メタリックガーディアン・プロミス 『桜の舞う島で』   作:戒炎

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ここから折り返し地点です。
いつもながらに話が一気に進みます。

新たに登場するキャラを、気に入ってくれたら幸いです。


第5話 「SUCCESSOR」その1

第1幕

 

side-コウジ-

 

 ブレイガストが真の姿を見せたあの日から、マコトがフォーチュンに協力することになった。

 何言っても聞くような奴じゃないことは分かってる。今更俺が言い聞かせたって、本人は引かないだろう。アイツ頑固だから。

 それに、あのタリスマンはマコトじゃなきゃ動かせない。マコトがいなくちゃブレイガスト・ノヴァにはなれないって訳だ。

 アイツも覚悟を決めてる。戦場に出ることを。

 なら、そこで護ればいい。同じ場所で、戦友として。

 危険な目に会わせてしまうが、仕方ない。マイケルにはそれぐらい許してもらおう。

 だから化けて出てくるなよ、マイケル。お前の怨念ってマジ怖そうだから。

 

 それよりもだ。今日司令から聞いたスターゲイザーについてのほうが俺の頭を悩ませる。

 最初のスターゲイザーの話から始まり、戦争に使われ、多くが死んでいった第一次大戦の歴史。

 認識力を増幅させ、ALTIMAに伝達することで機体の反応速度を増し、予測能力をセンサーに直結させるオーバーロードシステム。

 第二次大戦中に再出現、増加の一途を辿る存在。

 まるで超能力のような空間認識能力や洞察力。

 そしてそれを神聖視し崇拝する国家の存在。

 言われてみればテレビ番組でその特集をしていたり、コメンテーターとして出演しているのを見た気がする。あまり興味が無かったけど。

 色々と知識を詰め込まれ、頭がパンクしそうなのに、今度は俺とマコトがそのスターゲイザーだと言う。

 確かに昔から反射神経とか勘とか良かったような気がするけど、まさかそんなオカルトじみたモノだったとは。

 じゃあ何か?俺達もテレビであれこれ語るようになるのか?わー、嫌だそれ。

 だがふざけてもいられないことも聞かされた。

 強化人間。

 そのスターゲイザーを人工的に生み出せないかっていう愉快発想から始まった非人道的な研究。

 被験者に投薬、生体改造、洗脳などを行う、胸糞悪い研究だ。

 失敗し、廃人になることもあり、成功したとしても人体や精神に以上が出る場合が多い。発作的に脳や体に痛みを訴えることもあるようだ。

 連邦では現在禁止されているものの、過去には相当無理な研究もしていたらしい。

 現在でも、非合法な組織やラーフ帝国は強化人間の研究を進めている。

 ちなみに、連邦やフォーチュンにも強化人間は存在している。

 大戦中に強化された者は、その治療法が存在しないため、そのままリンケージとして働いている場合がほとんど。

 稀に自ら志願して強化実験を受ける人間もいるそうだ。

 テロリストやラーフから逃亡、救出された若いリンケージもいるらしい。

 今回補充要員としてやってきた霧咲メイって娘もそのパターン。

 あの娘はユラードっておっさんがノイエ・ヴォルフっていう宇宙のテロリストから救出したって話だ。

 強化は終了しており、肉親もいない。もはやリンケージとしてしか生きていけないとも言っていたが・・・。

 

 なにやら物陰からジッと視られております。

 

 あー、そうだよこの感覚。本人は必死に隠れながら尾行してるつもりなんだろうけど、分かっちゃうんだよな。

 昔からかくれんぼは俺とマコトのツートップだったのを思い出す。つまり産まれた時から兆しはあったのだろう。

 いや、今はそんな事考えてる時じゃない。この状況をどうするかだ。

 ココは基地内。既にこの状況を何人かに見られている。

 そしておそらくだが、向こうも俺が気付いていることに気付いている。

 つまり、どちらかがアクションを起こさない限りこの無意味なかくれんぼは続く。

 この視線を浴びながら移動するのは、俺の寿命がストレスでマッハだ。

 さてどうしよう。とりあえず。

「お嬢ちゃん、アメあげるからおいで~。」

 空気が凍る。駄目だ。これじゃ怪しい人だ。

 ホントどうすればいいのコレ?

 俺が途方に暮れていると、突き当たりから慣れない気配を感じた。

「お、いたいた。探しちゃったぜ坊主。」

 ユラードのおっさんだった。

 この人気さくなんだけどぼや~っとしてる感じで、なんか掴めない人なんだよな。

 あのフミカ先生が怯えるほどの人に見えない、ウチの父ちゃんよりぼんやりしてる。

 おかげで未だ距離を測りかねている。

「俺になんか用かい?」

「あぁ。司令のお嬢ちゃんが、今日はもうあがっていいってさ。座学で疲れただろうからってよ。」

 そりゃ助かる。頭の使いすぎでくらくらしてたところなんだ。

「じゃあ遠慮なく帰らせてもらうけど・・・」

「ん?歯切れが悪いな。おじさんに話してみな。」

「あれ、どうにかなんない?」

「あれ?」

 俺が後ろを指差すと、霧咲は飛び出てきて敬礼する。

 間違っても俺にじゃない。おっさんにだ。

「メイか・・・。しょうがない。お前は機体の調整でもしとけ。」

「それは任務でしょうか。」

「そうだ。それが終わったらしっかり休んどけ。いつ出撃がかかるか分からねぇからな。」

「了解しました。」

 そう言うと、霧咲は駆け足でドックの方へ向っていった。

 なんだかおっさんの言葉には絶対服従って感じだったけど。

 俺はおっさんの顔を見る。

「おいおい、そんな目で見んなよ。・・・仕方ねぇんだよ、あの娘は。」

 霧咲が走っていった方向を見ながらそっと呟く。

「お前さんも聞いただろ、あの娘の事。」

 そう。彼女はテロリストに強化人間にされた。

 コロニー間を移動するシャトルを襲われ、肉親を失い、非道な実験の毎日だった。

 そこをユラードのおっさん率いる部隊が制圧し、助け出したらしいが・・・。

 過酷な実験は、彼女の精神を蝕んでいた。

「あの娘は、感情ってものを失っちまった。今はただ機械的に任務をこなす日々だ。」

 そうだろうか。あの娘のおっさんに対する感情、薄らとだが感じたような。

「何か感じたんだとしたら、あれだ。刷り込みってやつだろう。助けた俺に、猫みたいに懐いてるだけさ。」

 俺が考えてると、おっさんはそう言った。この人も勘が良いな。

「で。俺が追いかけられてたのとは何か関係が?」

「本物のスターゲイザーってのに興味が湧いたんだろうよ。人工の自分とは違う、天然モノのお前さんにな。」

 そんな人を魚みたいに・・・。

「まぁ許してやってくれ。あの娘が他人に興味を示すなんて俺ぁ初めて見た。どうか嫌わないでやってくれよ。」

 そう語るおっさんの顔は、まるで愛娘を見守る父親の顔だった。

 親父さんがマコトに時々向ける顔と良く似てる。

「大事なんだな。あの娘のこと。」

「あぁ。何もかも失っちまった俺の娘代わりだ。こう言っちゃなんだが、今の俺があるのもあの娘のお陰だ。」

 何もかも失った?

 どうやらこの人もそうとう訳有りみたいだな。

「泣かすなよ?」

 じろりと睨まれる。

「そんな趣味ねぇよ。」

「あぁ何か!?ウチの娘は可愛くないってか!?眼中に無ぇってか!?」

「いやそういう意味じゃなぇよ!」

 高校生といいおっさんの怒鳴り声が基地の廊下に響いた。

 

 

第2幕

 

side-マコト-

 

 ふ~、詰め込むことが多すぎて頭がどうにかなりそうだよ。

 フォーチュンの隊員になるって決めてから数日、座学に次ぐ座学。

 その成り立ちから歴史、現在の状況なんかも徹底的に教え込まれた。

 正直半分も頭に入ってないかも・・・。

 でも、その中で何よりも衝撃的だったのはスターゲイザーと強化人間の事。

 テレビで何気なく見ていたスターゲイザーの存在、まさか自分がそうかもしれないなんて。

 昔から何となく人の感情が理解できたのはそのせいかな?

 でもあんまりいい気持ちじゃなかった。知りたくない感情まで読み取れる時もあったし、嫌な予感が当たったこともあった。

 マイケルの時だって・・・。

 やめよう。気が滅入るだけだ。

 今はとにかく前を向いて歩こう。

 マイケルだってそれを望んでる・・・よね?

 さぁ、ちょっとタリスマンの様子を見てから帰ろうかな。

 

 やって来ました工廠。ドックって言ったほうがいいのかな?

 整備班の人に挨拶して、細身ながら堂々と立つ我が相棒、タリスマンを見上げる。

 この細身でよくあんな動きが出来たものだ。ガーディアンって凄い。

 それにコウジのガーディアンと合体した時は特に凄かったな。

 お互いの出力?が何倍にもなって、腕の一振りで敵をやっつけた。

 なにより、この子はあのブレイガストの為に生まれてきたんだと感じる。

 ボクがリンケージになったからなのか、スターゲイザーの影響かは分からないけれど。

 それにしても見事に桜色、つまりピンク色成分が多い機体だ。

 僕自身、黒髪黒目、普段着も黒が多めで、自身のイメージカラーは黒だと思ってた。

 それに反してこの色。なんだか落ち着かない。

 

 タリスマンを眺めてどれくらい経っただろうか。隣のガーディアンから誰かが降りてくる。

 中学生ぐらいの身長の女の子、確か霧咲メイ、だったかな?

 あの娘も機体を見に来た、というより、自分で細かい調整をしてたんだろう。

 ボクもそれぐらい自分で出来なきゃいけないのかな?機械なんてパソコンをちょっとかじった程度なのに。

 それにしてもあの機体、綺麗な色だな。

 なんて名前だっけ?

「ラピス・ラズリがどうかしましたか?」

「うわぁっ!?」

 びっくりした!いつのまにか隣に来てたのかこの娘!?

 ふ~、まず深呼吸してっと。

「ラピス・ラズリかぁ。たしか宝石の名前だっけ?」

「はい。この国では瑠璃と呼ばれています。」

 瑠璃かぁ。そう言われると幾つか思い当たるな。

 深い青色のことを瑠璃色って呼んだり、綺麗な夜空を瑠璃色の空って表現したり。

 機体色も大部分が青色で、所々が星のように黄色く染められている。

 なんだかロマンチックな色だなぁ。

(お前がロマンとかwww似合わねwww)

 ・・・アイツならそう言うだろうな。

 ここにはいない男の事を考えていると、視線を感じる。

 視線の主はちょっと下、ボクより頭一つ分下の少女。

 こちらをじ~っと見つめている。

 な、なんか凄い迫力を感じるんだけど・・・。

「えっと。どうしたのかな、メイちゃん?」

「いえ。貴女とこうして会話するのは初めてだと思いまして。」

 それにしてはプレッシャーを感じるんですが・・・。

「貴女は。」

「え?」

「貴女はスターゲイザーについて、どう考えていますか?」

 なんだかいきなり深い質問が来た!?

 えっと、その、あーうー・・・。

「良く解らない、かな。与太話だと思ってたのがいきなり現実になって、しかもそれが自分だなんて言われても、受け入れられないよ・・・。」

「そうですか。」

 すると彼女はボクに背を向けて歩いていってしまった。

 声をかけようとしたけど、その声が出なかった。

 彼女から人を避けようとするナニかを感じてしまったから。

 あの娘は強化人間。スターゲイザーの研究のために、非道い実験を受けてきたと聞いた。

 その所為だろうか。彼女は他人に対し壁を作っている。

 う~ん。これから仲間として頑張っていくんだし、何とかしなくちゃ。

「どうしたんだ、マコト。」

「うひゃわらぁ!?」

 背後から声がかけられる。さっきから驚いてばっかりだ。

「す、すまない。そんなに驚くとは思わなかった。」

「いや。いいんだよシャナ。」

 まだ心臓がバクバクいってるけど。

「しかし霧咲といったか。あまりいい感じがしないな。自分の言いたいことだけ言って去っていくとは。」

 うん。そうだ。

 あの娘、ここに来てから数日で、あまりいい話は聞かない。

 あんな風に壁を作って周囲の人を避けているから、コミュニケーションも取れていないらしい。

 あの他人に冷たい、孤独を纏っているかのような態度。

 方向性は違えど、君に似ているよ、マイケル・・・。

 ・・・。よし決めた!

「あの娘が桜花島、せめて基地内に馴染めるよう、ボクがなんとかしないと!」

 鼻息荒くフンと気合を入れる。

 おっと、女の子らしくないことをしてしまった。反省。

「また始まったな。マコトのお節介。」

 シャナが茶化すように言う。

 こればっかりは生まれもったボクの性質だからね。体が勝手に動くんだよ。

「もちろん、キミにも協力してもらうよ。」

「分かっているさ。部長殿には逆らえないよ。」

 よし!待ってろよ霧咲メイ!

 ボク達がキミのその心を解きほぐしてやる!

 

「そういえばシャナ。キミが編入してきた時もあんまりいい感じじゃなかったよ?」

「え、ホントに?」

 今じゃ見る影もないけれどね。

 

 

第3幕

 

side-フミカ-

 

「バハー!疲れたー!」

 家に着いた途端、倒れこむ。

 ユラード教官、今は少佐か。あの人が着任してから数日。というか4日。

 そう4日。たった4日!それだけでアタシの心と身体はボドボドだぁ。

 あぁ、この4日間のことが脳裏に甦る。走馬灯かしら。

(フミカァ!なんだそのとろい動きは!ディザスター級だからって許されねぇぞ!)

(狙いが甘い!敵機の急所をよく狙え!何年戦場に居る!)

(足が遅い!リンケージの資本は体力だ!昔はもっとスタミナもあったぞ!)

 ・・・うるさいよバーカ。クソ親父。

『随分だらけてるな。近藤フミカ。』

 うおう!?いきなり通信かよ!?

 て、飛び起きたくても体が動かん。

 もういいや、このまま喋ろう。

「つうかいつの間にか嬢ちゃん呼びが無くなってますね・・・。」

『もう嬢ちゃんって歳でもねぇだろう・・・。』

 こんの!マジで腹が立つ!

 それでも逆らえない。昔のトラウマが反抗を拒否する。

「んで。何の用ですか?アタシはこれから教師としての仕事があるんですけどねぇ。」

 明日は登校日。まぁ実際大した仕事じゃない。生徒に渡すプリント類は既に学校に用意してある。

 後は酒でも飲んで一寝するつもりだったのに。

『その仕事のことでな。学校が終わったら基地内でみっちりシュミレーションの予定だ。坊主達に伝えておいてくれや。』

 この鬼教官め。

 まぁいい機会だ。あいつらにもこの鬼の恐ろしさを味わってもらおう。

 コウジなんか態度変えるかもね。

『じゃあ頼んだ。それと早く寝ろよ。寝酒夜更かしは美容の大敵だよ~。』

「うっさいクソ親父!」

 そこで通信が切れる。

 あのオッサン、人で遊んでるだろ!

 美容の大敵?ハン!酒は百薬の長よ!

 飲む!とことん飲む!そうと決まれば。

「シャナちゅわ~ん!晩酌でもど」

「帰れ!」

 追い出されちゃった・・・。お姉さんショック・・・。

 一人酒かぁ・・・。

 あれ、何だろう?涙出てきた・・・。

 

 

第4幕

 

 side-ジョニー-

 

 あー疲れた・・・。

 ったく無茶が過ぎるぜ、あのファッキン中佐。

 俺一人で連邦の輸送機から荷物かっぱらって来いとか、正気の沙汰じゃねぇ。

 たまたま輸送機に護衛もなかったから良かったものを・・・。

 いや、本当にたまたまか?あの人の作戦はやけにうまくいくことがある。まるで根回しでもあったかのように。

 お陰で俺達は武器や資源には困らないが、いささか旨く事が進みすぎている。

 対桜花島の作戦くらいだ、うまく事が運ばないのは。

 いや、あの人曰くこれも想定通りらしい。まったく奥が知れない。

 2年前、桜花島制圧を掲げ俺達傭兵を雇い、ここに居を構えたが、そこからがおかしい。

 制圧のチャンスは何度もあった。なのに中佐はここ一番で引き上げる。

 あれよあれよと言う間にフォーチュンは防衛体制を強め、十分な数のガーディアンを保有するに至った。

 それすら中佐の狙いだというなら、俺達は何のために戦わされているのか・・・。

 ・・・。何のため、か。そりゃ金のためだ。

 俺達は傭兵なんだ。ディスティニーもラーフ帝国も地球連邦も、知ったこっちゃねぇ。

 戦場でしか生きられない。だから報酬次第で何処へでも行く。

 雇い主の思想も理想も関係なく。

 ファック。何でこんな生き方しか出来ないのか。

 そりゃお前、それしか知らないからさ。

 物心ついた時から銃を撃っていた。でかくなりゃミーレスに乗って暴れた。

 自分の居場所を確保するために。いつの間にか出来ていた仲間達を食わせるために。

 俺は今日も、仕事をこなす。

 はずなのになぁ。

「よし、花見で一杯!」

「またお前の勝ちかよ!?手前イカサマしてねぇか!?」

「お前らが弱すぎるだけです~。」

 どっから持ってきたんだよ、花札なんて。

 人が苦労してきたのにこいつらは・・・。

「おい。」

「あ?なんだ手前?」

 は?まてまておいおい。

「俺だよ、俺。」

「何だ、新入りか?」

「じゃあ取りあえず、そこの掃除頼むわ。」

 こ、こいつらマジか?

「そういや隊長遅いな。」

「どっかで道草食ってんじゃね?」

「一人で飲んでやがんのか!?野郎許せねぇ!」

 ワイワイガヤガヤ、ハハハハ!

 ・・・俺は荷物からいつものを取り出し、装着する。

「手前ら・・・。」

 そのガスマスクに、俺の仲間達4人が反応する。

「あれ!隊長帰ってたんすか!」

「なぁんだ、それなら一声かけてくれてもいいのに。」

「つか今の。聞いちゃってました?」

「いやぁ、つい出来心というか、本音というか。すんません。」

 いやいいんだ。今はそんな事どうでもいい。

 大事なことはそこじゃないんだ。

「お前ら、マジで解らなかったのか?」

「「「「なにが?」」」」

 俺はもう一度ガスマスクを取る。

 ・・・・・・・・・・・・・。

「「「「誰?」」」」

 ブチン。

「俺だよ!ジョニー・ハゼクラ!手前らの隊長だよ!」

 ・・・・・・・・・・・・・。

「「「「え~~~~~~~~!!!!」」」」

「嘘だ!隊長がそんな渋カッコいい顔してるわけねぇ!」

「もっとうだつのあがらない顔のはずだ!」

「映画俳優張りの顔だったなんて!」

 言いたい放題だなこのファッキン野郎共!

「手前らもう何年の付き合いだ!声でくらい判断しやがれ!」

「いや。いつもマスク越しで濁って聞こえるし。」

 あーもう埒があかねえ!

 俺はマスクを外す。

「いいか!コレが!俺の素顔だ!」

「「「「信じない!俺は信じない!隊長の素顔がこんなだなんて!」」」」

 強情な野郎共め!

「騒がしいなぁ。何の騒ぎだ?」

 ち、中佐!アンタならちゃんと。

「・・・誰だお前?」

「ファーーーーーーーーーーック!!!!」

 

「冗談だ。そう泣くんじゃねぇよ。」

 嘘だって、ついていいモンとついちゃいけねぇモンがあらぁな。

 せっかく無理してブツを奪って来たってのに・・・。

 仲間達はまだなんか話してやがる。

 後で全員お仕置きだ。

「で。アレはどうよ?。」

「ブツのことかい?傷一つ付けちゃいねぇが、あんな物誰が乗るんだ?」

 中佐は椅子に馬乗りになりながら指差す。

 ・・・俺の後ろには誰もいませんよ?

「お前だよ。」

 ファッ!?

「いいのかよ!?ありゃ連邦のエース機だぜ?」

「だからだよ。ウチであれを乗りこなせるのはお前しかいねぇ。しっかり慣らしとけよ。」

 それだけ言うと中佐は何処かへ行ってしまった。

 オイオイ。俺がエース機かよ。ガラにもなく緊張しちゃうぜ。

「大分期待されてるじゃない。羨ましいくらいね。」

「セリーナ姐さん。聞いてたのかい。」

「えぇ。一部始終ね。」

 てことはだ。

「俺の素顔の騒動も聞いてたんだよな。」

「・・・(フイっ)。」

 目を逸らすな。

 まったくドイツもコイツも。

「そういや姐さん、あんた中佐の下に着いて何年だ?」

「ん?そうね、もう3年になるわね。」

 結構経つな。

「何よ急に突然。」

「いや、なんかアンタ中佐に懐いてるみたいだからよ。」

「そんな犬猫みたいに言わないでよ。」

 まぁ懐いてるは言い過ぎたか。

 絶対服従ってわけでもないし。

「中佐は・・・そうね。私を拾ってくれた恩人、てところかしら。」

「恩人?」

「私が以前別の部隊にいた事は話したわよね?」

 たしかに聞いていた。

 そう、それこそ3年前。

 近藤フミカに仲間達を殺された。姐さんがまだルーキーの時の話。

 ローレシア大陸での任務中、機体の故障により、姐さんはベースキャンプに残っていた。

 仲間達は周囲の探索、野盗や奈落獣の存在の確認。所謂哨戒任務に出て行ったらしい。

 緊急時に対応するため、また万全を期すため彼らは姐さんを除く全員で出撃した。

 キャンプは姐さんに任せて。

 だが、いつまで経っても仲間達は帰ってこない。定時連絡もない。

 姐さんは取りあえず機体を動けるようにし、彼らの後を追った。

 プロから言わせてもらえば、この時の部隊や姐さんの動きには危ういところが多すぎたが、もはや関係ないので言及はしなかった。

 しばらくし、姐さんの目に映ったのは、原形を留めていないほどに破壊しつくされていた仲間達のガーディアンだった。

 その後、行く当てのない姐さんを自分の指揮下に入れたのがグラフス中佐らしい。

「中佐は仲間を失って情けないくらい悲しんでいた私を受け入れてくれた。戦うための術を教えてくれた。あの頃は名無しのクラッシャー級だった相棒を、死神(グリム・リーパー)と呼ばれるほどに鍛え上げてくれた。そして、道を示してくれたの。復讐という道を。」

 

-----お前の仲間をヤッた奴の情報が手に入った。

     フォーチュン所属のリンケージ、近藤フミカ。機体はディザスター級。あの破壊の痕は機体の特性ゆえだろう。

     そいつは今イズモ特別区のとある島のフォーチュン支部にいる。

 

「それからは貴方達が雇われてから知っている通り。私は別任務を受けて一旦部隊から離れて、今年の4月に合流。ようやく復讐の機会を得たわけ。」

「そして復讐を果たせないまま現在に至ると。」

「斬るわよ?」

 おお怖い怖い。余計なこと言うもんじゃないね。

 しかし、なにか違和感のある話だ。

 中佐はどうやって姐さんの仇の事を調べた?いくらなんでも都合が良すぎる。

 広大にして混沌の大陸、ローレシアで起こった、言っちゃあ何だが小さな事件だ。

 それを、幾ら部下の為とは言えわざわざ調べるか?

 姐さんはすっかり中佐を信じているようだが、雇われの俺から見て、あの男はそんなにお人良しには見えない。

 新機体を貰っておいてなんだが、アレは俺が見てきた中で特に信用できないタイプの人間だ。

 特に最近自ら出撃するようになって改めて感じた。あの男からは、とんでもない狂気を持っている。

 思惑も何もかもを覆い隠す、どす黒い狂気を。

 理性的な狂気。冷静に狂っている。拷問に適した性質と聞いたことがあるが、その比じゃない。

 俺にはどうもグラフス・エイベロンって男の事が好きになれない。

 どっかで見切りをつけるべきか。いや、そんな日が来ないことを祈ろう。

 俺達は金で動く傭兵。今はまだ雇い主様に尻尾を振っている時期だ。

「ところでジョニー。貴方たしか30歳だったわよね?」

「あぁ。それがどうかしたか?」

「それにしては老けてるわよ。10歳くらいサバ呼んでるんじゃない?」

 間違いねぇ。きっと神様も言ってくれてる。

 今日の俺は、泣いていい。

 

 

第5幕

 

side-コウジ-

 

『先程奈落獣の出現を確認しました。方角は南西。島を迂回しているようです。今までとは違う動きですが仕事は変わりません。ただちに出撃してくだ

さい。』

『了解!』

 新しい面子が加わって初めての実戦である。

 今回に限って妙な出現場所だが、司令の言うとおりやることは変わらない。

「強力な個体はいないみたいだが数が多い。各々気を引き締めていけよ。」

 おっさんの言葉でレーダーを確認する。

 たしかに、こりゃ大変だ。強い反応は無いが40体以上はいる。

「雑魚がうじゃうじゃ。何だか気持ち悪ぃな。」

「所詮は有象無象。今の私達なら簡単に止められる。」

「アンタら、油断してんじゃないよ。増援が無いとも限らないんだ。」

 俺とシャナの楽観に喝を入れるフミカ先生。

 なんだろう、おっさん達が来てから雰囲気変わったような気がする。

 ちょっと聞いてみたい気もするが、地雷になりそうで少し怖い。

 それよりも、俺としてはユラードのおっさんと霧咲の実力が気になる。

 シュミレーションでは陣形確認を流すほどしかやっていないし、仮想敵相手ではあまり本気を見られなかった。

 今日で真の力を見せてくれるのかな。

「目的地に到達。敵さんが来るぞ。」

 そうこうしている間に南西の海上施設に到着。敵が視認できる距離まで着たが、実際に見ると予想以上にキモい。

 空を奈落獣が大軍で押し寄せてきているのだ。

「よし。マコト!早速合体を・・・。」

「ちょっと待てよ坊主。合体はいざとなったらだ。この程度の相手にゃ必要ないよ。」

「どういうことだよ、おっさん。」

「いい加減おっさん呼びは止めてもらえんかね・・・。今回は俺達新入りのお披露目と考えてくれ。お前さんもその心算だったんじゃないか?」

 ばれてーらっと。

「ブロッサムブラスターなら一気に焼き払えるぜ?」

「後で補給が大変だ。省エネで往こうじゃない。」

 自分でお披露目って言うくらいだ。何か考えがあるんだろう。

 なら今回は合体は無し。それぞれで戦おうか。

「それでいいか?マコト。」

「了解。タリスマンは援護に回るよ。」

 よしそれじゃあ。

「戦闘開始といきますか。」

 

「ジェットナックルッ!」

 打ち出された右拳が奈落獣に直撃する。

 あれから整備班に頼んで単体でも撃てるように改造してもらったんだ。

 これで中距離での戦闘も可能になった。

 だが、直撃したはずの奈落獣はまだ動きを止めない。

 やっぱり合体しないと威力が十分に出ないか。

 それでもパンチで止めを刺す。

 それにしても、いざ戦闘に入ると敵が中々減らない。

 サンダーボンバーはもう使ってしまい、俺には広範囲攻撃は使えない。

 シャナが隕石の嵐を呼び、それに怯んだ敵にMK-Ⅱとなった先生のアクセルギアがミサイルの雨を降らす。

 その繰り返しで奈落獣を殲滅しているはずなのだが。

「まったく、40じゃ済まないね。一体どれくらい居るんだい!?弾切れが近いよ!」

 そう。当初の予想より奈落獣の数が多かった。

 もうこいつら分裂でもしてるんじゃね?ってくらいに多かった。

 このままの状態が続けばコッチが先に弾切れ、EN切れを起こす。

 ちょっとヤバイかな?

「若い連中が弱音吐いてるんじゃねぇよ。テスタメント小隊!陣形を乱さず、無駄玉撃つなよ!」

『了解!』

 そんな中、おっさんの率いる部隊は着実に一体一体を撃ち抜いていた。

 おっさんの機体を含めれば全部で5機。それがまるで1機のように正確に動く。まるで無駄が無かった。

 誰かが敵の照準に晒されれば、すぐさま他の機体が援護に入り敵を落とす。

 一糸乱れぬとは、このことだと思い知らされる。

 地上に居ながらも、空の敵すら落としていく。

 少々大型の敵には全機が的確に攻撃を当て、無駄なく撃墜する。

 こんな言い方はなんだが、まるで曲芸のように俺の瞳に映った。

 出力は俺達ワンオフのガーディアンのほうが上なのに、彼らと戦えと言われればNOと返したい。

 それでも敵の数が減らない中、今度は空中で動きがあった。

 先程からビームライフルでちまちまと奈落獣を攻撃していた霧咲のラピス・ラズリ。

 良く見れば敵の攻撃は紙一重でかわし、すれ違い様にビームサーベルで切り裂いている。

 こいつもこいつでまるで無駄が無い動きで交戦している。

 回避、攻撃が最小限の動きで行われ、それがまた空に映える。

 高速で動いていたマイケルのルミエールとは違う意味で綺麗だった。

 まさに蝶のように舞い、蜂のように刺す。そんな動きだ。

 思わず見惚れていたが、その動きも変わる。

「神楽坂さん、アティアイナさん。敵機を指定ポイントに集めてください。殲滅します。」

「何!?敵はまだかなりの数だぞ!」

「・・・やろうシャナ。あの娘には何か考えがあるみたいだから。」

 シャナは反論するが、マコトは何かを感じ取ったのかそれを諭す。

 俺にも伝わってくる。アイツは、本当に決める気だ。

 飛行形態のタリスマンに、バルサーガは渋々従う。

 奈落獣には知能も無いのか、ひたすら飛び回る2機を追いかけて一ヶ所に集まっていく。

 集まり集まり、遂には奈落獣は巨大な球のように集合してしまう。

 霧咲の狙いはそこだった。

「十分です。二人とも離脱してください。」

 感情も無く、ただそう告げる。

 2機が離れた瞬間を見計らい、霧咲は無慈悲に言う。

「イグニス、焼き尽くして。」

 ラピス・ラズリの背部から飛び出した8基のユニット。

 あれがスターゲイザーのみが操れるオーバーロードシステム、通称イグニス。

 それは集まった奈落獣たちにむかい、一斉にレーザーを浴びせた。

 一撃だけではない。球状に集まった奈落獣の周りを飛び回り、何度も何度も火を噴く。

 その姿はまるで、蛇や龍の怪物が獲物に炎を吹きかけているかのようで。

 先程までの美しさはまるで無く、ただただ敵を蹂躙する姿があった。

 奈落獣の悲鳴が聞こえる。それでもイグニスは止まらない。

 敵を全て焼き尽くすまで、怪物は炎を緩めない。

 物の数秒で、30は居たであろう奈落獣は殲滅された。

「嘘だろ、おい・・・。」

 思わず声が出た。

 オーバーロード級、これほどの力があるのかよ・・・。

「少佐、奈落獣の掃討、完了しました。」

「ご苦労さん。まぁあの程度の個体ならこんなモノかね。」

 俺達はもう唖然としてしまっている。

 本土の、それも激戦区と呼ばれる鳳市のリンケージ。

 ここまでの実力かよ。

「そんなに呆然とするなよ。ブレイガストが合体してりゃ結果は同じだったさ。」

 そう言われても、素直に納得できない。

 なんだか腕の差をまざまざと見せ付けられたような気がするから。

 なにはともあれ、無事に任務は完了。戻るとしますか。っておいおい・・・。

『皆さん、まだです!たった今そこに巨大な反応が現れました!注意してください!」

 うん見えてる。すっごい見えてる。

 巨大な蛇のような姿をした奈落獣が一匹。

 だがその大きさが半端じゃない。

 ガーディアンに乗っているのに、見上げてしまうほどだ。

 そうだな、この距離であの大きさって事は、全長1kmほどかな?

 あはは、なんかさっきまでと桁が違いすぎて笑いしか出てこねぇ。

「嘘、だよね・・・。」

 誰の呟きだったか、分からない。

 それほどまでに呆然としてしまっていたから。

 いや、待て待て待て!

 あんなのが上陸したら、桜花島はただじゃすまないぞ!?

 というか今現在の俺達がヤバイ!

「マコト!合体を!」

「慌てるんじゃねぇって言ったろ、坊主。」

 おっさんはいつも通りの飄々とした態度を崩さない。こんな時にもだ。

「慌てるなって!あんなデカブツ、ブレイガスト・ノヴァのパワーでもどうにかなるか!」

「見かけに騙されるなよ。ただの木偶の坊だ。ここは、俺達に任せときな。」

 そう言っておっさんと小隊はデカブツに向って行く。

「野郎共!フォーメーション・ダンスマカブルだ!!」

『イエッサー!!』

 小隊がおっさんのアハゲリスを先端に置き矢のような陣形を取る。

 デカブツに近づくと、一番後列のミーレスがバズーカを連射、続く2機がガトリングを撃ちまくる。

 ただ射撃するだけじゃない。デカブツが一撃一撃に苦しんでいるところを見ると、全て急所に叩き込んでいるのだろう。

 その隙にアハゲリスは敵の懐まで飛び込み、ヒートソードで切り裂く。

 味方の援護射撃に合わせ、ブースターを噴かせて飛び上がりながら要所を熱された剣で切りつけていく。

 全身を切り裂いた後は、合流した小隊と共にガトリングを急所や傷口に浴びせていく。

 まるで耐えられないと言わんばかりに体をくの字に折り曲げる奈落獣。

 その顔面を狙い、小隊機はバズーカを。アハゲリスは背部のビームキャノンを構える。

「でかいってのは、全身が的みたいなもんなんだよ。その程度の動きじゃあなぁ。」

 全機が一斉に砲撃をする。

 その攻撃を受け、奈落獣は大きく仰け反り、海中に沈む。

 その直後、巨大な水柱が上がった。おそらく奴が爆発でもしたのだろう。

「よし。今度こそミッション・コンプリートだ。全員帰投するぞ。」

 おっさんは涼やかにそう言った。

 これは、レベルが違いすぎる。

 機体の性能では勝っていても、リンケージの腕に差がありすぎる。

 先生が畏まる訳だ。

 ・・・この人と戦ってみたい。

 何となく、そう思った。

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