擬似聖杯戦争   作:三代目盲打ちテイク

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0日目 召喚

――2月。

――祇地島。

 

 人工島としての歴史旧く江戸、あるいは鎌倉、平安などにまでさかのぼると言われている歴史ある島。北側。作られた山のふもとに存在する古い日本屋敷。

 その庭園に男が立っていた。青い羽織を纏った、白と黒の混じった不可思議な髪の色をした男だ。その首筋に令呪と呼ばれる紋様があった。

 

「さぁて、そろそろ始めるとしようや」

 

 目の前に敷設されているのは陣だった。魔法陣とでも言おうか。これより何かを降霊する。そのような意味合いが強めてあるようだった。

 

「聖杯戦争。引き金ひくんはやはり俺よ」

 

 咒を紡ぐ。

 敷設した魔法陣が励起され発光する。次いで、サーヴァントを構成するエーテルが集う。銀河のごとく、あるいは夢の奔流のように緩やかに渦を巻き、輝きを強めていく。

 

 

閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)

 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 紡ぐ、紡ぐ、紡ぐ。咒が紡がれる。数度の聖杯戦争において、形式化された英霊召喚の儀式における咒が紡がれ、魔法陣が駆動する。

 聖杯の機構が駆動し、夢の果て、世界の果て、英霊の座へと釈迦の掌を伸ばす。

 

「――告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うなら応えぇ」

 

 応えろ英霊。願いがあるのであれば、この盲打ちが勝たしちゃろう。

 誰よりも強い自負。己に負けはない。あるのは勝利ただ一つ。何の理由も根拠もない信念。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 ゆえに、来たれ魔術師の英霊。

 三騎士、阿呆か。そんな勝利確定の駒で戦って何が楽しいんじゃ。勝つか負けるか。わからん方が面白い。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来いや、天秤の守り手ェェ!」

 

 これにて詠唱は終わる。莫大な光が爆ぜる。ここに召喚はなった。光が収まり、立っているのは和装の英霊。

 

「ドーモ。マスター=サン。サーヴァントキャスター。召喚に応じたわ…………」

 

 何やら挨拶をして嫌な顔をしている女が一人。

 

「ははは、こらぁ面白いのが来たのォ。おうよ、俺がマスターよ」

「そう」

「さて、何が出来るか、まあ、色々相談やなんやらあるやろうが、とりあえず、ここにお前さんの陣をひけや 」

「あら、良いのかしら」

「良いも何も、お前さん、そうせにゃ、なにも出来んじゃろうが。俺も陣がある方がやりやすいからの」

「ふぅん、的確なマスターね。なら、御言葉に甘えさせてもらうわ、マスター」

「おうおう、しっかり甘えぇ。胸も尻も貧相じゃが、女に甘えられるんわ、悪い気分じゃないからのォ! うははははは」

「…………」

 

 キャスターは、溜め息を吐きながら神楽を舞う。禊、禊、禊。穢れを落とす。舞台を作る。

 

「ほぉ、見事じゃのォ」

「これで、舞台が出来たわ。それで、これからどうするのかしら」

「さぁて、何してやろうかのォ」

 

 男は考えているのか考えていないのか。そんな表情を浮かべてから。

 

「神降ろしじゃのォ、お前さん、そのままじゃよわっちそうじゃけぇの。ここはいっちょ、お前のスキルつかって少しはまともに戦えるようになっておこうやないか」

「良い判断ね。良いわ。じゃあ、降ろさせてもらうわ」

 

 キャスターが神をその身に降ろす。戦の神、武術の神。その啓示、その技術をキャスターは記憶する。そうすることによって、戦えないはずのキャスターは、戦闘技術を身につける。

 その様子を、その演武を盲打ちはただ見続けていた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 数日前に「家族」という存在が屋敷を離れ、たった今最後まで残ると渋る使用人の女性を、本島へと逃げるか、実家に帰って引きこもれと放り出した。

 何時も通り、何も感じることもなく、ただ事実を伝え、屋敷の玄関の引き戸をわざとらしく大きな音をたて閉めた。鍵も閉めておいておこう。大袈裟かもしれないが魔術で結界も張っておく。

 

 魔術師のウチに代々仕えてくれる家系の彼女も簡易的であるが魔術を使うことが出来る。精度の低いモノなら突破すらしてくるので、彼女では破壊無理な強度にしておく。

 自分と同じ年で、幼い頃に専属となって確か今日で丁度二十年の付き合いになる。俗に言う「幼なじみ」と呼ばれる存在なのだろう。

 

 だがら巻き込みたくないから、彼女を遠ざけた。と言う訳でもない。ただ、「普通」ならそうするべきだと考え、そうしただけ。

 背後で何度も何度も戸を叩く音が聞こえる。魔術をつかい自分が張った結界をどうにかして破ろうと必死になって術を行使する音が聞こえる。

 

 無理だ、彼女では。それにもうそろそろもう一つの魔術は発動する。

 その瞬間、戸の外側から何かが弾けた音が聞こえ、同時に彼女の短い悲鳴が聞こえた。

 

 呪術返し

 一定のダメージを与え続けると、その与えたダメージをそのまま相手に跳ね返す。結界の術式に組み込んでいた

それが発動したのだろう。

 

 魔術師として凡人の域を越えることが出来ない彼女では絶対に無理だ。いくらやっても破ることが出来ない。それなのに何度も何度も繰り返す。

 少し、その光景を観測するーーーーが、やはり無理だ。結果は目に見えている。最後まで観る必要は無い結論し、背を向けてその場を離れる。

 

 

――ズキリ

 

「………?」

 

 

 胸に原因不明の痛みが走った。二十数年間の観測した記録の中から検索するが、求める「答え」は無かった。

 

「調べるモノが増えたな」

 

 既に外で抗う彼女の存在が頭の中から消えているのか、男――白騎士はその無機質の表情を終始変えることなく屋敷の地下の工房へと歩を進めていった。

 

 薄暗い、地下の石造りの工房へとやって来た男は床に水銀を使い召喚儀式の陣を敷いていく。最後の咒を書き終わり、祭壇へと向かう。その手には一振りの脇差しがありそれを祭壇へと設置し、陣から離れーーー詠う。

 

 参加者が詠うものと同じもの。

 ただ、そこに1つだけ、狂気を植え付ける呪いを加える。

 

「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者——」

 

 呪いは黒い奔流となり、工房を多い尽くし、収束していく。

 人型が形成され、現れたのは黒い装いの男だった。

 

「……………」

「バーサーカーで、あってるかい?」

「………ああ」

「喋れるのか」

「…………」

「…………そうか、自分がマスター。まあ宜しくね」

「…………ああ」

「………」

「………」

 

 二人を静寂が包んでいた――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 祇地島に一人の男が訪れる。倫敦からはるばるやってきた。男は魔術師だった。名を紅幽鹿。時計塔においてロードの地位にある者だった。

 倫敦からこの地に来たのは目的的の為。とあるロードが獲ようとした武功とかはどうでもいいし、勝利者の商品にもあんまり興味はない。

 

 けれど、時計塔で自分が使う術を蔑ろにされているのは気に喰わないし、自分と同門の奴らが時計塔に入れないのは許せない。だから、参加する。

 参加して、勝利して、認めさせる。

 

 今回の戦争で活躍で他の魔術師を認めさせ、自分以外の奴らも時計塔に入りやすいようにする。それに聖杯を手入れて解析すれば自分の未完成の術が完成するかもしれないし。

 

「あれ、もしかしてこれもある意味、武功?」

 

――まあ、いいか。

 

 他のロード達から搾取した金で拠点にする為の家も買った。日本の有名どころの書物である古事記も買った。ラノベも漫画もアニメもゲーム機もテレビもエロゲーもパソコンも食材も買った。

 それに家の周りには結界を張ったし、家の様々な場所にサブカルチャートラップも設置した。ロードと達にイタズラ電話もした。

 

「さて、やりますか」

 

 ロード達から搾取した、宝石を溶かした物で召喚陣を描き、詠唱し、強風と眩い光が発生する。

 そして、それらが止まると召喚陣の上には一人の人物が立っていた。

 

「サーヴァントランサー。召喚に応じて参上した。聞こう、貴殿が私のマスターか?」

「うん、よろしく」

「ええ、此方こそ。――して、マスターはくねくね動いて何をしてらっしゃるのですか?」

「え、友好のダンスだけど?はい、握手」

「…………マスターはどうやら愉快な方のようですね」

 

 ランサーは苦笑いをしながらマスターと握手を交わした。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 夜。祇地島。

 そう呼ばれる島で行われる聖杯戦争と呼ばれる戦いを作り上げた御三家のひとつの邸にて、一族総出で召喚の準備が行われていた。

 なんでも、本日の昼にキャスターのサーヴァントが誰よりも早く召喚された事が予知されたのだという。何処の誰かは知らないが、随分と忙しないことだと欠伸を噛み殺しながらクーマンは思う。

 

 ──その横で当主が凄まじい形相で彼を見ていたが、全く気にする様子がない辺りはもしかすると大物なのかも知れない。

 ともあれ、無事に準備も進み、あとは召喚するのみとなった。

 

「よいか、お前は我が一族の悲願を背負っている。『未来を見つめ、世界の行く末をあまねく知る』と言う我が一族の悲願をだ。であれば失敗することは赦されん」

 

 そう当主はクーマンに念押しをしてから、その魔術特性上殆ど戦闘力を持たない彼ら一族は、マスターであるクーマンを除いて本州にある別宅へと避難していった。しかし、本人の頭の中からは既に一族の悲願のことなどとうの昔に抜け落ちているが。

 そんな彼は召喚陣をやる気の無さそうな目で見ながら心底めんどくさそうに欠伸をし、今にも眠りそうな表情と声で呟いた。

 

「ほんとに何なんだろねぇ、面倒事だけおいて逃げられてもねぇ。まあ、安全にサボれるってことだしいっか。で、召喚の呪文はなんだったかなぁ」

 

 そうぼやくと暫く眠りそうな頭で考えを巡らし呪文を思い出した。

 

「あー、表現が古めかしくて言うのめんどくさい。だいたいこう言うのって意味さえ同じなら、あんま変わんないんだよなー。結局は自己暗示の面が強いし、適当でいいよなめんどくさいし」

 

 そうまともな魔術師が聞こうものなら卒倒しそうな台詞を吐き捨てて詠唱を行い始めた。

 

閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)。五度 繰り返す度に、満たされるときを破却する。

 

 銀と鉄を素材に。楚に石とけーやくのたいこー。祖にはシュバインオーグ。

 

 告げる。

 汝は我が下に。俺の命は汝の剣に。

 聖杯の寄る辺に従い、これに従うならば応えろ。

 

 誓いを此処に。

 俺は常世総ての善と成る者。

 俺は常世総ての悪を敷く者。

 

 汝三大の言霊をまとう七天。抑止の輪より来い。天秤の守り手よ───。」

 

 締め切った室内にも関わらず、ゴウッと風が吹く。召喚陣に渦を巻くように、或いは空気を呑み込むかのように

 その光は少しずつ明滅し、強くなったかと思えば弱くなっていった。

 そんな中、アホは全く変わらなかった。

 

「──ん?なんか忘れてるような……? まあ、召喚出来てるみたいだしいいか」

 

 召喚の文言をあちこち引っこ抜いた上に、弄くり回して言い易く変えた阿呆は、召喚前に当主から渡された触媒と共に伝えられたクラスを確定させる文言を思いっきり忘れていた。いや、そもそも聞いていなかった。

 本人にとってはクラスなどどうでもよいのだ。当然である。

 

 風は更に集まり、光は更に強く激しく明滅を繰り返す。

 そして、そのときは訪れた。

 甘いマスクに微笑を湛え、白銀に輝く鎧を纏い、美しい装飾を為された剣を腰に差した、まさに物語の騎士然とした男性が姿を表した。

 その姿は窓から入る月の光を受けて、益々物語のワンシーンのような、一枚の絵画のようであった。

 

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した。貴殿こそが我がマスターで相違ないな?」

 

 その騎士が跪き問い掛けた。もし、相手が女性だとしたらその姿に思わず倒れたことだろう。だが、ここに居るのは心底からの阿呆である。返事がないのを不審に思ったセイバーが、顔を上げて見て思わず絶句した。

 

「……なぜベッドに入り込むのだマスター……」

 

 

 ──阿呆はベッドの中で心の底から気持ち良さそうに眠っていた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

――2月、祇地島。

 

 此度の聖杯戦争の舞台でもある海上都市。

 その一角でもある武家屋敷が立ち並ぶ高級住宅街に彼はいた。

 

『魔術師殺し』

 

 そう呼ばれる青年はニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 門をくぐり前庭へと進む。屋敷は目の前に、そして辺りにはよく手入れされた植木や多少古ぼけた蔵があった。

 概ね希望通りの立地、多少散財はしたものの拠点は確保。食材も近場のスーパーで買い物済み。

 

「しまった。メイド一人ぐらい連れてくるんだった。料理するのめんどくさいな」

 

 青年のボヤキに答える人物はいない。

 

「召喚は今夜。まずは荷物の整理と結界を張って、対人地雷を仕掛けないと…」

 

 クレイモア、クレイモアと口ずさみながら玄関を通り和室の一つに置いてあるトランクケースを4つ程手に取る。

 仕掛けを済ませ、次に手に取ったのはチェロケース。

 

 楽器など入っているわけがない。入っているのは対物狙撃銃。アンチマテリアルライフルと言われるこれは青年がいつも仕事で使っている特別製だ。

 弾丸に込めるのは魔力。だが、既に込めたのを持ってきているため今回はやらずに整備点検だけを入念に済ませる。

 

 結界を張り、仕掛けを終え、獲物の整備も終わらせた青年は暇を持て余していた。

 やることは終わり、対戦相手とも言える他のマスターの情報もある程度は仕入れたが、それにも限界はある。

 

 自ら仕入れに行ってもいいのだが、こちらの情報が漏れても困る。

 そして、青年は行動に移る。

 

「そうだ、ペットショップで子猫を買ってこよう」

 

 青年は出かけた。頭のネジが緩んでいるとしか思えない行動に出るため。

 

「大満足だぜ」

 

 ホクホク顔で帰ってきた青年は居間にて小猫7匹の世話をしていた。

 

「ん?」

 

 突如感じたのはエーテルの乱れ。召喚だ。青年は直感でそう思った。

 面白い。次に抱いたのはこの感情。

 

「誰だか知らんが旨い酒が飲めそうだ」

 

 青年は収まったエーテルの乱れを気にすることなく子猫の世話をしだした。

 

 黄昏。逢魔が時。複数の呼び名はあれど、それらが指し示すのはただ一つ。夕暮れだ。

 

「また召喚か……。元気だねー、他の参加者は」

 

 青年は購入した家の居間で子猫相手に猫じゃらしで遊んでいた。

 右に左にゆらゆらと揺らし、時に上にあげ子猫にジャンプさせるように猫じゃらしを操る。

 

「こんな具合に思い通りに行けば楽なんだがな……。まあ、現実は甘くはないよな」

 

 右手に持った猫じゃらしで子猫を翻弄し、左手にある資料に目を通す。

 一人は、稀代の策謀家で最高峰の空間支配者。

 一人は、魔術協会所属のロード。

 一人は、爪を隠した予知使い。

 一人は、冷静沈着で優秀な魔術師。

 合計4人。

 

「俺含めて5人。二人足りないな…」

 

 青年は首を傾げ、目を瞑る。その間も子猫たちは猫じゃらしを追いかけ未だに触れられずにいる。

 

 (情報網にも引っかからない程の凄腕の隠形術の使い手か親が魔術師と知らないただの子供か…)

 

 前者ならば情報なしのアドリブでの戦い。それは青年の最も苦手とする戦闘法だ。昔の自分なら得意だった戦闘法は今の彼には既に出来ないものになっていた。

 後者なら説得したり脅したりで何とでもなる。銃口を眉間に押し当てて誠心誠意お願いすればどうにかなる。

 どうか後者であるように、と祈りながら目を開ける。

 

「お、捕まえたか」

 

 右手の猫じゃらしに視線を向けると、他の子猫を踏み台に一匹の子猫が猫じゃらしを掴んでいた。赤茶色の毛並みの子猫だ。

 青年は聖杯戦争に因んでクラス名をそれぞれの子猫の名前としていた。

 

「ライダーか……。俺のサーヴァントもライダーだといいんだが…」

 

 資料を放り、青年は立ち上がる。

 庭に目を向けると黒い魔法陣が描いてあった。

 子猫のご飯を作るためにキッチンへと向かう青年は資料を一瞥し、視線を戻す。

 

「勝つのは俺だ」

 

 青年は笑みを浮かべる。

 

 午後22時。

 武家屋敷の庭の中央にてエーテルの乱舞が行われていた。既に結界を張り、周囲の民家に影響がないようにしているが、他のマスターには確実にバレるであろう。

 形式化された言葉を一言一句間違えずに紡ぎ出す。既に前半分は終了。残りを紡ぐために、魔力を費やす。右手にある令呪を魔法陣に向けて突き出す。

 

 屋敷の縁側にて子猫が7匹見物しているが、それを青年は邪魔とは思わず、寧ろ鼓舞となる。

 

「告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば答えろ」

 

 エーテルが渦巻き、魔法陣が発光し、更にソレが強くなっていく。青年の身体を駆け巡る魔術回路の痛みも比例するように鋭くなる。歯を食いしばり耐える。青年にはそれしかできず、更に言葉を紡ぐ。

 

「誓を此処に。

 我は常世総ての善と成る者。

 我は常世全ての悪を敷く者」

 

 痛みを耐えるために歯を食いしばり、歯茎から血が流れ出て顎を伝い、血が地面に流れ落ちる。痛みには慣れていたつもりだった青年もこれには流石に慣れていなかった。

 義父から教えられた魔術が丁寧すぎたからだ。義父の愛が仇になったのだ。青年はこの場にて義父に対して恨みを心で紡ぐ。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来やがれ、天秤の守り手よぉぉぉ!!!!」

 

 エーテルと魔法陣の発光が重なり、青年は脊髄反射で目を瞑る。

 光が収まり、立っているのはマントを羽織った偉丈夫だ。偉大な英霊であることが見ただけでわかる。

 

「サーヴァント、ライダー。召喚に従い参上した。ふむ、小僧よ。貴様が俺のマスターか?」

 

「チェンジで」

「なぬ!?」

 

 青年――紫蒼慧悟の発言にライダーは目を丸くした。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 一般に、召喚というのは深夜に行われることが多い。神秘の秘匿という意味もあるが、洋の東西問わず、魔力の高まる頃合いでもあるからだ。

 彼女も、有部理生もそう教わった。最も、召喚しようと思えば昼日中だろうと問題無い。聖杯の寄る辺に基づく召喚とは、そういうもの。知識として知ってもいたし、ここに来た時見た光景も、それを裏付けていた。

 

 隠匿性に富んだ鳥型の使い魔。それと視界を共有して、たまたま視えたのが、盲打ちがキャスターを召喚する一部始終。

 

 キャスターの枠を獲られたのは痛いが、盲打ちの破天荒さに、自身もマイペースでいいのだと安心して。

 

 黄昏の頃あい、逢魔が時。海の近くだけあって空は明るく、西の方が七色に輝いている。

 凪の時間が最も愛しい。蒼みがかった短めの黒髪を揺らし、少年めいた風貌の少女は目的地へと急ぐ。

 

 海の見える神社に、参拝ののち人払いの結界のみ張る。ショルダーバッグの中には、幾らかの薬と、家から持ち出した本を数冊。リュックサックには、水とフリーサイズのシンプルな服。それと、魔力殺しや宝石といった魔術用品。

 

 置かれた召喚陣、謳われる呪文。エーテルの風が吹き荒れ、輝きとともに、若々しい声で誰何が成された。

 

「召喚に応じ参上しました。僕の名前は――って、何故にクラスがアサシン!? そこのマスターと思しき方、これは一体どういうことです?」

「医療系技術持ちが欲しかったけど、キャスターがもう既に埋まってた。あなたは気配遮断使えたから、それでアサシンの枠に入れられたんでしょう」

「理解しましたが、刺客でも無い僕がアサシンとは……。まあいいでしょう。改めて、これからよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、これからの間よろしくお願いします」

 

 ゆったりした漢服に身を包み、青年アサシンは鷹揚にうなづいてみせた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

――祇地島。

 

 歴史あるこの島においてどうも少女は自分の両親は魔術というモノをしていたらしいということを知った。

 とはいえ、少女――ひがつち自身それについて知ったのはとうの両親が不慮の事故によって亡くなった後、父の遺書と思われるものに断片的に記されていた、というぐらいでほぼ独学なのであるが。

 

 趣味の範囲で個人的にするということではなかなかに面白い。とはいえそれも最近限界を見せ始めている。いろいろ工夫すればまだ行けそうな気もするが情報源が遺書だけなのだからやれることが少ない。基本的な強化や治癒、錬金術モドキの薬品調合にとりわけ大部分を占めていたある魔術くらいである。

 

 しかしそれも終わりだ。

 

 少女は何故今までしてこなかったのかが本当に疑問なのだが、今では誰も住んでいないかつての家--生家を探索することに決めたのである。

 結果、誰にも見つからないように隠されていたような地下室から古びた書記の紙片と魔法陣を見つけたのである。

 

 そこで、探索のよって夜になったとはいえ、なんの気まぐれか呪文を唱えようと思い至ったのは少女の生来の好奇心かそれでも神の悪戯か。

 

(大丈夫、一応友達の家に泊まってくるって言ってあるし。というか、ここ広いなぁ、探してる間に夜になっちゃったよ。ま、学校終わってからだし想定内か。夜になったのは良かったかも、シチュエーション的に。ここ、ベットもあったし)

 

 そんな軽い気持ちで呪文を唱えそして――何も起こらなかった。

 

「--ってなにも起こんないし。ま、なんの魔方陣かわからないし仕方ないかぁ。期待してたんだけどなぁ」

 

 そう不満をこぼし、背を向いた時ーー変化は起こった。

 吹き荒れるエーテル、眩い光とともに自分を置き去りに変化は終わる。

 魔方陣に降り立った若草色の軽装に身を包んだ緋色の髪の女性が問うた。

 

「また辛気臭い場所に出たな……。で、だ。問おう。サーヴァント、アーチャ―、召喚に応じ参上した。お前が私を呼び出したマスターか?」

「……へ?」

 

 ――少女はそんな声を漏らすことしかできなかったのだが。

 かくしてここに契約は為された。

 

 ――少女の聖杯戦争が幕を上げる。

 

「む、どうやら、客人のようだ。行くぞ、マスター」

「へ、あちょっと?」

 

 庭に出る。そこに立っているのは、和装の少女。手には刀を持っている。それからその後ろにも和装の男だ。白と黒の不思議な髪の色をしている。

 

「いきなりサーヴァントと遭遇かいな。こりゃ大変じゃわ」

「自分から、良そうなところに飛び込んでおいてなにいってんだかこの盲打ちは」

「なぁに、何も問題などありゃせんわ。このオレの裏ァ誰にもとれんからのォ。さあ、行こうや」

 

 男を中心に魔力が吹き荒れる。

 

三国相伝(さんごくそうでん)陰陽輨轄簠簋内伝(いんようかんかつほきないでん)

 

 ――急段・顕象――

 

 軍法持用(ぐんほうじよう)()金烏玉兎釈迦ノ掌(きんうぎょくとしゃかまんだら)――!!」

 

 男の大魔術が、アーチャーとひがつちを呑みこんだ――。




ここまでは各作者様に書いていただきました。

此処から先は私が執筆担当です。
では、では。
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