魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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 取り敢えず完結を外し、続ける事にしました。





第14話:帰還 未来組とエルトリア組

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「まあ、取り敢えずだけど行くのは少し待とうか」

 

「……へ?」

 

「それはどういう?」

 

 意味が解らないとキリエもアミタもポカンとなる。

 

「先に未来組を未来に還してやらないと」

 

「「ああ!」」

 

 今尚、ヴィヴィオを含む未来組はこの時代に。

 

 流石にいつまでもこんな過去時代に置いとけない、かといってユートみたいな感じで、この時代に過ごさせて十数年を頑張らせても問題ばかり。

 

 だから『さっさとお家に帰りなさい!』 である。

 

「けどどうやってなの? 確か優斗さんは目印も無しに平行世界間移動は出来ないって……」

 

「ヴィヴィオとアインハルトのVivid組に、トーマとリリィのForce組で二人ずつ居るから問題は無いよ」

 

「……へ?」

 

 意味が解らなかったらしいほむらは、首を傾げてしまうしかない。

 

「しかも二組は地続きしているから、一度だけ使えば済むんだよね」

 

「な、何を?」

 

「【偽・劫の眼(フェイク・アイオンのめ)】」

 

 【11eyes】という世界が存在している。

 

 今は亡き会社より造られた作品であり、六人の仲間で謂わば十一の眼を示す。

 

 奇数なのは主人公である皐月 駆が【劫の眼】を右に持ち、そちらを眼帯にて覆って基本的に左眼だけで見ているからだ。

 

 右眼が金色で目立つし、普通には見えてないから。

 

 尚、百野 栞は仲間という括りから除外される。

 

 あれはエロゲなのだが、ユートが情報を持っている理由はプレイしたから……では勿論無くて、再誕世界で麻帆良学園都市に教師をしに行った頃、第二魔法の権威な爺様があの世界での『死の因果』を掻き集めたヒロインズを連れて来て、再誕世界での黒羊歯 鼎――黒芝かなえに預けた為。

 

 彼の世界にてトゥーレと名乗る存在に在籍していた魔術師、黒羊歯なる一族の出である彼女だが……

 

 再誕世界にはトゥーレという組織自体が存在せず、当然ながらその組織の面子も存在はしていたかも知れないが、少なくとも彼女は全く面識が無さそうだ。

 

 事実、トゥーレの一員だった【色欲(ベギール)】のリーズロッテ・ヴェルクマイスターを見ても、全くの無反応だったらしいし。

 

 因みに黒羊歯 鼎の場合は【憤怒(ツォーン)】だ。

 

 とはいっても再誕世界では単なるフリー魔術師で、麻帆良の図書館島で正しく主の如く【図書館島の魔女】と呼ばれていた。

 

 そんな【11eyes】世界のヒロインズを預かった彼女だけど、『判断に迷った時は面白そうな方を選ぶ事に決めているの』と言い放ってユートに丸投げをしてきたのである。

 

 取り敢えず目を覚ましたヒロインズは、麻帆良学園高等部に入れておいた。

 

 さて、何故に再誕世界で出逢った【11eyes】のヒロインズの話に飛んだか?

 

 勿論、【偽・劫の眼】の説明もあったからなのだが……今一つ、平行世界という話にも繋がるからだ。

 

 【赤い夜】と駆達が呼ぶ現象、その正体はリーゼロッテの幻橙結界(ファンタズマゴリア)であり、これは虚無魔石の欠片を所持する者を捕らえる結界。

 

 この欠片は基本的に同じ世界には存在しておらず、一つ一つが別の平行世界に点在をしていた。

 

 故にこの【赤い夜】へと捕らわれた者達……

 

 水奈瀬ゆか。

 

 草壁美鈴。

 

 橘 菊理。

 

 広原雪子。

 

 田島賢久。

 

 百野 栞。

 

 この六人は実は全く別の平行世界から来た存在。

 

 唯一、皐月 駆はイレギュラーで水奈瀬ゆかと同じ世界の人間である。

 

 それ故に初期から全員の認識にズレが生じていた。

 

 大して違いの無い近似の世界だから、首を傾げていた程度で済んだけど。

 

 特に、皐月 駆+水奈瀬ゆかのコンビと橘 菊理の世界は出鱈目。

 

 駆と菊理は姉弟であり、駆の世界では菊理が自殺をして、菊理の世界では彼女が駆を殺害している。

 

 尚、平行世界だからか? 駆と菊理はDNA鑑定で姉弟とされなかった。

 

 だから、普通にヒロインとして結ばれた世界も在ったりする。

 

 兎も角、下手に飛んだらユートの場合は平行世界に跳ぶ可能性が高い。

 

 事実として実際に試してみたら、もう無くなった筈の第五次聖杯戦争の世界、ユートを識らないエヴァンジェリンが少年と暮らしている世界など、明らかに繋がらない世界に跳んだ。

 

 だからこそ必要。

 

 繋げるべき世界の人間が二人以上。

 

 それを以て共振現象を引き起こし、【偽・劫の眼】でその先の事象を観察。

 

 そして二人の世界を発見するのである。

 

 欠点は負担がでかくて、前に使った際に片眼が失明寸前となった事。

 

 ユーキが知れば間違いなく荒ぶるであろう。

 

「ああ、私らが帰るのに合わせれば大丈夫……の筈」

 

「だから無理はしなくて良いですよ?」

 

「それは助かるな」

 

 キリエとアミタが気遣ってくれている。

 

 あれは使うと危険。

 

 今はユーキが所用で居ないけど、居れば反対間違いなしだったから。

 

 後で知れば荒ぶるし。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 新暦七九年。

 

 ミッドチルダはクラナガンに存在する【聖域・ミッドチルダ支部】……

 

「帰って来ましたね」

 

「はい、ヴィヴィオさん」

 

 St.ヒルデ魔法学院に在籍しながら、ヴィヴィオとアインハルトは聖域へと所属し、ミッドチルダ支部にも出入りをしている。

 

 ユートが曰く――『少年兵? 六歳で修業開始して九歳とか一三歳で実戦投入される聖闘士だぞ? んなもん今更だろうに』とか。

 

 事実、黄金聖闘士の大半が一年か其処らで修業を終えて、十歳にもならないかの年齢で聖闘士になった。

 

 一応、アフロディーテやデスマスクやシュラは年が少し上だけど。

 

 ハーデスとの最終聖戦、一番の活躍者で被害者だった星矢、彼をして一三歳の年端もいかぬ少年だった。

 

 アテナの城戸沙織も。

 

 どう見ても高校生は越えてるだろ? 的なプロポーションを誇ろうと一三歳の少女に過ぎない。

 

 そんな中に在ったユートだからか、少年兵がどうのとかはどうでも良かった。

 

 というか、ミッドチルダの……延いては時空管理局の法に抵触しないのなら、地球の倫理だ法だを持ち出すのは無意味であろう。

 

「結局、トーマが言う通りだったですよね」

 

「私達は何の為に過去へと跳んだのか……ですか」

 

 ゲームより活躍しなかった未来組、それはユートが成るべく『最速で最短で、真っ直ぐに一直線に!』とばかりに動いた為。

 

 本来ならマテリアルズを貫いた後、ユーリが何処かに消える筈なのが流れ。

 

 それをさせずその場にて終わらせたのだ。

 

『まあ、久々に真王ユートを見れて私は満足ですよ』

 

「オリヴィエ……」

 

 ヴィヴィオとは違う表情で柔らかく笑う。

 

 それはヴィヴィオの中に共生するオリヴィエ。

 

「確かに兄様の真王モードなファイズを直に見れて、私も満足はしていますよ。ですが……」

 

『クラウスにも使わなかった切札、ファイズ・アクセルブラスターを別の相手に出したのが不満?』

 

「はい……」

 

 可愛らしくプクーッと、頬を膨らませている。

 

 クラウスとの対戦では、ファイズ・ブラスターフォームで闘って、アクセルは使っていなかった。

 

 一〇秒間しか使えないのが理由だが、アインハルトとしては不満たらたら。

 

「でもでも、ユート兄ちゃんは格好良かったですよ。ほむ姉ちゃんは抜けていましたけど」

 

「完全に出遅れましたから仕方がありませんよ」

 

 ヴィヴィオとオリヴィエが入れ代わろうと、全く気にせず会話を続けている。

 

 最早、慣れたのだろう。

 

「さ、戻りましょう」

 

「ええ、私達の居場所に」

 

 頷きながらミッドチルダ支部の建物へ入っていく。

 

 二人の大事な場所へ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 新暦八一年。

 

 俺、トーマ・アヴェニールとリリィ・シュトロゼックは元居た時代に帰った。

 

「およ、お帰り」

 

 青み掛かった黒髪を持つお姉さん、カレン・フッケバインが立っていた。

 

「ただいま、カレン」

 

 元は次元犯罪者フッケバイン・ファミリーの首領、今現在は聖域・ミッドチルダ支部の副支部長の一人。

 

 俺と同じで更に大先輩的な【エクリプス・ウィルス】の罹患者、そして同じく罹患者な皆をフッケバイン・ファミリーとして纏め、色々と抗っていた人だ。

 

 【エクリプス・ウィルス】は一種のナノマシンで、罹患すると病化能力というスキルみたいなものを使える様になり、EC兵器をも使い熟せる様にもなる。

 

 俺の持つ【ディバイダー996】と【銀十字の書】とリアクトプラグ【リリィ・シュトロゼック-4th】、これにより俺は【黒騎士】なんて姿にも成れた。

 

 カレンも似た【書】を持っているし、サイファー達みたいなファミリーの一員もディバイダーやリアクトプラグを持つ。

 

「それでカレン、副支部長がこんな所で油を売っていて良いのかよ?」

 

「何を言ってんの。トーマを迎えに来たのよ」

 

「俺を?」

 

「過去に跳んだんでしょ。支部長は識ってるからね」

 

「ああ、ほむらさん……」

 

 現在のミッドチルダ支部はほむらさんが支部長で、カレンとオーリス・ゲイズさんが副支部長をしてる。

 

 カレン達――フッケバインと和解が成立するまではオーリスさんが副支部長、支部長にやはりほむらさんが就いていた。

 

 とはいえ、副支部長とは一人で回せないもので追加を欲しがっていたのだが、ユートさんとフッケバインとの間で取り引きが成立した為にか、フッケバインを丸ごと雇う形でユートさんが聖域・ミッドチルダ支部に引き込んだのだ。

 

 まあ、カレンは元首領なだけあって有能だからか、オーリスさんも今では能力を認め力を合わせていた。

 

「兎に角、帰って来たなら早速お仕事よ」

 

「うげっ!」

 

「あう〜」

 

 休む間も無いとは……

 

「アイシスも待ってるから早く来なさいな」

 

「わ、判ったよ」

 

 アイシス・イーグレットも俺の仲間、ミッドチルダ支部ではリリィとアイシスと俺でチームを組んでる。

 

 尚、フッケバインだった連中はカレンの補佐役とかは兎も角として、サイファーなどは基本的に単独任務を仰せ付かる。

 

 飛翔戦艇(エスクアッド)フッケバインの操舵手で、そのエクリプスドライバーであるステラも居るけど、彼女はフッケバインが墜ちそうになった際に、それをユートさんが救った事から吊り橋効果? 的にアレな状態ではあるのだが、流石に実年齢でアウトらしいから今は妹扱いみたいだ。

 

 ステラはフッケバイン組が動く時に、必要に応じて母艦的な役割に就く。

 

 但し、普段はSt.ヒルデ魔法学院の学生。

 

「皆は?」

 

「ちょっと厄介な事件が起きたからね、ステラにまで出動要請をしたくらいだ。フォルテスも付けてね」

 

「まさか……カレン以外の全員が動いてるのか?」

 

「そういう事。トーマにも同じ任務が下るわ」

 

「そっか……」

 

「フォルテス達に合流し、事件解決に動きなさい」

 

「了解したよ支部長」

 

 こうして俺達の日常……聖域・ミッドチルダ支部の仕事が再開された。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 何処かの時代、何処かの世界に在るエルトリア……

 

「さて、エルトリアに来てみた訳だけど」

 

「確かに酷い有り様だね」

 

 ユートもほむらも周りを視て溜息が出る。

 

「ふむ、我やエグザミアを欲する程だ。一筋縄ではいかぬだろうよ」

 

「そうですねディアーチェ……やはりこれは」

 

「むむむ……」

 

 マテリアルズも有り様に何かしら言いたそう。

 

「ですが、ユートは本当にエグザミアや私達を抜きに何とか出来ますか?」

 

「大丈夫だよユーリ」

 

 ポンポンと軽く頭を叩いてやり、ユートは安心させる様に優しい声で言う。

 

「テラフォーミングなら、再誕世界の火星でも普通にやれたんだ。【死蝕】だって根本を潰した上でテラフォーミングをすれば良い。その為にアーデルハイトを喚ぶんだからな」

 

「【腐蝕の月光】ですか」

 

 とある平行世界の地球、ヴァンパイアと人間が争う世界、後に【腐蝕の月光】と称されたアーデルハイトと【赤バラ】ローズレッド・ストラウスの物語。

 

 最終的にローズレッド・ストラウスは第五〇代目の【黒鳥憑き】である比良坂花雪に討たれて、アーデルハイトも同族の為に月へとテラフォーミングを行い、二人の……最後の純血であるヴァンパイアが消えた。

 

 ユートはアーデルハイトの能力が、後に再誕世界で必要だと考えた為に契約を持ち掛ける。

 

 アーデルハイトは契約に乗り、全てを擲って消えた後にユートが再構成して、再誕世界に於ける吸血鬼であるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルへと託したのであった。

 

 赤ん坊にまで退行していたアーデルハイトだけど、ダイオラマ魔法球でスクスクと成長をする。

 

 必要になった時期には、閃姫契約が可能な年齢にまで育っていた。

 

 わざわざ肉体の再構成をしたのは、ローズレッド・ストラウスの妻だったから処女でない彼女と閃姫契約をする為なのだから。

 

 再構成したからには処女に戻っているし。

 

 閃姫になるとユートが持つ【閃姫専用魔力タンク】を使え、アーデルハイトが全力で星全体をテラフォーミングしても力尽きない。

 

 閃姫契約はその為だ。

 

 まあ、彼女が美女だからというのもあったけど。

 

 非処女だと半閃姫でしかなくなり、特典たる【閃姫専用魔力タンク】も使えないから必須でもあった。

 

「そういえば、まだ星に生きてる動植物は宇宙に避難させるとして、適応しちゃった生物はどうするの?」

 

 キリエが気になったのか訊ねてきた。

 

「エルトリアをテラフォーミングしたら、再適応とか出来ないだろうから斃してしまうしかないな」

 

「……そっか」

 

 まあ、テラフォーミングの時に腐蝕してしまうのだろうが、アーデルハイトは無防備になるから邪魔される可能性も多分にある。

 

 今から少し間引く必要性があるだろう。

 

「紫天ファミリーは怪物を退治に行ってくれるか?」

 

「貴様はどうする?」

 

「博士の説得と治療だな」

 

「そうか、解った。それでは往くぞお前達!」

 

 オーガフォンを掲げながら命じるディアーチェ。

 

 気に入ったらしい。

 

 コードを入力。

 

《STANDING BY》

 

《STANDING BY》

 

「「「変身!」」」

 

《STANDING BY》

 

 オーガフォンとサイガフォンにコード入力。

 

 デルタフォンに音声入力も成される。

 

 それぞれ、ドライバーとデルタムーバに装填。

 

《COMPLETE!》

 

《COMPLETE!》

 

《COMPLETE!》

 

 仮面ライダーオーガ。

 

 仮面ライダーサイガ。

 

 仮面ライダーデルタ。

 

 このエルトリアの大地に仮面ライダーが立った。

 

「私もカメンライダーってやりたいですね」

 

「いや、ユーリには必要が無かろうに……」

 

 

 オーガ――ディアーチェが困った様に言う。

 

 tレベルの衝撃さえものともしない防御力、確かにわざわざ仮面ライダーによるアーマーは要らない。

 

 攻撃力も高いのだし。

 

「では征くぞ!」

 

 オーガは飛べないけど、本人が飛べるから問題無く飛翔する。

 

 それはサイガとデルタも同様で、ユーリも翼をはためかせながら飛んだ。

 

 その頃、ユートはといえばグランツ・フローリアンと面会中だった。

 

 治療の説得の為に。

 

「だから治さなくても構わないんだよ」

 

 難航してるけど。

 

(こりゃ、僕らしくないかもだが……SEKKYOUかな)

 

 割とそうでもないのは、ユート自身が気付いていない事なのが御約束。

 

「アンタは結局、逃げたいだけなんだろう?」

 

「どういう意味だい?」

 

「死は一種の逃避先だよ。アンタはこう思ったのさ、もうエルトリアはどうにもならないし、自分の病など不治の病だから治らない。ならばもう死んでも仕方がないじゃないか……とね」

 

「む、うう……」

 

「不治の病で死んだから、エルトリアを【死蝕】から解放出来なくても仕方がないじゃないかってさ」

 

「そんな事は……」

 

「死んで投げ出したいってだけなんだろう?」

 

「違っ……うとは言い切れないのかもしれないね」

 

 グランツ博士は項垂れながら呟く。

 

「博士……」

 

 アミタが悲しそうな表情になっているし、キリエも泣きそうな顔になりながらグランツ博士を見遣る。

 

「私は【死蝕】から星を救おうと頑張ってきたけど、成果は微々たるものでしかなく、寧ろ【死蝕】による侵食の方が早い。ギアーズも元々は生身の人間に出来ない作業を代わりにさせるべく造ったのが始まりだ。まあ、アミタとキリエみたいに凝り過ぎた子も居たりする訳だけどね」

 

 本当に凝り過ぎただけなのか? とも思ったけど、この場で言う事でもないと自重をした。

 

「結果が、見付かった遺跡のタイムマシンでアミタとキリエが跳んでしまった。本当に私はいったい何をしていたのか」

 

 それは正に自嘲だった。

 

「然し訊ねたい」

 

「何を?」

 

「私の病はエルトリアに於いて不治の病。君に私を治す事が出来るのかい?」

 

「う〜ん、無理だな」

 

 ドンガラガッシャンッ!

 

 全員がズッコケた。

 

「こ、此処まで引っ張っといてそれ!?」

 

「有り得ませんよね!」

 

 キリエもアミタも叫ぶ。

 

「一応、僕の治療ポッドは様々な病や怪我を治しているんだ。末期癌やAIDSとか糖尿病、部位欠損なんか」

 

「それは確かに凄いな」

 

 末期癌ともなると扱い的に不治の病にも等しいし、AIDSだって根治をしたなんて聞かない。

 

 糖尿病も不治の病の一種に数えられるし、ゲームならまだしも現実の部位欠損は治し様が無かった。

 

「それでもグランツ博士の病は……僕の【神秘の瞳(ミスティック・アイ)】で視た限り、治せる要素が無かったんだよ」

 

「……それは治療ポッドでかい?」

 

「そう、治療ポッドで」

 

「つまり、別の手段が君には在るのだね?」

 

「流石は博士なんて呼ばれるだけあるな。正解だよ」

 

 はっきり言うと治療ポッドによる治療は、データの不足や技術的なあれやこれやで不可能だ。

 

 然しながら、ユート自身には彼を治す術に心当たりがあった。

 

「さて、今すぐにでも治療を始めるけど構わない?」

 

「え、そうなのか? 準備とかしなくても……」

 

「別に手術をする訳じゃないんだ。僕の持つ能力を使うだけだからね」

 

「た、頼んだよ」

 

 ユートは両手を博士へと向けて言葉を紡ぐ。

 

「嘗ての栄光は今此処に、【美しきあの頃へ(リワインド・バインド)】」

 

 それは聖句。

 

 神を弑逆して神より簒奪せしめた権能。

 

 それを行使する詞。

 

 嘗て、平行世界の過去で闘った刻の神カイロスより簒奪をしたものだ。

 

 【刻限の快楽神(カイロス・ジ・ゴッド)】と名付けた権能、奴が行使をしていた幾つかの派生した力。

 

 その内の一つ。

 

 それは生物の刻を戻し、胎児以前にまで戻し切って消滅すらさせる。

 

 今回はそれを一部分のみ適応、病の根元が病に侵される以前にまで戻した。

 

「ありゃ? ちょっと余波があったか……」

 

「な、何か失敗を?」

 

「鏡を見ると良い」

 

 グランツ博士が鏡を覗いてみると……

 

「おわっ!? 若い?」

 

 若返った姿が在った。

 

 権能の余波で二十代にまで若返っていたのだ。

 

「「博士!」」

 

 治療が済んだのは判ったらしく、キリエとアミタがグランツ博士の胸へと泣きながら飛び込む。

 

 一頻り泣いて愉しくご飯を食べて、風呂に入ってから寝る事になった。

 

 紫天ファミリーは野宿……というには準備万端ではあるが、取り敢えず今夜は此方へ帰って来ない。

 

「うん、帰って来ないんだけど……まさかの逆夜這いとかね」

 

「お礼よお礼。博士に未来が出来た。お父さんだもん……嬉しかったから」

 

「だからって私まで引っ張り込みますか?」

 

「あら、アミタだって満更でもないんでしょ?」

 

「う……」

 

 気持ちはキリエと同様、姉妹であるが故かそれによりフラグが建ったっぽい。

 

「ま、取り敢えず」

 

「「キャッ!?」」

 

「僕としては主導権を取られる心算、無いんだよね」

 

 起き上がってからキリエとアミタを押し倒す形で、二人はギアーズとして持つ力が通用しないのに慌て、だけど……

 

「んっ!」

 

 唇を奪われてその侭……大人しくなったと云う。

 

 

.


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