幻次元ゲイム ネプテューヌ -少女達の非日常な日常- 作:橘 雪華
ついでにあちらのものより小出しになるので進行もあっちに比べるとちょっと遅めになります。
以上の注意に気を付けてオッケーな方は、続きをどうぞ!
蒼紅の魔法姉妹と大人ピーシェ 1
いつからこうしていたのか、なんてわからないけれど、気が付いたら周りが真っ暗闇に包まれていた。
あれ? どうなってるの? わたしは確か……と直前の記憶を思い出そうとしていると、ふっと辺りに光が満ちる。
眩しくて目が眩んで、同時に浮遊感と風の音がうるさいくらいに聞こえてきて、
どうにか目を開いてみれば──
そこは空中だった。
「ひゃああああああ!?」
「あー、落ちてるわねー。稀に良くある事よー、うん」
「エスちゃん!? 無いよぉ! なんでそんな落ち着いてるのぉぉ!!」
「ふおおおおお! すごい! 景色すごい!」
「ひいぃぃぃぃ!!」
空から落ちている。にも関わらず、取り乱しているのはわたし一人だけ。
近くには「久々ねー」と余裕そうにしている妹、
興奮したような口ぶりで落ちながら景色を眺めているイオンちゃんがいた。
いやああああ死ぬ! 死んじゃううう!!
「ま、流石にネプテューヌちゃん程頑丈じゃないし。ディーちゃん魔法準備ー」
地面に背中を向けて随分と余裕そうなエスちゃんは冷静で、そう指示を飛ばしてきた。
ま、魔法……風魔法? 確かに身体は軽いからそれでどうにかなるかも…
後で考えたら女神化って手もあったけど、この時のわたし達は魔法でこの窮地を脱することを選択した。
「たああああああぁすけぇぇにきいいいいいた──」
ただ、いざ手に魔力を集中させ始めると、地上からものすごい速さで飛んでくる何かが見えた。
「うん? ディーちゃんなんか言った?」
「いやわたしじゃなくて下に」
「それよりそろそろヤバいわよ! ほら構えて!」
「だから下に……ああもう!」
エスちゃんは既に魔法発動に集中してるのか聞こえてもないみたいで、だからと言ってわたしと一緒に唱える前提で進めてるからわたしだけ止めるわけにもいかず。
「ごめんなさぁぁい!!」
わたしはそう地上から来る何かに向けてそう叫びながら地面の方……その人がいるのも構わずに、風魔法を発動する。
翳した手の先に緑色の魔法陣が展開されて、辺りに突風が吹き荒れた。
巻き起こされた突風は向かってきた誰かを巻き込み吹き飛ばしながらもわたしとエスちゃんの身体を受け止めて、風の力で落下の勢いを無くしたわたし達の身体はふわりとゆっくり地面へと降り立った。
「おおー、息ぴったりー」
イオンちゃんはというと、感心するようにわたし達を見降ろしながら、大きな真っ黒い手に受け止められてゆったりと降りてきた。
どうやら彼女の"お友達"はこの状況でも健在みたい。
「ふう、これで一安心ね!」
「わたし達はね? 誰か巻き込んでたからその人は安心じゃないよ…? ええと…」
やり切ったとでも言いたげにドヤ顔をするエスちゃんをじとーっとした目で見つめつつ、辺りを見回して巻き込んでしまったであろう存在を探す。
「みんなありがとね! あ、ディールちゃん。あっちに人がいるよー」
わたしがそうしていると遅れて地上に降りてきたイオンちゃんが"お友達"にお礼を言いながら、そう言って木の方を指差した
「き、きみたち~大丈夫~~~」
そしてイオンちゃんが指差した方からどこか見覚えのある姿の女性が、こちらの身を案じるような声をかけながら近づいて来た。
身体に木の枝の刺さった姿で。
「ひい!? おばけ!?」
「? その人生きてるよ?」
「こんな真昼間の外に幽霊なんか……いるっちゃいるけど。とにかくあんたこそ大丈夫?」
あんまりにもショッキングな姿だったものだから思わずおばけとか言っちゃった。いやでも枝刺さって血塗れとかホントにびっくりしたから……"そっち"の事に精通してるイオンちゃんが言うにはちゃんと生きてる存在みたい。
エスちゃんは多分イオンちゃんの"お友達"の事を差す事を呟きながら、見覚えのある女性──イエローハートに酷似した人を心配する声をかけた。
「うんっ。大丈夫…大丈夫…」
イエローハート似の女性はそう言いながら頭に刺さっていた枝を強引に引っこ抜いた。
ぶしゅぅ、と枝が抜かれた場所から血が溢れる。
「ほら!血が出るからおーるおっけー!生きてるよっ!」
頭から血を噴出させながら、にこやかに語り掛けてきた。
「ぴぃっ!!」
「ふぉー、噴水みたい! おもしろーい!!」
「うわぁ」
当然そんなので安心できるはずもなく余計に怖くなった。
エスちゃんも引いてるし、イオンちゃんは何故か楽しんでるけど。
「かか、かいふく、しますから…!」
と、とにかく怪我を治してあげないと……多分わたし達のせいで負った傷だろうし。
イエローハート似の人に──エスちゃんの背を押して隠れながら──近寄り、傷口に回復魔法をかけて治療していく。
普通の人の怪我ならすぐには治らないけど、この人が見た目通りならすぐに治るはず……ほら、治った。
「ありがとっ、もう大丈夫だよ!」
傷が塞がるとイエローハート似の人はそう言って光に包まれる。
光が収まると……そこに立っていたのはピーシェちゃんに似た、けれど子供じゃなく成長した姿をした女性だった。
「回復、感謝します。小さな魔術師さん」
話し方や雰囲気もイメージと違う女性はそう言ってわたしの頭を撫でてくる。
「あぅ…」
「助けてくれようとしたけど役立たずだったわね。なんてことは流石に言わないけど、まぁ運が悪かったわね」
それを見てエスちゃんが警戒心をそのままにわたしと女性の間に立ち塞がるように立って言う。
う、うう。まぁ見た目が似てるからって無警戒だったね…反省しなきゃ。
「わたしはエストよ。それで、あんたの名前を聞いても?」
「自己紹介感謝します。私はピーシェです。以後お見知りおきを」
エスちゃんがそう言うと、女性──ピーシェは軽く一礼した。
「あー、やっぱりピーシェちゃんなんだ! …色々おっきいけどー」
「そこ、不貞腐れない。後同じ名前だからって同一視もダメよ」
「流石に手馴れてるよね……あ、ディールです」
「ボクはイオン!」
イオンちゃんがピーシェという名前に反応しつつその大きな胸を見てむすっとして、そんなイオンちゃんをエスちゃんが窘めて「はぁーい」と返事を返す。
次元を旅してこういう状況に慣れてるエスちゃんが仕切る中で、わたしとイオンも自己紹介を済ませる。
「…反応から察するに、多少次元移動のご経験がありそうですね」
そう言って、ピーシェちゃん……ピーシェさんはため息をついた。
うーん。ピーシェさんならさっきの姿はイエローハート……だよね。プラネテューヌの女神なのか、それとも……
「ここは超次元、という世界線です。私は神次元という所の出身ですがね。ご存じであればどこの次元軸か教えていただけますか?」
どこか業務的に淡々と説明しつつ、こっちの出身次元を聞いてくるピーシェさん。
「…だって」
「ボクは神次元ってとこだったよね?」
「でもあのピーシェちゃ…さんとは別の神次元じゃないかな…?」
「でしょうね……んんと、わたし達はこことは別の超次元からだと思うわ。…多分」
ピーシェさんの言葉にさっと三人で集まり、即席会議。
……確かグリモが「縁を結んでない存在からは秘匿された次元……名付けるなら幻次元とかですかね~?」とか言ってたけど、通称は「超次元」と「神次元」だったから…そっちの名前でいいよね。
短い会話でそんな結論に至り、この中で対人経験値が一番高いエスちゃんがそう答えた。
「わかりました。ゲイムギョウ界とわかるだけで十分です」
ピーシェさんはそう言って、微笑みを浮かべた。
すごく自然な、けれどもどこか作った笑顔……そう感じさせる微笑み。
「取り合えず、ここから近いプラネテューヌの協会まで案内します。よろしいですか?」
そのまま手慣れた様子で、焦る様子もなく淡々とピーシェさんは会話を続ける。
信用できるとは言い切れないけど……かといってグリモから連絡が来るまで彷徨うっていうのもなんかあれだよね……
「ふーん……いいわ。ついていく」
「えっと……よろしく、お願いします」
警戒は解かないままだけど、一先ず彼女の誘いに乗っかることに。
イオンちゃんは多分こういう状況の時はわたしとエスちゃんについていくようにとあの人に言われてるはずだから、いつも通りのにこにこした表情で依存はなさそう。
「はい、ではいきま───」
ピーシェさんが音頭を取って、協会まで向かおうとする。
その時だった。
ガアアァァァーーッ!
わたし達の行く手を遮るように、一匹のモンスター──ドラゴン種のモンスターが立ち塞がった。
「ちっ、タイミングが悪い……下がっててください」
ピーシェさんはドラゴンを見てため息をつくと、ポケットからナイフを取り出して構える。
「あ、ドラゴンだー」
「そうね、ドラゴンね」
「えっと…そう、だね?」
まぁ、確かにドラゴン種だし、それもステータス、レベル共にかなり高い部類に見られる個体だけれども、わたし達のドラゴンに対する反応はあっさりとしたものだった。
故に、ピーシェさんの言葉には従うことなく、前に出る。
「いーよいーよ、ただでさえお世話になる人にこれ以上貸しつくりたくないし」
「言い方…」
「それにわたし達なら、よゆーだし。ね、イオン」
「はーいっ。みんな、お願いっ!」
警戒してるとはいえ言い方がアレなことを咎めるような視線をエスちゃんに向けつつ、杖を手に持つ。
まぁ、ほら。今回わたし達の立ち位置ってパラレルというか、諸々伏せつつの神次元編後って感じだから、わたし達のスペックも…ね?
エスちゃんがイオンちゃんに声をかけて、イオンちゃんが武ギターを手にしてかき鳴らすと、エンシェントドラゴンの足元からゴーストウルフ達が飛び出し、ドラゴンにまとわりついて動きを封じ始める。
「……エスちゃん、チャージいいよ」
イオンちゃんがドラゴンの動きを止めている間に魔法の展開を終わらせて、エスちゃんに伝える。
エスちゃんの方も魔法陣を展開していて、もう準備は万端。
「わたし達を相手するなら──禍津日神クラスになって出直す事ね!」
エスちゃんのキメ台詞を合図にイオンちゃんがゴーストウルフを散らせてドラゴンの拘束が解ける。
でもドラゴンに何か行動を許した訳ではなく、すかさずわたしとエスちゃんの魔法が発動してキィィン…とドラゴンが一瞬で氷漬けになると、そのままバキィンッ、と氷ごとドラゴンは粉々に砕け散っていった。
チャージ時間をイオンちゃんの拘束で補って、わたしとエスちゃんの二人分の魔力で放ったエターナルフォースブリザード──相手は死ぬ。
「……いやそれレベル100以上のクラス!!ていうか四糸乃ちゃんレベルに規格外ぃ!!」
なんて感じにドラゴンを瞬殺したらピーシェさんからツッコミが。
レベル100くらいなら瞬殺できないと……追加マップは魔境だよ…。
「ふぇっくしゅん!」
「うーん…ディーちゃんちょっと出力上げすぎじゃない? 環境破壊したいの?」
「ち、ちが……そこそこ強そうだったから倒しきれなくっても困ると思って…」
ただちょっとばかり過剰に魔力を込めすぎたみたいで、辺りの気温がすっかり下がってしまった。
やれやれとエスちゃんが魔法で火球を宙に浮かばせて、下がった気温を戻そうとしてくれていた。
イオンちゃんも寒そうにしてるし、失敗したなぁ…。
「……は、はは……世も末」
ピーシェさんはピーシェさんでわたし達を見ながら顔が引きつらせていたし。
……まぁ頭に枝刺して笑う人よりは……
「はい、こんなもんね。さ、案内を頼めるかしら?」
気温が元通りになって、エスちゃんが火球を消してからピーシェさんに向き直り、何事も無かったように振る舞っていた。
「…正直、聞きたいことが山ほどありますが……ついてきてください、私を利用しようと思うのならば」
「はいはい、ついていきますよー」
「……」
「ふんふんふーん♪」
気を取り直した様子のピーシェさんが改めてすまし顔でそう告げて、わたし達は彼女の後に続くようについていった。