メタリックガーディアン・プロミス 『桜の舞う島で』   作:戒炎

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ようやく最終話まで着ました。
あと少しだけお付き合いください。


最終話「SAKURA」その1

第1幕

 

side-コウジ-

 

「明日が、決戦か・・・。」

 この数ヶ月、共に戦い抜いた相棒を見上げる。

 損傷の激しかったブレイガストは急ピッチで修復作業が行われていた。

 そして考える。俺達はあの化け物に勝てるのだろうか。

 確かに一撃加えることには成功した。だが、傷を再生させた後の奴は、今まで以上の狂気と凶暴性を持っていた。

 あれこそがラグシオンの真の姿。機体の、そしてグラフス自身の枷を外した姿。

 ゲームで言えばまさにラスボス。大魔王と言ったところか。

 だがこれは現実。セーブポイントも、コンティニューもありゃしない。負ければ終わりの一本勝負。

 恐くないといえば嘘になる。あんな物を見せられて、よく正気でいられると感心する。

 それとも、俺はもう狂っているのかも知れない。死への恐怖が麻痺しているのかもしれない。

 ・・・いや、そんなことは無い。俺は、俺達は勝つ気でいるから。

 一人じゃない。仲間がいる。皆で戦えば、どんな敵が来ようと負けるとは思えない。

 今までもそうだった。だから今度も。そしてこれからもそう思う。

 何が襲い掛かろうと、この島を護ってみせる。そう誓った。自分に。約束した。友に。

 だがブレイガスト・・・。お前は一体何者なんだ。

 何故俺の前に現れた。あいつの言っていた事は何だ。お前と俺、ガーディアンとリンケージ以外に関係があるのか。

 鋼鉄の相棒は何も語らない。だが、なにか暖かく、懐かしい気配がする。

「ま、解らないことは、あいつが説明してくれるだろう。」

 基地内にあの感覚が広がる。そろそろ来る頃か。

『支部内のリンケージに告ぐ。アバターが現れました。至急、司令室まで出頭してください。』

 ほらな。

 さて、色々聞きたいことがあるんだ。急ぐとしますか。

 

 

第2幕

 

side-ミウコ-

 

 決戦を控えた今、再びアバターの少女が姿を現した。

 未だ語り終えていないことがあるからだろうか。それとも、これが彼女にとって最後の機会なのだろうか。

 後者ではないことを祈りつつ、皆の到着を待つ。

「悪い、遅れちまったな。」

 最後の一人が入室する・・・、って。

「誰ですか貴方?」

「声で察してくれやがれファッキンチビ。俺がジョニーだよ。なんだ?一生ガスマスクで過ごせってのか?」

「冗談です。」

「オイ。」

 おふざけはこれくらいにしましょう。お客様を待たせてはいけませんからね。

「お待たせしました。お茶くらいお出しできればよかったのですが。」

「いえ。私には飲めませんから。お構いなく。」

 これがマコトさんの幼少期をモデルにされているとは。

 当時はこんな感じだったのでしょうか?今とまるで違いますね。

 というより、やはりALTIMAの精神体として喋っているのでしょう。知らないけどきっとそう。

「ではまず一つ。貴女はイロウションなる存在を知らなかったのですか?」

「はい。あのグラフスという男がヒトならざるモノ、忌まわしき悪魔であることは解っていましたが、その全体までは見えませんでした。」

「ちょっと待った。ならアンタはあの男が奈落獣化しているって知っていたのかい?」

「奈落に侵されていることはしっていましたが、あそこまで飲み込まれていることまでは・・・。」

 どうやら彼女は感覚で彼を忌避していたようですね。

 ALTIMAの感覚など、ただの人間である私には理解できませんが、少なくともアバターとなると恐怖などの感情があるのでしょうか。

 そこはコウジさんやマコトさんから学んだんでしょうか。

「私は桜を通じてこの島の人間の暮らしを見、感情を学びました。まだ拙い所もありますが。」

「・・・私の考え、顔に出ていましたか?」

「元となった人間、神楽坂マコトがスターゲイザーですから。この程度なら読めますよ?」

「え?スターゲイザーって、相手の考えてることも解るのか?」

「強力な存在になるとそこまで可能だと聞いています。」

「ふえ~・・・。」

 スターゲイザー(天然)と強化人間の会話は置いておいて。

「グラフスは2年前、貴女と接触したと聞きました。その時は無事だったのですか?」

「あの時は、単純にあの男の力が、私より劣っていたため、ALTIMAに触れることができなかった。私の免疫力が勝っただけです。」

 ふむ。つまり触れることが出来ず、直接吸収、というか、食べることが出来なかった。

 その為、グラフスは部隊を率い、この島を占拠しようとした。

 しかし直接的な占拠は我々フォーチュンが桜花島に来たことで難航した。

 それまでは解ります。

 では何故、圧倒的な物量を持つグラフスが奈落獣の大群を今まで差し向けなかったか。

 おそらくですが、フォーチュンのこれ以上の介入を防ぐためでしょう。

 ディスティニーを隠れ蓑に、この島にはガーディアンが2、3機いれば十分な状態にする。

 その間、自分は他の方法でALTIMAを捕食する方法を探す。

「概ね間違いはないでしょう。」

 自分で口を動かさなくて済むのは楽ですね。

 では何故、グラフスはコウジさんやマコトさんを導くような方法を取ったのか。

 いつでも潰せるこの島を、わざわざ時間をかけて攻撃し、ブレイガストとタリスマンの覚醒を促す。

 それでは、目的から遠ざかる一方では?

「ブレイガストとタリスマン、ですか・・・。あれは私の短慮、焦りがあったからとしか言えません。」

 彼女は申し訳なさそうに言う。

「あの男の目的があの2機の目覚めだと知ったのは、タリスマン、そしてブレイガスト・ノヴァの覚醒の後です。」

「どういうことだ?あの2機がどう関係している。」

「待ってくれシャナ。多分、俺が聞きたいことはこの後だ。」

 コウジさんが前に出る。

「なぁ。あの2機は、一体どういう存在なんだ?」

「ブレイガストとタリスマンは、謂わば抗体。この島を護るための防衛機能です。そして・・・。」

 一拍空けて、彼女は言った。

「あの2機は東屋コウジ、神楽坂マコトの生体情報から作り出されました。あれらは貴方方の子、というより、もう一人の自分です。」

「もう一人の、ボク?」

「よく馴染んだでしょう。懐かしい何かを感じたでしょう。それもそのはず。あの子達は、貴方達自身なのです。貴方達の細胞、感情からこの島にあるALTIMAから創られた存在です。その精神は常にリンクし、いざと言う時いつでも目覚め、操縦できるようになっていました。」

「・・・そういうことか。」

「それで、タリスマンからは暖かい何かを感じるんだ。」

 ・・・正直、俗人(オリジナル)の私からすればよく理解できないのですが、彼らには思い当たる節があるのでしょう。

「それで、貴女の短慮とは、どういうことですか?」

「グラフスの侵攻が始まって2年間、あの男はブレイガストとタリスマンの存在を嗅当ててしまいました。そしてその2機にリンクしている2人も。」

 そこから、グラフスの方針が変わり始めた。

 奴はこの島をいたぶるように攻撃し、コウジさん達の覚醒を待った。

 リンケージとして、ガーディアンを動かすその時を待った。

「あの男がわざわざブレイガストを鍛えようとしたのも、全ては抗体として覚醒させるため。ALTIMAの一部である2機を取り込めば、私は弱体化し、あの男は強大な力とともに私達に近づける。抗体に成りすまし、難なくALTIMAと接触できる。」

 時間と手間をかけて美味しい餌にありつく。

 グラフスは料理でもしているつもりなんでしょうか!

 えぇそうなのでしょう。時間と労力を掛ければ料理は美味しくなり、空腹は最大のスパイスとなる。

 本当に、ただ己の食欲を満たすだけによくこれまで。逆に感心しますよ。

「私がもっと考えていれば。ブレイガストの覚醒を急がなければこんなことには。・・・申し訳ありません。」

 沈痛な面持ちでアバターは口を紡ぐ。

 司令室に沈黙が訪れた。

 誰が悪い。そんなの、グラフス・エイベロンに決まっている。

 奴こそ全ての元凶。全ての生きとし生けるものの敵。

 でも、だれも声を発することが出来ない。

「あのさぁ、えっと、アバター。何かこう呼ぶのも変な感じだな。」

 その沈黙も、一人の言葉で破られる。

「お前、勝手に自分の所為だなんて言ってるけど、それ違うぞ。」

「え?」

「俺、約束しただろ。最初にさ。」

 

(戦ってください。迫り来る邪悪と。)

(護ってください。島と桜を。私を。)

(約束してください。その力を、正しき道に使うことを。)

 

「俺はそれをずっと胸に刻んできた。馬鹿やったこともあったけどさ、それでも、約束通り戦った。護ってきた。正しく力を使ってきたつもりだ。それは誰かにレールの上を歩かされてきたのかもしれない。でも、全部自分で決めてきたことだ。あの約束があったから、俺は歩いてこれた。正しいと信じ

て。誰の所為でもない。俺の責任で歩いてきた道だ。俺が勝手にやってきたことだよ。だから、ええと、なんていうのかな?俺そんなに頭良くないから

なぁ。んん~と・・・。とりあえず、俺のやりたいようにやってきたことだから、お前は気にするな!」

 ムンと胸を張り、一気に言葉を放つ。

 一瞬、司令室が静まりかえり・・・。

 皆が爆笑した。一人、アバターを除いて。

「ちょ、アンタ、ホント何言って、アッハハハハハ!」

「コウジ!さ、さすがに単純すぎではないか?」

「バカだ!お、俺はこんなバカを相手に戦ってたのか!?」

「うるせーうるせー!どーせ俺は馬鹿ですよ!」

 先程までの緊張は微塵もない、明日への不安もない。ただ皆が笑顔だった。

「うん、コウジはずっと前に向って走ってきたんだ。ねぇアバター。心配しないで良いよ。こんな馬鹿とみんな戦ってきた。この馬鹿にボクは着いてきた。それだけなんだ。」

「ですが・・・。」

「多分、遅かれ早かれボク達はガーディアンに乗っていたと思う。そういう運命だったでいいじゃないか。それまでは誰かの狙い通りだとしても、この馬鹿はそれすら壊して自分の道を往く。キミが悪く思うことなんて、何も無いんだ。」

 明日死ぬかもしれない。多分全員の心にそれはあったはず。

 それでも、今は笑っている。一人の少年のお陰で。

 この支部の隊長はフミカさんだ。だけどいつの間にか、コウジさんを中心にみんながいる。

 彼を中心にみんなが泣き、怒り、笑っている。

 スターゲイザーとか、選ばれた者とか関係無しに、彼は凄いと思う。

 多くの戦場、きっと、彼みたいな存在がいるのでしょう。

 明日を生き抜く力を与える、そんな存在が。

「・・・守護神の親が貴方で、本当に良かった。」

 彼女はそっと呟き、その姿が薄くなっていく。

「私から言えることは以上です。もう何も知りません。」

 そしてニコリと笑顔を見せ、こう言った。

「どうか無事で。私達は、常に貴方達と共にあります。勝利を、お祈りしています。」

 アバターの姿は、そのまま消え去った。

 いや違う。帰ったのだ。自らのいるべき場所に。

 見守ってくれているんだ。誰よりも近くで、私達を。

「・・・副司令。島民の避難は始まっていますか?」

「はい。皆様のご帰還と同時に避難勧告を出しました。此度は避難所だけでは不安ですからな。」

「有難うございます。可能な限り本土へ。間に合わなければこの基地に収容を。」

「畏まりました。」

 全員の顔を見る。

 恐怖している者などいない。皆が勇者のような顔つきだ。

「決戦は明日。それまでに準備を。第二次警戒態勢の為基地内からは出せませんが、英気を養ってください。では、解散!」

 私も、遣り残した事、ありますしね。っと、縁起が悪いか。

 

 

第3幕

 

side-メイ-

 

 自室に戻る。機体が修理中の今、やれることも無い。

 身体を休める意味でも、訓練は控えるべきだろう。

 そうなると手持ち無沙汰だ。こんな時、無趣味の自分が情けない。

 髪を撫でると、ふと何かが手に当たった。

 あの時の髪留め、着けっぱなしだった。

 あれからすぐ出撃で、あの騒動。取る暇なんてなかったからなぁ。

 ・・・コウジさんが、可愛いって言ってくれた。

 うぅ、やっぱり恥ずかしい。

 でも、脈ありっていうんでしょうか?こういうの。

 良く解りませんが、そんな話をしている娘がクラスにいたような。

 ・・・彼女達は、無事ですよね。

 私に出来た、クラスでの初めての友達。

 そんなことを考えていると、携帯端末に着信が入る。

 名前は・・・!まさか!?

「もしもし!」

「あぁ良かった!出たよ二人とも!」

「あうあ~、無事だった~!」

「霧咲さん!大丈夫!?」

 ちょ、一斉に喋らないでください!

 ていうか三人でいるんですか!?

「皆さんどうして電話なんか!?避難はどうしているんですか!?」

 思わず私の声も大きくなる。

 だって今電話を掛けてくるという事は、まだ避難できていないってことじゃ!?

「ううん。私達もこれから船に乗るところ。」

「ちょっと無理言って三人集まっちゃった。」

 少なくとも無事ですね。先の戦闘に巻き込まれてはいませんね。

 それだけでも一安心です。

「本当は島に残りたかったけど、パパとママが本土に避難するって・・・。」

「!?当たり前です!これから桜花島はどうなるか判らないんですよ!それなのに」

「やっぱり、危険なんだね。」

 え?どういうことですか。

「避難所からほとんどそのまま本土に避難なんて、よっぽどのこと。ていうか今まで無かったもん。」

「これから危険なことがあるんでしょ。霧咲さん、フォーチュンだから戦うんでしょ?」

「・・・はい。当然です。」

「・・・なんで?なんでメイちゃんがそんな危険な目に会わなくちゃいけないの!?一緒に逃げようよ!?」

 彼女達は、本気で私のことを心配してくれている。

 まだ出逢って一月しか経っていないのに、私の身を本気で案じてくれている。

「大丈夫。」

「え?」

 私は幸せ者だ。大切な戦友と、大切な友人が居る。

 幸せすぎて、なんだか罰が当たりそう。

「私は死なない。絶対に勝って、無事に帰って、みんなを迎える。」

「・・・」

 死なない。死ねない。今までの自分では信じられない。

 私は、未来を生きたい。あの人が教えてくれた、みんなが見せてくれた未来を。

 その為に、私は生きる。何があろうとも。

 あの頃の自分が今の私を見たらなんと言うでしょう。

 なんとでも言えばいい。むしろ自慢してやりますよ。

「約束します。私は、必ず勝つと。みんなはほんの少しの時間避難していてください。」

「でも。」

「この島も、貴女達も、私が護る。絶対に。」

 そう、誓ったのだから。自分自身に。

「・・・今の、霧咲さんが男の子だったら惚れちゃいそう。」

「格好良かったですか?」

「うん!最っ高に格好良かった!」

「約束してね。絶対、また会おうね。」

「はい。ほんの1日の辛抱です。」

「うん。じゃあ・・・。」

「「「またね!」」」

「・・・はい。また。」

 電話が切れる。

 これで、負けられない戦いが、さらに負けられなくなった。

 しかも命を投げ出して、なんて勝ち方はもう出来ない。

 勝とう。勝って、あの娘達を迎えにいこう。

 大切な人が傍で戦ってくれる。大事な友達が無事を祈ってくれている。

 なんだ。負ける要素が一つも無い!

 

 

第4幕

 

side-フミカ-

 

 決戦ねぇ・・・。

 こちとら常時命賭けてんだ。今更それがかわるわけじゃなし。

 大体さぁ、大袈裟なんだよねグラフスも、皆も。

 やることは変わらない。アタシらはこの島を護るだけ。違うのはまぁ、敵さんも本気なところか。

 今までで一番辛い戦いかもしれないけれど、それがどうしたってんだ。

 ここでびびる程軟じゃないっての。

 ただまぁ。慢心は良くないよな。うん。

 別に怖くはない。あぁいや、守りたいものが守れないのは嫌だな。

 仲間が死ぬのも嫌だ。もうあんな思いは二度としたくない。

 新兵時代、大戦終結直前の仲間達の死、そして、ギルガーンにやられた仲間達。

 そう何度も失いたくない。今まで大事な物は、砂のようにこの手から零れ落ちていった。

 同じ釜の飯を食った気のいい奴ら。こんなアタシを好きだと言ってくれたアイツ。それにあの子。

 なんだい。結局嫌だ嫌だのオンパレード。情けないったらありゃしない。

 こんな時には酒でも、と言いたい所だけど、さすがに基地内じゃなぁ・・・。

 仕方ない、コーヒーで我慢するか。あ、腹減った。ちょうどいい、何か食べよう。

 そう考え食堂に行くと随分目立つ小さな影が一つ。

 ・・・たく。何してんだか。

 小さな体をさらに小さく丸めて、ちびちびサラダ食べて。

「随分ゆっくりだね。余裕か、それとも考え事かい?」

 その少女、伊達ミウコ司令のまん前に座る。ちなみにアタシはカツ丼セット。食える時には食う。これ兵士の鉄則。

「フミカさん、ですか・・・。」

 元気と言う言葉から遠く離れた顔色だ。

 サラダも、おそらくほとんど減っていない。

「駄目じゃないかちゃんと食わなきゃ。司令官のアンタに倒れられちゃ周りが大変なんだ。」

「司令官・・・。そう、ですよね。私がしっかりしないと・・・。」

 様子がおかしい。

 いや、何となく解る。

 この子、緊張してる。それも今にも潰れそうなくらいに。手が微かに震えている。

「私が、守らなくちゃいけないんですよね。この島も、そこに住む人々も。そして皆さんも。」

 所詮は船での避難。桜花島からイヅモ本土まで往復するのに時間が掛かる。

 それに加えて大勢の人間が乗り降りする。掛かる時間はさらに増す。

 フォーチュン支部内への避難も勧めているのだろうが、それを指揮するのは僅か9歳の少女。

 色々な重みを抱えているのだろう。

 今までの戦い以上に激しくなるだろう明日の為に、身も心もすり減らして働いている。

 この子の性格だから、きっと休み無しで働き続けているのだろう。今は食事の名目で、副司令に休まされていると見た。

「今まで、散発的な戦いが多かった。手を抜いていたわけではないんです。でも、皆がいるから乗り越えてこれた。無事勝利を掴めた。」

 始めはアタシとマイケルの二人しか前線に出れなくて。

 少しずつ仲間は増えて、それに比例するように戦いも激しさを増した。

「怖いんです・・・。」

「・・・何が。」

 ぶっきらぼうに返す。

 この少女からは、今は司令官としての威厳もクソも感じない。

「失うことが。守れないことが。街を、島を破壊されたらどうしようと。また仲間を失ったらどうしようと、考えてしまいます。」

 そういえば、この子にとってマイケルは初めて失った部下だった。

 今まで共に戦ってきた部下の死を、そう簡単に割り切れるほど、この子は達観できていない。

「それになんでしょうね。アバターだの特別なALTIMAだの。おまけにイロウションなんて新しい敵まで。・・・全部は、受け止められませんよ。」

 噂程度の話に、ここに来て明かされた敵の正体。これを連邦や各フォーチュンに連絡して、果たして取り合ってくれるのか。

 イロウションが本当に世界中に潜り込んでいるとしたら、こんな事はもみ消されるのが関の山だ。

 今回知った全てを、この小さな身体に背負い込もうとしている。アタシ達の命ごと。

 全く、救いようが無い優しいしっかり者だよ。ホント誰に似たんだか。

 でもね。

「自分で自分を追い込むなよ、司令官。」

「・・・え?」

「桜花島の事も、アバターの事も、イロウションの事も。考えるのは全部終わってからだろうが。今考えて、答えは出るのかい?出した所で、戦局に何か影響は出るのかい?」

「そ、それは・・・。」

 きつい言い方かもしれないけど、一気に言わせて貰う。

「今アンタが考えるべきなのは島民の避難。これが第一だろうが。さっきの事も大事かも知れないけど、今は関係ないだろう。桜花島の船頭はアンタだ。

そのアンタが余計な事考えてたらいけない。最優先事項をはっきりさせな。」

「確かにそうですが・・・。」

「アタシ達のことを思ってくれてるのは嬉しいけどね、怖がるのはお門違いだ。」

「お門違い?」

「グラフスの奴にトラウマがあるのは解るよ。その上で、アタシ達を信じてくれないか?」

「信じる、ですか。」

 呆けた顔して、可愛い奴め。

「アタシ達は死なない。必ず勝ち、戻ってくる。現場の指揮はアタシか少佐がやる。アンタは、アタシ達の帰る場所で待っていてくれればいい。」

「それでは司令官として!」

「どしっと構えて状況を見守るのも司令官の役目だ。部下を信じて送り出してくれれば、それで良い。アンタはアタシ達を信じられないかい?」

 勢いよく首を横に振る。

 それだけで、信頼してくれているという事実だけで良い。

「それだけで皆、全力で戦える。信じてくれている人間が一人でもいるだけで、人間ってのは何処までも強くなれるのさ。」

「フミカさん・・・。」

「アンタの背負ってる重み、ちっとは皆にも分けてやりな。幸い、お人好しの集まりだ。喜んで引き受けてくれるよ。背負ってる物の重さを実感出来ないほど、みんな子供じゃない。」

「それでも、今回の敵は・・・。」

「そんな強さを秘めた人間を止めちまった情けない化け物に、アタシ達が勝つことは当たり前。どっかで聞いたけど、確定的に明らか。もう勝負着いてるから。」

 イヅモ語として機能してないよね、この言葉。何故か言いたいことは解るんだけど。

「プッ。なんですかそれ。」

 やっと笑いやがったな、この頭でっかちめが。

 女の子は笑ってるのが一番良いんだよ。

「ふー。何だか色々考えてたのが馬鹿らしくなりました。今すべき事、全力でやらないといけませんね。後は、結局いつも通りです。情けない司令官で

すが。」

「そんな司令官に、アタシは、皆は着いてきた。いつも通りでいいのさ。」

 開き直ったのか、サラダをあっという間に食べ終えてしまった。

 席を立ち、しばらくして戻ってくる。その手には、親子丼の乗ったトレー。

 やっと調子が出てきたか。

「ありがとう、おかあ・・・。近藤フミカさん。貴女がいてくれて、本当に良かった。」

「・・・守ってみせるさ。師匠と教え子達だ。そして、アンタ達も、守ってみせる。」

 だから、背中は任せた。

 しっかりと支えておいておくれよ。

 アンタになら、全てを任せられる。そしてアンタだからこそ、全てを背負う覚悟がある。

 

 

第5幕

 

side-ユラード-

 

「まったく組織の施設ってのは面倒だな。煙草1本吸うのに場所が限られてる。」

「それには同感だな。」

 ついさっきまで殺し合いをしていた男と仲良く喫煙なんて、常識ある人間なら大騒ぎしそうな場面だ。

 でも生憎、おじさん枯れてるからそんな事も気にしないの。

 むしろ喫煙仲間が増えて嬉しいくらいだ。部下達は皆吸わねえし、フミカは酒は飲んでも煙草はやらない。

 ガキ共を誘うわけにはいかねえし。そもそもメイが嫌煙家だし。

 ただ、いい歳こいたオッサン二人が煙草吸ってるって言うのも、奇妙な絵だな。誰かが見ても得はしないだろうな。

「お前さんはよう、テスタメント少佐。」

「ユラードでいい。堅苦しいのは止めようぜ。」

「ならユラード。お前さんは何で残って戦うんだ。この島とはなんの縁も無いだろう。」

 そんな単純なことかよ。

 もっと壮大な事聞かれるかと思って焦っちゃったぜ。

「軍人に戦う理由を聞くのは、ナンセンスだな。」

 何が理由で戦うんじゃない。戦う理由なんて無い。

 ただ力を求められたから戦いに出る。それが兵士で、軍人だ。

「あんた個人の姿が見えてこねぇ。」

「いいんだよ、それで。」

 家族を喪い、仇を中途半端に討ち、燃え尽きてた頃に終戦だ。

 今の俺に、戦う目的も理由もあったもんじゃない。生きてないんだ。死んでないだけさ。

「そういうお前さんは何の為に戦う?」

「金の為だ。」

 おぉ、即答だな。

「戦争で家も家族もみんな無くなっちまった。残ったのは、ミーレスの操縦センスだけ。生きていくのには、それを利用するしかなかった。」

「全てを失くして、よくもまぁ生きる望みは絶えなかったな。」

 今のはちょいと意地悪な質問だったかな。

 だが聞きたい。何故だかこの男を気にかけてしまう。

 命のやり取りをした間柄だから、か?

「妹が最後まで生きててよ。まぁ病気で長く保たなかったがな。そいつがよ、何があっても生きていてほしいとさ。」

「妹さんが、なぁ。」

「あぁ。その後はあんたの耳に届くぐらい傭兵として戦った。俺は妹の最期の願いを免罪符に、多くの場所を荒らしてきた。金の為に。生きる為に。」

 煙草の灰が一気に増える。

 相当興奮しているんだろうな。

 それほどまでに、家族が好きだったんだろう。 

 やり場の無い怒りと憎悪を、腹の中に溜めてきたんだろう。

「そのうち仲間も増えてよ。高いが優秀な傭兵団になっていった。気の好い仲間達と笑いながら、戦場を駆け抜けた。やってる事は悪魔の所業だ。俺は死んでも家族に会えそうにない。」

「そりゃ俺もだ。命を奪いすぎた。地獄逝きの予約はできてる。」

「カッ!傭兵も軍人も、行き着く先は同じってか!」

 笑う。笑うしかない。死後行き着く先に希望が無いのなら、今はただ笑ってやろう。

 それがこのクソッタレの世界への、精一杯の反抗だ。

「それでもな、一個人を狙ったのは一度きり。あのユニオン級の嬢ちゃんだけだ。それだけは信じてほしい。」

「あぁ、信じるよ。」

 そんな真剣な眼をした男の言葉を、信じられないわけはない。

 これでも人を見る眼はあるつもりだ。スターゲイザーじゃなくても、それくらい判る。

「許されない事をしていると分かっていても、俺達仲間は笑っていた。そうしなくちゃ狂気に飲み込まれてしまいそうだったから。地獄の中で、せめて笑って過ごしてやろうと決めていたから。そして、アイツに出逢った。」

 グラフス・エイベロン。人間を止めた、おぞましいほどの狂気を振りまく化け物。

「アイツは、長年の仲間を、共に地獄を生きた仲間を殺した。金の為じゃない、それ以外の理由で、初めて俺は戦うんだ。」

 復讐、か。

 おじさんこういうのに強くいえないな。

「その次を忘れるなよ。」

「なんだって?」

「復讐は別に止めないさ。ただその後、抜け殻にはなるなよっていう、先達からのアドバイスだ。」

「・・・よく覚えておくよ。俺の死因は老衰って決めてんだ。」

 ならば良し。俺から言う事は無いね。

 しかし戦う理由か。

 ・・・あぁ、あるなぁ。俺にも。

「この島の為、守りたい人の為、か。」

「どうしたよ、いきなり。」

「いやな、娘にな、守りたいモノがあるんだ。でもアイツはまだ子供だからな。親の俺がそれを手伝ってやらなきゃ。」

 二人して一息。煙が辺りに漂う。

「教導隊員は随分子煩悩だな。」

「俺の生きる唯一の理由だからな。」

「そりゃいい。」

 不敵に笑うおっさん二人。

 やっぱり絵にならんだろう。

 煙草を灰皿に押し付ける。

 少し相棒の様子でも見に行こうか。

「ところで、あの死神、セリーナだっけ?彼女はどうすんの?」

「放っておくしかない。戦う理由を見つけたら、飛んでくるさ。」

 敵とは言えクラッシャー級、それにあの動きだ。ぜひとも戦力に加えたいが。

「そういや彼女とお前さんはどういう関係だい?やっぱあれか?」

「こういうおっさんにはなりたくねぇなぁ・・・。何だか気にかけちまうんだよ。姐さん呼ばわりしてたけど、危なっかしくて放っておけないというか、なんだか妹を思い出してな。全然違う性格なのにな。」

「・・・惚れたか?」

「だから違うっつってんだろうが!この色ボケ親父!」

 さっきまで殺し合いをしてたのに、もうこんな会話が出来る。

 世界がこんなだったら、それはきっと優しい世界なんだろうな。

 平和の為に戦う矛盾。それを背負うのは、俺達大人の役目だ。

 死ぬんじゃねぇぞ、若者達。

 

 

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