擬似聖杯戦争   作:三代目盲打ちテイク

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一日目 授業

 昼間の盲打ち裏切り騒動の果てになんとか解決したあと、またも盲打ちは無軌道に紅 幽鹿の拠点へと侵入をかましていた。

 

「邪魔するけぇの!」

 

 真正面からとかそう言う次元ではなく、盲打ちはその余りある空間制御技術を利用して転移してきたのだ。

 紅 幽鹿の真正面へと降り立つ。

 

「あん、なんぞ雁首そろえてなにやろう言うんじゃ」

 

 警戒体勢のランサー。それだけでなくそこにはアサシンもアーチャーもいる。

 つまり同盟した陣営がそのまま一堂に会したことになるのだ。

 

「ひがつちが魔術について勉強したいっていったからそれだよ」

 

 紅 幽鹿が答える。

 

「なるほどのう」

「で、何か用のか?」

 

 紅 幽鹿は盲打ちに問う。この盲打ちにそんなことを聞いても意味がないことはこれまでのことでわかったが、聞かずにはいられない。

 

「なぁに、聖杯に関して色々となぁ、ロードっちゅう奴の意見でも聞いてみようと思ったわけよ」

「思い立ったら吉日ってやつか」

 

 そろそろこんな男の思考回路が理解できそうな紅 幽鹿は自分が嫌になってきた。というか、理解できても理解できないのが盲打ちなので意味がないことをしている自覚があった。

 

「って、ちょっと、待って」

 

 ふと、テーブルを見たキャスターが声をあげる。

 

「これ、私の編纂した古事記じゃないの、なんでこんなところにあるわけ?」

「布教」

「やめろ」

「やだ」

「やめろ」

「やだ」

 

 何やら言いあいを始めた二人を盲打ちは面白おかしく見ている。

 その隣で有部理生はアサシンと二人で溜め息を吐いて、ひがつちの勉強を見る。

 

 魔術について。とっくの昔に魔術回路などは開いているので、今は魔術の扱い方に入っているが、その前に属性と起源についての話になっていたのでその続きだ。

 

「えっと、属性が魔術師個人が持つ、その魔術師がどのような特性の魔術と相性が良いか・どのような特性を持ちやすいかを定める要素でしたっけ」

「ええ、そうよ」

 

 西洋魔術の世界では一般的に、五大元素に二つの架空元素を加えた七つの種類を属性としている。

 通常は一人の魔術師に一つの属性だが、二つを兼ね備えた二重属性、さらには五大元素全てを兼ね備えた「アベレージ・ワン」の魔術師も存在する。

 

 そこまで来ればもはや凄まじいなんてものじゃないほどの才能であるし、架空元素など持っていたらそれこそ封印指定もありうるほどだ。

 

「理生さんの属性が、水でしたっけ」

「そうよ、でひがつちのが水と空の二重属性ね」

 

 ひがつちはどうやら自分が思う以上に才能があるらしい。紅 幽鹿にも言われたが二重属性持ちは珍しい。

 

「じゃあ、紅 幽鹿さんは?」

「俺? 俺はねぇ、ちょっと起源の関係で通常の属性とかそんなのぶっちぎってる感じなんだよね」

「起源?」

「そう起源」

 

 起源。それは魔術師に限らずありとあらゆる存在が持つ、原初の始まりにて与えられた方向付け。あるいは絶対命令と呼ぶものもいる。

 ともかくとして、起源とはあらかじめ定められた物事の本質のことだ。

 

 魔術師の場合起源が強く表に出ていると、通常の属性ではなく起源が魔術の特性を定める場合がある。紅 幽鹿が言っているのはこういうこと。

 

 起源が強く表に出ている魔術師は、通常の属性を用いての魔術とは相性が悪く汎用性がない。その代わり一芸に特化した専門家でもある。

 

「そこの盲打ちもそうだろ?」

 

 紅 幽鹿は昼間の固有結界にも近いほどの結界を思い出しながら言う。

 

「おう、そうじゃのう。俺の起源は結界なんちゅうもんでな」

「なるほど、だからあれほどの結界を使えるのか」

 

 有部理生は納得したように頷く。

 ひがつちは勉強を始めたばかりなので目を白黒させている。

 

「で、俺か。俺は陰陽の起源があってね」

 

 そのせいで陰陽術なんていうものが使えるが通常の属性が使いにくいということになっている。

 ただ陰陽術自体に汎用性が高いためそれほど苦労もしていないと彼は笑うが。

 

「なるほど、私の起源ってなんなんでしょう」

「さてのぅ、知らんわ。そんなより魔術刻印の話でもしたんか」

「あ、それはわかりますよ。さっき幽鹿さんに習いました!」

 

 ひがつちが手をあげて説明して見せる。

 

 魔術刻印。それは魔術師の家系が持つ遺産であり財産だ。生涯を以って鍛え上げ固定化した神秘を、幻想種や魔術礼装の欠片、魔術刻印の一部などを核として刻印にし子孫に遺したものである。

 家系そのものとも言えるそれは魔術師の家系では秘法とも呼べるものだ。

 

 数十年、数百年の研鑽の結果がそこには全て残っている。

 

 そうそれはひがつちの家系もまた同じ。

 それは今盲打ちが教会に預けている。自分での管理が面倒くさくなって預けているのだ。

 

 それを返すのは当分先だろう。というか、この盲打ちは預けたことも忘れている。必要な時になれば思い出すだろうが、それまでは話が出ても知らぬというだろう。

 なにせ、間違いなく忘れているために知らないのだから。

 

「……そういやキャスターの宝具で聖杯を起動するんだっけ? 盲打ちがまた襲ってきた時に、うっかりキャスターを倒さないよう注意しないと」

 

 ふとひがつちの話が終わった時に有部理生がそんなことを言った。

 

「おお、しっかりと注意せぇよ」

 

 盲打ちの態度に思わず拳を握る有部理生。

 なにせ、この男なにをするのかわからないのだ。

 

 無軌道でまた襲撃を仕掛けて来ても、キャスターをまともに攻撃できない。だというのにあちらは攻撃できる状態でどうにかしなければいけないのだ。

 そんな状況になっても盲打ちは一切手心を加えないだろう。

 

「き、気を付けないと」

「ギアスとかは……あ、駄目だ、こいつ絶対に無意識で破る」

 

 つまり行動を縛ることもできない上にキャスターを撃破することはできない。

 

 現状に置いて最弱と称されるキャスター陣営がこの聖杯戦争の行方を握っているという事態。

 頭が痛くなりそうな有部理生だった。

 

 そんな時だ、

 

「ちょっと誰か子猫飼う気ない?20匹ほど捨てられてたのを拾ったんだけど…」

「我のゴルディアスホイールが猫で溢れておるわ」

 

 轟音と共にライダーが乗り込んできた。

 

「他のロード達から搾取した金で購入した古事記とサブカルチャーグッズがぁぁぁぁぁぁ?! ついでに拠点の家がぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 その際、ありとあらゆる防衛魔術が起動し、破壊されたことによって拠点が吹っ飛んだ。

 

 盲打ちが適当に仕掛けた結界によってけがはないものの被害は甚大だ。

 

「おうおう、こりゃぁ派手にやったのおう征服王」

「うむ、マスターの猫が落ちそうになったのでな、どうにかしようとしていたら突っ込んでしまった。いやすまぬな」

「うぉおおぉおおお」

 

 嘆く紅 幽鹿。

 

「アーチャーさん、僕とお茶しませんか?

 ひがつちちゃん、僕をなぐさめると思ってお茶しに行かない?」

 

 それからナンパしようとしてランサーにアイアンクローされた。

 

「あ、あの、よければ家に来ませんか!」

 

 そんな拠点を失ったランサー陣営にひがつちが家に来ないかと誘う。

 義理の両親には臨時できた英語教師が天災で家を失ったと言えば良いだろう。困っている人を見捨てることはひがつちにはできない。

 

「え、家に誘われるとか……幽鹿、ときめいちゃう」

「何ふざけたこと言ってるんですか? ひがつち感謝します」

「まあ、本音を言うとキミの家で泊まれるのは好都合だな。アーチャーがいるから大丈夫だと思うが、キミには凶が見えるからな……俺とランサーもキミを守れる」

「あの、急に真面目になられても困るのですが、皆さん急すぎて驚いてますよ」

「え、嘘!」

 

 本当である。

 

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。それに私だって魔術を教えてもらうんですから、当然です。魔術に関わっていない養父さんと養母さんもいますし、ライダーさんも突撃なんて真似はしてこないはず……。してこないですよね?」

「うむ、マスター次第であるがそんなことは余とてしたくはない」

「よかった」

「私としてもお前達が同居するのはありがたい。なに、アーチャ―らしく後方支援に徹することができる。安心して後ろは任せておけばいい」

「そう言ってもらえたらありがたいよ。ライダーに関しては……マスターが魔術師殺しだからな、安心はできない。

 あぁ、あと魔術と関係ないからといって日常で油断はしちゃいけない。必要最低限の警戒と学校に行く時はアーチャーを霊体化させて自分の側に居させるように……さて、キミのお父さんとお母さんに挨拶しに行こうか……お土産にお茶菓子と古事記を買ってくか」

「おう、ロード、別に俺んとこでもええぞ」

 

 古事記と聞いた盲打ちがそう提案する。

 

「絶対いや」

 

 キャスターは断固拒否だ。古事記なんて見たくもない黒歴史である。それを広めた紅 幽鹿などマスターの命令だろうとも拠点の敷居はまたがせる気はなかった。

 

「え、ヤダー、幽鹿もしかしてモテ期?男女関係なく虜にしちゃうなんて、幽鹿本当に困っちゃう。しかし、阿礼様の愛の巣に行くのは失礼かなぁ……どう思うランサー?」

「……マスターは男色家だったのですか?」

「俺はノンケだってかまわないで食っち……痛い痛い痛い痛い痛い?!ちょ、ランサー、お前の怪力でアイアンクローは洒落にな……アーーーーーー!!」

「男色家はダメですマスター」

 

 アイアンクローに悶える紅 幽鹿を盲打ちは大笑いだ。ひがつちは慌てて止めようとして有部理生は呆れたように溜め息を吐いている。

 

「ああ、ひがつち、お前、もう一つ属性あるぞ。架空元素・虚数」

「古事記広めたことは許さない男色ロード」

「へ? え。えええええええ!?」

 

 ひがつちの驚愕が夜の闇に響き渡った。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 無事に時計塔のロードである少年の滞在許可を貰い、いざ就寝という時にひがつちの脳裏に一つのある考えが過った。

 

(あれ……?同じ家に住んで、両親に挨拶って、これってまるで恋人……?)

 

 今まで教師と生徒の関係だと思っていたのだが、いざ時間がたってから考えればそうではないかと思い至ってしまったのは思春期の少女に降りた天啓か、それとも深読みか。しかし、考えてしまったことは止まらない。

 

(いやいやいや、紅さんとは魔術を習う間柄だけであってそんなんじゃ……)

 

 その時ひがつちの頭に少年のある言葉がフラッシュバックする--。

 

--『ひがつちに何かあっても俺が守ってやる』

 

(ふわあああああああぁぁぁぁ!?なんか顔が熱い!?いや、うん。確かに昼間必死になって助けに来てくれた時も嬉しかったけど!紅さんの家で守ってくれるって言われた時もすごく嬉しかったけど!)

 

 自身の枕に顔を打ち付けているその姿はまぎれもなく奇行である。そしてそんな少女にまたしてもひらめきが起こる。

 

(なんか、あの時ランサーさん、妙に紅さんに私とアーチャーが好きなのか聞いてたけど、なんで……?)

 

 そしてランサーと少年の楽しそうな慣れ合い。

 

(--なんかイヤ--、いやいやいやランサーさんとは仲間なんだからそんなコト考えちゃ……、でも……)

 

 悩むにつれ少女の打ち付ける頻度も多くなっていく。

 

(むわあああああああぁぁぁぁぁぁ!もう訳わかんないよおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!)

 

 結局少女はこのまま一睡もできないまま朝を迎えることとなる……。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 目的の少女に出会えず、盲打ちにはそっぽを向かれ、挙げ句の果て「知るか」と放り出された。

 その先で盲打ちの部下、夜叉面との戦闘。釈迦の掌の影響で自身は弱体化による制限があったが、それも相手は同じ様だった。

 

 バーサーカーの一閃で吹き飛び、止めを刺そうとしたその瞬間、夜叉は忽然と消え、その一撃は空を切った。

 同時に自身を襲う釈迦の掌の影響も消え、元に戻った事で観測範囲を広げ現在地を把握する。

 

「……」

 

 目的の少女の通う学校を中心に、自身の家の真逆の位置にいた。

 

 盲打ちの嫌がらせだろうか?

 いや、自分に興味のかけらも無い盲打ちがそんなことをワザワザする筈がない。

 

 十中八九、邪魔でどうでもいいからかテキトーに放り投げた先がここだった。そうに違いない。無意識で嫌がらせになった盲打ちはやはり盲打ちだ。

 

「……やっぱり彼とは相性が悪いね。いや、そもそも相性どうこうの関係にすらないか」

 

 しかし、自分にはあの少女に聞かねばならないことある――が、そこにはあの盲打ちがいる。

 

 避けては通れない棘の道。

 だが、この聖杯戦争じたいがそれなのだから、今更問題が増えようが関係も意味もないことだ。

 

「帰ろうか、バーサーカー。人の目が増えてきた。霊体化はせず、このまま徒歩で屋敷に戻ろう」

「……実体化だけでも他のクラスの奴らより魔力を消費する筈だが」

「釈迦の掌の影響が消えた今、実体化ぐらいの消費ぐらいは何の問題もないよ。元の魔力に加えて魔力石の追加分が残っているからね」

「……そうか」

「心配をしてくれているのかい?」

「……」

「まあそういう事にしておくよ」

 

 白騎士の問いにバーサーカーは答えず、沈黙を是ととらえ白騎士は屋敷に帰るため歩き出し、そのあとを追うようにバーサーカーもその場を後にした。

 屋敷に戻り玄関の扉を開いた時だった。目の前に昨晩部屋に寝かせておいた女中――桐栄がいた。

 

 何故――理解不能

 

 怪我も重症、一晩で回復出来るようなものではない。

 部屋にも厳重に魔術で結界を張ってあったのに。

 

 何故、この女は出てこれている。

 

 余りにも不可解で理解不能の現象に答えを求めると、彼女はその貧相な胸を誇らしげに張るようにいった。

 

「怪我は気合いで耐え、結界の方は魔術ではなにやっても無理でしたので、物理的に破壊させてもらいました!」

「……物理的に?」

「ええ、私の守護霊様は三つ目金髪インド系の破壊神様ですから。その気になれば何でもぶっ壊せますよ!」

 

 そうやって最後は何でも腕力で解決するのを止めろと思う

 

「そんなことだから脳筋だのメスゴリr 」

「ハァアッ」

 

 白騎士の言葉は最後まで続くことなく、桐栄の放った拳が顔面を捕らえ彼を後方数メートルまで吹っ飛ば白騎士は数時間ほど意識を失った。

 

 目覚めた時には陽が落ちており、自室の寝台の上で寝ていた。バーサーカーはその横に立っており、眼が覚めたことを確認すると部屋を出ていった。

 

 恐らく彼女を呼びに言ったのだろう。その証拠に部屋の外からバタバタと騒音が聴こえてくる。扉を壊すほどの勢いで開け、飛び込んでくる桐栄。すると何故か説教が始まった。

 

 ――女性に対して言葉が酷すぎるとか。

 ――何故だ、事実を言ったまでなんだが?

 

 彼女のいっている言葉を理解できずにいたが 、一通り言って満足したのか彼女は食事の準備をすると言って部屋を出ていった。

 

 ――そもそも、『人の心すら理解していない』のに、女心を理解しろとは無理難題を押し付けてくるものだ。

 ――ああそうだ。それらな『彼女』についでに聴くとしよう。

 

 そうして白騎士は今夜もまた観測する。己の答えを知るであろう少女を――。

 




遅くなりました。

一日目の夜パート。魔術講習と白騎士さんメインです。
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