擬似聖杯戦争   作:三代目盲打ちテイク

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1日目 裏

 

 内心舌打ちしながら紅幽鹿とランサーは人目に付かないように屋根から屋根へと巨大な魔力の流れを感知した場所まで走っていた。

 昨日の夜、暇潰しに出会ったマスター達の吉凶を占って出た結果が有部理生とアーチャーのマスターの凶、しかも凶の中でも1番最悪な凶!

 

  占いはその人物のモーチベーションを上げるものだと認識しているからそこまで気にしなかったが、

 

「恨むぞ、ご先祖! それにしても糞! 最悪だ! 同盟組んだ次の日にはこれか盲打ち!」

「マスター、もうそろそろ目的地に着きます!それと、体の方は大丈夫ですか?」

「大丈夫だ! 強化符で肉体強化してるからな!」

 ンサーのスピードに強化符で強化した肉体で走るのは苦にはならない。いや、『途中から苦にならなくなった』と言った方が適切か。

 

「ランサー、お前も理解しているか?!」

「はい、途中から身体機能が制限されてます。真横の感覚がなく、能力も多少は落ちましたね。ですが、逆にマスターの方は強化されているようなので、その影響で私の能力低下は大丈夫のようです」

「そうか、それは良かった」

 

 これが盲打ちの噂の結界か。

 

 ――俺が言うのも可笑しいと思うが、本当イレギュラーで面白い奴だ。

 

「しかしマスター、私には疑問があります。何故、アーチャー陣営を助けるのですか?アサシン陣営を助けるのは理解できます。同盟ですから。しかし、何故同盟でないアーチャー陣営を? まさか……あの女子(おなご)のどちらかに惚れられたのですか?」

 

 ――このランサー、何言ってるんだ?

 

「そんな理由じゃない! 俺は魔術師で陰陽師だ。俺は俺がやりたい事をする! あんなに簡単に人を信じそうな人畜無害そうな女が死んでみろ、目覚めが悪いだろ!それがヤダから俺は助ける! 自己満足の為に助けるだけだ!」

 

 そんなマスターの返答にランサーは呆れながら、しかし何処か嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「ハァ、あなたは天邪鬼ですか?魔術師と言うのはもっと冷酷で残忍だと聖杯の知識としてありますが……あなたは優しい過ぎます。……ですがその心意気、やはり私が今世の主人と認めた男。良いでしょう! このランサー、全力で両陣営救いましょう!!」

 

 紅幽鹿とランサーは駆けるスピードを上げ、両陣営を探し始める。

 ふと、ランサーは走っている紅幽鹿。その背後に、影を見た。いや、見たかはわからない。少なくとも何も感じなかった。だが、次の瞬間、

 

「――っ、マスター!!」

 

 咄嗟に、薙刀を出す。手ごたえはない。だが、何かを防いだ。薙刀には何かを弾いた感触がある。

 いつの間にか、そこには何かがいた。日本の能の泥眼面をつけた誰か。さながら亡霊のように存在が希薄だ。

 

「なんだ、こいつ!?」

「敵ですマスター!」

 

 ならばと紅幽鹿が火行符にて火炎を発生させ、木行符で木の根などを出して、でがむしゃらに攻撃をする。しかし、泥眼は捕まらない。

 それどろか全ての攻撃をかいくぐり死角から奇襲してくる。

 

 なんとかそれをランサーに迎撃され紅幽鹿は考える。この相手は何かと。すぐさま想定は完成する。アサシンだ。この相手は。

 全ての攻撃はマスター狙い。そして、すべて急所だ。首、心臓。

 

「だったら」

 

 紅幽鹿は、ワザとスキを何回か見せて攻撃させる。それをランサーが薙刀で防御していく。

 相手は見えない。だが攻撃する瞬間だけは見える。ランサーの俊敏ならば慣れれば捉えられるだろう。

 

 慣れてきた頃に泥眼が薙刀を防いだと同時にランサーが泥眼を素手で掴み、自慢の怪力でさば折りか首を捩じきろうとする。

 しかし、その瞬間、視界が切り替わる。

 

 手の中の泥眼は消えて、代わりに目の前に盲打ちたちがいる。そこには襲われているはずのアーチャーもいた。

 

「どうしたのでしょうか、これは」

「解決したのか?」

 

 まあいいやと紅幽鹿はひがつちをナンパする。

 

「マスター?」

「って、あだだだだ」

 

 ランサーが即座にアイアンクロー。

 

「おう、事情を説明してやるから待て」

 

 事情を説明された。どうやら解決したらしい。

 

「なるほど。んじゃ、今回は面白い体験させて貰ったから、機会があったら今度は俺が面白いの見せてやるよ」

 

 アイアンクローされながらそう言った。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 アサシン陣営はアーチャー陣営を救うために令呪を使った。盲打ちの魔術であろう何かによって極端に弱体化。まずはパスを強化し、それからアサシンの魔術を打ち消す為に二画も使用したがアーチャー陣営を救うためなら安い。

 どのまま有部理生はアサシンに抱えられてアーチャー陣営を探していた。 

 

「Scheiße! アーチャーたちは何処だ?」

「……気を探ってはいますが、何分ここの空間がおかしすぎます。宝具を使えばあるいは、ですが。術理自体はある程度把握できましたし」

「型はめ、見立て、陰陽系の術による空間支配……ってなんかマッチョな爺さんが出てきやがった!」

 

 一瞬緊張が走るも、相手の動きは鈍く、マスターを下ろしたアサシンの一撃で相手は昏倒した。怪士面をつけた男。

 

「何だったんですか?」

「……盲打ちの部下かな。さ、急ごう」

 

 しかし、怪士は突然起き上がり背後から強襲してきた。

 

「嘘だろう!?」

 

 辛うじて躱す。

 アサシンの攻撃は、素人目から観ても完璧だった。気配遮断を使い、人体の急所に一撃。後遺症を遺さず昏倒させる技。

 ――なのに、何故、動ける?

 

 傍を通ろうとしたところ足首を掴まれ、アサシンは咄嗟に腕の中のマスターを放り投げた。何とか彼女が尻から落ちたのを確認し、万力のような力で締め上げる老人と、再び対峙する。

 

「…………」

 

 仮面の男は黙ったまま構えを取る。そこにあるのは何もない。読み取れる感情など何もなく、ただ連綿と積み上げられた研鑽だけが感じられる。

 動きが鈍い? 冗談だろう。少なくともこの老人にとって、この程度のことなど日常茶飯事と言っても良いことであるのだろう。

 

 その証拠に、振るわれる拳はアサシンですら戦慄するほどの威力を内包している。強化された拳、尋常ならざる武。

 如何にアサシンが的確に急所を狙おうとも、男はその一撃をズラす。

 

 急所を狙うアサシン。それ以外にないからこそ、アサシンであるゆえに、武人はその読みやすい一撃を読み切り、受けきるのだ。

 

「くっ!」

 

 相手の拳をどうにか往なしながら、アサシンは考える。この老爺の実力なら、自分を無視してマスターを狙うことも出来るはず。

 それをしないということは、

 

「なるほど、その為人、闘争を嗜む類ですか」

 

 無論、その程度では手練の相手は動揺しない。何も反応が無いということが、却ってアサシンの確信を強める。恐らく、此方が戦闘者では無いということも理解しただろう。

 現在の状況。アサシンはステータス差及び先読みで何とか重篤なダメージを避けているに過ぎず、老爺が徐々に圧してきている。

 

 にもかかわらず、アサシンの表情からは笑みが消えていない。

 暗殺者の位階で召喚されども、もとよりこの身は、命を奪う為のものでは無し。

 

 んな二人の闘いを背後より見つめる、有部理生。アサシンは令呪により釈迦の掌の影響を免れているが、マスターはそうではない。

 そもそも、彼女は本来純正の研究者であって、体術を駆使する相手と正面から闘うべきではないのだ。

 

 今や魔力さえ十分に扱えぬ彼女に出来るのは、ちょっとした小細工、唯それだけ。しかし、それで十分であった。

 

「♩~」

 

 アサシンの懐より、微かな音が聞こえる。女性の声、いや、歌。

 

「……?」

 

 老爺が訝る。魔力は感じない。一瞬、体性感覚が変調したような。彼にとって、身体とは完全に掌握しきったもの。再確認。問題無い。むしろ、この音により気配遮断より攻撃に移ろうとしたアサシンの位置が把握できた。零距離。

 腕を伸ばす、掴む。だが、怪士は、アサシンを取り落とした。

 

「ああ、動かないでくださいよ。折鍼なぞ、医者の名折れだ」

 

 思うがままに。相手を殺すのではなく、癒す為の術。鍼による麻酔。老爺の纏う礼装は、アサシンの、より大きな神秘で貫通される。いや、極自然に受け入れさせられた。

 

「…………」

「随分腎の強い方ですこと。一睡の後には、良い目覚めをお約束します。おやすみなさい。ふぅ、アサシン、ありがとう、大丈夫だった?」

「僕なら平気です。ところで、あの歌は?」

「少しだけ衝動性を増す、とか。相手をリラックスさせる、とか。ニューロンの発火を共感覚的に云々かんぬんで、私も詳しくは知らない」

「へ、へえ……」

「母から教わったやつだけど、少しは効果があったのかな? 正直歌が効くとは思えなかった。それにしても、凄い腕だね」

「鍼の扱いには、多少自身があるのですよ。腎実の方なので、湧泉などに鍼を打っておきました」

「あれ、蹴られたら痛くないのかと思ったよ」

 

 その瞬間、視界がズレて、場所が切り替わる。そこは祇地島大仏殿。その大仏の掌の上。

 そこには座る盲打ちとアーチャー陣営、ランサー陣営がいた。

 雰囲気はこれから戦うといった雰囲気ではない。昨夜のような同盟の雰囲気。

 

「なんとかなった、のですかね」

「そうみたいね」

 

 とりあえずはほっと一安心。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 昨夜の観測の時、てひかづちを観て自身に欠けている「なにか」をみた白騎士はバーサーカーを連れて聖杯戦争での初の行動を開始する。

 

 件の戦場に着くとそこは既に釈迦の掌の上だった。

 

 感じる脱力感、目に見える弱体化。

 感覚はひどく狭く前方僅か数メートルしか効かず、意識を飛ばし観測範囲を広めるもまるで意味がない。

 

 逆にバーサーカー自身は強化状態にあるが、マスターである自分が足を引っ張っているためその恩恵も期待しないほうが良さそうだ。

 

 この空間を支配する結界の解析を試みるも無駄だった。範囲が広すぎる。脱出を視野にいれたが意味はない。

 

 さらに、今一番の問題は魔力の消費。

 ただでさえバーサーカーは魔力の消費が激しいクラスだ。弱体化を強制された今、自身が直接戦うことは止め、極力消費を最小限に控えるべきだ。

 

 懐の魔力石を取りだし体内へ取り込む。こんな序盤で使うはめになるとは思っても見なかったが、何せ相手は盲打ち。出し惜しみしている場合ではない。自分にはあの少女に問わねばならない事がある。

 この世に生まれ落ち、今までつもり積もった疑問の答えをあの少女――ひかづちは知っているかもしれないのだ。自分の求める答えを得るまでは死ぬつもりはない。

 

「だから」

「知らんわ。そこで夜叉の相手でもしちょれ」

 

 しかし、その願いはかなえられず、夜叉と呼ばれる何かと戦闘をすることになった。

 

 バーサーカーが刀を抜いて走る。下がる夜叉。

 暗器の類が投擲されるがバーサーカーは意にも介さない。ただ真っ直ぐに夜叉へと向かう。 

 そのまま膂力に任せて薙ぎ払い吹き飛ばす。

 明らかに相手は弱体化している。こちらはそのまま。ならば負ける道理などなく。

 

 夜叉を追いこんでいく。そして、とどめを刺す直前、夜叉が消えた。

 




一日目の裏。バーサーカー陣営だけもう少しだけ書きたかったのですが、ちょっと断念。
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