メタリックガーディアン・プロミス 『桜の舞う島で』   作:戒炎

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「EMOTION」その3

第8幕

 

side-マコト-

 

 祭囃子が聞こえる。

 無事に夏祭りを開催できたのはとても良かった。

 初めて訪れたらしい観光客は夏祭りの雰囲気と桜のミスマッチさに驚いている。

 地元民には当たり前の光景だけど、そんなに変かな?

 ボクとコウジは家から丘桜近くの神社にやってきていた、のに。

「コウジはさぁ、どうして空気が読めないのかなぁ。」

 この男、折角の夏祭りに私服で来たよ。

 一年に一度なんだから、少しは浮かれてもいいのに。

 これだから男っていうのは・・・。

「浴衣の色まで黒をチョイスするお前に言われたくない。」

 失礼な。帯は鮮やかな赤で、とても映えるだろ?

「血で染まってるみたいだ。」

「お前の血で染めてやろうか。」

 いつもの会話をしていると、どんどん人が増えてくる。

 大丈夫かな?シャナ達とちゃんと合流できるかな?

 シャナ、先生、司令達は基地から来るらしい。

 何でもシャナの為に浴衣を用意したとか。その場に居たかったな。

 それにしても・・・。

「ねぇ。メイちゃん、来てくれるかな?」

 昨日の戦闘の後、ボクが帰るまで彼女は目を覚まさなかった。

 彼女の心に変化があったことはボクも感じていた。

 でも、無事を確認できるまで傍にいられなかったのが悔しい。

 司令の命令でなければ、一晩中付いていたのに。

「今更心配しても遅いだろうよ。なんの知らせが無いのが無事な証拠だろ。」

 むぅ、少し冷たすぎやしないかな。

 あんなに言い合ってた仲なのに。

「お、みんな来たみたいだぜ。」

 あ、本当だ。

 集合場所を鳥居の下にしていたのが良かったのか、案外すぐにお互いの姿が確認できた。

 ボクが手を振ると、シャナが駆け寄ってくる。

 心なしか浮かれている様だった。普段のシャナと違って、一人の女の子のようだ。

 いや、実際女の子なんだけど、ボク達と同じ高校生っぽさが出ている。

「待たせたな、マコト、コウジ。」

「そんなに待ってねぇよ。」

「そうそう。ボク達もさっき着いたばかりだし。」

 あ、なんかデートみたい。今の台詞。

 それにしても、朝顔の模様の浴衣か。

 派手すぎず、地味すぎず。

「いいなその浴衣。似合ってるぞ。」

「そ、そうか。そう言ってもらえると嬉しい・・・。」

 台詞取られた。

 しかも何ちょっといい感じになってるのさ。

 あ、なんかこの光景見たことある。海の時と似てる。

 訳も分からずイライラしたので、取りあえずコウジの足を踏んでおく。

 蹲っているが知ったことじゃない。

「遅くなって悪かったね。」

「すみません。意外と浴衣の着付けに時間が掛かってしまって。」

 先生とミウコ司令も歩いてくる。

 あ、司令の浴衣スゴく可愛い。金魚柄だ。

 この姿を見ると、やっぱり司令も歳相応の女の子なんだなって思う。

 日々のストレスから解放されたのか、目が活き活きしてる。

 何だか微笑ましくなってしまう。

 後方で姿を隠しながらカメラを構えている副司令似の人は他人だ。そうしておこう。

 それとは対照的に。

「先生、何だか休日のお父さんみたい。」

 某国民的アニメのお父さんが着ているような地味目の茶色だった。

 意外。先生のことだから水着みたいに派手なのでくると思ってたのに。

「浴衣は落ち着いてるほうが好きなんだよ。てかお父さん言うな。」

 お父さんと言えば、ユラードさんはどうしてるんだろう。

 こういうイベント事は好きそうなのに。

「テスタメント小隊は敵襲に備えてる。昨日の今日で攻撃があるとは思えないけど、念のためね。」

「えっと、それじゃあもしかして・・・。」

 あの人たちがいないという事は、あの子も。

「ん?あ、こら。いい加減隠れてない出て来なって。」

 先生が誰かを後ろから引っ張り出す。

 それは女の子だった。

 淡い線の入った藍色の浴衣を着て、顔を真っ赤に染めながらもじもじしている女の子。

 はて、だれだっけこの可愛い娘、って!

「メイちゃん!?」

「え!マジ!?」

 コウジと二人で驚きの声を上げる。

 目を覚ましていたことも驚きだが、正直祭りには来ないものだと思っていた。

 それが、随分可愛くコーディネートされて。

「あ、あの。やっぱり私が来るのはおかしかったですか?」

 メイちゃんは恐る恐ると声を出す。

 千切れ飛びかねない勢いで首を横に振る。

「本来なら、規律を乱した罰を受けるのが筋です。ですが。」

「私が言ってやりました。祭りに参加して見聞を広め、交流を深めなさいと。それが貴女への罰ですと。」

 司令が胸を張ってドヤ顔する。

 ナイスです。

 それにしても、あのメイちゃんがねぇ。

 いつも棘棘してて近寄り難いイメージのあった彼女が。

 今はおどおどとしていて、まるで小動物みたい。

 たったの数日で、人間ここまで変わるとは。

 コウジ、君って奴は恐ろしい男だ・・・。

「霧咲、もう体は大丈夫なのか?」

「は、はい。ただ疲労が出ただけでしたので、一晩休んだら元気に。」

「そうか、良かった。その浴衣、似合ってるぞ。」

「その、有難う、ございます。」

 顔を真っ赤にしているメイちゃん。か、可愛えぇ・・・。

 それにしてもコウジ、やはり恐ろしい。

 ごく自然に女の子を褒める。そして照れさせる。何の自覚も無しに。

 将来天然ジゴロにでもなるんじゃなかろうか。

 取りあえずまたイラついたので足を踏んでおく。イラつく理由も解らないけど。

 あ、反対側をシャナが踏んだ。おーおー悶えてる。

「よし、じゃあみんな揃ったことだし、メイちゃんの快気祝いも兼ねて楽しもう!」

 夏祭りはこれからだ!

 

~射的~

 う~んやっぱり難しい。

 こういうのはなかなか当たらない。

 スターゲイザーの能力?関係ないよそんなの。別に全知全能なわけじゃないんだから。

 六発撃ってキャラメル1箱。まぁ良い方だろう。

「だー、当たんねぇ!おっちゃん!まさか仕掛けなんかねぇよな!?」

 スターゲイザーであったも才能無いのもいるし。まったく見苦しい。

 その横で、完璧なフォームで銃を構え、的確に賞品を落としていく人がいる。

 我らがフミカ先生だ。

「ふふん。見たか!これが大人の実力よ!」

「いえ。かなり大人気ないですよ29歳。」

 司令は綿菓子を食べながら冷たい眼で見つめていた。

 ちなみに先生が落としたのは全て駄菓子である。

 高価な賞品、例えばゲーム機などは端から興味が無かったらしい。

 それでいいのか29歳。

「年齢を連呼するな!」

 

~金魚掬い~

 これも昔から苦手なんだよなぁ。

 自力で掬えた記憶が無い。

 どうしても余計な力が入って・・・。あ、ポイ破けちゃった。

 ん?なんだか周りが騒がしいな。みんなボクの横を見て・・・。

「マコト!金魚掬いとは中々楽しいな!」

 シャナがありえないスピードで金魚を掬っている。

 あぁ、器が金魚だらけ。なんかはみ出しそう。こんなに詰まってると気持ち悪い。

 あんまりやると店のおじさん泣いちゃうよ?あ、もう半分涙目だ。

 仕方なく彼女を諭し、5匹だけ貰って後はリリースすることにした。

 残念そうにしてるけどシャナ、あんなに飼えないでしょうに。

「あ、破けてしまいました・・・。」

 さらに奥ではメイちゃんが挑戦していたが、残念。

「こういうのにはコツがあんだよ。見てな。」

 そう言ってコウジは軽々と1匹掬い上げる。

 コイツも極端なんだよね。射的では散々だったくせに。

 金魚掬いやヨーヨー釣りは得意なんだ。ガサツな癖に器用な奴。

「ほら、コレやるよ。」

「え?いいん、ですか?」

「あぁ。祭り初体験の記念だ。」

「有難う、ございます。」

 掬った金魚をメイちゃんにプレゼントする。

 おい、お前そんなキャラじゃないだろ。

 しかし何だろう。あの可愛い生き物。

 頬をほんのり赤く染めて、薄く微笑みを浮かべて。なんかちょっと嬉しそうで。

 お、お持ち帰り・・・。ハッ!?ボクは今何を!?

 危ない危ない。もう少しで犯罪者的な行動を取るところだった。

 ちょうどあの木の後ろでこちらを激写している不審者みたいに。

「なあマコト。私に足りないのは、ひょっとしてああいうのじゃないか?」

「圧倒的女子力の差ですね。」

 シャナ、いきなり沈まないでよ。確かにあのいい雰囲気を作り上げている男に一撃食らわせてやりたいけど。

 あとチョコバナナ食べながら冷静に批評しないでください9歳児。

 

~型ぬき~

「あ~駄目!アタシこういうチマチマした作業苦手だわ。」

 半分抜いたところで割れてしまった先生は頭を抱えて叫びだす。

 だから大人気ないよさっきから。

「あ、くそ!もう少しだったのに!」

「シャナも、もっと簡単なのにすればよかったのに。」

 初心者には結構難しいよ、型ぬき。

 ボクは一番易しいランクを終えている。

 そして例によって器用な男が一人。

 ものすごい集中力で結構難しい型に挑んでいる。

 その集中力を普段から発揮できないのかな。勉強とか。

 あ、やめよう。勉強のことはブーメランの如く自分に返ってきそうだ。

 その隣でガガガガガガッとすごい音がする。

 メイちゃんだ。この屋台最高難易度、菩薩様に挑んでいる。

 集中力が半端じゃない。何がすごいって眼が本気だ。

「彼女の中の何かに火を点けてしまったようですね。」

 司令は焼きソバを食べながら静かに呟いた。

 

~灯篭流し~

「マコト、あれは何をしているんだ?」

 人々が川に向って、桜の花弁と蝋燭を乗せた器を流していた。

「あれは灯篭流しって言って、ご先祖様の霊を弔うんだよ。」

 地域によってやり方は様々らしい。

 この桜花島では、灯篭の代わりに桜を流す。

 島で産まれ、育ち、亡くなった人の魂は桜の花になり、みんなを見守っている。

 そしていつかまた人として、この島に産まれてくる。

 そんな言い伝えを、子供の頃から聞かされていた。

 よくありそうな伝説のひとつだけど、ボクはこの話が好きだった。

 いつも誰かが傍に居てくれる。たとえ亡くなっても、優しく見守ってくれている。

 そう考えるのは、とても素敵なことだと思っていたから。

「俺その話聞いた時、最初怖かったんだよな。いつでも見てるぞ、って言われてる気がして。」

 ムードも何もあったもんじゃない。

「・・・私も、流してもいいでしょうか。島の住人ではありませんが。」

「大丈夫だよ。亡くなった人を弔うのに国境も人種もないからね。」

 メイちゃんの提案に、笑顔で頷く。

 きっと色んな人に、色んな想いがあるんだろう。

 桜が流れていくあいだ、一心に祈り続けていた。

 これを機に、あの娘がもっと前を見て、前に進んでくれたら嬉しいな。

「さて、俺も流すとするかな。」

 するとコウジまで桜と蝋燭の乗った器を持ってきた。

「え?ボク達は帰りでもよくないかな?」

 ご先祖様には悪いけど、今はみんなと楽しみたい。

「いや、ほら。アイツのことも、ちゃんと弔ってやらないとさ。」

 あ・・・。

 そうか。今年は今までと違ったんだった。

「うん・・・。そうだね。そうしよう。」

「私もやろう。彼とは短い付き合いだったがな。」

 大丈夫。大丈夫だよ。

 馬鹿やってるみたいだろうけど、ボク達は前に進んでる。

 だから、桜と一緒に見守っていて。マイケル。

「ところでこの器、水に溶けたりしないのか?」

「器は下流で回収されるんだよ。環境問題がどうとかで。」

「何だか台無しですね。」

 たこ焼きを頬張りながら司令が冷静に突っ込みを入れる。

 うん、ロマンの欠片も無いことは分かってるよ。みんなそれを承知なんだからいいじゃないか。

 ていうか司令、さっきからずっと食べすぎ。

 

~花火~

「いや~、色々廻ったね。」

「あぁ。イズモの祭りがこんなに楽しいものだとは。」

 あれから他にも色々廻って遊んだな。 

 やっぱり祭りになると気分が高揚する。普段より大分はしゃいじゃったよ。

「次は何があるんだ?」

「ん~、どこにいこうか・・・。あ、そろそろ時間か。」

「時間?」

「イズモの夏と言えば、欠かせないものですよ。」

 司令がカキ氷を食べながら答える。

 いや、だから食べすぎ・・・。もういいや、そっとしておこう。

「シャナ、ちょっと静かにしてて?」

 コクリと頷く。別に返事くらいは声に出してもいいんだよ?

 しばらく無言になるボク達。

 人々の雑踏や、祭囃子もどこか遠く聞こえる不思議な感覚。

 その時、僅かながらに、ヒュ~という何かが空に上る音が聞こえてきた。

 その音が消えたと同時に、空には大輪の花が咲く。その直後、ドォンという音が響いた。

 それに続けとばかりに、空には色とりどりの花が咲く。

「これが花火。正確には打ち上げ花火。どう、綺麗でしょ?」

 シャナを見る。彼女の目は空の花火に釘付けだった。

 瞳には打ち上げられた花火の色が映り込み、輝いている。

 それは光を映しているから輝いているだけではない、それに魅入られているようだった。

「すごいな・・・。」

 彼女はただそう言った。

 この時代、異世界からの侵略者や、大戦の影響で文明を無くしてしまった国、戦時下にある国がある中。

 暢気に花火を打ち上げて楽しんでいるのは、もしかしたらイズモくらいなのかもしれない。

 でも、だからこそ、この文化をいつまでも大事にしていかなくちゃならない。

 それが出来る平和を、ずっと守っていかなくちゃいけない。そう心から思う。

 だって、これを見て楽しんでくれている異国の友人が、隣に居るのだから。

 平和ボケした国の、矮小な一人間の戯言かもしれないけれど。

 いつか世界中の人々が手を取り合って楽しい時間を過ごせる。

 そんな世の中になってもらいたい。

「そういえば、コウジとメイは何処にいったんだい?」

「もしかしてはぐれたのでしょうか?」

 先生と司令が二人の不在に気付く。

 もう気付かれちゃったか。もう少し時間が掛かると思ってたけど。

「何!?なら今すぐ探しに行かなくては!」

「待って。」

 今にも走り出そうとするシャナを止める。

 もう少し。もう少しだけ待って欲しい。

「メイちゃんのことは、コウジに任せて欲しい。きっと、あの娘の心を解きほぐす、最後の一手になるだろうから。」

 今だけは特別。

 だから、頼んだよ、コウジ。

 

side-コウジ-

 

 神社近くには小高い丘がある。丘桜のある丘よりは小さく、人気も無い。

 そこに俺は、霧咲を連れてきていた。

 ここは、俺にとって昔から、夏祭りのベストスポットだ。

 神社は人混みが煩わしい。丘桜も、花火と桜を両方見れる場所として、主に観光客を中心に人が集まる。

 だからこそ、この丘は隠れた名所として俺は利用している。

 それ以外にも、落ち着ける場所としてマコトと一緒に来ることもあった。もう昔のことだけど。

 遮るものはなにも無い。それでいて海に近く、大迫力の花火が楽しめる。

 俺達は腰を下ろして静かに空を見上げる。

「凄いですね・・・。」

 霧咲が呟く。その顔は花火に照らされ、どこか輝いて見えた。

「花火は初めてか?」

「いえ、地球に来てから何度かは見たことがあります。でも。」

 一区切りつけ、そっと言う。

「しっかり見たのは、これが初めてです。」

 今まではそんな余裕なんか無かったのだろう。

 自分を押し殺し、理由を探して戦う日々。

 生きる場所どころではない。ともすれば死に場所を求めるかのような日々。

 感情を抑え付けながら生きるのは、どれだけ辛いのだろう。

 俺は感情がすぐ面にでる人間だから、そこはよく解らない。

 でも、一つだけはっきり言える事があるとすれば。

 そんなことではつまらないだろう、ということだ。

「あ、あれ。桜の形・・・。」

「この島と桜は切っても切れないからな。職人も頑張ってんだよ。」

 あの桜型花火も、島の花火大会の名物だったりする。

 ・・・。

 しばらく無言で花火を見つめていた。

「私は、今まで海の底にいました。」

 突然、そんなことを語りだす。

「海の底で、ずっと蹲っていた。感情を押し殺し、自分は兵器だと言い聞かせ、ずっと深海にいました。」

 その声は無感情で、それでもどこか寂しげだった。

「水面から降り注ぐ光に憧れながらも、それに手を伸ばそうとしながらも、しなかった。出来なかった。そうしてしまえば、今の自分が壊れそうで。壊てしまえば、どうなってしまうのか分からなくて、怖かった。だから諦めていたんです。自分は永遠に海の底で、一人きりなんだと。孤独な自分は特別

で、孤独の神に選ばれたから、こんな場所に居るのだと。今思えば、そんな自分に酔っていたんですね。」

 分かっていたんだ。こいつには、自分を殺してまで生きることの辛さも。

 自由に振舞うことへの憧れもあった。でも出来なかった。

 こいつが言ったように、怖かったから。その恐怖の強さは解らないけれど、色々な意味で怖かった。

 相手を傷つけることが。自分が傷つくことが。

 だから自分の殻に閉じこもる。

 要するにコイツは、とんでもなく臆病で、繊細で、そして優しいのだ。

「それなのに、無理にでも海面に引き上げようとする人達がいて。どうすればいいか解らなくなって、封じていた感情が甦ってきて。」

 でも今は、優しさより臆病さが前に出ている。

 人に触れなければ、誰も傷つかない。

 でも、それじゃ駄目だ。

 たとえぶつかり合おうとも、傷つけあおうとも、触れ合わなければ、それはヒトじゃない。

 その結果が戦争であろうとも、俺達は乗り越えていかなくちゃいけない。

 最近まで平和にどっぷり浸かっていた人間の言葉じゃ説得力が無いかもしれないけどさ。

 そうじゃないと、こうして人間一人と顔を合わせて会話するのも出来やしないぜ。

 こいつは多分、最後の勇気が出ない。後一歩なのに、踏み出せない。

 その背中を押してやるのは悪だろうか。甘やかしているだけだろうか。

 俺は、悪だとは思わない。一人くらい、甘い奴がいてもいいじゃないか。

「東屋さん。私は、兵器です。戦うための道具です。ですが。」

 花火の音にかき消されず、その言葉は俺の耳に届く。

 霧咲メイの、最後のSOSメッセージ。

「そんな私でも、笑って生きていいのでしょうか?」

 俺達はしばらく無言になる。というより、彼女が言葉を止めた。

 俺が何も言わないことに、霧咲は明らかに落胆する。

 ・・・まったく、人が無い頭フル回転させて良い事言おうと考えてるのに、せっかちな奴だ。

 俺は霧咲の頭を乱暴に撫でる。こう、ワシャワシャと。

「な、何をするんですか!」

 大分感情が面に出てきてるようだな。

「お前、今日楽しかったか?」

「え?」

「色々出店廻ってたけどさ。お前、自分でも気付いてなかったかもしれないけど、笑ってたぞ。」

 霧咲は驚いた顔をする。そういう顔も出来るんじゃないか。

「兵器ってのは、笑わねぇ。怒りも、驚きもしねぇ。血も涙も出ねぇ。でもお前は違うだろ。」

 戦えば傷つく。血も流す。

 俺に対して怒鳴った時のように、涙も流す。

 そんな奴が兵器であってたまるかよ。

「お前は人間だ。俺達と同じ、人間だ。怒りもするし、悲しんだりもする。もちろん、笑いだってするさ。」

 それはもう誤魔化しようもない事実だ。

「誰がなんて言ったって、俺が認める。お前は、感情のある人間だ。俺一人だろうと、それを認める。」

 まぁ俺以外にもお節介な奴らは幾らでもいるがな。

「だからさ、今は笑えよ。折角の祭りなんだ。楽しまなくちゃ損だぞ。」

 俺のほうから思いっきり笑顔を見せてやる。お手本だ。

 霧咲は最初、俯いたまま何かを呟いていたが、さすがにその声は花火によって遮られる。

 ただ、一度唇を噛み締め、その後顔から力が抜けたのは分かった。

 そうして顔を俺に向けた霧咲の顔は、見たことの無い、満面の笑みを浮かべていた。

 それは、夜空に咲いた大輪の花にも負けず、そしてそれに照らされることで、より輝いて見えた。

 思わず、見蕩れてしまった。

「東屋さん。ありがとうございます。それと、一つお願いがあります。」

「あ、あぁ。俺に出来ることなら何でも言ってくれ!」

「ではすいません。しばらく、胸をお借りしてよろしいでしょうか。」

 何のことかと一瞬思ったが、彼女の震える肩に気が付く。

 しょうがないなぁと、俺は両手をそっと広げる。

「う。うぁぁ。うわああぁあぁぁぁぁぁぁ!!」

 霧咲は胸に飛びついてきたと思ったら、大声を上げて泣き出した。

 まったく、笑ったり泣いたり、忙しい奴だな。

 でもこれは、一人の少女が生まれ変わった証。

 この世に産まれて最初に上げる、産声なのだ。

 大丈夫、今は俺と、月しか見ていない。だから思い切り泣けと、我ながら気障なことを考えていた。

 

 

第9幕

 

side-コウジ-

 

 あーあ、今日から新学期か~。

 ずっと夏休みなら良かったのになぁ。

 ていうかどこの学校も校長の話って長いんだろうか。暑いんだからさっさと終わらせてほしかった。

 HRも終わったことだし、早く、いや速く帰ろう。

「ちょっと待とうかコウジ。」

 ほらもう捕まった。

「なんだよマコト。俺は早く帰ってだらだら過ごすんだ。」

「何言ってるのさ。夏休みには出来なかった部活動、再開だよ。」

 なん・・・だと・・・。

 でも言っちゃなんだが、部員が一人減った今、部活動として機能しないはず。

※桜花学園の最低部員は4人である。

「生徒会が動き出すまでは活動できる。よって今は問題無し!」

 暴論過ぎる。

「なぁマコト。」

 ほら!シャナだって困ってるじゃないか!

「今日はどこに行くんだ?スイーツ特集は以前やっただろう。」

 まさかのアウェイだった。

「な、なぁ。遺跡の探索は終わったじゃん?それでもう探検部の存在理由は無いんじゃないかな?」

 シャナももう大分学校に慣れたことだし。

「なんのまだまだ。桜の穴場スポットから繁華街のアイテムまで。探検部の活動場所はまだま有るよ。とりあえず秋のニューファッションから。」

 えーやだ俺そんな女子女子した部活。

 シャナさんもなに乗り気になってんのぉ?

 はぁ、駄目だこうなったらマコトは止められない。なんて厄介な。

「ところで、さっきから教室の入り口が騒がしくないか?」

 シャナに言われて気が付く。

 確かに、なにやら人だかりが出来ている。

「おーい。何してんだ?」

 とりあえず適当に捉まえて聞き出そうとした。

 あ、松浦だった。

「いやなんでも中等部の娘が来てるらしい。」

「別に珍しくないだろ。大方部活の先輩を呼びに来てるんじゃないか?」

※この学園では中等部までが部員とカウントされます(運動部などの大会は別)。

「それが見たことない娘でさ。めっちゃ可愛いらしい。」

「らしいらしいって、もっとはっきり言えよ。」

「俺だってちゃんと見てないんだよ。」

 しょうがないな。

 ちょっくら見てくるか。

 べ、別に可愛いって単語に反応した訳じゃないんだからねっ!

 どうれ・・・おや?

 そこには、ものすごく見慣れた中等部の制服に身を包んだ、これまた見慣れた少女の姿があった。

 少女と目が合う。その娘は俺の顔を見ると、パッと笑顔を浮かべ俺のほうに歩いてくる。

 待て待て、落ち着け俺。

 俺の知っているあの娘はあんな顔をしたか?

 確かにあの時は色んな表情を見せてくれたが、幾らなんでも変わり過ぎだろう。

 よし!確認してみよう!

「お前、霧咲か・・・?」

「はい。こんにちわ、コウジさん。」

 本人だったーーーー!

 礼儀正しく頭を下げる霧咲メイ。しかも今、コウジさんって呼んだ?

「え?なんでここに居んの?その制服は?」

「今日からこの学園の中等部に編入となりました。よろしくお願いします。」

 え?何この展開。マジで?

「それと、私のことはメイと呼んでください。私もコウジさんとお呼びしたいので・・・。」

 何故そこで顔を赤らめる。

 なんだ。まだ9月の頭だぞ。

 何でこんなに寒気がするんだ?

 恐る恐る後ろを向くと、鬼の表情をした男子共がおりました。

「何故だ・・・。何故東屋ばかり・・・。」

「コウジばかり綺麗どころに囲まれて・・・。妬ましい・・・。妬ましい・・・。」

 ・・・。ふー。

「諸君、落ち着いて話をしよう。」

「「「「「「問答無用!!」」」」」

 ぎゃーーーーーー!吊るされたーーー!!

 痛い、痛い!誰だ三角定規の先で突く奴は!

 え、いや、コンパスの針は洒落にならn痛ぇーーーー!!

 あ、熱い熱い!虫眼鏡で炙るのはヤメテ!

「メイちゃん!学校に通うんだ!」

「うん。なかなか似合っている。」

 二人ともなに和やかに話してrギャーーー!!

「はい。お二方も、改めてよろしくお願いします。マコトさん、シャナさん。」

 微笑みながら、二人のことも名前で呼ぶ霧咲。いや、もうメイと呼んであげたほうが良いか。

((な、何だこの可愛い生き物・・・!))

 二人からなにやら邪な気配を感じる・・・。

 メイ逃げて、超逃げて!いやその前に俺を助けて!

「よっしゃーー!部員ゲットーーーー!」

「このまま街に向うぞ!新生桜花島探検部の旗揚げだ!」

「え?えぇ!?」

 おいお前らそれでいいのか!?マイケルが草葉の陰で泣いてるぞ!

 ていうか俺を置いていくな!

「「「「「処刑の始まりじゃーーーー!」」」」」

「イヤーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 こうして、新たな仲間と共に、俺達の新しい学園生活が始まった。

 

「アンタら、いつまで騒いで・・・邪魔したね。」

 助けろよ教師!

 

side-ミウコ-

 

「敵の攻撃も激しくなってきましたね。」

「数、質、どれをとっても今までとは違います。・・・来るべき決戦も近いのではないかと。」

「島内の迎撃機構は、できれば使いたくありません。しかし、街に被害が出ては元も子もありませんね。」

「各砲台の点検も急がせましょう。」

「それと、可能ならば彼女とも接触を図りたいですね。」

「彼女とは、東屋君の仰っていた?」

「はい。何かが大きく動く時、必ず彼女が現れます。」

 

「もしかしたら、また彼女が姿を見せるかもしれませんからね。」

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