ドラゴンクエストモンスターズ≒   作:名無しのスライム

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ジョーカー編
冒険の書1[未踏の異世界]


「この程度か、呆気無いものだね」

 

 玉座に座ったまま彼は誰にでもなく呟く。彼の青い衣と美しい銀髪、灰色の瞳が彼の冷めた心情を代弁しているかのようだ。広大な石造りの部屋の真ん中で長い髪を一本に結わいた男がその仲間の魔物と共に倒れている。

 

「テリー様、ゾーマの蘇生は行いますか?」

 

 入口から声が聞こえてきた。ふよふよと浮かんでいる人型のそれの肌は緑色で角も二本生えている。その姿は第五の冒険譚に登場した魔王"ミルドラース"そのものだ。

 

「いや、いいよ。それよりオルゴ・デミーラの肉体の用意と魂の捜索をしてほしい」

「仰せのままに」

 

 異世界にて敗れた魔物使い(モンスター・マスター)は各国の精霊が勝手に回収する。放っておけば倒れている男もじきに失せるだろう。

 

「僕を満足させられるマスターはいないのか?」

 

 先ほどまで死闘を演じていた彼の魔物は既に眠り、その言葉を聞き届けた者はいなかった。

 

 頂点というのは非常に退屈でつまらない。立ち向かう者は皆自分の足元にも及ばず、蚊を叩き潰すように軽くあしらうだけで退けられる。現存するマスターの頂点に立ったテリーはそれでもまだ見ぬ魔物達を求めマスターとして究極の域の手前までたどり着いた。

 だが彼は自らが生み出した魔物によってその道を踏み外すこととなる。魔神デスタムーアを名乗る魔物によってもたらされた究極の配合"邪配合"を可能たらしめる秘法によって彼は力だけを求めるようになる。

 野性の魔物というのは繁殖能力が低く、また天敵となる存在も多いため自然にいれば絶滅してしまう存在だった。しかし魔物もまた生態系の中の一部として自然界の中でその機能を果たしていた。

 人間と魔物、お互いがお互いの脅威であると同時に共生関係をも築いていた。両者の橋渡しを行ったのが魔物使い(モンスター・マスター)と樹木の精霊。マスターが飼い慣らした魔物は樹木の精霊が宿る樹上の国で力をつけ、そして配合によって子を成し、本来以上にその力を高めていく。そんな関係が存在した。

 しかしその関係もテリーの手にした秘法により破壊され"邪配合"が放つ"邪の波動"により精霊はその力を失い始める。

 マスターと共にいた魔物もその多くが野生へと帰り、ごく一部のマスターと魔物だけがテリーに立ち向かう意思を持っていた。

 

 今、テリーの目の前で倒れている男もその一人、有翼族のヴィルトだ。相棒の鳥獣系の魔物達と共にテリーの腹心、ゾーマを討ち取りそのままテリーへ勝負を仕掛けたがこの有様だ。

 

「クリオ君はどこまで強くなってくれるんだろうね」

 

 自らがかつて共に戦った相棒のスライムを従える少年に思いをはせながらも次の計画について考える。

 次なる目標は第七の冒険譚に登場した魔王"オルゴ・デミーラ"の再現だ。部下のひとつめピエロ、ピューロがバズズの肉体を作り出し、そこに次元の狭間をさまよっていたロンダルキアの悪魔の魂を閉じ込めることにより、疑似的な再現を行い、更にその力を引き出した事例を元にした実験だ。

 ピューロは反乱分子としてゾーマが粛清を行ったが、テリーはピューロの実験を黙認していた。おかげで新たな試みへの糸口をつかめたのだから泳がせた甲斐があったものだ。

 伝承によるとミルドラースは世界をいくつにも切り分けたそうだ。テリーはその力を再現することができれば今まで発見すらされていない世界の強力なマスターと邂逅できると踏んでいた。

 そしてその推測が正しいという事は実験の成功を以って証明された。

 

「流石ね、テリー様。ごく一部の魔王にしか成し遂げられない次元の狭間の認識を人の身でしてのけるなんてね」

「大したことじゃないさ、僕だけの力じゃない」

 

 ヴィルトの敗北から一週間と経たない内にオルゴ・デミーラの再現は完了した。現在は人間に蝙蝠の羽が生えたような姿を取り紫色のスーツで着飾り、髪も入念にセットされている。噂に聞く通りのナルシストのおネエのようだ。端麗な容姿が台無しだ。

 

「多分ミルドラースから話は聞いているけど、君には未踏の異世界を探して欲しい。勿論タダでとは言わない」

 

 そう言ってから指を鳴らし、新たな腹心ミルドラースに指示を出す。

 

「例の物を」

 

 すると部屋の上から二匹の魔物が振ってきた。片や筋骨隆々として蝙蝠の羽を生やした人間の上半身に鳥獣のごとき爪を持つ四脚の青緑色の魔物。方や大きな胴に四つの足と八つの首を持つ緑色の蛇の魔物だ。前者はセルゲイナス、後者はやまたのおろちと呼ばれている。

 

「これを邪配合で取り入れれば元々の力の7割くらいは取り戻せるはずだ。悪くない取引だろう?」

 

 テリーが交渉の成立を確信しているのはこの取引に差し出した魔物の質がいいからでもある。しかし今は眠っているがテリーの背後には強大な魔物ジェノシドーが構え、部屋の外には腹心ミルドラース、そしてこの城の中にはテリーに忠誠を誓った魔王の模倣体が数多く存在する。従わなければ殺す。というある種の脅しじみた武力を背後にちらつかせていることが彼の確信に拍車をかけている。

 

「勿論引き受けさせて頂くわ。期待して頂戴」

 

 オルゴ・デミーラはそう言いながら降ってきた二匹の魔物を邪配合で取り込み始める。掃除機に吸い込まれるように二匹の魔物は吸い寄せられ、そしてその形を歪ませながらオルゴ・デミーラの体の中に入り込んでいく。

 邪配合が終わるとオルゴ・デミーラは部屋を後にして、城の外、次元の狭間へと向かう。

 オルゴ・デミーラもこの取引は満更でもないと考えていた。未踏の世界の魔物を邪配合で取り入れれば自分の生前以上に力をつけることも可能だと考えていた。

 

「できたわよ、未踏世界の捜索」

「流石だね、魔王の中で最も本願に近づいただけはある」

 

 いつもの部屋にオルゴ・デミーラがやってきて、頼まれていたことが終わったことを報告した。したり顔にも疲れ顔にも見える表情がその激務を物語っているように思える。

 

「ミルドラース」

「如何致しましたか」

 

 満足げな顔をしたテリーが腹心を呼びつける。

 

「しばらく留守にする。君たちに留守番をしてほしい」

「仰せのままに」

 

 不完全だったゾーマの模倣体はヴィルトによってあっさりと討ち取られてしまったが、この数の魔王相手に連戦を行えるマスターなど早々存在しない。

 テリーの心は躍っていた。久々の未知と冒険に思いをはせ、童心を思い出していた。そして今自分を追いかけ力をつけているマスターの事を思い浮かべる。

 

「クリオ君はいつか僕を追い越すだろう。だから僕だって前に進む。君の心をへし折るためにね」

 

 究極の一歩手前まで近づいたマスターが忘れていたものがそこにある。そう信じてテリーは足を踏み出す。

 

「オルゴ・デミーラ、旅の扉を繋げるかい?」

「勿論。わたしを甘く見ないで欲しいわ」

 

 オルゴ・デミーラが軽く腕を振るうと何もない空間に突如青白く輝く渦が出現する。一般に旅の扉と呼ばれる異世界や遠く離れた地へと繋がる門だ。

 

「折角だし初心に戻って冒険してみるとしよう。来い、シルバーデビル」

 

 読んでから数秒の間をおいて部屋の上からそれは飛んできた。シルバーデビルは白い体毛の猿に蝙蝠の羽が生えたような姿の魔物で、その素早さ、狡猾さ、呪文の威力から多くの中堅勇者を葬ってきた中級の悪魔だ。

 

「何の御用で」

「未踏の世界へ行く相棒に君を選んだ。拒否権はない」

「ありがたき幸せ」

「さ、行くよ。もう待ちきれない」

 

 そう言うテリーの顔に、魔王テリーの面影はなく、純粋に冒険を夢見た少年の日の面影があった。

 未踏の世界を既知の世界へと変える冒険が始まった。




・ミルドラース≒
 邪配合によって生まれた魔王ミルドラース。配合や邪配合によって生まれた魔王の類の魔物は伝承などに伝わるそれそのものでなく、同じ器をもっただけのただの魔物である。
 しかしながら何らかの形で本物と繋がっていて、本来その個体が知らないはずの記憶を本物を介して手に入れることがある。

・オルゴ・デミーラ≒
 ドラゴンクエストⅦに登場する魔王。
 美しさに異様なまでの執着を持つ様は他の伝承に伝わる魔王とは異なる狂気を垣間見せる。

・セルゲイナス
 能力低下や息吹に対して高い耐性を持つドラゴン系の魔物。
 見かけに反して呪文が得意。

・やまたのおろち
 5つの頭と高度な知能を持つドラゴン系の魔物。
 強力なブレスもさることながら狡猾さも併せ持つ。

・シルバーデビル≒
 邪配合によって生まれたシルバーデビル。見た目こそ普通のシルバーデビルだが、バズズの模倣体の器として作られたため、その潜在能力はムドークラスの魔王に匹敵する。
 得意とする特技はベギラマとイオナズン、他にもマヌーサ、ルカナン、ボミオス、マホトラ、だいぼうぎょ、ルーラ、リレミトを使うことができる。
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