擬似聖杯戦争   作:三代目盲打ちテイク

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盲打ちやらかす。


1日目 裏切り

「さあて、キャスター行くぞ」

「はあ、あんたのその無軌道無計画、どうにかならないわけ?」

「これが俺よ。嫌なら、やめてもええぞ」

「そんな気もないくせに。女は貞淑に、男の後ろをついてくものだから、あなたの後ろをついて行かせてもらうわ」

「おうおう、頼りにしてるでのォ」

 

 翌日、盲打ちは学校の屋上でそこにいる生徒を見下ろしていた。ここはアーチャーのマスターであるひがつちの通う学校だった。

 ひがつちは今日も登校している。まったく油断している。

 

「教育しちゃろうかのォ!」

「こいつに目をつけられたのが運のつきよね」

 

 阿礼はひたすらアーチャーとひがつちに同情する。

 盲打ちの規格外の魔力が吹き荒れる。

 

三国相伝(さんごくそうでん)陰陽輨轄簠簋内伝(いんようかんかつほきないでん)

 

 ――急段・顕象――

 

 軍法持用(ぐんほうじよう)()金烏玉兎釈迦ノ掌(きんうぎょくとしゃかまんだら)――!!」

 

 結界が学校を含む、広大な領域を包み込む。空に浮かぶ、碁盤目。駒が割り振られていく。

 

 阿礼は麒麟。ステータスは大幅に上がり、筋力、耐久、俊敏に至ってはBランクまで上昇している。魔力以下は宝具を除き全てEXランク(規格外)

 昨晩ほどではないが、身体は軽い。

 

 対するアーチャーとひがつちは、桂馬と横行。アーチャーが桂馬、ひがつちは横行であるがこれでは焼け石に水だろう。

 

「…………え?」

 

 真昼間の学校、昨日盲打ちから聞いた限りでは侵されることのない日常風景。

 それが気が付けば見覚えのない場所で、目の前にはその盲打ち本人がいて。

 

「さあ、聖杯戦争じゃ。油断しちょる奴から死んでいく。そういうもんじゃ」

「マスター――!」

 

 そんなアーチャ―の叫びで意識が浮上して、目の前には着物の少女に弓を向けるアーチャ―がいる。だが、矢が当たらない。

 相手が強くなっていて、自分が弱くなっている。それだけでとても厳しいのだ。

 

 そんな、目の前の理解できないゲンジツに目がいって。

 

(ああ、そっか、私、今、盲打ちさん達に襲撃されてるんだ)

 

 心のどこかでそう冷静に指摘する自分がいて、けれどどうしても理解できない。

 

「――なんで、昨日、あんなに仲が良かったのに、なんで」

 

 あまりにも早すぎる裏切り。それに対する疑問は一顧だにもされなくて。

 

「なァに安心せェせめてものよしみよ。苦しまず殺しちゃるけェのォ!」

「マスター!」

 

 二度目の叫び。

 

「令呪を切れ!このままでは殺される!」

 

――殺される。死ぬ。死。

――それはいやだ。死にたくなどない。

 

「――にげて、私を連れて逃げて、アーチャー! あの人達から、遠いところに!」

 

 左手の令呪が熱を持って、アーチャーがひがつちを抱えて走る。

 

「おうおう、逃げェ逃げェ、それでこそ鬼ごっこは楽しいっちゅうもんじゃ」

 

 先ほどの転移は使わないのか。阿礼が追跡を開始する。

 その様子を盲打ちは俯瞰していた。

 

「さぁて、誰が動くか。はん、アサシンにランサーかいな。ほうほう、こりゃ面白いもんに当たったのゥ。なんぞ、俺の一人勝ちか。はん? なんぞあいつも来たんか。どうせツマラン男もか」

 

 アサシンとそのマスター有部理生は主従共に歩を引いた。

 バーサーカーとそのマスター白騎士も範囲内にて観測に来たようだった。彼らにも駒は適応される。盲打ちが適応した範囲は広大でそこにいるのがサーヴァントとマスターである限り嵌る。

 

 バーサーカーは猛牛と大駒であるが、白騎士が歩を引いた。差し引き0であるが、白騎士が動けないあおりを食らっている。

 

「まあ、あんなは放置よ。セイバーかバーサーカーかは知らんがまあエエじゃろ。遊んじゃろうて。行けや夜叉!」

 

 バーサーカーには鬼面衆が夜叉をぶつける。ただし歩に嵌った運のない奴だ。まあ、やるだけやるだろう。

 ランサー陣営は、ランサーが銅将で弱体化したが、紅幽鹿が獅子を引いて少しであるが強化にもっていっている。

 

 アサシン陣営とランサー陣営はどうやら令呪を使ってでもアーチャー陣営を救おうとしているらしい。

 

「さぁて、まぁ、見えたか。行けや怪士、泥眼! アサシンとランサーの足止めして来い!」

 

 鬼面衆、怪士と泥眼が行く。盲打ちの命令でアサシンとランサーのところへ向かう。

 

「さて、あとは野となれ山となれよ」

 

 盲打ちはその間に逃げるアーチャーの駒を動かすのであった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「うん?」

 

 ふと、膨大な魔力の動きを感じてセイバーは顔を上げる。魔力の動きに疎いセイバーですら感じ取れるほどの物が街の路地裏で収束しようとしていた。

 

「これは……」

 

 そう言って口許に浮かぶのは悪戯染みた笑み。マスターは嫌がるであろうが、こちらは楽しいだろうから問題はない。そちらへと歩を進める。

 目的の場所に着けば、そこにいるのは一人の少女とサーヴァント。

 

 ――クラスはわからないが狩人のような気配を感じる、アーチャーだろうか?

 

 益々面白いいったいどのような状況で以てこのような場所にいるのだろうか? 実に興味深いとセイバーは感じた。

 

「やあ、お嬢さん? このような場所にいくらナイトがいるとはいえ、不用心にいるものではないよ。マスターならば安全圏にいるのが最上手だ。無論、必ずしもそうとは限らないのが世の常だけれどね」

 

 そう言って姿を表したセイバーはモデルのようなカジュアルな服装をしている。

 そんなセイバーを見てひがつちは、混乱しながらも言葉を紡ぐ。アーチャーは警戒しているが、動けない。背後から迫る気配と前方の得体のしれないセイバーにどう動くかを測りかねている。

 

「あの、もしかしてセイバーのサーヴァントさん、ですか? 今、同盟していた人たちから追われてるんです。

 ……あの、都合のいいことはわかってるんですけど、見逃してもらえませんか。虫のいいことはわかってるんです。

 セイバーさんだって叶えたい願いがあるんだってことも。それでも、それでも何も分からずにただ死ぬのだけは嫌なんです!

 昨日、みんなで楽しく宴会したんです。今追ってる人たちだけじゃなくて、他の人たちもいて、みんなで同盟しようってことになって、それなのにこんなにすぐに襲ってきて、昨日のことが全部演技なんじゃないかって思えてきて、でもあの時みんな心のそこから楽しんでて、どっちが本心なのか分からなくなって、でも今のままじゃ満足に話を聞くことすらできなくて、だからお願いします!私はなんにも分からずに足手まといだけど絶対にあの夜のことは嘘にしたくないんです!

 セイバーさんには関係ないことも重々分かってるんです!もう二度と逃げないために、逃げちゃった私に踏ん切りをつけるためにも、お願いします!どうか、どうかこの場だけは見逃してください!」

 

 そう早口に言い切った。もうこれ以外に方法など思いつかなかったからだ。

 

「本心? そんなものどこにもあるわけはなかろうに、奇妙なことを欲するものだな。喰らうのが易いのであれば躊躇うことなどあるまい。ここは戦場だ、躊躇うものから消えていく。

 そのときはそれこそが本心であったのだろう、そして今は貴様を殺すことをこそ望んでいるのだろう。そこには然したる意味も価値も有りはしない。単純に『そう思ったから』こその結果だろう。戦場での心変わりなぞ珍しくもない。

 ──ああ、返答が遅れたな。構わんぞ、好きに行くがいい。民とは護るべき国であり財であり、私はそれを護る者ではあるが、答を追求する愚者に付き合うほど酔狂ではない。

 貴様はもう少し頼ることを覚えねば、何れは死ぬぞ小娘。人ひとりが出来ることなぞたかが知れているのだからな。ふむ、思ったよりつまらなかったな」

 

 しかし、それと同時にセイバーごと転移させられる。

 気が付けば目の前にはぱちん、ぱちんと将棋をうつ盲打ちがいる。場所は祇地島大仏の掌の上だ。

 

「よおォ、ちょいとええかのォ。なんぞようわからん男も一緒じゃがまあええじゃろ。」

「ほう、貴様が小娘を追っているという盲打ちとやらか、随分と妙な術を使うものだな。

 興味深いぞ、見たところこの国にある将棋の駒と言ったところか?おそらくは私に振られた駒は飛車。前後左右に奇妙なほど力が及ぶのでな、推察でしかないが当たらずとも遠からずと言ったところだろう。

 興味は尽きんがこの場では、ひとまず今のところは私はただの傍観者だ。そちらからかかってくるというのなら相手はするが、そうでなければ攻撃する気はない。私は観戦でもするとしよう」

「ならそこで見ちょれ」

 

 改めて盲打ちがひがつちへと視線を向ける。その視線を受けてひがつちの感情が爆発する。

 

「……ッ! 盲打ち、さん。なんで、なんで裏切ったんですか!? 昨日の夜同盟を結んで、あんなに楽しく宴会して、なんで!?」

 

 そう激昂と疑問が入り雑じった感じで問いただす。セイバーはそれをただ見ていた。

 その激昂を受けても盲打ちは一切表情を変えずただ言葉だけを紡ぐ。

 

「なんぞ勘違いしちょらんか。俺は別にお前ァを害そうなんぞ毛ほどもおもっちょらん。それどころか、お前さんはけっこう気にいっちょる。じゃけェ、こうするんが正しいと俺は思った。それだけよ。聖杯戦争なんちゅうもんに関わるな、そういうことよ」

「聖杯戦争に関わるなって、そんな、そんなのあの夜に言ってくれればいいじゃないですか! それなのに、アーチャーの願いも、ライダーさん、キャスターさんの願いも知っちゃって、私だけ軽い気持ちじゃ居られなくなって! ううん、そもそもこんな不意打ちみたいにしなくても普通に話せる機会なんて有るのに、私もへんな覚悟なんか決めずに……」

 

 そんな風にだんだん尻すぼまりになりながら言う。

 それを盲打ちは嗤った。

 

 覚悟。それがいかほどのものか。本当にわかっているのかこの女はそう言いたげだった。

 いや、あるいはそう他人が感じているだけか。

 盲打ちの内心は誰にもわからない。

 

「そうじゃのォ。なら、お前さん、あの状況でやめろ言うてやめたか。やめんじゃろう。怖さを知って初めて躊躇するもんじゃ。怖いっちゅうことは、しっちょる方がええ。これから先、何が起こるかわからん。それに俺ァ軽い女よりは、重い女の方が俺は好みじゃけェのォ! うはははは」

 

 止まるわけがない。ひがつちという少女の起源をしる盲打ちはわかっている。

 

「……ッ! それは……!」

 

 ひがつちは歯噛みする。彼の言うことは的を射ているからだ。

 

 

「それとのォ、もう一つ試しもあったわけよ。お前さんを襲ったのはそのためじゃ。お前さんを全力で助けようとするアサシンとランサー。この二人のマスターは信用できる。じゃけェ、俺はこいつらの願いもかなえるために動いても良いと思った。で、それはもうしちょる。阿礼の宝具、二つあるのはしっちょるな。蓬莱の玉の枝よ。それと聖杯戦争においてサーヴァントが殺し合う理由もな」

 

 阿礼の宝具。蓬莱の玉の枝。

 稗田阿礼は藤原不比等と同一視されている。そんな藤原不比等と同一視される車持皇子が手に入れようとした枝。

 偽物であるが、仙人の住む理想郷と繋がるとされる枝であるという逸話があり偽物であっても所持しているだけで膨大な魔力を取り出すことのできる宝具だ。

 

 つまり魔力無限に引き出せる宝具。ただし一度に引き出せる量には限度があり、莫大な量を用意するには長い時間がかかる。

 そして、聖杯戦争の理由。聖杯に魔力を貯める為。サーヴァントを殺し合わせその魔力で聖杯を満たすことが戦争の理由。

 

 では、この二つから導き出される結論は?

 

 盲打ちが告げた言葉。それはひがつちであってもある一つの結論へと至る。

 

「サーヴァントを倒して、聖杯に魔力を貯めるため、キャスターさんの宝具は魔力を……、宝具で聖杯、に魔力を、貯める?」

「おうよ。そうすりゃァ、殺し合いせんでも、願いが叶うちゅう寸法よ。じゃが、それまでキャスターもつかもわからなんし、誰彼かまわず願いを叶えるわけにもいかんじゃろ。じゃけェ、これは選抜よ。お前さんは、昨日のうちにすんどる。じゃけェ、他の奴らよ。ランサーのマスター、アサシンのマスター。こやつらは合格じゃ。お前さんの為に令呪までつかったけェのォ! お人好しな奴らよ。少なくともこん六人の願いを叶える分だけ、魔力を貯めるっちゅうわけじゃ」

 

 その言葉に、安堵して座り込む。

 

「良かった、良かったよぅ……。嘘じゃない、嘘じゃないんだ……。ごめんなさい、疑っちゃってごめんなさい……。う、うええぇぇぇ……ッ!」

 

 謝りながら泣き出しますひがつち。

 

「まったくお人好しじゃのゥ」

「泣くなちゅうに。ああ、おいキャスター、なんとかせェ!」

「自業自得」

「女の涙ほど面倒くさいもんはないわ。令呪使うぞ」

「はいはい、まったく。ほら、アーチャーさっさとマスターの所に行くわよ」

 

 離れて相対していたアーチャーとキャスターも合流する。

 アーチャーは真実に苦々しい顔をする。

 

「やれやれ。他を試すためとはいえ、回りくどすぎではないか?

 元々のマスターの力量がそれほどではないとしても令呪を受けていたのだぞ。こちらも動こうとする身体を抑えるので苦労した。

 まぁ、確かに我がマスターはお人好しの気がすぎるがな。その優しさは戦場では欠点ではあるが間違いなく美徳だろう、共闘関係ではいい部類だ。何を考えているか分からん魔術師共より断然信用できる。アレには裏切るなどという思考すらないだろうしな」

「あんた、私のマスターが普通に試すとか思う? そんなわけないでしょ。令呪を使われるとは思ってもみなかったけど、それだけ本気ってことが伝わる。他の陣営も本気で動くでしょ。だからよ。

 あと、私たちに戦場での欠点とか、美徳とかわかるわけないでしょ。私、歴史の編纂者よ。戦場になんて立ったことないし、マスターもでしょ。

 だから、私たちは私たちの判断基準で動くしかないわけ。それがこれってこと。私たちにかかれば、全部が巧く嵌る。いいえ、嵌めて見せるわ。盲打ちとそのサーヴァントの名にかけてね!」

 

 かっこいいポーズでビシィっと指を突きだして言う阿礼。だが、その後に自分の行動に気が付いて赤面してしゃがみこむ。

 

 一方セイバーは盲打ちへと話しかける。

 

「つまらん会話だと思っていたが、俄然興味が湧いてきたな。宝具で以て聖杯の魔力を貯める、か。聖杯の魔力は本来純粋無垢なもの、それに方向性を与えることで願いを叶える願望器として機能させる、だったか。サーヴァントの宝具で貯めた魔力が無色かどうかは知らんが面白い試みだ。人間、進歩がなくてはな。

 だが、それで無辜の民が傷つくようなら話にならん。その場合はその首繋がっていることは無いと思えよ、盲打ち」

 

 と、人間の未来に対する希望が混じりながらも場合によっては首を獲ると怪しく目を輝かせて盲打ちに語りかける。

 

「誰にものいっちょる。最後に笑うんは俺よ。これは決まっちょる。仏だろうと、天魔だろうと俺の裏ァ絶対取れん。じゃけェ、安心してみちょれ」

「ならばよかろうさ、貴様が笑おうが悪魔が嗤おうが知ったことではない。民が傷つかず、安寧の中で暮らし、私が楽しめるのならばそれでいい。好きにやるがいい、私が赦す。誇るがいい、例え神が否定しようとも私が赦そう。無論、先ほど言った条件付きではあるがな」

「安心せェ、護国の大義の為に俺は立っちょる。被害が出るかもしれんが、出たなら本気で首とりにくりゃァええじゃろ。まあ、そんなもん出さんがのォ」

 

 それに疑うような視線を向けたが無駄だと思ったのだろう。ひがつちへと向き直る。

 

「小娘、せめて覚悟は決めておけよ。人とは相手がいなければ話にならん脆弱な生き物だが、数が増えれば増えるほど凶悪になる生き物だ。ましてや十もいればいさかいも起きるだろう。そうなったとき、何を信じ、何を切り捨てるのか、それを決める覚悟は持っておくがいい。でなくばお前のみならず周りも不幸の底に堕ちるだろうよ」

 

 そう言って街の大通りに向かって歩いて行く。

 去っていくセイバーに向かって、

 

「はい゛、あ゛りがどう、ございまじた」

 

 そう、涙声で頭を下げて礼を言った。事態は無事に収束したのである。

 盲打ちにより転移させられたアサシン陣営とランサー陣営にも事情が説明され、全ては収まったのである。

 




どうしてこうなったと頭抱えながらなんとか無事に辿り着いた。序盤なのに終盤の空気。

ちなみにキャスターの宝具を設定した時まったくこんなことは想定していなかった。
つまりテキトーにしていた設定が勝手に嵌った。

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