とある科学の傀儡師(エクスマキナ)   作:平井純諍

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第57話 破殺

忍宗においてチャクラは、個々を繋げる力

個一つだけの力を増幅するものであってはならない

力が一人に集中すれば、それは暴走しやがて力に取り憑かれしまう

人々は、その力の存在を恐れる様になっていく

~忍の開祖 六道仙人の遺した言葉~

 

 

 

『「妹達(シスターズ)」を運用した絶対能力者(レベル6)への進化法』

 

学園都市には七人の超能力者(レベル5)が存在するが

『樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)』の予測演算の結果

まだ見ぬ絶対能力者(レベル6)へ辿り着ける者は......

 

一名のみと判明した

 

この被験者に通常のカリキュラムを施した場合、絶対能力者に到達するには二五○年もの歳月を要する

 

我々はこの『二五○年法』を保留とし実戦による能力の成長促進を検討した

 

そこで現れたのが一人の『協力者』と名乗る奇妙な少年とも青年とも老人とも取れる人物だった

 

彼が観せた具体的な絶対能力者を例示し、彼は究極の夢『S.B計画』を考案し、推進するために被験者に特定の戦場を用意し、シナリオ通りに戦闘を進めるこ事で成長の方向性を操作し始めた

 

過去に凍結された『量産型能力者計画』の『妹達』を流用して二万体のシスターズと戦闘シナリオをもって絶対能力者への進化を達成する

 

彼は最後にこう付け加えた

被験者は『まだら』である

『まだら』は力であり、支配する思想に成り得る

 

******

 

「なるほどな......」

ベッドに備え付けられたパソコンへと奪い去った実験に関する削除されたデータを一通り確認しながら、サソリは横になった。

 

「お、お姉様の妹を使って......!!?」

信じ難い文面に白井の表情が凍り付いた。

「御坂にそっくりのアイツを使う予定だったみたいだな」

先日からサソリの弟子になったミサカを思い出しながら、サソリは情報の咀嚼に掛かる。

これはゼツへと繋がる情報になりかねない。

ゼツ自身が勧めてきたくらいだから、あまり良い情報は得られないだろうが......

 

写輪眼を使い過ぎたらしくダルそうに目を閉じて、瞼のマッサージしている。

「はい、暖かいタオルだよ」

「ん?」

滝壺が何処からか取り出した、蒸しタオルをサソリの目に当てがった。

サソリは腕を組んだまま、何故か素直に受け入れて上を向いて眼を休ませる。

 

「ちょっと、滝壺これは?」

「ドライアイになった時の対処法......」

「えっ!?これってドライアイなんですか!?」

「赤くなるのは充血しているって......こと?」

疑問符を浮かべて滝壺が首を傾げた。

「いや、こと?って訊かれても......ねぇ」

麦野が無防備に眼を休ませているサソリを抱き寄せてヨシヨシと頭を撫でた。

顎をサソリの頭の上に乗せて頬ずりするようにスリスリしている。

 

「また!!は、離れなさいですわぁぁー!」

白井が重力を無視するようしツインテールがバタバタと燃え盛る業火のように滾った。

「断るわ!」

キメ顔で麦野が不敵に笑みを浮かべる。

 

またしても猫科同士の争いが繰り広げられる中、初春達が椅子に座りながら会話をしていた。

「サソリさんの眼って医学的な治療って有効何ですかね?」

「私達は超知らねぇです」

「でも、休ませるのは良いこと......」

「まあ、超そうですけど」

絹旗が目を細めてなんとか納得しようとしている所へ扉が開いて松葉杖を付いたフレンダが「はあ、はあ、ふぅ......」と言いながら入ってきた。

 

「フレンダおかえり......」

「ふぅ、痛た......トイレに行くだけでも一苦労だわ」

幸い、トビによりこじ開けられた八門遁甲の持続時間が短く、何とか自力でトイレに行く事が出来るようになった(半分は意地)

 

「だから、手伝ってあげるって言ったのに」

サソリに顔を押し退けられている麦野が松葉杖を使って危なっかしくフラフラしているフレンダに言った。

「いや大丈夫よ......何というか最後のプライドがね」

ヨタヨタと自分のベッドに戻ろうとするフレンダだったが......

 

〜♫

急にサソリの外套から音楽が大音量で流れ出して、サソリやフレンダを始めとしたメンバーが身体をビクッとさせた。

フレンダはベッドの脇でバランスを崩して倒れてしまう。

 

「なっ!?何だ!」

サソリがタオルをずり落とながら、外套の袂に手を入れた。

音源となっているのは、前に御坂から貰った携帯電話だ。

音を鳴らしながら、振動している携帯電話を手に取ったまま固まるサソリ。

どうして良いのか分からないようで、目を見開いたまま振動している携帯電話を持っている。

 

「出ないんですの?」

「......出る?」

 

ん?

んん!?

 

またしても考え込むサソリに既視感を覚えた白井は唖然とした感じでサソリを見下ろした。

「えっとですね......開いて、ここのボタンを押してください」

「ここか?......御坂美琴って書いてある」

電話が通じて御坂から『あっ!サソリ?ちょっと良いかし......』

と聴こえてきたが、戦国時代からタイムスリップしてきた説が再燃したサソリに一挙に注目が集まる。

 

「これどうなってんだよ!急に鳴ったぞ!?」

「電話ですわよ!何で知りませんのー!?」

「知るか!」

「そこに耳当てて......違う違う!逆逆!」

「ギャハハハハハ!!アンタやっぱ最高だわ!」

腹を抱えて、一人で大爆笑している麦野。

「仰天未来滞在記......」

「超、超ありえないです......改めてこんな奴に負けたのに超腹が立ってきます」

「......」

倒れたショックで身体中に激痛が走るフレンダは床に突っ伏したまま涙を流す。

 

もうなんか......

私の事なんか眼中にない訳ね

 

携帯電話を正常な位置に持ってくるとサソリは耳をすませた。

「話さないとダメですわよ」

「御坂さんどうかしたのですかね?」

「あっ!そろそろ門限ですわね。その連絡?一応帰る用意をしませんと」

「あら!?じゃあ、ここからはアダルトな世界になるわね。お子様は帰ると良いわよ」

麦野が挑発的な言葉を口にすると白井がムキーと憤慨した。

 

「そんな事をしましたら、世界の果てに置いてきてやりますわ!」

「白井さん落ち着いてください」

 

こんな獰猛な猛獣の前にサソリを置いて帰るのには白井に取ってかなりの不安材料だ。

麦野と白井が言い合っていると、サソリが携帯電話を耳に付けたまま怒鳴るように

「少し黙っていろ!」

と言った。

「!!?」

一同がサソリの声に身体を強張らせて、様子見をした。

 

受話器の向こうから御坂の声はなくザラザラと砂利の上を歩くような音がした。

それに混ざるように複数人の人物の話し声が微かに聴こえる。

サソリはチャクラを聴覚に集めて、意識を集中させた。

「......」

サソリだけは会話の内容が聴き取れたようで空いている左手で布団を強く握り締めた。

「さ、サソリ?」

白井がサソリの殺気に怯えながらも果敢に声を掛ける。

「出ろ......良いから出ろ」

サソリがやや命令口調で呟くが、電話口から御坂と思われる足音が遠ざかっていく音がデクレシェンドで響く。

 

「ちっ!あのバカ!」

サソリが勢い良くテーブルに拳を叩いた。

「!?」

サソリは携帯電話を折り畳むと横になったまま脚を組んで息を荒げた。

「何かあったの?」

麦野が目付きを鋭くして殺気立っているサソリに声を掛ける。

 

「......オレの弟子がゼツに捕まった」

「弟子ってさっきのレールガンのクローンの?」

「ああ」

 

?!?

白井と初春は会話について来れないようで互いに顔を見合わせている。

「で、弟子に?」

「悪いが説明は後回しだ......白井、コイツで湾内と連絡が取れるか?」

サソリは自分の携帯電話を渡しながら訊いた。

「は、はい......ちょっとお待ちに......はいですわ」

湾内の携帯に電話を掛けるとサソリは白井から奪い取るようにして出た。

暫くのコール音がすると湾内の声が聴こえてきた。

 

なるほど......便利な代物だ

そんな事より

 

『はわわわわわー、はい?!サソリさん?』

いきなりの想い人のサソリからの電話に湾内はかなり動揺しているらしく、たどたどしく言葉を紡いでいる。

それでもサソリは気持ちを落ち着けてあくまで冷静に話を進めた。

「湾内か?」

『はい!ど、ど、どうかなさいましたか?』

「少し良いか......御坂は近くに居るか?」」

『御坂さんですか?部屋が違うのでなんとも......』

「そうか......おそらく御坂は外に居る。至急探してこい......」

『い、今からですの?』

「ああ、一刻を争う」

時間としては夜8時半を過ぎている。目的地が分かっている移動とは違い、対象である御坂は居場所が割れていない上に自ら移動している。

 

つまり、今からの捜索することは厳しい寮の門限を破る事を覚悟しなければならないが、サソリの必死な言葉は湾内は固く覚悟を決めた。

『分かりましたわ。御坂さんを見つけましたら、連絡します』

「頼む」

 

ピッと通話を切るとサソリは指を咥えて少し考えると、その場に居る全員に質問した。

「この実験の被験者は解るか?」

学園都市全体に強力なチャクラの闇が覆い尽くし、滝壺は軽く震えた。

 

「普通に考えるなら......一人だけいるわ」

「誰だ?」

「学園都市第一位、『一方通行(アクセラレータ)』」

 

学園都市第一位!

簡単な階級で言ったら、この場にいるメルトダウナーの麦野や独りで突っ走っているレールガンの御坂よりも格上の存在だ。

「お姉様よりも上の!?」

白井が驚愕の表情を浮かべる。

「なるほど.......それを手駒にしたか......単純にオレとどっちが強い?」

「......かなり厳しいわね。ありとあらゆる力を反射する能力だから、常人は攻撃はおろか触れることも出来ないわよ」

 

麦野からの第一位の情報を聴くと、サソリはベッドから起き上がり、巻物を取り出した。

「超何をしているのですか?」

「......無策で勝てる奴じゃないと分かったからな......準備をする」

「!?しょ、正気か!?アンタ、第一位に挑むつもりなの!?」

「そうですわ!?お姉様だって勝てない相手ですわよ」

 

「臆するなら此処にいろ......オレは一人でも乗り込むつもりだ......弟子が攫われて黙っていられるか!それに御坂も危ねぇ」

 

「!?」

「ふふ、アーハハハハハハハァー!」

麦野が狂ったようにケタケタと笑いだした。

「それでこそ私の旦那に相応しいわ.....良いわよ、私達も参加するわ」

「ちょっ!麦野?」

絹旗が驚愕したように口をアングリと開けた。

「それに近くにいるんでしょ?あの寄生虫のアロエみたいな野郎が」

「恐らくな」

 

チラリと滝壺に起こされて、ベッドに戻されるフレンダを見ながら復讐の炎を燃やす。

「フレンダと私に対する借りを返していないからね。滝壺」

「......」

フレンダをベッドに戻すと、静かに滝壺はAIMストーカーの能力を発動した。

あの時に感じたねっとり張り付くような気持ち悪い拡散力場を検索していく。

 

******

 

御坂美琴のクローンに移植した万華鏡写輪眼の時空間忍術を使い、線路や貨物列車が置かれている場所へと連れてこられたミサカは、乱雑に石の上に落とされた。

「うっ!?」

 

ゼツが持っていたミサカの生首の両眼は、神威の反動により血を流しながら光を喪うように閉じた。

ゼツは、まるで空き缶でも捨てるようにミサカの生首を背後に投げると

 

「連れてきたよ」

「やっとかァ......まちくたびれたぜェ」

河川敷の上には、大きな橋がありそこの欄干に髪を白くした少年が寄り掛かりながら、一瞥もせずにポケットに手を突っ込んでいた。

 

「あ......ああ」

ミサカは震えた。数々のミサカを殺してきた学園都市最強名を欲しいままにしている『一方通行(アクセラレータ)』がついに目の前に来てしまった。

何度も何度も過る命が絶たれる感覚が汗のようにジンワリと背中に広がる。

 

アクセラレータは、ポケットに手を入れたまま、まるで海でダイビングをするかのように無防備に背後から倒れ込むように落下した。

しかし、ミサカの前で激しい砂利を踏みつける音が響くがアクセラレータは、無傷にユラユラと立ち上がった。

ベクトル変換で落下時のエネルギーを帳消しにしたのだ。

 

「さあ、これより第九九八二次実験を始めよう」

ゼツが片腕だけを上に挙げて、実験の開始を宣言した。

そして、怯えるミサカに耳打ちをした。

「無用な時間稼ぎをすると御坂美琴は、ここに来ると思うんだよねー。......そうなったらどうなるか解るよね」

「!?」

 

お姉さまがここに来たら......あの凶悪な能力者と鉢合わせてしまう

ミサカは造られたクローン

ミサカは造られたクローン

この実験を終わらせるには、ミサカが死ぬか被験者の敗北

 

すみません、お姉さま

師匠......サソリ様

お願いします......ミサカに力を貸してください

 

ギリッと唇を噛む仕草をするとミサカは、暁の外套から手を出して糸を出して三代目 風影の傀儡を操りだした。

 

もう一度、逢うために......

 

それを確認するとゼツはニタニタと笑いながら、地面に入り込んでいき河川敷に放置されたコンテナの上に移動し、腰を下ろした。

「録画開始♪」

妖しく光るゼツの視界の先で学園都市第一位と傀儡師の弟子が相見えた。

 

「おォ!?おもしれェな......人形使いかァ」

アクセラレータがポケットに手を突っ込んだまま余裕そうに振る舞うがミサカは、糸を下に下げて風影の傀儡を飛ばした。

傀儡は腕を横に出すとブカブカの袖から幾本の刃先が飛び出してきて、アクセラレータに強襲する。

 

が、しかし

寸前の所で刃先が何か障壁にぶつかると真っ直ぐ傀儡の腕に亀裂が入り、腕がバラバラに崩壊し落ちていった。

「!?」

「仰々しいわりにはァ、簡単に壊れたなァ」

アクセラレータが軽く地面に踏み込むとベクトル変換され、更に増幅されてミサカの足元が爆発し砂や石がミサカの身体を貫いていく。

「あッ......がっ」

 

「そらそらァ......寝っ転がってるヒマなンざねェぞオイ」

更に地面を踏みつけると土砂の塊が操り手のミサカの腹部に当たり、転がるように橋の柱に激突した。

頭を打ち付けたらしく頭から出血している。

それでも、腕を前に出して半壊した風影の傀儡を立たせる。

 

「いィねェ......シブといじゃねーか。そーこなくっちゃよォ」

まるで脚を引きずる蟻を相手にしているようにアクセラレータは、「ククッ」と顔を綻ばせた。

 

「ミサ......カは、目標の能力を正確に把握できていません......が。これまでの実験結果から周囲にバリアのようなものを張り巡らしていると推測します」

 

ミサカは、手の甲に掌を乗せる動作をすると傍らにいる風影の傀儡の口がガシャと開き、喉の奥から大量の砂鉄の流砂が溢れ出して、周囲に漂い始めた。

 

「ふーン、磁力で砂鉄を操ってンのか......おもしれー使い方だ」

別段気にする素振りを見せずにアクセラレータは、脚から出血し始めているミサカに近づき始めた。

 

体内にある砂鉄を吐き出し終えると傀儡の口は閉じて、空中に片腕を広げて静止した。

舞うようにミサカが両腕を振り上げると一気に振り下ろす。

すると、周囲を漂っていた砂鉄が大量の塊となって、歩いてくるアクセラレータに弾丸のように浴びせた。

 

「砂鉄時雨」

弾丸と化した砂鉄がアクセラレータに襲いかかるが全て弾き四散する中、一部の砂鉄がミサカに跳ね返り身体中を掠めていく。

頬から一閃の血筋が裂かれた。

「くっ!」

ミサカは傀儡を操り、砂鉄を直方体を二つ造り出して、一方の直方体の先を鋭利にさせるとアクセラレータを貫くように伸ばしていく。

砂利が砂鉄の勢いで巻き上がり、一瞬だけアクセラレータの姿が消えた。

 

「や、やりましたでしょ......ゴプッ?」

ミサカの腹部にはアクセラレータに伸ばしたはずの鋭利な砂鉄の直方体が貫いていた。

「ガフ......!?」

柱に縫い付けられたかのように固定されたミサカだったが、すぐ側に毒手がやっときてミサカの腕を関節ごと捻り切った。

「あ、あ......」

ミサカが意識が飛びそうになる激痛を堪えながら、自分を貫いている直方体を解除すると、転びながら距離を取るとアクセラレータのすぐ上で直方体を形成し、二つをぶつけ合った。

 

風影の傀儡の衣をはだけさせると胸部にある穴から蒼いチャクラが電撃のように砂鉄に走り始めて、ぶつけ合った直方体の砂鉄が毛細血管のように広がった。

 

砂鉄界法!!

 

「あァ?」

周囲の地面へと無差別に襲い掛かる黒い杭は、地形を抉りだして破壊していく。

先程とは、比べものにならない程の爆発に近い衝撃にミサカは片腕で頭を守るようにしている。

 

はあはあ......目標......完全に沈黙......?

 

抉り取られた右腕を外套の袖口を縛り止血しようとしていると土埃の中から、白い手か出現して風影の傀儡に触れると次の瞬間にはバラバラに引き裂かれた。

 

「!?」

バラバラにされた風影の腕がミサカの前に転がり落ちてきた

サソリ様の大切な傀儡が......

 

ミサカは糸の重さが無くなる感触を味わう前にアクセラレータが呆然とするミサカの左脚を掴むと持ち上げて、地面に叩きつけた。

 

「あうッ」

「ざァーンねンっ!!左脚を怪我しているみてェだな......」

そして、アクセラレータはズブズブとミサカの左脚の中に何の抵抗もなく侵襲していく。

皮膚が裂け、血が出てくるがベクトル変換により綺麗な白い手のままミサカの脚を赤く滴らせる。

「あっ......あっ!」

 

そのまま力任せに左脚を引き千切るとアクセラレータは、ニヤリと笑った。

決定的な一撃と思い通りの展開に満足しているかのようだった。

 

「ぐッ......」

傀儡が壊されて制御を失った毛細血管状に広がっていた砂鉄が崩れ始め、ミサカの上に少しだけ積もる中でミサカは冷や汗を流しながら、最後の力を振り絞るように片腕で立ち上がると、異能力(レベル2)程度の電撃で反撃するが......

アクセラレータの能力により反射されてミサカの身体に電撃がバチンと流れ、ひっくり返るように仰向けに倒れた。

 

「がぁッ!」

その電撃の衝撃により外套に辛うじて付いていた御坂から貰ったカエルのバッジが取れて倒れた身体の頭方向に転がっていった。

 

「追いかけっこ、できなくなっちまったなァ」

引き千切っミサカの左脚をゴミのように投げ捨てた。

ベチャと気持ち悪い音が辺りの静けさと相まって、一際大きく聴こえた。

 

「このまま、ほっといてもくたばンだろォが。ジッと待ってンのもたりィからよォ......!」

ミサカは片腕を砂利に引っ掛けると力を入れて身体を引きずるように前に進み始めていた。

口には尊敬しているサソリの傀儡の腕を噛みながら、ズルズルとゆっくりと一歩ずつバッジに近づいて行った。

 

「あァー?よォ、まだ逃げンのかよ。つってもそっちは行き止まりだぜ」

アクセラレータから距離を取るように匍匐前進をしているミサカの意図することが分からないアクセラレータは、壊れた玩具でも見るかのように興味を失い始めていた。

 

ズルズルと身体を引きずる音と共に、声帯を通過する苦しそうな息遣いの「ヒュウ、ヒュー」とだけ聴こえる。

「......もォいいや、オマエ。終わりにしてやンよ」

アクセラレータは、巨大な貨物列車を軽々持ち上げると狙いを定めるようにミサカを見た。

ミサカは、右腕からの出血、腹部からの出血、左脚からの出血をしながら血の気の失せた瞳で届いたカエルのバッジを掴むと、傀儡の腕と一緒に自分の胸に抱き締めた。

 

分かっていた

分かっていたはずだった

こんな結果になることを......

勝てる訳ないと......

 

「お姉さま......サソリ様」

自分の血で汚れており、砂だらけとなったバッジと傀儡の腕を外套で大事しそうに拭きながら、抱き締めた。

「......大好きです」

 

その真上から巨大な貨物列車が容赦なくミサカを叩き潰した。

衝撃に窓ガラスが割れて、車体は大きくひしゃげた。

 

「本日の実験、しゅーりょォー」

アクセラレータが一仕事終えた達成感に満足すると踵を返して帰り始めようとする。

「帰りにコンビニでも寄って......」

と言った次の瞬間。

大電流がアクセラレータの背後にあるコンテナを焼き尽くした。

「!?」

 

「ああああああああああああああああああああああ!!」

クローンのオリジナルである御坂の身体は第一位のアクセラレータに向けて特攻をしていた。


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