黒森峰女学園時代、小話。
寒いほど独りぼっちだ。
◆
黒森峰女学園戦車道部『西住みほ親衛隊』主催の盛大な誕生日パーティーは大いに荒れた。
普段は気を張り続けている黒森峰の生徒たちが、主役が無礼講宣言をした事で、反動によって些か騒ぎ過ぎたのだ(誰かが特別なジュースを持ち込んだという原因もある)。ようやく場が静まったのは、深夜も近くなった頃だった。
大量のプレゼントをやっとの思いで整理した主役……西住みほは、外のベンチに腰かけている。
大きく息を深呼吸をする。すっかり秋の様相である外気と、パーティー会場の熱気とは大違いだ。
一切が冷たく静まっている。
不意に、耐え難い寒さを感じた。
誰かが近づいてくる気配がした。
その人物は、無言で隣に座る。
エリカ。
その姿を認めると、少しだけ寒さが和らいだ気がした。
二人は無言で居た。既に今日の言葉は、出し過ぎるほど出している。
だから、無言でいた。
「副隊長」
長い沈黙を破ったのはエリカだった。
「先ほどの醜態の事、親衛隊には、きつく言っておきます」
「許すよ」
「はい」
再びの沈黙。
これは、エリカが本当に言いたい事ではないなと感じた。
不器用な女だ。
「今日はありがとう」
みほは、自分から切り出した。
「いいえ。当然の事です」
「お姉ちゃんは、来なかったね」
「隊長にも声は掛けたのですが、忙しいらしくて」
「毎年の事だよ」
「そう、なんですか」
「うん。毎年、そう」
「偶然でしょうか」
「違うかも」
「薄情な人」
エリカの歯に衣着せぬ物言いに、みほはくつくつと笑った。
まほにここまで言ってしまえる部員は、そうは居ない。
「最後に家族に誕生日を祝ってもらったのは?」
「毎年、電話をもらいます。プレゼントも、郵便で」
「そっか」
「……みほ」
「なに、エリカ」
「私があなたを祝福するわ。来年も、再来年も、何時までだって」
「ありがとう」
「本当よ」
「疑ってないよ」
「そういう目をしてた」
「そんな事ない」
「絶対してた」
「じゃあ、してたかも」
「嘘じゃ、ないんだから」
詰め寄るエリカの顔には必死さの他に、別のものが浮かんでいる。
「そんな顔しないで」
「どんな顔よ」
「悲しそうにしてるよ」
「してない」
「嘘」
「してないっ」
エリカは頑なに言って、顔を背けた。
それで、また静かになった。
エリカの耳が赤くなっている。
その姿が、無性に愛おしく思えた。
みほは、エリカに近づいていって、肩をくっつけた。
「なによ」
「寒いから」
「嘘ね」
「そうかも」
「ずるいわね」
「だめかな?」
「……いいわ。私も、寒かったから」
「嘘ばっかり」
エリカは顔を真っ赤にして「嘘じゃないっ」と言った。
みぽりん誕生日おめでとう。
公式で誕生日設定されてない逸見かわいそう。