有栖とアリス   作:水代

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今回本気で平和だわ。
書いててほのぼのとした。


有栖と朔良

 

 

 昼の学校。

 昼の休憩。

 昼食を食べ終わり、三人でのんびりと会話している俺たち。

「アハハハハハハハ」

「ブハハハハハハハ」

 笑う。思わず笑う。

「もう、笑ってないで、どうにかする方法一緒に考えてよ」

 少し疲れた様子で詩織が呟く。

 

 原因は…………西なんとかくん。

 朝、同じ小学校だけあって同じ学区に家のある俺たちは三人で登校している。

 けれど今朝は少々違った。三人で合流して登校していると現れたのは、昨日もやってきた西なんとかクン。

「やあ、詩織さん、良い朝だね。それにこんなところで偶然出会うだなんて、まるで運命だと思わないかい?」

「朝から絶好調だな、西なんとかクン。ていうか遠くから電柱の影で佇んでるのが見えてたぞ。偶然でも何でも無くて、待ってただけだろ。あとお触りは禁止な」

 朝から絶好調の残念美形は、まるで漫画の当て馬のテンプレのような台詞を吐きながら詩織の手を握る。

「お触りって…………なんかいかがわしいよ、有栖」

「オッサン臭いな、有栖」

「何だよ、フォローしてやったのにこの仕打ち」

「…………キミたちはいつまでいるんだい? 早く行き給えよ。さあ、詩織さん、僕と共に学校に行きましょう」

「え、いや。私は二人と一緒に行くんで」

「遠慮する必要は無いんだよ? さあ、お手をどうぞ?」

 丸っきり人の話も聞かずに詩織の前に(かしず)く残念美形を見て、ニィと口元を歪める。

「おい詩織………………(ボソボソ)」

「え? いや、でも」

「いいから」

 詩織の耳元で小声で指示を出すと、戸惑う詩織をせっつく。

 良いのかな…………? と思いつつ詩織もうんざりしていたのか、すぐに気を取り直し。

「えっと、に…………に……くん。ちょっとそのままでいてね」

「西野です…………はい、了解しましたよ。お姫様」

「「「……………………っ」」」

 あまりにも気色悪い台詞に、俺も詩織も悠希も背筋がゾワリ、とする。

 そして詩織の言葉をバカ正直に守り傅いたままの西なんとかくんを無視し、三人で歩みを進めた。

 

 で、何で笑っているかと言えば。

「まさかあのままあそこで動かなかったせいで、不審者として通報されたとか」

「面白すぎる」

「もう、二人とも…………と言うか、有栖のせいで酷いことしちゃったよ」

 その割りに、置いていく時は晴れ晴れとした表情だった気がするがな、と言うと詩織が頬を膨らませる。

 と言うか正直酷いことしてるな、と言う自覚はあるがなんだかんだで自業自得だな、と思ってしまうところもある。

「で、あの残念美形くんはどうなったんだろうな?」

「さすがにもう釈放されてんじゃねえの?」

「補導されたくらいだろうな、学生だし。まあすぐに開放されるだろう…………保護者に連絡行ってるだろうし、今日は学校に来ないかもな」

 呟きつつ席を立つ。と、俺が席を立つのを見て悠希が尋ねる。

「どっか行くのか?」

「ん、ちょっと自販機で何か買ってくるわ」

「じゃ、俺オレンジ頼む」

「あ、じゃあ私リンゴ」

 ついでついで、と言わんばかりに注文をつけてくる二人に苦笑しつつ、了承と答えて教室を出ようとし…………。

「っと」

「っぁ」

 入り口から入って来た男子とぶつかる。

「悪い、大丈夫か?」

「…………………………っ」

 表情が見えない程度に伸ばした前髪が特徴的なその男子がボソボソ、と口元を動かし俺を無視して席へと歩いていく。

「……………………何だかな」

 感じが悪い、とは思いつつさして気にも留めないまま教室を出ようとし…………。

 

「失礼するわ…………この教室に有栖はいるかしら?」

 

 反対側の扉から一人の女子生徒がやってくる。

 それも…………俺の名前を呼んで。

「えっと? 俺に何か用…………か…………」

 声を主のほうを向き、その姿を確認した瞬間、思わず固まる。

 声の主…………リボンの色からして一つ上の二年生だろうその少女が俺のほうを向き、笑う。

「やっと見つけたわよ、有栖」

「…………………………ちょっと来い」

 俺の元までやってきた女子生徒の手を引き教室を出て行く。

 教室を出る際に見えた室内ではクラスメートたちが突然訪ねてきた上級生とその上級生が尋ねてきた俺へと好奇の視線が集まっており、その中には詩織と悠希、二人の視線もあり…………頭が痛くなった。

 

 

 屋上。

 鍵がかかっていて本来入れないのだが、理事長からこっそり鍵を預かっているのでそれを使って上がる。

 周囲に人のいない場所に来て、ようやく一息吐き…………自身が腕を引っ張ってきた少女を見る。

 長く束ねられた黒髪。まるで感情の色が見えない人形のような瞳。そして彼女のトレードマークと呼んでも良い長く黒いリボン。

 最後に会ったのは三年近く前だと言うのに、一目で分かった。

「そう言えば今日から転入だって言ってたな…………朔良」

「もう…………いきなり強引ね」

「分かるだろ? 本来俺とお前に繋がりは無いんだよ」

「あら、そんなのどうにだってなるじゃない」

「小学校来の友人だっているんだぞ? なるわけないだろ」

「水臭いわねえ、同じ風呂に入った仲なのに」

「その誤解を呼ぶ間違え止めろ。それを言うなら同じ釜の飯食った仲だろ」

 言いたいことはなんとなくわかるのだが、言ってることのピントがずれている朔良の言に、ああそう言えばこういうやつだった、と記憶が蘇ってくる。

「まあいいわ…………改めて、今日からこの霊地の守役を任されることになった葛葉朔良よ」

「ああ…………じゃあ、改めて。今日からお前の補佐をすることになった有栖だ」

 互いに向き直り、正式な礼を交わし…………何となく微妙な雰囲気になる。

 互いの目を見やり、思うことは一つ。

 

「似合わないわね」

「似合わねえな」

 

 そんな柄でも無い。今の心境を表すならまさしくそれだろう。

「私とアンタしかいないし、堅苦しいのはいいわよね」

「そうだな…………どうせ俺たちしかいねえしな」

 呟き、屋上のフェンスに背をもたれる。

「…………で、何でお前が来たんだ?」

「あら? 私じゃご不満かしら?」

 挑発するような朔良の態度に、顔をしかめる。

「茶化すな…………だっておかしいだろ」

 そう、おかしいのだ。

「お前がこんなところの守役なんて」

 いくら帝都内とは言えすでに守役が足りている場所に送られてくるなど、普通あり得ない。

「だってお前」

 ましてや彼女は…………。

 

「次期ライドウ候補だろ」

 

 葛葉ライドウを継ぐ者なのだから。

 

 

 

 

 葛葉朔良と言う少女に初めて出会ったのは四年前のことだ。

 アリスと契約し、キョウジの弟子となって凡そ一年ほど経った時のこと。

 キョウジが葛葉の里に行くことになった時に、俺も一緒に連れて行かれることになった。

 生前の記憶のせいで、精神の安定していた俺は初めての地でも対した問題を起こすことも無く、滞在自体は一週間ほどで終わった。

 そうして向かえた最終日。里の端で起こった異界化。

 葛葉の里は日本屈指のサマナー集団だ。本来なら何の問題も無く終わるはずだった…………そう、そこに宗家の少年と分家の少女がいなければ。

 俺がその場にいたのは本当に偶々だ。滞在最後の日と言うことで里を見て回っていた、と言うだけの話であり。

 そして当時の葛葉ライドウが里にいたのも偶々だった。

 異界化に巻き込まれた俺は、二人の子供を庇いアリスと共に迫り来る悪魔と戦い続けた。

 そうしてボロボロになりながらも戦い抜き…………そうしてやってきたその存在を強く目に焼き付けることとなる。

 

 当代葛葉最強。二十代目葛葉ライドウ。

 

 現葛葉最強、葛葉キョウジをも越える最強。

 

 一言で言えば…………あり得ない、だろう。

 

 一騎当千、どころではない…………まさしく当代無双。

 

 一発の銃弾で十の悪魔を殺し、太刀の一閃で百の悪魔を殺し、仲魔と繰り出した技で千の悪魔を滅ぼす。

 

 馬鹿げている。こんなものが人間なのか、とも思ったし。人間がここまでできるのか、と思い知らされた。

 と、まあライドウに美味しいところ全部持っていかれた感はあったが。

 それでもライドウの到着まで二人が無事だったのは俺がいたお陰、と言うのもあって、葛葉の一員でも無いにも拘らず里とはそれなりに友好的にやれているのはその時の影響があるのは間違いない。

 

 誇れ、お前の賭けた命が皆を救った。

 

 あの時のライドウの言葉は今でも覚えているし、あの時の守護者としての背中は俺の中に確かな影響を及ぼした。

 そして、最もその背中に影響されたのが…………宗家の少年と一緒にいた分家の少女だった。

 ライドウに憧れ、ライドウを目指し…………そしてたった四年で並み居る候補を全て追い抜き、次代葛葉ライドウ最有力候補となった少女。

 それが、葛葉朔良だった。

 

 

 

「三年前に会った時にライドウ目指してる、なんて宣言されたのにはさすがに驚いたが…………キョウジに聞いた。本当にライドウの候補になってるらしいな」

「ええ…………けどまだ候補。何より自分でもまだまだだって分かってる」

 拳を握り締め呟く朔良に、俺は肩を竦める。

「けど候補つってももう決まりみたいなもんなんだろ? 本当はもう業斗童子付けようって話もあった見たいじゃねえか」

 業斗童子…………それは葛葉のサマナーの中でも一握りのものにだけ付けられるサポート役だ。即ちそれを付けられる、と言うことは葛葉の中でも一歩進んだ立場にいる、と言う証明でもある。

「やれやれ、三年前突然お前と戦わせられた時は何とか勝ったが、もう勝てそうもねえな」

 実際のところ、もうレベルだけなら俺より高いだろうしな。

 そう言ってみるが朔良がふるふる、と首を振る。

「まだまだよ…………それに、つい最近また仲魔が増えたって聞いたわよ」

「ああ…………フロストか。キョウジが一々回してくるんだよ」

「それにしたって、レベル65でしょ? そんな高位悪魔を仲魔にするなんて凄いじゃない」

「ま…………偶然だよ」

 そう言うことにしておく、と言わんばかりの朔良の呆れ顔に苦笑する。

「……………………」

「……………………」

 

 無言。さて、何を話したものか? と互いに考え、やがてこのままでもいいか、と言う結論に達する。

 不思議なもので。

 こいつとの会話は不思議と苦にならない。

 それは多分、俺とこいつの波長が合っているからなのだろう。

 会話をしていても、会話が途切れても、それが苦にならない。

 話そうと思えば延々と語り合っていることもできるだろうし、話さずにいても延々と黙ったまま寄り添っていることもできるだろう。

 

 ビュン、と一瞬強い風が吹く。

 吹いた風が朔良の髪を揺らし、手で髪を押さえる。

「……………………そろそろ戻るか」

「……………………そうね」

 そろそろ授業が始まるだろう時間帯だ。

 俺はともかく転入初日の朔良がいきなりサボるのも不味いだろうし。

 

 そうして肩を並べ屋上から出て行き。

 

「これからよろしくな、朔良」

「こちらこそ、よろしく、有栖」

 

 そう言って互いに笑った。

 

 

 

 りあじゅーばくはつしろ。

 

 ……………………マジでどこでそんな言葉覚えてくるんだよ、アリス。

 

 

 




人間 サクラ

LV38 HP230/230 MP120/120

力13 魔38 体23 速22 運95

特徴:豪運(運+50)

ライドウを目指す少女。そして現在葛葉の里で最も次代ライドウとして期待されている少女。
魔法を含めた様々な術を取得しているが、性質的にはサマナー。
ゲームで実際あったら唖然とするだろうその能力はまたいつか。
ただ一つ言えるのは、確かにこの少女はライドウになれるだけの力がある、と言うこと。

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