メタリックガーディアン・プロミス 『桜の舞う島で』 作:戒炎
都会って歩きにくい!
(生粋の田舎者の言葉である)
あぁ、今回は戦闘メインなので多少長いです。
そうでもない、かな?
第5幕
side-コウジ-
午後の訓練が終わった。
さぁここからは例の時間だ。
「なぁ霧咲。フォーメーションの復習、手伝ってくれよ。」
「他の方に頼んでください。」
わぁい、顔も見ずに断られたよ。
フォーメーションの話で切り込めばイケると思ったんだけどな。甘かったか。
だが!その程度で諦める俺ではない。
「お前との連携訓練が足りないんだよ。イグニスの動きに合わせるのって難しいんだぜ?」
「なら実戦では私が合わせます。貴方はただ敵に突撃してくれればいい。」
おうふ。冷たすぎる。
今日はいつにも増して棘が鋭い気がする。
何か嫌なことでもあったのか?
あ、俺に付きまとわれてるからか。いやでもそれはここの所毎日だし。
「なぁなぁ。なんでそんなに冷たいんだよ。」
「貴方がストーカー紛いの行動を取るからです。」
あ、なんだか胸にグサッときた。
マジでいつもより辛辣だぜい。
「全く、何が祭りですか。いつもいつも、この支部は一体何を考えているのか・・・。」
成程。それか。
昼休憩が終わる頃、またも司令から伝達があった。
敵の攻撃さえなければ、俺達も夏祭りに参加しても良いとのことだった。
この前の海といい、遊んでばっかりと思っているな。
まぁ、正直それには少し同意するところもあるけど。
「いいじゃないか。地元民との交流も大事な仕事だろ。」
俺がその地元民ですけど。
「私達は兵士です。力を持たない人のために力を振るうんです。遊び呆けている暇などありません。常時臨戦態勢であるべきです。」
力を持たない人のため、ね。
なんだかなぁ。
「なぁ。お前はどうして戦うんだ?」
「それが役目だからです。」
聞き方がわるかったみたいだな。
「お前が戦う理由って、なんだよ。」
今度はもっと突っ込んで聞いてみる。
多分、予想通りの答えが返ってくるはずだ。
「世界を護る盾であるため。脅威を払う刃であるため。以前も言ったはずです。」
やっぱりな。
言うべきか、言わざるべきか。いささか迷うな。
でも、踏み込まなくちゃいけない。
もしかしたら、気付いていないのかもしれない。
または気付いていて、見ない振りをしているのかもしれない。だったらなおさら悪い。
ここは言うべきだ。
たとえ、霧咲の中の何かが噴出してこようとも。
「お前ってさ。薄いんだよ。」
「え?」
今まで見たことも無いような、キョトンとした顔をする。
多分俺の言っていることを理解できていないんだろう。
悪いがとことん切り込ませてもらう。
「お前、世界とか力のない人とか言うけどさ、それがちゃんと見えてるのか?俺にはどうも言葉だけにしか聞こえないんだよな。」
そう、コイツと話していて、いつも感じていた違和感というもの。
それが、これだ。
コイツは何かを守ることに、信念だとか意思だとかが感じられない。
まるでそれが『義務』であるように、淡々と語る。
いやまあ、それを義務として戦う人間は大勢いるだろうよ。シャナなんか特にそうだ。騎士として、アイツは生きている。生きようとしている。
でも霧咲は、ただ口に出しているだけで、守るべきものが見えていない。
こうありたい、という想いが感じられない。薄っぺらだ。
「私は、ただ。世界のために。」
目に見えて狼狽えている。
いつもの冷徹な霧咲じゃない。
「その世界ってなんだよ。地球全部か?コロニーも含めてか?お前はそこまで聖人なのか?」
言い方が悪いのは自分でも解っている。
でもこうまでしないと見えてこない。
コイツの本音ってやつが。
「お前は別に、世界なんて見てないんじゃないか?戦う理由に丁度いいから、だからそんな模範的な理由を口にするんじゃないのか。」
周囲の空気も、だんだん冷たくなってくる。
周りの人間も、口を開かなくなる。
ここにはマコトも、シャナも、先生も、ユラードさんもいる。
けれど誰一人、俺達の間に入ろうとしない。
この空気の所為でもあるだろうし、俺自身が普段の俺とはまるで違うからだとも思う。
大人組は察してくれているんだろう。俺のやろうとしていることを。
マコトとシャナは困惑してばかりだがな。
霧咲は俯いたまま、ブツブツと呟いている。
「・・・なら。それなら。」
声がようやく聞こえるようになって、霧咲が顔を上げる。
「それなら!私は如何すればいいんですか!?」
その表情は、またしても見たことの無いもの。
怒りで染まった顔。
俺にとっては初めてみる、感情の溢れ出した顔。
「ただ普通に生きていた!それだけなのに!いきなりお父さんもお母さんも奪われて!自分自身もわけのわからないものに改造されて!私はもう普通の人間じゃない!兵器なんです!化け物なんです!戦わなければ生きる価値も無いんです!」
それは戦う者の言葉じゃない。そう、きっとこれは、奪われた者の慟哭。
血を吐き出さん限りに霧咲は叫ぶ。
俺に、憎しみの対象を重ねるように。
「だったら、自分を保つには!世界なんて漠然としたものに!それを守るという理由に!目的に!縋るしかないじゃないですか!少しでも自分が人間だと思いたいなら!そうするしかないじゃないですか!」
さっきは自分を兵器と言っていたのに、今度は人間と思いたいなら、か。
多分それがこの娘の本音だろう。
彼女は、本当はただの人間として生きたいのだ。
それを、自分自身で否定している。
そんなに悲しい事はねぇよ。霧咲。
「何ですかその顔は!哀れんでるつもりですか!同情なんてされたくない!私は!ただ自分が生きている意味が欲しいだけなのに。」
遂には涙を流し、訴えるように言葉を放つ。
その言葉にも、力が無くなってきた。
「貴方は、何の為に戦うんですか。選ばれた人類である貴方は。一体、何の為に。」
「自分が選ばれた存在なんて、そう思うのはとっくに辞めてるよ。スターゲイザーなんてのも関係無い。神様だか何様だかが勝手に決めたことだ。興味は無いよ。ただ俺は、この島を護りたい。そこに住む人たちを護りたい。だから戦う。どんな敵が相手でも。」
はっきり言える。それが俺の本音だから。
それだけが、俺の護りたいモノだから。
世界なんて知ったことか。そんなのそこにいる奴らが頑張ってくれ。
俺は桜花島を護る。
「そんな。そんな小さなことのために。」
「小さくなんか無いさ。それが俺の全てなんだ。」
そう、俺が産まれ育ってきたこの場所は、出会った全ての人々は、俺の宝物だ。
誰にも奪わせたりなんかしない。
最初は振り回されっぱなしだった俺だけど、今ははっきりとしたものがある。
例え小さくとも、それが俺の全てだ。
「勝手に期待して、勝手に失望してんじゃねぇよ!俺達だって、ただの人間なんだ!」
「ッ!」
霧咲はそのまま俺に背を向けて走り去ってしまう。
誰もその後を追わない。いや、追えない。
俺も、今はその後姿を見続ける。
少し、言いすぎだったかな。
若干の後悔の念を覚えていると、肩を叩かれた。
その手の主はユラードさんだった。やけに神妙な顔をしている。
「すんませんね。きつく言い過ぎました。」
「いや。こっちこそ、本当なら大人が言うべきことだったのに悪かった。憎まれ役押し付けちまって。」
別にいい。今回のことで、アイツの心に触れることが出来たから。
アイツは、やっぱり一人じゃ駄目だ。自分で自分を押し込めて、傷つけて。
このままじゃ全てに押しつぶされる。
だから教えてやりたい。
俺の護りたいモノ。俺の世界。俺の約束。
俺の持ってるもの全部、アイツに教えてやりたい。
自分を追い込まなくたって、幾らでも生きる理由、戦う理由はあるのだと。
第6幕
side-メイ-
誰もいない区画の廊下で、私は蹲っていた。
忘れていた、いや、封印していたはずなのに。
溢れ出してしまった。止められなかった。
本当は自分でも解っていた。
自分は感情を失っていないことを。鍵を掛けて抑えていたことを。
そうしないと、耐えられなかったから。
日に日に減っていく、同じ被験体の『あの子達』。
脳が、身体中の神経が焼ききれそうになるほどの実験。
人ではなく、モルモットを見るような研究員達のあの眼。
自分が物であるのだと、何も感じることは無いのだと思い込まなければ、私は壊れていただろう。
いや、もう壊れていたのかもしれない。
自分を偽ることを決めたその日から。
だから、少佐に助け出された時にも、嬉しいと、助かったと思えなかった。
むしろ、まだ生きなくてはいけないのかと、思ってしまった。
あの時、私の痩せこけた理性が囁いた。それではいけないと。
命を拾った以上、私は何かを成さなければならない。
怠惰に生きることは、『あの子達』が許してくれない。
だから私は、戦う道を選んだ。その道に縋った。
私は生きている。『貴方達』の存在は無駄では無かった。役目を果たしている。
この命尽きるまで戦うから、どうか許して欲しい、と。
確かに東屋コウジの言ったことは事実だ。私は世界のことなど考えていない。
ただ生きる理由が欲しかった。死なない理由が欲しかった。
だから皆が語る理想を、ちょうどいい大義名分を私の目的にした。
少なくとも、戦うことは出来た。
でも、生きる理由には程遠かった。
当たり前だ。所詮は他人の理想。自分自身が考え、出した答えじゃないから。
人の言葉を自分の言葉と偽って、自分は正しく生きている振りをしていた。
薄い。私自身の、何と薄っぺらいことか。
私は欲しかった。生きる理由が。本当の私自身が。
本当は曝け出してしまいたかった。解き放ってしまいたかった。
それが出来る相手が、私は欲しかった。
だから彼らにそれを求めた。そして。
(勝手に失望してんじゃねぇよ!)
頭を冷やした今なら解る。それは相手を侮辱する行為だ。
勝手に期待した。彼らなら私のことを解ってくれると。この孤独を埋めてくれると。
理想を押し付けて、違っていたら失望して。
最低なことをした。そんなことは解っている。
でも。
「じゃあ、どうすればいいんですか・・・。」
抱え込む足が、涙で濡れる。
私だって、皆といたい。普通でいたい。
でも、そのやり方が解らない。もうかつての自分も忘れてしまった。
両親も失い、かつての友人達とも、もう会えない。
人として何が大切か。それを覚える前に全てを失った私はどうすればいい。
誰も教えてくれない。示してくれない。少佐とでさえ、まともに接することが出来ないでいる。
何で誰も教えてくれないの?何で誰も手を引いてくれないの?
「何で誰も、助けてくれないの?」
駄目だ、止まらない。
負の感情が止められない。止め処なく溢れてくる。
「こんな所でどうしました?」
こんな場所で、誰かが話しかけてくる?
顔を上げると、そこには伊達司令がいた。
「酷い顔ですよ。とりあえず拭いてください。」
ハンカチを渡される。
普段の私なら拒否していただろうが、やはり弱っているのだろう。素直に受け取る。
顔を拭くと、すぐに涙と鼻水で濡れてしまった。
やっぱり洗って返したほうがいいのかな?
「あぁ、いいですよ。そのまま差し上げます。こう見えてハンカチの収集が趣味でして。一枚くらい大丈夫ですよ。」
それなら遠慮無く頂いておこう。
これくらい図太くても許される、かもしれない。
「横、失礼しますね。」
司令が私の真横に腰掛ける。
それからしばらく、二人とも無言で過ごす。
何か話した方がいいのだろうか。
でも、言葉が出てこない。
普段から人と会話慣れしていないのに、今の精神状態ではさらに無理だ。
「私には、両親が居ません。」
突然司令が切り出した。
「両親ともに連邦軍のリンケージだったそうです。父は戦死。母も・・・行方知れずです。」
今母のところに妙な間があった気がする。
だが、そこに切り込める空気ではないことぐらい、私にも理解できる。
彼女は話を続けた。
「私は軍に預けられ、そこで指揮官としての英才教育を受けました。戦争の長期化を見越していたんでしょうね。それでも6年前、機甲暦57年に連邦と共和国の和平条約が締結。大戦は終わりましたが、その後設立されたフォーチュンで、私は指揮官として教育されました。素質があったんでしょう。」
軽く話すが、それは相当な事ではないだろうか。
両親を知らず、友もおらず、物心ついた時には既に将校としての教育を受けた。
彼女にとって、日常とは戦いそのものだったのだろう。
もしかしたら普通の人間にとって当たり前のことを、私以上に知らないのかもしれない。
「そうこうしているうちに、一支部の支部長を任せられて。まったく。碌に遊ぶことも出来ませんよ。」
だからあんなに楽しそうだったのか。あの日、海で遊べたことを。
いや、『みんなで』遊べたことが、嬉しかったのか。
「だから正直憧れるんです。普通の子供達に。私にもこういう可能性があったのかなって。」
可能性。私にもあったのだろうか。
テロリストに襲われず、今でも両親や友人と普通に生きていた可能性が。
「でも、この島の人たちを見ているとそんな事吹き飛んじゃうんです。無いものをねだるより、この人たちの笑顔を守りたいって思うんです。」
それはこの人が強いからだ。
私にはそうは思えない。
「それに、私一人じゃ抱えきれません。仲間が大勢います。私はあの人たちを支えているようで、実は支えてもらっているんです。倒れないように。重い責任に潰されないように。」
支えているようで、支えられている・・・。
「喪った時は悲しかった。帰ってきてくれた時は嬉しかった。私は、彼らあっての私なんだと思っています。そして、彼らに会わせてくれたことは、おそらく私の人生において最高の出来事だと確信しています。」
まぁ、まとめるのが大変な人たちですけど、と苦笑する。
あぁ、なるほど。それが彼女の戦う理由なんだ。
仲間がいる。仲間と心を通わせている。
絶対に失いたくない。守りたいという意思が伝わってくる。
そして、彼らを取り巻く島の人々さえ、彼女の守るべき大切なモノなのだ。
(小さくなんか無いさ。それが俺の全てなんだ。)
たしかに小さい。でも大きい。
人一人を支える太い柱になりえるのかもしれない。
私には、それがない。そこまでこの島に愛着を持っていない。
「通りすがりに変なことを話してすいませんでした。私は仕事に戻りますね。」
司令は立ち上がる。
大きい。幼い少女なのに、とても大きく、強固な人間に見える。実際に、彼女は強いのだろう。
そこまで強く、大きい理由があるのだから。
「あっ・・・。」
思わず手を伸ばす。
何のつもりだろう。こんな弱い手で、何を掴もうとしたのだろう。
「なにかあったら気軽に司令室へ来てください。忙しい時以外なら相談に乗りますよ。」
行ってしまう。
待って。一人にしないで。
聞いて欲しいことは山ほどあるの。
なのに、言葉が出ない。
言葉を発する力さえ、今の私にはない。
そしてまた、独りきりになる。
再び涙が滲んできた。
駄目だ、止まらない。
一度開いた感情の蓋は、もう閉じようが無い。
もう独りは嫌だ。誰かに居て欲しい。
もう兵器でいるのは嫌だ。一人の人間でありたい。
助けて欲しい。でも、助けてもらう方法を、私は知らない。
助けて。誰か助けて。
「誰でもいいから、お願いだから、私を助けてよぅ・・・。」
涙で歪む視界の中。東屋コウジの顔を見た気がした。
第7幕
side-コウジ-
あれから数日。夏祭りも明日となった。霧咲とはほとんど顔を合わせてはいない。
訓練では言葉も無く、基地内で会ってもお互い素通り。
これではいかんと自分でも思うが、どーも気まずい。
あの時は言い過ぎたと反省はしてるけど、あれも俺の本音だったわけだし。
そもそもアイツの本音を聞きだしたいから切り出したわけで、結果オーライだったような。
でも関係はより悪化しているようで・・・。
頭痛くなってきた。
・・・よし。もう一度話してみよう。
とにかく会話を成立させないと状況は前に進まないからな。
でもなぁ、こういうときに限って。
警報が鳴る。
そうだよ。見計らったように敵の襲撃が来るんだよ。
もしかして俺達の事情筒抜けになってんじゃね?
とりあえず、司令部に行かなくちゃな。
「メイさんがいない?」
「はい。管内放送でも呼びかけたのですが。」
集まってみれば霧咲の姿だけ無い。
敵が迫って来ているのに、何やってるんだアイツは。
あ、もしかしてこれも俺の所為?
「しかたありません。状況が状況なので彼女抜きで話を進めましょう。」
司令も冷静なようで、少し戸惑ってる感がある。
「敵は進軍速度が速く、すでに一部が南東施設を抜け島に接近しています。数は全体で50は下らないでしょう。」
また大軍かよ!
あいつら一体どこにそれだけの戦力を隠し持ってるんだよ!無尽蔵か!
しかも島南東。夏祭り会場のすぐ近くじゃないか!
「敵はミーレス、奈落獣の混成部隊。それにグリム・リーパーの姿も確認済みです。そして。」
敵の映像が映し出される。
そこには、最近出張ってこないラグシオンの姿があった。
でも、アイツ特有の嫌な感じがしない。
見ただけで解るようになった。アレは以前の偽者だ。
「コウジさんの反応を見るに、また偽者のようですね。今回、あれをドッペルゲンガーと呼称します。このドッペルゲンガー、前回の個体よりも強力なアビス反応を感じ取れました。戦う際には十分注意してください。」
パワーアップしてるってわけね。
だが所詮は偽者。プレッシャーを感じないなら本物より遥かにましだ。
気をつけはするが、俺達だって強くなってる。倒せない相手じゃない。
「ん?通信、格納庫からですか。はい、は!?何で止められなかったんですか!?」
どうした?司令が慌ててるぞ。
待てよ、格納庫。姿のない霧咲。敵襲。
!?頭に何かが走る。
これは、あの時ぶつけられた霧咲の感情・・・。
アイツまさか、あの状態のままで単独出撃したのか!?
馬鹿な!?今の感覚、精神がグチャグチャだった。そんな状態で戦えるわけない!
「メイさんが独断で出撃してしまったようです。皆さん、すぐに追って出撃を!」
まったく!落ち込んでる時は大人しくしてろよ!
side-メイ-
勝手に出撃してしまった。整備班の方々には迷惑を掛けただろうか。
それに独断専行はこれで2回目。お叱りだけでは済みそうもない。
それでも、今は敵の掃討が先決。
数は多い。それでも、戦う。
今の私は戦う理由を見失ったまま。それでもしかたない。
もともと私は兵器なんだ。感情を持って戦うなんてありえない。
ざわついたままの心を押し殺し、先行してくる敵に照準を合わせる。
ワイトミーレスが7体。素早いけれど、確実に仕留める。
「行って。イグニス。」
全てのイグニスを射出する。
!?イグニスの動きが悪い。如何して?!
私の心がかき乱されているから?そんな馬鹿な。
こんなことは今まで無かった。きっと集中力が足りない所為だ。
落ち着け。無心になれ。ただ敵を討つことだけを考えろ。
そう思うほど、額に汗が流れる。集中できない。
イグニスは精彩を欠いたまま敵を攻撃する。
敵の急所を射抜けない。足止めが精一杯だ。
足止めできたのが5体。残り2体はこちらに向かってくる。
振りかぶるトマホークをギリギリでかわす。機体の動きも良くない。
完全に不調。それでも、もう後には引けない。
ビームライフルで迎撃するも、ワイトミーレスは回避に優れた奈落獣。
苦し紛れに撃った一撃など当たるはずも無く、当然のように避けられる。
ライフルからサーベルに持ち替え、奈落獣の近接戦に備える。
私の命を刈ろうと、鋭い斧の一撃が襲う。
それをビームサーベルでいなし、隙が出来たところに切りかかる。
なんとか左腕を切断できたが、もう一体が襲い来る。
避けるだけでこんなに疲れるとは。今日の私は何処までも情けない。
・・・彼なら、こんな時はどうするのだろうか。
そもそもこんな状態で戦えるのだろうか。
「ぐぅっ!?」
そんなことを考えていると、先程左腕を奪った奈落獣からトマホークの直撃を受けてしまった。
でも、まだ動ける。
止めを刺そうとトマホークを振り上げるその姿を、最大限の集中力で見据える。
見える。敵の動きが。動きの先が。
耳から血が流れる。構うものか。
私はそのままビームサーベルを横に薙ぎ払った。
その動きを捉えられなかったワイトミーレスは両断され、爆発する。
それで一瞬気を抜いてしまったのがいけなかった。
残ったワイトミーレスに体当たりを食らい、体勢を崩す。
それを迎撃するために、イグニスを全て戻した。それがいけなかった。
足止めを受けていた残りの敵が、一斉にマシンガンを構える。
近くにいた敵も斧を振りかぶり、攻撃してくる。
機体の動きも悪い。今からまたイグニスを出しても間に合わない。
ラピス・ラズリはそもそも装甲が薄い。この一斉攻撃を受ければ耐えられないだろう。
あぁ、終わりか。呆気ないものだったな。
結局、私は何も出来ないまま、見出せないままだった。
これで私も、『あの子達』の処へ逝くのだろうか。
少佐は、こんな私でもいなくなったら悲しんでくれるだろうか。
不意に、東屋コウジの顔が浮かぶ。口論したままだったのを思い出した。
結局、私は最期まで薄っぺらなままでしたよ。
貴方みたいに、確固たる己はありませんでした。
・・・あぁ、出来ることなら、見つけたかった。自分だけの、生きる理由を。
もっと、生きていたかったなぁ。
銃撃が、空を切る音が聞こえる。
これで、全部終わり・・・。
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
何の痛みも来ない。死とはこういうものなのだろうか。
いや、でも、爆発も起きないのはおかしい。
目を開けると、そこには。
「効かないね。そんな鈍らと豆鉄砲。」
紅い巨体、ブレイガストが私の、ラピス・ラズリの前にいた。
「よう、まだ無事だな。とりあえず、全員を代表して一つ言っておくぞ。」
「?」
彼は息を思いっきり吸い込み、叫んだ。
「勝手に出て行って、勝手に諦めるなこのバカッタレ!!」
耳が痛くなるほどの声だ。実際にキーンという音が鳴っている。
「まだまだ言いたいことは沢山あるけどな。今は戦闘中だ。とりあえず。」
ワイトミーレスを1体殴り飛ばす。それだけでバラバラに砕け散った。
「無事で良かった。後は任せろ。」
笑顔でそう告げる彼。
その言葉が、私の欠けた心の部分に染み渡ってくるようだった。
頬を伝う何か。今までのような血ではなく、それは涙。
助かったことへの安心感。助けてくれたことへの感謝。
胸が温かくなる。追い込まれていた、追い込んでいた分、色々な感情が流れてくる。
それは決して負の感情じゃない。
「さて、お前らよくも俺の仲間を危ない目に合わせてくれたな。マコト!」
「了解!《ユナイトガーディアン》!
飛行形態のタリスマンがこちらに飛んでくる。
同時に、桜色のエネルギーの渦が2機を包み込んだ。
あまりのエネルギー量に、近づくことが出来ない。
奈落獣もマシンガンを撃つも、全て弾かれる。
渦が消えていく。その中心にいたのは、新たなる紅の巨神。
「「ブレイガスト・ノヴァ!!」」
「敵はまだまだ後ろに控えてるみたいだな。一気に潰すぞ!」
「任せて!ブロッサム・ブラスター、チャージ!」
肩の砲台に、先程と比べても遜色ないエネルギーが集まる。
大気が震える。巨神の咆哮に、全てが恐れ戦く。
「エネルギーチャージMAX!マコト、トリガーは預けた!」
「照準固定!ブロッサム・ブラスター、マキシマムシューーーート!!」
桜色のエネルギーの奔流が直進する。
ワイトミーレス達は回避しようとするが、時既に遅し。
全機飲み込まれてしまった。
それだけでは終わらない。
ワイトミーレス達の後方にいた奈落獣やミーレスをも、ブロッサムブラスターは捉えていく。
響き渡る咆哮。これぞ巨神の放つ裁きの一撃。
ブロッサムブラスターが通り過ぎた後には、何も残らなかった。
敵の全てを、巨神は撃ち落した。
「小さくたっていいじゃねぇか。」
「少なくたっていいじゃないか。」
二人の声が空に響く。
それは誰でもない、私に向かって叫んでいるようだった。
「小さくたって、それが本当に大事な物なら、俺達は命を賭けられる。」
「少なくたって、それが本当に大切な人なら、ボク達は戦える。」
それは決意の表れ。
それは確固たる己の宣言。
「守り抜くと、そう約束した。今はいない友に。」
「ただ守りたい。そう誓った。自分自身に。」
「「理由なんて、それだけでいいはずさ。」」
それは、薄っぺらで、空っぽだった私の心を満たした言葉。
なにかが、カチリとはまった。なにかが、私の肩からストンと降りた。
知らず知らずのうちに縛り付けていた私の心。
自分自身の呪縛から解放されたような、そんな気分だった。
この人達は本気だ。
小さい、少ないモノの為に全てを賭けている。
全てを背負っている。
狭い世界とはいえ、それを全て背負いきるには、どれくらいの力が必要だろう。
この人達の強さが見えた。
曇っていた瞳に、光が灯る。
「よし!これから大ボスに殴り込むぞ!」
「一先ず、明日の夏祭りを守らないとね!」
こんな時にも笑える。
今まで、そんなリンケージを何人か見てきた。
彼らも、そうだったのだろうか。
自分の、自分だけの理由を持って、強い信念を持っていたのだろうか。
「待ってください。」
私も、そうなれるだろうか。
今からでも遅くはないだろうか。
「私も行きます。まだ援護くらいなら出来ます。」
いや、遅くない。まだ間に合う。
私にも、守らせて欲しい。貴方達の大切なモノを。
「そんな!無理しないでよ。」
「良いぜ。」
「コウジ!?」
「その代わり無茶はするな。前衛は俺達だ。」
「了解です。」
ありがたい。事実機体は限界に近い。
それでも、今戻ってしまったら、また立ち止まってしまいそうで、自分の殻に閉じこもってしまいそうで怖い
戦うことよりも、また元に戻ってしまうほうが、何千倍も怖い。
「背中は任せた。頼むぜ霧咲。」
「無理はしないで。絶対に生きて帰ろう。」
「はい!」
今は、この人達と共にいたい。
その信頼に答えたい。その優しさに答えたい。
私の感情を取り戻そうと必死になってくれたこの人達を守りたい。
それが今の、私の戦う理由だから。
過去の亡霊たちに言い放つ。過去の自分に言い放つ。
小さかろうと、笑えば笑え、と。
side-フミカ-
おーおー、派手にやったね、コウジ達も。
敵の姿はまだまだ多い。
ここはアタシも本気で行かないといかなきゃね。
群れをなして襲来する敵軍。今のアタシにとっちゃただの的にしか見えない。
あの規模の攻撃を撃てるのがブレイガストだけだと思うなよ。
ようやく使い時が来た新兵器に思わず舌なめずりする。
「さーて、行こうか。派手に飛ばすよ!」
そう言ってゴツイ武装を右肩に構える。
粒子加速器によって重粒子を圧縮・縮退・加速、高出力ビームで一帯を薙ぎ払う、ディザスター級を持ってしても規格外の兵装。
その名もHight Energy Accelerator砲。略してHEA砲!
エネルギーの消費が激しいため一発限りだが、破壊力はスーパー級をも凌駕する。
コイツ食らって平気な奴なんざ居やしないよ。
射線上に味方機なし。エネルギー充填完了。
特殊パイルにて機体を大地に固定。照準良し。
派手にぶちかませ!
「レッツ!パーティーッ!!」
トリガーを引く。
それと同時に飛び出すビームの嵐。
奈落獣もミーレスも関係なく、光の束に飲み込まれる。
まだまだ、こんなモンじゃないよ!
砲塔にさらにエネルギーを送る。砲身が焼け付こうが構うもんか。
修理代を考えるより、目先の敵を掃討だ!
激しさを増すビームに耐え切れず、敵さんが次々と爆発していく。
遥か彼方へと伸びたビームは、全ての敵を焼き払った。
「くぅ~、シビれるねぇ。」
アクセルギアmk-Ⅱ。こいつは最高だ。
良い仕事をしてくれたもんだよ、全く。
撃ち切った砲塔をパージする。ついでに機体も反動でボロボロだが、何とか踏みとどまっている。
こりゃクセになりそうだ。
「さすがの威力だが、どうやら撃ちもらしがいるみたいだな。」
少佐の言葉に映像を確認する。
確かに、グリム・リーパーとトワイライト、それに随従するヴィクラマ4機。
さすがにエース達は墜とせなかったか。
できればあれで墜ちてもらいたかったがね。
『近藤フミカ!今日こそは!』
ほら来た、厄介なのが。
高速で迫り来るグラム・リーパーに対しミサイルを放つ。
ミサイルは奴のヴァライフを撃墜したが、本体は落下の勢いを利用して鎌で斬りかかる。
「毎回毎回、いい加減にして欲しいもんだよ。全く。」
『なら今すぐ切り刻まれなさい!』
素早いクラッシャー級にとって、でかいディザスター級は的に近い。
今までは何とかかわせてきたが、最近はグリム・リーパーも腕を上げてきているため少し辛い。
ただでさえ火力と引き換えに機動性を捨てたのだ。回避なんて無理。
斬撃が来る瞬間タックルし打点をずらす。後は装甲で耐えるのみ。
『今日こそ!今日こそは仲間達の仇を!』
「いい加減、人違いだって言ってんだろうが!」
相変わらず話を聞きやしないったら。うお!?今のはやばかった!
だけど悪いね。
「アンタの相手をしてる暇は無いんだよ。」
踵を返し、ユラード少佐達の援護に向かう。
この構成だと、アタシの役目はそれだろう。
我侭娘に構ってる暇があったら自分の仕事をこなさないとね。
『待ちなさい!逃がしは!』
「お前の相手は私だ。」
頼りになる援軍も来たことだしね。
side-シャナ-
『いつものファンタズム級・・・。いい加減邪魔をして!』
「近接戦が苦手な近藤の援護。それが私の役割だと思っている。」
切り込み役はコウジ達に任せよう。
私が出来るのは機動力を活かした撹乱。
以前の私なら嫌な顔の一つもしていただろうがな。
今ではこの役目もすっかり板についてしまった。
「さぁ。このヴァルサーガ・レイに着いて来れるか?」
最初からトップスピードだ。
死神の周囲を飛び回り、攻撃の隙を窺う。
『この!蚊トンボが!』
そんなモノに例えられては遺憾だな。
せめて蜂と呼んでもらいたいものだ。
死神が鎌を振るう。それも当たらない。こちらのスピードの方が圧倒的に上!
飛び回り続け、死角である後方に回り込む。
剣にオーラを纏わせ一閃!
『甘い!』
奴が振り向きざまに鎌を振るい、オーラ斬りが弾かれる。
完璧に死角を捉えたつもりだったのに。
『貴女、正直すぎるのよ。死角を狙ってるのが見え見え。殺気も隠せてないわ。』
仕方ないだろう。私は騎士だ。暗殺者ではない。
後ろから斬りかかるのさえ、本当は嫌だったんだがな。
まぁ見切られていたならそれでいい。
私も今までの私ではない所を見せようじゃないか。
一度距離を取り、剣を天に向かい掲げ、再びオーラを流す。
先程までとは違う。さらに多くのオーラを。
掲げた剣からオーラが溢れ、天へと昇っていく。
そのオーラも少しづつ多くなり、天とヴァルサーガを繋ぐ1本の線となる。
まだだ、まだ足りない。
眼前の敵を切り伏せるには、こんなものでは足りない。
私の持てるオーラを、全てこの剣に捧げる!
すると1本の線は次第に太くなり、強烈な光を放ち始める。
ついに線は天にそびえる柱の如く立ち上る。
『な、何?これは・・・。』
これが、我が最高の奥義。
AL粒子をオーラによって最大まで高め、纏わせた最強の一振り。
ヴァルサーガが空を翔る。ただ真っ直ぐ、死神目掛けて。
いくぞ。行くぞ。往くぞ!
「ハイパァーーーーー!オーラ斬りだぁーーーーーー!」
死神を両断すべく、光の剣を真っ直ぐに振り下ろす。
『こ、こんな物、また弾き返してやる!』
死神が鎌を振るう。
だが、それしきの事で今の私を止められると思うな。
「斬り!裂けーーーーーーーーーーー!」
互いの得物がぶつかる。否。
死神の鎌を両断し、その機体を斬る。
『きゃあぁぁぁぁっ!』
吹き飛ぶ死神。いや、違う。自ら後方に飛んだ!?
鎌を破壊された一瞬で、急所を外すため、わざと吹き飛んだか。
浅かった。あと一歩、あと一歩で奴を仕留められたものを。
「中々に業師だが、得物は無くなった。どうする死神。」
『まだ。まだよ。クラッシャー級の基本は格闘。この腕が、脚が動く限り、私は戦える!』
その決意、見事と言っておこう。
死神死神と呼んできたが、かの者も一人の武人ということか。
私も今の一撃で魔導力をかなり使ってしまった。あとどれほどオーラ斬りを放てるか。
面白い。最期まで付き合ってやろう。
互いに構える。
すると突然、空間を揺さぶるような衝撃が私達を襲った。
その直後、大爆発が聞こえる。
あの方向はコウジ達が向かった場所だ。一体何があったんだ・・・?
『え、何?私はまだやれるわよ!・・・くっ。了解。ここは退くわ。』
なんだ、仲間との通信か?
死神が踵を返すとヴァライフという飛空挺がやってくる。
それに乗り、奴は飛び去っていった。私を恨みがましく睨みながら。まぁ、リンケージの顔は見えないんだがな。
とりあえず私の役目は果たした。あの様子だと他のみんなもやってくれたのだろう。
コウジとマコト、霧咲のところへ向かうとしよう。
あの爆発、どうか無事でいてくれ・・・。
―同時刻―
side-ユラード-
「また会ったな、若いの。」
『出来れば会いたく無かったよ。ファッキン親父。』
冷たいね。おじさん寂しいよ。
まぁ戦場で出会っちまったんだ。
やることぁ一つだわな。
「いつぞやの続きといこうかい!」
今回は上陸を許しちまったんだ。
速攻で決めにかかるぜ!
隊員に指示を出し、各機散開する。
いつぞやと同じく、それぞれが1対1の形をとる。
こいつらは隙が無い。《ダンスマカブル》の動きはとれねぇ。
小隊員の数が同じだから、自然とタイマンになる。
『鬱陶しいロートルにはご退場願うぜ!』
ビームライフルを連射してくる。
ただ乱射するんじゃない。こっちの逃げ場を無くすように撃ってきやがる。
小賢しいし厄介だ。
手持ちのマシンガンで応戦する。ヒラヒラ飛び回りやがって。手前のほうが鬱陶しいぜ。
空の敵に突撃を仕掛けるのはさすがに愚策。
なんて考えてるんだろうよ、相手もベテランならな。
だからあえてこうする!
『馬鹿が!自分から突っ込んできやがって!』
ブースターで飛び上がり、奴のトワイライトとの距離を縮めにかかる。
当然、腕の良い相手にとっては格好の的だ。
だが当たらないねぇ。
『クソが!かすりもしねぇ。奴は曲芸師かよ!』
そう、なまじ腕が良いから、最善の攻撃を仕掛けてくる。
逆に言えば、教科書通りなんだよ。
お前さんも潜ってきた修羅場は多そうだけどな。
こちとら第2次大戦前から兵士やってんだ。
年季が違うんだよ、年季がなぁ!
「そぅらぁっ!」
ヒートサーベルを抜き放つ。
『チッ!』
奴さんもビームサーベルで迎え撃つ。
ぶつかる剣と剣。飛び散る火花。
前回もにたようなことをしたが、今回はまた違うぜ。
俺は鍔迫り合いの状態からトワイライトの腹を蹴り、わざと距離を取る。
秘かにチャージしていたビームキャノンの照準を合わせながら。
『ファック!?』
言ったろ?速攻で決めにかかるって。
躊躇い無くトリガーを引く。ビームが放たれる。敵は体勢を崩している。
「もらったぜ。」
『コンチクショウ!?』
ビームが直撃する直前、奴は機体を後ろに倒した。
機体は逆さの形になる。するとどうなるか。
機体の中央を狙ったビームはそのまま直進。奴はギリギリで回避に成功する。
なんとか爪先は巻き込めたが、元々空戦型の機体。足が無くなろうと戦闘に支障は無い。
詰めが甘かったか。思わず舌打ちしちまうぜ。
『フゥ。直撃は避けたか。さぁ、仕切りなおしと、ウオワッ!?』
トワイライトに向ってミサイルが飛来する。
それはギリギリでかわされたが、今の攻撃。
「かぁ~、惜しい。もう少しだったのに!」
「フミカか。ナイスタイミングだぜ。」
ミサイルを山のように搭載したアクセルギアmk-Ⅱが地上にいる。
mk-Ⅱは改修時にミサイルの積載量を大幅に増やしている。
その姿はミサイルのハリネズミのよう。
「悪いけどこれ、戦闘なのよね。こっからは2対1で行かせてもらうぜ。」
『・・・ファック。最悪だよ。』
その時、大気が震えるような衝撃を受ける。
その直後、大爆発が起きた。
あれは、坊主達が向かった方角か!
一体何が起きている?
『マジかよ。アレがやられたってのか。まぁ、退く理由が出来たってことか。全員撤退だ!』
奴さんたちは撤退しようとする。
話の流れが分からん。本当に何が起きている?
『姐さん、撤退だ。・・・あぁ!?視えてんだよ、アンタもボロボロだろうが!ここで死んでも何にもならねぇぞ!』
置いていかれるのは慣れてるが、無視されるのはあまり好きじゃなくてね。
「その首、置いていってもらうぜ!」
『悪いがここまでだ。もう会わないことを願うよ!』
トワイライトが何かを投げる。
その瞬間、辺りに強烈な光が放たれた。
フラッシュグレネード!?いや、レーダーもイカれた。電子チャフでもあったのだろう。
とりあえず、逃がしちまったわけか。
「少佐、良いのかい?このまま逃がしちまって。」
「目も鼻もやられて追えるかよ。それに一応守りきったんだ。任務完了としよう。って、これは隊長のお前が言うもんだろうが。」
「いやぁ、少佐がいるとつい。」
それにしてもさっきの爆発が気がかりだ。
あいつら、無事だろうな・・・。
―同時刻―
side-コウジ-
見つけた。アレがドッペルゲンガーか。
相変わらず形だけは本物そっくりに出来てやがる。
腕組んで待ち構えやがって。大物ぶってんじゃねぇぞ。
「コウジ、落ち着いてる?」
「あぁ、冷静だよ。冷静にアイツをぶっ飛ばしてやりたくなった。」
「そう。なら安心だ。」
なにが安心なのか後で話し合おうか?
とりあえず、様子を見てみるか。
「霧咲、一発放り込んで見てくれ。」
「はい。イグニス!」
ラピス・ラズリからイグニスが放たれる。
ドッペルゲンガーはそれを舞うように避ける。
避けるのは上手いじゃないか。本物には及ばないけどな。
だが奴は避けるのを止めると、大剣でイグニスを切り払った。
1基、2基、3基が切り落とされる。これ以上は不味い。
「霧咲、もういい!イグニスを下げてくれ!このままじゃ全部壊される!」
「はい!」
残ったイグニスを全基戻す。
それと同時に、ドッペルゲンガーが斬りかかってきた。
やる気になったってことか。上等!受けて立つ!
剣に対し左拳を合わせる。
ガアンという音が響き、お互いの動きが止まる。
パワーも切れ味も本物には及ばないものの、ブレイガスト・ノヴァと張り合えるぐらいはあるか。
ならこいつはどうだ!
「そのどてっ腹にぃ!ジェット・ナッコォッ!」
空いた右拳のジェットを噴射させ、奴の腹に叩き込む。
さすがに効いたのか、後ろに下がる。
この機は逃さない!一気に畳み掛ける!
右拳を戻し、ドッペルゲンガーの頭を殴りつける。
モロに攻撃をうけた奴はさらに体勢を崩した。
このまま往けると思った矢先、悪寒が背を走る。
急いで横に移動すると、俺がいた場所目掛けて奈落粒子砲を撃ってきやがった。そいつまで実装されてるのか。
「マコト。ブロッサムブラスター、もう一発いけるか?」
「うん。エネルギーチャージ開始!」
砲塔にエネルギーが集まる。だが今回はそれを待っているだけじゃない。
俺はブレイガスト・ノヴァを突撃させる。
チャージ中が無防備だなんて誰が決めたよ!二人乗りの利点さ!
殴りかかると、ドッペルゲンガーは剣を抜かずに拳を構える。
一丁前に殴り合いをしようってのかよ。おもしれぇ!
「だぁぁーーーーりゃぁーーーー!!」
『GURAAAAAAAAAAAAAAAAAA』
初めて奴が声を上げる。声と言うより咆哮だな。
互いの拳が、脚がぶつかり合う。
互いの頭を、腹を攻撃する。
「く、エネルギー80%!」
「すまねぇマコト。無茶に付き合わせてるな。」
「コウジの無茶なんて、いつものことだろ?」
軽く笑ってるが、辛いはずだ。衝撃は殺しきれない。
中身がいる分、殴り合いは不利かと思われたその時。
『GYYYYYYYAAAAAAAA』
ドッペルゲンガーも苦しんでいる。
あぁなるほど。あれは奈落獣だった。つまり生きている。
俺達同様、痛みは感じるようだな。というかやつは肉体そのものだから俺より痛いだろうよ。
我慢できないとばかりに奴が距離を取る。いや、それだけじゃない。
奈落砲粒子砲をチャージさせている。アイツ、そこまで再現されてるのか!?
「マコト!エネルギーは!」
「100%!いつでもいけるよ!」
今度は真っ向からの撃ち合いといこうじゃないか!
ブロッサムブラスターを構える。
ドッペルゲンガーも奈落粒子砲をチャージし終えた様子だ。
一瞬でもいい!やつより早く!
「照準固定!頼むぜマコト!」
「ブロッサムブラスター!マキシマムシュート!」
『OOOOOOOOOOAAAAAAAAAAA』
互いのエネルギーが放たれる。
完全に同時。こりゃ、出力勝負になるか!?
桜色のビームと黒のビームがぶつかり合う。
完全に互角。と言いたいところだけど、なんだか少し押され気味じゃねぇか!?
まさか、さっき一発撃った所為でブレイガストのエネルギーのほうが少ないのか!?
不味い。不味い不味い!どんどん押されてきてる!
「くそ!もうゲージは振り切ってんだぞ!?」
負ける!このままじゃ、押し切られる!
絶体絶命の危機、か。
その時、ドッペルゲンガーの姿勢が崩れた。
その影響か、僅かにブロッサムブラスターが押し返す。
あれは、イグニス!まさか!
「まだ、イグニスは残っています。援護は出来ます。」
ラピス・ラズリ。さっきの傷から火花が散り、どう見ても動くのが精一杯だというのに。
「貴方達の後ろには私がいます。私が支えます。だから、諦めないでください!私達の後ろには、貴方達が護りたいものが沢山あるんでしょう!」
霧咲、お前・・・。
全く、無茶ばかりしやがって。
お前が来てから、俺の無茶が目立たなくなっちまったよ。
まぁ、無茶やり同士、本気を見せてやろうぜ!
ラピス・ラズリのイグニスに邪魔され、ドッペルゲンガーは砲撃に集中できていない。
その間も、ブロッサムブラスターは奈落粒子砲を押し戻す。
遂に、奈落粒子砲の出力が落ちる瞬間が来た。
「「往けーーーーー!!」」
ブロッサムブラスターが、ドッペルゲンガーを飲み込んだ。
まだだ、俺達の無茶は終わっていない。
ブレイガスト・ノヴァをすぐに突進させる。
桜色の光の中を突き進みながら、拳にエネルギーを籠める。
光の先、ドッペルゲンガーに向って拳を突き出した。
「ファイナル!トール!スマッシャーーーー!!」
拳はドッペルゲンガーの腹に叩き込まれる。
これで、終わりだ!
光が収まった時、それは俺の描いていた光景では無かった。
「嘘・・・だろ・・・?」
奴はまだ生きていた。
全身はボロボロになり、機械のパーツの裏に隠された肉が確かに生きていることを主張している。
ここまで頑丈なのかよ・・・。
一瞬の油断だった。その瞬間、奴は腕を大きく振りかぶり殴りつけてきた。
咄嗟のことで反応できなかったブレイガストはそれに直撃してしまう。
「「うわぁぁーーーー!」」
弾き飛ばされる巨体。
それだけじゃない。アイツの本体とも言うべき肉体部分が、徐々に機械に覆われ始めている。
再生までするってのかよ、くそ!
正直、諦めかけた。勝てないと。勝つ手段が無いと。
必殺技は既に出し尽くした。もう俺達に武器はない。
その時、誰かの声が聞こえた。
何処かで聞いた声。まだ記憶に新しい声。
「誰?誰なんだ?ボクに話しかけるのは・・・。」
マコトにも聞こえている。
ということは、まさか!
(大いなる守護神、ブレイガスト・ノヴァ。あなたに、新たな力を・・・。)
その声に反応するように、モニターに文字が浮かび上がる。
《ワールドデストラクション》
やれるのか、俺達は。まだやれるのか?
いや、そうじゃない。
やるんだ!ここで俺達が倒れたら、桜花島が!
「いけるな!マコト!」
「いけるよ!コウジ!」
俺達は、まだ倒れていない!萎えてすらいない!
だから、まだ戦える。アイツを倒せる。
往くぞ!
紅い巨体が、さらに真紅に染まる。
ALTIMAが俺達の思いに応えてくれている。
迫り来るドッペルゲンガー。だがその突撃を阻む者がいる。
「希望といものがあるのなら、見せてください。正しい力を、見せてください!」
最後まで俺達を信じ、援護してくれている霧咲。
あぁ、見せてやるよ。
そして教えてやるよ。最後に勝つのは。
「勝つのは、正義の味方だってなぁ!」
さっきまでの絶望はもう無い。
あるのは敵を打ち砕く意思。
護るべきモノへの想い。
それを今、形にする。
「バインドストーーム!」
ブレイガストの胸から磁力場が発生する。
磁力場はドッペルゲンガーを捕らえ、その動きを封じた。
もがこうとする。暴れようとする。それでも奴は動けない。
ブレイガスト・ノヴァが正拳の構えをとる。
ドッペルゲンガーを見据える。奴は何が起きるのか察したのか、さらに逃れようとする。
しかしそれも無駄に終わる。
ブレイガストは空を駆けた。
ただひたすら真っ直ぐに。前だけを見て、真っ直ぐに。
拳を前に突き出し、さらに加速する。
それだけ。ただそれだけで、空間を削りながら進む感覚を得る。
否、本当に空間を削り進んでいた。
ブレイガスト・ノヴァの通った後の空は、まるでガラスを割ったかのように粉々に砕けていた。
そのエネルギーが、ブレイガストに更なる力を加える。
後はこのまま、殴り抜ける!
「「ワールドデストラクション!!」」
拳は何の抵抗も無くドッペルゲンガーに吸い込まれ、腹を突き抜け、体を真っ二つにする。
ブレイガストは空間を破壊しながら突き進み、そして振り返った。
破壊された空間が元に戻る。その際、途轍もない衝撃が周囲を駆け抜けていった。
それを最も近距離で受けたドッペルゲンガーは、両断された体で耐えられるはずも無く、大爆発を起こし、消滅する。
後には、何事も無かったかのような空が広がるのみ。
「すげぇ・・・。」
「言葉が、出ないよ・・・。」
新たな力を、超弩級の必殺技を手に入れた。
だがこの力は、強大すぎる。
その名の通り、俺達は今、世界を破壊した。
強くなるたびに思ってきたが、今回は最上級だ。
これを、間違わずに扱えるかどうか。
おそらく、俺達はそれを試されているんだろう。
望むところだ。なんたって俺達は。
「正義の味方に、なるんだから。」
誰にでもなく、呟く。
「コウジ!メイちゃんが!」
マコトに叫ばれ、思考が戻ってくる。
見るとラピス・ラズリが傾き、今にも墜落しそうになっていた。
「おおっと!?」
急いで機体を抱きとめる。
通信を繋ぐが、どうやら眠ってしまったらしい。
ここにきて、無茶のツケがきたか。
「帰ろう。みんなも迎えに来てくれたみたいだ。」
「そうだね。帰ろう。メイちゃんも一緒に。」
あぁ。帰って休もう。明日は夏祭りだ。