擬似聖杯戦争   作:三代目盲打ちテイク

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二日目 大空洞にて

 翌朝、紅 幽鹿はランサーを伴いある場所へ向かっていた。

 

「マスター、いったい何処に向かっているのですか?」

「え、分からない?」

「いえ、分かりますが、分かりたくないと言いますか。認めたくないと言いますか……」

「ひがつちの通う、が、っ、こ、う」

「ハァ、その服やはりそうでしたから。あと、その言い方イラッとします」

 

 今朝ひがつちが着ていた制服と似ている柄の男物を着て、一文字ずつ区切った言い方をした自身のマスターを見て、ランサーは呆れからか苛立ちからか溜息をつく。

 

「しかしマスターは、学校と言う場所を辞めたのでしょう?」

「あぁ、まあ、辞めたと言うよりは辞めさせられたと言った方が正しいかな?」

「辞めさせられたですか?」

「喧嘩売ってきた同級生と教師がいてな、そいつらに一夫多妻去勢拳を喰らわせたら辞めさせられた……まあ、魔術を学ぶのにちょうどいいタイミングだったから、俺は嬉々として中退したけどな」

「そうなのですね。うん、一夫多妻去勢拳?」

 

 紅 幽鹿は懐かしい物を思い出すかのように遠い目をしながら語り、ランサーは紅 幽鹿の辞めた理由に納得するが、一部の言葉に疑問を持ち首を傾げる。

 

「さて、ランサー霊体化しといてね」

「了。しかしマスターはいつの間にここに通うことになったのですか?私が得た現代の知識ではかなり面倒くさい手続きが必要では?それと、どうしてひがつちの学校へ?」

「あー、コネだよコネ。盲打ちのコネ。この島って御三家の奴らが牛耳ってるらしくて、ひがつちの学校の理事なんだってさ。

 それと理由だけど、ひがつちを守る為。あと、両親に同級生って言ったから。おい、拗ねるな拗ねるな。俺はお前を信頼しているんだからな」

 

 紅 幽鹿の学校に来た理由に拗ね、頬を膨らませるランサーに幽鹿は苦笑いをしながらランサーをフォローし、幽鹿に掛けられた言葉にランサーは気分を良くする。

 

「し、信頼。そ、そうですね。マスターは私を頼って下さっているのですね!」

「それに、ひがつちにはアドバイスしたいことあるしな。今朝のひがつちの様子を覚えているか?」

 

 そう言われ、ランサーは今朝のひがつちの様子を思い出し頷く

 

「はい、寝不足のようで時々頭を振ったり、頬を紅く染めてましたね……まさか?!」

「ああ、きっとひがつちは盲打ちに恋してる!!」

「な、なんと?!」

「俺は難しい相手だぞとアドバイスに来たんだ。さて、行こう」

「はい!」

 

 二人は校門を通り、事務室の方に向かっていった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

――欠けた夢を見ている。

 

――遠く遠い過去の夢。自分ではない誰かの過去。

 

 山々に囲われた国の王の娘として生まれた少女は王女としてという意味でははなはだ不適格であった。当たり前だ、女としての家事労働といったことよりも狩りを好んだ男勝りな少女がそんなことに向いているはずがない。

 とはいえ、少女の狩りの才能は目覚ましいものだった。狩猟の神である月神にその狩りの鮮やかさゆえに二頭の猟犬を授けられるほどに。

 

 故に少女に浮ついた噂などなく、このまま一人なのだろうかと思われていた。

 

――そんな少女にも転期が訪れる。

 

 その日の彼女の狩りの標的が思いもよらずに苦戦する相手だったのである。

 猟犬も倒れ、矢も通じぬほどに強靭な獅子であった。では諦めて逃げ帰るのか、当然そんなことはなかった。少女は獅子に対し素手による格闘戦を挑み苦戦の末これを打倒したのである。

 

 変わるのはそこからだ。さすがに疲弊した少女は疲れが祟ったのか山中にて眠りに落ちたのである。

 そして目を覚ませば状況はまったく違っていた。

 見知らぬ土地、そして自身を乗せた黄金の戦車(チャリオット)にそれを手繰る輝かしくも神々しい太陽の如き男。

 

 少女は男に問いただした。ここは何処でお前は誰だと。

 

 少女の問いに男は答える。ここはギリシャよりはるか西の異郷の地であり、己はゼウスを父にもつ芸能の神であり、数多の神格をもつ光明の神■■■■である、と。

 

 再び少女は問う。なぜ私を浚ったのかと。

 

 男――神は答える。我が姉神に似たそなたのかの獅子と無手で闘う姿を見て一目ぼれをしたからであると。

 

 普通ならば誰もが怒りを覚える理由ではあるが、少女に怒りは無かった。政(まつりごと)に興味などなかったし、なによりも神は自分に真摯に向き合っていたからである。故に少女はその地に腰を落ち着けることになる。

 

 ああ――それに言動はそっけなくはあれど神の所業が犯罪スレスレのものだとしても真摯に愛を向けられた少女の胸の内は確かに――。

 

「……ぃ」

「……ぉい」

「いい加減起きろ、ひがつち!」

「……ふぇ?」

 

 目を覚ませばそこは遠い過去の地などではなく、見慣れた教室で目をさましたひがつちは青筋を立てている担任教師が目に映る。

 

「ホームルームも始まるのに居眠りとは、いい身分だな、ひがつち?」

 

 剣道部の朝錬も終わり、教室で待機している内に眠りこけてしまったことに気付いた少女は顔を真っ青にする。

 

「す、すいません……」

 

「まぁ、反省しているのならいい。でだ。今日はこのクラスに転校生が来る。海外からの帰国子女のようでな、2年も終わるこの時期だが、みんな、仲良くしてやってくれ。おい、入っていいぞ」

 

 そして入ってきた転校生の姿に――。

 

「……へ?」

 

 ひがつちは間抜けな声をこぼした。

 その転校生は昨日から自分の家で生活をすることになった紅 幽鹿その人だったからだ――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「まぁ、反省しているのならいい。でだ。今日はこのクラスに転校生が来る。海外からの帰国子女のようでな、2年も終わるこの時期だが、みんな、仲良くしてやってくれ。おい、入っていいぞ」

 

 そう言われ、廊下で待機していた幽鹿は教室に入り、教卓の前に立つ。

 

――おぉ、驚いてる驚いてる。

 

 自分の姿を見て驚いてるひがつちを見て幽鹿は内心笑みを浮かべるが、すぐに切り替えて学校用のキャラに変える。

 

「初めまして、紅 幽鹿と申します。つい最近までは英国のロンドンの方に住んでいましたが、家庭の都合により帰国しこの街に越してきました。使命は古事記の布教。趣味は占いとナンパです。占いは色恋に関するものが主です。

 もしも、恋に悩んでいる方がいらっしゃいましたら、気軽にお教え下さい。占いますので……こんな中途半端な時期ですが、皆様と仲良く出来るように頑張りたいと思います。これからよろしくお願いします……あと、そこの方、放課後お茶しに行きませんか?」

「おい、早速ナンパしてるなよ」

「あ、すみません」

 

 普段とは違う、完全に猫を被った幽鹿は自己紹介を終えた後、見知らぬ同級生に声を掛けるが青筋を浮かべた担任に注意され、幽鹿は残念そうな表情を浮かべながら一言謝罪し、空いていた席の方に向かって行った。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「あい えんわーふぇんどぅ ぺーうぇずういい」

「?」

 

 眠る前のおまじないが効いたのか、少女は『彼』のことを夢に見た。

 それは一生の追体験だ。

 

――部屋の隅で一人、静かに書を読む幼き頃。

――どこか周囲からは浮く、神童/怪物。

――しかし彼の地においては彼の特質は称うべきもので

――転機。周囲はどんどん疫病に倒れていく、俯瞰/慟哭。

――憤りさえ感じた、助けたいと思った、その気持ちに間違いはなくて

――純粋な心で、不器用なりに愛されて/星さえもが彼の背を押す/類い稀な才の発揮

――王朝が変わっても、皇帝に呼ばれても、彼は変わり無く民衆を癒し続けて

――古典を蘇らせ、経験を書き留め

――空行く雲のように囚われることなく。好奇心のままに、花開きばなの国際都市の空気を取り入れる

――人の営みを愛する。受容/許容

――意外と性に関しては知識豊富……性質が慈しみに寄っているから、特定の誰かを愛したというわけではないけれど

――告げる寿命。見えてしまう限界。それでも、その腕を惜しむことはなく

――未来が垣間見えるからこそ後の世に何か遺したいと考える/幼き日の憧れ/彼の地に脈打つ、過去の遺産、未来からの眼差し

――結局個人で死を超えることは叶わなかったけれど

 

 ――ああ、でも、彼はやり切ったのだな、羨ましい。

 

 夢を見た、理生はただそう思った。そして、それゆえに、

 

「私、あなたのことが好きです」

「!?」

 

 そうアサシンに告白していた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 聖杯の魔力は、現在五割ほど溜まっている。蓬莱の玉の枝様様であるが、盲打ちは再び夜が明け昼時となったくらいに有部理生の下へと訪れていた。

 

「よォーアサシンのマスター。景気はどうじゃ」

「ご心配無く。気分は上々ですわ。聖杯の方はいかがなさいましたか?」

 

 寝坊して起きたばかりのようであるが、特に調子などは問題なさそうな理生はそう言った。

 

「聖杯? ああ、五割と言ったところじゃのォ。阿礼様様じゃわ」

「お前はもっと私を褒めるべき、そうすべき」

「何かお手伝いできることはございませんか? 例えば、マナの流れに干渉して、魔力を貯めるスピードを速めるとか」

「集めちょるわけじゃないからのォ。それやっても意味はなかろうて。まあ、早める手段はあるにはあるが。まあ、オススメはせんのォ。なんぞ、なら聖杯でも見に行くか」

「お願いします。問題がなさそうなので安心はしておりますが、やはり一度は自分の目で確かめておきたい。それと、もしよろしければでいいのですが、聖杯を言祝ぐことができれば、と」

 

 マスターたちがそんな話し合いをしているとサーヴァントの方も何やら話しをしていた。

 

「キャスター、この書などなかなか面白いぞ」

「なんの書、これ」

「こちらは洋の東西を問わぬ歴史書」

 

 歴史学習漫画を見せつつ、他の書も見せる。

 

「それと医書の数々を。本当に面白くて」

 

 彼が持つのは家庭の医学から始まり、検査値の読み方やらキャンベル生物学やら医学薬学生物系の本がたくさん。更には生薬についてまとめた本も山積みに。また、ローレンツのソロモンの指輪や、パラケルススの自然の光なども混じっている。

 

「む、歴史書ね。これは中々……。なら、お返しに誦習でもしてあげようかしら。帝紀とか旧辞とか」

 

 誦習。書物などを口に出して繰り返し読むこと。

 

 帝紀『古事記』や『日本書紀』以前に存在したと考えられている日本の歴史書の一つ

 旧辞『古事記』や『日本書紀』以前に存在したと考えられている日本の歴史書の一つ

 

 神秘録であり、古事記以上に古い神秘が載っている。ただし体系化されていない魔術などであまり使えるものはないだろうが歴史的価値が高い。

 どちらも古く散逸しているが、阿礼の記憶の中には全て収まっている。

 

「それはそれは、ありがとうございます。僕の国では史書は書かれたものが中心なので、このような形は興味深いです。術に関しても、存外倭と我々とは似ているようだ」

 

 その結果、短い時間ではあったが日本の魔術体系についてアサシンは詳しくなったようである。

 

 その時、予言のスキルが発動する。

 

「ふふふ、微笑ましいことだ。……おや、誰かがひがつちさんのところに向かおうとしている? 誰……? いやな感じはしませんが」

 

 ひがつちと紅 幽鹿の教室での様子を垣間見、そして、姿がはっきりとは確認できないがそのうちに誰かがひがつちに接触するだろうことに気が付く。

 その場の皆に一応注意を促したランサー陣営もいるので、大聖杯を見ることを優先することにした。

 

「おい、行くぞおまえら」

 

 盲打ちがそう言って、場所は聖杯が収められた大空洞へと向かう。

 

「はい!」

「よろしく頼みます」

 

 その道中で盲打ちは適当に成りたちを説明していた。

 

 大聖杯は祇地島の丁度中心地。明の来知徳が作った太極図である円図を基とした敷設陣の中心点に存在してていた。

 だが初代、二代目、三代目が色々と細工した結果、内円の太極から気が生じ外側へ向かって広がっていくはずのものが内部へと向かっていく機構へと組み換わっている。

 

 到着してそれを見た。魔力が非常に集まりやすい構造となっているのが一目見ればわかる。

 

「好。元々の陣はこう、陰陽を元にし、龍脈から溢れる魔力を外に分配するものだったのでしょう。後世に手を加えられ、外から魔力を組み上げ貯められるようになっています。

 これが大聖杯の正体ですか。一般に龍脈に干渉する式は、下手にいじると土地ごと破綻するものなのですが。龍脈の状態もここまで大規模な陣がありながら非常に良いですし、問題は無さそうです。というか実に見事で感心してしまいます」

 

 この図はきっと後世のものなのでしょうね、とアサシンが呟く。似たような概念は古くからあったのだがそれとはだいぶ違う。

 

「きれい……」

 

 無色の魔力が湛えられ、淡く七色の光が揺れている。泥とか蠢めく獣とかが詰まっているんじゃ無くって本当に良かったと、彼女は心の底から思った。最悪、自分が人身御供になる覚悟もしていたからだ。

 




安定の盲打ちクオリティ。
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