俺、ハンター辞めて婚活したかった。   作:ラスト・ダンサー

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明けましておめでとうございます(震え声)

前の投稿から半年近くたったけどその前は2年空いたから早い方だな!(錯乱)

あと本編一万字越えだけど分割するの面倒だったからそのまま投下しました。


ホットドリンク、マズ過ぎて凍えたほうがマシか否か

「いやはや、それにしてもキミがねぇ?『エイト・ハウンズは弟子を取らない』なんて言われるほど志願者を突っぱねてたのにねぇ……どんな心境の変化があったんだい?」

 

「師匠の姪っ子なんだよリサは。師匠の頼みを無下にするほど恩知らずになった覚えはないが、それ抜きでも戦闘技能極振りのヤベー奴だよ。代わりに他は壊滅的だがな。そろそろ極限環境下における体温管理を教えないと次に進めん」

 

「君とそっくりじゃないか。師匠が師匠なら弟子も弟子かな?」

 

「おうテメーそれは俺がヤベー奴だと言いたいのか?」

 

陽が傾き始め、辺りが茜色に染まり始めた頃。

リサの説明をしながら、もしかしたら泊めてもらえるかもしれないという事でドンドルマの住宅街にあるハゲの自宅前へとやって来ていた。

俺は二等宿舎に泊まるからリサだけ預かってもらえればそれでよかったんだが……ハゲ曰く、ハンター用の宿泊施設は身分証明のためにギルドカードを提出するのだが、その時にG級ハンターってことが一発でバレて宿泊拒否されるらしい。

G級ハンターがかけだしとか下位のハンターのための施設である二等宿舎に泊まるのは、ギルドの沽券に関わるためとのこと。要は大人の事情(面子の問題)ってやつだ。

 

「それじゃ、ちょっと聞いてみるから待ってて」

 

ハゲがただいまー、と玄関から自宅に入っていくのを見届ける俺とリサ。着の身着のまま……というわけでもなく、どうにか持ち出せた着替えと財布が詰め込まれた背嚢とギルドカード、ハンターノート、あとは大剣(アギト)、アイテムポーチが現在の持ち物。

ちなみに前回怒りの家屋粉砕に使ったウォーハンマーはここに来る途中に焼け残った私物の回収に来ていたギルドの業者に渡してあり、特等宿舎(倉庫)に届けられる予定。

 

しかし、あのハゲ結婚してたのか。

それに娘達が居るって言ってたなぁ。

上の子が思春期で態度が冷たくて、とか道中愚痴られたから十代後半くらいなのだろう。つまり、俺がハンターになる前には娘が生まれていたということになる。

 

…………とどのつまり生物の本能的な目標は生き残り次世代の子孫を残すこと。どんなに優秀で長生きして生き延びても子孫を残せなければ、結局のところ生物としては完全敗北も同然ということ…………なんか自分が惨めすぎて死にたくなってきた。誰にも構われずに静かに消え去りたい。どうせ俺なんか魔法使い予備軍の年齢=彼女いない歴の非モテ野郎だよ畜生!

 

「師匠!?なんかどんどん顔色悪くなってますけど!?」

 

「気にするな、もとからこんな色だったろ」

 

「いやいやいや!?明らかに土気色になってきてますよ!?悩み事があるなら私が相談に乗りますよ」

 

「なら今すぐに自分の宿くらい用意できるようになってくれない?」(全力の頬つねり)

 

「ああああああ!!ほほはほへふ(頬が取れる)ぅぅぅぅ!!」

 

リサの頬を引き伸ばして憂さ晴らしをしながらハゲを待っていると、気が付くと二人組のハンターがこちらを見ていた。

サザミシリーズ姿の気の強そうな少女と、ゲリョスシリーズ姿のおっとりした何処か不思議な雰囲気の少女だ。たぶんリサより少し年上くらいだろう。

少々装備に汚れが目立つが、狩りの帰りだろうか?

こちらに向ける視線はどこか訝しげなモノを見るようで、今にも衛兵に突き出されそうだ。

いや違うんです、これはあくまで弟子を可愛がって……ってなんかこの言い訳も謎の犯罪臭がする。

 

やっべどう誤魔化そうと近年まれに見るレベルで思考を回転させていると、とうとう「あのー」と二人組に話しかけられた。

 

「家の前で何やってるんですか?同業(ハンター)の方ですよね」

 

「おとーさんに用事ですかー?」

 

そういえば俺はハンターシリーズを身に付けているし、リサはチェーンシリーズ姿だ。

もしかしてハゲの娘さん?なんて聞きそうになったところで玄関が開き、ハゲが顔を出した。

 

「大丈夫だったよ…………って、トーカにフーカ。お帰り。早かったじゃないか。予定じゃ明日までかかるって聞いてたけど」

 

やはりハゲの娘達らしい。

親子揃ってハンターをやってるのか。

二人ともライトボウガンを背負っているので、少なからずガンナーであるハゲに影響を受けた様子だ。

しかしトーカと呼ばれたサザミシリーズの子はハゲを見るなり表情が険しくなった。

 

「……なに?早く帰ってきちゃダメだったの?」

 

「い、いいや?ここはお前達の家だ。帰ってくるのに文句なんか有るわけないだろう?」

 

それに対してトーカは「……あっそ」と一言残してさっさと家の中へと消えていった。入り口で冷や汗を流しながら固まっているハゲを「……邪魔なんだけど?」と視線で威圧してどかせるという家庭内のカーストが垣間見える一幕もあった。

 

「あれが例の反抗期の?」

 

「……前は違ったんだけどなぁ。いまや何を言ってもあんな調子なのさ……」

 

「おねーちゃん今気難しい年頃からね。今だけだよきっと」

 

哀愁を漂わせながら項垂れるハゲに対して、もう一人の娘であるフーカはどこか達観したような、開いているのかよく分からない細目を夕日の方へ向けながら頷いていた。

そしてさりげなくハゲの側頭部の毛を一本摘まむと勢いよく引き抜いた。プツンッという毛の悲鳴が聞こえてくるようだった。

 

「いったああああ!!残り少ない毛が逝ったあああああ!!えっ!?なんで!?なんで今自然に髪の毛を引きちぎったの!?」

 

「なんとなーく?」

 

なんとなく!?とこれ以上は髪を抜かれてたまるかと頭をガードしながらフーカを叱るハゲ。

これも一種の反抗期なのだろうか?

それにしてはそのアプローチが一部の男性に対して効果抜群なのでやめて差し上げろ。同じ男として戦慄を覚える。

 

それを眺めながら、まるで他人事のよう(実際そうなのだが)にリサはポツリと呟く。

 

「ほえー、私にもいつかあんな感じになる時がくるのかな」

 

「仮にだ。弟子入り中に俺に対してそんな反抗的な態度を取ってみろ。俺はお前をしこたましばき倒した後、気球に宙吊りにして大陸横断ツアーをしてやる」

 

「さりげなく恐ろしい構想を話すのやめてもらえます!?」

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

とても暖かみのある家庭料理をいただいた食後。

色々と今後の相談をすることになっていたのだが、何故かハゲは早々に部屋に戻りたそうにしているトーカを引き留め、席につかせたままである。フーカは面白そうだと感じたのか最初から居座る気だったらしい。

 

「あー、遅れたけどお客さんの紹介をしようか」

 

「どーせまたホモとか奇人変人の類いでしょ」

 

「おねーちゃんお客さんに失礼」

 

ああ、ハゲの知り合いといったらアイツ(ホモ)を筆頭にへんな奴が多いからなぁ…………。

レズ(熟女好き)ケモナー(アイルー専門)女装野郎(女になった自分が理想)とかその他色々…………見事に変態しかいないな。

おまけにハゲの奥さんですらハゲフェチだから手に負えない。

 

「というかまだ紹介してなかったのか?」

 

「いやほら、(ホモ)とかその他数人の件以来、仕事仲間つれてきたことなかったから…………」

 

いったい何をすればあのホモはこの一家にここまでのトラウマを植え付けられるのだろうか。

それ以前にハゲの知り合いにまともなのがいないのが原因ではないか?

 

「……オホン、改めて紹介するよ。彼はハンター仲間のエイト君に、その弟子のリサちゃん」

 

「どもー」

 

「よろしくお願いします」

 

「…………で?この人は何の異常性癖持ちなの?」

 

異常性癖持ちなの前提で話すのやめてくれる!?

俺は至ってノーマルだ!

むしろ性癖が決まってないまでもある。

だからその汚物を見るような目をやめろ。

俺そういう趣味はないの。

 

「おねーちゃん、エイトってもしかしてあのエイト・ハウンズじゃないの?」

 

「エイト・ハウンズって……あの古龍の襲撃から単独でドンドルマを守れるとか、撃退した古龍を単身追撃してそのまま討伐したとか、その逸話から人間最終兵器とか言われてるあの伝説の?」

 

個人的には色々と張り切りすぎて過去にやらかした話を列挙されるのはむちゃくちゃ恥ずかしい。

あと微妙に話が盛られているので訂正する。

まずドンドルマの防衛はさすがに一人だと無理です。

ドンドルマの衛兵を総動員して手厚い支援を受けてようやく防衛戦として成り立ちます。

街の被害を無視すれば追い返すぐらいは出来るが、それでは防衛戦として成り立たないですハイ。

ぶっちゃけ古龍一体でドンドルマの防衛戦力は限界ギリギリです。守るのって難しいことなのだ。

何かの拍子に同時襲撃されたら死ねる。お前らのことだよテオ夫妻。絶対に来るなよ!フリじゃねぇからな!

あと撃退した古龍を単身追撃した話は、あれ実は後から何人か途中で合流して最終的に四人パーティー組んでたので追いかけ始めたときだけ一人だったというのが真実。つまり、俺が勝手に先走っただけです。

 

あの頃の俺は、ちょっと頭おかしかったから。

『ヒャッハァー!モンスターだ!狩猟だ!』ってのがデフォだった。

そのイカれ具合を示す一例がこちら。

 

テルスがクエストを持って現地に来る。

それを受注し、受注書をテルスにもって帰らせる。

フランがやって来て、着ている装備を回収する。

フランに預けていた装備を受け取る。

該当するクエストエリアに移動する。

クエストを完了。

以下無限ループ。

 

回復薬などは現地で素材を調達し、装備フルセット2つをローテーションしながら延々と大型種連続討伐ツアーとか古龍追撃ツアーとかを続けて、半年ほどドンドルマに戻らずに野生化しかけるとかやってた。

 

噂を聞き付けたノエルが「いい加減にしろ貴様ァ!」と狩猟矢を振り回しながらベースキャンプを襲撃してきたので、連日深夜テンションだった俺も「()ンのかオラァ!」と応戦し、疲れ果てたところを二人揃ってネコタクに強制帰還させられ、大長老直々に説教されたりしました。

 

ホントにあの頃はどうかしてた。

 

俺が無表情で遠い目をしているのも露知らず、目の前の若きハンター達はというと、

 

「えっ!えっ!?マジどうしよう!?」

 

「とりあえずサインもらう?」

 

などとテンションを上げながらキャッキャッと楽しそうにしていた。

 

それを横目に、横から露骨に視線を感じたのでハゲの方を見ると、口パクとジェスチャーを交えて何やら話しているようなので読唇するとこんなことを言っていた。

 

「何かためになるような話とかアドバイスしてやって」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

案の定なんか喋ってという不自然極まりない話の持って行き方で凄まじい無茶振りをされたので、まだ真面目にハンターとして活動していた頃───具体的には友人の結婚式に呼ばれてやる気がなくなる前───の話をすることにした。

 

上位のクエストを受けるようになった一部のハンターなら知ってると思うが、守秘義務が発生するクエストというのが多々ある。

一定期間(1週間~半年ぐらいが多い)そのクエストに関する情報を黙ってればいいものや、墓場まで持っていく類の秘密まで様々だ。

前者はライバルの商人にバレないように流通ルート上のモンスターを排除してくれとか、住民に余計な不安を与えたくないから早めにモンスターをどうにかしてくれみたいなのが多い。

後者はクエストに失敗したのを知られて信用を落としたくないから代わりにモンスターを狩ってくれとか、王族(主に第三王女)とか軍とかの国家機密が関わってくることになるので色々と面倒臭い。

なので、一応守秘義務の遵守期間の終わっている話を選んで話すことにした。

 

「三ヶ月くらい前の話なんだが、その時は東方大陸のクエストをいくつか受けてたんだ」

 

「東方大陸?」

 

東方大陸に聞き覚えがないのか、首を傾げるリサ。

トーカ、フーカ姉妹もなんのことやらといった様子だ。

唯一ハゲのみが「あぁ~」と遠い目をしている。

東方大陸とは、この大陸の東に存在する文字通りの東方にある大陸である。

少々距離がある上に海を隔てた場所にあるため、あまり交流が多くはないが、ハンターの武器の1つ、『太刀』の発祥地であることで有名である。

他にも刀や薙刀、独特の形状の機動性を重視した鎧など独自の文化(ブシドー)が根付いており、そのいくつかが大陸にも伝わってきている。

 

「その東方大陸にある樹海の先に塔があるんだ。馬鹿みたいにデカイ塔でな、建築技術自体はそれほど高度というわけでもないんだが、なにしろサイズと高さが常識外れなことから、古代文明の産物というのが学者連中の見解らしい」

 

おまけにいつでも行けるというわけでもなく、周辺環境が安定しないため、現地の熟練案内人でもなかなかたどり着けないので、調査が遅々として進まないらしい。

さらには周辺は希少種や古龍などの目撃情報が後を絶たない超危険地帯でもある。

 

そこまでの説明を聞いて目を輝かせていたトーカは、ふと疑問に思ったのかポツリと呟いた。

 

「そんなところになんのクエストで行くことに?」

 

「依頼人は古代の衣装を纏った青年と少女のコンビだったんだが、彼ら曰く、『()るお方から管理を仰せつかっているある場所に不躾な下朗共が居座っていて困っている。なんとか追い出せないか』ってな」

 

しかし肝心の狩猟対象の情報は依頼人がやたらと遠回しな比喩表現を用いた説明でしか教えてくれなかったからなんか爆発することと見えにくくなることぐらいしか解らなかったが、報酬額が0が一桁多いんじゃないかと思うくらい破格だった。

さらに依頼人が現地まで直接道案内してくれたことで、本来なら環境が安定するまで前線拠点で待機するものなのだが待つ時間がほとんどなかったので、狩猟対象がハッキリしない点を除けば意外とサポートのしっかりしたクエストという評価だった。

……それもあの、クソデカ爆発轟音トカゲ(ティガレックス希少種)クソデカ透明暗殺トカゲ(ナルガクルガ希少種)が相手であったと判明した瞬間にクエストの評価はだだ下がりだったが。

 

余談だが、依頼人の青年は全体的に赤色の衣装、少女の方は青色の衣装だった。

お前ら絶対どっかで俺と会ったことあるよな?

初対面の筈なのにやたらと馴れ馴れしかったし。

 

「霧の出ている月夜に、辺りを舞う爆発性粉塵とティガレックスの超高速突進をやり過ごし、姿の見えないナルガクルガの斬擊と毒針を半ば勘で避け、もう何がなんだかわかんなくなりながら戦ってたよ。ソロでな

 

「うーん、相変わらず頭のおかしいことをやってるなぁ君は。まぁもう慣れたよ君が変なのは」

 

誰が変なのじゃい。

 

「それでッ!それからどうなったんですか!」

 

最初こそ素っ気なかったものの、途中から夢中になって聞いていたトーカが続きを催促してくる。だんだん前のめりになってたよキミ。

 

他の二人は、フーカは「ほえー、すごーい」と半分口が開いた状態で話を聞いており、リサはというと「さすが師匠、略してさすししょ」などと語呂の悪い謎の略語を作っては一人でにやついててキモい(直球)

 

「実はこの二体は縄張り争いをしていたようでな。二対一かと思ったら上手いこと実力が拮抗してた三竦み状態だったわけよ。だから途中から俺は攻撃を控えて回避に徹しながら避けた攻撃がモンスターに当たるように立ち回って、自分は体力を温存しながら他の二体が消耗するようにしたんだ。それで夜明けぐらいまでかかってようやく二体共仕留めた」

 

結局一晩中戦ってたんだよなぁ。

いやぁ、あのときはしんどかった。

決め手は月光がなくなったことによるナルガクルガ希少種の透明化が解除されたのとティガレックス希少種のスタミナ切れが同時に起こったことだろう。

今なら行けるという直感に従って斬りかからなければ、あのままどちらかに逃げられただろうしな。

 

「凄い……凄いけど凄過ぎて参考にならない……」

 

さっきまで目を輝かせていたが、トーカが徐々にテンションを下げるように声のトーンを落とした。

例として挙げると、モンスターの呼吸や動作の起こりを読んで攻撃するという俺の説明のその『呼吸や起こりを読む』のを具体的にどうやるのか聞きたかったのだろうが、如何せん俺の説明は感覚的な部分が大きくあまり参考にならなかったらしい。

そもそも俺は近接専門。ガンナーである彼女達が参考にするには不適格もいいところだ。そこのハゲに聞いた方がよっぽどためになるだろうが、絶賛反抗期のトーカにはそれは難しいだろう。

 

ハゲが俺に何か話とかアドバイスをなどと言ってきたのと、装備が汚れていた辺りから察するに、どうやらトーカ達は最近狩りの調子が思わしくないようだ。原因は恐らく大型モンスターの狩猟についてだろう。トーカやフーカぐらいの中堅ハンターはクック先生を相手にある程度の立ち回りを覚え、ゲリョスやダイミョウサザミなどの比較的危険度の低い大型モンスターを倒せるようになるまでは順調なのだが、ここから次へのステップアップで躓くことになる者は意外と多く、ガノトトスやリオレイアなどの強力な大型モンスターが中堅ハンター達の壁となっている。

巨大な竜を己の(技量)と鍛えた武器で打ち倒すという狩りが楽しくなってくる時期でもあるが、理想と現実との差をまざまざと見せつけられ、ここでドロップアウトする者が多数いるのも事実であるため、色々と難しい時期なのだ。

 

「あー、あれだろ君ら。今まで順調にやってこれたせいで突然の挫折ってのにどうして良いかわかんなくなったってところか?」

 

こういうのはあんまり回りくどい話し方をしていても埒が明かないので、荒治療だがストレートに問題点を指摘してやった方がいいと思う。特にトーカみたいな負けず嫌いには。

 

「ッ……!別に挫折したわけじゃないし……ちょっと調子が悪いだけだし……」

 

「まー、確かにここ最近はハンターランクの昇進に失敗してて芳しくないね」

 

「ちょっとフーカ!?」

 

「けど事実だしー?」

 

「で?何に躓いたんだ?ネルスキュラか?リオレイアか?」

 

そう問い詰めると、しばらく逡巡しながら「あー」だの「うー」だのと唸っていたが、決心がついたのかぼそりと呟くように現在の彼女の怨敵の名を告げた。

 

「…………ドドブランゴ」

 

「なるほど、雪獅子か。アイツは確かに厄介だな」

 

雪獅子の異名をもつ牙獣種、ドドブランゴ。

ブランゴという雪山などの寒冷地に棲息する牙獣種の所謂(いわゆる)ドス個体にあたる群れのボスである。

群れのブランゴを潜ませておいて奇襲かけたり、地形を利用した攻撃などを仕掛けてたり、鳥竜種のドス個体のように群れを率いた集団戦法を取るなど非常に知能が高いことが確認されている。

 

ドドブランゴは雪山という相手のホームグラウンドにこちらから出向かなければならないという関係上、不利な戦いを強いられる。おまけに雪山が吹雪くと視界が奪われた状態で部下のブランゴに囲まれたりと、対策をしっかりと練らないと手も足も出ないなんてこともザラにある強敵である。単純に強さで言えば先に挙げたリオレイアなんかの方が強いだろうが、面倒さならばドドブランゴの方が上だと感じるのではないだろうか。リオレイアは毒対策をしておけば、後は実力で捩じ伏せるというシンプルな対処法しかないと思う。

 

「気がついたら囲まれてるし、雪だるまにされるし、あのクソモンスターめぇぇぇ!!!」

 

「おねーちゃんキャラ崩れてる」

 

話す内に悔しさが込み上げてきたのか頭を振り乱して怒りをぶちまけるトーカ。ちなみに髪型は紳士諸君の予想通りツインテールなのででんでん太鼓のようになっている。

 

「で、親御さんとしてはどうなのよ。ぶっちゃけ俺に何をさせたいんだ?」

 

「ほら、リサちゃんにそろそろ極限環境下における体温管理を教えようかな、って言ってたじゃない?」

 

「言ったな」

 

「初心者に体温管理を教えるなら雪山が最適だからその内雪山に行くつもりだったでしょ?」

 

「確かにそのつもりだが」

 

「そのついでにウチの娘達の現地指導やってみない?」

 

「は?」

 

さてはオメー最初からこのつもりだったな?

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「んで、気がついたらこのザマだよ畜生め」

 

「何処に向かって話してるんですか?」

 

「黙れ気が散る」

 

「超絶理不尽!?」

 

吹き付ける粒の大きな雪。払っても払っても即座に頭には雪が降り積もり、前髪には氷柱が下がってゆらゆらと揺れている。見渡す限り一面の銀世界───などと詩的な表現をするにはいささか天候が悪過ぎた。吹雪により視界はホワイトアウト一歩手前といった有り様で、荷車を引いているポポの少し先が見える程度だ。

 

さっきも言ったが御者台には容赦なく雪が吹き付けており、背後の屋根付きの荷台に不詳の弟子とハゲに押し付けられた件の姉妹が乗っている。あの後、結局押しきられた上にギルドに行かされて『現地同行審査官』の申請をさせられた。

 

ハンターランク昇格の際、本人達からの自己申告と、討伐もしくは捕獲されたモンスターの状態から審査をするのだが、審査対象のハンターも昇格がかかっているため話が誇張されていたり、確認までの間にモンスターの死骸が他の生物に荒らされ、審査の判断基準として相応しくない状態になっていたりすると審査に時間がかかる。そのため、クエスト帰還後に即座に昇格が決定するというのは時間的に難しい。対策として古龍観測所の気球が暇なときに上空から監視してもらったり、ギルドから現地に派遣されるアイルーに証人になってもらったりなど、第三者からの評価が得られた場合は早めに昇格が決定したりするが、総じてハンターランク昇格の査定は時間がかかるものであるというのがギルド職員の認識であり、その他の業務に忙しいギルドでは緊急性が低いという理由から後回しにされがちである。

 

この状態を少しでも緩和するために、ギルドでは上位以上のハンターから有志で現地同行審査官を募っている。

現地同行審査官は文字通り昇格査定のために現地に同行し、自らの経験や知見を元に評価を行う。これに登録申請をすると、性格、知識、信頼性などがギルド側の要求する基準を満たし、問題がなければ認定される。その際に審査官の提出する情報信用度のランク付けが行われるのだが、俺はAランクらしい。どんな基準で格付けされたのかは全くもって不明だが。万年人手不足のギルドではこういう形で委託可能な業務をハンターや協力機関に委託し、業務の効率化を図っているらしい。登録申請をしに言ったら担当窓口の人が隈だらけの引き攣った表情で教えてくれた。

どんだけブラックなんだよギルド職員。

 

「お、晴れてきたな」

 

ギルド職員の就業体制はさておき、頭の雪を払い除けながら空模様を窺う。吹雪も多少は収まってきており、雲の合間から僅かに日が射している。ようやく天候が落ち着いてきたために視界が開け、雄大なフラヒヤ山脈が一望できる。その麓に位置するのが今回の目的地であるポッケ村だ。

 

一年を通して雪に覆われ、大マカライト鉱石をシンボルとするのどかな村で、一時期は鉱山村として栄えていたこともある。最近は古代の竜人族が振るったという老山龍を一刀両断できそうな大剣が村内の洞窟から発見され、それを観光資源として活用しだしたそうだ。

ハンターが雪山に挑む際の拠点として利用することが多く、交通網が発達したお陰で訪れる人数も劇的に増え、なかなか賑わっているようだ。

 

「うぅ……寒い。何度来てもこの寒さに慣れる気がしないわ」

 

「おねーちゃん着込み過ぎじゃない?ウルクススみたいだけど」

 

ウルクススと称されたトーカは一応移動中の警戒のため武装した状態だが、防具のインナーを重ね着して着膨れしている上に毛皮のマントを羽織っている。

 

雪山を主な狩場としているハンターなどは耐寒性能の高い装備で身を固めているが、ホットドリンクの耐寒作用で事足りるためそちらで済ませるハンターも多い。しかし、ホットドリンクの問題点をあげるならばお世辞にも旨いとは言えない代物だということだろうか。原材料がにが虫とトウガラシであることからだいたい察せるとおもうが、苦い辛いの二拍子揃った美味しくない飲み物の代表格だ。一応、店売りの品などはスープのような味付けをすることで多少はマシになっているが違和感は拭えず、そこはかとない『コレジャナイ感』を覚える。現地で素材から調合した場合は味など整えている暇がないため……察して(懇願)いや察しろ(憤怒)

 

我々も道中の寒波から身を守るためにホットドリンクを定期的に摂取しながら移動していたがトーカはホットドリンクが苦手なようで、あまり口にしていないようだ。

ドドブランゴに負けるのそのせいでは?

 

好き嫌いとは、感心しないな。

だが、分かるよ。

ホットドリンクは不味いものだ。

だからこそ(防寒のために)恐ろしい(味の)ホットドリンクが必要なのさ。

 

「私は全然平気ですが」

 

「お前は馬鹿だから寒さにも鈍いんだな。羨ましいよ」

 

「ナチュラルに酷い!」

 

さて馬鹿は放って置くとして、狩りの前に体調を崩されるのも面倒なので、御者台からトーカに包みを手渡した。

 

「何ですかこれ?」

 

「ホットドリンクに混ぜるといい。仮称はホットスープの素。試しに作ったんだがコストがかかるんで、目下コストダウンに挑戦中だ」

 

ホットスープの素は名前の通り、ホットドリンクの味をどうにかしようと香草やら調味料やらで試行錯誤を重ねた結果、奇跡的に誕生した趣味の一品。乾燥肉なども入っているので多少のスタミナ回復効果もある。

唯一の問題は使用する素材が結構値が張るので量を用意するのが難しいこと。レシピは別に秘密でも何でもないので、よりホットドリンクの味を安価に改善してくれるならと知り合いの料理人などに配布済みである。

 

トーカは半信半疑でホットスープの素をホットドリンクに投入し、恐る恐る口をつけた。しばらく舌にスープを馴染ませ味を確かめていたが、エグみも後味の悪さもなく、辛さも抑えられていることを確認すると、ホッとしたように残りのスープをぐい飲みし、あっという間に完食した。

 

「美味しい……」

 

「そりゃよかった。ちなみにそれ1つでホットドリンクが10本ぐらい買えるぞ」

 

「え"?」

 

「おねーちゃん婦女子が出しちゃいけない声が出てる」

 

「だって、これ下手したら店売り防具の兜とかと同じくらいする超高級品ってことじゃ……」

 

わりととんでもない値段だったことに戦慄するトーカ。

コイツ親父と似てからかうと滅茶苦茶面白い。リアクション芸人の血は争えないな。

余談だが、あくまで素材単価でホットドリンク10本分の値段なので実際に素材を仕入れて数を揃えようとすると人件費やら輸送費やらで倍以上の値段になるので、現状では流通させるのは不可能だ。そもそも需要が無い。

 

そうやって他愛もないことを話していたところ、突然リサがハッ、と進行方向のさきにある丘へと視線を向けた。

 

「!何だろう……殺気!?」

 

「しびれを切らしたらしい。奴さんかなり余裕がないみたいだぞ」

 

吹雪が晴れてきた直後から()()()()()()()()()()には気づいていたが、どうやら気配を隠す気がなくなったようでこちらの進路上にある岩場の辺りから隠しきれない殺気が滲み出ている。

リサはそれに気が付いたらしい。こちらへ殺気を向けた瞬間に気づいた辺り、まだ甘いがさすがに生まれてきたときに戦闘方面に才能ガン振りしてきただけあってそのセンスは凄まじい。

 

「リサ、手綱よろしく」

 

「え?ちょ、私そんなのやったことないんですけど?」

 

やり方わかんないんですけど!?と悲鳴をあげるリサに手綱を押し付け、荷台に立て掛けていた大剣、アギトを引っ付かんで御者台から飛び降りる。

 

「何か来るんですね?」

 

「襲撃ですかー?」

 

弾を籠め、ハンドルを引きながら訊ねてくるガンナー姉妹。表情は引き締まり、二人とも臨戦態勢だ。さすがに中堅ともなると切り替えが早い。

 

「とりあえずこっちで追っ払うが、万が一俺を無視して荷車に行くようなら足止めを──ってもう来るか!?」

 

直後、岩場から飛び上がり滑空しながらこちらに突っ込んできた巨体を逸らすようにアギトの側面を叩きつける形で振り上げる。

 

「うぉらぁっ!!」

 

ガゴンッ!という硬く重量のある物体がアギトの側面に接触。突っ込んできた影の着地点を少しずらすことに成功し、荷車の後方近くに雪を豪快に巻き上げながら着地。アギトごと大きく弾かれたが、弾かれた勢いを乗せたまま足を軸にアギトを水平に振り回すことで、衝撃を利用した追撃を行う。剣先がいくらか相手を切り裂くような感覚はあったが、浅い。素早くこちらから距離を取られたせいで表皮と鱗をいくらか傷つけた程度だろう。飛び退いた影は後ろへ滑っていき、荷車からだいぶ離れたところでようやく止まった。

 

巻き上げられた雪が収まると、その影の正体が露になる。巨体を動かすに相応しい筋肉から発せられる熱で表皮についた雪を溶かし、湯気をあげながら姿を現したのは、黄色地に青い縞模様という特徴的な模様と古い種の特徴を色濃く残した強靭な顎と発達した前肢を持つ飛竜。鼻息荒く、苛立ちから顎をガキン、ガキン、と噛み合わせながらこちらを見据えるのは、轟竜ティガレックス。至近距離で食らえば物理的に吹き飛ばされるという轟音の叫び声を放つ、非常に狂暴で危険な飛竜だ。

 

本来なら砂漠に生息する飛竜種でありながらポポの捕食のためにわざわざ雪山に飛来するという一時期騒ぎにもなった生態をもつのだが、なぜわざわざ一頭しかいないポポを襲うんだ?本来なら怯えて山頂付近に逃げるポポの群れを追うため、こんな麓には現れないハズなのだが。ポポの群れにガムートでも混ざってたのだろうか。

見たところそこまで身体が大きくなく、傷痕も少ないので若年個体だと思われる。成体のティガレックスは好戦的な性格と他の大型モンスターの縄張りに土足で入り込むという性質から大小かかわらず多くの傷痕が必ずついているものなのだ。

 

まあ、どうあれ荷車をやられては堪ったものではないのでお帰り願おうか。

 

背後からはどうやら俺が大型モンスター相手に戦うところが見られるかもしれないという期待混じりの視線が向けられているが、殺り合う気は全くない。古今東西モンスターを追い払う(・・・・)んだったらコイツしかないでしょ。ポーチから取り出したのはこやし玉。モンスターのフンを発酵させて作成した堆肥をぶちまけることで強烈な悪臭を辺りに撒き散らす、最狂の手投げ玉である。なお、これは通常のこやし玉ではなくお手製の改良品で、臭いが拡散せずに着弾した箇所に臭いが残留するのだ。

 

「そぉいッ!」

 

威嚇はしていたが反応の遅れたティガレックスの顔面にこやし玉(改)が着弾。モワッ、とおおよその効果範囲を判別するために仕込んである黄土色の粉末が舞った。直後、ティガレックスがあまりの臭さに仰け反り、そのままひっくり返った。どうしていいのかわからず雪に何度も頭を突っ込んだり、前足で頭を押さえて辺りを転げ回ったりと大惨事だ。

 

それを傍目にそそくさと御者台によじ登ってアギトを立て掛けると御者台で固まっているリサから手綱を奪い取ろうとするが、ガッチリと手綱を掴んだまま呆けているため面倒極まりない。

 

「何ボケッとしてんだとっとと逃げるぞ!」

 

「ハッ!?……あれ!?戦わないんですか!?」

 

「こんな荷車の至近距離で暴れられるワケねぇだろ馬鹿か!?馬鹿だったな!この馬鹿!!」

 

「なんか流れるように罵倒された!」

 

「いいから早く手綱を寄越せ!」

 

すったもんだしながらどうにか手綱を奪い取り、ポポに全力で走るように指示を出す。逃げたくてウズウズしていたらしく、ポポは急発進し、御者台に居たリサが反作用で荷台の方にすっとんで行った。

 

 

 

 

俺、雪山でも幸先が悪くて真剣に悪霊の加護がついていないか気になってしょうがない。

 




それじゃ俺は美遊を引くためにガチャを回す作業に戻ります(メンテ延長中)


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