今までの感想等を元にリメイク版スタートです。
原作までかなりの話数を使う予定です。
side ジェイル
こんな時にお酒でも飲めれば、少しは気が晴れるのだろうか。
『お前はただの道具に過ぎん』
予想はしていた。してはいたのだが、直接その言葉を聞くと心が折れた。何も考えられずに、雨が降る中を傘もささずにふらふらと街を歩き、誰かに襲われて路地裏に放置された。
このまま死ぬのも良いか。あの人もどうせ、役に立つ道具が無くなったと思う位だろう。そして次の日には僕の事も忘れるのだろう。
仰向けになって雨を浴び続ける。体温が段々と下がっていくのが分かる。意外と怖くない物だな。このまま寝てしまえば、起きる事もないだろう。
そして、僕の意識は落ちていった。
暖かい。誰かが僕の額に手を置いているのが分かる。
「熱は引いたようね」
どこか安心できる声を聞きながら、僕の意識はまた落ちる。
次に意識が戻ったときには目が覚めた。身体を起こして周囲を見る。狭い部屋にベットとクローゼットが置かれただけのシンプル内装が見られる。次に自分を確認する。服は見た事無い物に着替えさせられている。所持品は何も無い。誰かに助けられたみたいだ。善意か謝礼目当てか分からないけど、僕は生きている。
「起きたの?」
ドアを開けて一人の女性が部屋に入ってくる。見た目的には僕より5、6歳年上だろうか?肩で切りそろえた少し楠んだ色をした銀髪に、髪とは逆に澄んだ翠色の眼が特徴だろう。
「ここは、どこですか?」
とりあえず質問をしてみる。
「ここは私の家。家に帰る途中で死にかけの貴方を見つけて連れてきたの」
「そう、ですか」
「もしかして、自殺志願者だった?それだったらごめんなさいね。余計な事をして」
自殺志願者か、少し違う気がするな。なんて言ったかな、世捨て人?そんな感じがする。
「どうやら本気で重体みたいね。私に話してみない?少しは気が楽になるかもしれないわよ」
別に話しても良いか。どうせ僕は道具だったのだから。
「……父さんに、お前は商売の為の道具だと言い切られた」
「それで、どう思ったの?」
「何も、何も思えなかった。ただ、僕の中の何かが壊れたみたいで、何も考えられずに街を歩いて」
「貴方はどうしたかったの?」
「一人が嫌で、僕を見て欲しくて、だから勉強して、身体を鍛えて、色々なことをこなして」
あの時は何も感じなかったのに、今はもの凄く寂しい、もの凄く悲しい。
「泣いてなかったのね。溜めておくと辛いわ。全部吐きだしちゃいなさい」
そう言って女性は僕を抱きしめてくれた。その途端、堰を切った様に僕は泣いた。女性にしがみつき、感情のままに大声で泣き続けた。女性は何も言わずに、僕を抱きしめながら背中を撫でてくれた。産まれてきてからここまで泣いたのは初めてで、誰かの温もりを感じられたのも初めてのことだ。誰かの温もりがこんなにも落ち着けると知ったのは泣きつかれて落ち着いてからだった。
「色々とすみません。あと、ありがとうございました。このお礼は必ずします」
「私がやりたかっただけだから気にしなくていいわ」
「それだと僕の気がすみません。僕に出来る事なら何でもします」
「そんなことを言っても貴方はまだ子供でしょ」
「確かに僕は子供ですけど、それでも」
「なら、何時かで良いわ。何時かで良いから私の願いを叶えて頂戴」
「願いって?」
「私の願い、それはねーーーーーーーーーーーー」
「ジェイル、そろそろ起きた方が良いわよ」
声をかけられて夢から覚める。走行中の車内で寝たのは覚えている。隣の運転席には夢の中の女性がハンドルを握っている。
アレクシア・フォルスター、それが彼女の名だ。名前からドイツ人だというのは分かるが、頑に自分の過去を話そうとはしない。現在はオレの秘書の様な物をやってもらっている。
「……懐かしい夢を見ていた。お前と初めて会った時の夢だ」
「懐かしいというには微妙ね。まさか2年でここまで来るとは、思ってもいなかったから」
2年か、確かに懐かしいかどうかは微妙だな。あの時より身長は伸びたし、知識は増え、何より権力なども手に入れた。
「あの時の約束を果たす為のスタートにようやく立てた」
「私の胸で泣く事しか出来なかった子供が大きくなったものね」
「それがどうした。そのおかげで今のオレがある」
あの日、無力な子供であったジェイル・デュノアは死に、無力でありながらも目標に向かって疾走するジェイル・デュノアとして生き返った。彼女の家から真っ先にオヤジの元に向かい、社が手がける一大プロジェクトであるリヴァイヴプロジェクトに対抗する新たなプロジェクトの立ち上げと、社の中でも扱いに困っている研究員や技術者を引き抜く許可を強引にもぎ取った。最も予算はすぐに降りる訳ではないし、人材も一人一人説得しなければならなかったので2年の歳月が必要だった。普通から見ればあり得ない事だろうが、そこはオレの利用価値と口八丁でなんとかした。人間その気になればなんだって出来る。
「到着したわよ」
「アレクシアは車を駐車場へ、そのまま待機していてくれ。簡単な会議をしたあとは本社に顔を出さなければならないからな」
「分かったわ」
郊外に建てられたそれほど大きくない建物。ここがオレ達の本拠地であり、家だ。本社のサポートはほぼ受けられず、厄介払いの体でここに集められた。一応機材などはリヴァイヴプロジェクトと同じ物を揃えさせはした。ここからはオレ達の仕事だ。
そして、オレを迎える為に開発スタッフ37名が入り口に集まっている。その正面に車が止められ、スタッフの前に降り立つ。
「今更自己紹介をする必要は無いだろう。だからオレが言うことは二つだけだ。一つ目は、ありがとう。こんなガキの夢物語に付き合ってくれて」
そして頭を下げる。説得の際にこれからやろうと思っている事を全て正直に話した。本当に無謀な事に挑戦しようとしている。それでもオレに協力してくれる人間がコレだけ揃った。その期待に答えなければならない。
「そして二つ目、この世界を、女尊男卑を壊しにかかるぞ!!」
『『『『『おおおおおおおうぅ!!』』』』』
「全員会議室に集合。仕事に入るぞ。というか時間が無い!! 駆け足」
オレのかけ声で直ぐさま研究所の会議室に向かって走りだす。会議室に入り、すぐさま会議を始める。
「まず、我々が開発するISの最低ラインだが、リヴァイヴプロジェクトの機体よりも上でなければならない」
「質問」
最前列に座る黒髪の男が手を挙げる。
「確か、ユウダイ・タグチだったな。どんな質問だ」
「ああ、質問の内容だが向こうさんのコンセプトとスペックデータ、あとはこっちに残されてる時間はどれ位なんだ」
「良い質問だ。まずはこいつを見てくれ」
手元のパネルを触って空間投影型のモニターに画像と図を表示する。
「これがリヴァイヴプロジェクトで開発されているラファール・リヴァイヴだ。スペックデータはまだ公開されていない為に予想のデータだが、おそらく間違いないはずだ。コンセプトは誰にでも扱い易い武器庫だ。まあ、武器庫と言っても比喩表現で、多少拡張領域が広い位だ。スペックデータを見てもらえば分かる様にあまりぱっとしないのが特徴だろう」
「あまりにもお粗末だな」
「言ってやるな。これでも精一杯頑張っているのだろうからな。そして、こいつの最終試験が8ヶ月後に予定されている。つまりオレ達のリミットはその前になる」
その言葉に全員が動揺……することもなく視線で続きを促してくる。
「そしてオレ達の目標だが、基本性能でリヴァイヴに勝った上で、先日IS協会から提唱された第3世代。こいつを目指す」
第3世代、操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載した新たな世代。未だにどの国に置いても実験機すら完成していない未知の領域だ。
第3世代という言葉に今度は全員が興奮しだす。当然のことだ。ここに集めたスタッフは根っからの技術者達だ。自分たちで未知なる領域を開拓出来る事に喜びを得ている。
「更にそれと平行して契約の時に話した物を極秘に開発する。こいつは完全に未知の領域だ。そもそもそんな領域があるのかすら分からない。だからまずは模倣する事から始める。その為に第3世代を優先して手が空いた者から開発に取り組んでもらいたい」
『『『『『はい!!』』』』』
「よし、ならばあとは先日送った指示書通りに動け。解散」
先程と同じ様にバタバタと全員が走り出していくのを見送りながらアレクシアに連絡を取って車へと引き返す。外に出ると既にアレクシアが車をまわしていたので助手席に乗り込む。
「本社に向かってくれ」
「了解」
車が走り出し先程来た道を引き返していく。本社までは約30分程かかるので、空間投影型のモニターとキーボードを展開してとある物の設計を再開する。
「それが私の夢を叶えてくれる物なのね」
アレクシアが少しだけ視線をこちらに向けて設計図を見ていた。
「そうだ。こいつがお前が望んだ願いを叶えてくれる物だ。まだ机上の空論だが、いずれはこいつが主流になる」
まだ名前も無いこいつはISとは違い、最初から兵器として産み出される。搭乗者を選ばず、量産も可能となればISに変わって配備されるだろう。
そして、偽りの平和が崩れ去る事になるだろう。
「そんな顔をするなら止めても良いのよ」
アレクシアが心配そうにこちらを見ている。
「今のオレはどんな顔をしている?」
「ものすごく辛そうよ。何を考えたの?」
「……ISが配備されてからは、表向きには平和になった。だが、こいつが世に出ればそれも終わりを迎える。オレにそんな権利があるのだろうか?」
「…………知っているかしら、ISのおかげで不幸になった人がどれだけ居るか。また、それがどんな人たちか?」
急にアレクシアが変な事を言い出した。ISによって不幸になった人か?思いつく限りでは
「軍人に傭兵、武器商人。オレが思いつくのはそれ位だ」
「それも答えの一部よ。私が知っているのは他にもあるけど、一番不幸なのは少年兵達よ」
「少年兵?」
少し予想外な答えに戸惑う。
「少年兵って昔から存在するんだけど、何故存在するか分かる?」
「武器が軽くなった事で誰にでも扱えて、子供なら物覚えが良くて食料が少なくてすみ、何より従順だからだろう」
「それもあるけど、何故従順か知ってる?あの子達は口減らしとして売られるの。だけど、それで家族を恨む様な事はしない。自分が売られたお金で家族が生きていけるなら、敵を殺して報償で更に長生き出来るなら、あの子達は命令に従って戦えるの。相手がISだとしても」
「アレクシア、だからと言って戦争を肯定しても良いとはオレは思わない。無論否定もしないけど」
「貴方ならそう言うと思っていたわ。だけど、覚えていて。この世には絶対的に正しい物なんてほとんど無いという事を」
それでこの話は終わりとばかりに前を向いて運転に集中する。
この世には絶対的に正しい事はほとんど無い、か。その通りだな。気にするだけ無駄なのかもしれない。こいつを世に出す事で幸福になる奴もいれば、逆に不幸になる奴も居る。悩むだけ無駄だな。なる様になるしかない。
それから会話が一切なくなり、本社に着くまでは設計に集中することにする。
本社に到着してから向かうのは社長室だ。社長、つまりオレの親父が直々にオレに何か仕事を依頼したいという物らしい。正直に言えばオレは会社に所属しているので普通に仕事としてまわせば、オレに拒否権は無いのだが一体何を考えているのやら。
社長室に辿り着きノックをしてから入室する。部屋の中で社長が書類に眼を通している。
「失礼します、社長。ご用件の方は?」
「これの作成をお前個人に頼みたい」
こちらに眼も向けずに社長が手元の端末を動かすと、オレの目の前に空間投影型のモニターが展開される。とりあえず読んでいく。大雑把に言えばISの拡張領域を増やすために既存の物の改造と言った所だろうか。つまり、何か?こいつは競争相手に協力させようと言うのか?
「報酬はこんな所だ」
断ろうと口を開きかけるタイミングで横に報酬が表示される。
そこに書かれている報酬を見て、思い留まる。報酬はこれからISやアレクシアの夢をかなえる物に必要な鉱物や、十分すぎる程の資金、更には追加人員足り得る者が書かれている。ちっ、飲まざるを得ないか。
「……了解」
悔しいが仕方ない。所詮拡張領域が増えた所でこっちの機体に勝てる訳が無い。そう考えなければやっていられない。
「完成後はどこに届ければ?」
「私の所へ直接持ってくる様にしてくれ。以上だ」
話は終わりとばかりにモニターが消される。
「失礼しました」
一度も眼を合わせずに会話が終了する。これがあの日からのオレ達の付き合い方だ。あくまでビジネスのみの付き合い。それも多少の無礼が許される変な関係だ。
社長室から退室して報酬にあった追加人員が居る支社に向かう様に指示する。成功報酬のため今すぐ引き抜く事は出来ないが説得や交渉は行なう必要がある。配置変更と同時に働いてもらわねば間に合わない。移動中の車内では早速依頼されたパーツの設計に取りかかる。せめてもの嫌がらせとしてコストを無視して性能だけを突き進めてみる事にする。集中しているのでアレクシアが声をかけてくる事も無いので支社に着く頃には設計を終える。理論自体は昔からあるはずなのに、誰もがそれはあり得ないと勝手に思い込み、埃を被っていた物に現状の技術を突っ込むだけなのですぐに終わった。それにしても幸先が怪しいな。注意を払っておく必要があるな。
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