メタリックガーディアン・プロミス 『桜の舞う島で』   作:戒炎

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四月になりましたね。皆さんいかがお過ごしですか?
私はいまだ花粉症に苦しめられております・・・。


「SUCCESSOR」その2

第6幕

 

side-ユラード-

 

 奈落獣の大群の襲撃翌日。今日は予定していた通り海上施設上での実戦訓練なんだが。

「準備はいいぜ、おっさん!」

 東屋少年が妙にやる気だ。

 話はついさっきに遡る。いや、そこまで大げさじゃないんだがね。

 

「おっさん!俺と勝負してくれ!タイマンでだ!」

「OK、少年。話が急すぎて見えてこねぇ。ちょっち落ち着け。」

 鼻息荒く東屋少年が俺に詰め寄る。

 こちとら男に迫られても嬉しくもなんとも無い。

「理由は一つだ。アンタの強さを実感したい。昨日の戦闘を見て、今の俺がどれだけアンタに通用するかを試したいんだ。」

 随分スポ根な理由だねぇ。おじさんそういう若い気についてけないよ。

 正直この挑戦は受ける気は無い。こちらにも事情がある。

 何日も前から模擬戦のメニューは考えてあったんだ。それを子供の我侭で変更してたら限がない。

 残念だけど次の機会にでも・・・。

「それは、少佐一人なら御しきれるということですか?小隊でなく個人なら。」

 ちょっとまてよメイ。なんで喧嘩腰なのよ?

「そういう訳じゃない。1対1でも勝てるか分からねぇ。でもやらなくちゃいけないんだ。」

「スターゲイザーの勘、ですか?」

「勘だよ。スターゲイザーかどうかは知らんけど。」

 いやいや2人共?勝手に話を進めないでくれるかな?

「少佐、彼と模擬戦をしてあげてください。私からもお願いします。」

 メイってこんな主張の強い娘だったか?

 というか当事者を無視して勝手に話をだな。

「うし!いっちょヨロシク、おっさん!」

 あぁ、なんだか断りきれる雰囲気じゃなくなってきたよ?

 気が付けばウチの小隊の奴らも囃し立ててやがる。

 こいつらの台詞?耳を通り抜けたよそんなの。

「少佐。子供の無理の前じゃ、大人の道理なんて簡単に引っ込んじまうもんだよ。」

 フミカよぉ、しみじみ言うんじゃねぇよ・・・。

 はぁ、予定が狂いまくりだぜ・・・。

 

 そして今に至る。

 自分で言うのもなんだが、流されすぎじゃないか。

 もっと発言しろよ、あの時の俺。

「まぁなっちまったモンはしょうがない。俺のアハゲリスは全弾ペイント弾。ビームキャノンは搭載しない。そっちは全力で来な。」

「ちょっとハンデが有りすぎじゃねぇか?」

「模擬戦で大破なんざしてたら支部の金がふっとんじまわなぁ。それに、ブレイガストには内蔵武器しかないだろ。」

「そうだけどよ・・・。」

 いまいち煮え切らないねぇ。そっちから吹っかけてきたくせに。

 ちょっと大人気ないが、やる気にさせてみようか。

「安心しな。俺は無傷で勝つ。お前さんの拳なんざ当たりゃしないんだよ。」

 その一言で少年の気配が変わる。

 モニター越しにもちょっと怒ったような顔が見えるぜ。

「言ったな。ならその機体の修理代、アンタの給料から出させてやる!」

「やってみなってんだよ。青二才!」

 そして、開始の合図が鳴り響いた。

 その瞬間、ブレイガストが突撃を仕掛けてくる。

 それしか攻撃方法が無いとはいえ、愚直すぎるよ。

 繰り出された拳をブースターを噴かせ回避、そのまま背後に回る。

 間髪いれずにペイント弾入りマシンガンをプレゼントだ。

 はい、全弾命中っと。

「んな!?ブースターが!?」

 ただのペイント弾だが、命中した箇所は機能しなくなったという体でいく。

 模擬戦前に決めた事だ。

 これでブレイガストは空中に逃げるという選択肢は取れなくなった。

 まぁもとから聞いていた限りじゃ空中戦は苦手だったらしいがね。

 間接を狙わなかったことに感謝して欲しいもんだ。

「くそ!こいつはどうだ!」

 またも拳。だが先程より踏み込みが良い。

 それを先程と同じように回避しようとすると、その方向に蹴りが飛んできた。

 なるほど、避けられることも想定していたか。しかもその方向まで予測していたとくる。

 こいつは賞賛に値するよ。スターゲイザーってのもあるだろうが、それなりに修羅場をくぐってきた証だ。

 その蹴りはバックステップで距離を取る。

 そこに向かってラリアット。なるほど。攻め手を緩めずくるか。

 だが振りが大きすぎる。そんなんじゃエース相手には通用しないぜ。

 避けるのは簡単だが・・・、これは俺にとっては教導だ。

 色々な捌き方があることを教えておこう。

 ブレイガストの腕に対しヒートソードで迎え撃つ。

 ラリアットを押さえ、両機の動きが止まる。

「嘘だろ!?パワーはこっちが上なのに!」

「こんなもん、ポイントを抑えてやれば簡単に出来るさ。俺に限った話じゃないぞ。」

 ヒートソードで腕を受け流し、睨みあう形になる。今度は接近戦といこうか。

 だが隙は与えない。パワー負けしていることは確かなんだ。

 反撃の機会なんざ与えねぇよ。

「く!この!クソ!?」

「亀みたいに丸まってたら、勝てるもんも勝てないよ。」

 勝たせる気なんかないがね。

 

side-シャナ-

 

 何だこれは・・・。

 コウジが、ブレイガストが子ども扱いじゃないか。

 ラグシオン相手にも苦戦したが、あれとはまるで違う。

 奴が力でブレイガストをねじ伏せたのに対し、テスタメントは技術で完封している。

 上位機とはいえミーレスでここまでできるのか。

「すごい・・・。」

 マコトもただそうとしか言えない。彼女の場合、戦闘経験が少ないから余計に強大に見えているだろう。

 あくまでもシュミレーションだが、私とコウジの戦績は五分。

 戦い方が違うとはいえ、私ならテスタメントに対抗できるだろうか。

 答えは限りなくNOに近い。私もおそらくあの変幻自在の動きに惑わされ、何も出来ずに敗れるだろう。

 コウジが勝利するビジョンが、まるで浮かんでこない。

「少佐の真価はたしかに小隊行動です。ですが単機でも弱いという事はありません。」

 隣の霧咲が戦闘から眼を離さずに言う。

「少佐は第2次大戦を生き抜いた身です。戦い方を熟知している。」

 テスタメントを当然のように賛辞する。

 だが何故だろう。若干期待を込めた眼でブレイガストを見ている。

 そして、その期待が失望へと変わり始めていることが、私にも見て取れる。

 テスタメントは接近戦を止め、中距離での攻撃を開始する。

 だが今度のブレイガストは先程とは違い、ダメージ覚悟で突撃を敢行する。

 左腕を振り払う。当然それを予期していたアハゲリスは右に移動する。

 避けた先に蹴り。そこまでは先程と同じ。

 アハゲリスが距離を取ろうと下がったそこに、ブレイガストの拳が叩き込まれた。

 何事かと眼を見張ると、その拳は右腕から切り離されていた。

 ジェットナックル。コウジは蹴りがかわされることまで呼んで、さらに1手先を打っていた。

「あれは自棄ですか?それともスターゲイザー故?」

「さあな。だがコウジはよく突拍子もないことを思いつく。これで流れが変わるだろう。」

「いえ、変わりません。そして、これで終わりです。」

 霧咲は抑揚も無く言い放つ。

「この程度ですか・・・。期待はずれです。」

 失望の声とともに。

 

side-ユラード-

 

 今のは驚いた。正直びびったよ。

 ロケットパンチをあんなタイミングで撃ってくるなんてね。

 お陰でコッチの装甲が凹んでしまった。左腕は死んだことでいいかな。

 マシンガンを右手で構え撃つ。

 何とそれを最小限の動きで避け、こちらに迫ってくるではないか。

 スイッチが入ったみたいだね。

 だが遅かったようだ。俺もエンジンがかかったよ。

 突進してくるブレイガストに対しこちらも突撃をかける。

 この行動に面食らったのかアチラさんの動きに躊躇いが生まれる。

 だめだなぁ。

「相手が自分の思い通りに動くとは限らないんだぜ!」

 スーパー級とカバリエ・ミーレスの正面衝突。

 だが虚を付かれた相手に対しコッチは肩を思い切り叩きつける。

 そこで生まれた隙を見逃すはずが無い。

 各関節部に全弾発射し、事実上、ブレイガストを行動不能にする。

 終了の合図が鳴った瞬間だった。

 

「ありがとうございました!ユラードさん!!」

 で。なんで俺は少年にお礼を言われているのかね。

「いったい何事だい。さり気に呼び方まで変わってるし。」

「いやぁ。なんかすっきりしたって言うか。とにかく、強い相手とやれて、今の自分に出来ることが分かったんで。その感謝を。」

 あ~、なんだ。

 さっきも言ったような気がするけど、スポ根精神は苦手なのよ。

 俺の教導はスパルタだけど。

「ん~。まぁ。まだまだ無駄な動きが多すぎる。幾ら攻撃力が売りのスーパー級でも攻撃が当たらないと無意味だ。そこん所直せ。」

「はい!」

 元気な少年だよホント。」

「幾つか相手の動きを先読みしていた点は良かった。それと最後の回避もな。焦らず精進しな。」

 らしくないな。俺が模擬戦で相手を褒めるなんて。

 ただ、なんとなく少年からは可能性を感じたんだ。

 これが新人類、スターゲイザーなのかね?

 そう考えていると、メイがいつの間にか傍にいた。

「どうした、メイ。」

「・・・あれが、あんなものがスターゲイザーなのでしょうか。」

「たしかに少年は負けた。だが、それだけで少年の器を図るのは早計だぜ。」

 無表情で俯く。

 珍しく俺の言葉でさえ納得していない様子だ。

「まぁ、ゆっくり見ていきな。いずれ、分かるようになるさ。」

 スターゲイザーも強化人間も関係ない、素の少年少女と触れ合えば、な。

 

 

第7幕

 

side-コウジ-

 

 夏休みの真ん中。我が校には登校日なるものが存在する。

 普通の生徒なら、なぜ休みに態々学校に行かなくてはならんのだと面倒臭がるだろう。去年の俺がまさにそうだった。

 だが今年は事情が違う。

 マイケルの事だ。

 あいつは皮肉屋のくせに人望が厚かった。あいつの葬儀では何人もの生徒が涙を流した。

 俺はそれ以来クラスの人間と会っていない。

 正直に言おう。会うのが怖いのだ。

 なぜ護れなかったのだと。なぜ死なせたのだと。そう言われるのが怖いのだ。

 もう乗り越えたつもりでいた。だが、大事な所から目を逸らしていただけだったのだと、今痛感する。

 時刻は既に予鈴ギリギリ。家でウジウジと悩んでいた結果だ。

 マコトはそんな俺を叱咤するでもなく、ただ傍にいてくれた。

 甘えかもしれないが、今はそうしてくれることが助かった。

 人気の無い通学路を、二人で歩く。

 途中、学生寮暮らしのシャナと出会った。

 無言で合流し、無言で歩き続ける。

 彼女も俺達と同じなのだと思う。クラスメイトに会わせる顔が無い。

 真夏の日差し、茹だるような暑さの中、靴音だけが辺りに響く。

 不思議と汗が出てこない。きっと心が、体が冷え切っているから。

 ついに校門までたどり着いた。着いてしまった。

 そこからの一歩が、中々踏み出せない。

 全員が俯いたまま。

 ・・・えぇいと首を振る。何をしてるんだ俺は。

 ユラードさんとの模擬戦で、前に進む覚悟を決めたんじゃなかったのか。

 我侭を通してまで付き合ってもらったのに、いつまでも足踏みをする気か。

「行こうぜ。きっとみんないる。」

 その言葉で、俺達3人は教室へと向かった。

 

 こんなに教室までの足取りが重かったことは無い。

 いざドアの前に立つと、それが地獄への門に見えてしまう。

 教室の中のざわつきが、鬼の邪悪な談笑のように聞こえる。

 重症だな、これは。

 覚悟を決めよう。俺はドアを開けた。

 その瞬間、クラス中の視線が俺達に向けられる。

 さぁ来い。罵声でもなんでも受け止めてやる。

「コ・・・」

 こ?この野郎?

「コウジーーーーーーッ!!」

「ぐはぁっ!?」

 近くにいた男子が俺の腰に抱きつくなり、涙を流す。

 え?何事?てかちょっと気持ち悪い。

「コウジ!生きてるよな!?死んでないよな!?」

「東屋君、無事なんだね!?」

「チクショウ!心配かけやがって!」

 なんだ?状況が追いつかない。頭がパーン。

「シャナさん、どこも怪我は無い!?痛い所無い!?」

「どうしよう!?シャナさんの珠のお肌に傷がついたらどうしよう!?」

「え、あ、あぁ。私は大事無いが。」

 シャナも。

「マコト!あんたフォーチュンに入ったんだって!?」

「よがっだ!マゴドが無事でよがっだよ~!」

「ちょ、ちょっと待って!みんな落ち着いて!?」

 マコトも、クラスの連中に取り囲まれ心配されている。

「お、おいお前ら。なんか反応がおかしくないか?」

 俺が思わず声を上げる。

 そして何が?と言わんばかりに全員の顔が俺に向く。

 コワッ!なんだかコワッ!

「何がおかしいんだよ?」

 クラスを代表して松浦(帰宅部)が言う。

「だって、夏休みに入ってすぐ、マイケルがあんなことに・・・。」

「だから心配だったんじゃないか!」

 松浦の言葉に全員が頷く。

 解ってるならなんで。

「あんな事があったからこそ、俺達はお前らのことが心配だったんだ。クラス中に確認してみたら、お前ら3人今まで誰にも電話1本メール1通入れてないそうじゃないか!みんな気が気じゃなかったんだぞ!マイケルに続いてお前らまでって思って!」

 クラス中の視線が俺達を睨む。

 でもこの視線は、決して不快なものではなかった。

 俺達の身を心から心配してのものだと理解できたから。

「でも、俺は、マイケルを、救えなかった・・・。俺の所為であいつは。」

「そんなの、全部テロリストが悪いんじゃないか!何でお前の所為なんだよ!」

 なんで、お前らそんなに・・・。

「そんなに、優しいんだよ・・・。」

 あれ。俺、声が震えてる・・・。

 頬もやけに温かい。

「そんなの」

『友達だからだろ(だよ)』

 全員が声を揃えて言った。

 その瞬間、解ったよ。

 こいつら馬鹿なんだ。

 馬鹿にお人よしなんだ。

「俺達のこと、身体を張って護ってくれてるお前らのこと、誰も悪く言ったりしねぇよ。」

 頬を伝うのが涙だと理解する。

 見るとマコトも涙を流し、シャナも目が潤んでいる。

 そうか。俺は、俺達は、桜花島を、皆を護っているようで。

 皆に、護られていた。支えられていたんだ。

「馬鹿だよ、お前ら・・・。」

 馬鹿は俺もだ。こんなにいい奴らを信じていなくて。

 こいつらの浮かべる笑顔に勇気付けられているのに気が付かなくて。

 まったく、正義の味方への道は遠いよ。

「あ~、青春してるとこ悪いんだけど、HR始めていい?」

『あ、フミカ先生いたんだ。』

「泣くぞ?大の大人が泣き喚くぞ?」

 それは勘弁願いたい。

 

「こうしてクラスみんなが揃うのはあの日以来だね。」

 先生の話はいきなり重い所から始まった。

「みんなショックだったろ。大いに泣いたろう。でもね、あれは現実だよ。昨日まで一緒にいたのに、次の日にはもういない。それがアタシらの住んでる世界だ。」

 イズモは比較的平和な国だが、それでもテロや奈落獣の所為で少なからず戦火に晒されている。

 そこで戦う兵士やリンケージもまた、命を懸けて戦っている。

 今の俺達のように。

「アタシだって悲しいさ。1年一緒に戦ってきた仲間だったんだ。でもね、アタシらは立ち止まっていられない。戦うことを止めたら、守るべきものが守れなくなる。アタシらは生きて、アンタ達を護らなくちゃいけない。」

 だから、と一息ついて。

「アンタ達が生きていること。生きて笑っていること。それがアタシらの力になる。背中を支えてくれる。まだ死ねないって思わせてくれる。」

 それでも。

「それでも散る奴は出てくる。命懸けなんだ。当たり前さ。そんな時は、墓に花一輪添えてくれればいい。それがアタシらの生きた証になる。」

 だから。

「だからマイケルの事、これ以上悲しまないでやってくれ。ただ「さようなら」って、言ってやってほしい。あいつも一流の兵士だったんだ。それだけで十分なんだよ。」

 先生の眼は、遠くを見ていた。

 俺達を通して、ずっとずっと遠くを。

 まるで昔を思い出すかのように。

「まぁ何だ。夏休みの残り、有意義に過ごしな。テロリストや奈落獣からは、アタシらがしっかり護ってやる。アンタ達はいつも通りにしてなよ。」

 先生にしては優しい笑みを浮かべる。

 こんなこと考えてるのがばれたらぶっ飛ばされるかもしれないけど、そんな顔も出来たんだ。

 俺はマコトとシャナと目配せする。

 絶対にみんなを護ろうと。みんなの日常を護ろうと。

 決意を新たにする。

 大丈夫だ。みんながいるかぎり、俺達は負けない。死なない。

 必ず生き残ってみせる。

「あ、だからって課題忘れた奴はとっちめるから覚悟しとくように。」

 いきなり現実に戻すなよ、フミカ先生ェ・・・。

 

 

第8幕

 

side-マコト-

 

「海水浴に行こう!」

 基地内のティーラウンジで休憩中、ボクはそう提案した。

 コウジとシャナがポカンとしている。

 そんなに変なこと言ったかな?

 せっかくの夏休みなんだし、行って損することはないはず。否、むしろ得する!だって楽しいし!

「どうしたマコト。暑さで脳がやられたか?」

 失敬な男の顔面に拳をお見舞いする。椅子から転げ落ちてじたばたしてるが気にしない。

 アホには相応の罰が必要だ。

「で、どうかなシャナ。海水浴。」

「いや、いきなりすぎて私も着いていけないんだが。」

 まぁ自分でもいきなりだなぁと思うよ。

 でもさ。夏休みの課題も終わってるのに何もせず訓練だけして過ごすのは花の高校生として我慢できない!

 もっと遊んでもいいではないか!

「とそう思うんですよ。」

「気持ちは解らんでもないが、私達にそんな暇があるのか?敵はこちらの事情を察してはくれないぞ。」

 ぐぬぬ。おのれディスティニー!

「あ!それじゃあメイちゃんやユラードさん達の親睦会ってことにしたらいいんじゃないかな?」

 我ながら名案だと思う!

「いやだから敵は」

「いいですねやりましょう。」

『うわぁ!?』

 し、司令、いつの間に。

 ていうか今の聞いてたの?

「そうですね。1時間後にリンケージの皆さんは司令室に来てください。そこで正式に発表しましょう。」

 司令はやけにノリノリだ。

 てっきり怒られると思ったのに。

「ではまた後ほど。」

 そのまま何処かへ行ってしまった。

 ・・・なんだったんだろう。

「・・・まぁ、私も海水浴とやらに興味はあるが。」

「あれ?シャナ海に行ったこと無いの?」

「水練以外ではな。海は遊び場というより修行場というイメージだ。」

 ならなおさらだ!

「遊ぶために泳ぐ!楽しいよ!それにビーチバレーやスイカ割りも夏の定番だね。イズモで生活するからには一度は経験しておかないと!」

 人生の損だよ!うん。

「そんなに楽しいものなのか?」

「うん。それに泳げばそれだけで運動になるしね。」

 まぁどうなるかは司令次第かな。

 

「というわけで、霧咲さんやテスタメント小隊の方々との親睦を深めるため、次の休日に海水浴に行きましょう。」

 1時間後、司令の発言も唐突だった。

「いえ、あの、司令。突然決められましても、島の警備の方は。」

「リンケージならガーディアンを射出すれば問題ないでしょう。それになにも全員参加と言うわけではありません。非戦闘員はくじ引きでもして当選者が今回参加。残りは後日休暇を与えるという事にします。」

「ですからその、司令が席を外されるのはいかがなものかと。」

「そこは普段碌に仕事をしない副司令に代理を頼みます。」

「わたくしですか!?」

 司令が副司令をやり込めているという、いつもと逆の珍しい光景が広がる。

 リンケージ組はそれをポカンと眺めているだけだ。

「ここに着任して2年目。碌に休みを取ってないんです。綺麗な砂浜で海水浴を楽しんだっていいじゃないですか私まだ9歳ですよ遊び盛りですよいい加減うんざりなんですよ書類とにらめっこはたまには羽目を外したっていいじゃないですか。」

 あ、なんかヤバイ。眼からハイライトが消えてる。

「ま、まあまあ副司令。いいじゃないの、偶には。ここの所連戦で皆疲れてるし、息抜きにさ。」

 フミカ先生からの助け舟が出る。

 でも正直驚いた。先生はこんな時はさすがに反対してくるものと思っていたのに。

 さすがの先生も疲れが溜まってるのかな?

「でもいいのかい?俺らの為にそんな事企画してもらっちゃって。」

「いいんです。親睦会は遊ぶための口実みたいなものですから。」

 ぶっちゃけた!?

 司令どれだけストレス抱えてたの!?

「ま、そういうことならぜひ俺達も参加させてもらいたいね。」

「マジかよ。ユラードさんって遊びそうなタイプに見えねぇけど。」

「おいおい少年。おじさんたちだって休みたい時はあるさ。今回は司令の提案に乗っからせてもらうだけさ。」

 最大の壁だと思っていたユラードさんが簡単にコッチ側に着いた。

 この人たちも憩いを欲していたんだなぁ。

 次の問題はメイちゃんだけど。

「少佐。海水浴とは何ですか。遊びと聞こえましたが。」

「慰労会みたいなもんだ。お前さんもいつも基地内にいて息苦しいだろ。偶には外の空気を思いっきり吸ってきな。」

「了解しました。」

 軽っ!そんなんでいいの!?キミに自分の意思は無いの!?

 う~ん。これはただ遊ぶだけじゃ収まりそうに無いな。主にボクが。

「マコト。何を考えている?」

 気配を察したのかシャナが話しかけてきた。

「メイちゃんのこと。今回がきっかけでみんなと打ち解けてくれればいいなって。というかそういう風に持っていく。」

「またか。治らないな、そのお節介癖。」

 なんと言われようと、ボクは止まらないよ。

 これを機に、メイちゃんと仲良くなって見せる!

「コウジも手伝ってよ。」

「俺が何かできるかなぁ。まぁチャレンジはしてみるけど。」

 よし。今回の目標決定!

 司令の方も話がついたみたい。

 ていうか強引に終わらせたっぽい。

「それでは今週末、桜花島海水浴場に現地集合です。当日は一般の方々もいらっしゃるでしょうから、迷惑を掛けないように。」

『は~い。』

 随分緩い感じに決定した。

 副司令まだ落ち込んでる。

 さて・・・。

「コウジ、シャナ。今日の訓練が終わったら早速水着買いに行こう!」

「え、いや私は学校指定の物を。」

 なんですと?

 夏休みの海水浴でスクール水着?

「それは駄目だよ!もっとオシャレなのを選ばないと!シャナは折角プロポーションも良くて綺麗なのに!」

 そう。ボクと違ってスタイルが良い。

 出てる所は出て、引っ込む所は引っ込んでて。

 そう。ボクトハチガッテ・・・。

「モッタイナイヨシャナ。」

「マコト、何で片言なんだ?」

 視界の端にそろりと司令室から抜け出そうとする影一つ。

 素早くその手を捕まえる。

「何処へ行くんだい?」

「お、お前と一緒に、シュミレーションの準備だぁ!?」

 などというネタは置いておいて。

「コウジも来るの。訓練が終わってからだけど。」

「え~。お前な、女性用水着コーナーの近くで待たされる身にもなれよ。恥ずかしいなんてもんじゃないぞ。拷問だぞあれ。」

 とかなんとか言うけど、結局付き合ってくれるんだよね、コウジは。

 付き合いがいいというか何と言うか。

 お人好し?幼馴染だから?よく解らないや。

「コウジも来るのか・・・。気合を、入れて、選ばねば(ボソッ。」

 ん?シャナ何か言った?

 おや?何処からか『敵に塩を送る』なんて言葉が聞こえたような・・・。

 あ、そうだ。

「メイちゃんは?水着持ってないなら一緒に行こうよ。」

「ご心配無く。桜花島配属直後に少佐から頂いたものがありますので。」

 持ってるんですかメイさんや。

 て言うかユラードさん、笑顔でサムズアップしないで。

 正直暑苦しい。

 

side-メイ-

 

 何が海水浴だ。馬鹿馬鹿しい。

 司令と少佐の厚意を無碍には出来ないと思いあの場では賛成しましたが、本来の私達の役目はあらゆる脅威を退けること。遊んでいる暇などないはずです。それを、支部のトップが率先して遊ぼうなどと。

 大体この支部には緊張感というものが足りていません。

 桜花島も多くの襲撃を受け、激戦区と呼ばれるほどの場所だと聞いていたのに。

 それが何ですか。親睦会だの呑気な。

 私は戦うためにここに来たんです。そんな腑抜けたことをしにきたんじゃない。

 腑抜けていると言えば、あの二人。

 東屋コウジと神楽坂マコト。

 まるで覇気を感じない。

 東屋コウジにいたっては少佐に軽くあしらわれる始末。

 あんな物がスターゲイザーだというのですか。

 あんな、惰弱そのものといった人間が本物のスターゲイザーだと言うのなら。

 私は何のためにあの地獄のような日々を過ごしたのだろう。

 同じ被験体の仲間が日に日に減っていく恐怖。

 自分は人ではないのだと、そう思わなければ発狂しそうなほどの絶望。

 その果てに生まれた、私と言う名の強化人間(怪物)。

 実際にスターゲイザーと出会ったのはこれが初めて。

 それでも、話に聞いたスターゲイザーは、皆崇高な意思や目的を持っていた。

 だから憧れた。怪物となった自分も、同じようになれるのだろうかと。

 戦いのため、その命を燃やし平和を守る存在になれるのだろうかと。

 だがあの二人はなんだ!平和というぬるま湯に浸かりきったあの態度は!

 あれが私(被験体)の目指した物だというのか!

 知らずのうちに握った手に力が入る。

 私はあの二人を、スターゲイザーなどと認めない。

 

 

第9幕

 

side-コウジ-

 

「おし少年。さっさとシート広げるぞ。嬢ちゃんたちが来る前に終わらせないとな。」

「へ~い。」

 週末。ついに海水浴の日がやってきた。

 え?テンションが低い?しょうがねぇだろ。

 見渡すばかり人、人、人・・・。貸切じゃないから一般の客で大賑わい。

 ただでさえ暑いのに、余計に暑苦しい。

 暑苦しいついでに、目の前で俺と一緒に場所取りをしているユラードさんがヒドイ。

 着やせするのか、40過ぎのおっさんとは思えない鍛え上げられた筋肉。

 太陽光をギラギラと反射するサングラス。

 そしてその股間を覆うのは見事なブーメランパンツ・・・。

 いやホント、尊敬したばっかりでなんだが、暑苦しい。並んで歩きたくない。

 漫画やドラマで歯をキラーンとさせてるタイプだ。実在するんだな。

「よし、パラソルも準備完了っと。後はみんなを待つだけだな。」

 そうこうしている間にスペースは確保できた。

 前から思うんだけど、何でこういうのは男の仕事なんだ?

 単に女の着替えが長すぎるだけだろう。

 力だって、男より強い女はゴロゴロいるぞ。

 特にマコトやシャナなんて・・・。

「はごぶっ!?」

 なんて考えていたら横っ面に何かが飛んできた。

 転がるそれを見ると、っておい!サンオイルじゃねぇか!

 下手すりゃ怪我じゃ済まなかったぞ!無傷だけど。

「今何か失礼なこと考えてなかった?」

 怒気をはらんだマコトの声が聞こえる。

 くそう、勘のいい奴め。

 それにタイミング良く現れやがって。さては準備できるの待ってたな。

「よ!嬢ちゃんたち!決まってるね!」

 まず現れたのはマコト。

 イメージ通りの黒のビキニ。無い胸を張って仁王立ちしている。

「また何か考えた?」

「気のせいだ。それよりやっぱり黒かよ。たまには違う色選べないのか?」

 コイツの趣味は黒。毎年新しい水着を買っているくせに、黒しか選ばない。

「だって、他の色の水着着てみても、似合わないんだもん・・・。」

 だもん、なんてキャラじゃねぇだろ。

 なんて考えてるとまた何か飛んできそうだ。危ない危ない。

「そ、その。待たせたな・・・。」

 今度はシャナの声が聞こえる。

 そっちの方を向くと・・・。

「・・・。」

「な、何だ。何か言ってくれ・・・。」

 いやさ。水着選びの時は、実はうまく逃げたんだよ俺。

 だからシャナの水着姿は学校指定のしか見たことないんだ。

 その時から分かっていた。分かっていたはずなんだが・・・。

 単刀直入に言おう。

 デケェ。何がとは、言わずとも理解できるだろう。

 豊満なバストを花柄のビキニで飾っている。あ、今揺れた。

 体全体も無駄な肉が無く、引き締まっていて実に健康的だ。

 パレオだっけ?あれを腰に巻いているが逆にセクシーさを醸し出している。

 俺から言えることは唯一つ!両手を合わせて!

「ごちそうさまです!」

「え!?え!?」

 真っ赤になっとる。愛いのう。

「セクハラーーーー!!」

「タコスッ!?」

 マコトに蹴られた。しかも鳩尾。

「えっと。褒めて、くれたのかな?ありがとう。」

 それに比べてシャナのはにかみ。なんやお前天使だったんかい。

 クラスの男子共、この姿は今は俺のモノだ!羨ましかろう!ガッハッハ!

 ・・・。あれ?今一瞬寒気がしたぞ?空はこんなに青いのに。太陽は絶好調なのに。おかしいな。

「ふっ。小娘共。このアタシの水着姿にひれ伏すがいい!」

 フミカ先生も絶好調のようだ。

 うむ。確かにすごい。

 シャナ以上のメロン様がおられ、それをこれでもかと主張するような水着だ。胸元めっちゃ開いてる。

 うむうむ。熟れた女体と言うべきか。シャナとはまた違った色気がある。

 フハハハハ。眼福眼福。

 おっとまた遠くから寒気を感じた。へ、男子共。このお姿を見られるのは選ばれた者のみよ!

 なんて考えてたら近くから殺気が流れてきた。もうよそう。さすがに死にたくない。

「まったく。少しは落ち着いてください、いい歳なんですから。」

「ちょ~っとそれはどういう意味かなミウコちゃ~ん?」

 あ、ミウコ司令も来たのか。

 うん。こっちは歳相応の水着だな。腰に短いヒラヒラが付いてるやつだ。

 こうして見ると、司令も子供なんだなって思う。本当なら同い年の子と海で遊んでてもおかしくないのに。

 やっぱり、色々無理させてるのかな、俺達。

 こんな小さな体に、一体どれだけの負担を掛けてるんだろう・・・。

「?どうしましたコウジさん。」

「いえ、何でもないっす。」

 あまり見つめるのもいけないな。犯罪者だと思われかねん。

 あれ?先生と司令。こうして並んで見ると・・・。

「・・・なんか二人、似てる。」

「あ、お前もそう思うか。」

 身体つきはさすがに似てないが、顔のパーツというか、所々がそっくりとは言わないまでも似ている。

 それに雰囲気いうか。豪快な先生と真面目な司令とじゃ大違いだけど、こうして休暇真っ最中の二人を見比べると、どこか重なる部分がある。

 だけど触れちゃいけない空気も纏っているので、そっと胸に秘めておこう。マコトとも目配せする。

 ところで、あとは誰が来てないんだ?

「お待たせしました。」

 あぁそうだ、霧咲だった・・・、って!

「何ーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 我が目を疑う光景がそこにはあった。

 霧咲メイ。たしか14歳だったはずだ。

 なのに、なのに!なんだそのけしからん二つの膨らみは!?

 ワンピースタイプで清楚感を出そうとしているが、まるで逆効果!

 中学生相当にあるまじき物が付いとりますがな!

 ユラードさんを見る。

 彼は無言でサムズアップした。

 俺はそれに対し同じ行動を取ろう。そしてGJ!

「やっぱり驚いたか。」

「予想以上だったもんね。」

「ビックリです。」

「・・・フォーチュンの制服って、あんなのまで隠せるの?」

 女性陣は更衣室で見ていたのであろう。

 俺の反応を見てそれぞれの対応をする。

 てかマコト。浜辺にのの字を書くな。みっともない。

「みっともないのはお前の顔だ。まったくデレデレして。」

「痛い痛い痛い!ちょ、シャナさんなんで!?」

 なんで怒ってるのこの人!?

「やれやれ。まったく。」

「乙女心が解っていませんね。」

 あんたらはなに呆れ顔で語ってんだよ。

 てか息ピッタリだなおい。

「とにかく!折角の海水浴です!他の皆さんもすでに遊び始めています!私達も遅れはとりませんよ!」

 あ、ホントだ。良く見ると知ってる顔がちらほらと。いつの間に。

 司令もどこから取り出したのか浮き輪を装備し、準備万全である。

「それでは私はお先に失礼します。」

 ヒャッホーイといつもならまず聞けない声を上げながら海へ突撃していく司令。いやもうミウコちゃんだなありゃ。

 その後をしょうがないねぇとか言いながら追いかけていく先生。

 やっぱりあれだな。親子にしか見えねぇ。言ったらぶっ飛ばされるだろうけど。

「コウジ、シャナ。ボク達も泳ごう。ブイまで往復して、ビリがカキ氷おごりで。」

「いいな。だが、その前に準備運動をしっかりせねば。」

 いつの間にか復活したマコトの提案で競争が決まる。もちろん俺の意思など皆無だ。シャナもやる気だし。

 俺もしっかりと身体を解す。奢りなんてごめんだ。海の家のカキ氷ってやけに高いんだぞ。

 準備運動中、パラソルの下で体育座りをしている霧咲が目に付いた。

「おい霧咲。お前もやるか?いい運動になるぞ。」

 グッグッと身体を動かしながら誘う。

 まぁビリになっても奢らせる気は無いけど、一応親睦会って体だしな。

 それにコイツと打ち解けたいってのは本心だ。

「いえ。私はここにいます。皆さんはどうぞご自由に。」

 やんわりと、それでいて明確な拒絶。

 もうちょっと誘ってみようかと思ったが、視線が「話しかけるな」と言いたげなので取りあえず距離をとる。

 あの手の人間相手には時として引くことも大事だ。マイケルで経験済みだ。

「あの娘、これを機に打ち解けてくれるかな?」

 マコトが心配そうに霧咲を見ている。

 急にワッ、っと行っても逆効果だ。ここは間を置こう。

 ナンパの心配も無いだろう。なんせあの見た目の保護者が近くにいるんだから。

「俺達は俺達で今楽しもうぜ。ゆっくり時間を掛けていけばいいさ。」

「うん・・・。そうだね。」

 マコトの世話焼きも、後から効いてくるさ。

 さぁ、今は水泳対決だ。

 俺の財布の為にも、本気で勝ちにいくぜ!

 

 この体力馬鹿共め・・・。

 結局俺がビリになり、3人分のカキ氷代を払った。

 マコトとシャナはカキ氷を食べた後、もう一度泳ぎに行っている。

 あいつらの体力は無尽蔵なのか?それとも俺の体力が無いのか?

 ・・・もっとトレーニングしようかな。

 とりあえず休憩としてパラソルのところまで戻ってきた。

 そこにはサングラスのビキニパンツ親父が肌を焼いていた。

「ユラードさんはよく焼く派ですか?」

「コロニーじゃこんなこと出来なかったからね。折角の機会だ。満喫させてもらうよ。」

 さいですか。

 それにしても、コロニー出身か・・・。

「コロニーと地球とじゃ、そんなに違うもんすか?」

「何もかも違うね。あっちじゃ太陽も空気も水も全部作り物さ。肌で解るよ。」

 こちとら生まれも育ちも地球、イズモ、桜花島。

 想像も出来ないなぁ。

 沈黙がしばらく続く。

「メイのこと、気にかけてくれてありがとな。」

「いや、まぁ、失敗しましたけどね。」

 自嘲気味に笑う。今の俺は彼女との距離を測りかねている。

 どうすればいいのだろうか。

「気にかけてくれるだけで十分さ。君らだけじゃなく、あの娘からも歩み寄らないとな。」

「それ、すげぇ難しいと思いますよ。」

「難しいよ。人間同士の付き合いなんてな。」

 再び沈黙が支配する。

 周りには多くの海水浴客がいるのに、ここだけが切り取られたように静かだ。

「俺達の先任の話、聞いたよ。」

 突然ユラードさんが切り出す。

 先任、つまりマイケルのことだろう。

 大方司令か先生あたりだろうな、情報源は。

「友達を目の前で喪ったんだ。敵に対して怒りもしたろう。憎みもしたろう。その感情は、まだ消えてないんだろ?」

 ・・・突然なんだよ。

 痛い所突いてくるじゃないか。

「その瞬間が忘れられない。乗り越えたはずが突然フラッシュバックし、自分を追い詰める。憎い相手の姿がちらつく。違うか?」

「・・・違う、なんて言えねぇ。」

 なんだかやけに的確に突いてきやがる。

「おじさんも昔はそうだった。」

「えっ?」

「おじさんな、第2次大戦中に女房と子供を死なせちまったんだ。」

 それからユラードさんは静かに語った。

 自分がヴォルフ共和国の軍人であったこと。

 宇宙で暮らす民の為、理想に燃えていた時期だったこと。

 家族が暮らしていたコロニー近海で、偶々戦闘が起きてしまったこと。

 コロニーに攻撃が被弾、住民は避難を余儀なくされたこと。

 そして、避難民を乗せたシャトルが流れ弾によって撃墜されてしまったこと。

「誰が撃ったかはすぐに見つけた。地球側の人間でな。シャトルを撃ったことに戸惑ってた。おじさんはすぐにそいつを撃ち殺したよ。」

 淡々と、まるで人事のように話し続ける。

 そこには、感情が全く乗っていなかった。

「おじさんはその場で復讐を遂げた。そしてその直後だ。戦争が終わったのは。」

 それは、復讐を遂げたことになるのだろうか?

「色々考えたよ。何でもっと早く終わってくれなかったのか、とかね。でも、そんなのどうでもよくなっちゃったんだよ。俺は、空っぽになった。恨みたくても、その相手はもういない。誰が悪い戦争だったのかも、もう判らなくなってた。空っぽのまま、まるで死に場所を求めるように、戦争の残党を

狩り続けた。元同胞をな。連邦に魂を売った犬だとも言われたよ。なにも感じなかったがね。そしていつの間にか、フォーチュンの教導隊に所属してい

た。」

 それは誰に向けたものでもない昔語り。

 もはや俺を相手に話しているかも分からない。

「そんなある日だったかな。宙間行動の教導中、急に指令が入ったのは。ノイエヴォルフの研究所を制圧すると、女の子が一人いた。目の光も無く、助

けにきたことを告げても何の反応も無い。人形のような娘。それがメイだ。」

 のそりと身体を起こす。

「人形そのものだった娘を、俺は引き取ることにした。あの娘の為じゃない。痩せこけた自分の心を満たすためだ。だが、これが中々心地良かった。娘

の方も少しづつ俺に心を開いてくれてなぁ。」

 空を仰ぎ見る。そこには真夏の太陽がギラギラと輝いていた。 

 俺は流れる汗も気にならず、話を聞く。

「でもそれだけじゃ駄目なんだ。あの娘はもっと外を見なくちゃいけない。戦うことの意味も、戦い以外のこともな。」

 そう一区切りつける。

「・・・あれ?なんか最初と話がずれてないか?」

「そうか?大してずれてねぇよ。少年。恨み憎しみで戦うのは別に止めないよ。ただ、その先を見失うな。」

「その先?」

「仇を討って、それで空っぽになるなってことだ。その後を埋める何かを、ちゃんと探しておけよ。願わくば、そこにメイも入れてくれると嬉しい。」

 仇を討って、その先・・・。考えてなかったな。

 今はグラフスを許せない。その気持ちが心を占めてる。

 でも、それじゃ駄目なんだよな。

 俺達の力は、そのために振るうべきじゃない。

 考えてなかったというより、感情が拒んでいたんだ。憎しみを捨てることを。

 怒りも憎しみも捨てず、それでも正しい道を往く。そんなことが、俺に出来るだろうか。

「まぁ、今は悩みな少年。分からなくなったら、悩んだら、大人に相談しな。伊達に歳食っちゃねぇよ。」

 屈託の無い顔で笑われる。

 この人の人生も相当のはずなのに、どうしてそう笑えるんだろう。

「一つ、俺みたいにはなるなよ。これは人生投げ出した悪い見本だからな。」

 余計に分からなくなった。

 だけど、なんとなく。なんとなくだ。

 俺流の答えを出す日も近い。そう思った。

「男二人で何語ってんのさ。」

「そうです。今は夏を満喫する時間です。」

 そう言って現れたるはフミカ先生とミウコ司令。

 先生はビールにイカ焼き、司令は焼きそばとたこ焼きを手にしていた、て。

「司令。あんたどれくらい食う気だ?」

「え?まだまだ序の口ですよ?」

 意外と大食漢な9歳児だった。

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