メタリックガーディアン・プロミス 『桜の舞う島で』   作:戒炎

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今回普段より短めです。
え?いつもが長い?
ドーモすいませんorz


「SUCCESSOR」その3

side-マコト-

 

 くあ~、泳いだ泳いだ。さすがに疲れたなぁ。

「マコトは、アレだな。私が言うのもなんだが、タフだな。」

「そういうシャナだって最後まで張り合ってたじゃないか。コウジでもボクの泳ぎには付いて来れないのに。」

 何だか良いな、こういうの。

 友達と海で思いっきり遊ぶの。自分が遊び体盛りだって実感する。

 今年の夏は色々ありすぎて、なんだか張り詰めてたけど、やっといつもの自分になれた気がする。

「そうだ。そろそろスイカ割りしようか。たしか先生が持ってきてくれたって言ってたし。」

 海水浴といったらコレでしょう!

「そのスイカ割りというのは、結局何なんだ?」

「それはやるまでのお楽しみってことで。」

 きっと楽しいから、と付け加えておく。

 ん?あれは、メイちゃん?

 あんな人気の無い岩場でなにやってるんだろう。

 なんだか暗い雰囲気だ・・・。

 よし!ちょっと行ってこよう!

「あ、こらマコト!何処に行くんだ!」

 

「メーイちゃん。どうしたの?一人でこんな所に。」

「神楽坂さん、ですか。」

 元気、無い?大丈夫かな?

「疲れちゃった?それとも日差しがきつかった?日陰で休んだほうがいいよ。」

 こんな場所じゃ休めるものも休めないだろうし。

「気にしないでください。そういう訳ではありませんので。」

「う、うん。」

 な、なんか反応が冷たい・・・。

 ボク、何かしたかな?

「疲れたわけじゃないなら、これからスイカ割りしない?楽しいよ。」

 そう言って彼女の手に触れようとする。

「触らないでください。」

 その手はにべも無く払われた。

 何をされたのか解らず、キョトンとしてしまった。

 そのまま、一瞬の静寂が訪れる。

 最初に動いたのはシャナだった。

「貴様!何をする!」

 剣を持っていたら抜いてしまいそうなほどの剣幕でメイちゃんを睨みつける。

 ボクは、まだ状況に追いつけていない。

 ただ手を払いのけられた格好のまま、呆然としたまま。

「別に。私は貴方達と馴れ合う気はありません。今日だって、本当は来る気はありませんでした。命令だから参加したんです。」

 冷たく言い放つ彼女の言葉は、夏の暑さを忘れるほど冷え切っていた。

「この島に来る前は、正直期待していました。本物のスターゲイザーに会えると。私が産まれた意味を教えてくれると。目指した先を見せてくれると。」

 彼女は感情を忘れてしまった。そう聞いていたけれど、それは違うと思う。

 今彼女は「期待」していたと言った。それは間違いなく一つの感情だ。スターゲイザー、正しくは、ボクとコウジに向けられた感情だ。

 彼女はそれが目立たないだけで、しっかりと、とても強い感情を胸に抱いている。

 今ボクに向けられている感情は、失望と侮蔑。

「それが何ですか。戦う覚悟も中途半端で、戦う意味も見出せず、今も遊び呆けている。」

 期待していたものから、高く望んだところから一気に落とされ、その分強い失望を覚えてしまった。

 ボク達が覚えさせてしまった。おそらくそうだろう。

「ここに来てから貴方達を見させていただきました。やはり私と貴方達とは違う。私は所詮兵器。それだけです。」

 そう言ってメイちゃんはさらに人気の無い場所まで歩いていってしまった。

「おい!待て!」

「いいんだよ、シャナ。」

 追いかけようとするシャナの手を掴んで止める。

「いいんだよシャナ。今は、少し距離を置こう。」

「マコト・・・。」

 違う。距離を置きたいのはボクの方だ。

 あんな眼を向けられたら、体が固まってしまった。

 失望や侮蔑はまだ耐えられた。戦うことの恐怖に比べれば、耐えられた。

 でも、最後のあの眼は耐えられなかった。

 ボクを見下すだけならそれでいい。

 でも、あんな。今にも泣きそうな、悲しい眼をされたら、どうすればいいか分からなくなった。

 年下の女の子に、あんな眼をさせたのが自分だと思うと、心がどうしようもなくざわついて。

 そんな資格はないと理解しても、ボクまで泣きたくなってしまって。

 つまりボクは、彼女、霧咲メイから逃げ出した。

 シャナがいてくれなかったら、腰が砕けていたかもしれない。

 コウジなら。アイツなら、どうしたかな。

 ボクには分からない。どうすればあの娘の心を開いて上げられるのだろう。

 コウジなら、どうするんだろう・・・。

 悩む時間など与えないとばかりに、緊急避難勧告が流れた。

 

 

第10幕

 

side-コウジ-

 

 くそ!ディスティニーの奴ら!空気ぐらい読めってんだ!

 今はフォーチュンの非戦闘員が海水浴客の避難誘導をしている。不幸中の何とやら、というべきか。

 各ガーディアンは遊泳禁止区域や人気の無い岩場や崖に射出してもらえることになった。

 だが、住民の避難が最優先である以上、全機を発進させることは出来ない。

 そんなことをしてもし一般人に被害が出ては元も子もないからだ。

 問題はだれから出撃するかと点だが、っておいおい!?

 ラピス・ラズリがこっちに飛んでくるぞ!

「ユラードさん!どうなってんだよ!」

「ちっ、おいメイ!お前勝手に何してる!」

『命令違反は承知しています。ですが、今回敵は南東と南西、2箇所同時に展開していると聞きました。私が南東に先行します。』

「何だと!?待て!まだ数も把握できていないのに『通信を終了します』あ、こらおい!」

 この人が霧咲の手綱を取れていない?一体どういうことだ?

「あいつ、よくこんなことがあるのか?」

「いや、こんなことは今まで一度も無かった。俺にも何が何だかさっぱりだ。」

 ユラードさんの命令も無視か。

 一体全体どうなってやがるんだ?

「出撃してしまったものはしょうがありません。フミカさん、MK-Ⅱを射出します。南西地点にて待機、敵影を補足次第攻撃に移ってください。」

「了解!」

「その後テスタメント小隊が南西に出撃。敵の迎撃を。」

「任された!」

 この状況でも、司令は慌てることなく指示を出す。

 そうこうしているうちにマコトとシャナも合流した。

 俺達3人の担当は南東地点に決まったのだが・・・。

「3機とも調整中!?」

「すいません・・・。タリスマンはともかく、酷使し続けていたブレイガストとバルサーガはオーバーホール中だったんです。幸い組み立ては完了して

いますので出撃は可能ですがすぐには・・・。タリスマンもブラックボックスの解析が重なり、すぐの出撃は出来ません。」

 だー、もう!ホントに今回はタイミングが悪いな!

 南東は霧咲が一人で向かったままだ。もし前回並みの大群が攻めてきたら・・・。

「観測班によると南西に向かった敵は7、南東には10確認されたようですが、増援が無いともかぎりません。3機の出撃も急がせます!」

 頼むぜ整備班の人たちよ。

 先生はすでに南西地点に移動。ユラードさんも機体の受け取り地点に向っている。

 避難のほうも、住民が大分慣れてきたのかパニックも起こらず進んでいる。まぁ慣れたくなんかなかっただろうけれど。

 無理すんなよ霧咲。お前は、一人で戦っているわけじゃないんだからな・・・。ん?

 マコト、顔色が悪いな。

「おいマコト、体調でも悪いのか?」

「大丈夫・・・。ちょっと疲れてるだけ、だから。」

「そうは言うけど、顔色ヒドイぞ。出撃、止めたほうが」

「大丈夫!!」

 うお!ビックリした。

「大丈夫・・・。大丈夫だから・・・。」

 マコトが弱ってる。

 こりゃ身体じゃない、心の方だ。

 何があったのか知らねぇが、こんな状態で戦えるかよ。

「マコト。今回は最初から合体するぞ。「でも」でもじゃねぇ。良いな?」

 少し悩んで、少しだけ頷く。納得は、してないみたいだけどしょうがない。

 まったく。今回はいつもと勝手が違いすぎる。

 なんで俺が人の心配をする側にいるんだよ。調子狂う。

 

side-メイ-

 

 私が南東地点に到着した時、既に敵影を視認できる距離までになっていた。

 数は報告によると10。全て奈落獣。数は前回より少ないが、固体の反応が強い。

 強敵と確認。だが私のすべきことは変わらない。

 敵の殲滅。それだけ。

 敵は、ナイトメアアーム。それが飛行している?初めてみるタイプ。

 けれど飛んでいるのなら都合がいい。イグニスのいい的。

(私は兵器。敵を倒すために産まれた、強化人間。)

 あんな人たちとは違う。

「行って。イグニス。」

 イグニスを全機放つ。敵は未だ固まって動いている。今が攻撃のチャンス。

 敵を取り囲む。今!

 一斉攻撃に焼かれる奈落獣。だが、それでも怯むことなく、むしろ速度を上げて近づいてくる。

 いいでしょう。このラピス・ラズリが、接近戦でも遅れは取らないという事を、見せてあげます。

 近づく敵にビームライフルを撃つ。

 顔面にビームを受けた奈落獣はその場で爆発。残り9。

 絶えずビームを撃ち続ける。被弾はしているようだが、最初の1匹のようにはいかない。

 鎌状の腕を振りかぶり突撃してきた1匹を、すれ違い様にビームサーベルで切り裂く。残り8。

 残りの敵も鎌で斬りつけようとする。

 が、全て見えている。細かい動き、その動きの先も、視えている。

「ぐ、ううっ!」

 攻撃は全て回避した。被害はない。

 なのに、私の鼻から一筋、紅い線が伝う。

 強化人間は先天性のスターゲイザーとは違う。人体強化や投薬などで無理やり脳を活性化させているに過ぎない。

 つまり、脳が付いていかないのだ。スターゲイザーの未来予測とも言える反射能力、空間把握能力に。

 私の場合、身体を無理やり動かしているに過ぎない。よって、稀に起こるのだ。

 頭に、まるで蛇がのた打ち回るような激痛が。その結果の一つが、器官からの出血。

 それでも、気にしていられない。そんな暇は無い。

 一度距離を取る。再びイグニスで攻撃するために。

 照準を残る8匹に合わせる。

 視える。敵の回避行動、その全てが。今日の私は冴えわたっているようだ。

「あ、ぐぅあぁッ!」

 その分頭の蛇が暴れまわる。鼻だけじゃない、耳からも出血したようだ。

(気にするな。私は兵器。敵を殲滅するための、唯の戦闘機械。)

 視界まで紅く染まる。

 それでも。

「イグニス・・・。焼き尽くせっ!」

 私は止まらない。

 

side-ユラード-

 

 南西地点。既に戦端は開かれていた。

 敵の数は7機。全てガーディアンだと聞いていたが、今いる敵の数は5機。

 もう2機墜としやがったか。

「やるじゃないか!もう嬢ちゃんなんて呼べないな!」

「アタシだって、伊達に死線はくぐってませんよ!」

 良い返事だ。まったくあの小娘が今じゃ一部隊の隊長なんだからな。

 敵機を確認する。味方がやられたって言うのに動きが乱れない。

 なるほど。それがお前さんらの本当の陣形か。俺達と同じタイプみたいだな。

 隊長機と思われる機体、あれはトワイライトか。

 連邦が輸送中の機体を強奪されたと聞いたが、あれがそれか。

 それに肩にJのエンブレム。アイツが噂に聞いたエースか。

「フミカ!もう弾も少ないだろ!後は俺達に任せて援護に回れ!」

「あいよ!」

 さてと、通信を広域モードにセットしてっと。

「よう、アンタもしかして噂の傭兵、ジョニー・ハゼクラかい?」

『へぇ。俺を知ってるか。随分名が売れたもんだ。』

 アチラさんも軽く返してくる。

 なんでぇ。仲良くなれそうなやつだな。

『そういうアンタはヴォルフの黒い狼、ユラード・テスタメント少佐だな。コッチも噂に聞いてるよ。』

「止めてくんな、その名で呼ぶのは。いい歳して恥ずかしいぜ。」

 まるで酒場で飲みながら話す様に会話を進める。

 それでも、どちらも引き金に指を掛けたまま。いつでもおっぱじめられる状態だ。

「ちょいと一勝負していかないか。凄腕の傭兵の実力を肌で感じたくてね。」

『いいね。俺も大戦を生き抜いた伝説のリンケージの腕が知りたかったんだ。それに、今回はそういう任務なんでね。』

 は、随分と簡単に事情を話してくれるな。

 罠は、無いみたいだな。ますます好感が持てるよ。

 ちょいとポーカーでもやらないかという雰囲気で決闘を申し込むあたり、お互い潜ってきた修羅場の数が違うらしい。

 いいよ、四十路過ぎたベテランの腕前、存分に見せてやる。

 ・・・。

「『手前ら!手ぇ出すんじゃねぇぞ!』」

 同時に部下に指示し、これまた同時に突撃する。

 空中戦は分が悪いが、ここは退けないね!

 俺はヒートソードを、トワイライトはビームサーベルを振りかぶる。

 弾ける火花。その間隙を狙い、左手でライフルを構える。

 それと同時に奴さんもビームライフルを構えていた。

 発射も同時なら、回避も同時。どうやら完全に同じ事を考えていたらしい。

 分かっちゃいたが、一筋縄ではいかないね、どうも。

 でもトワイライトの弱点は分かっているよ。俺は距離を取る。

 そしてすかさずミサイルを発射。

 相手も分かっていたかのようにバルカンで一基残らず迎撃する。

 爆煙で互いの姿が隠れる。こいつが狙いよ!

 トワイライトの弱点。それは砲戦兵装が無いこと。

 離れて攻撃すればいい。動きを隠すために煙で視界を塞いだ。

 MLビームキャノン、食らってもらおうか!

 発射!と同時に、背筋に冷たいナニかが走る!こいつはヤバイ!

 ブースターをフルスロットルし、その場から離れる。

 その刹那、今俺が撃ったものより大きいビームが通り過ぎた。

 煙が晴れる。そこには、肩に2門の砲を構えたトワイライトがいた。

 最初に見た時、何か違和感があると思ったら、これか!

『自分用にカスタムしてあるのは、なにもお前だけじゃ無いんだぜ?』

 トワイライトの初期スペックには無いビーム砲を取り付け、弱点はカバー済みってことか。

 そうなると基本性能上、俺のアハゲリスのほうが若干不利となる。

 だが戦いはガーディアンの性能だけで決まるものじゃない。

 リンケージの腕で幾らでもカバーできるんだよ。

「年季の違いってものを見せてやるよ!」

『俺だって機体性能に甘えちゃいないぜ!』

 再びそれぞれの近接武装で鍔迫り合いを行う。

 数秒だったか、それとも一瞬だったか。互いの剣で押し合う中、均衡が崩れた。

 アハゲリスのほうがやや押され始める。やはり機体の出力に差が出たか。

 ダメ押しとばかりにトワイライトがバルカンを撃つ。

 まぁ、幾つか予想はしていたが。

「そいつは悪手だろ、若いの。」

 俺はヒートソードを支点に背面へ回転。その勢いのままトワイライトの股を抜けて奴の背後へ回る。

『嘘だろ!?』

 悪いがホントだ。そのまま回転の威力を殺さず頭部に蹴りを入れる。

 バランスを崩すトワイライトの背を、今度は両の拳で殴りつける。格闘はガーディアン戦闘の基本ってね!

 仰け反る敵さんの腕を掴み、振り回した挙句海上施設に向けて思い切り投げ飛ばした。

 さすがに叩きつけられてはくれない。バーニアを吹かし体勢を立て直そうとする。

 そこが隙だらけなんだよね!

 俺はブースターを最大まで吹かし突撃する。奴さんも離脱しようとするが。

「させんよ!」

 俺のほうが速かった。アハゲリスの蹴りが見事にトワイライトの腹部へと突き刺さっていた。

『ぐおあぁ!?この、無茶しやがって!教導隊ってのは化物ばっかりかよ!』

 失礼な。俺はれっきとした人間だよ。

『隊長、まずいっす!押されてきました!』

 どうやら部下達のほうも善戦しているようだ。ていうか勝ってる?

『ちっ。今回はここまでだな。さすがに長年の仲間まで喪いたくない。今日は退かせてもらうぜ。』

 腹部にダメージを負ったまま、トワイライト、ジョニー・ハゼクラは撤退する。

 良い引き際だ。さすがにあれ以上戦ってたら俺に分があったはず。

 それに撤退時も仲間のミーレスに速度を合わせ、自身が殿になるように退いている。

 やっぱり前言撤回。あのまま戦ってても勝負は分からなかった。

「少佐、追撃しますか?」

「やめとけ。深追いは禁物だ。敵の戦力が分からん以上、ミイラ取りがミイラになりかねん。」

 さて、こっちは片付いた。

 メイ。お前なら遅れを取るとは思えないが。

 今日のお前。何か変だぜ。

 

side-コウジ-

 

 ようやく俺達が出撃できたのは大分経ってからだった。

 通信によると、既に南西地点の戦闘は終わったらしい。

 遅れを取りすぎた。霧咲の奴、無事だろうな。

「うぅ。シートが濡れて気持ち悪い・・・。」

「それぐらい我慢しろよ。着替える暇なんて無かったろうが。」

「そうは言うがな、これは、きついものが。。」

 緊張感が無い。どうしてこうなった。

 そろそろ南東の戦闘区域に入るはずなんだが・・・。

 おかしい。敵の反応が全く無い。

 今回はそこそこ強力な固体が出張ってきていると聞いていたのに。

 まさか、本当に霧咲だけで倒しちまったのか?

 戦闘音すら聞こえない、静寂な海の上。

 だけど、何か嫌な感じがする。敵の気配じゃない。

 この感覚、霧咲のものだ。それもかなり弱い。

 どうした。いつもの澄ました感覚じゃない。

「見えたぞ。奈落獣は、いないな・・・。」

 予感は当たってたってことか。

 既に戦闘は終了、か。

 俺が言うのもなんだが、無茶しやがって。

 機体に傷が無い。完勝かよ。とんでもねぇな。

「遅れて悪かった。まさか一人で片付けちまうなんて思ってなかったぜ。」

「・・・遅かったですね。」

「「「!?」」」

 通信ウインドウが開く。そこに映っていた霧咲の顔は凄惨なものだった。

 耳、鼻からの出血。それに加えて目から、血が涙のように流れている。

 一体どうすればここまでなるのか、とうくらい彼女の顔は紅く染まっていた。

「メイちゃん!?如何したの!何があったの!?」

 マコトが声を掛けるが、それが届いているとは思えない。

 霧咲の目は完全に虚ろで、俺達を認識しているのがやっとといったところだろう。

「出撃もままならないなんて、どこまで、情けない・・・。」

 言い切る前に、ラピス・ラズリが体勢を崩す。

 ヤバイ、と思ったときにはブースターを噴かせていた。

 海に墜ちかけるラピス・ラズリをなんとか掴まえる。

「メイちゃん!?聞こえてる!?目を開けてよメイちゃん!」

「落ち着けよマコト。気絶してる。」

 マコトの呼びかけに、霧咲はまるで返さない。否、返せない。

 取り乱すマコトとは反対に、俺は妙に冷静だった。

 一体何があった。どうしてこんなことになっている。

 ユラードさんなら、何か知っているのだろうか。

「二人とも。今は霧咲を連れて帰還しよう。詳しいことはそれからだ。」

 シャナの言葉に頷き、基地に引き返す。

 その間、マコトはずっと霧咲に叫び続けていた。

 それに対する応答が無いにも関わらず。何度も。何度も。

 

 

第11幕

 

side-マコト-

 

 基地に到着後、メイちゃんはすぐに医務室へ運ばれた。

 ボクも行きたかったけど、コウジに止められた。大事な話があるといって。

 司令室には普段着や制服に着替えたボク達リンケージが揃っている。

 戦いには勝利したのに、重たい沈黙が部屋を覆う。

 口火を切ったのはコウジだった。

「ユラードさん。アンタ霧咲がああなるかもしれないって知ってたんだろ。」

 え?

「・・・そいつはお得意の勘かい少年。」

「違う。珍しく頭使って考えただけだよ。ここに来る前から一緒に戦ってきたアンタが、あの状態の霧咲を知らない、なんてことは無いとおもった。」

 そうだ。この人はボク達より彼女と付き合いが長い。知らないはずが無い。

 だって、娘のように思ってる子があんな事になっているのに、彼は慌てる様子も見せていない。

「ふぅ。まぁな。何度かあったよ、あんな事は。今に始まったことじゃない。」

 彼は言う。強化人間の欠点とも言うべき事実。

 症状は人それぞれらしいけど、メイちゃんの場合身体と脳が噛み合わず、時折顔からの出血を伴うタイプ。

 他にも性格が豹変したり、発狂したりする例もあるらしい。あの娘にはそこまでの症状は見られないらしいけど。

 でも、そんなの、戦える身体じゃないじゃないか!

「貴方は!知っててあの娘を戦わせてるんですか!?それでも親代わりか!」

「落ち着けマコト!」

 シャナがボクの身体を止める。

 ありがたかった。そうしていてくれないと、ボクはユラードさんに何をするか分からなかったから。

「これでも親代わりさ。そう、代わりなんだよ。」

 彼の表情が苦虫を噛み潰したように曇る。

「血の繋がりがねぇ。本当に考えてることは理解できねぇ。ましてや俗人(オリジナル)と強化人間だ。でっけぇ壁がある。多少は心を開いてくれていても、アイツ自身は孤独のままだ。」

 手を強く握りしめ、苦しそうに言った。

「お前さんたちに付きまとってたのも、スターゲイザーのことを知りたかったんじゃない。本当は、自分を理解してくれる人間が欲しかったんだ。孤独を埋めてくれる、そんな人間がな。」

 ・・・。だめだ。言葉が出てこない。

 こんな時、なんて言ったら良いんだろう。

「マコト。お前も今日は様子が変だったな。何かあったんだろ?」

 コウジが痛い所を突いてくる。

 今日のコウジこそいつもと違うよ。

 それはともかく、ボクは海でのことを話した。出来る限り、詳しく。

「その様子だと、完全に心を閉ざしてるようだね。どうすればいいもんか。」

 先生が溜息混じりに呟く。

 ボクは、何とか彼女と仲良くなりたかった。それだけだったのに。

 どうしてこうなってしまったんだろう。何がいけなかったんだろう。

 もっとスターゲイザーとして振舞えば良かった?でもスターゲイザーのことなんて分からない。

 分からない。もう何も分からない。心に迷宮でも出来た気分だった。

 

「ふざけんなよ・・・。」

「コウジ?」

「ふざけんなよ!」

 コウジが突然叫びだした。

 何?一体何が起きたんだ?

「勝手に期待して、勝手にがっかりして、自分は兵器ですなんて勝手に結論出すのかよ!馬鹿にしてんのか!」

 みんなに背を向け、外に歩き出そうとする。

「コウジ、一体如何したんだ?」

「別に。ただ気にいらねぇだけだ。勝手に人の、自分の価値を決めやがって。こうなったら意地でもあの閉じきった心開いてやる!」

 わけがわからない。こいつは何を言っているんだろう。

 支離滅裂もはなはだしい。

 とりあえず、なにがしたいかというと、メイちゃんと仲良くなりたい、ってことでいいのかな?

 言ってることは目茶苦茶だけど、その瞳には強い意志が感じられた。

 ああそうだ。こうなったらコウジは止まらない。何が何でもやり通す。

 ものすごい頑固モードに入ってしまった。

「ですがコウジさん。彼女は貴方との間に完全に壁を作っているんですよ。どうする気ですか?」

「壁があるなら、ぶっ壊すだけだ。」

 とんでもないことを言ってのける男だ。

 でも、コウジなら。

 そう思うのは幼馴染としての贔屓目だろうか。

 あの時受けた強い拒絶。ボクは怯んでしまったけど、コウジならそれを物ともしないだろう。

 相手のことも考えず、とにかく突っかかっていくだろう。

 1年前、マイケルを相手にしたように。

「コウジ。お願いだよ。あの娘を、助けてあげて。」

「助ける?そんな生易しいことはしない。自分の殻に閉じこもってる奴を、外に引っ張り出すだけだ。」

 そう言って部屋から出て行ってしまう。

 それでいい。その強引さが、きっとあの娘の心に響く。

 あの真っ直ぐな想いに、不可能は無い。ご都合主義と笑わば笑え。

 なんとかしてしまう所を、ボクはずっと傍で見続けてきたんだから。

 信じよう。そして、ボクももう一度ぶつかってみよう。

 諦めを知らない、そんな男と一緒に。




短めといいつつ結局いつもと変わらない罠、発動!

あ、石は投げないでください!投げないでください!
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