メタリックガーディアン・プロミス 『桜の舞う島で』   作:戒炎

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今更気がついた。
まともな事前書きに書いてない。
もうすぐラストなのに。


「SAKURA」その3

第10幕

 

side-シャナ-

 

 バルサーガの中で、目を閉じ息を整える。

 今から相対する目標、ギルガーン。思えばこの島に来て、私が初めて戦った敵だ。

 あの時、私は未熟だった。一撃の下に吹き飛ばされ、碌に戦えなかった。

 今でも未熟は変わらないだろう。だが、奴に遅れを取らないほどには成長した。

 忌々しいが、雪辱の機会を与えてくれた事。その事だけは礼を言おう。

「来るよ、シャナ。」

「ああ。」

 茶色い巨体が翼をはためかせ地上に降り立つ。

 心なしか、その顔がにやけているように見える。獲物を見つけて喜んでいるのか。

 だがギルガーン。獲物を前に舌なめずりは三流のすることだ。と、化け物に言っても理解できるわけも無し。

「近藤。まずは私が行く。今は前座。どうせアレが出てくるだろう。」

「いいのかい?甘えちまうよ?」

「弾の節約だ。その代わり、本番は頼むぞ。」

 剣を構え、ギルガーンと対峙する。

 小型のバルサーガ・レイと比べると、体格が2倍近い。まさに巨獣。

 だが恐怖心など微塵も無い。

 一人で戦うと言ったが、慢心も無い。

 ただ切り捨てるのみ!

 機体を加速させ、一気に間合いを詰める。

 ギルガーンの拳が迫るが、それを苦も無くかわす。

 爪が振り下ろされる。だが、その悉くが掠りもしない。

 全て見えている。落ち着いて、心を研ぎ澄まして。空気の流れを感じ取って動く。

「せいやっ!」

 奴の背中に回りこみ、剣で薙ぎ払う。

 たたらを踏みつつ堪えるが、その姿は隙だらけだ!

 正面に回り、剣に魔法力を注ぎ込む。

 オーラ斬りを一つ、二つ、三つ、四つ!

 舞うように四連斬を見舞う。

『GURUAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 流石に効いたのだろう。叫び声を上げて悶える。

 苦し紛れに爪を大振りするが、そんなものに当たってやるほどお人よしでも、新米でもないのでね。

 貴様には私が羽虫のように見えるだろう。だが、羽虫の身軽さを舐めるな!

 そしてその羽虫には、貴様を切り裂く刃があると知れ!

『GYAOOOOOOOOOOOON!』

 しつこく飛び回り、剣で斬りつける私を追う。

 ある一点に移動した時、奴は間違いなく嗤った。

 まるで獲物を誘い込む事に成功したよう、いや、まさにその通りだったのだろう。

 奴の口にエネルギーが集まる。

 狙われた。撃たれる。

 以前の私なら取り乱していたかもしれない。だが、今はその必要も無い。

 先程の言葉を訂正しよう。私は一人で挑んでいるわけではない。

 突如、奴の顔面が爆発する。その衝撃で口内の光線は霧散した。

「これより桜花島の迎撃システムにて援護射撃を行います!」

 通信機越しに司令の声が響く。これは今戦っている全機にあてられたものだ。

 道路から、山から、崖から。島の様々な場所から砲台が出現する。

 同時に、戦闘空域全体に向って砲撃が開始された。

 そう。私達にはもう一人、頼もしい仲間がいる。それを信じていればこそ、無理も出来る。

 さてギルガーン。早々で悪いが、さっさと化けの皮を剥がすぞ。

 剣を大上段に構え、さらに魔法力を込める。バルサーガが一本の光の柱となるほどに、オーラが天を衝く。

 その姿に恐怖を覚えたのか、腕を我武者羅に振り回す。

 だが遅い。その隙間を縫うぐらいなら、今の私には容易い。

「ハイパーオーラ斬りだぁ!!」

 ギルガーンの真正面へと飛び込み、剣を振り下ろす。

 オーラの柱は奴を両断し、なおかつ後ろの海を割るほどの威力。耐えられまい。

『GIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!』

 悲鳴を上げてのた打ち回る。

 いい加減にしておけよ、狸め。この程度で貴様が朽ちるはずがない。

 案の定、両断した部分から縦に割れるように、茶色の身体が剥がれ落ちた。

 そしてその中から出現したるは、全身を金属の肌で覆われた巨体。

 ギルガーンの真の姿、超奈落獣形態といったところか。

「さぁ本番だ。近藤、私が奴を引き付ける。お前は砲撃を頼むぞ。」

「了解。そういえばアンタ、隊長か、せめて先生をつけな。これでも年上だよ。」

「そう呼ばれる威厳をみせてくれ。」

 力の抜ける会話だが、これで良い。変に力んでいない証拠だ。

 さぁ。第2ラウンドといこうじゃないか。

 

side-メイ-

 

 イグニスを操りながら、時折近づいてビームライフルを打ち込む。

 距離を測りながらの戦いは得意のはずなのに、妙な緊張感がある。

 それはこのアビスボマーの特性によるものだろう。

 ダメージを与えすぎては爆発に巻き込まれる。消極的な戦いをすれば、データにあった通りミサイルが顔を出す。

 自分も、島にも被害を出さずに超奈落獣を倒す。これは中々難易度が高い。安請け合いをしてしまったかもしれませんね。

 ですが泣き言も言っていられない。とにかく、こいつを倒さなければ皆の戦いも無駄になる。

 頭に激痛が走る。こんな時にも、強化人間と言うのは厄介なものですね。

 幸い相手からの攻撃は無し。というより、攻撃能力が皆無らしい。

 飛行する爆弾なのだから、しょうがないのでしょうが、それが余計にプレッシャーとなる。

 一度離れ、イグニスでの攻撃に専念する。

 動きがいつもと違う。おそらくサテライトシステムの所為。

 でも、これが本来のラピス・ラズリの姿。元々システムを搭載するための機体。

 ならばこれを動かせずして何がリンケージか。

 負けない。負けられない。私の後ろには、仲間達が。そしてあの娘達の家がある。

 この島を守ると誓った。背負うものが出来た。小さいけど重い。

 その重さが心地よく、私に力を与えてくれる。ならばこそ。

「私に敗北の文字はありえません!イグニス、フル稼働!」

 全てのイグニスを射出する。

 イグニス一基一基では微々たるダメージしか与えられない。

 でも今はそれでいい。

 切り札の使用。その準備段階なのだから。

 

side-ユラード-

 

「おーおー。相変わらずのデカブツだな。」

 ゆっくりと島に近づいてくる巨体。いや、巨体なんてモンじゃない。

 俺達なんて虫以下に見えてるんだろうな。

 だがそんなこと関係ねぇ。虫の群れ、舐めてんじゃねぇぞ。

「各機、フォーメーション『ダンスマカブル』だ!遅れるんじゃねぇぞぉ!」

「「「「イエス、サー!」」」」

 全員気合い十分だな。

 俺達は巨大奈落獣の内の一匹に向っていった。

 連中は近づく俺達に目もくれず進撃する。その動きはノロい。

 歯牙にもかけないようだがな、自分のその巨体が弱点だと思い知れ。

 それだけでかけりゃ、それだけ遅けりゃ、攻撃は当て放題なんだよ!

 俺と2機はアサルトライフルを撃ちながら接近し、残る2機はバズーカを放つ。

 至近距離まで近づいたらヒートソードに持ち替え、切り裂く。

 それを5機が、急所を狙い執拗に攻める。

 グラリと巨体が傾く。顔が俺達の目の前まで降りてくる。

「今だ!一斉射撃!」

 顔面にこれでもかと攻撃を加える。

 島からの援護も手伝い、巨大な蛇はそのまま海に沈み、朽ち果てた。

 後はこれを繰り返すだけだ。

「野郎共!マガジンの残数を間違えるなよ!取りに戻る暇なんかねぇんだからな!」

 とっとと終わらせて、他の援護に向うとするか。

 

side-ジョニー-

 

 このファッキン奈落獣が!いくら落としても限がねぇ!

 援護砲撃のお陰で少しは楽だが、それでも数が多すぎる。

 敵に回るとこんなに面倒臭い相手だったとわな。

「だがここじゃ沈めねぇ。アイツの鼻を明かすまではな!」

 仲間の仇。グラフス・エイベロン。

 待ってやがれよ。契約を破ったのは手前だ。

 報復は必ず。傭兵の矜持だ。

 敵うかどうかは分からない。だが、噛み付きもせずに逃げたりはしない。

 せめて一矢、出来ればその喉元噛み千切ってやる!

「それにしても多すぎんだろうが!」

 これを一人で相手しろってのはかなり無茶があるぜ。

 あの嬢ちゃんにはしっかりと請求しないといかんな!

 そんなことを考えていると、脚部に衝撃が走る。

 どうやら小型の体当たりを受けたらしい。

 ダメージは無いが、体勢が崩れた。

 そこに奈落獣が殺到する。

 こいつは、やべぇ!?

 一瞬覚悟を決めたが、奈落獣どもがビームによって薙ぎ払われる。

「よう。まさかもうくたばる覚悟を決めたか?」

 ユラードとテスタメント小隊!もうアイツらを片付けたっていうのか!?

 流石は教導隊。化け物は味方に居やがった。

「へ。ちょっと休憩してただけだよ。」

「その減らず口が叩けるんだから、まだ余裕だな。」

 数が増えた。ならこっちのモンだぜ。

 確実に一匹ずつ撃破していく。それでも数が減った気がしない。

「テスタメント小隊、及びジョニーさん。敵をアビスボマーの近くか、後方に集めてください。」

 強化人間の嬢ちゃんからの通信か。そいつはどういうことだ。

 するとテスタメント小隊は撃墜をしながら、言うとおりに敵を誘い出し始めた。

「オイ!一体何が起きるって言うんだよ!」

「ウチの娘に何か策でもあるんだろ。信じろ。あいつの勘や策ははずれねぇ。」

 まったくわけが分からないが、今は味方だ。

 行動の謎は理解できないが、やってやろうじゃないの!

 

side-フミカ-

 

 すごいね、シャナは。

 いくら敵の戦闘力が判っているとはいえ、あの時とはえらい違いだ。

 ギルガーンの攻撃を避け、流し、直撃を避けながら確実に傷つけている。

 昨日の出撃前はどうなる事かと思っていたが、自分で解決できた。というか吹っ切れたみたいだ。

 安心だよ。ここまで安心して前衛を任せられるとは思ってなかった。

 さらには注意を引き付け、アタシのベストポジションへと敵を誘導してくれる。

 隙を見て、横っ面にレールキャノンをぶちかます。

 大きくよろけ、こちらを睨みつけるが、アタシばかり見ていて大丈夫かい?

「何処を見ている!」

 バルサーガが袈裟懸けに斬りつける。

 蝶の様に舞い、蜂の様に刺す。今のバルサーガにぴったりの言葉じゃないか。

 ギルガーンはその動きに反応できず、右往左往している。

 まったく。リンケージとしても強くなった。機体も強化されたとはいえ、あの時の苦戦は何だったのかって感じだよ。

 砲台からの砲撃も僅かながらに効いている。

 あれはもうアタシの仇じゃない。それを基にした模造品に過ぎない。

 ならば、心揺さぶられる事も無く。もはや敵じゃない。

 こんなことでアタシらの戦力を削れると思うなよ、グラフス・エイベロン。

 一度倒した相手に、手こずる連中だと思っているなら、今すぐその認識を改めな。

 バルサーガが斬りつけ、アクセルギアがその隙を縫い砲撃する。

 そのパターンを、どうやら学習したらしい。

 動きの早い小型機より、鈍重な大型を先に潰そうと考えたのか。

 アタシに向って拳が射出される。凄い勢いだ。

 直撃したらダメージはでかいだろう。

 でもアタシは安心していられる。そもそも動きの遅いアクセルギアがその場から動くことなく攻撃する愚を何故犯しているのか。

 護ってくれる存在がいるからだよ。

「信頼してくれるのは嬉しいが、間に合わなかったらどうする気だ。」

「間に合わないはずがない、だろ?」

 アクセルギアの周りをALTIMA粒子の壁が覆う。

 その姿は、翼に抱かれているようだった。

 バルサーガが粒子を多重展開し、機体を護ってくれたのだ。

 ギルガーンの拳は届きはしたが、こちらはほぼ無傷。戦闘にはまったく支障は無い。

「そろそろいくぞ!」

「あぁ。トドメといこうかい!」

 バルサーガが三度距離を詰める。片手を戻しきっていない奴は慌てているようだが、滑稽だね。

 奈落獣にもそんな感情があるんだね。焦燥と、恐怖心が。

「おおおおおぉぉっ!!」

 バルサーガのハイパーオーラ斬りがギルガーンの胸を×の字に切り裂く。

 傷口からは大量の血が溢れ出した。

 その掃除、一体誰がすると思ってるんだい。ま、アタシじゃない事を祈るよ!

「今だ、近藤ぉっ!」

「ど真ん中・・・。ぶち抜く!」

 レールキャノンの弾丸が傷の中央に吸い込まれていく。

 奴の体内をズタズタにしても弾の勢いは止まらず、背中から貫通した。

『GYAOOOOOOOOOOOONN!!』

 悲鳴が周囲に轟く。

 内部からエネルギーが漏れ出し、コチラのセンサーにも分かるほど臨界点を突破している。

 一瞬の静寂の後、ギルガーンは爆音と共に大爆発を起こした。

 まぁ、こんなもんだろう。一仕事終わり。次に備えないとね。

「私達はどうする?」

「とりあえず自前の予備弾装やら補給装置で準備だ。いつアイツが現れるか分からないからね。」

 アビスボマーは、少佐達が援護に入ったみたいだから大丈夫。

 なによりあのトンデモ兵器がある。メイなら確実に使いこなせるだろうから。

 今は、真の最終決戦に向けて一息つかせてもらおうか。

 

side-メイ-

 

 計算上、そろそろアビスボマーの耐久力は尽きるはず。

 イグニスでの攻撃を中止し、全てを格納する。

「司令。アビスボマーへの砲撃を中止してください。トドメに入ります。」

「了解しました。確実にお願いします。」

 確実に、ですか。責任重大なのは相変わらずですね。

 戦闘中からサーチしていましたが、やはり敵内部にはミサイルが搭載されている様子。

 良いでしょう。ならばその切り札ごと、この世から消し去って見せます。

「テスタメント小隊、及びジョニーさん。敵をアビスボマーの近くか、後方に集めてください。」

 超奈落獣一匹に対して使うに不足は無いとはいえ、やはり落とすなら少しでも多く!

 軌道上の衛星から、マイクロウェーブを照射。

 背部リフレクターにそれを受ける。

 一カバリエ級やオーバーロード級が単機では出せないほどのエネルギーが集まる。

 もっと。もっと敵を引き付けて。なおかつアビスボマーに近づかれすぎないように。

 とんでもない緊張感。綱渡りよりもギリギリのライン。

 あと少し。あと少しで全てロックオンできる・・・。

 あと四つ。三つ。二つ。

 これで・・・、最後!

「味方機、射線上より退避してください!」

 使用すれば都市一つ、コロニー一つを破壊する戦術兵器。

 そのトリガーを引く事、ここまで重く感じるとは思っていませんでした。

 ですが敵は全て海上。遮るものは無し。

 何より、守りたいモノはこの背にある。

 一呼吸入れる。フッと力が抜けた。

 業を背負う覚悟はとうに出来ている。今の私を突き動かすものは、守りたい。ただそれだけ。

 この兵器を使う事への異論も怨嗟も、全て受け入れる!

 そんなモノに屈するほど、今の私は弱くない!

「エネルギー臨海突破!サテライトキャノン、発射!!」

 引き金を引くと同時に、超高出力のビームが照射される。

 それは破壊の意思。全てを焼き尽くす、暴虐の嵐。

 違う。私が、私達フォーチュンが使う限り、この光は守護の光。

 力無き人々の為の、最大の牙。

 サテライトキャノンにより、通常の奈落獣は次々と爆散していく。だが、それだけじゃ足りない。

 アビスボマーは耐える。1秒、2秒。そして、ついに限界が来た。

 爆発するアビスボマーの体。その体内から、大型のミサイルが現れた。

 これが本命。これを逃せば、防衛作戦は失敗するに等しい。

 砲塔が焼ききれそうになる。構わない。限界まで撃つ!

 特殊なバリアでも張られているのか、ミサイルはキャノンに押されながらも進んでくる。

 駄目なのか・・・。いや、ここまできて諦めるな!

 出力に機体が持っていかれそうになる。それでも、まだ撃てる。

 耐えて、ラピス・ラズリ!ここが、私の勝負所だから!

「往けぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!」

 砲塔の限界を超えて出力を上昇させる。

 突き進むミサイルも、遂には耐え切れず爆発する。

 サテライトキャノンを避けた奈落獣も、ミサイルの爆発に巻き込まれていく。

 レーダーに敵影は無し。今ので敵初動部隊の全てが撃破できた。

 ラピス・ラズリ本体は無事だが、サテライトキャノンは完全に砲身が焼き切れている。

 仕方が無い。元々こういう代物ですから、帰還したら直してもらうとしましょう。

 その為には、無事生還しなくてはいけませんが、ね。

「敵第2陣来ます!数は1。おそらくラグシオンです!」

 司令部より通信がかかる。

 このプレッシャーは間違いなく、グラフス・エイベロン。

 休む暇も無しですか。仕方ない。

 これで終わりにしましょう。

 私は新参者ですから、皆さんと貴方の因縁は深く知りません。

 ですが、友を喪った悲しみを振り払うため、大事な物を奪う悪を討つため、全力で立ち向かいましょう。

 

 

第11章

 

side-コウジ-

 

「コウジさん!マコトさん!ラグシオンが出現!すぐに出撃を!」

 早かったな。皆が強すぎた結果だよ。

 これで最後だ。最後にするんだ。

 気負いすぎるな、俺。大丈夫だ。絶対に勝てる。

 勝って、またいつもの馬鹿騒ぎして、なんの変哲も無い生活に戻るんだ。

 あれ?ブレイガストがある限り、俺ってフォーチュンの所属なのか。

 じゃあ訓練漬けの毎日も待ってるのかよ。ぐへえ。

 ん?通信?これは、マコトか?

「お、いい顔じゃないか。てっきり怖くて怯えてるのかと思った。」

「うるせぇやい。お前こそ、ビビッて泣いてないだろうな。」

「・・・うん。少し怖いな。皆、よく戦えるよね。」

 おいおい、何を今更言ってるんだよ。

「怖がる必要は無い。俺がいる。お前の傍には俺がいる。絶対に離れない。」

「コウジ・・・。」

「俺達は無敵のコンビだ。誰が引き離せるか。誰が勝てるか。俺達が揃えば負けは無い。だろ?」

「ふぅ・・・。そんなことだろうと思ったよ。」

 何だよ。人が折角励ましてやってるのに。

「そうだね。ボク達は最強のコンビだ。無敵だ。だから、あんな奴に負けはしない。」

「ああ。勝とう。勝って帰ろう。皆と一緒に。」

 こんな時だからこそ、二人して笑顔を作る。

 空元気でも元気だ。空元気じゃなきゃそれは最高だ。

 モニター越しに拳を合わせる。

 出撃の準備は整った。さぁ、往くぞ!

「東屋コウジ!ブレイガスト!出るぜ!」

「神楽坂マコト!タリスマン!往くよ!」

 2機は揃って発進した。

 全ての因縁に決着を付けるために。

 

 出撃後、空中を飛ぶブレイガストに、飛行形態のタリスマンが並走する。

 最初から全力だぜ。

「往くぞマコト!」

「うん!コウジ!」

「「ユナイト・ガーディアーーーーーーーン!!」」

 ブレイガストの鎧となるように、タリスマンが合体していく。

 これが俺達の真の姿、ブレイガスト・ノヴァ。

 桜の防人。島の守護神。牙無き人達の牙にして希望。正義の勇者。

 さぁ往こう。恐怖と絶望の化身を討ちに。皆の勇気と誇りが繋いだ戦場に!

 

side-???-

 

「行くよ。僕達の子が。平和の為に戦場へ。」

「へっ。頼もしくなりやがって。ついこの間まで小僧と小娘だったくせによ。」

 住宅地のとある一軒の家の前で、二人の男が空を、勇者の姿を見つめる。

 二人とも体格が良く、なにか武道の心得があることを推測させる。

「いいのかよ。本土避難もフォーチュン支部避難も蹴っちまって。ここも戦場になるかもしれないぜ。」

「子供に戦わせて、親が安全な所で震えてたら格好悪いじゃないか。」

 二人とも、この状況下で笑顔を浮かべている。

 成長した我が子に対し、死地に赴く戦士に対し、激励を。

 二人が出来る事は、もはや見守る事だけ。

 20年以上前ならいざ知らず、力無き一般人となったこの身に出来る事はそれだけだ。

 それが歯痒くてならない。だがそれ以上に。

「誇らしいな。」

「うん。誇らしい。あの子達は立派になった。」

 誰かの為に命を賭ける子供達が誇らしい。

 倫理には外れるかもしれない。それでいても、父親として胸を張れることだった。

 後はただ、無事に帰ってきて欲しい。

 帰ってきたら何をしてやろう。どうしてくれよう。

 心配をかけたと怒ろうか。いやいやよくやったと褒めてやろう。

 勇者たちの父親は、そんな事を言い合っていた。何の変哲もない日常のように。

 彼らは確信しているのだ。

 僕の息子が。俺の娘が。負けるはずはないと。

 だから頑張れ。頑張れ。エールを送り続けるだけだ。

 

side-コウジ-

 

 視認できる距離までラグシオンが迫ってきた。

 だが、その姿は昨日とは異なる。

 大剣も、奈落砲も持っていない。

 胴体は髑髏のようになったままだし、全身に鬼の角のような突起物がある。

 まぁこれはこけおどしだろうが、全長が違っていた。

 昨日まではおよそブレイガストと同じくらいか少し大きいほどだった。

 だが今の奴はそのおよそ2倍以上。5、60mはありやがる。

 一晩で成長しすぎだろうが。

『よぉ。一日ぶりだな小僧共。』

「そっちこそ。今まで通りじゃ勝てないからってそんなに大きくなるなんてな。器の底が見えるぜ。」

『これがこいつの、俺の真の姿と言うわけだ。別にあのままでも手前らを壊すのに苦は無かったんだが、せめてもの礼儀ってやつだよ。』

「礼儀なんて言葉を知ってるとは驚いたな。」

 互いに互いを挑発する。いや、奴の言葉は挑発なんかじゃない。

 本気だ。本気で俺達のことを見下しての発言だ。それが気に食わない。

 普段なら頭に来るところだが、奴の放つどす黒いプレッシャーが冷静さを保ってくれる。

 まだ両者は動かない。だが、既に間合いだ。

『さぁ、始めようか。』

「何言ってんだよ。」

 もう始まってるんだよ!

「ジェットナックルッ!」

 先手の飛拳がラグシオンを襲う。

 それを分かっていたかのような、巨体に似つかぬ軽やかな動きで回避される。

 まぁ避けられる事も分かってたんだがな。こうも予想通りだとムカつくぜ。

 ブレイガストを突撃させ、戻ってくるナックルをそのまま装着する。

 拳を、蹴りを連続で放つ。時折フェイントも入れて、まるで空手のように。

 こんな時、マコトの親父さんに習っておいて良かったと思う。

 だがそれも、全て紙一重で避けられる。

 分かってる。こいつがこれくらいの攻撃を喰らってくれない事は。

 狙いはその先にある!

『なんだなんだ?子供のお遊びか?ホレホレどうした?』

 いちいちムカつく野郎だが、今は無心で拳足を放つ。

 少しずつ速く、だがそれでいて、奴が見切りやすい速さで。

『流石に鬱陶しいな。』

 両拳が掴まれる。

 これを、待っていたんだよ!

「サンダーーーー、ボンバァーーーー!」

 掴まれている、つまり零距離から、全力のサンダーボンバーを流す。

 この位置じゃ避ける事も出来ないだろう!

 周囲に超高圧電流が流れ、空間すらも焼ききろうとする。

 だが、奴は平然と掴んでいた腕を機体ごと投げ飛ばした。

 直ちに放電を中止する。機関は、駄目だ。最大出力だったから今ので焼き切れた。まぁいつも通り一発限りの代物だからな。

 問題はラグシオンにどれだけのダメージを与えたかだが、野郎ピンピンしてやがる。

『今のは効いた。気持ちよかったぞ。なんならもう一回やってみてくれよ。』

「は。サービスは一回切りだよ、クソッタレ。」

 ここまで無傷だと、いっそ清々しい。

 だが、これで奴の装甲はより厚くなっていることが分かった。

 それをぶち破るには、どうすればいい・・・。

「行って!イグニス!」

「MLビームキャノン、一斉発射!」

 二つの声と同時に、空から地上からビームの雨がラグシオンに降り注ぐ。

「ミサイル一斉発射!派手に吹き飛びな!」

 さらに地上からミサイルの集中砲火。そして。

「そこ!ハイパーオーラ斬り!」

 背後から魔力に輝く斬撃が襲う。

 皆、それぞれ戦う体勢を整えて来てくれたのか!

「これは総力戦です。全砲門、ラグシオンに集中砲火!」

 島中の砲塔からも砲撃が飛ぶ。

 イグニス、ビーム砲、ミサイル、オーラ斬り。そしてこの砲撃。

 普通の相手なら耐えられるはずも無い。

 だが、奴の放つプレッシャーは衰えるどころかさらに増している。

『痒い!痒いなぁ!お前らの力はそんな物かよ!』

 あれだけの集中砲火を浴びて、なお無傷・・・。

 こりゃ、化け物なんて言葉でも足りないぞ。

 全員に、ある種の恐怖感が漂っているのが分かる

「怯むな!攻撃を続けろ!どこかに綻びがあるはずだ!」

 ユラードさんの言葉に、折れかけた心を奮い立たせる。

 弱気になるな!そこに沈み込んだら、二度と浮き上がってこれない。

 全員が再び攻撃態勢に入る。

『人形のお嬢ちゃん。人形は人形らしく弄られて遊ばれてな!』

「私は人形じゃない!教えてくれた人がいる。受け入れてくれた人たちがいる。私は、一人の人間だ!」

 ラピス・ラズリのイグニス全基による十字砲火。

 それを避けようともせず、真正面から受ける。

 それでいて、装甲に焦げ目が着いた程度。

「中佐。いやグラフス!喰われた仲間の仇と、傭兵の報復。思い知れ!」

『ジョニー!手前も喰っておけば仲間と一緒に逝けたのに、悪かったなぁ!』

 トワイライトのビームライフルが火を噴く。

 それを片手一本で受け止め、なお無傷。

 出力は並みのカバリエ級以上だぞ!?それを片手でかよ!

『死に場所を求める兵士ってのは良くねぇ!味が落ちる!』

「今の俺は死ねないのよ。娘の成長を見守るまではなぁ!」

 テスタメント小隊がフォーメーションを組み、ラグシオンに向って砲撃を放つ。

 出力は低いとはいえ5機からの集中砲火。それでもなお避けない。

 何処までも傲慢に攻撃を受け続ける。ダメージが通ったようには見えない。

「アンタの所為で人生狂わされた奴がいる。許しちゃおけないんだよ!」

『敵だった女にまで情が移ったか。小物が!』

 アクセルギアの大型レールキャノン、及びミサイルの連続発射。

 砲弾は的確に急所を穿ち、ミサイルも次々と爆発していく。

 そのはずなのに、爆煙が晴れた姿は依然変わらず。

 禍々しいその姿を見せつけるように腕を開き、挑発さえしてくる。

『カトンボが!手前が一番鬱陶しいんだよ!』

「ならばカトンボの脅威、味わってみろ!」

 ラグシオンは動かない。ならばこそ、バルサーガは最大の威力で切り込める。

 激しい魔力の輝きが剣を覆い、大上段からの一閃が放たれた。はずだった。

 左腕一本でその斬撃が止められている。シャナの最大の技のはずなのに。

「ば、化け物・・・。」

 誰が口にしたのか分からない。

 ただ、皆の必殺の攻撃が悉く弾かれている。

 これは、どうしたらいいんだ・・・。

『これで終わりか?じゃあ次は俺の番だな。』

 ラグシオンから、粒子が大量に放出される。

 それと同時に、機体のALTIMAが不安定になった。

「あれは《スィン》?!不味い!」

 先生が叫ぶと同時に、アクセルギアから大量のAL粒子が放出される。

 それに対し、ラグシオンもAL粒子を放出、アクセルギアの粒子の動きを阻害した。

 それだけでは終わらない。

 ラピス・ラズリ、アハゲリス、トワイライトからも粒子が放出された。

 ALTIMAの加護、《オーディン》による粒子の阻害。

 勝ったのは・・・。

『ち。こっちは打ち止めだ。やってくれるじゃないか。だがこいつはどうだ!』

 ラグシオンの左手が瘴気を纏い、邪悪に輝く。

 あれは不味い!受けたら唯じゃ済まない!

「ヤバイ!皆、散れ!」

 その言葉も遅く、左手は薙ぎ払われる。

『墜ちろや雑魚共!《アカラナータ》!』

 破壊の力を帯びた力が解放されそうになった瞬間、一発の砲撃が左腕に命中する。

 島の砲台からの一撃だった。 

 ダメージは無いが、それによりアカラナータは中断され、攻撃は終わる。

「私とてこの島の防衛を任されている身です!勝手は許しません!」

 司令、やってくれた、助かった!

『チッ!ガキが。まあいい。攻撃の手はまだある。まずは。』

 ラグシオンは高速でラピス・ラズリに迫り、右手を振りかぶる。

『鬱陶しいコバエの手前からだ!人形娘!』

 構える暇など無く、迎撃する暇などなおさら無く。

 ラピス・ラズリに振り下ろされた右手は強烈に機体を地面に叩きつけた。

 もはや悲鳴を上げることもできない。

「う、ぐぅぅ・・・。」

 機体の所々から紫電が走っている。このままだと不味い!

「死なせはしない!命の精霊、神霊よ。かの者に今一度立ち上がる力を・・・。」

 シャナが呪文を詠唱すると、傷だらけで今にも爆発しかけていた機体の傷が塞がり、整備直後のように復活した。

「あ、ありがとうございます、シャナさん。」

「問題ない。だが次が来る!」

 その言葉の通り、ラグシオンは腹を大きく開き、エネルギーを溜めていた。

 威力は、想像もしたくない。それほどの出力だろう。

 それを、俺達全員に合わせて撃ってくる。

 驚異的な、先程と比較しても変わらぬほどのエネルギーの球体が出来上がった。

『耐えて見せろ!メガ・アビス・スマッシュ!』

 何の躊躇いも無く発射される。

 今までの奈落砲が可愛く見えるほどの砲撃。砲撃ということすらおこがましい一撃。

 それの前に、バルサーガが立ちはだかった。

「無理だシャナ!その機体じゃ跡形も残らない!」

「任せろ。・・・聖騎士の力が守護の為にあるならば、護りきってみせる!この翼で!」

 俺達を何枚もの粒子の壁が包む。それはまるでバルサーガの翼のようだった。

 だがその翼も、長くは保たない。一つ亀裂が走れば、後は一瞬にしてそれが全体に広がった。

 ある程度威力は殺せたようだが、それでも巨大なエネルギーの塊は迫って来ている。

「くっ!だがこの程度なら、バルサーガだけで耐えてみせる!」

 無茶すぎる!その機体の大きさじゃ、すぐに飲み込まれるぞ!

「ぐ、ぐくくっっ!うわぁぁーーーーー!」

 メガ・アビス・スマッシュとやらがバルサーガに直撃する。

 確かに、威力を殺していたお陰で機体は原型を留めていた。

 だがそれだけ。先程のラピス・ラズリ同様、紫電を上げている。

「言わんこっちゃないっての!全く!」

 アクセルギアがすぐに駆け寄る。

 あの機体には確か緊急修理装置が積んであったはず。

 機体の修復が間に合えば良いが・・・。

『次はいよいよお前さんたちだよ。小僧共!』

 来る!しかも速い!何とか見えるくらいだ。

 至近距離まで詰められる。だがこれは、俺達の距離でもある。

「ファイナル・トール・スマッシャー!!」

 必殺の一撃を、奴の腹に叩き込む。

 ここがコックピットになっているはず。少なくとも衝撃は入っただろう!

『ん~。いつも通りのいい一撃だ。まさかこの形態でダメージを負うたぁなぁ。』

 馬鹿な!最高の状態で入ったはずなのに!?

 ほんの少し、ほんの少し罅が入った程度。

 そこまで硬いのかよ!そんなに遠いのかよ!こいつは!

『俺の番!喰らえ、ハイパー・アビス・クラッシャー!!』

 拳を握りこんでの一撃。これは、ファイナル・トール・スマッシャーそっくりだ!

 直撃を喰らい、地面に叩きつけられるブレイガスト・ノヴァ。

 やべぇ、意識飛びそうだ・・・。

 機体もいう事を聞かない。

「マコト、まだやれるか?」

「い、つぅ。なんとか。でも、ブレイガストが。」

 くそ!どうしようもないのか!

「・・・少し待ってて。タリスマンのAL粒子で機体の回復をしてみる。このために、この子はいるんだ。」

 頼む。早くしてくれ。

 あの野郎、これ見よがしに暴れて皆を傷つけていく。

 くそう!見てるだけなのがもどかしい!

 それにこのままじゃあ、街にまで被害が出る!

「あと、少し。タリスマンも、完了!コウジ、いつでもいけるよ!」

「待ってたぜ!」

 ブースターを噴かせ、突撃する。

 ラグシオンはトワイライトを掴み、握り締めている。

 そこにタックルし、少しでも体勢を崩す!

 何とか成功。トワイライトは解放された。

 だがそこからだ。そこから先どうする。

 俺達の攻撃は通用しない。外からじゃまるで歯が立たない。

 外からじゃ駄目か・・・。すると内部に攻撃するのがこの手のやり方だが。

 奴が腹の口を開くのはメガ・アビス・スマッシュの時のみ。

 そのエネルギーの渦の中に飛び込むなんて、自殺行為だ。

 大体入り込める隙も無ければ、よしんば隙が出来ても入り込めるスピードが無い。

 考えている間にも、敵の攻撃は止まない。

 少しづつ、確実に耐久力を削られていっている。

 本気を出せばいつでも俺達を木っ端微塵にできるものを、遊んでやがる。

『手前らはばらばらにした後、ゆっくり喰ってやる。ありがたく思えよ。』

 こんの!腐れ外道が!

 どうしたらいい!?どうすれば!?

『遊びは、終いだ。これで最後だ!メガ・アビス・スマッシュ!』

 再び口が開き、エネルギーが溜まる。

 は、ここまでかよ。

 無敵の勇者、正義の味方、か。

 こんなところで、こんな邪悪に屈するなんて、馬鹿げてる。

 正義は、勝つんじゃ、ねえのかよ!

「梃子摺っているようね。」

 その時、隣を黒い影が走っていった。

 影はそのまま高く飛び上がると、ラグシオンの腹に飛び移り開口部を無理やり広げる。

『て、手前は!?』

 初めてグラフスが慌てる。

 発射口、ラグシオンの口にいたのは、死神、グリム・リーパーだった。

 

「だらし、ないわね・・・。これだけの頭数で苦戦するなんて。」

 いままでどこにいたのか、グラム・リーパーを駆るセリーナ・ハッダード。

 彼女が今ここにいる。

 それも敵の攻撃を塞ぐ形で、だ。

「アンタ、どうしてここに!?いや、何してるんだい!速く退きな!」

「焦らないでよ近藤フミカ。大丈夫。こうしている限り、コイツはこの攻撃を撃てない。そうでしょう?中佐。」

『こっの・・・!死に損ないがぁ!』

 確かに、エネルギーは溜まっているはずなのに、未だに撃ってこない。

 カメラをズームしてみると、腹の開口部から機体と一体化し、グロテスクな姿となったグラフスが見えた。

 つまり、あそこはメガ・アビス・スマッシュの砲塔であると同時に、ラグシオンのコックピットだということか。

 あのまま撃てば砲撃はグリム・リーパーに阻まれ、その場で爆発。

 奴本体も唯じゃ済まないってことになる。

「外殻が硬いほど中身は軟らかいとはよく言ったものね。最大の攻撃を撃つためには、最大の弱点を晒さなければならない。」

『うるせぇんだよ!今更何しにきやがった!』

 今までに無い剣幕で捲くし立てる。セリーナの言っている事は、おそらく正しい。

 あの状態になってから、グラフスに余裕が無くなっている。

 まさしく自身のいるその場所こそが、ラグシオンの弱点なのだろう。

 本来ならメガ・アビス・スマッシュのアビスエネルギーによって攻防一体のスタイルになっていたが、今はあの通り、砲撃も出来ずにいる。

 無理に引き剥がそうともしない。多分、加減が利かないのだ。グリム・リーパーを器用に剥がす事ができず、勢いのまま自身を殴りつけてしまうことに恐れている。それほどまでに中身が軟らかいのだ。あの異常な硬さの装甲はそのため。

 俺達相手にまるで防御せず全てその身で攻撃を受けていたのは余裕を演出し、心を折るため。

 戦闘員より演出家に向いてるんじゃないかと言うほど回りくどい。最後まで、奴は俺達を掌の上で踊らせようとしていた。

 その化けの皮が剥がれた。突然の乱入者によって。

「貴女は、まさか!?」

 マコトが叫ぶ。俺も同じことを考えた。

 正確には、合体を解除してブレイガストで同じことをしようとした。

 だが、彼女は告げて欲しくないことを告げる。

「私ごと撃ちなさい。この機体ごと、コイツの腹の中を吹き飛ばしなさい!」

『ば、馬鹿か手前!手前から死ぬ気か!?』

 それは心中を意味する。

 今までの戦いから、あの機体は装甲が薄い事が判明している。

 奴がグリム・リーパーを無理矢理引き剥がせない事は、イコールで俺達の攻撃にも耐えられない事。

 俺達の攻撃+グリム・リーパーの爆発で倒せても、彼女は確実に死ぬ。あの状態じゃ、脱出は望めない。

「姐さん。何でだ。この戦いを傍観していることも出来たはず。なのに何でだ!」

「自分から縋ったとはいえ、今までコイツのいいように操られていた。その中で、望まない任務もあったし、無駄な戦いもあった。近藤フミカ。貴女を狙い続けたように。」

「・・・・・・。」

「このままじゃ、仲間達に顔向けできない。自分を許せない!だから、この男を地獄に送るために死ぬは本望!」

 セリーナの覚悟が、グラフスの焦燥が伝わってくる。

 彼女は本当に死ぬ気でいる。

 でも、目の前で命が喪われるのはもう見たくない!

 たとえ敵同士だったとしても、彼女からは邪悪を感じない。だからこそ、助けたいと思ってしまう。

 その思いが、攻撃を躊躇う。

 皆も同じ気持ちなのか、言葉を発することも、機体を動かすことも出来ない。

『構わねぇ!手前を喰らってから、もう一度撃つ!それで終いだ!』

 ラグシオンが開口部を閉じようとする。

 機動性重視の機体。パワーに差がありすぎる。

 徐々にグリム・リーパーは押しつぶされ、開口部は閉じていく。

「あぐっ!早くしろ!長くは持たない!」

 困惑の中、最初に声を上げたのは意外な人物だった。

「・・・皆、攻撃だ。」

「ジョニー!あんた何言ってんだよ!?仲間なんだろ!?」

「仲間だからだ!野郎に利用された屈辱は痛いほど解る!いや、姐さんの屈辱は俺以上だ!頼む坊主!姐さんの覚悟を、想いを、無駄にしないでくれ!」

 血を吐くような叫び声が戦場に響き渡る。

 それに続くように、アクセルギアが武器を構える。

「アイツとは奇妙な因縁だったけどね、今は尊敬するよ。忘れない。セリーナ・ハッダード。」

「ありがとう、近藤フミカ。フフッ、貴女に礼を言う日が来るとはね。」

 先生まで、やめてくれ。俺はこれ以上、犠牲を出したくないんだ。

 見れば周りも、バルサーガ、ラピス・ラズリ、テスタメント小隊が攻撃態勢に入る。

 何で、何で皆割り切れるんだよ。

 犠牲が無くちゃ、勝てないものなのかよ!

「割り切れてないよ。」

「マコト・・・?」

「皆、割り切れてない。コウジにも解るだろ、皆の気持ちが。本当は撃ちたくない。でもそれ以上に、あの人の思いが伝わってくるはずだ。何としても

アレを倒せと。もう解放してほしいと。・・・自分の役目を、果たせと。痛いほどに伝わってくる。あれが、あの人の戦いなんだ。」

「で、でも・・・。」

「泣き言を言うな!皆、撃ちたくて撃つわけじゃない!でもボク達には守らなきゃいけないものがある!それを忘れるな!あの人の覚悟を、無駄にする

な!ボク達は、背負わなくちゃいけない!逃げることは許されないんだ!」

 コックピットにマコトの怒鳴り声が響く。

 ・・・後半、声が震えていた。本当は、マコトも嫌なんだ。

 誰かの死の上で成り立つ勝利なんて、誰もがクソ喰らえと思う。

 それでも、これは戦争だ。グラフス・エイベロンとフォーチュン桜花島支部との戦争だ。

 戦争に痛みが付きまとうのは解っていたつもりだ。

 でも、俺にはまだ覚悟がなっていなかったんだ。

 何かを失う覚悟。あの時学んだはずなのに、解っていなかった。

「セリーナ。いやセリーナさん。」

「なにかしら?東屋コウジ君。」

「今のアンタ、凄く格好良い。アンタの魂、凄く輝いてる。」

「・・・ありがとう。スターゲイザーのお墨付きを貰えるなんて、嬉しいわ。」

 戦場に似つかわしくない言葉。

 それでも、彼女は輝いていた。それが最期の輝きであっても。

 忘れない。忘れてなんかやらない。それが俺に出来る、唯一のことだから。

「マコト。ブロッサムブラスター、チャージ。すぐに完了だ。・・・撃てるな?」

「勿論。絶対に外さない。」

 各機の準備は整った。あとは俺達待ちか。

 あと10秒。グリム・リーパーは軋み始め、紫電を迸らせている。

 もう限界が近い。

『いい加減に潰れろ!これ以上手間をかけるんじゃねぇ!』

「ごめんなさい。私は寂しがり屋なの。地獄へは一緒に堕ちましょう。」

 エネルギー・・・チャージ完了。

『ヤ、ヤメロオオオオオォォォォォッ!!』

 

「行くぜ姐さん・・・。ビームチャージ!ファイア!」

 

「砕け散れ!メテオスウォーム!」

 

「アクセルギアmk-Ⅱ!フルファイア!」

 

「イグニス、フルドライブ、行け!」

 

「全機ビームキャノン、一斉発射!」

 

「「ブロッサムブラスター!マキシマムシューーーーーーーート!!」」

 全員の最大火力がグリム・リーパーを、ラグシオンの内部を襲う。

 寸分違わず、全ての攻撃が着弾した。

 過去最大級、アビスボマー以上の爆発が起きる。その衝撃は、離れているはずの繁華街のビルの一部を吹き飛ばすほどだ。

 俺達の思い全てを乗せた攻撃。耐えられるもんなら耐えてみろ!

『G、GUIYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

(これで、胸を張って逢いにいける・・・。)

 グラフスの悲鳴と、セリーナさんの「声」が重なる。

「じゃあな、姐さん。俺の仲間達にもヨロシクな・・・。」

 ジョニーの声に寂しさと苦悩が混じる。

 これで終わった。全部終わったんだ。

「駄目だ。アタシの機体はスッカラカン。戦えって言われても無理だよ。」

「その必要は無い。これで作戦は終了だ。あとは帰投するだけだな。」

 力が抜けていく。それは皆も同じだった。

 もうこんな戦いはゴメンだ。

 帰ったら寝よう。そりゃもうぐっすりと・・・!?

 なんだ、この感覚。弱弱しいが、どす黒い、嫌なプレッシャー。

 ま、まさか!?嘘だろ!?

「皆さん、まだです!まだ終わって・・・!」

 メイの言葉が終わる前に、ビームの雨が降り注ぐ。

 完全な不意打ちだった。それでも幸い、行動不能になった機体はない。

 今の攻撃、それにこの感覚。間違いない!

『やってくれた・・・。ヤッテクレタナ!雑魚共ガァァァァ!!』

 機体の半分以上がボロボロになりながら、腹の装甲が弾けとび、内部を晒しながら、奴はいた。

 その焦げた顔を狂気に歪め、憎悪を振りまきながら、グラフス・エイベロンは生きていた。

 否、その姿は生きているというには不完全。

 体の半分は消し飛び、無事なのは顔だけ。右腕も動いてはいるが、グロテスクな器官が飛び出し再生しようとしている。

 満身創痍。その言葉が当てはまりながら、機体も本人も、まだ動いていた。

『コノ傷、ぶれいがすとトたりすまんヲ喰ラウダケジャ足リネェ・・・。全員、俺ニ喰ワレロッ!』

 もはや耳障りな声を発するだけの、本当の化け物に成り下がったか!

 ラグシオンから流れ出る緑色の液体はオイルなんかじゃない。あれは、奈落獣の血だ。

 あれはもうアビスガーディアンなんかじゃない。

 解っていたはずだ、最初から。あれは既に奈落獣そのものだと。

「野郎・・・。姐さんの覚悟を、踏みにじりやがって!」

 トワイライトのビームライフルが狙い打つ。

 右肩に当たり、血が噴出す。

 さっきの攻撃で、外殻は破壊されたんだ。

 無駄じゃなかった。彼女の覚悟は、思いは無駄じゃなかった。

 行ける!今度こそ、奴を倒せる!

「皆。帰るのはもう少し後だ。今度こそ、奴をぶっ倒す!」

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