愚か者の英雄   作:KTquick

3 / 4
有言実行(震え声)
次は明日か


青葉瑞希と宗教

真っ青な空の下、瑞希の姿は学校周辺を歩いていた。

すでに校門は見つけてた。時刻は七時四十分ごろのことであり、今は八時へと差し掛かっている。

さすがに九時ぐらいにいこうと考え、圏外であるが、一応周辺地図が表示される地図アプリを片手に、ここらの探索を行っていた。

丘の上から見る景色は、西洋風の街並みが一望できた。瑞希にはこの町の本気具合がうかがえた。全力である、すべてが石造り、もしくは煉瓦造りに見える。

「ねぇ君!」

「え?」突然かけられた声に振り向くと、赤い髪を肩のあたりで切りそろえた少女が走ってくる。

恰好はワイシャツとチェックのスカート。恐らくは制服だろう。

この学校の生徒かな?と瑞希が思っていると、少女は快活的な笑顔で彼へと近づいてくる。

近づいてくると、彼女は日本人ではなく、外国人であるとよくわかった。

「君、転校生かな?」

瑞希は頷いた。「編入試験をもうすぐ受けるんだ」と答えると、少女は瑞希の足先からてっぺんまで視線を走らせた。

「必要あるの?」

「え?いや、さすがにあると思うけど?」

「だって髪色が濃いからね!」

髪色が、濃いし……?瑞希は首を傾げた。

「濃いと試験免除されるの?」

「常識だよ?」

「え、マジで?」

少女は頷いた。正直信じられない、そんな学校があれば、日本人どころか、黒髪であれば全員が免除条件に達していることになる。

からかわれているのだろうか――?

瑞希の疑念を知らず、少女はフレンドリーに話しかけてくる。

「時期的にはもうすぐだから、今日は編入試験について話をしてもらいに来たってところかな?」

「ああ、時間はかなり早かったから、周囲を探索してたんだけど」

「まぁ今の時間は先生もまばらだろうね、部活の朝練で鍵を任された私みたいな人しかいないんじゃないかなぁ」

「そうなんだ。先生は何時くらいにいるかわかる?」

「近くに教員寮があるらしいから、九時――あたりかな?あ、そうだ。転校生くん!――そういえば名前はなんていうの?」

少女は自分を指さし「私はシェリカ・アリアだよ」と言った。

「青葉瑞希――えっと名前はミズキ、姓がアオバ」

「よろしくね、アオバくん!よかったら部活みていかない?」

「え、あ――」

少し考えてみて、瑞希は首を縦に振った。学校周辺はすでに一周して、手持無沙汰だったのだ。そんな瑞希へのシェリカの提案は、渡りに船であり、拒否する理由はない。

シェリカは嬉しそうに大きくうなずくと、「それじゃ、いこうか!」と天高く拳をあげて、歩き始めた。

道中、彼らは質問をぶつけあった。

シェリカは「トウキョウ……?」と時節疑問符を浮かべたが、深く突っ込むことはなく、ただ部活に訊かれたとき、彼女は水を得た魚のごとく、熱い語りを繰り広げた。

「ラケットと魔力操作、そして全身の筋肉を使って、ボールを回し、ゴールへと叩きつける!遊びながらもお手軽に集中力増加もできるし、一石二鳥!魔力操作に集中しながら、周囲へと視線を投げかけ、道をたどるの、そこから技量によって道を手繰り寄せ、ゴールへの道のりを作る!最高のスポーツだよ!ねぇねぇ瑞希くんもやってみようよ!」

マリョク……。テニスでいうならガット部分のようなものだろう。卓球で言うならラバーだろうか?

「クラスクは最高だよ!」

聞いたことがない名前だ。だからこそ、少し楽しみである。

校門を抜ける、警備員はすでに会って話をした後だったので、軽く頭を下げる程度で通り抜けることができた。石畳の通路を抜け、草木生い茂る道路を通っていく。

「男子と女子と部活がわかれていているんだけど、男子のほうがいいかな?」

「いえ、どっちでも。でも、男子のほうにも挨拶したいかな」

そうだね、と元気よくシェリカは頷いた。そのまま歩いていくと、背の高い少年が現れた。金色の髪が、陽光を受けてキラキラと輝いている。恰好は体操着だ。

「やーやー、グレゴ早いね」

「やぁおはよう、今日も僕は完璧だからね、君よりも早く来るのは当然なのさ」

キザったらしい口調である。一言で彼の人となりを理解した気分だ。

「それで、彼は誰だい?」

「転校生のミズキ・アオバくん。アオバくん、彼はグレゴリー・ハスター。エースだけど言動のせいでモテない人だよ」

「嘲笑に満ちた言葉を言われるたびに、僕は完璧なんだと悦楽を感じるよ。はじめまして転校生くん。愛に満ちているかい?」

不思議な言動は全部無視することにした。

「はじめまして――っていうか編入試験に合格しないと転校生にはなれないんですが」

「だから必要ないって」シェリカは念押しするように言った。

少年は瑞希の髪色を見て、さらに一押しするように「まぁ大丈夫だろうね」と答えた。

「髪色が濃いから?」

瑞希が問うと、二人はさも当然のように頷いた。

「しかし、月のない夜のごとく漆黒に包まれた髪色だ。高貴な漆黒、もしや君は黒の民かい?」

黒の民、すでに昨日何度か聞いた名前だ。――というか中二病入ってないか、この人。

どう答えればいいか、と瑞希が考えていると、横からシェリカは腹を抱えて笑った。

「私も一瞬そうは思ったけど、黒の民なんて神話じゃない。真っ黒に見えるけど、少し違うんじゃないかな?」

だろうね、とグレゴリーは同意した。置いてけぼりなのは瑞希のみだ。

「それじゃ、準備運動は早めに終わらせて、簡単な動作の説明だけでもしようか」

そういって彼らは柔軟や軽いランニングを行うと、一本の棒を取り出した。太さは鉄棒くらいで、地に立てると、グレゴリーの腰当たりまであった。それは突然風を纏い、二人はボールを纏ってそれを撃ち合い始める。

テニスのようでもあり、ラクロスのようでもあった。

「魔力では複数形態が作れるの。ボールを保持したり、はじいたり――」

喜々としてシェリカは語った。おもしろそうなゲームだ、と瑞希は思った。

時はたち一通りのことを教えられたところで、「よかったらやってみない?」と言われた。携帯を取り出すが、まもなく九時に差し掛かる程度だ。余裕はありそうなので、頷こうとしたとき、

「おうアリアか」背後から声が響いた。三人の視線がそちらへと向かうと、グレゴリーよりも背が高い男がいた。

口々と瑞希を除いた二人は朝の挨拶をした。瑞希は頭を下げる程度にとどめた。

「それで、ウィリル先生はなにを?」

「もうすぐ朝の部活がはじまるんだから、俺がいるのは当然だろう?それで、そこの少年は?」

「ミズキ・アオバくんだよ、先生。転校生で、今日は編入試験について訊きに来たんだって」

「編入試験?」ウィリルは瑞希へと視線をやった。顎を摘まみ、少し考え込んでいる。

「ふむ、もうすぐみんな来るだろう。いつもの通りにやってくれ、それじゃ俺と職員室にきてくれ」

どうやら、この人が案内してくれるようだ――と瑞希は安堵した。

少し試しにやってみることができなかったのは、残念ではあったが、二人へと礼をいって職員室へと向かっていった。通された場所は、小さな個室だった。革張りのソファと、マホガニーの机のように濃淡のある木製の机だ。入り口から奥には、大きな窓があり、そこから太陽光が差し込み、室内を照らしていた。

「座っててくれ」と言われたので、瑞希は素直にソファへと腰を下ろした。

すぐに先生は部屋へと入ってきた。紙束を手に、困った様子で。

瑞希の目の前に座ると、苦笑いを浮かべた。

「すまん、編入についてはなにも聞かされていないんだ」

「……マジっすか」瑞希の敬語が崩れかかった。

「遠くから来たのかな、誰かの都合?」

「まぁ結構遠かったですけど」

車で半日かけたのだから、結構遠い。

「あと、父親の仕事です。経理やってるらしいですけど」

「へぇ、経理」

それから暫しの沈黙の後、ウィリルは口を開いた。

「それでその――それ、本物?」先生は瑞希の髪を指さした。

「本物?いや、この若さでハゲてはいないですよ」

ウィリルは首を振った。

「髪色。染めてはいないよな?」

「え?染めてませんよ、禁止されてましたし」

「――だよな、重罰か死刑だものな」

前の高校では染髪は禁止であった。体育会系の教師はかなり強引で、バリカンで坊主頭にするなんてこともあった。友人と「どこの昭和教師だよ」やら「おしゃれに気をつかうやつが坊主にされるとか、死刑レベルだわ」とか笑いあったものだ。先生はそういうことを言っているのだろう。

「そうですね」と瑞希はうなずういた。

「確かめるためにも一本髪をくれ」

「髪を?」

疑問を感じながらも、一本だけならと引き抜いた。ちくりとした痛みが頭皮に走る。

ウィリルはそれを受け取ると、とあるとろみのある透明な液体を取り出した。蓋を開けて、中へと入れる。真剣なまなざしで、それを見続ける。

「――色が落ちない」

静かな驚きに満ちた声であった。ウィリルはちらちらと瑞希を見た。

「色は濃い――黒の民と言ってもよいほどに、漆黒。これほどのないまでの黒。それはつまり――巨大な魔力を持つ」

ぽつりぽつりと小さく言葉を漏らし、ウィリルは頷いた。

「学園長のほうに連絡をする、か」

独り言をつづける教師に取り残された瑞希は、待ち切れず問う。

「それで、俺はどうすればいいんですか?」

「――いや、入学云々については考えなくてもいい」

「え?」

「何も問題はない。この学校はもろ手を挙げて君を迎え入れることになるだろう」

はあ、と気の抜けた返事をした瑞希に、にへらと不自然な笑顔を浮かべるウィリル。

「いや、でも……一度前の学校に確認を――」

「いやいや!問題はない!連絡など必要はない!君の名前はミズキ・アオバだったな!」

「は、はぁ」

「うむ、大丈夫だ!連絡するなよ!大丈夫だから!今日はもう帰ると言い、次は長期休暇の終わりにくるといい!あ、これ年間行事の冊子な」

ぽすんと冊子を手渡され、瑞希は反応がまともにできなかった。

「は、はぁ」としか言えず、勢いに押されっぱなしで、気が付けば外にいた。

冊子を抱え、呆然として彼は校門に立っていた。

「なんだったんだ――っつーかなんだこれ印刷ミスか?」

冊子をみて、なんともやりきれない気分になる。まともな文字ではない、文字であろうとも読めない、ミミズが躍ったような文がそこにあった。

なんかもう疲れた……どっと疲労が流れ込み、体の中で濁流がぐるぐると渦をかいている。

長いため息をついて、思考を切り替える。

――さて、ガソリンスタンドと家だな。

携帯を取り出し学校の位置を調べる。そこから広げて家の位置を思い出し、あたりをつける。

さて――行こうか。瑞希は足を踏み出した。

 

 

 

太陽はすでにてっぺんへと移動した。じりじりとした身を焦がすような陽光を受けながら、瑞希は気だるげな表情で歩いていた。焦がすのは陽光だけではない、人の視線もなぜか受けていた。

困惑するが「なんで見ているんだ?」と問うわけにはいかない。問う勇気もない。

彼にできるのは、物言わぬ太陽へと恨みつらみを視線に乗せて、ぶつけるのみである。

歩き続けて三時間が経過した。汗は滝のごとく流れ、視界はかすれている。

もはや脱水症状一歩手前ではないだろうか。

携帯は通じない。いまだ通じない。今やメモが記録でき、地図が見られ、写真が撮れる箱なのだ――。箱と言うレベルじゃない。

携帯の電池がそろそろヤバい。一応単体で使える充電器は二つ。一つは充電型。一つは電池を入れる形式、電池は一応十本入りが包装を解かずそのままでおいてあるが、電池式は充電量がかなり微妙だ。三本が一回で消える。しかもコストが高い。四本入りで五百円近い値段がする。

問題を羅列してきたが、今最大の問題は水である。

自販機がない。いくら探してもない。前に住んでいたところでは、五分歩けば一台あったはずなのだが。

虚ろな瞳は奇妙なものを映した。獣耳の生えている少年を、青年たちが殴りつけているのだ。

あぁ、もう末期か、幻覚を見るほどに意識が消えかかっているうのか――と瑞希は思ったが、そうではなかった。一瞬視界がクリアになったかと思うと、現実味が帯びてきた。

真っ赤な血を流し、死んでしまったかのように少年は動かなかった。

現実と認識した瞬間、カッと頭に血が上った。

「なにやってんだお前ら!?」

青年たちは三人いた。六つの瞳が瑞希へと一転集中する。

瑞希は三人をすり抜け、駆け寄り、少年を抱き起した。喘ぐような呼吸、流れる血、ほっといたら死んでいるのではないかと恐怖した。

「は?なんでお前亜人なんか庇ってんの?」

あざ笑うかのような声。それ無視して、携帯を取り出した。

当然圏外である。

死ね!と携帯へと言葉をぶつけた。――といったところで、地図アプリを思い出した。開いて、今いる場所を検討をつけ、病院を探る。歯科医院とかいらないから。

「病院病院――どこだ!病院!」

オラァ!吐けよオラァ!といった具合にべしべしと無機物へと瑞希は攻撃する。

「は?ちょっと待てよ、何、助けるの?頭狂ってるんじゃねぇの?」

三人はありえないものを見るかのように瑞希を見ている。

その声に、携帯を眺めながら、瑞希は言い返した。

「狂ってんのはお前らだハゲ!」

「は、ハゲ?ハゲてねぇよ?」

「ハゲに反応してんじゃねぇよ。つかよ、そんな濃い髪色貰ってんのに、黒の民の言葉を無視してんのかよ?亜人を救う、なんてよぉ」

その言葉を皮切りに、一瞬で人が消えたかのような沈黙が起こった。

「――こいつ、異教徒じゃね?」

と言う言葉に、周囲から「異教徒?」という言葉が漏れていく。

さすがに異変に気付いた瑞希が顔を上げると、人だかりが周囲を取り囲んでいた。視線が異様である、まるで犬猫どころか、虫を見るようなものだった。

「……なんだこりゃ」瑞希は声に出した後、ぶわりと背中に汗を掻いた。

――イベント?いや、なんか違う。狂気じみている。

「クロエ様を呼べ!」声が響いた。人だかりから何人かが外に出て、どこかへと消えていった。

「これほどに色濃い髪をしているというのに」

「黒い――黒いぞ。この男の髪」

「もしや染めているのでは?」

「そうだ、染めているのだ。黒の民が異教徒なぞにほほ笑むわけもない!」

「剥離液を持ってこい!」

怒号が周囲へと響く。瑞希はついていけず、混乱するばかりだ。

ほどなくして、桶に入ったとろみのある液体が現れた。それと共に、黒っぽい服装をした、藍色の髪の女性が現れる。

「――異教徒とは、彼のことですか」

冷風のような声だった。透き通っているが、身震いするほどに冷ややかな声。

顔を上げると、年端もいかぬ女の子が立っていた。冷たい視線だ。

次の瞬間、瑞希は男に拘束された。身をよじるが、とてもではないが解くことはできそうにない。

「そのうえ、染髪するとは。愚かなこともこの上のないものですね」

「――意味わからん」

瑞希が心底の気持ちを思わず吐露したら、頭に衝撃が走った。どうやら殴られたようだ――と理解するとともに、ガチンと怒りが噴き出した。マグマのように高温で、粘度のある憤怒。

それが噴き出そうとしていた。

その時である。頭を掴まれ、桶へとぶち込まれた。

頭が水だ、と本能は思わず喜んだが、すぐにそれは失われた。どろどろで、水ではないとすぐに理解したようだ。そう考えると、さらに怒りが増大した。おのれ、期待させやがって――と瑞希は奥歯をぎしりときしませた。

周囲を取り囲む人間は、身を乗り出して黒い髪が変わるところを見ようとする。人の皮を被った悪魔を暴き立ててやろうと、好奇心を持って見つめていた。

「――変わらない」と一人が呟くとともに、ざわめきが波のように起こった。

「変わらない?」「なんで?」「知らねえよ」「黒い髪だぞ?あれほどの黒い髪、王族でさえもいないんだぞ?」「そもそも黒の民以外、完全な黒髪はいないんだぞ?」

――じゃあ、あれは黒の民なのか――?

一人の言葉が、波紋を描くように伝わった。人々は絶句し、瑞希へと視線を向ける。

ちょうど、瑞希の堪忍袋の緒が切れた。

「水じゃねぇじゃねぇか!」という叫びとともにに拘束している男たちを強引に抜け、ちょうど背後にいた人間の顔面へと一撃を入れた。もはや亜人の少年を殴っていたとかは、完全に忘れている。

男が背後の人間も巻き込み、紙屑のように吹き飛んだ。我を忘れた瑞希は、その光景のおかしさも気づかず、桶をひっつかむと、無事に吹き飛ばずに済んだ一人へと殴りつけた。そのまま桶ごと蹴り飛ばす。

クロエと呼ばれた少女は、顔色を真っ青に変え、その光景を見ていた。人ならざる光景である。青白い魔力が噴き出し、また一人また一人と吹き飛ばされていく。

瑞希は男をぶん殴った後、亜人の少年に気づいた。

あ、やべぇ!とその少年をひっつかむ。恐ろしいほどに軽い。見れば骨と皮でできているようにしか見えない。

とにかく病院を探さねばと人垣を越えて、携帯を取り出し走り続ける。

――が、病院はなかった。小さな医院があるはずなのだが、彼の到着したところは普通の民家だった。

周囲を探索するが、それらしきものはない。

やばい、やばいやばいやばいと焦燥感がまともな思考を侵食していく。

「――こっちだ」

「え?」声の主を探すと、路地裏の奥に女性がいるのに気付いた。真っ黒な平安貴族のような袖の大きな恰好をしている。ただ特徴的な恰好を霞ませるように、頭部に金色の髪から見える猫のような耳が、大きな存在感を見せていた。ちらりと少年を見る、息は荒く辛そうで、猶予がないことを感じさせる。

行くか、と心に決めて瑞希は歩き出した。

薄暗い路地裏にて、女性と対面する。感情のない瞳で、瑞希を無言で見つめている。

「……どうすればいい?」

沈黙に耐え切れずに瑞希が問うと、平淡な声で返される。

「置いていけば治療しておく」

「……知り合い?」

「それを聞く必要があるのか――と言いたいが、ハッキリと応えよう、知らない」

「知らないのに助けてくれるのか?」

「同族ではないとはいえ、同じ存在を無視することはできない。――それで?質問は終わりか」

「……あのカルト教団みたいなヤツらはなんなんだ」

女性は目を大きく見開くと、何を考えたか腹を抱えて笑い始めた。

「――あぁ、あぁたしかにそうだ。カルト教団と言う言葉は大正解だろう」

目じりに溜まった涙を拭いながら、女性は続ける。

「あれはこの地より根付く宗教だよ。我らを亜人と呼び、蔑むようにできている」

「平家であらずんば人にあらず、みたいなもの?」

「――ん、あ、あぁよくわからないが、そういうものだろうな」

この地に根付く――この町に昔からある宗教団体らしい。つま先からてっぺんまで多難そうな真実である。つまり信者以外は亜人と呼び、蔑んでいる。

瑞希はがっくりと肩を落とした。

「なんでこんな町に引っ越してきたんだろうなぁ俺ぇ……」

「ご愁傷さまと言っておこう」笑いをこらえているような声で女性は言った。

「それで、他にはなにもないかね」

「郊外にある屋敷はどう行けばいい?えーと、あれだアルティナ・なんとか・アルガナックさん」

「吸血鬼の姫君か。そこに何の用がある?」

「一泊してもらった。風呂貸してくれないかなぁって、かなり無遠慮かもだけど」

「――わかった、君は規格外というやつだな」

え?と不思議そうな声を上げる瑞希をよそにして、女性は長く息を吐いた。

「どう報告すればいいのやら。――まぁ、いい。生き方は教えよう」

そういって道のりを簡単に教えてもらった。黒装束で最初は変人かと思ったが、少年も助けてくれたしい人のようだ。

「ではな」と言って、女性は少年を拾い上げると、軽業師のように、壁をかけあがり、どこへやらと消えていった。

「忍者……」

思わずつぶやいた。写真撮りたかったなと少し後悔している。

すぐに自分のやるべきことを思い出し、走り出す。とにかく、風呂に入りたい。

見覚えのある屋敷の門の前へと到着する。門番の男性は瑞希の有様を見るや、焦った様子で近づき、敷地へと通した。

「どうなさったのですか、黒の民よ!そのようなありさまで!いえ、まずは風呂でございます。アイリスを呼んでまいりますので――」

「いや、別に呼ばなくても――その、入れるようにしてくれれば」

「そうでしょうか、ではそのまま直行してください」

「了解を得なくても大丈夫なんですか?」

「もうすぐ湯を入れ替える時刻です。その後主様が入られるので、それ以外はいつ入ってもよいとのことですので」

「はあ」

そのまま昨日記憶にある道のりを行く。

脱衣室へと続く扉を抜け、服を脱ぎ、丸めて置いておく。

浴場へと続く扉を開け放つ、パァンと高く軽い音が響いた。

「……」

頭の上でまとめられた銀髪。白い陶器のような肌。メリハリのある肉体。

パァンと再び音が響いた。瑞希がドアを閉めた音だ。

三度目の音が鳴り響いた。今度はアイリスが開いた。女性の肉体が瑞希の目の前に現れた。

「どうかしたのですか、そのお身体の様子は!?」

「いや、服を」

アイリスは手を伸ばし、瑞希の頬でパリパリに乾き、粉のようになった液体と取り、まじまじと見つめた。

「これは――染髪剤を剥離する液体ですね」

「服を――」

「これは誰がやったのですか!?」

「服を着てぇぇ!?」

瑞希の叫びが屋敷へと響いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。