擬似聖杯戦争   作:三代目盲打ちテイク

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二日目 白騎士

 白騎士がひがつちの下へ向かおうとしたその時だ、空間が歪む。

 そうして現れたのは盲打ちだった。

 

「おうおう、これからどこいく気じゃ白騎士」

 

 歌舞伎役者の如く見得切った。

 

 玄関の戸を開けた瞬間、目の前に盲打ちがいた時はどうすればいいだろうか。

 白騎士は迷ったが、

 

「……君から声をかけてくるなんて珍しいこともあるもんだね。これは明日は雨が、いや鉄風雷火の如く荒れ狂うかしれないな」

 

 そう言った。

 より苛烈に反応するのはいつだって桐栄だ。

 

「現れやがりましたね、このインチキ博打打ち!なんですかなんなんですか。私の主さまになんか御用ですか!?いいえ、例え御用があっても断固拒否即時撤退回れ右して即刻立ち去りなさい!さもなければ私の最終奥義『神殺し』(ただの右ストレート)をお見舞いしやがりますよ!」

 

おい、誰がいつお前のものになった。

 

盲打ちの返答すら待たず、右腕を振りかぶっている女中の頭を強化魔術で底上げした手刀で叩き昏倒させておく。

 

ふぎゅっ、と年不相応の声をあげて地面に崩れ落ちた女中をそのまま土間に放置して戸を閉める。

 

 

「うちの馬鹿が失礼した。なにぶん馬鹿な上に阿呆でね…。それと先の件だが、私はこれから彼女ーーひかずちさんに会いに行こうと考えていたところだよ」

「おうおう、相変わらず元気な女中じゃのォ。聞こえんじゃろうが一応言っておくがのォ。俺ァ、白騎士にゃ、なんもせん興味もないしのォ」

「興味ないくせになに調べに来たのよ」

 

 ここにはバーサーカー陣営を調べに行くという名目で来たはずだ。

 

「そんなもん俺が知るかい。思い立ったら吉日。じゃけェ、来たそれだけよ!」

「はあ、この馬鹿は」

「で、白騎士お前さん、これからひがつちに会いに行くんじゃろ。ええから理由を言え。協力してやらんでもない。そういう気分じゃけェの」

「君も相変わらず反射神経で動いているんだね。理由は君なら予想できているはずだ。欠陥だらけの私が求めるのはただ一つ。人として在り方、心を知るためだ。

彼女は人としての基準、人の代表例として最も適している。彼女は私の求める人としての在り方そのものだ」

「はん、お前さんは、まだそんなこといっちょるんか。相変わらず面白みのない人間じゃのぅ。まあええじゃろ。お前さんの狂戦士と争ってもええことないじゃろうしのォ。なら、行こうかのォ!!」

 

 てなわけで、空間転移してひがつちのいる場所へと向かった。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 幽鹿はひがつちの部活が終わるのを有部理生とアサシンと百合談議をしたり、二人に一夫多妻去勢拳を教えながら待っていた。

 

「さて、そろそろかな?」

(マスター、アーチャーの気配が近づいて来ます)

(了解)

 

 幽鹿はランサーの言葉に頷き、ひがつちは声の調子を調え始め、ひがつちの姿が見えると悪戯な笑みを浮かべながらそちらに駆け寄る。

 

「せんぱーい、お疲れ様です。ひがつち先輩疲れてませんか?俺、先輩の為にスポーツドリンクとタオル持って来ました。……あ、他の方にもう貰ってますよね。あ、あの……もし迷惑じゃなかったら一緒に……一緒に帰ってくれますかぁ?」

 

 そしてそんなことを言い放った。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 部活も終わり、シャワーで汗を流し、部活前に別れてしまった幽鹿に申し訳なかったかな。などと思いつつ校門に向かい。

 

(ふむ。ランサーのマスターが居るな。もしやお前を待ってでもいたのか?)

 

 そんなアーチャーの言葉にえ!? と驚くひがつち。駆け寄ってくる思い人の前でだらしない姿は見せたくないと思い、急ぎ身だしなみを整え、そして――。

 

「せんぱーい、お疲れ様です。ひがつち先輩疲れてませんか?俺、先輩の為にスポーツドリンクとタオル持って来ました。……あ、他の方にもう貰ってますよね。あ、あの……もし迷惑じゃなかったら一緒に……一緒に帰ってくれますかぁ?」

 

 世界が止まった。

 

 そして思う――。ああ、理想郷(アヴァロン)はここにあったのかと。

 いえ、それは違います。などという騎士の王の言葉が聞こえた気もするがまあ、いいだろう。さて、返答をと思い――。

 

(マスター)

(なあに?)

(鼻だ)

(え?)

 

 アーチャーの言葉に自身の鼻に手をあてると、そこに――赤いものが付いていた。

 

「え、あ!こ、これは違うんです! 別にやましいことを考えていたんじゃなくて、そう!たぶんへんな所にぶつけちゃったんじゃないかなって! あ、あははは……」

 

 自分が鼻血を出している事に気づき、己が幽鹿の後輩ロールに興奮していた訳ではないと見苦しい言い訳をするひがつち。

 

(ぷっ、はははは! 実に愉快だな、マスター?)

(五月蝿いよ!?)

 

 自分の醜態に大笑いしているアーチャーを怒鳴りつけ、勿論お願いしますと言いかけ――。

 

(あら、それだけでいいの?)

(貴女は……悪い私!)

 

 ひがつちの脳裏に悪魔チックな姿をした自分が姿を表した。

 

(せっかく向こうからしてきたんだから続けて貰えばいいじゃない?)

(でも、そんなはしたない女の子だと思われたくもないし……)

(……実際興奮したんでしょ?)

(う!?)

 

 おもわずそんな誘惑に耳を傾けてしまいそうなひがつち。しかし。

 

(そんなのはダメです!)

(貴女は……善い私!)

 

 今度は天使のような自分が表れる。

 

(自分を律し、良妻のように振る舞う事こそ日本妻の基本!そんな不純な事は認められません!)

 

 そしてキャットファイトを繰り出し始める自分達。

 

(うぅ……私は一体どうしたら……)

 

 いよいよもって混乱し始めるひがつち。そして、ふと前を見てある男の姿を幻視した。

 

 ――それは昼間の夢で見た光明の神■■■■。

 はるか昔に見事ハッピーエンドを勝ち取った男。

 そんな男は口を開きひがつちにこう告げる――。

 

 ――恋とは受け身になれば終わりなのですよ。いつ邪魔者が現れてもおかしく無いのだから常に攻め気でいき、己をさらけだしなさい、と。

 

(■■■■さん。貴方は――。)

 

 感慨にふける間もなく男は背を向ける。遠ざかりつつある男の背中は雄弁に語っていた。

 

――ついて来れるか?

――ついて来れるか、じゃない。貴方こそ、ついて来てください――。

 

 ふと沈黙した己のマスターを見て何故か不安になったアーチャーだったがその不安は的中した。

 ひがつちの雰囲気が変わったのだ、それも自分がよく知る生前夫であったやたら守備範囲の広かったあの神に。

 

(おい、待てマスター!その先は地獄だぞ!?)

 

 そう忠告を投げかけるも時既に遅し――。

 

「はい、勿論お願いします!

 あ、後それもう少し続けて貰えませんか!?」

 

 己の欲望に負けた無様な少女の姿があった。

 

 それを受けて幽鹿は、

 

――え、まさかの反応?

 

 自分の後輩ロールに予想外の反応をしたひがつちに内心で驚きつつも、幽鹿は鼻血を出しているひがつちが心配になりポケットからティッシュを取り出す。

 

「あの先輩大丈夫ですか?ごめんなさい、ちょっとお顔に触れますね。……あ、ちょっと動かないで下さいね。うん、これで良し!」

 

 ひがつちの顔に傷をつけないように優しく触れながら鼻に丸めたティッシュを詰める。

 

「先輩、何かあったら教えて下さいね。お、俺、先輩に何かあったら……心配してるんですからね。もし、先輩に何かする輩がいたら……俺、先輩の為にバリバリ呪っちゃいますから」

 

 ――マスター、ノリノリですね

 

 お淑やかな後輩の雰囲気を醸し出し、最後はとあるはっちゃけ狐のようなことを言う自身のマスターを見ながらランサーは溜息を吐いた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 そんな彼らを合流した理生は生暖かい視線で見守りつつ、

 

「ちなみにね、うちの父、独身だった頃は薔薇疑惑があったの。あんまりにも女性に興味が無かったから。で、今度母と付き合いだしたら母が男っぽかっとのと父の女顔が合わさって父は実は女性だった説からの百合疑惑。どこをどうしたらそういう結論になるのかわかんないけど、もう、げんなりするとかいうレベルじゃないでしょ。性的指向が正確に認識されないのって、どんな場合でも辛いよね」

「は、はあ……」

 

 アサシンはいきなりの理生の言葉に困惑する。脈絡もなくそんな話をされてどう反応しろというのだろうか。

 

「私の性自認は女性、肉体的性別も女性、性的指向は異性愛。あなたの性志向の範囲に私が含まれないのなら、潔く諦めるけど……」

「いえ、女性が好き、ですよ……」

「なら安心した。無理強いはしたくないからね」

(あれ、いつの間にか彼女と僕が恋人同士になるみたいな雰囲気になってますが、あれあれ?)

 

 その時だった――。

 

「……! 来る……!!」

「孫くん……? ……ッ、RW(ルウ)!」

 

 エーテル塊を握りつぶし、少女はひがつちの元へ使い魔――水晶の小鳥を送り込む。正面に転移をかけるとか馬鹿ではなかろうか。

 不幸にもそういうことをする人物の見当はついてしまう。

 

「予知で視た人物です……、恐らくバーサーカー!」

 

 ――陣営まではわからなかったが、来ること自体は予想していた。しかし、盲打ちと一緒とは。アサシンの口ぶりではこの組単独で現れるような印象だったが。少し5軸……可能性軸がズレたか?

 

 思考を動かしつつも、相手を刺激せず、しかしもっと近い位置へ移動する。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 いきなり現れた盲打ちにいつものことかと思いつつ、ひがつちは一緒に現れた男性が誰か訪ねる。

 

「あっ……、こんばんは。盲打ちさん、キャスターさん。

 あと……、そっちの人は……?」

「おうおう、全員揃っちょるようじゃのォ。仲がいいことは良いことじゃ。こいつは白騎士。バーサーカーのマスターじゃのォ。なんぞ、ひがつち、お前さんに用があるらしいからのォ。なぁに、いやなら盛大に振っちゃるのも女の仕事じゃ。しっかりやりィ」

「あ、そうですか……。

 え、と。白騎士さん……でしたよね。私、この学校に通ってるひがつちって言います。それで、ご用っていうのは……?」

 

 初対面の男が来たことに驚きつつも理由を尋ねる。

 

「せ、先輩、モテ期ですね。……ショックです。俺の後輩枠はこの白騎士さんに取られちゃうですね。ランサーどうする?」

 

 幽鹿はまだ後輩ロールを続けていた。

 

(……とりあえず、その後輩ロールは止めて、臨戦態勢を私も実体化する準備はしておきます)

(何気に後輩ロール楽しかったのに……ランサー、バーサーカが出てきたら宜しく)

(はい、首を捩じ切ってやります)

(わぁお、スプラッタ)

 

 そうランサーと軽口を言い合いながら、二人は白騎士達に警戒しながら臨戦態勢をとる。

 

「なんぞ、警戒しちょるのォ。お前ら、こんな面白みのない人間がそんなに怖いか」

「そりゃ、バーサーカーのマスターだもの。怖いでしょ」

 

 あろうことか盲打ちはバーサーカーを警戒するどころか背を向けていた。何を考えているのか。きっとどころか確実に何も考えていない。

 

「え!?ううん!大丈夫ですよ!私の後輩枠はずっと紅さん一人だけですから!」

 

 ひがつちはというと後輩ロールが見れなくなると聞いてめちゃくちゃ慌てていた。

 だいぶ染まってきている。

 

 目視、使い魔の知覚を通じた映像と音声。

 妙に気の抜ける雰囲気だが、理生は油断をしない。

 

(ねぇ、無事に済むと思う?)

(さぁ、嫌な感じはしませんけど。あの盲打ちですからね)

 

 盲打ちが動けば何かやらかすという法則だけは絶対だ。だから警戒だけは緩めない。

 

「本当ですか?あ、でも、そろそろ後輩ロールから別のロールしようかなぁって考えてたんですけど……Sロールとか、従順ロールとか、様々なロールを取り揃えておりますよ。せ、ん、ぱ、い」

(マスターは多才なんですね)

 

 ――まあ、ギャクはこれくらいで良いだろ。

 

 幽鹿は時計塔のロードの自分に切り替わる。

 

「それで、先輩にどんなお話ですか? 愛の告白ですか? それとも先輩を害するお話ですか? 害するお話なら……バリバリ呪っちゃうぞ!」

 

 ――間違えたかもしれない。

 

「うぇぇ!? 止めちゃうんですか!?

 あ、でもSロールかぁ……。S、ロール……。いいなぁ……。」

 

 最後の方だけ小声になって、好意を隠そうともせずに頬に手を添えてにやけ顔でデレデレ。

 ひがつちと共に変な方向へ行きそうである。

 

「なんぞ、この甘い空気は、ちょっと盤面をひっくり返してみとうなってきたわ」

 

 その空気を感じ取って盲打ちは盤をひっくり返したくなっていた。

 

「やめときなさいよ。初々しくていいじゃない。私の時は、歌を詠んだり、送られたり難題に挑んだりしたわねぇ」

「お前にもそんな話があったんじゃのォ」

「失礼な。あったわよ。これでもけっこうモテたのよ。求婚されたし、したりもしたわよ。有名でしょ、かぐやとの求婚とか、そのために蓬莱の玉の枝さがしとかいろいろやったわよ。私」

 

 キャスターこと稗田阿礼は藤原不比等の別名だ。藤原不比等はかぐや姫の車持皇子のモデルであるためにかぐや姫との接触の機会があったのだ。

 

「ん? かぐや姫かいな。ありゃあ、女じゃろうが」

「かぐや姫って両性だったのよ。で、あの頃の私は色々あったわけで、聞かないでくれると嬉しいですお願いします」

「嫌じゃ」

 

 即答の盲打ち。

 

「うぅ」

 

 泣く阿礼。

 

「泣くな泣くな。まったく、自分から言っておいて泣くんは反則じゃ。泣かれると女にゃ手出しできんからのォ。ええじゃろ。聞かんでおいたるわ」

「ん、ありがと」

 

 そんなやり取りの間に幽鹿は顔を赤くしているひがつちに顎に手を添える。

 

「え、全然聞こえないよ。ひ、が、つ、ち。俺に何をして欲しいんだ。ひがつちの口からはっきりと聞きたいな。ヤンデレロール、Mロール、クーデレロール、ツンデレロール、他にも色々あるぞ。それともあれか、白騎士や盲打ち、阿礼様の方に意識がいって俺のことは疎かか?……俺の方もしっかり見ろよ。いいな、お前は俺の方を見てろよ」

 

 最後の方はひがつちの耳に呟くように言います。

 

 そして――。

 

「マスター、いい加減にして下さい」

「ちょ、痛い痛い痛い?!だからお前の怪力でのアイアンクローは洒落にならない!皆んなポカーンってなっちゃうから!ひがつちの目の前でスプラッタ映像流れちゃうから!!あ、そこは駄目、駄目だから……アーーーーー?!」

 

 久々のアイアンクローを喰らうのであった。

 

 そんな風にコントをしている間に白騎士は盲打ちと話していた。

 

「改めて理解するが君は出鱈目だ盲打ち。まあ移動する手間が省けたことに関しては感謝するよ」

「おうおう、感謝せぇ感謝せぇ。うはははは。まあ、この祇地島内でのみの移動なら自由自在じゃが、外となるとそれなりに準備はいるがのォ」

「それと君は警戒しなさすぎだ。少しは君のサーヴァントの様に内心で警戒をするべきだ」

「で、なんぞ、警戒? はっ、俺の裏ァ誰にも取れん。警戒するだけ労力の無駄じゃろ。それに、警戒したい奴がおるならそいつに任せる」

「そうか」

 

 それからようやく落ち着いたひがつちたちへと向き直る。

 




ついに動くバーサーカー陣営。それに先んじる盲打ち。
それも全てダイスです。
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