メタリックガーディアン・プロミス 『桜の舞う島で』   作:戒炎

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最終話その2です。
1部の人間が暴走してます。
というか公式のキャラクターを弄りすぎたか・・・。


「SAKURA」その2

第6幕

 

side-シャナ-

 

 明日は決戦だというのに、心が落ち着かない。

 恐怖している訳ではない。それだけは断じてないと言い切れる。

 今の私をざわつかせるものは、一体何か。

 

(まるで迷いでもあるみたい。)

 

 迷い、というより、戸惑い、困惑と言うべきか。

 コウジの傍に居たい。

 その想いはあの時から日に日に大きくなっていった。

 それと同時に、その為の高い壁の存在も認識していった。

 神楽坂マコト。

 思い返してみれば、彼女は私にとって、この島での初めての友人だった。

 まだ誰にも心を開いていなかった頃、彼女には、不思議と不快感を感じなかった。むしろ安堵感を覚えたほどだ。

 大切な、大切な親友とも呼びたい彼女を、妬ましいと感じ始めたのはいつか。

 ・・・いや。私がコウジに想いを寄せてすぐに、その暗い感情はこの心に住み着いたのだろう。

 私が最も欲してやまない場所。彼の隣。彼女は何の違和感もなく、当たり前のようにそこにいた。

 当たり前のように話し、時には手を上げ、当たり前のように笑いあう。そんな関係。

 羨ましい。妬ましい。私もそこに、私がそこにいたい。身分など放り出してでも。

 ・・・私は騎士として、いやさ人として最低だ。

 こんな時、親友に対し、戦友に対し、こんな気持ちを抱いているなんて。

(シャナ・・・。我が騎士シャナ・アティアイナ。聞こえますか。)

 これは、女王陛下からの念話か。

 アバターやイロウションのことを皆に黙って勝手に報告してしまったが、良かったのか?

 いや、私は本来レムリアの騎士。当たり前のことではないか。

 何を後ろめたい気持ちになっている・・・。

 でも、これがコウジに知られたら、彼はどう思うだろう。

(・・・顔を合わせて話をしましょう。メモリープロジェクタ。)

 え?ちょ、ちょっと待って!今の顔はさすがに陛下には見せられない!

 私が慌てていると、魔法による立体映像が映し出される。

 そこにはいつもと変わらぬ、サナート・レムリア女王陛下のお顔が。

『顔を見るのは久しぶりですね、シャナ。あら?どうしました、そんなに慌てて。』

「い、いえ!ご無沙汰しております。陛下に置かれましてはご機嫌麗しく・・・。」

『貴女達の置かれている状況下で、そんな挨拶は不要です。早速ですが、イロウションなる存在ですが。』

 本国に報告した結果がもう出たというのか。

 それほどかの者達の脅威を感じ取ってくださったということか。

『結論から言うと、何も分かりませんでした。我らが敵、オーク達とも違うようです。奈落と融合し、自我を保っていられる存在がいるなどと、今でも信じられませんが、貴女が直接見聞したことです。事実なのでしょう。』

 まぁ報告してまだ半日も経っていないのだから、そうくると思ってはいた。

 だが陛下の知識を持ってしても該当しない存在とは、厄介な。

 それではこの地球上で奴らについて知っているものは皆無ということにならないだろうか。

『貴女は私のことを過大評価しすぎです。私にも理解できない事はあるのですよ。』

「そ、そのようなこと・・・。あ、いえ!陛下の知を侮ったわけでは決して!」

『少し落ち着きなさい。貴女は感情を抑える術を知りなさい。・・・いつもの凛とした貴女ではありませんよ。何か、あったのですか。』

「!?へ、陛下のお耳に入れるほどのことではございません。」

 見抜かれている!?そこまで分かりやすかったか!?

 だがこんな心を陛下に曝け出していいはずが無い!

 私自身で解決しなければ・・・。

『自分ではどうしようもないから顔に出ているのです。いいから話してごらんなさい。それとも、騎士たるものが隠し事ですか?』

 心を読んでいるのかこの御方は!?

 ど、どうする?どう逃げる!?

『この期に及んで逃げる事は許しません。そんな状態で決戦に臨む気ですか?』

「・・・はい。」

 もう、逃げ切れないか・・・。

 私は全てを話した。

 一人の男子(おのこ)を好いたこと、その傍らには一人の女子(おなご)がいること、そしてその女子は、自分の親友であること。

 とても身勝手な話だ。どんな罵倒をぶつけられるだろう。

『・・・クス。』

 え?

『プ、フフフフ。いえ、ごめんなさい。そう、貴女が。ウフフフフフ。』

 な、何を笑っておられるのですか!

『笑ってしまってごめんなさい。貴女にとっては大事な悩みなのですものね。』

「私は、この欲望が膨れ上がっていくのが怖くてたまりません。騎士として、このようなモノ抱いてはいけないのに・・・。」

『騎士として、ですか。シャナ。貴女は一人の騎士であると同時に、一人の女なのですよ。そんな感情、抱いて当たり前なのです。』

 しかし、それでは私の目指す騎士道は遠のくばかりです。

 女を捨てたつもりでこの国に来たのに、女であるがゆえに自分も、きっと友も傷つける。

 それなら、恋など、愛など知らなければ良かった!

『シャナ。たしかに色恋は古くから多くの破滅をもたらす事象です。ですが、それと同時に人としてとても大事な事なのです。誰かを愛し、それを育み、後世に伝えていく。それは生きとし生けるものの定めなのです。何を恥じる事がありましょう。』

「ですが陛下。私は。」

『貴女は優しい娘。その場所を奪ってしまえばよいものを、そうすれば友が傷つくと考え、余計に自分を苦しめている、繊細な娘。』

 そんな、買い被りすぎです。

 私は、醜い人間です。

『ですがそのままでは貴女は内側から壊れてしまう。それは周りの、大切な人たちをも傷つけるでしょう。』

「それは、嫌です。彼らを傷つけるなんて、出来ません。」

『本当に優しい娘。そんな貴女に出来る事は、一つです。』

 こんな私に、出来る事があると?

 臆病で、卑怯で、醜悪な私に。

『正面からぶつかりなさい。』

 はい?今なんと仰られましたのこと?

 正面から?ぶつかれ?

『無論、相手は東屋コウジではなく、神楽坂マコトです。』

 あ、あの。それができれば。

『それができれば苦労は無い、と言いたそうですね。』

「そ、その通り、です。」

『ですが、貴女のような素直で正直な人間は、自分の想いを隠してはいられないでしょう。だからこそ正面から言っておやりなさい。貴女と同じ男を、私も好きだ、とね。』

 え~~~~~~?

『大体二人はまだ恋人ではないのでしょう。ならば、勝負なさい。騎士らしく、真っ向勝負を。どちらが先に振り向かせるか、女と女の意地の戦いです。

聞いたところ、神楽坂マコトも真っ直ぐな娘のようですからね。それで壊れる友情など、初めからそんな物でしょう。』

「いえ、あの。確かにそうなんですが・・・。」

『それとも貴女は、勝負の前から負けを認めるのですか。そんな簡単に諦めがつく程度の想いだったのですか?』

「陛下!例え陛下であっても、そのような事を!」

 負ける気でいる?色恋で壊れる友情?そんな馬鹿な!

 私は負けたくない!例え過ごした時間は短くとも、この想いは本物だ!

 マコトとも、そんな軟な関係ではない。結果がどうであれ、生涯の友になれる!

『ならば勝負なさい。大丈夫。貴女なら、そんな黒い感情を切り伏せられると信じています。』

 陛下。貴女が焚きつけたのですよ。

 私は、走り出したら止まれませんよ。昔から、そういう人間だったのですから。

「誓います。私は正々堂々、マコトに宣戦布告をします。その上で明日の決戦を生きぬき、平和の下で女として戦います!」

『えぇ。私と貴女の《約束》ですよ。』

 陛下はニコリと微笑む。本当にお美しい方だ。

 この御方の騎士であれた事を誇りに思う。だが。

「ですが陛下。この桜花島は多くの難事を抱えています。それは先の二人も例外ではありません。」

『ふむ。』

「もし祖国がこの島に、彼らに対し不利益を働くなら、彼らの害となるなら、私は祖国と一戦交える覚悟です。」

 そこだけは譲れない。

 不忠者と蔑むがいい。裏切り者と罵ればいい。

 だが、すでに桜花島は第二の故郷だ。親兄弟に背いても守りたいモノが、ここにはある。

『フフ。それでこそ我が騎士です。』

 こうして優しく諭し、背を押してくださった主に対し、弓を引くような事を言っても、暖かく包んでくれる。

 私は、天下一の果報者だ。

 そんな果報者を恋人に、その、妻にできたら、彼も喜ぶだろう!

「では女王陛下!失礼いたします!」

 私は走り出した。マコトの下へと。

 初めての決闘が男をめぐってとは。性別がそれぞれ逆なら絵にもなろうものを。

 それでも私は止まらないぞ!

 おそらく彼女は自分の気持ちに気付いていないだろう。私の言葉は、それを気付かせる切欠になるやもしれない。

 だがそれでいい。それがいい。同じ目的が無ければ、決闘とは言えない。

 お前なら、私の嫉妬を正面から受け止めてくれるはずだ。そしてその上で勝負してくれるだろう。

 あぁ、さっきまでが嘘のように心が、身体が軽い。私はこんなに単純だったのか。

 負けられない戦いが、二つもできてしまったな!

 

「まったく、通信を切る前にいなくなってしまうとは。」

「それにしてもあのシャナをあそこまで虜にしてしまうとは。東屋コウジ、ぜひともレムリアに招きたい人物ですね。」

「その為にはシャナ。負けてはいけませんよ。二つの戦いを。」

 

 

第7幕

 

side-マコト-

 

 カフェテラスでちょっと休憩・・・なんて優雅な気持ちになれない。

 明日で決まる。この島の、そしてボク達の命運が。

 正直怖い。今までだって命懸けで戦ってきたはずなのに。

 あの人。グラフス・エイベロン。あのどす黒いプレッシャーが、どうしても怖い。

 あの時、正体を現した姿は、ボクが見てきたどんな物よりも邪悪で、飲み込まれそうな狂気を感じた。

 勝てるんだろうか。いや、勝たなくちゃいけない。

 勝たなくちゃ、全てが失われる。桜花島だけじゃない。本土だって危険に晒される。

 ボク達が止めなくちゃいけないんだ。

 なのに。身体の震えは止まってくれない。

 もう嫌だ。逃げ出したい。そう考えてしまう。

 駄目だなぁ、ボクは。

 皆はどうしているんだろう。どうやって、この恐怖心と戦っているんだろう。

 コウジは、今何をしてるんだろう。

 はぁ・・・。こうやって誰かを頼りにしてるのがいけないのかな?

 今夜、ちゃんと眠れるかな。体力を取り戻しておかないと、明日、皆の足を引っ張る事になる。

 あぁ、嫌だ。駄目だ。悪い事しか頭に浮かんでこない。

 こんなんじゃ、タリスマンも応えてくれなくなる。

 どうして。どうしてボクなんだろう。アバターの話からすると、偶然だよね。

 ボクよりももっとうまくやれる人がいたはずなのに・・・。

 嫌だなぁ。またこんな事考えてる。

「はぁ・・・。」

 もう溜息しかでてこない。

 本格的に、駄目かも。

「マコトーーーーーーーーーーーッ!!」

 突然大声が響く。

 カフェにはボクしかいないからよかった。誰かいたら何事かと思われる。

 て言うかこの声は、シャナ?

「ようやく見つけた!こんな所にいたのか!」

 汗まで流して。まさかボクを探して支部を駆け回ってたんじゃ。

「あのな!私は、ゲホッ!」

「と、とりあえず水でも飲んで落ち着いて。」

 一体何事だ?

 シャナは時々暴走するけど、こんな時にまで?

 だとしたら凄いなぁ。明日への不安なんか無いのかな?

「ングッ!ングッ!ップハァッ!ハァ、落ち着いた。」

「ホントに大丈夫?」

「大丈夫だ、問題ない。」

 不安しかない答えだ。

「それでどうしたんだい?ボクに何か用事でも?」

「あぁ、それなんだが、その。ん~。いざとなると、その。」

 なんだかはっきりしないな。

 いつもなら聞きたい事があったらはっきり聞いてくるのに。

「あー、うん。良し!言うぞ!」

 何か覚悟を決めたような顔をする。

 テンションがよく解らない。

「マコト!私は!東屋コウジが、大好きだ!」

 ・・・・・・・・・。

 え?

「大好きなんてもんじゃない。愛しているんだ!め、夫婦になりたいとも思っている!」

 ちょ、ちょっと待って!

 いきなり何言い出してるのさこの娘は!

「子供は二人がいい!もちろん騎士としての教育を施し、将来偉大な騎士にしたい!」

 いやあの!

「抱きしめたい!抱きしめられたい!傍に居たい!居てほしい!支えあって生きたい!」

 ちょっと!?

「キスがしたい!してほしい!この身を包んで欲しい!いつまでも共に居たい!」

「とりあえず落ち着けーーっ!」

 必殺!正中線四連突き!

「グホァッ!?」

 

「落ち着いた?」

「すごく・・・落ち着いた・・・。がふっ。」

 綺麗に入ったのに会話ができるなんて、さすがシャナ。鍛え方が違う。

 これに耐えられるのはお父さんとコウジぐらい。というか二人以外に初めて使ったかも。

「それで?さっきのはいったいなんなのさ。」

「決まっている。私がどれくらいコウジが好きかを語ったのだ。」

 いやそんな堂々とされても困る。

 そもそもさ。

「なんでボクに言うんだよ。本人に言いなよ。」

「言ってもいいのか?」

 ・・・何だろう。なんか嫌だ。

 シャナがコウジを好きな事は知ってるけど、それを確認するたび、嫌な気持ちになる。

 どうしてだろう。ボクは別に、関係ないのに。

「その様子だと、まだ気付いていないのか。いや、気付かないふりをしているのか。」

 いきなり何を言うのさ。

「マコト。想像してみろ。コウジの隣に、自分じゃない女が居る事を。楽しそうに笑って、じゃれあって、幸せそうにしているのを。自分の知らないところでだ。」

 想像してみる。

 自分じゃない誰か。ボクの知らない誰か。そんな誰かが、コウジの傍にいる。彼を支えてる。

 ・・・嫌だ。

「嫌だろう。彼の傍にはお前がずっといたんだから。昔から一緒に居て、良い所も悪い所も知り尽くした仲だ。飽きることなく、支えあってきた仲だ。

疎遠になる事も無く、ずっと一緒に居た。離れなかった。それは何故か。」

 聞きたくないと心が言う。でもその奥深く、本心では、きっと。

「それはマコト。お前が、コウジの事を好きだからだ。じゃなかったらこんな命が危険な場所まで駆けつけない。あそこまで息の合った戦いは出来ない

し、折れかけた心を支えようとはしない。好きだから出来るんだと、私は思う。」

 隣に居るのが当たり前だった。

 誰よりも近くに居るのが当たり前だった。

 ケンカしあうのも、いつの間にか自分の特権だと思っていた。

 仕方ない奴だからと、ボクが一番傍で助けてやるのは、家族みたいなものだからと思っていた。

 昔、泣き虫で弱虫だったボクを守ってくれたコウジへの、恩返しだと思っていた。

 そう思う事で、変わらない関係を築こうとしていて、それに成功したと思って。

 でも違った。表ではそう思っていても、本心ではもっと踏み込みたかった。

 その勇気が無くて。今の関係が壊れるのが嫌で。ずっとしまいこんでいた。

 人から言われて。シャナから言われて初めて顔を出したボクの本当の気持ち。

 コウジのことが、好き。

「ボクは、東屋コウジが、好き。」

 口に出すと、ストンと何かが落ちてきた。

 空っぽだった場所に、あるべき物がはまった。収まるべき所に収まった気がした。

「やった気付いたのか。半年近く一緒にいたが、本当に気付いていなかった。というか、押し込めていたんだな。傍から見ればもう恋人に見えていたと言うのに。」

 え?そんなに露骨だったかな?

 なんだろ。自覚したら顔が凄い熱くなってきた!

「でもなんで?ボクが気付かないうちにコウジに告白すれば、うまくいったのに。」

「それではお互いに気持ち悪い結果になる。恋人になれたとしても、なれなかったとしてもだ。」

 つまりシャナは、抜け駆け、というより不意打ちをしたくなかったのかな?

 ボクが気付かないままでいれば、それが切欠でボクは本心が顔を出すかもしれない。それも最悪の形で。

 シャナも、彼女はいい娘だから、心にしこりが出来てしまうかもしれない。

 そうなれば、ボク達の関係は悪い方へと変わってしまう。

 それは彼女も望むところではないのだ。真っ直ぐな娘だから。

「横から掠め取っていくような真似はしたくない。スタートは同じ向きがいい。だからこうして宣戦布告しに来た。」

 宣戦布告か。シャナらしい。

「でもいいの?一緒にいた時間が長い分、ボクが有利だよ。」

「恋に時間は関係ないと聞いた。それに始まってしまえば、抜け駆けだろうがなんだろうが構わない。全力でコウジを振り向かせる。」

 強いなぁ。シャナは。

 リンケージとして強いとも思うし、女の子としても強い。

 きっと、どんな結果になろうとも、それを受け入れるだろう。

 ボクが勝っても、シャナが勝っても、ボクもそれを受け入れよう。

 たとえ負けたとしても、女の子としては強くありたいから。

 まぁ、ここまできたら負けようとは思わないけどね。

 気付かせてしまった事を後悔させてやる。

「それにまだ一人。強力なライバルがいるよ。」

「あぁ。戦いが終わったら、メイとも話をしよう。三人フェアで、だまし討ちもありだ!」

 なんて戦いだ。高潔な騎士とは思えない発言だよ。

「シャナ。ありがとう。ボクのホントの気持ちを引き出してくれて。」

「私の我侭だ。それに巻き込んだだけだよ、親友。」

 親友。うん、親友!

 ボクは、シャナ・アティアイナという女の子に出逢えて本当に良かった!

 時間も遅いけど、なんだかコウジと話したくなった。

 別に早速告白、なんて訳じゃない。

 話すことで、不安を解消したい。勇気を貰いたい。

 そして出来る事なら、その心を支えたい。

 

「それに私やメイには強烈なアドバンテージがある!(ぷるるん)」

 秘技!マッハ突き!

「キャオラッ!!」

「ガバババババボアァッ!?」

 

 

第8幕

 

side-コウジ-

 

「う~、寒っ。さすがにこの季節の夜に屋上は冷えるか。」

 だれもいない空間に、俺一人の声が木霊する。

 ブレイガストの様子を見に行きたくても、作業中で邪魔になるだけだ。

 かといってシュミレーションをする気にもなれない。第一、あの野郎に今更そんな訓練が通用するとは思えない。データも無いし。

 ただ何となく屋上まで来てしまった。

 一人になりたいわけでもない。ただ、ここからは街と学校がよく見える。

 さすがに住宅地は遠いけど、それでも感じる事は出来る。

 俺の産まれた島。育った島。通った学校。遊んだ繁華街。

 見えないが確かにあそこにある、丘桜。

 俺にとって大切な場所。守りたい場所。

 それを、あんな奴に渡したくない。壊されたくない。

 桜の枯れない不思議な島。それが特殊なALTIMAのお陰なら、それを失えばもう桜花島は桜花島足り得ない。

 必ず、奴を倒す。

 一人じゃ無理かも知れない。けれど、俺には仲間がいる。頼もしい仲間達がいる。

 あいつらと一緒なら、絶対に勝てる。そう確信できる。

 マコト以外はこの島と関係ないのに、残って戦う道を選んだ馬鹿たちだ。負けるはずがない。

 恐怖なんて微塵もない、わけじゃない。それよりも、勇気が上を行くだけだ。

 ただ、父ちゃんたち、ちゃんと避難できたかなぁ・・・。

 ピトッ。

「うわっちぃ!?」

 何かが頬に触れる。それは熱々の缶コーヒーだった。

 人が浸ってる時に誰だよチクショウ!

「驚きすぎだよ。こっちがビックリした。」

 マコトがいた。まぁ、そうだよな。こんな事するのはこいつしかいないよな。

「はい。冷えると身体に良くないよ。」

 さっきの缶コーヒーをもう一度差し出す。もう片方の手にも持っている。

 コーヒーを飲みあうような歳かね、俺ら。まぁ折角だから貰っておこう。

 受け取り、プルタブを開ける。コーヒーの濃厚な香りが鼻腔をくすぐる。

 ブラックか。さすが幼馴染。好みが解ってるじゃないか。

 一口啜るように飲む。熱さと独特の苦味が口に広がる。って、語れるほど詳しくないけど。

 そのまま二人して手すりに背をあずけ、ちびちび飲んでいく。

「・・・どうしたんだよ。」

「別に。ただ顔が見たくなった。」

「・・・そうかよ。」

 その後に続く言葉は無い。だがそれが、何だか心地良い。

 明日は大変な一日になるというのに、いつも通りな感覚。

 心の中に安心感が広がっていく。若干の不安が取り払われていくようだ。

 こいつといる時間は、なんだか心安らぐ。なんでだろうな。

 なにも喋らないのに、沢山の言葉を交わしているような、そんな気さえする。

「凄いね・・・。」

 マコトが唐突に口を開いた。

「何が?」

「ブレイガストとタリスマン。あの子達、生きてるんだ。」

 アバターの話を要約すると、そうなる。

 あいつらは俺達の細胞、生体データから創られた。つまりはもう一人の自分だ。

 どうしてもブレイガストを兵器だと感じられなかったのはその所為か。

 馴染むはずだ。応えてくれるはずだ。なんせ俺なんだから。

 自分のことは、自分が良く知ってる。俺に合わせて戦ってくれていたんだ。

 鋼鉄の相棒。半年間、よく頑張ってくれたよな。

 明日で、別に全てが終わるわけじゃない。でも、一区切りつく。

 そうしたら、しっかり洗ってワックス掛けもしてやるとするか。

「それで、ちょっと思った。」

「何を?」

 俺、聞き返してばっかだな。

「何だかあの子達、ボク達の子供みたいだな、って。」

「ブッフォッ!?」

 うが、コーヒーが変なトコ入った!

「い、いきなり何変な事言い出しはじめますのことよ!?」

「ふふっ。ゴメン。なんかそんな事考えちゃって。」

 若干の照れがはいってやがる。恥ずかしいならそんなこと言うなよ。

 まったく。なんだ、その。

 意識しちゃうじゃないか。

「お前らしくない。いや、お前らしいのか、その乙女チック思考。」

「あ、酷いな。ボクはちゃんとした女の子だよ。」

「凶暴だけどな。」

「それは・・・、ある程度心を許してるからそんな面も見せられるんだよ。」

 嫌われないって、確信してるから。

 そう呟いた。

 なんだ。今日のこいつ。いつもと違う。

 その、ちょっと可愛い・・・。

 て!俺は一体何を考えてるんだ!?

 この手!この手は今何をしようとした!?まさか肩でも抱きしめようとしたのか!?

 落ち着け!落ち着け俺!

「どうしたの?頭なんか振って。」

「邪念を追い出してる。」

「はは。変なコウジ。」

 誰の所為だよ。笑うなよ。

 俺一人恥ずかしいだけじゃないか。

 ひとしきり笑うと、マコトは急に黙ってしまった。

 さっきまでとは違う。暗い表情だ。

「勝てる、かな?」

「・・・そんな風に考えるなよ。勝つんだ。」

「でも。ボクらの後ろには、沢山の人たちがいる。大切な友達に、大切な、家族。絶対に退けない。負けられないだけど。」

 そこまで言うと、一息つく。

「怖いよ。あの人のプレッシャーも。誰かが、失われるのも。」

「マコト・・・。」

 よく見ると、マコトは震えていた。寒さではなく、明日への恐怖で。

 俺達が背負っているもの。それはとてもちっぽけだけど、掛け替えの無い大切なモノ。

 友達。家族。家。未来。自分以外の人のことまで背負って戦う。

 なるほど。これが力なき人の為の戦いか。メイの言葉が、今更ながら重みを増してきた。

 でも。だからこそ、負けられない。

 後が無いからじゃない。そんな皆の為に戦える事が、俺には誇らしい。

 小さいけれど、大きな宝物。俺が守りたい宝物。

 そして、約束。アイツとの約束。マコトを守る、それが俺に力をくれる。

 共に戦う以上怪我だってするかもしれない。でも、死なせない。俺が一緒に戦う以上、死なせなんかしない。

「あ・・・。」

 俺はマコトの頭を肩に引き寄せる。

 こいつ、こんなに小さかったんだな。俺が175だったから、20cmは違うな。

 こんな小さい身体で、夏までは普通の女子高生だったのにな。

「守ってみせるさ。大丈夫だ。俺がいる。俺達が揃えば、ブレイガスト・ノヴァがいれば、あんな奴怖くない。」

「うん・・・。」

「だから、俺を支えてくれ。お前がいると、力が湧くんだ。何でも出来そうになるんだ。だから、頼む。一緒に戦ってくれ。」

「うん。うん・・・。」

「お前の背中は俺が支える。お前は俺の背中を支える。最強コンビだ。今までも、これからも。」

「う、ん。うん・・・。」

 まったく。なんで泣くんだよ。また昔の泣き虫に戻っちまったのか。

「だから守ろう。俺達の大切なモノ全部。欲張ろうぜ。全部だ。何一つ渡さない。」

「うん。そうだね。」

「無事に帰って、また学校で馬鹿やろうぜ。探検部は、まだまだこれからだ。」

「馬鹿やってるのはコウジだけだよ。」

 失礼な。

 それにしても、さっきまでの寒さを感じないな。

 これも、二人でいるからかな。

 就寝の時間まで、俺達は身を寄せ合っていた。

 お互いの存在を確かめ合うように。

 

 

第9幕

 

side-コウジ-

 

 翌日、基地のレーダーに敵影を発見したことにより、俺達はブリーフィングを開始した。

 ちょうど24時間といかなかったことがいかにもグラフスらしいいやらしさだ。

「総員、不調はありませんね。・・・よろしい。これよりブリーフィングに入ります。」

 司令は落ち着いている。敵が迫って来ているというのに。これが決戦だというのに。

 強いな。まだ子供だってのに。

 いや、今更か。この子、いやこの人はいつもそうだ。俺達に対して弱さを見せない。

 今までの戦いで分かった。司令官が冷静だと、俺達も安心して戦える事を。

「まず一つ。今現在、ラグシオンの姿は確認できませんでした。最後尾にいるのであれば話は別ですが、それらしい反応もありません。」

 ここに来て高みの見物か。俺達が慌てふためくのを見て楽しんでるんだろうか。

 あるいはこの期に及んで俺達の力試しか。

 どっちでもいい。全部蹴散らす。その上で出てきたあいつをぶっ潰す。それだけだ。

「敵前衛ですが、とりあえず映像を見てください。」

 映し出されたのは、敵の姿。

 まず一つ、茶色い身体と黒い翼、星型の頭部の奈落獣。

 続いて、亀に蝙蝠の翼が着いた奈落獣。その速度はいささか遅い。

 さらには巨大な蛇が直立したような、超大型の奈落獣が数匹。

 残りは有象無象だが、全て奈落獣。数は、映像に映るだけで数えるのが嫌になるほど。

「おいおい。こいつらまさか。」

 先生の呟きに、司令が頷く。

 間違いない。今まで倒してきた奈落獣だ。

 ギルガーン、アビスボマー、名前は知らないが巨大奈落獣。

 巨大奈落獣はユラードさんたちが一蹴したが、残る2匹はかつてやっとの思いで倒した敵だ。

 随分粋なことしてくれやがるじゃないか、グラフス。

「これは、前哨戦からして厳しい戦いになるな。」

「いやいやシャナ。再生怪獣ってのはやられ役って、この国では相場が決まってるんだよ。」

「そうなのですか?」

「メイちゃん。こいつのは漫画の読みすぎだから気にしないでいいよ。」

 ひでぇなぁオイ。

「それも正論ですね。一度倒した相手です。負けることは無いでしょう。」

「ちょ、ミウコ!じゃない司令!アンタも乗らない!」

 司令もそう思うよな!2度目の敵に遅れを取るようじゃ正義の味方にゃ程遠い。

「お前らな、もう少し緊張感を持て。」

 ユラードさん。呆れてらっしゃるがこいつは真理だ。

 主人公ってのは同じ苦難は難なく乗り越えるものなんだよ。

 ブリーフィングルームの端でジョニーが肩を震わせている。

「何笑ってるんだよ。」

 そう、ジョニーは笑っていた。

 馬鹿にするようではなく、まるで楽しそうに。

「いやなに。俺達はこんな連中に負け続けてきたのかと思うと、何だか可笑しくなっちまってな。」

 その言葉を聞くと、年長組から笑いが移りはじめる。

 そのうち部屋に居た全員が笑っていた。

 こんな時だというのに、緊張感の欠片も無く。

「良いんじゃないでしょうか。私達はこれで。」

 メイが一番染まったくせになにを言ってるんだか。

 ひとしきり笑うと、皆の顔が急に引き締まる。

 おふざけはここまで。これからは、敵への対策を練る。そういうことか。

「では改めて、作戦ですが、各機を分散し敵に当てます。戦力は低下しますが、島で暴れられるのを防ぐためです。特にアビスボマーは、少なくとも島から離れた場所で撃破するのが前提です。」

 あの爆発がそのままだとしたら厄介この上ないからな。

 それにしても戦力分散での戦闘か。

 不安は正直ある。でも。

「アタシ達も強くなってる。遅れは取るまいよ。」

「頼もしいかぎりです。」

 先生の言うとおり、この半年で俺達は強くなった。

 それにさっき言った。前に戦った敵なんて怖くもなんともないね。

「編成ですが、飛行できないアクセルギアmk-Ⅱはギルガーンを誘い込んで陸上での戦闘。近接戦にはバルサーガ・レイで対処を。」

「ここまで来てこのコンビかい。頼むよシャナ。」

「ああ。あの時のようにはいかない。接近戦は任せてくれ。」

「次にアビスボマーですが、ラピス・ラズリに対応してもらいます。遠距離での戦いとなりますので、イグニスが適当でしょう。」

「了解しました。」

 メイ一人か。いや、こいつの腕を疑ってるわけじゃないが、大丈夫か?

「それとラピス・ラズリですが、ようやく完成したシステムと武装を搭載します。」

「それは一体なんでしょう。」

「サテライトシステムと、サテライトキャノンです。近づかずに撃破できる上、多数の敵を巻き込めます。」

「完成していたのですか・・・。鳳市から持ち込んだアレが。」

「ぶっつけ本番ですが、いけますね?」

「・・・はい。必ず使いこなして見せます!」

 さてらいとしすてむ?ここにきて新兵器かよ。

 だけど、それってなんぞ?

「衛星からエネルギーチャージし放つ巨大ビーム砲。もはや戦術兵器だよ。出力の問題で一発限りだけどね。威力はブロッサムブラスターやアクセルギアのHEA砲以上だよ。」

「マジで!?」

 そんなとんでも兵器が存在するのかよ。

 え?それを標準装備してるオーバーロード級もいるって?

 怖ッ!?オーバーロード級怖ッ!スターゲイザー怖ッ!

 あ、俺もスターゲイザーだったっけ?

「蛇型の巨大奈落獣に対してはテスタメント小隊。貴方達に任せます。スペックが同じであれば、撃破は簡単でしょう。」

「了解したよ。おじさん達の底力、見せようか。」

「最後にジョニーさん。貴方は単独飛行が可能な点から、その他奈落獣の殲滅を行ってください。数は多いですが、我々も援護しますし、撃破に成功し

た機体も後から向わせます。」

「無茶振りだなオイ。ま、全力で当たらせてもらうとするか。報酬は帰ってからな。」

「えぇ。傭兵を使うんです。報酬の方も考えておきましょう。」

 なんだかんだで金かよ。きたないなさすが傭兵汚い。

 あれ?なんか大事なこと忘れられてないか?

 さっき最後にって・・・オイオイ!

「俺とマコトはどうするんだよ!?」

「そうだよ司令!こんな時に留守番は無しだよ!?」

 二人して司令に詰め寄る。

 こんな大事な戦いに俺達を出さないなんてどういうことだよ!

 敵が多いなら、それこそブロッサムブラスターやサンダーボンバーの出番だろうが!

「2機はラグシオンが現れるか、敵の撃破が追いつかなくなるまで温存です。グラフスの狙いはブレイガストとタリスマンを取り込み、桜花島の地下にあるALTIMAをも捕食する事。2機は出来る限り完全な状態で戦っていただきたい。お二人が墜ちることが、我々の敗北を意味します。」

 そりゃ、あの口ぶりからすれば俺達が狙いなのは解ってる。

 でも、皆が戦っている間何も出来ないのは、歯痒い。

「そもそも、あの2機は特殊な構造の為、まだ整備が完了していないのです。中途半端な状態で出撃させて撃墜されては元も子もありません。」

 言いたいことは解ってる。

 それでも、俺は・・・。

「心配するな、コウジ。」

 シャナ?

「お前達が存分に暴れられるよう、私達が舞台を整えておく。それとも、私達では頼りないか?」

 軽い笑顔で、それでいて力強い表情で言ってくれる。

 周りを見渡すと、全員が同じ顔だ。

 自分達に任せろ。そんな声が聞こえてくる。

 あぁ、ホントに。本当に最高の仲間達だよ、お前らは。

「分かった。俺達が出るまで、誰も墜ちるんじゃねぇぞ!」

 誰に言っている!

 全員が声を揃えた。

「それでは各員、出撃準備。私も司令部から援護します。戦死は許しません。全員生きて帰ること。これは命令です!誇りある死など、私は認めません

から、心して掛かるように!」

『了解!!』

 遂に始まる。この島の命運を賭けた戦いが。

 

「ちょっといいか、皆。」

 格納庫で各々自分の機体に乗り込もうとするところに声を掛ける。

 掛けたけど、なんて言おう。何も考えてなかった。

「あ~ん~。ほら!隊長から一言ビシッと!」

「言いだしっぺの法則って知ってるかい?」

 そんな殺生な・・・。

 あぁ、そんな期待を込めた顔で見ないでくれ。今更照れてきた。

 俺が言わなきゃいけないのかぁ。よく考えたらこの中で2番目に下っ端だよ。

 おぉ、むぅ。良し!覚悟は決まった!言うぞ。

「あの野郎との因縁も、これで最後だ。多分アイツは、今回も自分の思うように事が進むと思ってるはずだ。」

 今まで何度も相対してきた。

 苦い思いもしてきた。

 だからこそ、これを最後にする。

「そんな傲慢な野郎の鼻をへし折ってやろう!だから皆、死なないで、生き残ろう!アイツに勝って、笑うのは俺達だ!」

 一瞬の沈黙。

 はは。俺、何言ってんだろ。こんな時まで、よく分からないこと喋ってら。

 だが、笑顔を浮かべ、全員が揃って。

『応ッ!!』

 ただそう応えてくれた。

 それだけ。それだけで皆、機体に乗り込み出撃していった。

 残ったのは俺とマコトだけ。

「・・・勝ったね。」

「ああ。俺達の勝ちだ。」

 どうだよグラフス。

 あの連中を止める事なんて、誰にもできねぇぞ。

 

 

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