「ハハハッ清々しいくらい綺麗に負けてくれたね」
ルカは結局第三回戦まで善戦したものの、暗黒の魔人による痛恨の一撃によってコアトルを倒され、残り二匹も奮闘するもあえなく敗退してしまった。テリーはそれを見て今の自分の魔物で勝算は無いと考え、挑戦を辞退した。
「それでも、自分たちの限界を超えられた気がするなぁ」
仲間を信じ切って、一見無茶にも見える戦いに挑んだ勇者はマスターとして一回り成長し、その外見も心なしかたくましく見える。
「それで、どうするんだい?」
「まだ会ったことのない魔物を仲間にしたいし、仲間を強くしたいし…」
「それならテントの中にいたマスターから一つ良いことを聞いてね」
アルカポリス島行きの水上バイクのある桟橋から島を反時計回りに少し進んだところに、謎の遺跡があり、そこにはこの島にしてはかなり強い魔物が生息しているらしい。
二人は来た道を戻り、GPitで軽く休息を取ってから遺跡へと向かった。重厚な扉は思いのほか軽い力で開き、二人を迎えている、あるいは誘い込んでるように思える。
中に入ると綺麗な石のタイルによって整備された部屋があり、すぐ先にまた扉がある。魔物の住処として協会が定期的に清掃しているらしい。
再び扉の先に行くとまた正面に扉がある。
「からかっているのか!」
痺れを切らしたテリーが次の扉に向かい走って扉を開けて部屋の中に入った。
「待って!」
とルカが言うのも、実はすぐ左に行けば上に続く階段があるからだ。急いでテリーを追いかけるが、扉は固く閉ざされて開く様子は無かった。
「無事でいてくれればいいけど…」
テリー達が部屋に入ると扉が独りでに閉まる。直後部屋の松明が灯り暗闇は照らされ、部屋の主が現れる。
目の前にいるのは両で大きなスプーンを持った、雄牛の様な顔を持つ悪魔の姿をした黄色い魔物と、それが引き連れる二匹のフォークを持った紫色の小悪魔。後者はベビーサタンという魔物で、強力な呪文の扱い方を知るが魔力不足によってそれを使うことはできない哀れな魔物として知られている。前者の魔物はテリーは会ったことが無いが、協会の資料でデザートデーモンという魔物であると知っている。
「これが例の強い魔物か」
この部屋は遺跡荒らしを退けるための罠なのだがテリーはそんなことを気にもせず目の前にいる魔物に興味を寄せる。ギガンテスよりは弱そうだが、外にいた魔物よりは強いことはわかる。
相手が逃げる様子がない事を確認し、仲間に指示を出す。
「シルバーデビルはルカナン、ギガンテスはバイキルトだ!」
スカウトアタックは相手の防御力が低く、自分達の攻撃力が高いほど成功しやすくなる。ルカナンで防御力を下げて、バイキルトで攻撃力を上げて、準備を整えていく。
ベビーサタンは炎を飛ばす呪文"メラ"を唱えてくる。テリーの知るベビーサタンはイオナズンを唱えようとしては失敗してばかりなので一瞬困惑するが、すぐにそれは好奇心へと変わる。
「君も気になるけど、やっぱり今回は大物の方を頂くよ」
スカウトアタックが成功すると、一緒に現れた魔物は逃げてしまう。そのため複数の仲間にしたい魔物が同時に現れた場合、マスターは苦渋の選択を強いられてしまう。
ベビーサタンに続いてデザートデーモンも呪文を唱える。
ベビーサタンは呪文を使わずにフォークで突き刺しにかかるが、ギガンテスの強靭な肉体にはまるで歯が立たない。デザートデーモンも呪文で攻撃するが相手が格上であることに気付いたのか後ずさりを始めた。
テリーはすかさず左手を掲げ、スカウトリングを使う。その直後、シルバーデビルとギガンテスが青白い光に包まれた。
「デザートデーモンだ!やれ!」
先にシルバーデビルが二回連続でデザートデーモンを殴りつけ、続いてギガンテスが棍棒で殴りつける。デザートデーモンはのけぞる様子こそあるものの、傷は見受けられない。
相手の魔物が戦いの手を止め、数秒後にはベビーサタンが部屋の奥の扉に逃げ、デザートデーモンがテリーへ歩み寄ってくる。スカウトアタックは成功したようだった。
ベビーサタンが逃げて行った扉の脇に、何やら文字の刻まれた石碑があった。何やらよくわからないことが書かれているので気にせず扉を開けると目の前にルカがいた。その先には先ほど自分が通ったはずの扉がある。
「何も警戒せず行くなんて…って何か増えてますね」
「そっちこそ、おおきづちと…踊る宝石じゃないな」
「わらいぶくろっていう魔物らしいです」
自分がデザートデーモンと戦っている間に二匹も仲間にしていたようだ。テリーはその非情さと行動力に驚くとともに呆れた。
「僕は目的を達成したから別の島に移動するつもりだけど、そっちにアテは?」
「なんでもこの島は夜、闘技場のステージに珍しい魔物が現れるらしいですよ。ドラゴン系なので是非仲間にしたいと思ってて…」
「それじゃあ決まりだ」
二人は遺跡を出て、夜になるまでサンドロ島のGPitで休憩した。
夜の砂漠は昼とは打って変わって雪山のように寒く、凍え死ぬ程だ。辺りを闊歩する魔物も昼とは違い、海辺にカニの魔物、窪地には翼をもった魔物のキメラがいる。昼間、ルカが戦った闘技場のステージの上に、骸骨の魔物がいることが上からでも確認できる。死霊の騎士や骸骨剣士などと違い、その骸骨は二足歩行の竜の姿をしている。スカルドラゴンと呼ばれるその魔物は夜行性で洞窟を好み、稀に外に出るらしい。運よく今日はその日で遭遇することができた。
二人は他のマスターがいないことを確認し、ステージへと向かう。
「グレーラはみんなを庇って、アンドレは甘い息、コルはバイキルトだ」
相手に先手を取られた場合の保険としてグレイトドラゴンに仲間を守る壁の役割を任せ、アンドレアルには相手を眠らせるべく息吹を使わせ、コアトルには攻撃力の増強をさせる。ルカらしく慎重な判断だ。
先んじて動いたのはコアトルで、グレイトドラゴンにバイキルトをかける。アンドレアルが甘い息を吐き出すが、スカルドラゴンには聞いてないように見える。スカルドラゴンも反撃するが、グレイトドラゴンの強固な肉体に阻まれ攻撃は不発に終わる。
「今だ!スカウト!」
慎重だった一手目とは打って変わって大胆な手に出るルカ。今まで裏目に出ていた慧眼はルカが一皮むけることにより、魔物の力をより引き出すことのできる強力な武器になっていた。
魔物達もそれに応えるように全力でスカウトアタックを行う。ドラゴン系の魔物は強靭な肉体を持ち、直接的な殴り合いに長けている。ルカの魔物の一匹一匹がテリーのギガンテスを上回る怪力を以ってスカルドラゴンを屈服させにかかる。
これにはスカルドラゴンも参ったと言わんばかりに戦いの手を止め、ルカへと歩み寄った。スカウトアタックは成功したようだ。
「やったぁ!」
「おめでとう。ルカ君」
二人はその後GPitに戻ってから荷物を職員に預け、マスター向けの休憩室で夜を明かした。寒暖が極端な砂漠の中とは思えない程快適な温度の室内にはテリーやルカの他にもほんの数人のマスターが仮眠をとっていた。その中にはかのアロマを打ち負かした唯一のマスターもいたのだが、この時は誰も気づくことはなかった。
時は遡り、テリー達が闘技場で戦う少し前、アルカポリス島からかなり離れた位置にある樹海の島、モルボンバ島の桟橋に彼はいた。一流のマスターですら危険の島を自分の庭のように闊歩する彼は、この島々の中で唯一の現バトルGP協会会長アロマに勝利した男だ。灰色の髪は整髪料によって重力に逆らい前向きに尖っていて、シルバーアクセサリーやラフな格好をしている彼の格好は親の愛を受けず育ったせいであった。
連れている魔物は三つの目と青い翼をもつ鳥獣の魔物"ジャミラス"や巨大な棍棒を両手で持ち、強靭な巨体と貧相で飛ぶことのできない翼をもつ魔物"おにこんぼう"そして青白く美しい毛並みを持つ狼のような姿で、額には緑色の輝く"宝具"と呼ばれる角を持つ伝説の魔物"神獣JOKER" そのどれもが限界近くまで鍛え上げられた最上級の魔物で、彼の勝利が偶然ではない事が見て取れる。
つい先ほど彼はGPitでアロマを追い詰めたマスターの話を聞き、今いる魔物の中で最も強いものを連れてアルカポリス島へと向かおうとしていた。
「昨日から嫌な気配を感じる。主よ、気をつけろ」
「俺がそう簡単に負けるはずがねーよ。お前こそまた洗脳されんなよ?」
「あの話はもう掘り返さないでくれ」
かつて元バトルGP協会会長カルマッソによって魔物を凶暴化させる原因である"マ素"を大量に浴びせられた神獣はその自我を失い、カルマッソの配下となってしまったことがあった。神獣の主の父が作った道具によってマ素を吸い出し事なきを得たが、その記憶は未だに神獣の心に深い傷を残している。
一方で彼はこの事件を通し父の愛を感じたのだが、慣れ親しんだ服装を変える気はないようだ。
「さて、それじゃ行くぞ」
キメラの翼を放り投げ、アルカポリス島へと飛んでいく。久々に骨のある奴と戦えると心を躍らせていた。
「もうどっかに行った!?」
「そうよ」
協会本部の会長室に顔パスで入った彼は机を両手で叩きアロマに詰め寄る。アロマはそれを意に介さず書類に目を通してはサインをしたり破り捨てたり仕分けしたりと忙しなく手を動かしている。
「どこ行ったんだよ」
「知らない、町の人に聞けば教えてくれるんじゃない?」
「無責任な」
「会長にそんな義務はないわ」
舌打ちをして彼が部屋を出ていく間際にアロマがわざとらしく大声で独り言を発した。
「あーそういえばアイツらナントカ島に行くとか言ってたような…あー思い出した!」
「どこだ!教えろ!」
「教えて欲しいなら、いつものアレに付き合いなさい」
「やっぱそうなるのな…」
"いつもの"というのは当然モンスター・バトル。自分と戦えということだ。現在8勝2敗でアロマが負け越しだが、毎回互角の戦いを繰り広げていることもあり、両者の魔物の戦力差は殆どない。
あるとすればそれはマスターの采配や、魔物との信頼関係だろう。魔物を自分の道具、良くて手足に思っている高慢なアロマの魔物は土壇場で応えてはくれない。
そのあと一歩の差がテリーとの一戦で掴みかけた気がして、すぐにでも誰かと対戦したかったが、異世界から来た二人の来訪者によって書類仕事が増えてしまった。
そんな最中に来た彼は彼女にとって格好の対戦相手だ。彼の欲しがる情報をチラつかせればまんまと食いつくと見込んでのことだ。
職員に魔物を連れてくるよう言いつけてから昇降機へと向かう。
「今日のわたしは一味違うわよ」
「どうせ今日も同じだ」
昇降機でスタジアムへと移動し、魔物が運ばれてくるのを待つ。テリーとの戦いでは手っ取り早くキメラの翼を使ったり人間用昇降機に乗せたりしたが、経費でキメラの翼を買うことができない以上、自腹を切る羽目になる。毎回使うわけにもいかないので魔物用昇降機を作動させている。
油圧を用いているため、力は非常に強いがその移動速度は非常に遅く、毎度毎度退屈することになるので、対戦が始まるまでの間は適当に会話するのが慣例となっている。
「今日はどんなの連れてきたのかしら」
「前々回と前回に連れてきたジャミラスとおにこんぼう、あとは神獣だけど。そっちは?」
「アトラス、バベルボブル、メタルカイザー」
「いつも通りじゃん」
他愛もない事を話しながら時間を潰し、仲間の到着を待つ。相手のメンバーが分かっていれば戦い方も大方予想がつく。手の内がわかっているのだから実力の差が如実に表れるだろう。
最大のライバルを目の前にお互い気分が高揚し、冷たい風に晒される中でも体温が上がるのを感じる。
満を持して大型の昇降機の扉が開き、魔物達がスタジアム中央へ集まる。実況や観客はいない。そこにいるのは一人のマスターと一人のマスター。再びこの場所で意地と誇りをかけた一流マスターの戦いが始まろうとする。
「それじゃ、始めましょうか」
「望むところだ。何度でも倒してやる」
・ギガンテス
ノビス島に生息する原生種なので潜在能力は決して高くはない。
この魔物とヘルコンドルという鳥獣の魔物以外はノビス島は至って平和である。
テリーにスカウトされた個体の所持スキルは「VSメタル」「攻撃力アップ」
・デザートデーモン
サンドロ島の遺跡に生息する原生種…ということになっているが実際は遺跡から産まれているのではないかと言われている。
サンドロ島に来たてのマスターにはかなり強い相手で、ビギナーキラーとしてマスターの間で有名。
テリーにスカウトされた個体の所持スキルは「ガード」「かしこさアップ」