IS インフィニット・ストラトス 獣の指揮者   作:ユキアン

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第14話

 

side ジェイル

 

 

「う~ん、やっぱり娑婆の空気は美味いねぇ~。そうは思わないかい?」

 

「全くだよレーム。まさか二日も拘束されるとは思わなかったから余計にね」

 

一夏が解放されてからの二日間、色々と事情聴取をされたが、おそらくは車の方と量子格納出来るカードを調べられていたのだろう。解析に難航し、拘留出来るギリギリまでオレ達を拘束していたのだが、とうとう釈放された。無論、武器は没収されたが特に問題無い。一番大事なISは奪われていないのだから。まあ奪うとするとオレを解剖しないといけないんだけどな。

 

「お兄ちゃん、お勤めご苦労様です」

 

「すまん、心配をかけたなシャル」

 

「本当だよ。いきなり軍に拘束されたって聞いて驚いたんだから。何故か今後の予定の方は問題無いって返答が来てたから余計にだよ」

 

「ああ、その事なら予測済みだ。では、本来の目的を果たしにいこうか」

 

オレ達サンクチュアリの本来の目的、ISコアの返還と来るべき時の為の協力者を増やす事だ。その為に大統領からかなりの権限を預かってきている。

一度ホテルに戻り、身だしなみを整えてから官邸の方に移動する。会議自体にはオレとユウダイ、護衛として再びレームとウゴが着いてきている。ドイツ側は大統領に首相、軍の高官に護衛の兵士、更にはドイツの国家代表が控えている。ISコアの返還自体はスムーズに運び、いよいよ本題に入る。

 

「それではまずこちらの資料を」

 

態々旧世代のノートPCの通信機能を根こそぎ外した物にADのデータを表示させる。

 

「これはまた古くさい物を。もっとまともな物は無いのかね」

 

「情報の秘匿の為です。何処からデータを奪われるか分からないのでね。逆に何も無い物から奪う事は出来ないのでね。とは言え、中身は古くさくも無いですがね」

 

しばらくの間、ドイツ側がADに関するデータに目を通していくのを静かに待つ。時折、息を飲む音が聞こえる以外ではキーボードを押す音以外聞こえずにいた。それも終わるとドイツ側の全員がオレの方を見る。その顔には驚きが張り付いている。

 

「……最初に紙媒体で送られてきたのを見た時は疑問しか無かったが、これは本当なのかね」

 

「普通なら信じられないでしょう。なのでそのデータの基礎部分を持ってきています。無論、これを提供する用意もあります。ある程度の対価はもらいますが、それも大した物ではありませんし、更に上乗せして提供出来る物も用意してあります」

 

「何が目的なのかね。これだけの物を独占すればフランスは世界をリード出来るのだぞ」

 

「それはないですね。我が国はそれほど大きいとは言えない。つまりは資源も人材も多いとは言えない。そして何より、世界の全てを敵に回して得する事などはありません。それは貴方達ドイツ人の方がよく分かっているはずだ」

 

「我が国を侮辱するおつもりで」

 

「過去は正しく受け入れなければならないと言っているだけです。同じ過ちを繰り返すと言うなら話す価値すら無い」

 

「……何を対価に求めるのかね」

 

「……破棄されたシュバルツェ計画の詳細とそれを引き継いだ形の計画の詳細データを閲覧させてもらいたい。それからある程度の契約金、それとADに関する情報の秘匿義務。大きな点ではそれらになります。細かい所はこちらの資料を」

 

「シュバルツェ計画?」

 

ほとんどの人間が疑問に思っている中、やはり軍の高官の男だけは知っているようだ。

 

「こちらで判明している限りでは、遺伝子を操作して産み出した存在に英才教育を施し、理想の軍人を産み出すという計画です。その後も産まれた被験者に様々な薬物などを投与して改造を施し、裏の汚れ仕事を任せながらデータを収集、そしてIS登場後には専用機を与え、白騎士を除けば世界で一番早く単一仕様能力を発生させ、最も血に染まったISシュバルツェ・ハーゼを与えられた。だが、後に被験者は逃走。シュバルツェ・ハーゼも一緒に。ああ、引き継いだ形で最初の被験者と同じDNAマップを用いて新たに産み出されたのが軍に所属しているのも既に知っていますよ」

 

オレの言葉に大統領が軍の高官を睨みつける。

 

「我々にも秘密とは、一体どういうことかね」

 

「いえ、それは、その」

 

「はっきりと言いたまえ!!」

 

「自分が今の地位に就いた時には既にシュバルツェ計画は承認されており、予算の方も組まれておりました。また、被験体が逃走した時は例のあの事件の時であり、担当者が被害報告を間違えて報告したことが判明しております。データの方もかなり損失が激しく、確保が出来たのはDNAマップの9割とシュバルツェ・ハーゼの整備マニュアル程度です。自分はシュバルツェ計画には関わっていないのでこれ以上は何も分かりません」

 

「くっ!!よりにもよってあの事件の時か、何たる失態だ!!」

 

「申し訳ありません。シュバルツェ計画を引き継ぐ形で行なわれている計画の方もヴォーダン・オージェの不適合により能力が著しく低下してしまっております」

 

「……それだけの情報でも構いませんが出来ればその被験者、身柄を譲ってもらっても構いませんか?失敗作なのでしょう」

 

「……それでも機密だ。そう簡単に渡すわけにはいかない」

 

「ふむ、そうですか。ならばベットを上乗せさせてもらいましょう。報告はあがっていると思いますが、先日我々が利用していた例の車、装甲やエンジン、簡易PICなどが搭載されているアレのデータの全て。そして、コレ」

 

スーツの内ポケットからプレートを取り出して見せてから、テーブルの上にティーセットを出現させる。

 

「ISの量子格納機能を個人レベルにまで引き下ろした物です。コレに関してのデータも付けましょう。本来なら独占して中身を全てブラックボックス化して販売しようと思っている物ですが、どうします?」

 

「……少し考えさせてくれ。3日後、返答をさせて貰いたい」

 

「構いません。では、本日はコレで」

 

席から立ち上がり退出する為に扉に手をかけた所で思い出したかの様に立ち止まる。

 

「これは独り言です。軍の中に何人か、亡国機業に協力しているのがいるようですね。シュバルツェ計画に類似する計画で産み出されたという人物と交戦しましたから。それでは、3日後に」

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

side ラウラ

 

 

今日も駄目だった。何をやっても上手く行かない。これでは、私は何の為に産まれてきたというのだ。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、今すぐ司令室まで出頭する様に命令が来たぞ」

 

「了解しました」

 

上官の命令に従い、司令室まですぐさま向かう。ドアをノックしてから名乗りを上げ入室の許可を得る。ドアを開けた先には珍しく機嫌の良い司令がイスに座っていた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、貴様は出向という形での除隊が決定した」

 

「じょ、除隊ですか!?」

 

「そうだ。詳しくは回って来なかったが、貴様が向こうに出向することで我がドイツに莫大な富が転がり込んでくるそうだ。良かったではないか、これで貴様の産まれてきた意味はあったな。精々向こうで可愛がってもらえば良い。これが辞令だ、明日0900に向こう側から迎えが来る。それまでに荷物を纏めておけ。以上だ、退出しろ」

 

「……了解、しました」

 

司令室から退出し、自室に戻る。命令通り荷物をまとめる。私は、軍人なのだ。命令には絶対に従わなくてはならない。私が出向することでドイツに莫大な富が手に入る。それは喜ぶべき事なのに、それなのに、なぜ、こんなにも胸が苦しいんだ。

いつの間にか寝ていたのか、気付けば朝になっていた。時計を見るとそれほどゆっくりしている暇はない。皺が出来た軍服を脱いでシャワーを浴び、まとめた荷物の中から新しい軍服を取り出して着替え、来ていた軍服は鞄に入れる。それから左目に眼帯を付ける。この左目さえ、左目さえまともだったなら、いや、もう遅いか。それにしても私の様な者を引き取ろうなどと考えたのは何処の者だ?確かに私の出生からして貴重な人材だと言うのは分かるが、一から作った方が良いと思うのだが。使い捨てでデータを取るにしてもやはり新しく作った方が良いのではないか?疑問に思いながらも時間が近づいているので基地の正面ゲートに向かうと一台の車の前に煙草をくわえた40代位のラフな格好の男と10代前半のスーツ姿の男女が会話をしていた。彼らが司令が言っていた向こう側の迎えなのだろう。近づいていくと私に気が付いたのか私の方を向いて何故か驚いていた。どうかしたのだろうか?

 

 

side out

 

 

 

 

side ジェイル

 

 

レームが驚いてタバコを落としているが仕方ないと思う。シャルも目を大きく見開いて驚いている。数日前の会談の際、DNAマップは9割しか確保出来ていないと言っていたが本当に9割だったのか?遺伝子とは複雑だ。100%遺伝子が同じだとしても全く同じになる事はない。必ずどこかに誤差が存在する。1割も失ってしまえば全くの別物になる。だが、目の前に居る彼女はどうだ。瞳の色を除けば(身長などはともかくとして)ほぼ同一人物ではないか。

 

「君が、ラウラ・ボーデヴィッヒ中尉で間違いない?」

 

「そうです」

 

声までそっくりか。レームは何とか立ち直っているがシャルは未だに立ち直れていない。

 

「本日0900時より、君はフランスのデュノア社第二IS開発所所属となる。オレが所長のジェイル、こっちが君の同僚となるオレの妹のシャルロットだ。こっちの男はレーム、傭兵だ。今はオレの護衛をやって貰っている。これ以上は車の中でだ。乗りたまえ」

 

「一つ、質問してもよろしいですか」

 

「車の中でなら幾らでも聞こう」

 

「私は!!」

 

急に大声を出したのでただ事ではないと思い、無言で先を促す。

 

「私は、私は売られたのですか」

 

「……ドイツ側から提案した事ではない。オレ達が無理矢理引き抜いた。これ以上は車の中でだ。あまり聞かれたく無い話だからな」

 

「……はい」

 

後ろの席にオレが乗り込みラウラを挟む様にシャルも続いて乗り込む。レームは助手席で運転席にはウゴが乗っている。それにしてもやはり荷物は鞄一つか。シャルもそうだったが、サンクチュアリに戻ったら女性職員とシャルに任せて色々と揃えてもらわなければな。

 

「さて、これからの予定を簡単に説明する。このまま我々はドイツを離れ、フランスの拠点である開発所に戻る。今日中には戻れる予定だ。翌日は休日だ。この日に色々と買い物を行なう予定だ。その翌日、軽い検査と専用のISスーツの開発の為に採寸を行なってから能力測定。以上が、今の所の予定だ。何か質問はあるか?予定以外の事でも良いぞ」

 

「何故私を引き抜いたのですか。私は失敗作なのに」

 

「勝手に失敗作だと思い込んでいるだけだ。シュバルツェ計画で産まれている以上、アレクシアの才能の一部は確実にあるはずだ。要するに、ヴォーダン・オージェの所為で本来のスペックが出せなくなっているだけだ。こちらで調べさせてもらった所、ヴォーダン・オージェの不適合前の成績を見たがどう見ても優秀だ」

 

「元デルタの意見を言わせてもらうなら、あの成績なら十分軍人としてやっていけたはずだよ。メンタリティに関しては若干不安だから特殊部隊には配属はされないと思うけど、それは若いのが原因だからね。今後に期待と言った所かね」

 

「ですが、今の私は」

 

「だからどうした。今は駄目でも未来がどうなるかは決まっていない!!一年だ、一年で過去以上の力を手にしろ!!それが出来る環境は用意してある!!見返してやりたくは無いのか、ボーデヴィッヒ。勝手に期待しておいて、勝手に失望した奴らを」

 

「そんなの無理です」

 

「無理じゃない!!無理を可能にするマニュアルが残されている」

 

「それってアレクシアの特訓マニュアルかい?」

 

「そうだレーム。アレさえこなせばどんな奴でも立派な戦士になれる」

 

「まあ確かにそうだけど、大丈夫かい?」

 

「サンクチュアリの所員は全員受けたから問題無い。オレとシャルに至ってはマンツーマンで別個の特訓まで受けたぞ」

 

「……よく生きてるねぇ」

 

「アレクシアさんが凄かったのでなんとか」

 

「慣れるまでは地獄だったがな」

 

「先程から一体何を言っているのですか?アレクシアとは誰なのですか?」

 

「アレクシア・フォルスター、シュバルツェ計画によって産み出された最初の成功体であり、世界で最も自分のISを血に染めたボーデヴィッヒ中尉のオリジナル。そしてオレの恩人だ」

 

携帯端末を操作してアレクシアの写真を見せる。

 

「これは、私?」

 

「アレクシアは強かった。生身での戦いにおいては一人で三十人強を倒した。軍人時代はISランクが低かろうと、どんなミッションも失敗せずにいた。そしてオレなんかを庇わなければ死ぬ事もなかった。ISを使わずに、2機のISを相手にして死んだ」

 

「ISを!?」

 

「ボーデヴィッヒ中尉、君にはアレクシアに近い才能がある。それを引き出せるかどうかは君自体に掛かっている。もう一度聞く。見返してやりたくは無いのか」

 

「……私は強くなれるのですか?」

 

「なれる!!というよりオレとシャルは強くなった」

 

「強く、なりたいです」

 

ボーデヴィッヒ中尉は力強く答える。

 

「なら頑張るぞ。その内ボーデヴィッヒ中尉専用のISも開発する」

 

「えっ!?」

 

「聞いていると思うが、ボーデヴィッヒ中尉は出向と言う形で除隊になっているな」

 

「はい」

 

「しかし、事実は違う。正確には完全に我々の元に就職した形で所属もフランスに変更されている。これはボーデヴィッヒ中尉の生まれを調べられる訳にはいかないからだ。人権団体が五月蝿いからな。そして我々には実績があり、ISコアが優先して回されている。というか余っている。勿体ないから所属するパイロット全員に専用機を用意する事になっているんだ。あと、仕事があれば部下が暴走する事が少なくなるからな」

 

「暴走ですか?」

 

「変な物を開発するんだよ。おかげで予算を食いつぶされた。しかし、完成品が無駄に高性能で使った予算から言えば破格とも言える代物で罰は与えなくてはいけないのだが、それほど重い罰にする事も出来ない。ならばそういうことができない様な仕事があれば良いのだが、今は無くてな。ボーデヴィッヒ中尉の専用機を作る事になれば少しは暴走を抑えられるだろう」

 

「今度は一体何を作っていたの?」

 

「動物型のビット兵器だ。まだ試作の段階だが、かなり強力な兵器になりそうだ」

 

「エール・ド・ラ・リュミエールとはまた違うの?」

 

「ある程度の指示を出せばモデルになっている動物の思考パターンで動く。爪や牙にビームを纏わせたり、追加で武器を持たせるそうだ」

 

「それってもうビットじゃなくて半自立型攻撃ユニットでしょ」

 

「まあそうだが、ビットより操縦者の負担にならないからな。だから採用した。まあ予算の方がちょっと凄い事になっているが」

 

「どれ位なの?」

 

「これ位」

 

オレのネージュからシャルのヴァンにデータを送る。

 

「うぇ、これ大丈夫なの?」

 

「大丈夫じゃない、問題だ。おかげでかなり苦労した」

 

「例のアレを使ってお嬢が楽しそうにしてるよ。良い物を買ったってね。アレの正式な販売って何時頃になるんだい?」

 

「2年程だな。それまでは我慢してくれ」

 

「2年かぁ、短いようで長いねぇ」

 

「長いようで短いな」

 

最初の頃と違い、空気が軽くなった。これでようやく寝る事が出来るな。

 

「それじゃあ、何かあったら起こしてくれ。ここの所まともに寝てないから」

 

「分かったよ、お兄ちゃん」

 

「お休み~」

 

周囲の安全を確認してから身体から力を抜く。あの事件から少しでも危険が有ると意識を完全に落とさない癖が付いてしまった。不幸なのか幸運なのか、ネージュの精製するナノマシンのおかげで体調を崩す事は無いのだが、精神面での疲労は拭えない。やはり適度な休息は必要だな。

車の揺れに身を任せてオレは意識を手放す。

 

side out

 

 

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