side ジェイル
レーム達と一夏の護衛を始めて3日が過ぎた。今の所動きはないが、仕掛けるのなら今日だろう。というか今日しかない。なぜなら今日はモンド・グロッソ決勝戦なのだから。
「それが分かっていながらもオレ達を雇い続けるとはねぇ。そんなに彼が気に入ってるの」
隣で双眼鏡を構えながらレームが尋ねてくる。
「そうだな、気に入ったと言うより家を気にしないで付き合えた初めての同年代の友人だからな。初めは利を求めて接触したにしても、気楽で楽しかったからな」
「あ~、そういえばそうだったな。ヨナ君とは仕事でしか会わないし、あくまで依頼人と傭兵だからな」
「ヨナとはそれで良いと思う。その方がヨナは接し易いだろう」
「まあな。おっと、目標がホテルから出てきたぞ」
「なら、こっちも車で待機だ」
「車ねぇ。アレを車と言っていいのやら」
「分類上は車だ。頭に“装甲”やら“戦”が付くかも知れないがな」
「だろうね」
話しながらも整備中だった銃を組み立て直して量子格納する。
「便利だね~、それ。ウチの部隊にも幾つか欲しい位だよ」
「……そう言えば、コレって十分商品になるんだよな」
「……気付いてなかったのかい?」
「サンクチュアリだと皆普通に使ってたから気付かなかった」
「……後でお嬢に見せてみな。高く買い取ってくれるはずだ」
「そうする」
若干落ち込みながらもウゴとヨナが待機している車に乗り込む頃には気持ちを切り替える。
「それじゃあ、いつも通り頼む。だが、警戒は昨日よりも厳しく頼む」
昨日までと同様にレーム達は一夏の後ろを一定間隔で走行しながら護衛する。オレはすぐに一夏を救出出来る様に歩いて一夏を護衛する。今日はまっすぐにアリーナに向かうはずなので見失う心配は無い。それでも疑問は多々存在している。この三日間のうち初日と昨日は織斑千冬の試合があった。だが、一夏はそれの観戦には行かずに街を散策していた。最初はチケットが手に入らなかったのかと思ったが、選手の家族であるなら控え室まで入れたはずだ。そこから観戦する事は出来るはずだし、何より織斑千冬も安心出来るはずだ。さらにキャスパーからの情報で判明したのだが、一夏と織斑千冬は別々のホテルに泊まっているそうだ。まともに会話も出来ない一夏に初日にあれこれと説明しただけで、会ってもいないそうだ。キャスパーも何やら嫌な予感がするのか独自に情報を集め始めている。ココにも情報を廻したのか、水面下で動き出している。オレ達サンクチュアリ一同も何時でも動ける様にホテルで待機している。レームとは軽愚痴を叩いていたが、確実に事が起こると判断している。
『ジェイル、次の曲がり角に怪しい男が居る。おそらくはそこが現場になる』
遠方からの監視を頼んでいたアールから通信が入る。
『数は?』
『3、近くに逃走用のワゴンと運転席に1』
『ナンバーを控えておいて。事件を終わらせた後にドイツに追ってもらう』
『了解した』
いよいよだな。レーム達にも先程の連絡は届いている。オレは一夏との距離を少しずつ詰めていく。そして相手が動き出す。人通りの多い道にも関わらず、一瞬にして一夏を拘束して担ぎ上げ、周囲の人間が唖然とする中を無視して近くのワゴンにまで連れ去っていく。手際は良いのになぜこんな人通りの多い場所でやる必要があるのか分からないが、逃がしはしない。スーツの袖から鉄芯を取り出し、一夏を担いでいる男の足首に投げつける。
「ぐぅっ!!」
体勢が崩れている隙に近づいて後頭部に全力で肘を叩き付ける。
「ジェイル!?」
「こっちだ、一夏!!」
一夏の手を引っ張ってレーム達が乗っている車に乗り込む。
「ウゴ、出せ」
「了解」
ウゴがアクセルをそこそこ踏み込んで郊外に向かって車を走らせる。
「ジェイル、何が起こってるんだ」
「詳しい事は分からないが、とりあえずお前が狙われていた。オレの気のせいだったら良かったのだが、気のせいではなかったらしい。言っただろう、運が悪ければまた会えると」
「そ、そんな」
「お前の姉にも連絡をしようと思ったのだがな。同じホテルに泊まっていないのに気付かなかった。今日は決勝だし、お前の姉は決勝まで勝ち進んでいる。狙うなら今日しかないと思ってそれとなく見ていれば案の定だ」
「なんで、オレなんかを」
「一夏、お前が自分の事をどう思っているのかは知らないが、お前と言う存在はかなり価値があるんだ。世界最強と名高い織斑千冬の唯一の家族であり、現在行方が知れない篠ノ之束に気に入られている数少ない存在。希少性で言えばトップクラスの存在だ。狙う理由など腐る程ある。それなのにお前の周りには護衛の一人も付いていない。一夏、もしかしたらお前は攫われても助けが誰も来なかったかも知れない」
「そんな訳ない!!千冬姉がオレの事を」
「それこそ護衛が付いていない、あるいは側に置いておかないという理由にならない。一夏、モンド・グロッソの出場選手は家族を控え室に招待出来る事を知らないのか?」
「え?」
「一般的には知られていないが、そういう規則がある。控え室には警備員も居て安全だ。これは選手が家族の事を心配せずに済む為の「ジェイル、RPGだ!!」なんとしても止めろ!!」
ヨナがサンルーフをから身を乗り出してアサルトライフルを乱射して射手を撃ち殺したことでRPGは隣の建物に命中する。
「飛ばせ、ウゴ。街中で銃撃戦は避ける。どれだけ死ぬか分からんからな」
「分かってます」
「一夏は対ショック姿勢でいろ」
「対ショック姿勢?」
「身体を丸めて手で耳を押さえて目を瞑って口を開けていればいいんだよ」
「わ、分かりました」
「レーム、人が少なくなった時点で撃ちまくれ。ヨナはそのまま追ってきている奴らを警戒しろ」
「あいよ」
「分かった」
携帯端末でアールにも連絡を入れ、サンクチュアリの面々に増援を頼む。
「ウゴ、右から来てる。突っ込む気だ」
ヨナが叫んでいる様に右側から一台の車が迫ってきていた。
「何とか躱します。しっかり掴まって下さい」
「ヨナ、運転席を狙え。オレはエンジンをやる」
右側の窓を開けてアサルトライフルをエンジンに向けて撃ち続けるのだが
「硬っ!?AP弾で抜けないとか装甲板でも張ってるのか!?」
「ガラスも抜けない。タイヤも駄目だ」
「前方を塞がれました。どうします」
「おいおい、やっこさん、何を考えてるんだい。M202なんか持ち出してきたよ」
M202、4連装ロケットランチャーか。どこの馬鹿だよ、街中でISを持ち出してきた亡国機業並みに馬鹿な、亡国機業が相手か?ふむ、ならば全力で相手をしてやらないとな。
「ウゴ、そのままアクセルを踏み抜け。それからハンドルを手前に思い切り引け!!」
「ハンドルを、引く?」
「良いから早く!!」
「はい!!」
ウゴがハンドルを引くと同時に車に仕込まれているPICが作動し、タイヤが地面から離れ、空を駆ける。
「「へっ?」」
「ウゴ、ぼけっとするな。ハンドルを手前に引けば機首が上がって押し込めば下がる以外は普通の車と同じだ。タコメーターが13000を越えると自動でPICが作動して空を飛べる様になるって仕様書に書いてあっただろう」
「そんなのが実在するなんて思ってませんよ」
「実在してるんだから諦めろ。一応タコメーターが13000以下になってもPICは起動し続けてるが効率が悪くなるから飛ぶ時は13000以上で回してくれ。タイヤが地面についている状態で13000以下になると自動でPICは停止する」
「やってみます」
「レーム、連中はどうしてる?」
「唖然としてるな。まあ当然だろう。どこのSF映画だ、ハリウッドか?」
「残念だが、現実だ。販売の予定は無いが金に困れば量産して売るかもしれんな」
少し遠い目をしながらレームの問いに答える。資金に困ったら、軍用トラックとか装甲車とか戦車とかの改修キットを作ってるかもしれないな。そうそう、実はISが登場しても軍人や兵器などの数は多少減りはした物の未だに運用は続けられている。いくらISに勝てないからと言ってIS以外の兵器を手放してしまえば数で蹂躙されるのは明らかだからな。あと、国際的発言力も低下する。だから未だにどの国も軍が解体されたと言う話は聞かない。だが、一般人はそんな事まで頭が回らないのか常識がズレ始めている。女尊男卑もそうだし、日本人の様に平和ボケが先進国に広がり始めている。ココやキャスパーの様な武器商人が仕事に困る事が無い世界で。やはり世界は狂っている。
「おっと、どうやらドイツ軍が来たみたいだぞ」
レームの言葉に窓から外を見ると3機のISがこちらに向かってきている。
「ウゴ、むこうが指示してきたらそれに従ってくれ」
「はい」
下の方では仕掛けてきた奴らが撤退を始めている。それを追撃する為に2機のISが追いかけ始める。そして残った1機がこちらに向かってくる。
「こちらはドイツ軍だ。ただちに武装を解除し、こちらの誘導に従ってもらおうか。抵抗するなら撃墜も厭わない」
「ここで撃墜すると下に被害が出るぞ。抵抗する気は無いけど。レーム、ヨナ、武装解除だ。マガジンを抜いて安全装置を掛けろ」
「「了解」」
レーム達に指示を出しながらオレも持っているライフルのマガジンを抜き取る。
「こちらに従うようだな。ならばこのまま我々の基地まで付いて来い。そこで事情を聞かせてもらおう」
「了解した」
そのまま誘導に従い基地に着陸すると同時に一夏も含めて全員が拘束されて武器や通信機器を取り上げられる。そのままレーム達とは別の部屋に一夏とヨナと共に連れて行かれる。
「何でこんな事に」
一夏が頭を抱えてベッドに腰掛ける。
「まあ、運が悪かったと思え。しばらくすれば出れるだろうから、ゆっくりすれば良い。長くても明後日には解放されるだろう」
「千冬姉、怒るだろうな」
「これで怒るなら織斑千冬はお前の事が、いや、なんでもない」
「何だよ、ジェイル。千冬姉がなんなんだよ」
「……気にするな」
「気にするなって、余計に気になるだろうが!!」
一夏がベッドから立ち上がりオレに詰め寄ってくる。
「オレの杞憂であればそれでいいんだ」
「だったら良いじゃないかよ。教えてくれ」
『おい、うるさいぞ!!』
部屋の外から見張りと思われる男からドイツ語で怒鳴られる。
『すみませんね。こいつ、完全に被害者なもので。今日の決勝に姉が出てるのに見に行けなくなって苛立ってるんですよ』
『姉が決勝?じゃあそいつ、あのブリュンヒルデの弟かよ』
『そうらしいですよ』
『そいつは残念だったな。ついさっき決勝も終わった所だ。面白くもない試合たったけどな。最初っから最後まで瞬時加速からの零落白夜の一撃で終わらせてる。自分の事しか頭に無いんだろうな』
『たぶん、そうなんだろうな。選手の家族が控え室に入れる事は知っていますか?』
『あん?一応警備担当の奴が教えてくれたがそれがどうした』
『こいつ、それを知らなかった上に決勝のチケットしか持ってないんですよ。しかも、ホテルまで別で。顔をあわせたのもこっちにきた初日だけだそうです。たった二人の家族なのに』
『……本当かよ』
『ええ。だけど、こいつはそんな事も知らずに姉を信じ続けている。嫌になる位、昔の自分に似ているんですよ』
『これ以上は何も聞かないでおこう。ブリュンヒルデの弟の方は身元が確認され次第釈放されるように動く』
『ありがとうございます』
扉の前から気配が遠ざかっていくので、おそらくは一夏の事を上官に報告しに向かったのだろう。
「残念だが一夏、どうやら決勝は既に終了したそうだ。お前の姉の優勝でな」
「終わっちまったか」
一夏は気落ちして再びベッドに座り込んでしまう。
『ねえ、ジェイル』
『どうしたヨナ』
態々ドイツ語でヨナが話しかけてくる。
『どうしてジェイルは彼を気に掛けるの?』
『レームにも言ったが、オレは一夏のことが気に入っている。数少ない同年代の友人だからな』
『ジェイルにしてはもの凄く甘いんだね』
『だろうな。自分でもそう思ってる』
苦笑していると一夏が怒った顔をする。
「何笑ってるんだよ」
「ヨナに痛い所を突かれてな」
「痛い所?」
「お前に対して甘い対応をしている所だよ」
「甘い対応!?これがか」
「ああ、オレにしては甘いさ。現実を叩き付けたりして傷つけていないからな」
うん、十分に甘いな。
「オレを子供扱いするのかよ」
「悪いか?正直に言えば一夏は子供扱いされるだけの環境で育ってるからな」
「ふざけるんじゃねえ!!」
殴り掛かってくる一夏の足を払ってベッドに叩き付ける。
「くそっ!!放せよ」
「ヨナ、話しても良いか」
「別に良い」
「一夏、お前は人を殺した事はあるか」
「いきなりなん「オレもヨナも人を殺している」っ!?」
「ヨナは元山岳警備隊で自分と同じ孤児の為に基地一つに居る人員を全て殺した。多少小さな基地だが、それでも三十人程度は居る基地だ。その後も武器商人に傭兵として雇われている。2週間程前にも海賊と交戦している。ちなみにオレ達と同年齢だ」
「なっ!?」
「かく言うオレも2年前にテロに巻き込まれてな。その時に三人程殺している。そして二ヶ月程前には原形が残らない様な殺し方をしている。オレ達は既に引き返せないし、引き返さない。そしてお前とオレ達の間には決定的に違う事が存在する。お前には守ってくれる家族は居るがオレ達には居ない。オレ達には互いに助け合う仲間は居る。守らなければならない家族が居る。だが、オレ達を守ってくれる者は居ない」
一夏の拘束を解いて壁にもたれかかる。正直に言えば、一夏の事が若干羨ましい。子供である事が許される立場なのだから。ヨナがどうだったかは知らないが、少なくとも子供である事を許されてはいなかっただろう。
「現実は不平等で、残酷で、そして醜い。それでも現実を知りたいか?これを知ってしまえばお前は変わる事を余儀なくされる。子供の立場から抜け出さなくてはならない。さて、どうする」
「……」
一夏は何も言わずに黙り込んでしまう。それで良いとオレは思う。いずれは子供の立場から抜け出さなければならないが、今である必要は無い。
しばらくするとドアの鍵が開けられ、一夏だけ外に出る様に告げられる。
「じゃあな、一夏。現実と向き合う覚悟が出来れば連絡すれば良い。それ以外でも連絡をくれればいい。オレはお前の事を良き友人だと思っているからな」
「……またな、ジェイル。運が悪かったらまた会えるんだろう」
「ああ、そうだな」
部屋から出ていく一夏を見送り、暇つぶしにヨナに勉強を教える事にした。外語の勉強以外のほとんどの授業を逃げ出すとココが嘆いていたからな。見張りの人に頼んでノートと筆記用具を借りて見張りの人と一緒にヨナの授業を開始する。
「何度も言うが算数において大体は駄目だ。あと、どっちかと言えば400じゃなくて500の方が近いぞ」
トージョ達の苦労がよく分かる半日となった。