メタリックガーディアン・プロミス 『桜の舞う島で』 作:戒炎
皆様も体調には十分お気をつけください。
私はようやく風邪が治りました。
熊本地震で亡くなった方々に対し、この場で申し訳ありませんが哀悼の意を表させていただきます…。
第1幕
side-メイ-
私がこの桜花島に配属となり、早数日が過ぎました。
ここのフォーチュン支部は2年前程からディスティニーの脅威に晒され続けている、謂わば最前線。
だというのに、ここは空気が弛緩している。緊張感とうものが足りていないように思えます。
スタッフは皆優秀ですが、裏では謎の取引を行っている。その内容は、馬鹿馬鹿しすぎて言葉も出ません。
司令の写真や動画データのやり取り。みんな捕まればいいのに。
その司令も、初対面では好印象でしたがあの海の一件以来、見る目が変わりました。
やはりただの子供です。若き天才などとは周囲が勝手に過大評価しているにすぎません。
我々は力無き人々の盾であり、剣であるべき存在。弛んでいてはいけない。
それなのにあのリンケージ達ときたら。
確かに腕は立つようですが、精神面はまるで幼い。私よりも。
近藤フミカ隊長は少佐の教えもあったためかしっかりしているようですが、他の3人は論外。
特にあの二人のスターゲイザー、東屋コウジと神楽坂マコトは私の期待を大いに裏切ってくれた。
純粋なスターゲイザーとはこの程度のものかと。志も無ければ操縦技術も無い。
ただ得た力を我武者羅に振り回すだけの存在。認めたくはありません。
ですが思い返してみれば、鳳市支部に居た時も似たようなリンケージがいたような気がします。
彼らには誇りと言うものが無いのでしょうか。
まぁ、過ぎ去ったことを考えても仕方ありません。
今の問題は一つ。
物陰からジッとこちらを見ている東屋コウジの存在が一番の問題です。
なんですか。あの時の意趣返しのつもりですか。
とっくにばれていますよ。周りから変な目で見られていますし。
このままでは私まで注目されてしまいかねない。
「・・・そんな所で何をしているんですか、東屋さん?」
その言葉に彼はビクッと反応し、苦笑しながらこちらに出てきます。
「はは、何だ気付いてたのか。」
気付かないとお思いか。あんなのその辺の子供でも気付きますよ。
そして警察を呼ばれて終了でしょうね。
「何の用ですか。人を付回して。」
自然と言葉に棘が出てしまう。
今は彼と関わっていたくない。
「いや、用って程じゃないんだがよ。中々話すタイミングが無くてな。」
そんな照れたような顔をしないでください。気持ち悪い。
人をストーキングして何が楽しいんですか。
「まぁあれだ。いっちょ模擬戦でもしようかと思ってな。俺とお前、まだやってなかっただろ?」
本当にそのためだけに来たと?
解らない。この人の真意が解らない。
「そのような命令は受けていません。よって模擬戦をする意味はありません。」
「そんな固いこと言うなよ。命令が無きゃシュミレーションを使っちゃいけない規則はないぜ。」
しつこい。
「私と貴方とでは戦力に差がありすぎます。結果は分かりきっているでしょう。」
「おいおい、やってもいないのに言いすぎだぜ。俺だって伊達に戦場を体験してないからな。」
戦場を駆けておいて、その程度。
戦闘は貴方が思うような簡単なものじゃない。
命を賭し、削りあう、死の世界。
「貴方は戦場を何だと思っているんですか。言動が軽すぎます。」
「そんなに軽いか?開き直ってるのは事実だけどな。それでもなんとか今日まで生き残ってこれたわけだし。」
軽い。いや浅い。
この人は何も分かっていない。
そんなことだから。
「そんな軽い考えだから、殉職者が出るんですよ。」
彼の表情が一瞬無くなる。
怒ったか、それとも悲しんだか。
どちらにしても私には関係の無いことです。
「そう、だな。あの時の俺には覚悟も実力も足りなかった。」
意外ですね。殊の外冷静になっている。
もっと感情を露にするかと思ったんですが。
「だからこそだ。俺はもう立ち止まってはいられない。もっと強くなりたいんだ。力も、心も。」
なにやら切なげに己の拳を見つめていますね。
それくらいの信念はあるようでしたか。
ですが、見方を変えるわけではありませんが。
「という訳で、俺と模擬戦してくれ。さらに先に進むために。」
「貴方もしつこい人ですね。しないと言っているでしょう。意味が無いとも。」
なんだろう。胸の辺りがざわつく。
「あ、今ちょっとイライラしてるだろ?」
イライラ。私は今イライラしているのだろうか。
感情など失ったはずなのに。もう捨て去ったはずなのに。
今、若干の怒りを覚えているのだろうか。
馬鹿馬鹿しい。
「話は終わりです。それでは。」
「あ!おい待てよ。」
背を向け、その場から立ち去ろうとする。
何故だろう。今すぐ一人になりたい。
この感覚を早く治めたい。それだけで頭が一杯だ。
「お前は、何をそんなに必死になって戦ってるんだ?この前も、たった一人で、あんなことになってまで。」
・・・下らない問いです。
「世界を護る盾であるため。脅威を払う刃であるため。それ以外に、私の存在意義はありません。」
そのまま私はその場から離れた。
彼と会話していると、心がかき乱されるような感覚がしたから。
心?私は何を言っている?そんなものは失ったと答えを出したばかりなのに。
「世界を護るため、か。」
彼の最後の呟きは、私の耳には届かなかった。
第2幕
side-フミカ-
「少佐、正直大丈夫なんですか?あの娘。」
「あ~、メイのことかい?」
訓練後のユラード少佐を捉まえて尋ねる。
察しが良くてなによりだ。
あの娘はなんと言うか、不安定だ。
感情を失っているわけではない。蓋をしているだけだ。
それが問題だ。自分と言うものを抑えすぎている傾向がある。
強化人間な事が直接の原因なのだろうか。元々そういう娘だったのだろうか。それはアタシには分からない。
それでも、その蓋が悪い。
感情の蓋というものは、人間にとって最後の砦のようなもの。
人が容易く触れてはいけない部分。触れれば最後、心の鮮血という痛みとともに理性まで飛び出す。
所謂、感情の暴走だ。
人間であれば誰もが持ちえる感情の蓋だが、その強度は人それぞれ。
霧咲メイは、誰よりも頑強そうで、しかしその実、誰よりも脆そうに思える。
「あの娘の扱い、今まで如何してたんです?若いのと一緒になることもあったでしょうに。」
彼女はあの歳で戦闘経験が豊富だ。それだけリンケージとの関わりも多かったろう。
「どうもこうもねぇよ。アイツが壁作って、相手を遠ざけてた。上官の命令は聞くが、上官は基本俺だけだったからな。」
予想通りの答えが返ってくる。
人と関わりたくなければ離れればいい。
感情の蓋に触れて欲しくなければ届かない場所にいればいい。
単純で簡単なことだ。だが、それがいけなかったのではないか。
教職に就いて少しだけ理解したことがある。
あの年頃の子供は扱い辛い、ということだ。
無理に近く接すれば心を傷つけてしまう。
逆に距離を取ればそれだけ壁を作ってしまう。本当に厄介な年頃だ。
特にメイくらいの年齢は人間関係を知る、または構築するのに大切な時期だ。
そんな時に同世代の子供と距離を取り、明日を知れない戦いに身を投じていればそりゃああなるわ。
「お前までなんだ?アイツのこと気にかけてくれるのか?」
「気にかけるというか、ですね。アタシは怖いんですよ。あの娘の理性の箍が外れるのが。」
戦闘中にそんなことになってみろ。
自分だけじゃない。味方まで危険に晒すことになる。
最悪それが原因で全滅なんてことも有り得る。
若い、というか幼い人間がリンケージになる時一番怖いのがそれだ。
思春期の子供に戦争は過酷すぎる。大人にだって心のケアは必要だというのに。
そのためメンタルケアを専門とする人間が配置されているケースも多い。
だが、メイは特殊すぎる。
おそらく心の治療も受けたのだろうが、結果はあれだ。
「俺もな、失敗したとは思ってる。アイツの心からわざと距離を置いていた部分もあるしな。」
「ならどうしてもっと歩み寄らなかったんです?少佐なら、むしろ少佐にしかできなかったでしょう。」
「前にも言ったろ。アイツは俺にも何処か壁を作ってるって。なんていうか、怖かったんだな。メイの心に触れるのが。拒絶と、暴走が。俺には思春期の子供の扱いなんて解らなかったし、解る前に娘はいなくなっちまったからな。どうしたらいいか何も解らず、何も出来なかった。」
親代わり失格だと自嘲する。
力無く壁に寄りかかるその姿は、アタシが知っている歴戦の兵ではない。
自分の無力に嘆く、唯一人の男のように見えた。
「・・・らしくない話させてすいませんね。」
「いやいいさ。先生に子育ての相談をする保護者の気分だよ。って、まんまだな。」
苦笑する元気は残ってるみたいだ、この親父。
「それにしても。」
「あん?」
「いえね。最近コウジの奴がメイにちょっかい出してるんですわ。あぁ、そういう意味でなく。」
一瞬殺気を感じた。
なんだかんだで、この人は父親なんだと思う。
「どうにかして心を開かせる、とは言っていたけど、大丈夫ですかね。」
どうにも不安だ。
本人のやる気は十分だが、もしかしたら触れてしまうかもしれない。
感情の蓋に。
「・・・正直に言うが、俺はあの坊主に期待してる。あの強引さが、もしかしたらメイにとってプラスに働くんじゃないかってな。」
「マイナスにプラスを掛けたらマイナスですよ。」
「そこはお前足し算で例えろよ。」
確かに、賭けてはみたい。
アイツは、コウジ達は何度も奇跡を起こしてきた。
あの単純小僧なら、なんの邪心もなくメイと接するだろうから。
まったく。教え子に頼りきりなんて、教師失格かね。
「それにな。あの坊主は似てるんだよ。雰囲気が。」
「似てる?誰に?」
「ミーレスなんてまだ無かった頃、世間を騒がせてた二人のクラッシャー級選手がいてな。第2次大戦前だ。」
その頃はアタシは可愛い可愛い女の子だったな。
・・・なんだよ。
「その内の一人の口癖でな。『俺の心は真っ赤に燃えている!』だったか。地球との緊張感が高まる中、人種の価値観抜きにそいつに憧れてた。」
「少佐にもそんな時代があったんですね。」
「俺だってケツの青い新人時代があったさ。まぁそれから何年かして、大戦が始まる前に二人とも引退しちまったが。今でも覚えてるよ。そいつの出る試合は全部チェックした。俺とそう歳が変わらないのに、そいつは人を惹き付ける何かがあった。坊主には、それと同じものを感じるよ。」
さっきまで父親の顔をしていたと思ったら、今度は子供のように顔を輝かせている。
よほどいい思い出だったのだろう。
「噂じゃ所帯持って故郷に帰ったとか、大戦に参加して戦死したとか。あぁ、後者は考えたくないな。」
戦争か。アタシがリンケージになったのは大戦開始時だったか。すぐだったもんな。頭ん中パニックだったよ。
軍に志願したと思えばすぐ戦争だなんてさ。
そういえばあの頃だったなぁ、アイツに会ったの。
今思えば若気の至りか吊橋効果か。
・・・やめよう。これ以上は気分が暗くなる。
だがそれでも、私はこの人よりはマシかもしれない。
想いを、ちゃんと遺してくれていたんだから。
何一つ、与えてあげられたことはないけれど。
所帯か。いつかアタシも、ちゃんとした関係になれるだろうか。
第3幕
side-コウジ-
あ~~。今日も駄目だったか。
まぁでも、怒るってことは多少は関心があるってことだよな。
無関心よりはずっといい。
うし!この調子でガンガンいこうか。
うん?電話だ。相手は・・・マコトかい。Pi!
「はいよ。」
『あ、コウジ?今部屋に居る?』
「あぁいるけど。」
『じゃあ直接話すよ。窓開けておいて。』Pi!
これだよ・・・。なんの為に携帯に掛けて来るんだよ。
窓を軽く叩く音がする。もちろんそこにはマコトがいた。
無視する←
窓を開ける
などという選択肢はまったくもって無意味なので素直に窓を開ける。
ていうか無視なんかしたら窓を割りかねない奴だ。
昔無視したら正拳の構えをとっていたのには心底驚いた。
「こんばんは。」
「あのな。これなら最初から携帯に掛けてくるなよ。」
「だって居なかったら無駄になっちゃうじゃないか。」
そう言って笑顔で窓の手すりに座る。
黙ってれば絵になるのにな・・・、コイツ。
絶対暴力的な正確で損してる。
コイツの正確を知った上で告白とかする野郎の気が知れない。
あ、女子からもモテてるんだっけ。うん、まぁ仕方ないんじゃねぇの?
「今、何か言った?」
「いいえ何も。」
おぉ、怖い怖い。
「で?急に何の用だよ。」
コイツの行動がいきなりなのは慣れている。
「いや、その、ね。メイちゃんのこと、どうなったかな、って。」
なにやら歯切れが悪い。
コイツにしては珍しいことだが、海での一件以来、霧咲のことを避けている節がある。
まぁそうだろう。話に聞いただけだが、明確な失望を突きつけられたんだ。
マコトにとっては初めてのことだ。コイツはあまり敵を作らない。
仲の悪い人間もいるが、それとこれとは違う。
霧咲の場合は特殊だから。スターゲイザーやリンケージのことなんて持ち出されて、どうしていいか分からなくなってるんだろう。
「どうもこうもなく、相変わらず素っ気無いよ。」
「そう、か。」
あぁほら暗くなった。
霧咲のことになると最近こうだ。やりにくい。
もっとこう、明るくなれないのか。
「心配しなくても、しっかりアイツの心は開いて見せるさ。」
「随分強気だね。何か勝算でもあるの?」
「とりあえず怒らせてる。嫌われたらその隙間を縫うようにお前が何とかしろよ。」
「いやなんかもう目茶苦茶だよ。無理やりすぎるよ。ていうかボクも嫌われているんだよ?」
まぁ自分でも馬鹿なこと言ってると思う。
でも、怒りは人間の感情の中でも特に表に出やすいと何処かで聞いた。
その隙を突いて、なんとか本心というか、本音というか、それを引き出す作戦だ。
うん。我ながら。
「穴だらけな作戦、だね。」
「ほっとけ。これでも頭使って考えたんですー。」
頭悪いのは自覚してるよ。
それでも、俺には優しく接するなんて事が出来ない。
相手が女なら尚更だ。
あぁでも女相手だから大喧嘩してその勢いで、なんて手も使えないなぁ。
そう考えるとマイケルの時は楽だったなぁ。
いや待てよ?相手は生粋の軍人、しかも人体強化されている。
喧嘩になったら俺負けるんじゃね?
そうなったらもう立ち直れないぞ。
「折角の仲間なんだ。仲良くしたいな。」
俺が頭を抱えていると、マコトがそっと呟く。
まったく、聞こえていないとでも思ったか。
「だから暗くなるな。まぁ任せて置けよ。根拠も自信も無いけどなんとかしてみるさ。」
「プッ。何だよそれ。」
お、やれやれまったく。
「それだよ。」
「え?なにが?」
キョトンとしてやがる。
あぁ、言わなきゃいけないか。恥ずかしい。
「お前はそうやって笑ってろ。霧咲を迎え入れるのに、しかめっ面じゃしまらないだろ。」
「・・・うん。そうだね。」
「それに、お前は笑ってるほうがずっと良い。その方が似合うぜ。」
そう言うとマコトの顔が真っ赤になる。
ん?俺変なこと言った「ゴメスッ!!」。
「き、急に何言ってるんだよ!?気色悪い!」
俺は部屋の中央で大の字に倒れていた。顔がジンジンする。
なんていうかね?もうコイツの拳はどうなってるの?
今回は予測できなかったけど、最近は予測可能回避不可能になっている。
分かっているのに拳が避けられない。気が付くと一撃もらっている。
もう達人の領域に足を踏み入れているんじゃなかろうか。
「コ、コウジが、笑ってるほうが良いって言うならそうするけどさ。でも、そんな面と向かって言わなくっても・・・。」
なんかブツブツ言ってるけどコッチは顔面に攻撃食らったもんだから良く聞こえない。
ようやく痛みが引いてきた頃に部屋のドアがノックされる。
「コウジ。夕ご飯出来たよ。降りておいで。」
父ちゃんが呼びにきたようだ。
「あ、家もそろそろご飯だ。じゃ、じゃあまたね。」
「おう。また明日。」
軽々と屋根を伝い自分の部屋に戻って行く。
はて?それは女の子の行動だったっけ?
まぁいいや。夕飯夕飯っと。
「コウジ。最近何か悩んでいるね?」
飯時、父ちゃんがいきなり聞いてきた。
なんだよもう。突然なのはマコトだけで腹一杯だってのに。
飯時だけに。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
「別に。何でもねぇよ。」
「そうかな。僕で良かったら相談に乗るよ。」
ぼけっとしてる割に勘の良い・・・。
しかもこうなると結構強引なんだよな、ウチの父ちゃんは。
話すまで解放してくれなさそうだ。
まぁ、機密に関することじゃないし、いいか。
「俺、フォーチュンに入ってるだろ?そこの仲間で、中々心を開いてくれない奴がいてさ。如何したもんか考えてる。」
「あんた、それ話して大丈夫なの?」
母ちゃんに言われて気付いた。これ外部に漏れたらまずくね?
仲間同士の仲が悪いって、不安にさせそうだ。俺なら不安になる。
言ってしまってからヤバくね?と思うが時既に遅し。
開き直るしかないか。
「うーん。聞いておいてなんだけど、僕じゃ力になれそうもないな。」
しかも策無しかよ!?
つーか諦めるの早くね!?
「でもコウジ。君はもう行動に出ているんだろう?」
「え?あぁ、まぁ。そうだな。」
「だったら考える暇なんかないよ。君達は若いんだ。全力でぶつかれば分かり合えるさ。」
父ちゃんって意外と精神論というか、根性論で話を進めるんだよな。
いやむしろ何も考えてない。当たって砕けろの脳筋思想だ。
そういう所が、俺と似ている気がする。
俺はここまでぼけっとしてないけどな。
「青春は長いようで短いよ。ぼやぼやしているとあっという間に歳を取る。後悔しても遅いからね。」
しかも論点ずれてる。
学校の友達の話じゃないんだけどなぁ。
まぁでも、父ちゃんの言う事ももっともだな。
全力で、全身でぶつかっていく。
俺にはそれしか出来ないなら、それをやるまでだ。
いつだってそれでうまくいってきたんだから、今回も大丈夫だ。
別に父ちゃんのお気楽さに感化されたわけじゃないぞ。
それに、霧咲の言ってること。何か引っ掛かるんだよな・・・。
それこそ砕け散る覚悟で、そこに突っ込んでみるか。
「それに昔よく言ってたじゃないか。『俺の心は真っ赤に燃えている』って。あの頃の気持ちを思い出そうよ。」
「それを言うなぁ!」
アレは今でも恥ずかしいんだよ!
何で俺あんなこと叫んでたんだ!?今でも信じられん!
「いいから。ご飯食べちゃいなさい。片付かないでしょ。」
「「はーい。」」
いつの世も、女は強く、難しいものなんだなぁ。 コウジ
第4幕
side-シャナ-
ある朝、日課のランニングから帰ってくると、郵便受けに一枚のチラシが入っていた。
どうでもいいがこの寮、私と近藤しか住んでいないな。なんだか寂しいというか、寂れている。
島の外からわざわざやってくる人間など少ないという証か。
その割には風呂とトイレ、キッチンは各部屋に備わっている。もったいない。
だがその所為で毎晩のように近藤が押しかけてくるのはいただけない。それでいいのか教師。
と、そんなことよりチラシは~。
「あぁ、夏祭りのチラシじゃない。もうそんな時期か。」
「うわぁ!?」
背後からいきなり近藤が顔を出してくる。
不意打ちだった。心臓に悪い。
というか、だ。
「珍しいな。こんな朝早くから起きているなんて。」
まだ6時前だぞ。
私はこれから素振りをする予定だからいいが、彼女もなにか用事があるのか?
「ん~。最近考え事が多くてね。お陰で生活リズムが狂っちゃったわ。お肌にも大ダメージよ。」
考え事か。珍しい。
まぁこれでも私達の隊長なんだ。色々思うことがあるのだろう。
いや、そうでなくてはならない。それぐらいこの女は普段が酷いのだから。
それにしてもナツマツリか。
「近藤。ナツマツリ、とはなんだ。」
「読んで字のごとく、夏に行うお祭りよ。祭りの意味は判るわよね?」
「馬鹿にするな。それぐらいは判る。まぁイズモ式の祭りは未体験だが。」
私が桜花島に来たのは5月の初め頃だったな。
そういえばまだ3ヶ月程しか経っていないのか。
随分長くここに暮らしているように感じていたが。
それだけ桜花島での生活が濃厚だったということだろう。
仲間達との出会い、学校での友人、戦友との別れ。
楽しいことも、辛いこともいっぱいあった。
なにより、その・・・。
コウジにも、出会えたし、な。
「なに赤くのか知らないけど、夏祭り。アンタ興味あんの?」
おっと。少し思い出に浸ってしまっていたな。
「当然。折角イズモにいるんだ。その文化に触れてみたい。」
「なら、また掛け合ってみるか。」
近藤が顎に手をあて考えている。
掛け合ってみるとは、また司令のことだろうか。
だがこの前海に行ったばかりだ。そう何度も遊ばせてはくれないだろう。
「大丈夫よ~。あの子なんだかんだでお祭りごとや騒ぐの大好きだから。多分許可してくれるでしょ。」
「へっくし!」
「おや司令。風邪ですかな?」
「どうでしょう。心当たりは無いんですが。」
「夏と言っても夜は冷えますからな。でしたらコレを。」
「その明らかな子供用の腹巻を今すぐ処分してください。」
「しかし祭りか。いったいどういう事をするんだ?」
基地のガーディアンが騎士の如く武器を掲げ、司令や市長が島を移動するパレードなんかがあるのか。
「多分アンタの考えてるのとは違うわね。そういうのもあるけど、今回は出店や花火大会なんかが主ね。詳しくはマコト達にでも聞きなさいな。」
そういうとさっさと部屋に戻って行ってしまった。
いかん。まだよく分かっていないぞ。
デミセとはなんだ。花火は、おそらく私の知識と変わらないはずだが。
そうだな。今日基地でマコトに聞いてみるとしよう。
とりあえず、今は素振りだな。
「あ~。もう夏祭りの季節か。早いな~。」
午前の訓練が終わり、食堂でマコトと昼食をとる。
今日も何かにつけてコウジが霧咲に付きまとっていたな。
嫉妬を感じるよりも先に、犯罪者のようだと思ってしまった。
霧咲が皆に解けこめるようにしてくれているというのに、失礼だとは思う。
だが、どうしても中学生女子にちょっかいを掛ける高校生男子の図でしかなかったのだ。
しかも完全に無視されていたしな。
「マコト。ナツマツリ、とは楽しいものなのか?」
「うん、楽しいよ。祭りで買う食べ物って何故か美味しく感じるし。射的や金魚掬いなんかも定番かな。」
射的?何を撃つんだ?敵でもいるのか?
それに金魚救い?金魚とはなんだ?救われるべき存在なのか?さぞかし高貴なモノなのだろう。
「盛大に勘違いしてるみたいだね。まぁ百聞は一見に如かずって言うし、体験してみないことには分からないか。」
ふむ。ナツマツリ。非常に興味深い。
朝からの話からすると厳かなものではなく娯楽に近いように思える。
が、一向に想像できん。もっとイズモの知識を身に付けておくべきだったか。
「でも、また都合よく休みが取れるかな?」
「近藤は司令に掛け合ってみる、とは言っていたぞ。」
あの口振りは期待していてもいいというものだった。
だが問題は。
「また敵の襲撃が重なったのでは敵わんな。」
「去年は何とか開催できたけど、この前の海の件があるから、油断できないね。」
奴らはこちらの事情などお構いなしだからな。
それが戦と言ってしまえばそれまでだが。
だが折角友人と思い出になるようなことが出来る機会だ。
ぜひとも私も参加したい。
「祭りに行けるなら、シャナも浴衣、用意しないとね。」
「ユカタ?なんだそれは?」
「夏祭りをより楽しく感じるための着物、かな?ホントは意味があるらしいけど。」
おお、着物か。一度着てみたかったんだ。
あれはレムリアには無い、イズモ独特の衣類だからな。実は少し憧れていた。
しかし、考えてみると私も随分腑抜けたものだ。
レムリアに居た頃は厳しい鍛錬の毎日で、良き騎士であるために己を律する日々だったからな。
それが今では娯楽にうつつを抜かす、ただの女子に成り下がっているとは。
これでは霧咲に言われるのも頷ける。
「私は、随分変わってしまったな。」
自嘲気味に溜息が出る。
私は、弱くなったのだろうか。
「ボクはそれで良いと思うけどな。」
マコトがそれを肯定する。
「確かにシャナはこの島で遊ぶことを覚えた。でも、勤勉で努力家な所、真面目で誠実な所は変わってない。シャナの本質は何も変わってないんだ。むしろ楽しいことや友達が増えて、守りたいモノが増えたんじゃないかな。その分、シャナは強くなったと思うよ。」
面と向かってそんなことを言う。
その、なんだ。少し照れてしまうじゃないか。
どうしてコウジといい、マコトといい、こうも真っ直ぐに物事を言えるんだ。しかも好意的に。
だが真っ直ぐ、本音で語ってくれるからこそ、伝わってくる。理解できる。
私は強くなったのだと。これでいいのだと。背中を押してくれた気分になる。
うん。悪くない。騎士の家に生まれたときは孤高に生きようとしていたが、誰かが傍にいてくれるというのも、悪くない。
「おい待てよ。飯まだだろう?一緒に食おうぜ?」
「結構です。私は一人で食べます。」
「一人で食っても味気ないぞ。付き合ってやるよ。」
「着いて来ないでください。」
またやってるなあの二人は。
コウジも懲りないものだ。いや、あれがコウジの強さなのだろうな。
人を巻き込み、惹き込んでしまう。そんな強さが魅力だ。
なぁ霧咲よ。お前もこっちに来てみてはどうだ。
案外悪いものじゃないぞ。
「しかし、やはりなんと言うかこう、あのやり取りを見ているとイライラする。」
「シャナのそういう所可愛いよね。結構ヤキモチ焼きさんなところ。」
「あ~こういうのをなんて言うんだったか。『お前が言うな』か『お前もな』だったかな。」
「え?何が?」
自覚が無いというのが問題なんだよな、マコトの場合は。