。

 それがこの世界の(ルール)のはずだ。

 だがあの悪魔は明らかに死神の姿をしていた、さすがにあれをスライムなどとは言えない。

 

「ふむ、逆に考えてみたらどうだろう?」

 

 そんなことを考えていると、隣で真琴がふと声を漏らした。

 

「逆?」

「どうやって現界していたのか、では無く、どうすればあの姿で現界できるのかを考えてみたらどうだい?」

「それ、どう違うんだ?」

 

 正直同じものにしか聞こえないのだが。

 そんな自身の問いに、真琴が答える。

 

「この状況を廃して考えてみるんだよ、どんな条件でもアリだと仮定してね、ほら、どういう状況ならこういうことが可能になるんだい? アリス先輩」

「……………………そうだな」

 仮定してみる、あらゆる状況。と言っても、これができる状況はそれほど多くない。

 そう…………例えば。

 

「一つは、そうだな…………誰かの仲魔が野良悪魔化した可能性か? けどそれならここまで弱体化する前にスライム化してそのまま魔界に還るのがだいたいの落ちだろうな」

 だからこれは無いだろう。

 例えばそこからさらに自身のレベルを下げることで環境に適応した、と言うのなら、万に一程度にはあるかもしれないが。

「けどそれも一つの可能性だよ」

 そんな万が一の可能性を告げると、真琴がそう言う。

 あり得なくない、と言う以上、たしかに可能性として考えておくべきかもしれないとは思う。

 

「別の可能性か…………正直、これはあんまり考えたく無いんだが」

 召喚したまま、場に存在を縛り、少しずつマグネタイトを抜き取っていく可能性。

 もしこれだった場合、完全に他者の意図があることになる。

 

「だが昨日の交差点の時のことを考えると存外無いとも言い切れない」

 だがもしそうなら、マグネタイトを抜き取るための術式なり陣なりあるはずなのだが、それらしきものは見当たらない。だからこの可能性も無いと思っていたのだが。

「目に見えている部分だけが全てじゃないさ、もしかすればどこかに隠れているのかもしれない」

 と、言われてしまえば確かにその通りであり、交差点の件を考えれば、むしろこの案が一番正しいのではないかとすら思える。

 

「だとすると…………厄介だぞ」

 そんな自身の言葉に、真琴も頷く。

 だってそれは、この七不思議に他人の何らかの意図が仕掛けられていると言うことになるのだから。

 

 

 * * *

 

 

 明けて翌日。

 時間的にすでに遅かったので、昨日は周囲にもう異常が無いことを確認し、解散とした。

 そうして再び放課後、部室に集まる俺と真琴。

 

「はあ………………」

「深いため息をついて、どうしたんだい? アリス先輩」

「いや…………まーた厄介ごとになりそうだな、と思ってな」

 昨日の推察が正しいとすれば、この街でまた何か厄介なことをしようとする何者かがいることになる。

 

「ああ、それと…………今日から正式にこの七不思議の調査をすることになった」

 そうしてため息と共に呟いた一言に、一瞬真琴が首を傾げるが、すぐにその意味に気づく。

「キョウジから、かい?」

 真琴の出した名前に、こくり、と頷く。

 昨夜の出来事、そして一昨日の出来事をキョウジに伝えたところ、キョウジから正式にこの七不思議の件を調査するように依頼があった。

 

 つまり、ビンゴだ。

 

 いや、真琴が関わった時点で薄々分かっていたが、キョウジが動く自体、つまり葛葉関連の仕事かこの街の大事かのどちらか、つまり今回は後者だ。

 

「つうわけでだ、頼りにしてるぞ、探偵」

 

 少なくとも、考察や推理と言った関連で自身がこの少女より優れているとは思えない。

 そう言う意味で放った一言に、真琴が笑みを浮かべ頷いた。

 

 

 * * *

 

 

「ふむ? ここかい?」

 そんなボクの問いに、アリス先輩がああ、と答えすたすたと歩いていく。

 その後ろを付いていきながら、視点を上げて目の前の建物を見据える。

 

 “奈霧ビル”と看板打たれたそのビルは、ビルと呼ばれてはいるが三階建てほどで、一層ごとの広さもそれほど無さそうなこじんまりとしたものだ。

 駅から住宅街を挟んださらに奥側にあるのは少しばかり外れにあり過ぎでは無いかと違和感を覚えるが、少なくとも現状で分かるのはそれくらいのことだ。

 だがボクをここにつれてきたアリス先輩曰く、七不思議の一つがここらしい。

 

 どうしてそう確信できるのかは分からないが、少なくともボクよりもここの土地勘のあるアリス先輩が言うのなら、ついて行っても良いだろうし、最悪違っていても、地理感を得られるので、無駄にはならない。

 やはり部屋に篭って人伝に話を聞くのと、こうして自分の足で歩いてみるのとでは、得られる情報の鮮度と言うのは全く違ってくる。

 実家のあの暗い湿ったような部屋に篭っていないで良かったと、本心からそう思う。

 

「こっちだ」

 

 アリス先輩の声。気づけば少し距離を離されていたが、ビルの入り口辺りで待っていてくれたらしい。

 ごめんごめん、と謝罪を口にしながら小走りで距離を詰める。

 そうして入り口の前まで着て、いざ入るのか、と思ったのだが…………。

 

「入る前に一つ言っておくぞ」

 

 重要な話かな? とも思ったが、アリス先輩の顔が呆れている、と言うかげんなりした様子に見えたので、少しばかりの疑問を浮かべつつ。

 

「中にいるやつらがどんなやつらでも気にするな、一々反応していたら疲れるぞ」

 

 それじゃあ入るか、と言って入り口の自動ドアを潜るアリス先輩だったが、その前振りは非常に不安になるので、正直止めて欲しい。

 一体中にどんな人物がいるのか、やつら、と言っていたので複数いるのだろうが、対人経験の不足を自覚している身としては、若干空恐ろしいものを感じながらアリス先輩に付いていった。

 

 

 * * *

 

 

「いらっしゃ…………どの面下げてきやがったこのゴミサマナーがああああぁぁぁぁ!!!」

 入った瞬間、振り下ろされた金槌を仰け反って避け、すぐさまその犯人の襟元を掴む。

「久々だな、キラ」

「うっせえ、テメエみたいなゴミカス以下の塵サマナーが、ウチに何のようだよ」

 先ほどから暴言を吐きながら目元をひくひくと引き攣らせながら怒りを顕にしている少女を見る。

 茶髪のツインテールにどこかの学校の制服らしいブレザー、その上から白衣を羽織っている。

 少女、と言うか、むしろ幼女だろうか? 確か前に聞いた時、身長百四十センチも無いと言っていたし。

 

「あひゃひゃひゃひゃ、綺羅星はいい加減学習しろよな、現役サマナーにお前が一撃入れれるわけ無いだろ、ワロ」

 そうして、奇妙な笑い声を上げながら奥のほうから男がやってくる、四十代か五十代か、まあその辺りの年齢のオッサンだ。何故かアロハシャツと短パンの上から少女と同じ白衣を羽織っている、そして靴は何故か下駄だ、色々間違っている気がするが、このオッサンの場合、間違っているのが平常なので、これはこれで正しい気もする。

 

「うっせえクソ親父、こいつだけは一発殴る、アタシが決めた! あと名前で呼ぶな!」

 と言っても後ろから襟元掴んで宙吊りにしているので、何もできないわけだが。

 しかし軽い、いくら小柄とは言え片手で掴めるってどういうことだ。

「お前らまた飯抜きか、良く生きてるよな」

 良く見れば二人とも少しやつれて見える。そんな二人にまたかよ、と内心で思っていると、後ろで真琴が声を上げた。

 

「あの、アリス先輩?」

 

 恐る恐ると言った様子の真琴だったが、その声にようやく俺の後ろに誰かいることに気づいたらしい二人が揃ってそちらに視線を向ける。

 いきなり注視されたその視線に真琴が一瞬びくりと震えるが、どうやら持ち直したらしい…………顔は少し引き攣っているが。

 

「んで…………そっちのは?」

 キラがいつも通りの目つきの悪さで視線を送りながら尋ねてくる。

「後輩、メイスン家の人間」

 そう告げると、男のほうがほう、と僅かに瞠目し、キラは意味が分からなかったのか首を傾げる。

「あひゃひゃひゃ、メイスン家とはまた珍しいな」

 それでもまあいいか、と男が呟き。

 

「あひゃひゃひゃひゃ、ようこそ、邪教の館へ、俺がこの邪教の館の主、奈霧(なきり)天星(あまほし)だよ」

「んー? まあいいか、アタシが助手の奈霧綺羅星(きらぼし)だ、キラって呼べ、名前で呼んだら殺す」

 

 二人がそう名乗り、不敵に笑った。

 

 

 * * *

 

 

「邪教の館って…………確か、悪魔合体に使う施設だったっけ?」

「ああ、そうだ」

 悪魔合体。それは概念存在である悪魔同士、つまり別々の概念をかけ合わせ、全く違う概念を生み出す秘法だ。

 サマナーなら最も良く世話になるはずのサマナー必須の施設の一つだ。

 

 と…………言っては見たものの。

 

「そこの屑野郎は一度も使ったことがないがな」

 ギロリ、とキラがこちらを一瞥し、それから真琴を見る。

「お前、サマナーか?」

「え? あ、うん、本業は探偵だけど、兼業するつもりではあるよ」

 瞬間、キラの目が輝く。口元を限界まで吊り上げ、ずいっ、と真琴へ近づく。

 

「なら合体だな、合体だよな? サマナーなら合体しかないよな? よし、合体だ、合体するぞ」

「え、え?!」

 真琴が目を瞬かせ、オロオロとしながらこちらを向く。

 そんな真琴の様子に苦笑しつつ、キラの首根っこをまた掴み、持ち上げる。

「そこまでだ」

「離せ、ゴミカスクソサマナー。合体の時間だ!!」

「真琴はまだ正式なサマナーってわけじゃない、言うならまだ修行中の身だ、だから仲魔もほとんどいないぞ」

「二匹いれば合体できるだろうが!!」

 

 もう察しはついているだろうが、このキラと言う少女、大の合体狂いである。

 そしてこちらも察しがついているだろうが、俺が嫌われている原因は、合体しないからだ。

 以前にも考察した通り、現状アリス一体いれば事足りる状況で、これから必要なのは最初から強い悪魔。

 つまり合体して順調に強化していく、と言う選択肢が無いのだ。

 サマナーにとってほぼ必須と言える悪魔合体をしないサマナー。それが合体狂いのキラから嫌われている由縁である。

 

「まあ落ち着け、真琴だってこれから先サマナーを続けていく以上、悪魔合体をしないなんてことないはずだ」

「その通りだが、お前に言われると猛烈に腹が立つな」

 まあ四年近くサマナーやってて一度も合体をしない俺が言うことではないのも確かだが。

「だから落ち着けよ、合体するにしても、合体計画は必要だろ? けど、真琴はまだその方向性すら見えてない状況だ、もう少し待ってやってやれよ」

「う、うーん…………た、確かに合体計画は必須だな、仕方ねえな。次に来る時は必ず悪魔合体しろよ?」

 念を押すように真琴へ問いかけるキラに、真琴が気圧されるようにこくりこくりと頷く。

 

 そうしてようやく落ち着いたらしいキラが、一つ息を吐く。

「それで、何のようだ? どうせテメエは悪魔合体しにきたわけでも無いだろ」

「そうだな」

 そこで肯定されるのもむかつくな、などとキラが呟きながら剣呑な目をこちらを見てくるので、少し慌てて言葉を続ける。

 

「“誰も存在を知らない裏通りの百貨店”ってのはここだろ?」

 

 瞬間、キラが僅かに瞠目し、天星がニィと嗤った。

「裏通りってのは符丁だ。サマナー関連を示す符丁の一つ。誰も存在を知らない、ってのは今はもう知っているやつがいないってこと。尚且つ、サマナーには分かる符丁を入れているところを見ると、サマナーは知っていて、一般人が知らないような場所…………つまりこの周辺だ」

 

 昔の話だ、まだこの街が出来たばかりの頃。その頃、駅はこの近くにあった。

 だが裏の世界に関わるとある出来事により、駅は炎上、倒壊し、そうして新しく出来た駅が、現在の駅である。

 当時、一般の人間にも、悪魔の存在が発覚しそうになり、ヤタガラスの手により徹底的な隠蔽処置が行われた過去がある。

 つまり、一般人は誰も存在を知らない、サマナーだけが知る裏通り、とはこの住宅街北のほうにあるサマナー施設を指す。

 

「んなもん、ここだけだろ。確か地上でサマナー関連の道具の売買もやってたよな」

 

 ビル地上部分は二階、三階にサマナー関連の道具が置いてある。

 と言っても見た目は普通のものなので、恐らく一般人が見ても分からないだろうが。

 

 呪具、と言うものがある。

 

 例えば藁人形。人の形と言う名の通り、それは概念的な意味合いで、人の代替として使用することができる。

 丑の刻参りなど、呪術の道具としても使われるが、逆に呪いの受け流し先としても使うことができる。

 そう言う風に概念を込められて作られた道具を総称して呪具と呼び、それら呪具を扱っているこの街で唯一の店がこの親子だった。

 

「……………………ふむ、アリス先輩、ちょっといいかい?」

 

 と、その時。俺の後ろで話を聞いていた真琴が声を上げる。

「この国でそう言った呪具を扱うには何か許可が必要なのかい?」

「ああ、防護系ならまだいいが、人を呪い殺せるようなアイテムとかも本当にあるしな。基本的にこの国で呪具を扱うならヤタガラスに届け出で出すか、もしくはヤタガラスに開店を委託されるかの二択だな」

 

 うちの近所にもサマナー関連の店があるが、いつも通ってる武器店は届出を出して開店しているタイプ、そしてたまに行くケーキショップは委託されたパターンにあたる。

 委託とはつまり、サマナー業を引退する時に、表向きの職業につくための支援を条件として、ヤタガラスの下でサマナー支援のための商売を行う、と言うものだ。

 

「確かこの二人は後者だな。本業は邪教の館のほうだったはずだ」

 そんな自身の言葉に、真琴がふうん、と零し。

 そうして笑う。

 

「なるほど、つまり噂の仕掛け人はヤタガラスってことだね」

 

 そして口から出てきた言葉に、俺は目を大きく見開いた。

 

 




というわけで新キャラ。
ヒャッハー系アロハ中年&傲岸不遜系俺様幼女、奈霧親子です。

つうか、このままだとメガテンがいつまで経っても終わらないので、多少巻き進行入れていきたいと思います。

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