メタリックガーディアン・プロミス 『桜の舞う島で』   作:戒炎

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いきなりの連続投稿。
無謀にも程がある。
ミドル戦闘からクライマックス直前といったところでしょうか。


「WAKE」その2

第6幕

 

side-マイケル-

 

 ディスティニーのガーディアンが島に迫っている。

 その報を受け、僕と近藤先生はすぐに出撃した。

 島民の避難誘導はフォーチュンの非戦闘員が取り掛かってくれている。彼らは優秀なスタッフだ。後顧の憂いは無いと言えよう。

 海岸に向かう途中、見知らぬ機体を発見した。

 アレは・・・レムリアのファンタズム級か?

「止まれ!氏名と所属を明らかに!さもなければ撃つ!」

 僕はルミエールの銃口をそのファンタズム級に向けた。

 それにたじろぐことなく、ファンタズム級は僕達の前で動きを止める。

 敵意は・・・感じない。武器も構えていない。

 それでいて、まったく隙が無い。

「私はシャナ・アティアイナ。本日よりそちらで厄介になる。と先日伝えていたはずだが、これが貴方達の歓迎の作法か?」

 リンケージは女性、声からして僕とそう変わらない年齢だろう。

 凛とした声には静かながら迫力があり、敵対行動を取ろうものならすぐさま応戦する気配だ。

 彼女は味方だ。まずは銃口を下ろし、非礼を侘びよう。

「すまない。現在スクランブル中の為気が立っていた。無礼を許して欲しい。」

「構わない。こちらも通信を怠った。君の判断は正しい。」

 どうやら気を悪くはしていないようだ。

「ほらお若いの。くっちゃべってないで、すぐに向かうよ!そちらの騎士様も手伝ってくれるんだろうね?」

 僕らのやり取りに焦れたように、近藤先生が声を荒げる。

 そうだ。急がなければ、市街地に入られてしまう。

 出来うる限り被害を食い止めるのも仕事だ。

「承知した。それと、一々様は要らない。私のことはシャナでいい。」

 生真面目にそう答える彼女、いやシャナは、ガーディアンの腰に帯びていた剣を抜く。

 三人共に戦闘準備は完了。僕達は海岸へと向かった。

 

side-コウジ-

 

 

 鳴り響くサイレン。ディスティニーのガーディアンが攻めてきたんだ!

 この島の人たちは未だ戦闘に慣れていない。避難シェルターへ移動するのも一苦労だ。

 かく言う俺たち学生も、校外に作られている避難所へ向かって走っていた。

 

 まだ回数が少ないが、それでも歯痒かった。

 ヒーローを、正義の味方を目指していたのに、何か起これば無残に逃げ出す。

 俺が何の力も無い、ただの一般人だということを、嫌でも思い出させる。

 俺に力が有れば・・・、あいつらと戦える力が有れば・・・。

 

「力を、求めますか?」

 

 ふと、か細いほどの声が聞こえた。

 どこかで、確かにどこかで聞いた声だった。

 俺は足を止め、周囲を見渡す。

 周りは避難所へと急ぐ人々ばかり。そんな中、一人の女の子が路地裏に立っていた。

 必死な形相の人々の合間に、彼女の透明なほど白い肌が良く目立つ。

 あれは、たしか、夢で・・・

 

「力を、求めますか?」

 

「求めるのならば、此方へ。」

 

 彼女は路地裏の奥へと消えてしまった。

 俺はふらふらと、まるで導かれるように後を追う。

 

 しばらく歩くと、いつの間にか丘桜の下まで来ていた。

 この光景、丘桜と、白い少女。確かに夢で見た光景だ。

 唯一つ、足りないものは・・・。

 

「力を、求めますか?」

 三度、彼女は問いかける。

「俺は・・・。」

 風が、俺たちを包み込む。

「俺は力が欲しい。何かを護れる力が!敵を打ち倒す力が!」

 正義の味方になりたい!

 俺の長年の、馬鹿げていると言われても目指し続けた正義の味方に!

 ふと彼女が指を天に向ける。

 優しげだった風は強さを増し、周囲に桜の花を舞い散らせる。

 まだまだ強さを増す風に、俺は思わず目を覆った。

 

 しばらくして、風が止む。

 俺はゆっくりと目を開ける。それと同時に、眼が飛び出るほど驚いた。

 そこには、跪く、紅い巨体。夢で見た、スーパーロボット。

「彼の名はブレイガスト。この島の守護神。」

 少女がガーディアンの名前を告げる。だが、聞こえたのはそこまで。

 俺の心は嘗て無いほど昂ぶっていた。熱くなっていた。

 これが俺の力。俺だけの力。

 悪を倒し、人々を護る、正義の味方。

 いや、俺にはこのブレイガストが、正義そのものに視えた。

 ブレイガストが胸のコックピットを開け、その手を俺に差し出した。

 乗れって、言うのか?動かし方も分からないのに?

 それでも俺は手に乗る。すると機体は優しく俺を胸へと運んだ。

 そこは想像していた通りの場所。よく解らない機械と、操縦桿と思わしき二本の管、そして俺をすっぽりと包む座席。

 初めて見た、初めて触ったはずなのに。解る!どれをどうすればいいのか、全部頭に入ってくる!

 そう。これは俺の、俺専用の、ガーディアン!

「戦ってください。迫り来る邪悪と。」

 彼女が何かを呟く。もうコックピットは閉まっているはずなのに、その声はよく聴こえた。

「護ってください。島と桜を。私を。」

 彼女の呟きが聞こえる中、俺は操縦桿を握った。

「約束してください。その力を、正しき道に使うことを。」

「あぁ、やってやるさ。」

 正直、にやけ顔が止まらない。それほどまでに、俺は興奮していた。

「それが、正義の味方の役目だからなぁ!」

 ブースターを起動させ、俺は、ブレイガストは海岸へと向かった。

 少女の声は、もう聞こえなかった。

 

 

第7幕

 

side-フミカ-

 

 ち、以前より数が多い。奴ら10機ほどで侵攻して来やがった。

 コイツはアタシら3人でもきついかな。後で特別報酬請求しないと。

「先生!そちらに2機向かいました!」

「砲撃型に近接戦任せるなっての!」

 そう言いつつ、近づく2機をガトリングで迎え撃つ。

 1機はそれで沈黙したが、もう1機がヒートハチェットを振り上げ向かってくる。

「舐めんなぁ!!」

 ディザスター級は他のガーディアンよりサイズがでかい。ただぶつかるだけでダメージになる。

 だがそれでも致命打にはならなかったのか、再びミーレス・ザードは向かってくる。

 空の二人も、敵の数に任せた戦いに苦戦しているみたいだ。

「く、この程度で、騎士である私が!」

「各機へ!敵は十分な武装を所持している!気を付けろ!」

 一番気を付けるのはあんただよ、マイケル。ルミエールはヤワラカ装甲で通ってんだから、1発が致命傷だ。

 それでもなんとか半分まで減らしたが、不味いね。弾薬が尽きかけてる。

 どうやら味方もエネルギーが減ってきているようだ。

 だというのに、どこから来たのかさらに2機敵増援。こりゃヤバイね。

 一度市街地まで引くか?いや、出来うる限りここで仕留めたい。

 補給中はこちらも無防備になる。そうなりゃあいつら暴れ放題だ。

 バックパックに搭載していた予備弾装を主砲に込める。これでもう少し戦えるが、こいつら、ディザスター級の弱点を把握してやがる。

 近づいてきてやりにくいったらもう!

 

「先生!所属不明の機体が接近中!この反応は・・・スーパー級!?」

「敵の増援か!?小賢しい真似を!」

 おいおい、小賢しいってレベルじゃないよ、これは!?

 この状況でスーパー級なんざ相手にしてられっかい!

「マイケル!シャナ!仕方ない!一度引く・・・!?」

 アタシは撤退の指示を出そうとした、が、それを途中で止める。

 突如現れたスーパー級は、ディスティニーのミーレスに殴りかかったのだ。

 

side-コウジ-

 

「ぅぅおおおおりゃぁーーーーーーー!!!!」

 俺は、ブレイガストは敵と思わしきガーディアンを全力で殴りつけた。

 するとどうだ。奴は一撃で砕け散った。

 これが正義の力!俺の力だ!

「ファック!スーパー級だと!?ファンタズムしか報告になかったぜ!?」

 敵が何か叫んでいるようだが、関係ないね。

 悪は、全て倒すんだ!

 そしてまた身近の敵を殴りつける。ただそれだけで、またもや悪のガーディアンは粉々になった。

「おい!そこのスーパー級!もっと落ち着いて戦え!」

 空のガーディアンが何事か叫んでいる。聞いたことのある声だ。たしかカバリエ級とかいった・・・、あ。

「お前マイケルか?なーに、お前らの出番は無ぇよ!まぁ見とけ!」

「その声、東屋!?いや、そうじゃない!周りの被害を考えろ!」

 マイケルの声を無視し、俺は敵の頭を掴んで崖に叩き付けた。

 頭部が砕け散る。それでもまだ動こうとする奴の両腕をもぎ取った。 

 残り4機!行ける!俺の力なら!

 俺はさらに敵に飛び掛った。

 

side-シャナ-

 

「美しくない・・・。」

 新たに現れた機体は確かに凄まじい力で敵をねじ伏せていた。

 だが、はたから見ればただ力任せに暴れているだけだ。

 美しかった海岸は、奴の暴れた爪痕で無残な姿になってしまった。

 騎士となるため育った私からすれば、その所業は蛮族の戦いにしか見えない。

 これではどちらが悪なのか・・・。

「やりすぎだ、あの馬鹿・・・。」

 マイケルが苦言を呈す。

 周囲の被害を考えて戦えなければ、それは悪漢と同じだ。

「力強い援軍だけど、あれじゃあねぇ・・・。」

 近藤殿も同じ考えのようだ。

 少なくとも私は、アレを同志と思いたくない。

 

side-フミカ-

 

「ファーーーーック!!聞いてねえんだよこんな展開!撤収するぞ!」

 敵機が残り2機になり、作戦遂行が不可能と感じたのか敵が撤退を始める。

 やれやれ、やっと任務完了かい、って!?

「待ちやがれ!この悪党!」

 おいおい、逃げる敵を追うのかい!?今回は島の防衛が最優先だよ!?

「お前こそ待て!敵が退いた。今回の任務は一先ず終了だ。」

 マイケルがコウジ坊やを諭している。

 この島の住民となりゃ、リンケージと言えど護衛対象だ。

 それに無茶させるわけには行かない。

 下手に動かせて、敵さんの巣穴でとっ捕まった日にゃ、目も当てられないからね。

「何だ、悪党を庇うのか?マイケル。」

 ん?なんだか雲行きが怪しいような・・・。

「庇うわけじゃない。ただ奴らを追撃するメリットが無いだけだ。」

「うるさい!あいつら放っておけばまた襲撃してくるんだろ!?なら潰せるうちに潰すんだ!」

 だいぶ興奮してるねぇ。まあ仕方ないか。

 昨日今日までただの学生だったのに、いきなりあんな強大な力を手にしちまったんだ。

 大方、自分が絶対のヒーローにでもなった気でいるんだろう。

「俺は正義の味方だ!そんな俺の邪魔をする奴は、みんな悪だ!」

「何を言っているんだ!?」

 ほら来た。元々あの坊やにはそんな気が感じられたんだよね。

 英雄願望と言うか、独り善がりと言うか。

 まぁ、子供同士で片をつけてもらいたいけど、仕方ない。

「待ちなよ、東屋コウジ。」

「その声、フミカ先生かよ。あんたも邪魔するのか?」

「あぁ邪魔する。あんたも一応アタシの生徒だからね、危ない橋は渡らせたくないんだよ。」

「うるさい!俺のブレイガストがあれば、どんな奴だって敵じゃない!」

 やれやれ、しょうがない。この手は使いたくなかったんだけど。

「東屋コウジ、あんたに、」

 教師として、大人として、先輩リンケージとして。

「本物の暴力ってのを教えてやるよ。」

 教育的指導ってやつだ。

 

side-コウジ-

 

 フミカ先生が?俺に?

「先生のガーディアン、ボロボロだろ?何が出来るんだよ?。」

「アンタをぶちのめすくらいは出来るよ?」

 余裕の声で返す先生。

 何だか癪に障る。

 今の俺の力をよく見たくせに。

 俺は何も言わず先生のガーディアン-ディザスター級だったか-に殴りかかる。

 拳が当たる瞬間、ディザスター級はキャタピラをフル回転させ脇によける。

 その間、ブレイガストにミサイルを浴びせていく。

「がぁ!?」

 そのまま下がるディザスター級。逃げる気か!?」

「逃がすかぁ!」

「甘いよ。」

 冷徹な声で呟く先生。

 突撃する俺に対して大砲の連弾を撃つ。

 それに耐え切れず、思わず尻餅を付いてしまった。

 そんな俺に、先生はさらに攻撃を加える。

 嘘だろ!?この機体は!俺は!最強になったんじゃ!正義の味方になったんじゃ!?

「ほら、これが」

 いつの間にかコックピットにミサイルを突きつけられる。

 不味い!?

「本物の力、暴力だよ。」

 ズガガガガガガガガッ!!

「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 こ、殺される!?

 俺は思わず操縦桿を手放し、機体内で丸くなってしまった。

 攻撃はしばらく続き、急にそれが止む。

「弾切れか。まぁいいお灸にはなったろう?」

 俺が、負けた?

 正義の味方の、はずなのに・・・。テロリストだってあんなに簡単に倒せたのに。

「とりあえず、アタシらに着いて来な。拒否権は無いよ東屋コウジ。」

 先生の声が聞こえる。それは聞いたことも無い冷たい声だった。

 

 

第8幕

 

 ここは、どこだろう。

 あぁそうか、たしか俺は先生にボロクソに負けて、そのままフォーチュンの基地に連れて来られたんだった。

 そしてそう、ここは司令室だとか言ってたな。

 普通に椅子に座ってるけど、いいのかなこれ。拘束とかされなくて大丈夫かな?

 まぁ暴れようとしても、此方を睨み付けてるマイケルや、寛いでるようで俺から視線を外さない先生に止められるだけだが。

 それに見たことのない女の子、俺と同い年くらいかな。彼女も腕っ節は強そうだ。

 

 そもそも、今の俺に暴れる気力なんて無い。

 無敵のヒーローになれたと思った直後、ボロボロにされた。

 まるで、俺の夢や信念なんてこんなモノだと言われたよう。冷水をかけられるってこんな気持ちなのかな?

 

「皆さん、お待たせしました。」

 暗い感情に押しつぶされそうになっていると、また知らない女の子が入ってきた。

 ただの女の子じゃない。これはどう見ても・・・。

「こ、子供・・・?」

 そう、どう見ても10歳くらいの子供だった。

「無礼だぞ東屋!この方がフォーチュン桜花島支部の支部長、伊達ミウコ司令官だ!」

「はぁ!?」

 こんな子供が!?嘘だろ!?

 基地司令官ってのはこう、髭の生えた渋いおっさんとか、厳つい顔のおっさんとか、そんな感じじゃないのかよ!?

 俺が立ち上がって驚いていると、

「まぁ予想通りの反応ですね。私はあまり外に顔を出しませんから。」

 と咳払い一つで返された。

 そのすかした態度にカチンとくる。

「あんたらこんな子供の下で働いてたのかよ。正義の味方様も大したことねぇな。」

 挑発するように声を上げる。

 だが何故だろう。言っている自分に対して腹が立ってくる。

「おい、今の言葉は聞き逃せんな。」

「あ?そういや誰だよ、アンタ。」

「シャナ・アティアイナ。レムリアの騎士だ。今日から桜花島に厄介になる。」

 レムリアって、確か何年か前に突然現れた国だったな。

「立場に年齢や性別は関係ない。彼女には相応の能力があるからこそ司令官の座にいるのだろう。貴様の言葉は彼女を侮辱するものだ。」

「いいのですよシャナさん。初対面の方には大抵こういう反応をされるものです。それと、自己紹介が遅れたことに謝罪を。そして我々

に力を貸して下さることへの感謝を。」

 ミウコとかいう子がシャナに手を差し出す。シャナは微笑みながらその手を取った。

 何だよ。これじゃあ俺一人悪役みたいじゃないか・・・。

「コホン。それでは東屋コウジさん。貴方に幾つか質問があります。正直に答えてください。」

 ミウコの表情が真剣なものになる。と同時に、まるで首にナイフでも当てられたような感覚に陥る。

 何だ、この子・・・。さっきまでと雰囲気がまるで違う。

 俺の返答しだいでは、容赦ない仕打ちをされそうな、冷徹で冷酷な眼だ。

 思わず唾を飲み込む。音が周りに届いたんじゃないか?

「一つ。貴方は桜花学園高等部2年1組所属の一高校生、で間違いないですね?」

 カクカクと頷く。情けないがそれしか出来ない。

「二つ。あのガーディアンはどうやって手に入れましたか?」

 あのガーディアン。ブレイガストのことだろうか。

 正直どう言えば良いか自分でも解らない。

 乗り込んだときは興奮していたが、今にして思うとまるで夢のような出来事だった。実際夢で見たし。

 

 冷静になってみると、全てが謎だ。

 あの少女の言葉も、存在自体も。ブレイガストももちろん。

 それでも、俺はブレイガストに乗った経緯を話した。

 自分でも要領が悪い説明だと自覚しながら、拙い言葉で、出来るだけ詳しく。

 マイケル達は呆れていたり、冷たい眼で見ていた。

 やはり信じてくれてはいないのだろう。

 ただ、ミウコと先生は難しい顔をしていた。

「こういうケースかい。面倒くさいねぇ。」

 先生は頭を掻く。こういうケース?

「あの機体には謎が多く、解析が追いついていません。さらにはブラックボックスに当たる部分は、全くの未知の物です。おそらくこの

島の遺跡に関係しているのでしょう。」

 遺跡?確かにこの島にはイズモ本土同様に遺跡が発見されている。

 でもその全容は明らかにされていない。遺跡の内部には、誰も入れていないのだ。

 フォーチュンが遺跡を調べているのは噂で聞いたことがある。

 もしかしてあの娘とブレイガストは、遺跡に関係があるのか?

 俺は遺跡に選ばれた戦士、なのか?

 内心うかれていると、今までとは比べ物にならない威圧感が俺を襲う。

 マコトん家の道場に通っていた時に感じたことがある、それは、殺気。

 それも小父さんの殺気とはまるで別物、本当に殺されそうな気配だ。

「それでは最後に聞きます。貴方は何故、あんな戦い方をしたのですか?」

「あんな、戦い方?」

「はい。市街地ではなく海岸沿いだったから良かったものの、周囲のことも考えずただ暴れまわっていては被害が増すばかりです。」

 被害って・・・。

 俺はただ、テロリストを、悪人を倒そうと。

「その顔では、そこまで考えていなかったようですね。」

「だって、悪人は倒さなきゃ・・・」

「そのためなら、周りのモノを壊しても良い、と?もし市街地で暴れれば、建物は破壊され、人々も傷つきます。」

 一呼吸おいて、ミウコ、いや司令は言った。

「それでは、貴方の言う悪人と何も変わりません。」

 決定的な一言だった。俺の心臓は、ドクンと脈打った。

 

「我々も街への被害をゼロには出来ていません。戦いの爪痕を残してしまうこともあります。その点では、非常に心苦しく思います。」

 司令は一瞬暗い顔を見せるが、すぐに俺を睨みつける。

「貴方が正義の味方に憧れていることは、先ほどまでの会話で何となく察しました。ですが、あれが正義の味方の戦いですか。」

 次々と言葉の矢が射られる。

 違うんだ、俺は、

 俺の目指した正義の味方って言うのは、もっと、

 悪を倒して、皆を守って、褒められて・・・褒められて?

 ふと思う。俺は何をもって正義の味方としてきたのだろう。

 俺の憧れだったヒーロー達は、人々の歓声や名誉なんて求めたか?

 これじゃあ、俺は・・・。

「今の貴方は正義ではない。それはただの、独善です。」

「ッ!?」

 決定的な一言を突き出される。

 恐ろしい。この娘は、俺の全てを見透かしている。

 いや、今はそれどころじゃない。俺の信じていたものが、崩れ去ってしまったようだ。

 肉体的にも、精神的にも打ちのめされ、俺は力無く俯く。

 もう、もうどうすればいい・・・。俺は、俺の望んだものは。

「俺は、間違っていたのか?俺の生き方は・・・。」

「間違っていたとは言いません。志は立派なものです。それが少し歪んでしまっていただけ。」

 彼女が近づいてくる。俺は顔も上げられない。

「まだ正義の心が有るというのなら、戦う気持ちがあるのなら、私たちに協力してください。」

 司令は俺の手を取り、力強く言った。

 

「司令!彼は素人ですよ!?それにあの機体には謎が多すぎます!」

 マイケルが何事か叫ぶ。だが、今の俺はそれどころじゃない。

 協力する?フォーチュンに?俺が?

 さっきまで散々俺を責めていたのに・・・。

「未熟ならば鍛えればいいこと。それに謎の多いガーディアンなど今更です。我々はALTIMAの謎をまだまだ解明できていないのですから。」

 俺の手を強く、されど少女の力。力無い手で握る。

「お願いします。この島を護るため、私たちは少しでも戦力が欲しい。貴方がブレイガストの力を正しく扱えるのなら、これ以上心強い

味方はありません。もう一度、ちゃんとした形で正義の味方を目指してみてはどうですか?」

 先程までの威圧感はすっかり無くなり、一人の少女の姿で俺に誘いかける。

 それが天使の導きか、悪魔の誘惑かは、今の俺には理解できない。

 でも、たった一つ確かな物。それは、俺が未だ正義の味方を諦めていないってこと。

 この島の為に、戦いたいってことだ。

「あぁ、頼む。俺を本物の正義の味方にしてくれ。お願いだ。」

 深々と頭を下げる。

 覚悟なら、ブレイガストに乗る時出来ていたはずだ。今はそれを再認識しただけ。

「正気か!?ガーディアンの戦いはお前が思っているほど甘くない!命を落とす可能性も、決して低くないんだぞ!?」

「傷つく覚悟ならある。それに、死なないようお前らが鍛えてくれるんだろう?」

「それは・・・。」

「無駄だよマイケル。男がいったん決めちまったんだ。簡単には覆せないよ。」

 先生はニヤニヤ笑いながらコーヒーを飲んでいる。あれ、いつの間に?

 それはともかく、俺もニヤリと笑い、マイケルを見る。

「というわけで、よろしく。マイケルせ・ん・ぱ・い?」

「~~!っはぁ、さっきまで死んだ魚のような目をしていたくせに。」

 右手で頭を掻き毟るマイケル。これは渋々了承する時の、コイツの癖だ。この一年で大体解った。

 そうしていると、シャナと名乗った少女が俺の前に立つ。

「いささか不服だが、同じ戦士になるのならば改めて言おう。シャナ・アティアイナだ。」

「あ、あぁ、よろし」

「だが、私はまだお前を認めてはいない。司令官殿、私は一度失礼します。」

 ずいぶん冷たいやっちゃなぁ。レムリアの騎士ってみんなああなのか?

 まぁ俺のさっきまでの態度からすれば仕方ないけど、なんかムッと来る。

 見てろよ、いつか見返してやる!

「なら、教育係はアタシに任せな。3日でそれなりに動かせるようにしてやるよ。」

「え!?」

 俺の脳裏にあの光景が浮かぶ。

 海岸で、手も足も出ず、殺されかけた光景が。

「さ~行こうか。新人の歓迎会だ。シュミレーションとはいえ派手にいこうか~。」

「ちょ、待って!?出来れば加減を!?あ、マイケル!お前に頼みたいな~!いや、あの!」

 その細腕からは考えられない力で俺を引きずっていく先生。その顔はとても楽しそうで、サディスティックだった。

 あ~~~~~~~~~~~れ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!

 

side-マイケル-

 

 近藤先生が東屋を連れて行った後まで悲鳴が聞こえてくる。

 先生は教官としても優秀らしいから、大丈夫だろう。

 後は奴の覚悟の問題だ。

 ガーディアンでの戦いは、死と直結している。

 とりあえず戦う以上、それを頭に叩き込んでもらわなくては。

 それはそうと。

「司令。大した役者振りですね。アイツを揺さぶっておいて、一本道を示して見せるなんて。」

「いえ、私は本音で彼と会話しただけです。決めたのは彼自身ですよ。」

 よく言う。あれほどの殺気、戦場でも中々感じないぞ。

 同じ部屋にいた僕も冷や汗を掻いたくらいだ。

 落ち着くため、コーヒーを一口啜る。

 ん?コーヒー?

「司令。いつの間にコーヒーなんて用意していらしたんですか?」

「それなら間違いなくあの人でしょう。まったく、仕事どころか憎まれ役まで押し付けようとして!」

 頬を膨らませ、どこにあったのかウサギのぬいぐるみを抱きかかえる司令。

 あの人、か。こういうもてなしは得意なのに。それにこの支部のスタッフだ。きっと優秀だろうに。

「司令も大変ですね・・・。」

「はい・・・。」

 僕達は残ったコーヒーを飲み干した。

 ちなみに司令は背伸びをしてブラック。かなり苦そうにしていたのは言うまでも無い。

 

 

第9幕

 

side-コウジ-

 

 あれから4日の時が過ぎた。

 フミカ先生の訓練は、あぁ思い出しただけで身震いしてくる。

 実際にガーディアンに乗っていないのに何度も死を覚悟するほど厳しいものだった。

 それを学校が終わってから何時間もびっしり何セットも模擬戦、模擬戦、模擬戦・・・。

 正直俺痩せた、いややつれたかもしれない。ホントに。

 今もげっそりしながら背景のカキワリを作っている。この作業ももう終わりだ。

 

「さすがのお前も、あの訓練は堪えるようだな。」

 珍しくニヤニヤしながらマイケルが話しかけてくる。

 うるさいな、作業の邪魔だ。

「最後くらい真面目に手伝ってやるよ。これで僕達の仕事も終わりだからな。」

 ヤダ・・・マイケルが親切。槍でも降ってきそう。

 その後黙々と作業を続け、ようやく全ての大道具が完成した。

 全工程までずいぶん遅くなってしまった。役者組には大変迷惑を掛けました。反省。

 だがこれで俺達の分担は一先ず終了。後は実際に動かしてみないと。

「どうだ、ブレイガストの様子は。」

 再びマイケルが尋ねてくる。

「どうもこうも無ぇよ。フミカ先生は鬼か?」

「お前みたいな奴には、鬼教官がちょうどいいそうだ。諦めろ。」

 くそ、楽しそうにしやがって。今に見てろ。

 すぐに追いついて、いや追い抜いてやるからな。

「それと、お前自身はどうだ。」

「俺自身?何がだ?」

「覚悟は出来たか、と聞いている。」

 覚悟、か。覚悟ねぇ。

「怪我する覚悟ならあるさ。それに死ぬ気は無いから猛特訓してるんだろ?」

 まさか死ぬ覚悟が無いなんてお決まりの台詞を吐くんじゃないだろうな。

「違う。僕が言っているのは生き抜く覚悟、そして失う覚悟だ。」

 ん?ちょっと分かり難いな。どういうことだ?

「僕達フォーチュンはテロリストや奈落等、多くの敵と戦っている。敵を倒すために自分を犠牲にするのは一見美談かも知れないが、それは後の戦いを放棄するも同じだ。だから、何が何でも生きて帰らなくてはならない。泥を啜ってでもな。」

 ず、随分厳しいことを言うのね。

 でもそうか。正義の味方って言っても、死んだら何も護れないからな。

「もう一つ、失う覚悟。これが一番重要だ。僕達がいるのは死地だ。例えば仲間が戦死することだってある。それを受け入れる覚悟だ。」

「ちょっと待てよ!?それって場合によっちゃ仲間を見捨てろって言うのか!?」

「見捨てるとまでは言っていない。ただ、戦いの中帰らぬ人間が出るのも戦場の常だ。それを覚悟していないと、立ち直れなくなる。」

 重たい表情でマイケルは語る。

 この四日間で、俺もリンケージの何たるかを教えられてきたつもりだ。

 だから、戦いで誰かが死ぬかもしれないっていうのも、先生から教わった。

 それにコイツが多くの戦場を経験してきたことも聞いた。

 おそらく、辛い別れもあったんだろう。

 だけど、それでも。

「俺は、失いたくないな。」

「何?」

「誰も死なせたくない。護れるものは護りたい。甘っちょろい考えなのは分かってるけど、俺は何も失わないくらい強くなりたい。」

 これは俺の本音。

 正義の味方だからじゃない。俺だから、何も失いたくない。

「まるで子供の我侭だ・・・。」

「我侭で結構。こちとらまだまだ悪ガキだよ。」

 皮肉的な笑みで返してやる。

 そう、俺は何も失いたくない。

 我侭で構わない。これを俺の心の柱、信念にするつもりだ。

 誰に言われても、覆す気は無い。

 

「二人とも、お疲れ。」

 ピトッと何かが顔に触れる。

 マコトがドリンクを差し入れてくれた。

「珍しく仲がいいじゃないか。何かあったの?」

「「誰がこんな奴と」」

 思わずハモる。うわ、気持ち悪ぃ。

「それにしてもコウジがフォーチュンになるなんてねぇ。何があったの?」

 俺がフォーチュンに協力していることは、学園側も知っている。

 もちろん、コイツやクラスのみんなも。

 だが司令曰く、詳しいことは守秘義務があるらしいので、全部は話していない。

「だから、言えないことも多いの。何度聞かれても無駄だ。」

「幼馴染相手でも?」

 ちょっと痛いところを突いてくるな、こいつ。

「マコト、勘弁してやってくれないか。僕達フォーチュンも全てを公開できるわけじゃないんだ。」

 マイケルから援護が入る。頼もしいぜコイツ。

 これで普段の嫌味が無ければなぁ。

「マイケルに言われちゃしょうがないなぁ。諦めよう。」

 どういう意味だコラ。

「ところでさぁ、いきなりなんだけど、相談に乗ってくれる?」

「相談?ホントにいきなりだな。で?」

 別に断ったりしない。

 そこまで冷めた仲じゃない。大事な友達の悩み事なら喜んで聞きましょう。

 え?そんなキャラじゃない?やかましい。

 って誰に言ってるの?俺。

「最近変な夢を見てね?」

 夢?どこかで聞いたような。

「丘桜があるだろ?あそこの下に綺麗な女の子がいてさ、桜の後ろに大きな影が見えるんだ。」

 あーれー?本当に聞き覚えが有りますよー?

 隣を見るとマイケルの方も俺を見て驚愕の表情を浮かべている。

「近づこうとすると桜が舞って、で目が覚めるの。そんな幻想的な夢。なんなんだろう。」

 マコトは首を傾げる。

 漫画の読みすぎかなって本人は笑うけど、俺達の心中は穏やかじゃない。

 マコトも俺と全く同じ夢を見ているのだ。これは偶然だろうか。

 謎過ぎる。が、ここは一つ誤魔化しておくか。

「お前にそんなヒーローチックなことが起こるわけないだろバーカ。」

「アハハ、何だとこのヤロー。」

 顔面にパンチが飛んでくる。なんかちょっと凹んだ気がするが、気のせいか?

 あ、マイケルがドン引きしてる。いい加減慣れろ。いつものことだ。

「はぁ、コウジに聞いたのが間違いだった・・・。」

 失礼なことを。

 そうこうしていると、フミカ先生が教室に入ってくる。

「ゴメンみんな!今日先生達で急用出来ちゃったから、これで帰って!」

 手を合わせ、謝るそぶりを見せる先生。

 当然ブーイングが上がる。が、これでもみんな物分りは良い。

 ぶつくさ言いながら下校準備を始める。

「しょうがないなぁ。じゃあボク達も帰ろうか。」

「マコト、今日も近所まで送るよ。」

 そういえば最近、こいつマコトを送ることが多いな。

 というか毎日だ。特に俺が放課後訓練を受けていた時などは必ず。

 ・・・何だろう。なんか面白くない。

「今日はフミカ先生も用があるし、俺も一緒に帰るぞ。」

 ずい、と二人の間に入るようにする。

「そうだな。東屋も一緒に帰ろう。その方が何かあった時に良い。」

 え?最後なんて言ったの?

 まぁいいや。

 俺達は校門へと向かった。

 これから、今回最大の事件が発生するとも知らずに・・・。

 

 

第10幕

 

side-シャナ-

 

 私は今丘桜と呼ばれる場所に来ていた。

 この島を歩いてみて、私は確かに異様な雰囲気を感じていた。

 まず資料によると、桜とは五月頃にはほとんど花が散り、葉のみになる場合が多い。

 だというのに、この島の桜は今も満開。花が散っても、次の日にはまた咲いているのだ。

 試しに桜の木に触れてみたが、これもやはり異常。

 何か魔力のようなものが流れている。それもこの島全ての桜に、だ。

 通常の植物に魔力が宿るなら、小さな花が精一杯。木そのものとなると、一本から数本が限度だ。

 都市単位ともなると、レムリアでも事例は無い。

 そして魔力の源を辿り、この場所にやって来た。

 

 この丘桜、他の桜よりも大きい。木というより樹木と言ってもいいほどだ。

 そっと手を触れる。そしてすぐに離した。

 

 何だこれは?樹に膨大な力が流れている。

 魔力・・・とも少し違う。この力の流れに似たものは、確か・・・。

「ALTIMA・・・?」

 そう、ガーディアンの材料となる、ALTIMAだ。

 我らがレムリアにはALTIMAを生産する技術がある。

 詳しいことは私には分からない。

 だが、この樹から感じるALTIMAの濃度は、少なくとも我がバルサーガのソレより遥かに高純度だ。

 もしこれが、悪しき心の者の手に渡ったなら・・・。

「陛下が騎士を派遣するのも頷ける。」

 この島は、必ず護らなくてはならない。

 護る、と言えば。

 

「あ。」

 神楽坂マコトという少女のこと、すっかり忘れていた。

 たしかフォーチュンから彼女の護衛も依頼されていたのだった。

 不味い。騎士たるもの、忘れてました、なんて言えるわけがない。

 これを陛下に知られでもしたら・・・。

 あ、あぁ、冷たい汗が背中を流れる!

 私は急いで桜花学園へと向かった。

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