佐天さんが能力に目覚める話   作:仮登録

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3月10日は佐天の日ってことで、佐天さんの話を増やそうと思い、投稿。

3月10日までに次の話をアップする。


能力に目覚めた話

「ヒッグス粒子?」

 

 目の前の白衣を来た女性は、頭を抑え「それも知らないのか」と呟いた。佐天は腹立たしくなったが、そんなことで怒る訳にはいかなかった。夢にまで見た能力が手に入るかどうかは、この白衣の女性にかかっているのだ。この居心地の悪い診察室のような部屋で、長時間の面談をしたのだ。一対一で面談するという気が滅入る作業を乗り越えて、やっと結論に達する場面なのだ。

 

「今まで分かりやすく説明したつもりだが、どこまで理解した?」

 白衣の女性は苛立たしげに言う。佐天は気まずいと思いながら、正直に答えた。

「えっと、その全然……分かんない、です」

 

 佐天が座っているパイプ椅子の軋む音だけが、部屋に響く。白衣の女性は間を置いて、溜息を吐いた。佐天は膝の上で両手を握り締める。

「お前の自覚の無さに驚かされるよ」

 佐天は俯いた顔を上げ、相手の顔を睨みつける。自分が馬鹿なことぐらい知っている。佐天が求めているものは、能力の解説ではないのだ。

 

「あの、私としては、どんなことをしたら能力が発現するかを知りたいんですけど!」

 白衣の女性は冷笑しながら、佐天を見つめた。

「ヒッグス粒子は、物質に質量を与える粒子だ。ヒッグス粒子が無ければ、全ての素粒子は光の早さで飛び回り、結合することはない。物質が物質である為の粒子だ」

「私はそれを操れるんですか!」

 

 そんなすごい能力が自分に有ったなんて、夢にも思わなかった。佐天は目を輝かせ、身を乗り出した。

「その可能性が有るだけだ。また、別の物かも知れない。どちらにせよ、無能力者であることには変わりない」

 

 浮かした腰を椅子に下ろす。佐天は脱力し、背もたれに身を預けた。急に疲れてきた。色んなことが頭に浮かぶ。やってられない。帰ったら何食べようかな。ファミレスにでも寄って、この前、初春が食べていたパフェでも食べようかな。一口貰ったら、美味しかったし。

 

「……お前、聞いてないな」

「はい、って、いえ、聞いてます、聞いてます」

「まあ良い、もう時間だ。このカリキュラム通りに練習をしろ。次も一週間後だ」

 白衣の女性はそう言うと立ち上がり、机の上の資料を片付け始める。佐天は挨拶をして、部屋を出る。

 

「はぁ、長かったな」

 佐天は与えられた資料を見る。これを貰う為に何度も此処に通った。そしてこれからは、このカリキュラムの訓練をする必要がある。先はまだまだ長い。だけど、能力を使うという長年の夢がもう少しで叶うかもしれない。そう思うと、重かった足取りが軽くなった気がした。

 

 

 

 

「佐天さん!今日こそ教えてもらいますよ!3日も学校を休んで!何やってたんですか!」

 初春は席につくなり、睨みながら言ってきた。佐天は「学校を休んだ理由を説明する」と、初春をファミレスに誘ったのだ。今すぐにでも全てを聞こうとする初春を宥めながら、佐天は備え付けのメニューを差し出す。

 

「まぁ、まぁ、落ち着いて。パフェでも食べようよ。ほら、いつも頑張っている自分へのご褒美だよ」

「ごまかさないで下さい!私、心配していたんですよ!」

「うん、それはメール見て思った。着信も沢山あったよ」

 佐天は腕を組み、頷く。初春は溜息を付いた。

「なら、もっと返事下さいよ。二通だけって、私、その十倍は送りましたよ」

「ごめんごめん。パフェ一つ奢るからさ」

 初春の動きが止まる。佐天は初春の目の前で手を振るが、反応がない。

 

「佐天さんが奢る……、お金は?非行?犯罪?学校を休んだのは、その兆候だった?」

「ちょっとちょっと!初春、変なこと言わないで。お祝い!お・い・わ・い!」

 佐天は慌てて、初春の肩を揺さぶり、思考を止めさせる。変に思われていないか、周りも確認する。

「お祝い、めでたい……、オメデタ!まさか!」

 佐天は初春の頭にチョップした。初春は頭を抑えながら「佐天さん、ひどいです」とか言っている。

 

「そんなお祝いじゃありません。今日は、私が能力を使えた記念です」

「えっ、佐天さんが……」

 初春の呆然とした顔を見て、佐天は悦に入る。初春のこの表情を見たかったから、黙っていたのだ。

「本当、本当。今から見せるね」

 佐天は深呼吸をし、体と心を落ち着かせる。今でも心臓は高鳴っている。自分の能力はみすぼらしい。でも、目に見える形となって現れてくれた。きっと、初春も喜んでくれる。佐天はゆっくりと、自分だけの現実を作り上げた。

 

 

 使い捨てのおてふきが、宙に舞った。

 

 

 おてふきはすぐに落ちてきたが、初春はずっとそれを凝視している。初春の一言が欲しい。佐天は不安になりながら、「どうかな」と尋ねた。

「すごい、すごいです!佐天さん」

 初春が驚き、興奮しているのを見て、佐天は自分が笑顔になるのがわかった。

「へっへーん。まあ、私にかかれば、こんなもんよ」

 

「佐天さん、頑張ったんですね。凄いです!」

 

 初春の笑顔を見て、今までの能力開発への思いが、こみ上げてきた。超能力に憧れて学園都市に来た小さな自分。無能力者と診断され、全てが閉ざされた感覚。それを無視して明るく振舞って友だちを作って。でも、能力への憧れは捨てきれなくて。

「私、頑張ったんだ。うん、頑張ったよ」

 

 目が潤んでくる。初春がそれに気づく。

「やだ、私。何で、泣いているんだろ」

「佐天さん。頑張ったんです。誇ってこださい。今日は私が奢ります!」

 初春がそう言って胸を叩く。佐天は胸が詰まって、顔を伏せる。こんな顔、見せたくない。すぐに気持ちを切り替え、顔を上げよう。そして、言うのだ。ジャンボフルーツパフェ食べたいって。

 

 

 

 

「これがそのカリキュラムですか」

 初春が資料を読みながら、尋ねてくる。

「うん、来週まで毎日しろって言われた。うん、美味しい!初春、食べる?」

 佐天はパフェをスプーンですくい、初春に向ける。

「食べます!こふぇ、すふぉいれす」

「美味しいよね、これ」

 佐天はもう一度すくい、パフェを口に運ぶ。

「違います。いえ、美味しいですけど。そっちじゃなくて、このカリキュラムです」

 初春は佐天に資料を突きつける。スプーンを咥えたまま、佐天はそれを見る。

「へ、なにが」

 佐天は資料を見ても何がおかしいのか分からなかった。

 

「まずカリキュラムがあることです。レベル2以下で個別のカリキュラムを作って貰えるなんて、なかなか有りませんよ」

 初春は目を丸くしている。そんな初春を落ち着かせる為に、パフェを差し出す。

「ああ、うん。その人の方針なんだけど、無能力者はいない。能力開発して無能力者の判定を受けるのは、判定装置が追いついていないから、って方針なの。判定の仕方が悪いって言うか」

 佐天は手を顎に当て、白衣の女性が何を言っていたか思い出そうとした。

「判定が悪い?」

「うん、宇宙がどうたらこうたらで、科学者は少ししか分かってないって言ってたよ」

 思い出そうとしたけれども、あんまり覚えていなかった。

「佐天さん、全く分かりません」

「あ、あと、約6割が無能力者になる能力開発を続ける理由もそこにある、とかなんとか」

「なるほど、佐天さんが話を聞かないってことは分かりました」

 初春は閉口し、パフェが佐天に戻ってきた。

 

「まあ、このカリキュラムをしてるってことで、初春に報告」

「すごいですね、その人。佐天さんを見出すなんて」

 佐天はそれに首を振って答える。

「いや、このカリキュラムで能力が発現するかどうかは分からないって言ってたよ」

 初春は頷きながら、感心する。

「は~、ますます凄いですね。その人。学園都市では絶滅危惧種ですよ。お金になりそうに無いから、レベルが低く判定されるのに」

 

「”風を起こす”のか、”空気を操る”のか、”気圧の変化が生じる”のか、能力は違うから、行うべきカリキュラムも違う。当たり前だけど、普通できないよね」

「はい。採算に合いませんよ。でも、それで佐天さんがレベルアップするなら良い事ですね」

「フッフッフッ、私って運が良いからね~。偶然会った人がそんな人なんて、びっくりだよ」

「偶然?どこで出会ったんですか?」

「ここ、Joseph'sで」

 佐天は指を下に向け、テーブルを指で叩く。

「はぁ、こんなところで」

 初春は不思議そうに辺りを軽く見回す。そして携帯端末を取り出し、佐天に尋ねた。

 

「その人は何の研究をしているんですか?」

「えっと、研究はね、なんだっけ?」

「あの、佐天さん、その人の名前って何ですか?」

「あ~、それね。覚えてないんだよね~。今更、名前なんでしたっけ?って聞くのも何だし」

「……佐天さん。酷いですよ、そんな親身になってくれている先生に対して」

 初春は白い目で佐天を見る。佐天はそれを、慌てながら両手で否定する。

「顔、顔は覚えているから!」

「はぁ、そうですか。佐天さんは変わりませんね」

 初春は佐天に笑いかける。佐天は自分の記憶能力に対して、笑うしか無かった。

 

 

 

 

「応援してますけど、寝不足になっちゃ駄目ですよ」

「分かってるって、初春も風紀委員頑張ってね」

 

 佐天は初春と別れた後、白衣の女性に連絡しようと携帯電話を取り出した。しかし、連絡先を登録していないことを思い出す。

「名刺すら貰ってないしなぁ」

 口を尖らせながら、携帯電話を仕舞う。佐天は、面と向かって御礼が言えそうにないと思っていた。あの先生との会話は、ついて行けなくなる。自分が馬鹿にされていると感じるのは、やはり面白く無い。

「ま、いっか。予定の日で」

 能力が使えたことを早く伝えて、御礼を言いたい気持ちはある。だけども、電話番号を調べあげてまで伝えようとは思わなかった。佐天は顔を上げ、歩き始める。自分でも足取り軽くなっているのが分かる。周りの風景も良く入ってくる。

 

 公園の傍を通り過ぎようとしたとき、佐天はふと興味を惹かれた。子どもたちが木を見上げている。その木には、学生服を着た男性がしがみついている。佐天は公園の中に入り、その木に近づく。

「ああ、ボールを取ろうとしているのか」

 周りの子供達は騒ぎながら、学生服の男性を応援している。佐天は眩しそうに、それを見上げた。そして、いつもなら見上げるしか無かったな。と佐天は思いながら、両手をボールに向ける。

 

 ボールにまとわりつくイメージ。普遍に存在している物を、集中させる。学生服の男性がボールが引っかかっている枝に差し掛かったとき、ボールがゆっくりとだが、動いた。

「えっ、ちょっと待てっ!」

 男性は叫びながら、より手を伸ばす。佐天は男性が手を伸ばすとは思わず、能力を止めた。ボールはすでに落ちかけている。男性はそのまま体勢を崩し、枝に手をかける。その枝が折れ、ボールは落ちるが、男性は踏ん張る。しかし、その努力も虚しくずり落ちていった。

 

「だ、大丈夫ですか!」

「だ、大丈夫……、いてて」

 佐天は男性に駆け寄り、覗きこむ。男性は受身らしき事をしたので、危険な状態は無いと佐天は思う。仰向けになった男性をよく見ると、恐らくずり落ちた時に引っ掛けた傷がある。制服にも擦り切れているところがある。「大丈夫ですか」と声を掛けたものの、どうすればよいか分からない。

 

「あっ!」

「ど、どうしました?」

「いや!何でもない!」

 男性は慌てて体を起こし、木にもたれ掛かる。

「急に動いて大丈夫ですか?」

「はは、大丈夫」

 男性は慌てふためきながら、佐天を見る。ブツブツと呟いているが、佐天には良く聞こえなかった。子供達はそんな男性を見て安心したのか、「にーちゃんありがとー」と言って遊び始めた。男性もそれに快い返事を返す。

 

 佐天はどうにも気まずかった。自分の能力のせいで、この男性が怪我したことが分かったからだ。勿論、わざとではない。そして、恐らく男性はその事に気づいていない。このまま「お大事に」と言って、立ち去るべきだろうか。

 佐天が悩んでいると、男性の口から「ああ、不幸だ」と漏れるのが聞こえた。佐天は「どうしたのですか」と聞く以外、選択肢が無かった。

「ああ、携帯電話の画面が映らないんだ。ボタン音は鳴るから、動いてはいると思うけど」そこまで言うと、男性は大きく息を吐いた。

「あいつらに遅れるって連絡できねーな」どうすっかなー、と男性は頭を掻きながら、携帯電話を操作している。

 

 ますます肩身が狭くなるのを、佐天は感じた。ここまで来て、立ち去ることなんてできなくなっていた。なにより、能力を人のために使った結果を、これで終わらせたくもなかった。

「あのー、この携帯、使いますか?」

 佐天は意を決して、携帯電話を差し出した。しかし、男性は首を振り、遠慮した。

「ありがとう、でも電話番号が思い出せないんだ」

 男性は立ち上がり、「ありがとな」と言って歩き始める。その歩き方は少し不自然で、体のどこかを痛めていることが、佐天には分かった。

 

「あの!」

「へっ?」

 佐天の大声で、男性が振り返る。自分で何やっているんだろうと思いながら、佐天は言葉を続けた。

「そのケータイ、私のとおんなじ会社ですよね。アドレス帳一件くらいなら、赤外線でこのケータイに写せると思います!」

「お、おお!まじか!」

 男性は喜びながら近づいてきた。佐天は不安だった。言ったは良いが、本当にそんなことが出来るのか分からなかった。

「あ、あの、もしかしたら、データが消えるかも知れません」

「ん?ああ、大丈夫。バックアップあるから」

 できたら儲けものだ。男性がそう言ってくれて、幾分気が楽になった。男性の携帯電話と佐天の携帯電話は、共にお金が無い学生向けの携帯電話の機種であった。恐らくこの男性も低レベルなのだろう。佐天はそう当たりをつけながら、操作を行う。

 

「で、できた。……あ、青髪ピアス?」

 なんだこの名前は。佐天はいぶかしく思いながら、その表示を男性に見せる。

「おおー、出来たのか。ありがとうって、その携帯使って電話して良い?」

「あっ、はい。大丈夫ですよ」

 佐天は携帯電話を男性に渡す。言ってよかった。うまく出来た、と佐天は胸を撫で下ろす。男性が電話をかけるのを、佐天は安心して見る。そして、余裕ができた佐天は有ることに気がついた。

 別に私のケータイで電話しなくてもよかったじゃん。アドレス表示されたのだから、男性の携帯電話で連絡すれば良かったのだ。ボタンは反応するのだから。佐天は勢い良く男性を見るが、電話している所で文句を言う訳にもいかない。それに此処で何か言うと、せっかくの自分の善意が台無しになると思われた。

 

「ああ、高校生、じゃないな。中学三年生くらいの子だよ。名前?そう言えば聞いてないな。聞けばいいのか?」

 男性の電話が自分の話題になっていると佐天は感じた。佐天は、私も男性の名前を知らないなぁ、と思いながらその会話を聞く。佐天は、機会の無い男性からの評価が気になったのだ。中学三年生かぁ。老けてるってことかなぁ。少し前まで小学生だったんだけどなぁ。

「そんなこと考えてたのか!ゼッテーおめーには教えねえ、後で削除してやる」

 佐天が自分の容姿について考えていると、男性の電話が終わっていた。

「ケータイありがとう。おかげで助かったよ」

「はい、どういたしまして」

 佐天が携帯電話を受け取ると、男性は頭を掻きながら、バツが悪そうに切り出した。

 

「あー、あと、青髪ピアスを着信拒否にしておいてくれ」

「え、ああ、はい」

 佐天は、この人って頭を掻くのが癖なのかなと、関係ないことを考えていた。

「あ、あとオレは上条当麻って言うんだ。もし、青髪でピアスを付けている危険な奴に何かされそうになったら、すぐ呼んでくれ」

「ふふっ、何言ってるんですか、上条さん。あっ、私は佐天涙子って言います。中学一年生です。三年生じゃないですよ」

 先ほどの会話から聞こえた、自らの評価を訂正させる佐天。男性は少しだけ目を見開いた。

「そうなのか、俺はてっきり中学三年生だと」

「私って老けて見えますか?」

 佐天は眉を寄せ、自分の体を見回した後、上条に尋ねる。

「いや、その、あの、何て言うか、大きいし、大人っぽかったし」

 その言葉に納得がいった佐天は、両手を打った。

「ああ、私、身長は160で結構、大きい方なんですよ」

 小学六年生で160cm台は、かなり大きい方だ。よく男子に「デカ女」と呼ばれ、からかわれていた。子供料金もなかなか通じず、小学生であることを示さないといけなかった。

 

「ああ、大きいことは良い事だ。そのまま育って欲しい」

「へっ?いや~、私、そんなこと初めて言われました」

 佐天は自分の身長に、いささかコンプレックスを抱いていた。中学生になってから、からかわれることはなくなった。だが、もっと大きくなったらどうしようと思っていたのだ。そんなとき、初めて会った男性から、大きくなっても良いと認められるとは思わなかった。

「そうか?可愛いし、きっとモデルに成れると思うぞ」

「……上条さん、私、そんな褒められ慣れてないです。だから、もっと褒めて下さい!」

「え!えーっと、そうだなぁ」

 上条は佐天涙子の良い所を探す作業を、友人と会う約束を思い出すまで続けた。

 

 

 

 

 佐天は一週間ぶりに、白衣の女性と会う。能力を使えるようになったと報告できるので、心が弾んでいた。あの仏頂面もきっと、喜んでくれるに違いないと思っていた。

 

「ここでは、能力を使わないでくれ」

 

 佐天が、能力を使えるようになったと伝えた次の言葉がこれだ。佐天は耳を疑った。能力を発現させるために、手伝ってくれたのではなかったのか。その結果を確認しないとは、どういうことだと疑問に思った。

「能力はそうだな、録画して送ってくれ。それで確認する」

「録画ですか?でも、それでどう調べたり、検査するんですか?」

「検査?検査なんかしないさ。私が興味あるのは、能力の開花までの方法だからね」

 その他の事は、したい奴がすれば良い。なんて言い放った。佐天は呆気にとられる。口をだらしなく開き、目の前の人が言った言葉がよく分からなかった。

「まあ、このカリキュラムで能力が発現したということは、私の考えが合っていた事になる。見せなくても構わない。学園都市ならその能力を、空気に関連した名を付けるだろう」

「ちょっと待ってください。つまりなんですか。能力が発現したから、私の能力に興味はないんですか」

 佐天は勢い良く立ち上がり、椅子が倒れる。それに構わず、白衣の女性に詰め寄った。

「興味?興味はあるさ。ただ、それに時間を割こうとまでは思わない。他にも能力開花できていない学生は、まだまだいるからね」

 佐天はふらつき、机に手をつく。この女性に付いて行けば、順調にレベルアップできると考えていた。一人で喜んでいただけだった。レベル3以上になる夢を見ていた。

 

「じゃあ、レベルはゼロのまま……」

「なんだ、レベルを上げたいのか?そうだな、このままこのカリキュラム通りに訓練を積めば、レベル2にはなれるだろう」

 佐天は顔を上げ、またも信じられないと思った。そんな簡単にレベルが上がるものかとも思った。

 

「そしてレベル3になったら、恐らく君は死ぬ」

 

「はい?」

「これは前にも説明したと思うぞ。まあ良い。無能力者と決めつけられる者のほとんどは、その能力の正体が分かっていない。宇宙を構成する要素の5%は、光を反射する物質だが、25%はダークマターで、残りの70%はダークエネルギーだ。無能力者たちがレベルが低いのは、カリキュラムができていないからだ。もし彼らが、科学者がよく知る物質以外を操作出来るとなったとしても、科学者は理解できない。または扱いきれずに死ぬと私は予想している」

 死ぬ?意味が分からなかった。学園都市にはレベル3以上の学生がいるではないかと、反論しようとした。

「理解しているか?例えるなら、千キロメートル走れる筋肉を持っていても、心臓に負担がかかれば死ぬだろう。能力が有っても、体がついて行かないのだ」

「私の能力に、体がついて行かない?」

 佐天は両手を顔の位置まで上げ、まじまじと見る。ついて行けなくなるとは、どのようなことか分からなかった。

「君は運が良い。まだ、科学がかろうじて理解している範囲の能力だった。どんなことが起こるか予想できる」

 白衣の女性は一呼吸置き、佐天を見た。馬鹿にしているでもなく、笑っているでもなく、ただ事実を言っている顔だった。

「ヒッグス粒子は、万物の存在に関わる粒子だ。この粒子が作用しなければ、全ての素粒子は質量を持たず、光速で動きまわることになる。レベルを上げるには、高速で飛び回る素粒子を作らなければならない段階が必要になる。そんな物を作れば、生身で宇宙空間に放り出されるよりも、多くのダメージを受けるだろう。レベルが上がっても死ぬだけだ。そんな能力者を調べようとする奴は居るかもしれないが、少ないだろう」

 自分の能力で、自分が傷つく?その所為で死んでしまう?佐天は頭が真っ白になった。訓練を続けると、死ぬかもしれない。訓練したら、レベルが上がるかもしれない。能力を使う魅力と恐ろしさで、佐天は震えた。

 

 

 白衣の女性はそんな佐天を見て、一言だけ告げた。

 

「そうだな、君が安全に能力を鍛えるには、それこそ学園都市伝説にある、能力を無効化する能力でもなければ、不可能だ」

 

 

 




3月10日までに次の話をアップする。

だが、時と場所は指定していない。私がその気になれば、次の話は10年後、20年後ということも可能だろう・・・・・・・・・・ということ・・・・!
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