メタリックガーディアン・プロミス 『桜の舞う島で』 作:戒炎
やりすぎたかなぁ・・・。
第5幕
side-シャナ-
全ての話が終わり、コウジ達が部屋を出た後、私は二人の姿を探していた。
全てが誰かの掌の上での出来事。そう語られたコウジの表情は、怒りと悲しみに満ちていた。そしてその精神、オーラも、歪み荒みかけていた。
コウジは強い。常に前を向き、決して後ろを振り向かない。いや、振り向いたとしても、笑顔で前を向きなおせる強さがある。
何事にも真っ直ぐだ。多少強情で、頑固な所もあるが、定めた目標に対し真摯に打ち込める。
誰かを護りたいと、心から思える男だ。何が起ころうと、何が襲い掛かろうと一歩も退かないその背中は、他者に勇気と希望を与える。
子供のように無茶をする。初めは癇癪を起こした時もあったが、今では大分落ち着いた。その無茶も、誰かの為のモノである。本人は自分のやりたい
ようにやっているだけだと言うかも知れないが。
意外と寛容だ。騒がしい周りの人間に対し怒りもするが、基本人間を拒絶しない。私達桜花島探検部の活動にも、渋々言いながら付き合ってくれる。
彼が憎悪を露にするのはグラフスぐらいだろう。
人と絆を結ぶのが上手い。私やメイ、嘗てはダートンもそうだったであろう、他者を拒絶する人間に対し、真っ向からぶつかってくる。裏表の無い彼
の人柄に触れると、自然とこちらも感情を隠せなくなる。
私は、そんな様々な強さを持った東屋コウジという男に惹かれている。いや、恋をしている。
きっかけはそれこそ、あの何事にも諦めない勇気。希望を振りまく勇者の如き姿だった。
それから彼と顔を合わせるたびに心臓の鼓動が速くなり、その一挙一動に目を奪われ、その言葉に安心感を覚えた。
子供の頃に憧れた、物語の騎士の姿を重ねて。
一緒に居たかった。暖かさを、幸福感を与えてくれる彼の傍に居たかった。
将来夫婦として家名を守っていくなら、彼がいいとさえ思っていた。
そう思う自分に驚愕し、その姿を想像すると顔が熱くなり、自然と笑みがこぼれた。それほどまでに、コウジに恋をしていた。
だが今、彼の心の叫びを、芯の折れかけている姿を見た。
当然だ。コウジだって人間だ。彼の心には、正義の味方になるという柱が立っている。
正義の味方とは誰かにならせて貰うものでもなく、自分から名乗るものでもない。正義の味方を目指し、模索し、それでも着実に近づいていたはず。
それが、この島に勝手に選ばれ、グラフス・エイベロンという他人に道を操作されていたとなればどうか。
自分で歩んでいたと思っていた道は、誰かに用意されていた。自分の与り知らぬ所で。
一族から期待され、騎士となることが当然と考えていた私には、それがどれだけの痛手かは解らない。
解らないけれど、今は彼の姿を見たかった。
幻滅はしていない。むしろ私が支えてあげたい。そんな人間が必要だと思ったから。
それが私なら、どれだけ嬉しいことか。
(いた!あ・・・。)
トレーニングルームで、コウジの姿を見つけた。
その隣には、既にマコトが居た。
当然だ。彼は彼女が連れて行ったのだから、同じ場所に居るのは当たり前だ。
いまだ項垂れるコウジに、マコトが寄り添っている。だが先程と違うのは、コウジの顔が幾分か安らいでいるように見えた。
僅かに笑みも浮かべている。強がりではない、心から、精一杯の笑顔を見せているのだ。
他の誰でもない、マコト相手に。
良い事じゃないか、コウジに力が戻ってきている。
良い事じゃないか、二人の絆が深い証拠だ。
ならなぜ、私は今動揺している。
何故あの時コウジに声をかけなかった。
何故あの時コウジを支えられなかった。
何故今、彼の隣に自分がいない。
・・・何を考えている。二人の過ごした時間を考えれば、あれほどの絆を育んでいたのは当然だ。
私は、少し出遅れているだけだ。
だから、私の心よ。あの姿を見て荒まないでくれ。あの二人を見て、魔法力を暴走させたくない。
でも、何故私はあそこにいない。いつもなら簡単に話しかけられるはずだ。
だが出来ない。二人の姿が、まるで番の鳥のように見えてしまって。
互いが互いを支え合い、大空を飛んでいるように見えてしまって。
嫉妬なら何度もした。でも、マコト相手に嫉妬したことは無かった。
なら今私の心に渦巻いているものは何だ。この黒い感情は。
嫌だ。彼女だけには、この感情をぶつけたくない。
彼女は、私がイズモに来て初めて出来た友人。私は彼女を、親友だと思っている。
でも、コウジが私よりマコトを選んだら?
あぁ、私はなんて情けないのだろう。
今はその姿から目を背けることしか出来ないのだから。
第6幕
side-フミカ-
「しっかしとんでもないモン見ちまったねぇ。」
あの後、アタシと少佐、メイはシュミレーションルームに向っていた。今出来ることは、精々訓練ぐらいなモノだから。
ALTIMAに宿る意思、アバター。学者達の単なる妄想、夢物語かと思っていたけれど、目の前で起こったことは否定できない。
遺跡の最深部でコウジ達が何もない場所に向って話していた時は頭がイカれたかと思ったけど、あの時も彼女の声を聴いていたのか。
「だがアバターに対し、俺達の情報は結局少ないままだ。聴けたのはブレイガストとタリスマンの正体ぐらいで、後は謎のままだからなぁ。」
少佐の言うとおり、なぜ桜花島のALTIMAが特別なのか。なぜアバターが顕現できるのかは分からない。
コウジ達が選ばれたのも、単なる偶然に過ぎないのだろう。
敵がこの島を執拗に狙うのも不明。
対話に成功しても、これじゃあ謎が増えただけだよ。
「それでも、私達は戦わなければなりません。力なき人たちの為に。」
「お。気合い入ってるなメイ。お前のことだからもっとグダグダ悩むと思ったんだがね。」
「少佐、その茶化し方はどうかと思うよ。」
アタシに突っ込まれるようじゃ終わりだよ、アンタ。
それにしても、言われてみれば確かに。メイの顔には迷いも何も無い。ただ真っ直ぐ前を見つめている。
まるで誰かさんみたいに。・・・ははぁ。
「影響されたか。」
「ちょっ!?近藤先生!?」
良いことじゃないの。以前の尖がってた頃に比べればずっと良い。
ぶれない心。良い意味でそれを理解したのは、最高の成長と言えるだろう。
「見つかったのかい?アンタの戦う意味。」
かつてアイツに薄っぺらとまで言われていた、霧咲メイの戦う理由。
ただ漠然とした、世界の為に戦うという言葉。
「見つけた、とまでは言いません。ただ、この島を護りたいと思い戦う人、そんな人の力になりたい。今はそれだけです。」
若干顔を赤らめながら言う言葉には、確かな想いが込められていた。
心からの言葉。重厚な想い。それは強靭な自分を創りあげる。
なぜ戦うのか。またそう聞かれたら、この娘は今の理由を挙げるだろう。
小さい。けれど輝きを放つ誓い。誰かに与えられたモノじゃない、自分だけの誓い。
ホント、僅か2ヶ月ちょっとで人は変わるね。いや、これが若さか。
「・・・メイが成長したのは良い。だが何だか聞き捨てなら無いことが耳に入ってきてるんだが?」
おお。少佐がものすごい複雑な顔をしている。
「そりゃ少佐。女が劇的に変わると言えば・・・、恋でしょ。」
「なぁぁにぃぃぃぃ!?」
「わー!?わー!?わー!?」
二人とも顔が真っ赤だよ。理由はまるで違うだろうけど。
つか少佐、今まで気付かなかったんかい。これだから男ってやつは。
「メ、メメメ、メイ!?そういうのはちょっと早いんじゃないかとお父さん思うぞ!?」
「いやあの、ですからね!?落ち着いてください少佐!」
「あれ?本気なんだろ?」
「先生も黙っててください!」
はは、ホント。この面子でこんな話が出来るとは思ってなかったよ。
少佐には正直苦手意識もあったけど、この姿を見たら可笑しくてしかたない。
自分達が前線で戦う兵士だという事を、ほんの一時でも忘れられる。
あの子とはまた違う、暖かい時間だよ。
「あのガキャ・・・。そこまでしろとは言ってねぇぞ・・・。」
「娘の恋路を邪魔する親は嫌われるよ。」
特に父親はね。
「・・・それにしてもコウジさん、大丈夫でしょうか。」
赤くなっていた顔が一転曇る。
まぁあの姿を見たら心配にもなるわね。
だってそっくりだったもの。アイツに痛い所を突かれて喚くメイの姿に。
「心配だったら、アンタもシャナと一緒に探しに行けばよかったじゃないか。」
「ですが、マコトさんも付いていましたから・・・。」
安心って顔じゃないね。
出来れば自分が傍に居たかったって顔だ。同じ女には隠せない感情だよ。
もう一歩踏み出してみれば違うんだろうけど、まだその勇気が無いと見た。
ここで茶化すのはアウトだね。
「男の隣ってのは、結局は奪い合いだよ。それが荒れるか、平和的に片付くかの違いさ。アンタらは、出来れば平和的に解決して欲しいよ。」
教え子の刃傷沙汰なんて聞きたくも無い。
「マコトさんはずっと彼の近くにいました。私の入る隙間なんて、あるんでしょうか・・・。」
「そこで暗くなってちゃいつまで経っても辿り着けないよ。時間は関係ない。とにかく相手を振り向かせた奴の勝ちなのさ。」
なんでアタシは恋愛相談なんてやってるんだろうね。自分が碌に恋したことも無いくせに。
遅い初恋が実ったら、すぐにお別れだったもんね・・・。
この娘たちには、あんな思いはして欲しくない。きちんと相手の気持ちにも、自分の気持ちにも決着を着けて、笑って過ごしてほしい。
大人になった時、あの時あんなことがあったと、笑いながら話せる、そんな仲であり続けてほしい。
アタシには、もうそんな相手がいないから。
ま、この娘たちが仲間に入れてくれれば儲けもんか。アイツにはまったく興味ないけど。
新しい恋をするなら、やっぱり年上が良いね。いくら酒飲んでも怒らない男。むしろ一緒に飲めるようなのが良い。
「ふぬぉぉぉぉ!俺は一体どうしたらぁぁぁ。」
いまだに頭抱えてるこの人は論外だよ。そんな目で見れないし、年上って所しか当てはまらない。
もうすぐ30の大台。もう一花咲かせるか、独身を貫くか。それが問題だ。
・・・あの子はどう思うかね。
考えながら歩いていると、角で誰かとぶつかる。
「おっと、悪いね。・・・どうしたのさシャナ。」
いつもの凛々しさも、たまに見せる腑抜けた面も無い、今にも消えてしまいそうなシャナがそこにいた。
「あ・・・。近藤。メイ。それに、テスタメント少佐か・・・。」
声に力が無い。季節外れの蚊が鳴いているのかと思った。
確かコイツはコウジ達を追いかけていて・・・。
この様子だと多分見つけたんだろうけど、まるで覇気が無い。
「何があったのさ・・・。」
「・・・。」
「無駄な隠し事は無しだよ。」
「・・・実は。」
詳しく話を聞いて、こいつもか!と思う。
むしろシャナのほうが重症か。目の前で仲良しこよしの現場を見たんならね。
黒い感情。嫉妬。まぁ人間なら確実に抱くだろう感情だが、シャナの場合そういうものを抱え込むことが無かったんだろう。
でもまだ大丈夫。これくらいなら、時間も掛からず元気を取り戻すだろう。
嫉妬は続くかも知れないが、コイツらならはっきりと答えを出し、決着に至るだろう。
コウジもマコトもシャナも強い子達だ。傍で見てきたんだから、良く分かる。
ただ一言言わせてほしい。お前等青春してんなぁ、おい!
はぁ。また教師として、大人として恋愛相談でもしてやるとするか。
その時、基地内に敵襲警報が鳴り響いた。
まったく!実は見られてるんじゃないかい!?このタイミング!
「おいフミカ!俺達は先に行く。お前はその嬢ちゃん連れてこい!」
「お先に失礼します!」
二人はすでに戦闘態勢だ。スイッチの切り替えが速くて羨ましいよ。
「行けるかい?無理なら大人しくしてな。邪魔なだけだ。」
厳しいようだが事実だ。心の乱れている状態で戦っても碌なことにならない。
そういったことを、アタシらは何度か経験済みだから。
「・・・大丈夫。私も騎士だ。果たすべきことは果たす。」
目と声に力は戻ってる。顔にも良い具合の緊張感が浮かんでいる。
このあたりがレムリアの騎士様と元一般人の違いか。鍛錬と積み上げてきた覚悟が違う。
「最近はアンタに命を預けっぱなしなんだ。頼むよ。」
「任せろ。」
短く頷く。
頼りになる相棒で助かったよ。
アタシらは少佐達の後を追い、ドックに急いだ。
第7幕
side-コウジ-
アバターとの接触直後の襲撃。あの野郎俺達の動きを見透かしてるのか?
だがまぁ、いつまでもしょぼくれてられねぇ。敵はすぐそこまで来てるんだ。
できれば海上施設上で迎え撃ちたいが・・・。
『皆さん。先程南東と北東の海上施設が破壊されました。敵はこれまで以上の速度で桜花島に迫っています。遺憾ですが、島内で迎撃してください。』
ナンテコッタイ・・・。奴ら今回は本気で島を潰す気か?
なおさら後に退けなくなったな。まぁ、逃げ出す気はさらさら無いからいつも通りか。
「コウジ、もう大丈夫?」
通信ウインドウにマコトの顔が映し出される。まったく。お前が暗い顔してどうするよ。
「俺だって頭の切り替えが出来る様になったんだ。まったく心配いらねぇよ。」
「良かった。いつまでもウジウジ考えてるかと思ったけど、コウジって馬鹿だからね。」
「うるせぇよ。」
実際さっきまではかなり精神的に参ってた。
でもマコトが声を掛けてくれていたから、傍に居てくれたから。俺はこうしていられる。
いつもの馬鹿な東屋コウジでいられる。
なんて言うか、こいつが俺にとって掛け替えの無い存在だと認識させられたようだ。
「ありがとな・・・。」
「え?何か言った?」
聞こえてないならそれでいいよ。
「出撃したら即合体だ!雑魚を薙ぎ払うぞ!」
「了解!いつも通りに!」
頼んだぜ相棒!
お、次は俺の出撃の番か。
「ブレイガスト!東屋コウジ!往くぜ!」
落ち込んだ分、暴れさせてもらうぜ!
「妙だな・・・。敵の反応が少ない。いつもの大所帯じゃねぇな。」
ユラードさんの言葉に、全員が自分の機体のレーダーを見つめる。
敵はもう島に近づいているはずなのに、目視できない。
さらに最近の奴さんにしては数が少ない。10程しか確認できない。
さすがに品切れか、それとも少数精鋭か。前者はありえないな。
それにさっきから嫌なプレッシャーを感じる。俺がこいつを間違えるはずが無い。
「マコト、メイ。感じるか?」
「うん・・・。すごく嫌な感じがする。」
「気を抜くと飲み込まれそうな、暗い感覚です。」
奴が来ている。すぐそこまで。
それだけで手が震える。怒りに身を任せたくなる。
すぐにでも殴りに行きたくなるのを我慢するのに必死だ。
「コウジ。大丈夫。ボクが傍に居るから。」
前座席から、マコトの声が聞こえる。温かくて、心に染み渡る声。
血気に逸る自分を諌めてくれる。今はそれがありがたい。
「・・・・・・。」
「ん?どうした、シャナ?」
「なんでもない・・・。」
いつものシャナらしくないな・・・。
俺が言えた義理じゃないけど、大丈夫か?
正直、あのグリム・リーパーに肉薄できるのはヴァルサーガだけだ。
あいつとの戦いの要になってるシャナが調子が悪いと、俺達の戦い方も大きく左右される。
何かに悩んでいるようだけど・・・。俺の杞憂ならいいが。
「スコープに敵影確認!アイツら、ガーディアンだけの編成だ!ヴィクラマも強化型のを使ってる!」
先生のアクセルギアでようやく捉える。俺達の態勢が整うのを待ってたってのか。
くそったれ!余裕のつもりか!?
「マコト!エネルギーは充填済みだ!挨拶代わりにぶちかませ!」
「おうさ!ブロッサムブラスター、マキシマムシュート!!」
悪いが防衛線で出し惜しみはしてられねぇんだ。
開幕ブッパでも文句は言うなよ!
桜色のエネルギーの奔流が奴らに向う。
だが、それも見透かされていたのか、全ての機体がブロッサムブラスターを回避した。
やっぱり少数精鋭か。腕の良い奴らを集めて来ましたってか!
回避行動を合図に、奴らがこちらに急速で接近してくる。
グリム・リーパーは先生へ。Jのマークの部隊はテスタメント小隊へ。ラグシオンは、俺へ。
それぞれが獲物を定めたように突撃してくる。
「私は残りのミーレスに当たります。援護はその後!」
「ああ、頼んだぜ!」
「各機散開!島への被害を最小限にすることを考えな!」
その言葉で各々自分の敵へと向う。
なんだかこの動きもアイツの考え通りかと思うと頭に来るが、今は撃退することだけを考えよう。
『よう、久しぶりだな。逢いたかったぜ坊主に嬢ちゃん。』
「出来れば二度と逢いたくなかったけどね。」
「今日で最後にしてやるさ。往くぜ!」
ブレイガスト・ノヴァが拳を。ラグシオンは大剣を。
大きく振りかぶり、両者の得物がぶつかり合った。
side-シャナ-
『貴女ともいい加減長い付き合いになったわね。そろそろ片を付けましょうか。』
死神が鎌を向けながら言葉を発する。
よくよく考えれば、こいつは死神のくせに喋りすぎだ。まぁ、死神はただの通称なのだが。
奴が得物を構える。ここからは一瞬の勝負。気を抜いたほうが一気に持っていかれる。
なのに・・・。頭の中に先程の光景がチラつく。
落ち込むコウジ。慰めるマコト。それを見ていることしか出来ない私・・・。
「シャナ!来るよ!」
「!?」
しまった!?戦闘中に余計なことを!?
すでに奴は鎌を振るっている。それに遅れるのに1秒程。
戦いではその1秒が命運を分ける。死合いなら猶のこと。
ヴァルサーガが剣を振る。相打つ両者の得物。
しかし、弾かれたのは私の剣の方だった。
すかさず迫り来る二撃目。それに合わせるよう、先程より強く、速く剣を振る。
それでもまた弾かれる。何故!?今までの戦いから、私と死神の力量は互角!機体の出力においてはヴァルサーガの方が上のはず!?
『どうしたの?いつもより剣先が鈍いわよ?まるで迷いでもあるみたい。」
くっ!こいつ!
まだか!?まだ私は戸惑っているのか!?あの時のことに!?
自分が隣に居れなかった、ただそれだけじゃないか!?狼狽えるな未熟者!
「シャナ!右!」
右?そうか!
聞こえてきた声に合わせ、右に跳ぶ。
その瞬間、小型ミサイルの雨がグリム・リーパーに降り注ぐ。
そう、今私は独りで戦っているわけではない。戦友がいる。
私の迷いが、私以外をも巻き込んでしまう。それだけは避けなければならない。
他者を自らの負い目に巻き込むことは、私の騎士道に反する!
今は敵を退けること、いや、倒すことに集中しろ。
『近藤フミカ。やはり貴女は斬らなくてはならない・・・。』
爆風が収まる。グリム・リーパーは鎌を回転させ、全てのミサイルを迎撃していた。
クラッシャー級のリンケージとはここまで出来るのか!?いや、奴が腕が立つということか。
『仲間達の無念、怨念。その全てをもって、貴様を殺す!』
「だから!身に覚えが無いって言ってるだろうが!」
ミサイルを切り裂きながら突撃するグリム・リーパー。
遂にはアクセルギアまで辿り着く。
『死ねぇっ!』
「甘いっ!」
それに割り込み、剣とオーラによる障壁で鎌を受け止める。
これが私の役目。私が攻撃を引き受け、近藤が遠距離から撃つ。
今はその役目に徹しよう。悩むのは、戦いの後だ。
「そんな一撃では、私の魔法壁を切り裂くことはできない。」
『このっ!邪魔をするなぁーー!』
怨念と殺意だけで戦う死神。貴様の荒んだ魂では、私を、私達を斬ることは出来ない。
そんなモノに縋って得る力など、何の力にもなりはしないのだから。
「さぁ、続けようか死神。私達の魂、そう簡単に刈り取れると思うな。」
side-ユラード-
やつら、ジョニー以外はヴァライフを捨てて、いきなり地上戦に出やがった。
空中戦のほうが島に被害が出にくくていいんだが、飛べない俺達にとっては好都合だ。
各機敵味方入り乱れての銃撃戦を展開する。
前後左右、あらゆる動きで敵を翻弄しながらも、フォーメーションだけは崩さない。
いつも思ってたが、教導隊出身の俺が鍛えた部隊と同等に戦えるコイツらは尋常じゃない。
中には若いのもいるだろうに、相当の錬度だ。敵ながら感心するよ。
でもなぁ、お前さんたちが強化型に乗ってきたように、ウチの連中の機体もファルコンカスタムにチューンアップしてあるのさ。
だからなぁ!
「機体差より腕の差で決まる!陣取り合戦で負けてんじゃねぇぞ!」
「「「「了解!」」」」
『潜ってきた修羅場に差はねぇ!肝っ玉の勝負だ!』
『『『『応!』』』』
全く同時に部下に指示を飛ばす。
さて、俺達もうかうかしてられんねぇ。そろそろおっ始めようかい。
あちらさんも同じようで、互いに向かい合う。いいね。10以上も年下の人間と意見が合うと。自分も若返った気がする。
まぁ、年季の入った戦いってやつをみせようじゃないの。
こちとらミーレス黎明期から乗ってるんだ。
そんじょそこらの若いリンケージよりガーディアンを知り尽くしてるのさ。
『いっちょ派手にやるかい古狸!』
トワイライトがビームライフルを構える。
それよりも速く、俺のアハゲリスがガトリングで土煙を上げる。
それによって両者の視界は完全に遮断された。
『ワンパターンの目くらましなんざなぁ!』
トワイライトが飛行、横にずれ、射線を通そうとする。
それを追って、俺は土煙の中から奴に飛び掛った。
『それも狙い通りだぜ!』
ビームサーベルを抜き放ち、俺に斬りかかる。
いつもと似たような戦法だ。そりゃ対策もされるかね。
ならこいつはどうだい?
俺は握っていた土をトワイライトのメインカメラに投げつける。
『ぬお!?野郎、ガーディアン戦でこんな原始的な目潰しを!?』
「ガーディアンを知り尽くしてる。それが古い人間の強みさ。」
ヒートソードでコックピットを狙う。悪いが戦争なんだ、化けて出てくるなよ。
止めと思ったその一撃を、何と寸でのところで止められる。
ビームサーベルで止められた。ホント良い勘してるじゃないの。羨ましいよ。
切れないなら蹴り落とすまで。空中は得意じゃないんでね。
ヒートソードを抜き取り、地上に叩きつけようとしたところで、脚を掴まれる。
そのまま乱暴に地上に向って放り投げられる。以前と逆のパターンだ。
「うおっと!?」
激突寸前でバーニアを吹かし、何とか事無きを得る。てかよくもまあミーレスの出力でやるよ。どっちが無茶苦茶だか。
だがゆっくりしている場合じゃない。
野郎、見えないからって適当にライフルを乱射してきやがる。煩いったらありゃしない。
対抗してガトリングを撃つ。僅かに当たるが、装甲をへこませる程度。装備に差が出ちまってるね。
MLビームキャノンを構えるが、それより先にトワイライトがメインカメラを洗浄し終えた。
いいなぁあの機能。多分後付けだ。あんなの企画書に無かった。
『ファック!この狸親父!味な真似を!』
「こんな戦い方もあるんだ。勉強になっただろ?」
『俺に教導してるつもりかよ!』
わざわざ降りてきてくれるジョニー。
「おやおやどうしたい?空はそっちのが有利だろうが。」
『アンタ相手じゃ意味無さそうなんでな。それに俺も本業は地上戦だ。』
睨みあう両機。構えるのはそれぞれの剣。
響き渡るのは各陣営が打ち鳴らす剣戟音や銃撃音。
お互い解ってるんだねぇ。
一番やばいのは隊長が相手するってことを。
「やれやれ。お前さんの相手は面倒なんだがな。」
『俺も同じだよファッキン親父。だがまぁ、これが最後の仕事だ。踏ん張らないとな。』
最後?気になるな。
まさか本当に今回でこの島を落とすつもりか?
ならなぜこんな少数で?それともこれが現在の最大戦力か?
だったら今までの異常な数の奈落獣は一体どこから・・・。
とっとぉ、今はそんなこと考えてる場合じゃないか。
やることは一つ。コイツラを殲滅することだ。
OK覚悟完了。ま、覚悟はいつもできてるけど。
互いに得物を振りかざし、突撃する。
決着を、付けようじゃないの。
side-メイ-
「やっと、一機・・・。」
このヴィクラマ達、動きが素早い。いや違う。尋常じゃない。
ラピス・ラズリのイグニスに包囲されていながら、一斉にそこから離脱された。
その時の速度、角度共に、中の人間が耐えられるGを超えている。
普通ならその動きだけで気絶してもおかしくないのに。
生き物の気配がするので、AIの類ではないと断定できる。
そう、気配がするのは、生き物。人間の気配じゃない。
不気味なのはそこだ。
私も人工的といえどスターゲイザーだ。気配を察知する能力には長けているつもりだ。相手の感情を察することにも。
でも解らない。相手が怒っているのか。戸惑っているのか。何も感じない。
訓練や人格を崩壊させたりして感情を消しているのなら、逆にそうと分かる。以前の私のように。
でもこの敵は、生きているのにまるで感情を感じない。まるで虚無。
この感覚は、人間よりも奈落獣に近い。
でも、あれはワイトミーレスじゃない。ミーレスに奈落獣が寄生しているあれとは根本的に違う。
正直、恐い。まるで正体の分からない敵が、こんなに恐いものだったなんて。
でも負けられない。負けることは許されない。
誓ったから。この島を護りたいという想い、それを守りたいと。
今は、あの人と同じ物を護ると。
誰かに聞かれたら、依存と侮蔑されるだろうか。
だからどうした。それが今の私の理由だ。もっとはっきりとした理由は、後ででも考えよう。
あの人と同じ場所で戦う。それは私に勇気をくれる。
それに、こんな私にだって、友達が出来た。
片手で数えられるくらいだけど、大事な友達なんだ。
あの子達は、今頃もっと恐い思いをしてるのかもしれない。だから!
「お前達みたいな恐いのは、来るな!」
護ってみせる!絶対に!
ほらまた1機!残りは2機!全部叩き落してやる!
side-コウジ-
『ハッハハハハハハ!楽しいなぁ、小僧共!』
ラグシオンの攻撃は絶え間なく続く。
俺達は奴の剣の腹を殴り、剣筋を逸らすのが精一杯。完全に防戦一方だった。
こいつ、今まで手加減でもしてやがったのか!?一撃一撃が重い。そして速い。
なんとか着いていけてるが、このままじゃ。
「コウジ!ブレイガストの駆動系がレッドゾーン!これ以上の速さには追いつけないよ!」
いきなり大ピンチかよ、くそったれ!
危険だが、やってみるか。
「ブロッサムブラスターにエネルギーを回す。チャージ後即発射だ!」
「この距離で!?無茶だよ!」
「ドッペルゲンガーの時も似たようなことしただろ!今回は相手がちょいと手強いってだけだ!」
無茶無理無謀は承知の上だ。
でもそれぐらいしないとこいつに勝つどころか、傷一つ与えられない。
本気のラグシオン、グラフス・エイベロンは、俺達が想像してた以上の強敵なんだよ。
大剣が振るわれる。その腹を狙い、殴り飛ばす。
こちらが反撃に移ろうとしても、敵の返す刀のほうが速い。
ブレイガストが全力で殴り飛ばしているのに戻りが速いということは、奴のパワーがブレイガスト以上ということだ。
信じたくないが、これが俺と奴の差か。
「今までそそくさ逃げてたのは三味線弾いてたってことかよ!」
『あ~?遊びに本気を出す大人はいねぇだろうが。だが安心しな。今回は叩き潰してやるよ。全力でな!』
さらにスピードが上がる!これ以上は本気で危険だ!
エネルギーは・・・80%!これで十分だ!
「マコト!全開とまではいかないが撃てる!」
「距離を取る!ブロッサムブラスター、シュート!」
両肩の砲台から桜色のビームが発射される。
フルパワーとまではいかないものの、そのエネルギーは凄まじい。
零距離にいたラグシオンを飲み込み、数百メートルは押し戻した。
あとはどれだけのダメージを与えることができたか・・・。
ラグシオンの各部が爆発し、黒煙を上げる。
これは、どうだ!?
『あの距離からの砲撃・・・。随分無茶してくれたもんだなぁ。』
爆煙が徐々に晴れていく。
そこには肩や膝のパーツがボロボロと崩れ落ちたラグシオンの姿があった。
「やった!」
「・・・いや、駄目だ!」
あれはダメージじゃない!
『まさかこいつの拘束具を外すことになるとはな。褒めてやるよ。』
拘束具!?今まであれだけのスピードが出ていたのにか!?
ということは、まだ速さが増すのかよ。
だが拘束具が外れたというには、その姿は異様だ。
肩と膝のパーツは、今まで四角い形をしていた。それが外れ、今では鋭角の突起が見えている。
悪趣味な姿だったラグシオンが、さらに悪魔めいた姿に変貌している。
髑髏みたいな胴体が、まるで嗤っているようだ。。
『装甲が削られたんじゃ、万が一拳を食らうと堪らないな。こいつで行くか。』
奈落粒子砲か!野郎距離を取って撃ち落とす作戦か!?
だが奴は逆に距離を詰め、数十メートルの間合いまでやってくる。
砲塔を構える。撃ち出されたのは重い一発ではなく、速射砲だった。
「うおっ!?それ連射も出来るのかよ!」
俺は思わず大きな動きでそれを避けようとする。
肩や脇腹、脚に掠めていく。
「マコト!ダメージは!?」
「損傷軽微!戦闘に支障なし!急所は外れてるよ!」
野郎!いつでも当てられますってか!?ゲームでもしてるつもりかよ!
『ほぅらほら!踊れ踊れ!』
ムカつく野郎だ!
だが、連射速度は速くても、その分威力は低いと見た
急所に当たらなければどうとでもなる。ここは反撃だ。
逃げてばっかりってのは、どうしても性に合わないんだよ!
「行け!ジェットナックル!」
機体を反転させ、その勢いで右拳を打ち出す。
『おっと!そんなんじゃ今のラグシオンには掠りもしないぜ。』
簡単に避けられる。そしてさらに襲い来る速射砲。
一発のダメージは浅くても、こう何度も撃たれたら不味い。
もう一発、避ける暇も与えない一撃。やっぱりあれをもう一度撃つ!
ブロッサムブラスター、チャージ開始。
「エネルギーが溜まったら合図する。そしたら迷わず撃て!」
「それまで機体が保てばね!」
今はまた逃げる作業に逆戻りか。だけど今はそれしかない。
こんなに悔しいのは・・・やっぱりこいつにいたぶられた時以来か。
また腹が立ってきたが、ここは我慢だ。だからまだ頑張ってくれよ、ブレイガスト。
しかし、俺は何でこいつをここまで信じられる?
いつだかメイに言ったじゃないか。兵器は涙を流さない。
こいつも涙を流さない。兵器の一つじゃないか。
でも、こいつをとにかく信じている俺がいる。こいつは何なんだ?
ただの兵器とは思えない。まるでもう一人の自分のようだ。
リンケージって言うのは、みんなそう感じるものなのか?
衝撃が襲う。当てられたんだ。
余計なことを考えるな!今は目の前の敵のことだけを考えろ!
エネルギーは?よし!MAXだ!
俺は動きを止め、照準を合わせる。
「今だ!」
「ブロッサムブラスター!マキシマムシュート!!」
先程より一回り太いエネルギーの奔流が直進する。
『そんなんじゃ蝿も落とせやしないよっと。』
軽々と避けられる。
ブンブン虫みたいに飛び回ってくれるがなぁ、その動きも、もう見えてるんだよ!
機体を無理にでも動かし、ラグシオンを追う。
『な!?照射中に向きを変えただと!?』
フルパワーでの照射でそんなことをするとは思っていなかったのだろう。
一瞬奴の動きが止まった。その瞬間が勝負!
「おおおおおおおおおおおおおっ!」
『しまっ!?ぐおぉぉぉぉっ!』
二度目のブロッサムブラスターがラグシオンを襲う。
今度は最大威力の直撃だ!さすがに効いただろう!
だがな。その程度じゃ終わらねぇんだよ!
『ちっ。俺もまだまだだな。あの程度で心乱されるとは。』
ご自慢の大剣を盾にし、急所への直撃を避けていた。
だが機体のあちこちがボロボロになり、剣も砕けて使い物にならない。
それで防ぎきったつもりかよ?甘いな!
「バインドストーム!」
『何っ!?』
ブレイガストの胸から磁力場を発生させる。
自分のダメージに気を取られていたグラフスには、こいつは避けられないだろうが!
動きの止まったラグシオンの眼に映るのは、拳を振り上げたブレイガスト・ノヴァの姿。
「ファイナル、トール、クラッシャーーーーーー!!」
無防備な奴の胴体目掛け、フルスロットルで突撃する。
ブレイガスト自体が、巨大な拳となる。
そして、その拳は、確実に奴を捉えた。
「「行けえええぇぇぇぇぇぇぇ!!」」
『ぐ、ぬああぁぁぁぁあああぁあぁぁあぁっ!!』
さすがの粘りだよ、グラフス。だがこれで、全て終わりだ!
「ぶち抜けええええええええええ!!」
数秒の拮抗の後、俺達の拳は、ラグシオンを殴りぬけた。
奴の後ろまで通り抜け、動きを止める両者。
その直後、ブレイガストの後方で大爆発が起きる。
あれほど騒いでいた奴の断末魔は、聞こえなかった。
あっさりと。今までの戦いがまるで何も無かったかのようにあっさりと。
決着がついた。
「終わった、のかな?」
「あぁ。これで・・・!?」
何故だ!?あの爆発だ!無事なはずが無い!
なのに。何で奴の嫌な気配が消えない。
それどころか、そのプレッシャーは増している!それも格段に邪悪に!
『肉が・・・血が・・・ALTIMAが足りねぇ・・・。』
そこにいたのは、確かにラグシオンだった。だが、その姿は異形そのものだった。
機械と肉が融合したような姿。それはまるで、超奈落獣のようで。
それでも、グラフスの気配は感じ取れた。
だが、先程までより強い気配。食欲と、憎悪に塗れたおぞましきプレッシャー。
胴体の髑髏が口を開ける。その動きすら生物的だった。
だがそれどころじゃない。そこからグラフスの姿が見えた。
その身体は半分が肉と機械半々になった機体と融合している。
さらにその身体中、顔中に目がキロっと開き、異形の器官が生えている。
この気配は、まさか!?
「あいつ、マジかよ・・・。こんなことが・・・。」
「あの人・・・、奈落獣・・・?」
世界に対し、人間に対し、冒涜的な姿。溢れ出す瘴気。
あれはもう、人間じゃない。奈落獣と一体化している!?
グラフスはそのまま、ユラードさん達が戦闘を行っている場所へと飛び出した。
あれは駄目だ!この世に残しておいちゃ駄目だ。本能が叫ぶ。
俺達も後を追った。
ユラードさんとジョニーという敵のエースの戦闘は、突如現れた乱入者によって中断していた。
各々がその姿に戦慄し、動きを止めている。
『ち、中佐・・・。なんの冗談だよ、その格好?』
中身が見えたのだろう。ジョニーが問う。
『説明は後だ・・・。今は、お前等を喰わせろ!』
そう言い、近くにいたヴィクラマに飛びつく。その瞬間・・・。
『う、うわ・・・。うわあああぁあぁぁぁぁ!!』
ラグシオンはそのヴィクラマを、胴体の口からバリバリと捕食し始めた。ちょうどコックピットを最初に喰らうように。
断末魔も消え、後には頭部や手足の末端しか残らなくなると、奴は次の獲物に喰らいついた。
『く、来るな!来るなぁぁぁぁぁ!』
『隊長!助けて隊長、ぎゃあぁあぁぁぁ!』
『は、ははは。何の冗談だよこれぇぇぇぇぇ!』
瞬く間にヴィクラマの部隊は文字通り奴の腹の中に収まってしまった。中の人間ごと。
『まだ足りねぇ。紛い物じゃ満たされねぇ・・・。』
そこに、メイが戦っていたはずのヴィクラマが2機現れた。
だがそのヴィクラマも普通ではない。
機体の半分が生体と化しており、機械というより化け物、奈落獣に近かった。
奴らは、まるで主に頭を垂れるように傅く。自らの肉体を捧げるように。
ラグシオンはそれに対して何の躊躇も無く齧り付いた。
機械と肉を粗食する音が辺りに響く。その音に、若干の吐き気を催す。
その邪悪で醜悪な姿、プレッシャー。何もかもが異様で、異常で、異形。
「コウジさん!少佐!無事ですか!」
ラピス・ラズリがこの場に駆けつける。正直、こんな場面は見せたくなかったな。
「あの2機が突然豹変し、こちらに向って行ったので追いかけてきましたが、これは・・・。」
「悪い・・・。おじさんみたいな古い人間には、今の状況に追いつけない。」
「だれも追いつけてねぇよ。こんな姿。」
誰に憚ることなく食事を続ける、ラグシオンだった化け物。
一段落したのか、食い散らかしをそのままに、俺達に振り向く。
『ふぅ・・・。まぁこれぐらいで良いだろう。』
食事を終えると、ファイナルトールクラッシャーで傷ついた部分が多少ながら再生していた。
今もなお再生は止まらない。それは機械的な修理ではなく、生物の治癒に見えた。
『中佐・・・。二つ聞きたい。俺の仲間はどうした?それにその姿は?』
ジョニーが平静を保ちながら問いかける。
だがその内心は、グラフスに対する恐怖心と、怒りに染まっているのが解った。
『まぁそう慌てるなよ。この姿のことは役者が揃ってからだ。まぁお前の仲間なら・・・。』
無駄に時間を溜め、眼を閉じる。
そして凄絶な笑みを浮かべつつ、何の悪びれも、躊躇も無しに言い放った。
『喰った♪』
喰ったって・・・、人間を喰ったってのかよ・・・。
そんなことがあるのか?同じ人間を喰うなんて。
いや、奴はもうどう見ても人間じゃない。完全に化け物だ。
化け物になったのか、そもそもあれが本当の姿で、今まで人間の皮を被っていたのか。
その瞬間、ビームライフルの発射音が鳴り響く。
撃ったのはトワイライト。標的はラグシオン。
『おいおい、いきなり撃つのは非道いだろう?これでも俺は雇い主様だぜ?』
『こんな雇い主なんざ御免被るね。それに、仲間の仇も討たないとなぁ!』
ライフルをサーベルに持ち替え、吶喊しようとするトワイライトを、ユラードさんのアハゲリスが止める。
『離しやがれ!』
「落ち着け!どう考えてもお前一人で何とかできる相手か!?」
『だが!こいつは、俺の目の前で仲間を!赦しちゃおけねぇ!』
敵が味方に攻撃しようとし、それを敵に止められる。
異常な事態が起こる中、さらに接近する反応3つ。
これは、ヴァルサーガとアクセルギア、それにグリム・リーパーか!
「おいおいおいおい!何なんだよこいつは!?何が起こってる!?」
「この荒みきったオーラ・・・。これは、オーク?いや奴らとも違う。」
二人とも何が起きているのか解らないようだ。
それはそうだ。一部始終を見ていた俺達ですら解らない。
シャナは何かを感じ取ったのか、思案気味だ。
戦場でそんなことをしていたら的にされるだけだが、今はグラフスは何もしてこない。
『ちゅ、中佐・・・。その、姿は・・・?』
グリム・リーパーがかろうじて口を開く。だがその言葉も、この場の異常な雰囲気に震えている。恐怖も混じっているようだ。
『役者も揃ったな。じゃあそろそろ始めるか。』
ラグシオンは仰々しく礼を取り、気障ったらしく語り始める。
『俺の名はグラフス・エイベロン。奈落組織《イロウション》の戦闘員だ。』
奈落、組織?そんなもの、司令の講義には一度も出てこなかった。
大体の組織と国家、その協力と敵対関係まで全て教わったが、イロウションなんて組織は聞いたことも無い。
『俺達は今まで隠れて活動していたからな。その存在を知っている奴はまずいない。結成は機甲暦の黎明期、およそ60年前になる。』
「随分古い組織のようだが、その成り立ちは教えてくれるのか。」
『まぁ慌てるな。俺も結成時は産まれちゃいない。だが理念は知っている。』
グラフスは一度溜め、俺達全員を見渡しながら続けた。
『イロウションの目的は己の肉体にアビスエネルギーを移植する。そして半奈落獣と化すことだ。今の俺のようにな。』
奈落獣になるだって!?正気の沙汰じゃ無い!
あれがどれほど危険な連中か、使ってるお前の方が解ってるだろうに!
いや。良く考えれば、自分も半分奈落獣だから他の奈落獣を従わせることが出来ていたのか。
「だが、アビスエネルギーを発生させるにはアビスゲートを開く必要がある!その被害もお構いなしだというのか!」
シャナの言うとおり、ゲートを開けば相応の被害が出る。
街一つどころか、小国一つを消し飛ばし、奈落汚染地域にしてしまった例もある。
『おいおい。今までの話で、俺達がそんな人道的な組織だと思ってるのか?被害なんざ関係無いのさ。奴等はただ、奈落獣化して、自分達を高次元的な存在に押し上げたいだけなのさ。その過程に何が起ころうと関係ないんだよ。』
高次元的存在?奈落獣がか?あんな、世界を侵す怪物になることが、更なる進化だとでも言うのかよ!
『イロウションの歴史は長い。その分、根は至る所に張り巡らされている。地球連邦、フォーチュン、ラーフ帝国。あらゆる国、機関の高官に紛れているのさ。しぶとく、強かに、狡猾にな。』
「フォーチュンにも、だって・・・!?」
もう絶句するしかない。俺達、いや全ての組織の動きが、イロウションとやらに筒抜けということだ。
今までこちらの動きを掴んでいるかのような行動も、どこからか情報が漏れ出した可能性がある。
そうなると、敵は何処まで巨大なのかすら判らない。もしかしたら、すでに地球圏を飲み込んでいるのかもしれない。
いや、まだだ。いくらなんでも、組織や国を勝手に動かせるほどにはなっていない。
連中は、別にこの星の支配者ってわけでもない。ただのサイコで電波な集団だ。
「イロウションとかいうのは、まぁ曖昧だけど理解したよ。」
『その程度でいいぜ。俺も全てを知っている訳じゃないんでな。謂わば戦闘隊長が俺の立場だ。』
「解らないのはお前の思惑だ。奈落獣になることなら、既に達成しているんだろう。なら何故この島を、俺達を執拗に狙う。」
奴の行動は一々解り難く、回りくどい。俺達の成長を促しているかと思えば、最近は数で桜花島を落としにきている。
一体何がしたいんだ。
『・・・腹がな、減るんだよ。』
は?
『この身体になってから、腹が減ってしょうがない。アビスエネルギーだけじゃ物足りない。ALTIMAのエネルギー!それも純度の高い物が良い!俺は唯《食欲》という本能に従って動いてるだけなんだよ!!』
食欲って・・・。それだけかよ!?
今までの回りくどい動きは、全部腹を満たすためのものだってのか!?
『美味いものを探しながら、俺はこの島のことを知った。俺の本能が、ALTIMAを探し当てた。遺跡にも入ったよ。遺跡に拒絶されながらも、俺はなんとか最深部にまで辿り着いた。だが最後の最後で、核に触れることが出来なかった。』
核って、あのでかいALTIMAのことか。
『最高のご馳走、アバターまで宿したALTIMAを目の前にして、歯痒かったぜ。だがそんな時、核と同じ波動を感じる人間を見つけた。』
核と同じ・・・?まさかそれが。
「俺とマコト、なのか?」
アバターに選ばれたことが、原因なのか?
『俺は待つことにしたよ。コイツラが覚醒し、核とリンクしていつかガーディアンを産み出すことを。選ばれた人間を親とし、核から産まれたソイツラを喰えば、腹も満たされる。核そのものにも近づける。』
「ちょ、ちょっと待てよ!俺達が親ってどういうことだ!?」
『だがさすがに俺一人じゃ骨が折れる。そこで手足となる駒を集めることにした。』
駄目だ!この野郎自分の世界に入ってて聞いちゃいない!
『簡単だったぜ。これでもディスティニーじゃ中佐の地位にあった。人員は本国から送られてくる。そいつらにも奈落を寄生させ操り人形にする。それでも足りないのは戦闘員だったが、そこは傭兵がいたし、憐れにも独りになった可哀相な女がいたからな。』
『整備員達が不気味だったのは、奈落獣に取り込まれていたからかよ。』
『中佐・・・。』
これまで沈黙を保っていたグラム・リーパーが呟く。
まるで、今から口にすることを否定してほしいかのように。
『私も、駒ですか?いえ、それはいいんです。貴方は私に教えてくれた。仲間の仇の存在を。そこに、嘘はない、ですよね?』
縋るような声。自分の生きる理由を問うかのような声。
だがそれを、グラフスは一蹴する。
『あぁあれな。・・・お前、本当に信じてたのか?』
『ッ!?』
『動きの鈍い旧式のディザスター級1機で、手前の仲間を全滅させられるほど近藤フミカが強いと思ったか?あの場所に、ミサイルやレールガンの弾痕みたいなディザスター特有の戦闘痕があったか?あれはな・・・俺の食事後、食い残しだよ。』
こいつ、なんの悪びれもなく当然のように言い放ちやがった!
グリム・リーパーは仲間じゃないのかよ!いや、こいつに仲間なんていない。唯の手駒なんだ。
『それじゃあ、私を拾ってくれたのも。道を示してくれたのも。全部、嘘・・・?』
『部隊を失くした新兵が、そう都合よく新しい上官に拾われるなんてあるわけねぇだろ。楽しかったぜ!お前との部隊ゴッコ!犬みたいに後ろにひっついて、俺が言う事何でも鵜呑みにしてよ!こんなに扱いが楽な駒はいなかった!奈落獣を寄生させる手間も省けた!』
『手前!よくも姐さんを!』
『問題はお前だったよジョニー。お前の仲間はギャラさえ渡せば良かったが、お前は常に俺を警戒していた。それこそ寄生させる隙も無いほどにな。だから結局、こうしていざと言う時の非常食と考えてたんだが、今も俺の姿を見て恐怖しながらも構えていた。さすがと褒めておいてやるぜ。』
こいつは!どこまでも人を馬鹿にしやがって!
「手前!もう人間の心は残ってないのかよ!」
『そんなもんとっくの昔に捨てちまったよ。今の俺は欲望に忠実な化け物さ!お前がスターゲイザーで良かった。味が格段に上がる!』
話にならねぇ。
嫌なプレッシャーを放つ奴だと思っていたが、ここまでの化け物だったとは。
『中佐、いつからですか・・・?いつからそんなことに。』
『鈍いな小娘!5年前、あの若い帝国が興るより前から、俺はイロウションだったよ。』
その言葉を聞いた刹那、グリム・リーパーが鎌を振るい突撃しようとする。目の前の、真の仇目掛けて。
だがそれを、トワイライトが後ろから羽交い絞めで止める。
『離してジョニー!あいつが!あの男が全部!』
『分かってる!だが無茶だぜ姐さん!アンタ一人で勝てる相手に思えねぇ!』
「一人どころじゃないよ。今のアタシら全員でも危うい・・・。」
先生の言うとおり、俺達は全員機体に傷を持ち、リンケージも疲弊している。
それにラグシオンの傷は回復し、さっきまでより邪悪な何かを放っている。
俺としては今すぐぶん殴ってやりたいところだが、理性がそれを拒否している。
正直に言おう。俺は今、恐いと思っている。
『フン。安心しろ。お前等雑魚は眼中に無い。あるのは、ブレイガスト・ノヴァだけだ。』
見据えられ、身体中が麻痺したような感覚に襲われる。
こいつの正体が判った今、今まで以上の不気味さを感じる。
『だが俺のラグシオンもまだ完全に回復していない。お前らは全員でも危ういと言うが、俺もお前達全員を相手取るのは危険だ。よって、1日待つ。その間俺を迎撃する準備を整えるのも良し。尻尾巻いて逃げ出すのも良しだ。だがブレイガスト。手前は逃げるなよ。俺の獲物だ。』
そう言って後ろを向けるラグシオン。
隙だらけなのに、手が出せない。俺は、そこまで怯えているのか?
いや、そんなはずは無い!
『明日の同じ時刻。桜花島に総攻撃を仕掛ける。じゃあ、またな。』
ブースターを噴かせ、あっという間に姿を消した。
沈黙が場を支配する。
この場は助かったのか・・・。ッ!俺はなんて事を考えてやがる!
明日が最終決戦。勝たなくちゃ、俺達の命だけじゃない。
奴の話が本当なら、桜花島全体が奴に喰われちまう。
そんなこと、させてたまるかよ!
「みんな・・・、明日の戦い、逃げてもいいんだぜ。奴の狙いは・・・。」
「今更何を言っている?ここで退くなど、私の騎士道に反する。それに、お前と共に戦いたい。それは私の心からの願いだ。」
シャナ・・・。異国での出来事だ。放っておいてもよさそうなのに・・・。
「アタシはアンタより長くこの島で戦ってるんだ。今更逃げる選択肢なんて無いよ。ここの空気、アタシは好きだからね。」
フミカ先生・・・。あんたもこの島の生まれじゃないのに、そこまで言ってくれるのか。
「私の戦う意味、戦う理由、せっかく見つけたんです。私にも護らせてください。」
「若いのが頑張るんじゃ仕方ない。おじさんも、出来る限りのことはするさ。」
メイ、お前の護りたいモノが、ここにあるのか。
ユラードさん。本当なら、二人ともこの島と関わりが薄いのに。
まったく・・・。みんな馬鹿だよ。馬鹿で、すごく頼もしい。
「コウジ。」
「なんだよ、マコト。」
「ボクも、最後まで戦うよ。もちろん戦うからには勝つ。あんな奴に、桜花島を、ボク達の故郷を好きにさせない。」
「分かってる。どの道奴の標的は俺達だ。嫌でも付いて来て貰うぜ。」
「うん。コウジはボクがいないとダメだからね。」
ぬかせよ。
後は・・・。
『私は・・・中佐が・・・仇が・・・。』
今は力なく項垂れているグリム・リーパーを見る。
まるでこの世の全てから見放されたような、見るに耐えない姿だが、悪いがそこに鞭打つぜ。
「何をしてるんだよ、あんた。」
『え?』
両腕を掴み、無理にでも立たせる。その両目に、俺の姿を映させる。
「本当の敵が!仇が分かったんだろ!倒すべき相手が分かっただろ!今は呆然としてる場合じゃない!」
立ち上がった死神の肩を掴む。壊れないよう、しかし力強く。
「俺達に、協力してくれ。今は一人でも仲間が必要なんだ。」
静かに、それでいてしっかりと聞こえるように言う。
『わた、しに・・・?』
「アンタのことは調べさせてもらったよ。セリーナ・ハッダード。アンタほどの腕なら即戦力になる。」
先生、あんた今まで命狙われてたのに。
「過去のことなんざ水に流すよ。アタシも復讐に囚われてた時もあったからね。だから」
『ふざけないで!!』
死神、セリーナは吼える。
俺達の声を、手を振り払うように。
『仲間が必要?水に流す?そんな単純なことじゃない!私は!貴方達の敵なのよ!?それを簡単に受け入れるの!?私には出来ない!あの男の手足となって戦った記憶が!あの男への本能的恐怖がこびり付いてる!なにより、あの男の部下として、犬みたいに生きていた自分が赦せない!』
癇癪を起こした子供みたいに手を振り回す。
分かるよ、その気持ち。俺もさっきそんな気分だった。
自分で選んだはずの道が、誰かの都合のいいように動かされていた時の気持ち。この人の場合、自ら道を委ねた分、ショックが大きいんだろう。
『私は!私は!!』
そのまま何処かへ飛び去ってしまう。クラッシャー級だけあって、動きが速い。
「おい、待ちなって!」
『放っておいてやってくれるかい。多分島から出ることは無いはずだ。』
ジョニーが言う。確かに、脆そうで、それでも芯の通っていそうな人だ。
出来ることなら、自分から過去の因縁に決着を付けてほしい。
「お前さんはどうするんだ、ジョニー・ハゼクラ。」
『あんたらに従うよ。煮るなり焼くなり、鉄砲玉に使うなり好きにしてくれ。』
「随分殊勝な判断だな。どういう風の吹き回しだ?」
『簡単さ。アイツは俺の仲間の仇だ。裏切りには報復を。傭兵にとっちゃ当たり前のことだ。腹に据えかねてるんだよ。』
ジョニー・・・。こいつはマコトやマイケルのことで色々考えることはあるけど。
嘘を言っているとは思えない。本当に仲間の仇を取ることだけを考えてる。
「マコト、いいのか?」
「あの時の事?もう気にしてないよ。それに、悪い人じゃないっていうのは感じるから。」
『・・・すまないな、嬢ちゃん。』
マコトがそう言うなら、俺から言う事は何も無い。
まだ分からないことはある。あの野郎が言っていたことは何だ。
俺、いや、俺とマコトが、ブレイガストやタリスマンの親?
だがそんなこと気にしちゃいられない。決戦まであと1日しかない。
それに、伝えるべきことがあるなら、あのアバターが出てくるだろう。
『各機へ通達。トワイライトも含め、全機帰投してください。損傷の厳しい機体から修理します。』
待っててやるよグラフス。
次にお前を見るのは、お前の最期の時だ!