真っ先に動いたのはアロマのメタルカイザーだった。呪文を唱えて放つのは
決死の攻撃を行い隙を晒した神獣を目掛けアトラスが棍棒を振り下ろす。メタルカイザーですら数発で、メタルスライムなど一発で打ち砕く必殺の一撃が神獣を狙うがジャミラスがマヌーサを唱え阻害し、攻撃は不発に終わる。そうして隙を晒したアトラスに向かってジャミラスが飛翔し、鋭い爪で引き裂こうと飛びかかる。その両手の爪をバベルボブルが両手の剣で受け止め、弾き返す。一瞬のけ反ったバベルボブルに向かいおにこんぼうが渾身の力を込めた棍棒を振り下ろし、命中する。攻撃を受けたバベルボブルの巨体はステージの端まで吹き飛んだ。今の技は"魔神斬り"当てることを考えずに全力の力を込めて攻撃する技だ。
「腕を上げたか?」
「別に?」
彼はアロマの瞬間的な判断力の成長をひしひしと感じていた。初動こそ彼が優勢だがお互いがこうも強いと一瞬で覆る可能性も高くなる。彼は様々な可能性を考慮し現状を分析する。バベルボブルは消耗、アトラスはマヌーサ、メタルカイザーは僅かに手負い。メタルカイザーは回復技の"ハッスルダンス"を使えたはずだと思いだし、優先して排除しにかかる。
「バット、メタルカイザーだ!」
「させないわよ!」
他の追随を許さない圧倒的な力を持つおにこんぼうは代わりにアトラス以上に鈍重だ。当然阻止しようと思えば様々な方法があるだろう。おにこんぼうを支援するように彼は指示を飛ばす。
「JOKER!ジャーニー!」
「わかっている」
「御意」
神獣は攻撃力を増大させる呪文"バイキルト"を唱えおにこんぼうを支援、ジャミラスは呪文を封印する呪文"マホトーン"でバベルボブルのイオナズンを封じる。アトラスの攻撃は虚しく空を切り、バベルボブルの剣もまたジャミラスによって防がれてしまう。メタルカイザーへとおにこんぼうが肉薄し、全力で棍棒を振り下ろす
「今よ!」
「それが狙いか!」
メタルカイザーが至近距離のおにこんぼう目掛けてメラガイアーを放つ。この場の誰よりも素早いメタルカイザーがじっと動いていなかったというわかりやすい兆候を見逃した自分に腹が立ち彼は舌打ちした。
圧倒的な魔力を誇るメタルカイザーのメラガイアーは流石のおにこんぼうも堪えたようで足元が少しおぼつかないように見える。
「本当はメタルカイザーを始末してからにしたかったんだが…」
「本気か?主よ」
「大マジだ」
彼は神獣に合図を出す。アロマもその合図を理解し最善策が何なのか瞬時に考えた。神獣を倒し阻止するか、はたまた耐え忍ぶか。
その一瞬の迷いが支持の遅れを産み、優勢に傾きかけた戦況を反転させることになる。
「ぶちかませ!JOKER!」
「その目に焼き付けろ!」
全ての魔力を解き放ち、暴走させる究極の呪文"マダンテ"を使い、無防備な敵を倒しにかかる。ステージ中央付近で起きた魔力の爆発はその場にいる魔物の全員を飲み込み蹂躙する。
その直後には一転して静寂が訪れ、煙に隠されたステージの様子は誰にも認識できない状態にある。呪文を唱えた神獣と全ての呪文を無効化するメタルカイザーが無事なのは確実なので両者共に気を抜かない。
「気配を探ってイオナズンよ!」
アロマはその安否が定かではないかとバベルボブルに支持を出す。最初に魔神斬りを受け消耗したバベルボブルがこの攻撃の中で生きている可能性は極めて低い。だがアロマはそれを知った上で冷酷にも支持を出す。仲間を信じることで生まれる力を確かに知っているからだ。
マダンテの煙に包まれたステージのどこかで再び爆発が起こる。バベルボブルは生存していたのだ。第二の爆発がマダンテの煙を吹き飛ばし、いまだ健在の5匹の魔物を映し出す。メラガイアーとマダンテの直撃を受けたおにこんぼうは既に倒れている。
「馬鹿な、あの中で生きていただと?」
「一気に決めるわ。ガンガンいきなさい!」
アトラスにかかっていたマヌーサの効果は消え去り、反撃の時間が訪れる。メタルカイザーが先陣を切ってメラガイアーを唱え、神獣を攻撃する。
「怯むな!ここで攻めないでどうする!」
彼もまた体勢を立て直すことを放棄して勝負に出る。神獣はメラガイアーを突きぬけて直進し、メタルカイザーに肉薄する。咄嗟にメタルカイザーも距離を取ろうとするが気付いた時には時すでに遅く、会心の一撃によって甚大なダメージを受けてしまう。
攻勢に出て無防備になった神獣にアトラスの棍棒が迫り、ジャミラスがそれを防ぎにかかる。おにこんぼうにも匹敵する力で振りぬかれた棍棒はその防御ごと突き崩し、神獣を巻き込みながらジャミラスを吹き飛ばす。
二匹が止まった瞬間にバベルボブルがイオナズンで追撃し決着はついたかに見えた。
「最後まで諦めるな!ぶちかませ!」
ジャミラスの下敷きとなっていた神獣がジャミラスの死体を吹き飛ばし、目にもとまらぬ速さでバベルボブルへと突進する。これに耐え切れずバベルボブルはその場に倒れ、神獣はそれを蹴りって方向転換し、メタルカイザーへ突進する。これもまたクリーンヒットし、決定打となってメタルカイザーは倒された。
最後に残った神獣とアトラスが正面から向き合う。両者のマスターが瞬時に、しかし冷静に現状を分析する。神獣は魔力を使い果たしていて、アトラスの攻撃とバベルボブルのイオナズンのダメージが蓄積している。一方でアトラスはバベルボブルのイオナズンに巻き込まれていなければマダンテのダメージしか受けていない。ジャミラスを殴りつけた攻撃の威力からコンディションを推察すると巻き込まれていないと考えられる。
互いに最善を考えることを放棄し、次の一撃に全てを賭けることにした。
「「ぶちかませ!」」
他に何の要素もない体力と力のぶつかり合い。棍棒と宝具とがぶつかり合い周囲に衝撃が迸る。凄まじい風量に二人のマスターは目を閉じ、顔を背ける他なかった。
風がやみ、目を開け、二匹がぶつかり合った場所を見る。神獣もアトラスも立ったまま動かない。二人が怪訝な顔をして近づいていくと、驚くべき事実を目の当たりにした。
「立ったまま気絶してやがる…」
倒れた魔物はGPitへと運ばれて治療を施されている。さほど時間はかからないが、彼とアロマは会長室で少し話をすることにした。
「んで、例のヤツはどこにいんだ?」
「教えてもいいけど、その前に話しておきたいことがあるの」
「焦らすなよ」
「急かす男は嫌いよ」
例のマスターはテリーって名前の男。Sランクの魔物に比肩する潜在能力を持つシルバーデビルを連れていたわ。
彼の話すところによると異世界から来たみたいで、その世界では邪の波動っていう禁忌の秘法に手を染めたみたい。そうして敵無しになった彼は初心に戻るために仲間を1匹だけ連れてここに来たらしいわ。
キメラの翼の不良品事故も実は彼と同じ世界のマスターが彼を追って来たことによって起きた事故よ。表向きの発表と事実は違うわ。彼の名前はルカ、ドラゴン系の魔物を三匹連れているわ。戦ってはいないけどかなりやり手よ。グレイトドラゴンを連れていたわ。
彼らの話はどこまで本当かわからないけど、アンタの神獣クンが狙われるかもわからないわ。
邪の波動の性質についてルカ君から聞いた話をまとめると伝承の中の秘法"進化の秘法"に似ているし、マ素とも似ている。気をつけなさい。
「アンタに話すことは以上。ソイツらはサンドロ島に向かったわ」
「ありがとよ、また来るぜ」
そう淡白に返事して彼は部屋を去る。部屋の入り口を見張る警備員の挨拶にすら耳を貸さずに件のマスターの事しか考えていない。全く危機意識の無い彼と裏腹にアロマの胸は不安で埋め尽くされていた。
「折角心配してるのに。ホント無愛想なんだから…。"強くなったな"とかもっと言う事あるんじゃないの?」
と悪態をつき執務に取り掛かり数秒後に顔を紅潮させて机に突っ伏した。
「何言ってるのよ。これじゃまるで…」
"恋人みたいじゃない"などとはとても口にはできなかった。
魔物の治療にはあまり時間はかからない。彼ほど有名なマスターならばその魔物は優先的に治療されるし、そもそも治療などと大層なことを言っていてもその実協会が保有する魔物に蘇生呪文"ザオリク"と回復呪文"ベホマズン"をかけさせているだけだ。治療は一分と掛からずに終わる。
彼は急ぎサンドロ島へと向かう為に協会本部を出てまっすぐ進み、大通りの脇にあるGPitに立ち寄って魔物を引き取る。GPitを出てから大通りを進んで第二の港へ向かう。第二の港は大型船舶は停泊できない小型の港だ。砂漠の島"サンドロ島"行きの水上バイク乗り場と最果ての島"ヨッドムア島"行きの水上バイク乗り場がある。
「その男はシルバーデビルしか連れてないと?」
「いや、ノビス島でギガンテスを仲間にしたみたいだ」
「それにしては妙だな。嫌な気配は3つあるのだが」
彼はアロマから聞いた話を神獣と共有しつつ鞄の中身を確認する。回復用品から状態異常の治療用品まで十分にあることを確認し終えてから歩みを早くする。
「言ってみればわかることさ、これもお前の言う使命の内じゃないのか?」
「カルマッソの件は前座か、勘弁してほしいものだ」
その口調は決して冗談を言うものではなく、心の底から発せられた言葉であることを示していた。
正午を過ぎたが季節は夏。まだ一日は長い。良からぬことが起きる予感を胸に彼はサンドロ島行きの水上バイクに跨った。瞬間的な加速度に身を委ね、風を切り裂き海上を突き進む爽快な気分を満喫する。
だが重病も経たぬ間に難の予兆もなく空が暗雲に覆われ、周囲は雷雨に包まれた。
「またお前か…」
およそ船として機能するとは思えないボロボロの大型帆船が彼の目の前に現れる。
「キャプテン・クロウ!」
彼はその船の主の名を嵐にかき消されないような声で叫ぶ。幽霊船の船長にして海賊。その名はキャプテン・クロウ。全ての海を制し、全ての宝を手に入れたがたった一つたどり着けなかった幻の大陸に未練を残し、自らの意思を継げる者を探し彷徨い果てた末にこのグランプール諸島へたどり着いたと言われている。
「会いたかったぞ、随分と探した」
「ストーカーかよ気持ち悪い」
「散々なな言い様だな」
などとは言っているが気にしているようには思えない。会話しているにも関わらず二人の目は合わない。キャプテン・クロウは先程からしきりに周囲に目を配っている。
「何を探している」
「神獣だ。お前が連れているのだろう?」
「いいぜ、お望みなら」
彼は右手を振り上げスカウトリングを起動させる。
スカウトリングにはスカウトアタック以外にも様々な機能がある。協会関連施設での会員証としての役割の他に仲間にした魔物を呼び出す機能などがある。
彼の目の前にジャミラスが現れ、彼はそれに跨り幽霊船のデッキへと向かう。
着地すると同時にジャミラスから降りながら右手を横に振り、神獣とおにこんぼうを呼び出す。
「ほう、それが件の」
「間違いありません、ゲマ様」
デッキの奥から聞こえる声にキャプテン・クロウが応える。
「それがミルドラース様の仰った神獣とやら。確かに凄まじい力です」
声が近づくにつれその霧に包まれた姿が浮かび上がってくる。一見は法衣を着た人間にも見えるがその緑色の肌から魔物であることがわかる。第五の冒険譚に登場する魔王の腹心"ゲマ"だ。主への忠誠は厚く、主の邪魔になる可能性のある者は徹底的に排除することで知られている。勇者の祖父"パパス"ですら(卑怯な手を使われたとはいえ)為す術もなくその命と身体を燃やすこととなった。
「主よ、これが三つ目の気配だ」
「逃げるか?」
「ここで倒すべきだ」
神獣とその主が軽く目配せし、次の一手について相談する。狙われている神獣が自ら前線へ立つのは危ういが、神獣こそこのパーティーの要という事も確か。
「ジャーニー!」
「御意!」
即座にジャミラスが彼の前に躍り出て、大きく息を吸い込む。強力な息吹を予感したキャプテン・クロウとゲマは身構えようとするがその前に灼熱の息吹が放たれた。
「逃げるぞ!」
「しかし…!」
「黙れ!」
彼は右手を振り払い、スカウトリングの送還機能を使って神獣とおにこんぼうを協会へと送り届ける。
「付いて来れるか?」
「無論」
幽霊船のデッキから飛び降り、水上バイクへ跨って急ぎサンドロ島へ向かう。カルマッソ以上に危険な匂いを感じる相手にやや形勢不利と判断してのことだ。
「例のマスター達の力を借りられれば…」
嵐の海を水上バイクで駆けて行く最中にも海中のキャプテン・クロウの部下の魔物が妨害を仕掛けてくるが全てジャミラスによって防がれている。
嵐を抜けて視界がクリアになると同時に目の前にサンドロ島の桟橋が見えた。彼は水上バイクにブレーキをかけ、サンドロ島へと降り立った。
・JOKER+26
"彼"がノビス島の祠で会い、サンドロ島の洞窟で道を同じくした神獣。
魔界の扉を閉じる使命を終えてなお宝具の輝きが絶えることは無く、神獣もまた不吉な予感を感じていた。
所持スキルは「せいなるふぶきSP」「VSメタル」「エース」
・おにこんぼう+34
ノビス島で捕まえたギガンテスやスカウトQの景品のサイコロン、名も無き島で捕まえたリザードファッツから産まれた個体に転生の杖を持たせ繰り返し配合した個体。
パーティーの中で物理アタッカーを担当しており、メタルキングだろうと軽々と粉砕する力を持っている。
所持スキルは「せんし」「マヌーサガード」「こうげきアップSP」
・ジャミラス+28
サンドロ島のデザートデーモンとレガリス島のダンビラムーチョから産まれたアークデーモンとサイレスを配合して生まれた魔物に転生の杖を持たせ繰り返し配合した個体。
主に補助と妨害を担当し、時にブレス系攻撃で援護する。
「グランドブレスSP」「サポーターSP」「げんじゅつSP」