もうちょっと良い文を考えられたら差し替えておきます。
第零話 ある一つの結末
そこは摩訶不思議な空間だった。異様な空間と言い換えてもいい。
空間がねじ曲がっている、とでも言おうか。
普通の空間ではない事はまず間違いなかった。
辺り一面を暗闇が支配しているが、中央に存在する黄金の龍の放つ光のおかげで暗くは感じない。
その龍の前に八人の男女の姿があった。
彼らの中に無傷の者は居なかった。誰もが大なり小なり怪我を負っている。
「今回ばかりは、流石にまずいかな……」
先頭に立つ少年・緋勇 龍麻が意識的に軽い口調でそう言った。
だが、同時に彼の偽らざる本音でもあった。そしてそれはこの場にいる全員が感じ取っていた。
正直甘く見ていたと言わざるを得ないだろう。
ここまで一方的にではく、少なくとも互角の戦いには持ち込めると思っていた。
ところが蓋を開けてみればこの有様だ。
龍麻は後ろに居る仲間の顔を見る。
皆疲労を隠せない表情をしてはいるが、諦めた表情をしている者は一人も居なかった。
それを頼もしく思うと同時に、自分の力のなさを不甲斐なく思う。
今までで黄金の龍・黄龍に対してダメージを与える事が出来たのは、彼の放った最大奥義だけだ。
それも時間が経つにつれて完全に治癒されてしまった。
この状態で黄龍を倒すには、ダメージが抜けきらない内に波状攻撃をしかけるしかない。
しかし龍麻以外の攻撃はその殆どが通らない。
通ったとしても回復するスピードが速くてダメージが追いつかないのだ。
最大の誤算がその超自己再生能力であった。
それがなければ今頃とうに黄龍を斃す事が出来ていただろう。
龍麻はもう一度、今度はさりげなく仲間の顔を見渡した。
そしてこの場には居ない仲間の顔を思い浮かべた。
皆大切な仲間だ。出会ってから少ししか経っていないが、とても大切な。
辛い事がたくさんあった。
でもそれ以上に、彼らと出会って嬉しい事や楽しい事があった。
全て仲間と出会えたからこそだった。そのかけがえのない物を失いたくない。
彼らのことを、護りたい。
そういった思いは関わってきた事件を通すごとに、強さを増していった。
この絶体絶命のピンチにおいて尚、それは変わらない。
龍麻は悩んだ。悩んで悩んで悩み抜いて―――。
そして、ある一つの決断を下した。
「………」
龍麻は深呼吸をして息を整えた。
丁度その時だった。今まで自発的に攻撃してこなかった黄龍に動きが見えたのは。
口を大きく開いてはじめて攻撃の意志を見せたのだ。
その瞬間、背筋に悪寒が走る。
「みんな、散開ッ!」
だが本能的にそれが無駄である事を察知していた。
防ぐ方法は一つ。
同等以上の威力を持つ攻撃での相殺。
だから彼はその場にとどまった。
黄龍が相手である限り、黄龍の器である龍麻と言えども龍脈から受ける力は微々たる物だ。
それを最大限活用して彼の最大奥義である【秘拳・黄龍】を放ったとしても、結果はもう既に出ている。
だから彼はそこに一つの要素を加える事にしたのだ。
龍脈から流れてくる力を受け取り、自分が今持つ限界まで氣を集める。
龍脈から流れてくる力が足りない。
自分が今持つ力が足りない。
それらを全て限界まで集めて尚、足りない。だから彼は、限界が来てもそれを無視した。
龍麻の口元から一筋、血が流れる。
それは限界以上の氣を集めた弊害であった。
「龍麻!?」
龍麻の異常にいち早く気がついた女性・美里 葵が悲鳴をあげた。
それを無視して、龍麻は更に氣を集める。
彼の口元からもう一筋血が流れた。
黄龍の方を見ると、開いた口に激しい光が集うのがわかる。
「――葵。来ちゃ、駄目だ」
思わず、といった風に龍麻に駆け寄ろうとしていた葵が、その声に足を止めた。
「援護も必要ない。みんなは出来るだけ離れて」
少しでも援護を、と弓矢を構えていた女性・桜井 小蒔。
自他共に認める龍麻の相棒である蓬莱寺 京一。
彼を守護する四神・白虎である醍醐 雄矢。
同じく四神・玄武である如月 翡翠。
残りの四神・青龍であるアラン 蔵人と朱雀であるマリィ・クレア。
その全員が信じられないというような表情で龍麻を見た。
「葵」
「京一」
「雄矢」
「小蒔」
「翡翠」
「アラン」
「そして、マリィ」
それはこの状況にそぐわない、穏やかな声だった。
彼は既に覚悟を決めていた。
だからこそ出た穏やかさであった。
無論、この決断が後々彼らを苦しめるであろうことも、いかに残酷なことかも十分過ぎる程に理解していた。
だがそれも生きていなければ感じることは出来ない。
「みんなは僕が護るから」
限界以上の氣。
それは彼自身の命を燃やす事によって得ている物だった。
その結果が彼の口元から流れる血である。彼の命は徐々に失われつつあった。
このまま氣を集め続ければ命を落とす事になりかねない。
龍麻は全ての氣を両手に集める。
秘拳・黄龍の構えである。
「よせ、ひーちゃん!」
「秘拳」
黄龍の口に集った光が光線となって放たれる。
「黄龍ッ!」
それとほぼ同じタイミングで龍麻最強の奥義が炸裂した。
突き出された両手から黄龍の姿を模した氣の塊と、黄龍の攻撃が中央で激突する。
どちらの攻撃も引かない。そのまま拮抗し、硬直状態に陥った。
はっきりと言えばそれは異常な光景だった。
たった一人の人間が繰り出した攻撃と黄龍の攻撃が拮抗するなど、通常はありえない。
だからこそ龍麻がこの攻撃に費やした氣の量が解る。
それは正に、命を込めた執念の一撃であった。
「覇ァァァァァァァァァァァァッ!!」
龍麻が気合を込め、更に氣を注ぎ込む。
徐々にだが、龍麻の攻撃が黄龍の攻撃を押し返しはじめる。
とはいえ相手は黄龍だ。すぐさま龍脈から力を受け取ると、攻撃に込める氣を増やす。
京一たちも龍麻の指示を無視してでも、何とか援護をしようと試みる。
龍麻に忠告されたとは言え、彼をそのままにして行ける筈も無い。
他の仲間以上に、黄龍を守護する四神である醍醐・翡翠・アラン・マリィの四人は何としても龍麻の援護に向かいたい。
ところが龍麻と黄龍、両者の攻撃の余波で近づく事すらままならない。
龍麻は仲間が自分の援護をしようとしている事を、氣の動きで察知していた。
その行為自体は嬉しく思うが、この状況では素直に喜べることではなかった。
自分自身が仲間にとって裏切りにも近い行為をしているとしても、だ。
そしてそんな最中にも黄龍の攻撃は激しさを増す。遂には龍麻の攻撃を押し返し始めたのだ。
龍麻はひたすら、心の中で繰り返し呟く。
――――護るんだ、と。
真神學園に来てからの出来事が、走馬燈のように脳裏をよぎる。
「僕はみんなを護りたいッ!」
龍麻のその願いに呼応するかのように、龍脈から流れてくる力が増大する。
限界以上の氣を使ったせいで血を吐き、血涙を流し、腕からは血が噴き出る。
それでも彼はたった一つ。
仲間を護りたいと思った。仲間を護らせて欲しいと何かに祈った。
龍麻と黄龍の攻撃の境い目からバチバチッ! と衝撃が走る。
それはやがて空間の歪みを生み出した。
龍麻も黄龍もそれに気付かない。
お互いに死力を尽くしているのだ。そもそも気付く余裕はなかった。
そして京一たちもそれに気付く事はなかった。
それが一つの結末を生む事になった。
閃光が迸る。
拮抗した力が行き場を失い、限界を迎えたのだ。
暴走する力の奔流。
「龍麻!」
葵はそれが本能的に危険な現象であると悟った。
四神も己の感覚から龍麻が更に危険な状態に陥ることに気がついた。
京一や小蒔にも、その現象を見ると背筋に嫌な汗が流れた。
龍麻がその現象に気が付いた時、驚く暇もなく結末は訪れた。
空間の歪みが膨れ上がったかと思うと激しくスパークをはじめる。
――――――カッ!
次の瞬間、今まで以上の閃光が迸った。
それはあたり一面があまりに強い光によって見えなくなる程だ。
咄嗟に目をつぶらなければ失明していたかもしれない。それほど強烈な光だった。
やがて光はおさまる。
「な、何だと……?」
「なんだよこりゃ……」
雄矢と京一がその惨状に思わず呻く。
攻撃が衝突した地点には大きなクレーターがあったのだ。
それはぶつかり合った力の凄まじさを物語っていた。
「ひーちゃん?」
小蒔の言葉に、数人が正気を取り戻した。
「龍麻、龍麻は何処だ?」
「アミーゴ!」
「龍麻?」
翡翠・アラン・マリィが周囲を見渡す。
だが、彼らは気付いていた。
黄龍の器である龍麻と四神である雄矢・翡翠・アラン・マリィには特殊な繋がりがある。
その繋がりが全く感じ取れなくなっていたのだ。
次の瞬間、異空間は元の本堂に戻っていた。
だがそこに龍麻の姿は無い。
「そんな……」
黄龍の姿は消えていた。
斃したと見て間違いないだろう。脅威は去ったのだ。
「ひーちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!」
京一の慟哭が響く。
――――脅威は去った。だが、彼らは同時にかけがえのないものを失った。
◇◇◇◇
あれからどれだけの時間が経ったのだろうか。
今の龍麻には時間の感覚がなかった。だがそれに反して体の感覚はあるようだ。
先程から何となく水のような物に包まれている感じ がしているのだ。
(ここは一体どこなんだろう)
龍麻の記憶は最後の瞬間、つまり自分と黄竜の攻撃で空間に歪みが発生した所で途絶えていた。
恐らくはその空間の歪みに飲み込まれてしまったということは理解できた。
そんな物に飲み込まれたと言うのに、今は何故だか危険を感じていなかった。
(どうしてだろう。ここに居るとすごく安心するなぁ)
龍麻は何かに護られているような感覚に陥っていた。
まるで母の中に居るようなそんな感覚。
こうして漂っていると自分を生むと同時に死んだ、顔も知らない母の事を思い出すのだ。
(母の、中? この水のような物はもしかして羊水?)
そう考えてすぐに否定する。そんなこと、ありえる筈も無い。
仮にここが自分の考えるような場所であるのなら、そもそもこうして思考している事自体がおかしいからだ。
(……だけど。何だか懐かしいな)
不思議な感覚だった。
先程否定した馬鹿な考えが再び頭をよぎる。
龍麻は訳もなく泣きたくなった。
暫くすると辺りに暖かな光が満ちてくる。
誰かに抱きかかえられる感覚。そして彼は、その人を見た。
蒼白な顔。既に死相が浮かんでいる。
今こうして息をしている事が奇跡のような形相だ。
けれど優しい笑顔を見せている。
「……ごめんね。私が直接育ててあげる事は、出来ないけれど」
耳元で何かが泣いている声がする。それが酷く煩わしい。
もっとこの人の顔を見ていたかった。
欲を言うならば笑った顔を。
「私は貴方を愛しているわ。生まれてきてくれて、本当にありがとう」
泣き声は相変わらず聞こえている。
そこでようやく、彼は気がついた。
この今にも死にそうな女性こそ、自分の実の母親だと言う事に。
「龍麻。私の愛しい子」
(……あぁ、何だ)
「宿星に負けない、強い子に育つのよ?」
女性の瞳から涙が流れるのが解った。
それは我が子を育てる事の出来ない母の悲しみの涙。
それは我が子を抱いてやる事すら出来ない、母の哀しみの涙。
そう。彼女には既に、自分が生んだ子を抱く力すら残っていなかった。
殆ど最後の力を振り絞り、龍麻の頬を撫でる。
涙を流しながら、彼女は微笑んだ。
(……耳元で聞こえるこの泣き声は)
「当麻さん。棗さん。龍麻をお願いします」
「任せてくれ、義姉さん。だから安心して兄さんの処へ逝くといい」
当麻と呼ばれた男性が答える。
今龍麻を抱き上げているのは彼のようだった。
その隣にいる女性がどうやら棗と呼ばれた人物らしい。
龍麻は、その二人の姿に見覚えがあった。
自分が知っている二人より若干若く見えるという違いはあるものの、間違いない。
「弦麻さん。今、私もそちらに逝きます」
それが彼女の最後の言葉になった。
龍麻の頬に添えられていた手が、力なく落ちていく。
(……僕自身のものだったんだ)
―――そうして彼は、再びこの世に生を受けた。
やってしまった……。
約五年ぶりぐらいにSSに手を出しました。
本作は最近は昔ほど頻繁に見なくなった、いわゆる逆行物になります。
昔は良くエヴァやらナデシコの逆行物が流行ったものです。
作者はその時期に二次にハマったので、モロに影響を受けております。
後はアニメの別物加減に(゜д゜)状態になったのが、本作を執筆するに至った経緯ですね。
原作に関しては一応DS版とアーカイブス版をプレイ済みですが、外法帖の方は未プレイになります。
ですので、基本的には外法帖の設定が入ってくることはありません。
なので両方をプレイ済みの方はその点にはご注意下さい。
※改訂履歴
章管理による章の追加。
テキスト用の改行の仕方だったので、セリフ部分の改行を変更。
これで多少は見やすくなった筈。