メタリックガーディアン・プロミス 『桜の舞う島で』   作:戒炎

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相変わらず公式に無い単語が出てきます。
まぁ機甲暦は一つじゃないという事でそこはひとつ。


第7話「EROSION」その1

第1幕

 

side-コウジ-

 

「よっし。これで大体情報は揃ったね。。」

「そうだな。後はこれを煮詰めていくだけだ。。」

 今日も今日とて我が桜花島探検部の女子2人は絶好調。

 2学期が始まって早一月。

 制服も衣替えが始まり、厳しい残暑も過ぎた頃。

 既に木の葉も色が付き始めている。

 そんな中で相も変わらず咲き誇る桜、桜、桜。それだけは変化が無い。

 去年までは異常とは知りつつも当たり前の光景として見ていたが、あの遺跡を思い出すとその異常性が増す。

 結局、あの巨大なALTIMAとこの島の関係は謎のまま。知ってしまったが為に、余計なことを考えてしまう。

 あぁ桜よ。お前達はどこから来てどこへ行くのか。

「どうしたんですか、コウジさん。」

「俺は何でここにいるのかなって考えてた。」

「哲学かなにかですか?生憎私には専門外でして・・・。」

 変化と言えばこの娘。

 霧咲メイ。夏から俺達と共に戦い、先月桜花学園中等部に転校してきた同僚。

 夏の頃は抜き身の刃のようだった彼女も、今ではすっかり精神的にゆとりができ、丸くなった。

 少なくとも他人に対して壁を作らなくなった。

 まだ人と上手く会話は出来ないと言っているが、順調に友人も出来ているらしい。

 初対面の頃からは考えられない変化。それも良い意味での、だ。

 まぁ人付き合いで困ったことがあったら、我らがマコト先生に相談すれば良いだろう。

 問題が一つあるとすればだ。

「メイちゃんは、何か気になったことある?秋のスイーツ特集。」

「え、あの。私は、その。」

「遠慮しないでいいよ。どれが美味しかったなぁ、くらいで。」

「じゃあ、このお店のショートケーキが。その、ありきたりですけど、すごく甘くて、美味しかったです・・・。」

「~~~あぁもう、可愛いなこの娘は!」

 マコトがメイを抱きしめ、頬ずりしている。

 そう、問題とは、部長が新部員を猫可愛がりすることだ。

 今ではすっかり小動物のようになってしまったメイに、マコトは毎日のようにときめいちゃってる。

 以前とのギャップがあるのは分かるけど、やりすぎ。

 シャナもメイを見る眼が危ない。ついでに鼻息も荒い。

 いくら始めての後輩だからって、その対応はどうよ。見てる俺のほうが怖いわ。

 もしやお前らソッチの趣味が・・・。

 いや、うん。大丈夫だよ。そんなことで友達を見捨てたりはしないよ。俺は理解ある男だよ。

 ただ、互いの同意はちゃんと取ろうね?

「コウジ。何やら失礼なオーラが漂ってくるのだが?」

「木の精、いや気のせいだ。」

 最近シャナまで勘が鋭くなって来て困る。心を読む魔法なんて覚えてないよな?

「ていうかコウジ。ちゃんと参加してよ。さっきから心ここにあらずだよ。」

「お前なら知ってるだろ。俺甘いもの苦手なんだよ。辛党なんだよ。」

「ならせめて見た目でどれが可愛いとか考えられるだろ。」

 冗談。俺にそんなことが解るものですかい。

 住む世界が男と女では違うんですぅ。

 っていうか男みたいな見た目の奴がスイーツの話しなんざするメイカッ!?

「今何か考えたろ。」

「だから気のせいでございます。」

 前が見えねぇ。

 そうしてふざけていると教室のドアが開いた。

「アンタら。そろそろ基地に行くよ。下校の支度しな。」

 フミカ先生だった。既に帰り支度を整えている。

 今日も夕方から夜は基地でシュミレーション。

 学生にしてリンケージ。休む時間がほとんど無いな。

 これでフォーチュンから学校側に融通してもらえてなかったらマジやってらんねぇ。

「先生、なんだか早いですね。いつもはボク達の方が先に基地に着いてるのに。」

「今日は仕事が少なかったんだよ。残りは家でやれるしね。だからほらほら。40秒で支度しな!」

 随分無茶を言いなさる。

 

 高校生3人、中学生1人、教師1人の奇妙な構成で街を歩く。

 異様だなぁ。特に教師が混ざってるところなんか。

 目的地は同じだから仕方ないけど。

「ところでメイ。もう一月経つけど、学校には慣れたかい?」

「はい。皆さんには良くしていただいています。ですが、中々同世代の方達と打ち解ける方法が解らなくて。」

「そんなもん、気合入れてぶつかっていきゃ仲良くなれるわよ。友達なんてそんなもんなんだから。」

 酷い暴論である。

 ただ俺も異論を唱えることは出来ない。

 俺がメイに対して行ったのも体当たり式の会話だったから。

 しかし、多少は打ち解けたとはいえ、彼女が友達作りに難儀しているのは、俺達のせいでもあるだろう。

 転校初日に高等部の先輩で固められた小規模の部活に入らされ、放課後での会話はまず消えた。

 さらに所属している先輩。この場合マコトとシャナだというのが若干不味かったかもしれん。

 マコトは上にも下にも顔が利く、学園の有名人だ。

 特にその外見から、年下の女子からかなり人気がある。本人は複雑だそうだが。

 そんな憧れの先輩に可愛がられているというだけで、多少の嫉妬を受けているのではあるまいか。

 シャナもシャナで、転入から数ヶ月。既に振った男の数は三桁に達するのではないかと噂されている有名人。

 有名人二人に囲まれ、敬遠されてしまっているのではないか。

 そうだとしたら、俺に何が出来るだろう。

 う~~~~~ん・・・。

 何も思いつかん。こういうのはそれこそマコトの領分だ。

 とりあえず俺に出来ることは、こいつと友達で居ることかな。

 上辺だけではない、本音をぶつけ合った友達として。

「あ、霧咲さん。今帰り?」

 と、中等部の制服を着た3人の女の子がいた。

「いえ。今から基地で訓練です。」

「うわぁ。大変だぁ。宿題も出てたよね?」

「訓練後に終わらせますよ。大した量じゃありませんから。」

「ぐはぁ!?優等生は違う・・・。」

「まぁまぁ。じゃあ霧咲さん、頑張ってね。それじゃあ先輩方、失礼します。」

「明日宿題写させてね~。」

「自分でやれ!」

「あはは・・・。」

 騒ぐだけ騒いだら、女の子達は行ってしまった。

 でもまぁ、何だ。あんまり心配要らないのかな?

 友達、ちゃんといるみたいじゃん?

 

「それにしてもメイちゃん。ずっと気になってたんだけど、前髪、少し長いね。」

 いつの間にかガールズトーク空間に突入していたらしい。

 やっべ。また着いていけない。

「そろそろ切ろうかと思ってはいるんです。ですが、最近時間が無くて。何分自分で切っていますから。」

「自分で!?いやもったいないよ、そんな綺麗な髪してるのに!」

 確かに、メイの髪は肌理が細かいというのか、さらさらしている。

 髪の量と質では長いポニーにしているシャナには及ばないが、それでも癖の無い綺麗な髪だ。

 青みがかった黒髪はまるで濡れているよう。

 癖の多いマコトの髪とは大違いだ。

「ここに取り出したるはヘアピン。せめて前だけでも開けてみようよ。」

「いえ、私は大丈夫です。今日にでも切り落としますし、長いと戦闘の邪魔になるだけですから。」

 お洒落のつもりかマコトはヘアピンを取り出す。いつも持ち歩いてるのかこいつ。

 でもせっかくだしな。メイの違う一面が見られるのか。

「いいんじゃないか。切る前にいつもと違う自分ぐらい見てみても。」

「そうさね。アンタくらいの歳の娘はもっと自分を磨きな。時間は待ってくれないよ。」

 さすが年長者。言う事の重みが違う。

 なんて言ったらぶたれた。痛い。

「そ、それなら少しだけ・・・。」

 案外その気になったのか、メイはヘアピンを受け取る。

 だが、着けたことが無いのか手間取っている。

 見かねたマコトがメイの髪をいじる。

 そして、ちょっとしたビフォーアフターが行われたわけだが・・・。

「ど、どうですか・・・?」

 こ、これは、なんというか。

「可愛いじゃないか・・・。」

「ふえっ!?」

 思わず口に出る。冗談ではない。本当に可愛い。

 女の子のお洒落なんて適当に答えることしか出来ない俺だが、間違いなく良い。

「隠してるのがもったいないな。今度からそうしたほうがいいんじゃないか?自分で切るより美容室行くとか。」

「あうあうあうあう・・・。」

 何だか真っ赤になってるが、如何した?

 それにしても今までが本当にもったいない。前髪で顔が若干隠れてしまっていたので、周りに対し良くない印象を与えていたことだろう。

 それが顔を出すだけで、歳相応の、いや小動物的な可愛さが見て取れる。なによりもだ。

「なんだろうな。お淑やかっぽい感じがする。元が大人しいからかな。」

 なんとなくヘアピンを使う女の子ってのは活発なイメージがあったが、自分の見解の狭さを思い知らされた気分だ。

「そもそも俺の周りの女ってお淑やかとは縁遠い奴ばっかりだからな。新鮮でいいわ。」

 よし!足に力を込めろ。腕を振る用意をしろ。

 奴らは既に戦闘態勢だ。

 レディ・・・ゴー!!

 俺は全力で走り出した。

「「どういう意味だこらーーーーーーーーーーーーっ!!」」

 二人の悪魔が追いかけてくる。そういう所がお淑やかじゃないって言うんだよ!

 この時、俺は失念していた。目的地は、ゴールは、互いに同じであるという事を。

 

side-メイ-

 

 3人は風のように走っていってしまった。

 それにしても、可愛いって・・・。

 コウジさんが、可愛いって言ってくれた・・・。

 何だろう。顔が火照ってくる。

「いや、解り易すぎるよ。その反応。」

 近藤隊長、いや先生にも見透かされてる。うぅ・・・、穴があったら入りたい。

「それにしてもホント変わったよアンタ。始めはそんな顔を見れるなんて思ってもみなかったよ。」

「それはきっと、コウジさんの・・・、皆さんのお陰です。私に対して、諦めずにいてくれたから。」

 マコトさんが見ていてくれたから。コウジさんが踏み込んできてくれたから。

 全てを拒絶していた私に対して、全力でぶつかってきてくれたから。

 強さを見せ付けてくれた。笑顔を教えてくれた。弱さを包み込んでくれた。

 だから今、私は笑っていられる。もう過去の呪縛に苛まれることも無い。

 自分を縛り付けていた鎖はもう存在しない。私は自由になれた。

 あの人たちのお陰で。

「アタシ達大人は何もしてないよ。頑張ったのは子供達さね。恩に感じているなら、思いっきり笑ってやりな。それが最高の恩返しさ。」

 私が笑うことであの人たちが笑えるなら、いくらでも笑おう。

 でも、辛い時はちゃんと言おう。それが対等な関係の証になると思うから。

「しっかしコウジの奴はあれだね。言葉も語録も無いのによくもまぁ女を落としにかかるもんだ。馬鹿のくせに。」

「知りませんでした?コウジさんって、中等部では人気あるんですよ。頼りになりそうとかいって。」

「アイツがねぇ・・・。実際ただの馬鹿なんだけどね。身近の女に対しては疎いのにね。」

「それでも慕ってる娘は結構多いんです。・・・優しくて頼もしいお兄ちゃん見たいだって。」

「・・・そりゃ年上に夢見てるだけだよ。でも、アンタは・・・本気なんだろ?」

「・・・ハイッ!」

 

 

第2幕

 

side-ミウコ-

 

 最近皆さんの調子が良い。

 今日の訓練など、過去最高の成績を叩き出した。

 やっぱりメンバーの協調性が上がってきているからでしょう。

 メイさんのことも、雨降って地固まると言えばいいんでしょうか。それにしては誰かさんにご執心ですけどね。

「そこのところ如何思いますか、ユラード少佐。」

「えぇ、まぁ。良いことだと思いますよ。ただ、あいつの保護者としちゃねぇ・・・。」

「娘さんを取られたような気分ですか?」

 少佐は微妙な顔で口を噤む。

 これが父親というものですか。なるほど。

「あの坊主が悪い奴じゃない、どころか底抜けのお人好しなのは解っちゃいるんですがね。どうも負い目を感じちまうというかなんというか。」

 負い目、ですか。

 確かにメイさんの件はコウジさんに丸投げしてしまっていたようなものですからね。

「ですが、大人では解決できない問題もあります。今回がそうだったように。親は遠くから子のことを見ているだけでも、立派な役割ですよ。」

「それを司令に言われたら、俺はどうすればいいんですかい?それこそ親子の年齢差だ。」

 二人揃って笑い出す。

 こんな空気になれたのも、若いリンケージ達が頑張ってくれているから。場を盛り上げてくれているから。

 良い仲間を持った。私は心からそう思う。まぁ、私が最年少なんですけど。

 和やかなムードは大事にしたいが、ここからは真剣な話。

 私は表情を切り替える。

 空気を察してくれたのか、少佐も背筋を伸ばす。

「そろそろ本題に入りましょう。ここ最近、敵の数が爆発的に増えています。それも奈落獣が。」

「えぇ。俺達が来るまでは、そこまで大量の奈落獣が現れなかったんでしょう?」

 そう。これまで敵の構成はミーレスがほとんど。奈落獣が現れても、弱い個体が2,3体、強力なものでも1体。

 超奈落獣など影も形も無かった。

 それがここ最近、ギルガーンなどの超奈落獣に、新型の奈落獣《ドッペルゲンガー》。奈落獣の大群に敵の首魁まで現れている。

 いや。最近などと言う曖昧な表現は止めて、はっきりと言ってしまおう。

 変化が訪れたのは、ブレイガストやタリスマンが出現してから。

 コウジさんを中心にして、この島でのフォーチュンとディスティニーの動きは大きく変わった。

 これが意味するものは、一体何なのか。

 なぜコウジさんなのか。マコトさんなのか。二人がスターゲイザーだからか。

 それなら事態はもっと早くに動いていてもおかしくない。

 リンケージになったから?いや、それは結果論に過ぎない。

 待て。敵の動きを考えろ。

 奴らがこの島を狙いだして約2年。コウジさんたちが覚醒するまで、敵は大規模な攻撃を仕掛けてこなかった。

 それが彼らの覚醒と合わせるかのように動き出している。

 まさか、敵はブレイガストとタリスマンの出現を待っていた?

 いや、それは私の憶測に過ぎない。答えとしては早計だろう。

 そもそも情報が足りない。なぜ奴らは、酷い言い草だがこんな島一つにそこまで力を入れる。

 遺跡の情報を既に持っていた?ならそれこそもっと早く・・・。

 駄目だ。考えがまったく纏まらない。そこまで遠くないとは思うんだけど。

「ここはやはり情報が必要ですね。」

「情報?敵を鹵獲でもしますかい。」

「いえ。この際敵の情報は後回しにしましょう。今は味方の情報が欲しい。」

 そう。そもそもアレらについては未だに謎が多すぎる。

 ブレイガストとタリスマン。アレらは一体何処からやってきたのか。

 武装を後付け出来ても、詳しい構造は不明のまま。

 今更だが、全くの正体不明の存在を腹の中に抱えて戦ってきたという訳だ。ゾッとしないなぁ。

 でも、その謎を解明する手掛かりも存在する。

「彼女と接触を試みようと思います。」

「彼女っていうと、報告書にあった白い服の少女ですかい。」

「えぇ。」

「しかし俺にとっちゃ眉唾もんですよ。ガーディアンの声を聴けるリンケージがいるっていうのは聞いた事ありますが、ALTIMAそのものが意思を持って行動するなんて。」

 白い少女、私はアバターと呼んでいる、ALTIMAの意思とも言える存在。

 フォーチュンだけではなく、世界中で噂だけは流れているものの、その目撃例は皆無。

 そんな謎そのものが手掛かりとは、常識人が聞いたら腹を抱えて笑われそうだが、こちらには目撃どころか接触例すらある。

 それこそ件の二人なのだが。

「コウジさんとマコトさんに、彼女と接触してもらいます。もし会話が出来るなら、幾つかの謎を説明してくれるはず。」

「賭けに近いですよ。そのアバターが都合よくこっちの誘いに乗ってくれるかどうか。」

「賭けでもやってみる価値はあります。というより、現状そこまでしなければならないほど私達は追い込まれているんですよ。」

「・・・まぁ、そうですね。」

 世界中で動くディスティニー。いかにラーフ帝国の後ろ盾があろうとも、たかが島一つを攻略する一部隊が、弱い個体とはいえ既に100を超えるの奈落獣を繰り出してきている。

 それほどの戦力をどうやって補充しているのか。アビスゲートが開いた際の被害が観測されていない以上、それを知ることは出来ない。

 しかし、それは敵が本気になれば、桜花島など完全に奈落獣で埋め尽くされてしまうことだろう。

 理由は不明だが、奴らは手加減している。ならその間に、こちらも情報と、出来れば戦力を集めたい。

「他の皆さんはもう帰宅されたんでしたっけね。」

「メイと俺の小隊以外はもう帰っちまった。呼び戻すかい?」

「いえ。今日は疲れているでしょうから、明日にしましょう。」

 ディスティニーが動き出さないことを祈って、ね。

 

 

第3幕

 

side-ジョニー-

 

 ここ一月、中佐は何の動きも見せない。

 俺達にも出撃命令も出さず、桜花島を観察する毎日だ。

 夏にはこれでもかと奈落獣を差し向けたくせに。

 そもそも、俺は自分達の戦力を把握していない。

 まともに会話するのは俺の率いる小隊と姐さん、中佐くらいで、残りの人員は見たことも無い。

 整備員もただ淡々と仕事をこなすだけで、無駄口を一切叩かない。

 この前線基地には、まともな人間の気配がまるで無いと言えた。

 それでも今まで従ってきたのは、中佐の金払いが良いからだ。傭兵なんてそんなもんだ。

 だが最近、いや正確に言えばもっと前から思っていたことだが、中佐はどこからあの大量の奈落獣を集めてくるのだろうか。

 自然発生するようなポイントはこの近くには存在しない。奈落獣は謂わば自然災害のようなもの、必ずその痕跡は残る。それが、無い。

 ここは当初より大分きな臭くなってきやがった。

 そろそろ潮時かも知れん。契約破棄は今後の痛手になるが、命あっての商売だ。

 仲間達の生活も懸かってることだし、俺が決めなくちゃならねぇ。

 そう考えながらいつものスペースに辿りつく。

「あ、隊長。もうマスク被らなくていいんすか?」

「隊長の老け顔を晒して歩くことになりますよ。」

 やっぱり見捨ててやろうかこのファッキン野郎共。

 しかも俺が真剣に今後を考えてるってのにこいつらはまた遊んでやがる。

 ・・・まぁ、平時は遊び心を忘れるなって教えたのは俺なんだけどな。

「お前等、はぁ・・・。中佐に話がある。どこにいるか知らねぇか?」

「俺ならここにいるぜ。」

 中佐は別のドアに背を預けて立っている。妙にヘラヘラしたその顔は、最初は好ましかったが、最近は妙に腹立たしい。

「セリーナ・ハッダード。哨戒任務より只今戻りました。」

 姐さんも来たか。これで。

「これで役者は揃った。そう言いたげだなジョニー。」

 ・・・勘のよろしいことで結構。

 だがこの部隊の総括者と幹部が揃っているこの場面、確かに良い状況だ。

「いきなりだがグラフス中佐。俺達との契約を白紙に戻してもらいたい。」

 しばらくの静寂が流れる。

 先に口火を切ったのは俺の仲間達だった。

「ちょ、ちょっと待った!何言ってんすか隊長!?」

「せっかくの上客なんすよ!?ここで手を切るなんてありえないでしょう!」

 雇い主の前でギャーギャー騒ぐんじゃねぇよ。喧しい。

 普段の行動にも、口調にも文句は言わない。報酬も良い。戦場では撤退のタイミングをこっちで判断してもいい。

 俺だってホントはこんな良い待遇の客と離れるなんざ勿体無いと思う。

 でもな、嫌な感じがするんだよ。この男からはな。

 スターゲイザーなんてオカルトめいた物じゃない。戦場を渡り歩いた勘がそう告げている。

「待ってよジョニー!今更何を言うの!?私達の任務達成はもう目の前じゃない!最後まで、いえこれからも一緒に頑張って行きましょうよ!?」

 姐さんも、俺達を仲間扱いしてくれるのかい。こいつは嬉しい限りだ。

 だがね、その任務達成が見えてきたからこそ、俺はさっさとここから離れたいのさ。

 この男にとって、仕事の後には何を考えているのかがまるで読めない。

 俺はアンタほど中佐を信頼しているわけでもない。今にして思えば、信用もしていなかったのかもな。

「ジョニー・・・。」

 中佐が重苦しく口を開く。そして俺の方へと歩み寄る。

 部屋の空気まで重苦しい。まるで今から殴り合いでも始まるかのよう。

 いや違う。他の連中はそう思っているのかもしれないが、俺にはこの男と対等に戦えるビジョンが見えない。

 巨大なナニかに喰われそうな感覚。それも一方的に。

 普段はふざけながらの会話だったから判らなかった。コイツは普通じゃない。

 人の姿をした猛獣。そんな表現すら生温く感じる。

 知らず知らずのうちに、背中には冷たい汗が流れていた。

「後一つ。」

 中佐が何かを言って、俺は正気に戻る。

「契約破棄は構わねぇ。だがあと一つ、付きあわねぇか?その時、お前の知りたいことも分かるだろうぜ。」

 あと一つ。つまり出撃はあと一回ということか。

 何を考えているのかまるで判断つかないが、中佐本人がそう言うんだ。

「・・・了解。ならあと一回だ。それ以降は俺達は好きにさせてもらう。」

「おうよ。後は好きにしろ。生き残れたらな。」

 物騒なことを言って中佐は奥の部屋に行ってしまった。

 その途端、どっと何かが溢れ出して来る。

 恐怖か。疲労か。色々なもので体が押しつぶされそうだ。呼吸も上がっている。

 こんなことは初めてだ。やはり、あの男は危険だ。すぐにここを離れたほうが良い。

「ジョニー・・・。私、ずっと貴方達と戦えるものだとばかり・・・。」

 そんな顔しないでくれよ姐さん。

「俺達は所詮傭兵だ。一つのところにゃいつまでも居られない。今回が長すぎただけさ。」

 姐さんとも一緒に居られたしねぇと言うと、顔を赤くしてそっぽを向いちまう。初心だねぇ。

 なんだかんだで快適だったよ。人攫いなんて嫌な仕事もあったが、俺にとっては良い場所だった。

 未練が無いと言えば嘘になる。だがそれ以上に、中佐への疑心と恐怖が勝ってしまっているのだ。

 とりあえず、荷物でも纏めておこうか。私物はほとんど無いが。

 

 だが思う。やはり無理を言ってでも、今すぐにここから離れるべきだったんじゃないかと。

 

 

第4幕

 

side-マコト-

 

 ボク達は基地にやってくるなり、司令室に集められた。

 いつもなら着替えてそのまま訓練に移るんだけど、集合の理由も聞かされていない。

 もやもやするものはあるけれど襲撃の気配も無い。いたって平穏な日だけど、何が目的なのか。

「揃いましたか・・・。では今回の趣旨を説明します。」

 椅子から立ち上がり、ゆっくりと所属リンケージを、特にボクとコウジを見る。

 何かやったかな?そんな記憶も思い当たることも無いけど。

「話は簡単です。一連の戦い、その決着をつけるためのファクターを呼び出します。コウジさん、マコトさん。例の白い少女とコンタクトを取ってください。」

 はい?今なんて仰いましたか?

 白い少女って、ボクとコウジが何度か出逢ったワンピース姿の女の子、だよね。

 え?ボク達からコンタクトを取るの?

「オイオイ司令、無茶言うなよ!あいつはいつも勝手に出てきて言いたいことだけ言って、勝手に消えるんだぞ!」

 コウジの言うとおり、あの娘はボク達の意思で接触しているわけではない。

 何かに追い詰められた時、又は遺跡の最深部で現れただけで、ボク達の都合はまるで関係ない。

 そんな簡単に話が出来たら苦労しないよ!今でも聴きたいことは山ほどあるのに!

「随分急な話だね。何か確信でもあるのかい?」

「賭けに等しいほどですが、それでも可能性は有ります。それは・・・」

「コウジさんとマコトさん、しいてはブレイガストとタリスマンの覚醒、でしょうか?」

「・・・はい。それと最近の敵の動きを照らし合わせた結果です。」

 ちょっとみんな、当事者を置いてきぼりにしないでよ!?

 ボクとコウジっていうと、まさかスターゲイザー?

 でもそれは今更だし、力が強くなってるとも思えないよ。

「スターゲイザーとしてではなく、二人のリンケージとして、人間としての成長を言っているのだろう。私から見ても、二人のオーラは初対面より遥かに増している。」

 シャナがよく助け舟を出してくれているようだけど、よく解らない。

 なにせ本人にはオーラも魔法力も感じ取れないのだから。

「シャナさんの言うとおり、貴方達のリンケージとしての成長を考慮しました。以前の接触より、力を増している今なら、多少こちらからでも呼びかけることが出来るのではないかと。」

 やっぱり賭けの部分が大きいじゃないですかぁ。

 そもそもあの娘が何処の誰かも解らないのに。

「あの少女はこの島と、貴方達の危機に対し動く傾向があるようです。そして、これは私の推測なのですが、近々ディスティニーとの決戦も起こると思われます。それも最悪の形で。そんな危機的状況を、彼女が放っておくとは思えません。」

 決戦って・・・。たしかに最近嫌な気配を感じる時はある。

 誰かに観察されているような、肉食獣に狙われているような、嫌な感じが。

 ふとコウジと目が合う。コウジなら、ボクよりもはっきり何かを感じているかもしれない。

 ボクよりも長く戦いに身を置いていたから、少しは違うかも。

「正直敵の気配は感じてた。敵って言うよりグラフスの野郎だけどな。野郎敵意も隠さずずっとこっちを睨んでやがる。不気味でしかたねぇ。」

 コウジの顔が少し強張る。

 やっぱり、まだ引きずってる。グラフスのことになると、コウジは顔が恐くなる。

 でもそれはしょうがないよね。割り切れるはずが無い。

 マイケルの仇。ボクだって許せないでいるのに、親友で、それを目の前で奪われたコウジにとって、それは心の闇として残っている。

 本当に解放されるのは、決着の瞬間だけかもしれない。そこまで、憎しみは彼の奥深くに巣食ってしまっているんだ。

「だからこそ、今なら彼女と接触できるかもしれません。あちらからの言葉を待っている余裕は、正直ありません。無理にでも彼女の言葉を、知ってることを聞き出さなければなりません。あの2機のことだけではなく、グラフスのことも、彼女は知っているかもしれない。」

 ただの勘ですが、と司令は付け加える。

 それでも、伊達ミウコという少女の勘だ。彼女の経験や頭脳から出たものなら、信頼できる。

「・・・やってみようコウジ。駄目元だけど、無駄にはならない気がする。」

「お前それ矛盾しまくりだぞ。まぁ、損することはないから別に良いけどさ。」

 苦笑しながらコウジは頷く。

 こんな時になんだが、コウジはリンケージになってから何かが変わったと思う。

 馬鹿なのは変わらないけど、妙に落ち着いた。そんな気がする。

 前のこいつならこんな訳の解らないことに賛同するどころか、喚いて拒否していたんじゃないか。

 幼馴染が成長したのは嬉しい。でも、なんだか遠くに行ってしまったような気がして、少し寂しい。

 いつも、赤ん坊の頃からずっと一緒だったのに、少し差をつけられたようで・・・。

 いけないいけない!こんな時に何を考えているんだボクは!

「皆の言う神秘学なら私の専門だな。私はその少女を見たことが無いが二人とも、まず眼を閉じて、その娘の姿を頭に思い浮かべてくれ。」

 シャナの指示に従い、二人で目を閉じる。

 出来るだけ力を抜いて、頭の中を空にする。余計なことは考えない。

 あの娘の姿が浮かんできた。

「姿が見えてきたら、語りかけてくれ。口に出してもいいし、思うだけでもいい。とにかく話をしたいと念じるんだ。」

 おぼろげだった姿が形を成してきたら、言葉を思い浮かべる。

 とにかく、話がしたい。何か、言葉を聞かせて欲しい。ただひたすら思う。

「(場の魔法力が高まってきた?)続けて念じるんだ。それだけを強く思え。彼女は何かを伝えようとしていないか?」

 頭の中の少女は、確かに口を動かし、何かを喋っている。

 少しづつ、少しづつ何かが聞こえてきた。

(・・・。・・・・・・。・・・。)

(待って。もう少し、はっきりと教えて。)

 ボクは声を掛けつづける。

(今・・・・・・・。獣・・・・。迫って・・・・。)

(お願い。それを・・・。)

(それを全員の前で話せってんだ!)

 急にコウジの思念が割り込んできた。ていうかうるさいよ。

 前言撤回。コウジはやっぱりコウジのままだ。

(・・・わかりました。私の声を、皆に届けます。私の正体。守護神の正体。)

 その時、頭の中に光が満ちた。

「大丈夫かい?」

 気が付くと、ボクは先生に体を支えられていた。

 どうやらあの光に中てられ、少しふらついてしまったらしい。

 コウジは・・・踏ん張って耐えてる。意地っ張りだなぁ。

「それにしても驚いた・・・。本当にいたんだね。」

 先生の呟きに顔を上げると、そこには白いワンピースと白い帽子。

 ボク達を導いてきたあの少女が、淡く光を放ちながら立っていた。

 

「初めまして、というべきでしょうか。」

 少女が口を開く。いつものように澄んだ声。いつもと違うのは。

「・・・私達にも貴女の姿が見える。声が聞こえる。」

 司令の一言は、ボクにとっても衝撃的だった。

 だって今までは、その姿は、その声は、ボクとコウジにしか認識できていなかったから。

 ・・・本当に、成功した。賭けでしかないと思っていたことが。

「早速で申し訳ありませんが、確認を。・・・貴女はこの桜花島のALTIMAに宿る意思、アバターですか?」

「・・・はい。私はこの島に眠るALTIMAの意思。貴方方がアバターと呼ぶのなら、私も己をそう称しましょう。」

 司令の問いに、少女はあっさりと頷いた。

「マジかよ・・・。」

「・・・この目で見ても信じられません。」

「ありえるのか、こんなことが・・・。」

 みんながそれぞれの想いを口にする。

 後で聞いたことだけど、ALTIMAが人の姿を取るなど机上の空論だったらしい。

 以前からALTIMAには意思が宿っているのではないかという噂はあったようだが、だれもそれを立証できず、アバターの目撃例は皆無。

 所詮はただの噂だと誰もが思っていたらしい。

 それが、今目の前で確かに存在している。それは機甲暦史上初とも言えることのようだ。

「私を呼び出したという事は、ブレイガストとタリスマン、そしてこの島の事を聞くためですね。」

「・・・よくご存知で。」

「この島の桜は全てで一つのALTIMA。この島での事象は、私は全て観測しています。」

 誰もが息を呑む。

 この島に、いったいどれくらいの桜が咲いているのだろう。

 それが全て一つのALTIMA、つまりこの娘、アバターの体だとしたら。

 そこそこの大きさはあるものの、イズモに属するただの島。そう思っていた。

 早速一つの事実を突きつけられ、動揺が隠せない。

「思っていた以上のスケールですね。」

「事実を言ったまでです。豊富なALTIMAの産地であるイズモ。その中でも特に異質なのがこの島。ALTIMAそのもの、桜花島です。」

 異質。確かに異質。

 年中桜が咲いていることも、もしかして。

「ここのALTIMAが他のALTIMAとは異なる物。生物にまで影響を与える特殊な物という事です、神楽坂マコト。とはいっても、どう違うのかと問われても私には答えられません。他のALTIMAと比較が出来ませんから。比べようと考えたこともありません。ただそういうものであると、私は認識しています。」

 すらすらとアバターは語りだす。ていうか今ボクの考え読まれた?

「私と貴女は今強くリンクしています。その思考は全て感知することができます。」

 う!また!なんかやりにくいなぁ。

 無心でいよう。無心無心。何も考えない・・・いや、それじゃ今ここに居る意味が無いな。

「リンクしているというのは、どういうことですか?」

「言葉の通り。私と神楽坂マコト、そして東屋コウジはその精神が繋がった状態にあります。およそ7年程前より、微小ながらリンクは繋がっていました。それが強くなったのは、貴方方でいう5ヶ月前からです。」

 5ヶ月前、つまりコウジが初めてブレイガストに乗った時から。

 やっぱりそこからなんだ、色んなことの始まりは。

「7年前・・・、遺跡・・・、白いワンピース・・・。あっ!」

 コウジが突然声を上げる。

「そうだ思い出した!なんか引っ掛かってたんだよ!どこかで見たようなっていうか!」

 だからなんなのさ。急に叫んでもみんなビックリしてるだけだよ。

「マコトだよマコト!いや正確にはあの時のマコトっていうか。」

 ・・・何を言い出すんだろう。

 ショックなこと続きで頭が壊れたのだろうか。

「思い出せよ!7年前初めて遺跡の最深部に行った時!こいつの顔も服も、あの時のマコトそっくり、いやそのまんまなんだ!」

 は・・・。

「「「「「「はあぁぁぁぁーーーーーーー!?」」」」」」

 ど、どういうこと・・・て、あ。なんか思い出してきた。

 昔コウジと一緒に遺跡を探検して、最深部まで行って。

 その時のボクは髪が長くて、真っ白なワンピースを着ていて。

 ちょうどこの娘くらいに・・・。

 え?マジで?

「その通りです。神楽坂マコト、貴女はあの時巨大なALTIMA、私の心臓部で怪我をしましたね。」

「う、うん。動きにくい格好だったから、転んじゃって、軽く血も出て・・・。」

「その血がALTIMAに付着し、その生体情報から私が誕生しました。外部との情報伝達端末として。」

 嘘・・・。そんなことが。

「さらに言えばその時です。過去、誰も触れられなかった心臓部に触れた貴方達が、ブレイガストとタリスマンに選ばれたのは。スターゲイザーであったことと、強い精神力を宿していたため、王とその鎧、守護神に反応したのです。」

 ちょ、ちょちょちょちょちょっと待った!

 なんか色々聞き捨てなら無いことが出すぎてついていけないんだけど!

 つまりボク達は、あの時から戦うことが決まっていたっていうこと!?

「だれも触れなかった、という事は、有史以来、あの遺跡の最深部までたどり着いた者がいなかったということですか。」

「それもあります。あの場所は私達に認められるほどの精神力を有していなければ踏破できないよう結界を張っていました。それに、私達の敵が誕生したことも大きな原因になるでしょう。」

「敵、とは?」

「・・・すみません。詳しいことは私にも分からないんです。ですが強大な悪意が迫っていることを感知した桜花島は、そのカウンターとしてこの島の王、ブレイガストとその鎧タリスマンを創りあげました。悪意への対抗手段として、来るべきその時のため。」

 えっと、つまり。

「王や鎧、守護神と大仰に言いますが、要は敵性体への抗体がブレイガスト、ということですか。」

「貴方方に解り易く言えばそうです。ですが、ブレイガストはこの島中の力を集めて創造したモノ。よって私は王と呼称します。」

 ばい菌に対する免疫がブレイガストってことでいいのかな?

 そんな言い方すると安っぽくなりそうだけど、さっきの話と総合するとブレイガストは、つまりこの桜花島の化身のような存在ということになる。

 この島が全部ALTIMAだとすれば、その全てを結集させた機体なのだから、強いのは良く解る。

 タリスマンはそのブレイガストにとって強化ユニットってことか。

「私が誕生してから7年、正確には一年程前ですか。とうとう奴らが、獣がこの島に牙を剥きました。そして奴らが大きな動きを見せたあの日、私は王を覚醒させ、東屋コウジを導きました。それからは、貴方方のほうが詳しいかと。」

 一息で言い切るアバター。そこにはなんの感情も篭っていなかった。

「俺の、俺達の全てが、お前の掌の上だったってことか?」

 コウジは表面上静かに語りかける。

 でも内面は、穏やかじゃないはずだ。

 今までのこと。コウジが戦うこと。ボクが戦うこと。そして何より、マイケルの死。

 それが全て彼女の予定通りだとしたら、ボクにも許せない。

 たった一人。だけどその一人が、ボク達にとってかけがえの無い一人なのだから。

「・・・マイケル・ダートンの死は、私にとっても想定外でした。あの出来事が、貴方達の精神に暗い影を落としたことは・・・。」

「そういう意味じゃねぇ!!」

 コウジが声を荒げる。

「たしかにマイケルの事もそうだ!でも、俺だって必死だった!何度も恐いと思った!逃げたいとも思った!でも、力を手に入れてしまったから!背中に背負うものが出来ちまったから!俺が逃げればこの島が危ないと思ったから!護りたいと思ったから戦った!喪うモノもあって、約束ができて、ただ

必死で戦ってきた!それが全部、お前の思惑通りってことかよ!俺は、お前の操り人形じゃねぇんだ!」

 いつも前だけを見てきた、コウジの叫び。

 ボクやシャナ、メイちゃん。まだ幼いともいえるボク達の心の支えになってくれていたのは、なんでもない、何処にでもいる一人の少年だった。

 強い精神力とか、スターゲイザーとか関係ない。この春まで、戦いの外にいた。

 急に戦闘に巻き込まれて、それでも、弱音は吐いても後ろは決して見なかった。

 ボクが戦うことができたのは、コウジと一緒だったから。二人なら、何も恐くなかったから。

 シャナもメイちゃんも、コウジによって心が解き解された。みんなの中心にいた少年。

 それが、そのコウジが、心の柱が折れかかっている。

「コウジ・・・。」

 駄目だ。かける言葉が見つからない。

 だから、そっと寄り添う。その心が折れてしまわないように支える。今のボクには、これしかできない。

 添えた手を、ぎゅっと握り返される。手は汗ばみ、震えていた。

 大丈夫だと言う代わりに、手を握り返す。

「本当なら、王の目覚めなど無いほうが良かった。貴方方は日常を送り、そのまま過ごしていて欲しかった。あの獣さえ現れなければ。」

「獣、と言いますが、それは何者ですか?」

 司令が一人、毅然と対応してくれている。

 口を挟めないのならば、せめてしっかり話を聞こう。それしかできないのなら、それをしよう。

「先程も言いましたが、奴らが何者なのか、私には解りません。ですが、悪意ある獣が一匹、この島を狙っています。」

「それはディスティニーのことですか?」

「いえ、獣は個人。グラフス・エイベロンのみです。それ以外は、それこそ操り人形にすぎません。」

 ここでグラフスか・・・。

「先程の東屋コウジの言葉を借りるなら、全てを掌の上で動かしているのはグラフス・エイベロン。状況は、全て彼の思惑通りに動いています。恐らく

、私と貴方方の接触すら、彼の予定通りかもしれません。」

 その話が本当なら、全ての黒幕はグラフスという事になる。

 確かに思い返してみればそうかもしれない。

 アイツはまるでコウジやボク、ブレイガストとタリスマンが覚醒、進化するのを促すような行動を取ってきた。

 最初から奈落獣の群れを差し向ければ、以前の桜花島支部じゃ太刀打ち出来なかったはずなのに。

 ボク達が強くなるのを待つかのように、アイツは動いていた。

 でも、そこになんの意味がある?

「グラフス・・・。結局奴が問題かよ・・・。」

 コウジの呟きに、途轍もない怒りと憎悪を感じた。

 不味いかもしれない。

「司令、あの、少し休ませてもらってもいいですか?」

「・・・アバター。貴女が話せることは異常ですか?」

「最後に一つ。グラフス・エイベロンは近々、その本性を現すでしょう。」

「・・・そうですか。ご苦労様でした。非常に貴重な体験ができましたよ。」

「はい。・・・東屋コウジ、気を強く持ってください。かの者との決着は、貴方が重大なファクターとなります。」

 ファクター・・・。コウジが、ブレイガストが鍵を握っている。

 おそらく、ブレイガストの最大出力で向わなければ勝てない敵。

「私がここまで人の姿を取れること、人と同じように話せることは、貴方の心が清く正しいものであるから。それを忘れないで。」

 纏っていた光が強くなり、一瞬輝いたと思ったら、アバターの姿は無かった。

 ボク達にはほとんど理解できない話だったけど、司令や大人組は収穫のあったような顔をしている。

 そんなことより今は。

「すいません。話が終わったなら少し休みます。失礼します。」

 今はコウジを休ませて上げたい。

 ・・・弱いなぁボクは。

 こんな時、傍にいてやることしか出来ないなんて。

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