IS インフィニット・ストラトス 獣の指揮者   作:ユキアン

19 / 21
第19話

 

 

side ジェイル

 

 

月日が経つのは早いと思う今日この頃、オレ達サンクチュアリ一同は再びドイツに赴いている。ちょうどラウラがサンクチュアリにやってきて一年である。なぜドイツにやってきているのかと言うと、向こう側からの要請だ。

 

本来ならこちらから提案しようと思っていたラウラの模擬戦なのだが、向こう側もラウラが隊を離れた後に特別コーチを招いて鍛え上げたのだそうだ。ほぼ確実に織斑千冬だろうな。その成果を見る為にラウラを呼んだのだ。ニコルの専用機を組む為にクソ忙しい中をだ。

 

ニコルの専用機は既に完成したのだが、最近になってあることに本人が気づいた。それを最大限に生かす為に、それ以上にとある物を作る必要性があったので一から設計し直したのだ。おかげでまた予算を組み直したり資材を用意したりするのに時間がかかった。

 

所員達は全員が再設計に賛成してくれたが、政府への披露会までの時間は変わらないので昼夜を問わず突貫作業で行われていた所にこのドイツへの渡航だ。一緒に着いてきている半分位の所員が隈を作っている状態で、移動中のトラックの中でも組み立てを行っている。

 

さらにサンクチュアリでは居残り班が専用機のパーツの製造を行っており、ある程度の量が完成した所でこちらまで空輸してくる予定だ。新規に製造した武装は一切無いが、ISの基本である1対1ではかなり強力だ。まあ未だに基礎フレームしか出来上がっていないので詳細は後々語ろう。

 

「そこ、手を休めるな!!」

 

「所長、パーツが足りません」

 

「ならラウラの方に回れ!!武装の確保はできているんだろうな」

 

「本社の方から掻っ払ってきました!!」

 

「良し、急げ!!」

 

「了解」

 

今回の模擬戦の為に本社の方から倉庫で埃を被っていたラファールを引っ張ってきた。それを整備して少しパーツの交換をしただけの普通の第1世代だ。武装も本社の最新作を掻っ払ってきただけ。

 

普通だ。普通だからこそ搭乗者の力量がはっきりと出る。ラファールを弄った部分はユウダイの神経接続機を搭載してウェポンラックを増設しただけだ。量子格納できないのが第1世代だからな。

 

武装の方はビームサーベルを2本、ビームライフルを1丁、アサルトライフルを1丁、ナイフを2本、アサルトライフルのマガジンを2本だ。平凡だが、信頼性はある。ラウラなら上手く使える。負ける事もまずないだろう。まあ変に緊張していても困るから様子を見に行くか。

 

「ラウラの方の様子を見てくる。こちらは任せるぞ」

 

「「「はい」」」

 

トラックから降りてラウラの準備をしているピットに向かう。途中すれ違う軍人が不思議そうな顔をするが気にしない。ちゃんとIDカードを首に掛けているからな。作業服の上に白衣を着ているという変な格好だが問題無い。

 

「こっちの準備はどうだ」

 

模擬戦まで30分を切っている。サンクチュアリ側に貸し出されたピット内ではラファールの最終調整が行われている。

 

「おらおら急げ!!組み立てをミスりやがったら所長に殺されるぞ!!所長か、今は武装の最終チェック中だ。本社の奴ら量産品だからって雑な仕事をしてやがったからもう少し時間がかかるぞ!!」

 

「セイヤ、間に合うんだろうな」

 

「当たり前だ!!整備屋としてのプライドに掛けてもいい!!」

 

オレの方に顔を向けずにセイヤが怒鳴り返してくる。セイヤの作る新しい発明品は不安が多いが、整備の腕は一番信用出来る。アレクシアのお墨付きだ。

 

「頼んだぞ」

 

「任せとけ!!よし、こいつは良いぞ!!次のサーベルを持って来い。そっちはナイフとケースの点検だ!!」

 

機体や武装の事はセイヤとユウダイに任せておけば良いだろう。オレは一流には成れても超一流には成れないからな。

 

それよりもラウラは、居た。ピットの隅の方でシャルとニコルと一緒にベンチに座っている。

 

「ラウラ、調子はどうだ」

 

「不思議な気分だ。適当な言葉が見つからない。色々な感情が混ざって不思議な感じがする」

 

「眼帯を付けたままなのはその為か」

 

普段のラウラはISに乗る時は眼帯を外している。サンクチュアリ内を歩く時はファッションの一部として付けているから、平時と分けているのだろうとオレは思っていたのだが。

 

「付けたままだったか」

 

どうやら本格的に不味いようだな。

 

「本当に大丈夫か?何か必要なら用意させるが」

 

「……それなら一つだけある」

 

「なんだ?」

 

「個人的な感傷による物だが、その」

 

「言い難いならプライベート回線で言ってくれれば良い」

 

「すまない」

 

そして頼まれた物はすぐに用意出来る様な物ではなかった。だが、それと同じ効果を発生させる事は可能だったのでそちらを用意した。

 

「ラウラ、オレからのオーダーはただ一つだ。好きにしろ。オレが全部責任を持ってやる。やりたい事を、言いたい事を、好きにすれば良い」

 

「ありがとうございます」

 

ラウラが素直に頭を下げた事に若干驚いた。今まで礼を言う事はあっても頭を下げる事は無かった。やはり古巣に戻ってきた事で何か心境に大きな変化が出たのだろう。

 

「ラウラちゃ~ん、最後の調整を行うからこっち来てぇ~」

 

セイヤがラウラを呼ぶ声が聞こえてきた。時間的に考えればギリギリと言った所か。

 

「それでは、行ってきます」

 

「ああ、行って来い」

 

「気をつけてね」

 

ラウラを送り出してベンチに腰を下ろす。

 

「変わったよな、ラウラは」

 

「変わったよ、ラウラは。今日のこれが新たな最初の一歩。誰かに決められて訳じゃない、自分で選んだ道を歩んで行ける」

 

シャルはそう言いながらニコルの頭を撫でる。ニコルの条件付けは殆ど解除した。精神安定の為に過去の記憶は封印したままでシャルロットを担当官と思い込む事以外は全て取り除いた。いずれは担当官が居なくても、自分の道を歩める様に。それが何時になるかは分からない。それどころか先に寿命が来るかも知れない。

 

ネージュのナノマシンによって10年は大丈夫だと考えているが、どうなるかは分からない。ネージュのナノマシンによって2期生のベースを強化する4期生の研究が始まっているようだ。ニコルはそのプロトタイプと考えられている。ニコルの進む道は4期生の指標になる。シャルにもその事は伝えてある。だけどシャルの答えはあっさりした物だった。

 

『ニコルは私の妹で、お兄ちゃんの妹。良い事をしたら褒めてあげて悪い事をしたら怒る。ちょっと位の我が侭は聞いてあげて、一緒に暮らして行く。それだけだよ』

 

今の所それで問題無いのでオレは何も言わない。ちゃんと兄をやれているのかが分からないからな。

 

「ラウラ、勝てるかな?」

 

「アレクシアが織斑千冬に負けると思うか?」

 

「……真っ正面から戦ってる姿が思い浮かばない」

 

「すまん、オレもだ」

 

アレクシアが正面から戦う?後ろに守らなければならない人が居ないなら正面から戦うなんて事はしないよ。正面から戦ってもいきなりネックハングとかしている光景しか思い浮かばない。ニコルは不思議そうに首を傾げている。そう言えばニコルには見せてなかったな。アレクシアが命を落としたあの戦いの映像を。

 

「相手が無事に済む事を祈っておこう」

 

「そうだね」

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

side ラウラ

 

 

模擬戦の開始まで後一分。私はラファールをカタパルトに乗せて腕を組んで待機している。開始まで目を瞑って色々な事を思い返す。

 

古い機体だがユウダイやセイヤがまともに整備してくれた。使いこなせる技量もオリジナルが残してくれたマニュアルで磨いた。この基地だけと言う狭い世界から所長は出してくれた。広い世界に慣れていない私をシャルロットは連れ回してくれた。イルヴァの様な気を許せる友もできた。だけど私は自ら歩く事が出来なかった。自分の過去に決着を付けていないからだ。流されるだけだった。だから今日此所で過去に決着を付ける。

 

『開始まで10秒』

 

眼帯は既に外してある。今の私の左目は金色に見えているだろう。所長に頼んで網膜映写装置を弄ってそう見える様にしてもらった。私が軍に見放された原因となった金色の瞳。同じ隊の者が笑っていたこれのおかげで今の私がある。

 

私の居場所は軍には無かった。私の居場所はサンクチュアリだ。皆は綺麗な色だと笑わなかった。それどころかネタでイルヴァがカラーコンタクトを入れてカツラを被って私の物真似をして笑いを取っていた。本当にそっくりで私も笑った。そんな軽い物なのだ、この瞳は。笑われたってどうってことはない。だから、これを見て笑って気を抜いてくれるなら儲け物だ。

 

『2、1』

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、ラファール、出る!!」

 

カタパルトによってアリーナに押し出される。相手は私を見て笑っている。そして隙だらけだった。

 

瞬時加速を使い、その顔面に蹴りを入れる。アリーナのシールドに叩き付けた所に更に瞬時加速で接近し、背後から相手の利き手である左手を掴み、右手で顔面を掴んでシールドに押し付けたまま引きずって行く。空いている右手に武器を展開しようとしていたのでその空間に足を差し込んで展開させない。ついでに足を絡めて極めておく。

 

不格好だが、これで勝負は決まったな。アリーナを一周半ほどした所で相手のエネルギーが底を付いたので地面に降ろす。エネルギーが底を付いた反動で気を失っているのでそっと降ろして、腰にマウントしているアサルトライフルを頭上に掲げる。

 

「何のつもりだ、クラリッサ・ハルフォーフ中尉!!」

 

振り下ろされた実体剣は私が掲げたアサルトライフルに食い込んでいる。

 

「あんな内容、納得出来るか!!」

 

「事実を受け止められずに闇討ちとは、堕ちた物だな」

 

クラリッサを蹴り飛ばし、降ろしたばかりの相手を再び抱きかかえてサンクチュアリ側のピットに運び込む。

 

「ラウラ、遠慮するな。ボヌゥールの使用も許可する!!」

 

一番に所長が駆け寄ってきて私に指示を出してきた。

 

「やれる所までラファールでやらせて下さい!!」

 

「好きにしろ!!セイヤ!!」

 

「とりあえずこんな物しか無かった!!」

 

セイヤが何処からか台車を持ってきて、それに私が運んで来た相手を乗せて所長と二人でダッシュで逃げて行った。既に他の所員は逃げ出していたので、これで心配事は無くなった。

 

「元ドイツ軍人として、軍人の風上にも置けない貴様を修正してやるぞ、クラリッサ・ハルフォーフ!!」

 

こちらのピットに侵入すると同時にアサルトライフルの引き金を引こうとしている。

 

「させん!!」

 

私はアサルトライフルの銃口にナイフを投げつける。ナイフが銃口に刺さり、アサルトライフルが暴発する。

 

「なっ!?」

 

アサルトライフルを手放して新しいライフルらしき物を展開しようとするのをビームサーベルでなぎ払い、阻止する。武器を展開するであろう空間と、その先にあるシールドをかすらせる様に2本のボームサーベルを振るい、張り付く。

 

「ば、ばかな、あの落ちこぼれが、失敗作が、こんな、こんなはずが!!」

 

「見ていて哀れになる。これ以上醜態を曝す事無く眠れ」

 

最初の戦闘で大体のエネルギー量は判明しているのである程度削った後に顔面にビームサーベルを振って仕留める。髪が多少焼き切れたがドイツ軍人としての誇りを忘れた罰だと思ってもらおう。

 

ピットの端の方にクラリッサ・ハルフォーフを蹴り飛ばし、アリーナの方を向く。こちらに向かって3機が追撃に来ている。目を見れば私に向かって殺気を振りまいているのがよく分かる。特別コーチとかいう奴の指導を受けて天狗になったか。嘆かわしい事だ。

 

ラファールを収納してボヌゥールを展開する。さすがに3対1ではボヌゥールでなければ勝てそうに無いからな。右手にジャミング弾と煙幕弾にフラッシュグレネードを装填した3連装グレネードランチャーを、左手にガトリングレールガンを構え、先制攻撃を加える。

 

ランチャーに装填されている弾丸を全て吐き出し目と耳を塞ぐ。一歩だけ横にズレてからガトリングレールガンで予測射撃を行う。更に量子領域からトリモチ弾をランチャーに装填してさらに斉射する。エネルギーが切れて倒れれば安全になる様に弾を撃ち続ける。たまに飛んでくる相手からの弾丸はボヌゥールの重力制御装置で全て床に反らす。

 

半分作業のようになっているが、私は気にしない。3機の反応が消えた所でガトリングレールガンでの射撃を止める。未だに煙幕が残ったままなのだが、セイヤが作った物だから仕方ないな。

 

『所長、こちらは片付いたぞ』

 

『ラウラか、無事か』

 

『問題無い。これからどうすれば良い?』

 

『逃げるぞ。このままドイツを脱出し、この事で賠償金を大量に頂く』

 

『了解しました。すぐに合流する』

 

『待て、ついでにISも奪って来い。最悪の場合、現場の暴走と言う事で隊員を処刑して済ませる可能性がある。そうさせない為にISをカードに使う』

 

『分かりました。脱出のルートは?』

 

『最短コースを全力で進んでいる。邪魔が入ればシャルを迎撃に出す。最悪はオレも迎撃に出るから急いでくれ』

 

『すぐに向かいます』

 

待機形態に戻っている4機を収納して基地から脱出してサンクチュアリのトラックを目指す。5分程で3台のトラックが見え、その屋根には所長とニコルが対IS用のライフルを持ち、シャルロットがヴァンに補給用のケーブルを装着したままで待機していた。

 

「無事なようだな」

 

「問題無い。エネルギーの方も余裕だが、一応補給を」

 

「シャル」

 

「うん」

 

シャルロットがヴァンに接続されていたケーブルを外して渡してくれたのでそれをボヌゥールに接続する。殆ど減っていなかった為にすぐに補給は完了する。

 

「セイヤ、軍の通信の傍受はどうなってる。そうか、強行突破するぞ。居残り班にフランス政府に状況を伝える様に指示を出せ。それから国境線に軍の配備も伝えてくれ」

 

どうやら軍が検問を敷いているのだろうな。そこを強行突破するのか。戦力的には余裕にも程がある。稼働が可能なISが3機もあるのだからな。

 

「これからドイツ軍の検問を強行突破する。オレとラウラ、ニコルは前方に火力を集中させる。出来るだけ人員に被害を出させるな。邪魔な車両や障害物の排除を優先だ。シャルは後ろの警戒を頼む」

 

「「「了解」」」

 

「ラウ、衛星のハッキングがどうなっている。なら、周辺の状況を回せ。天候なども全てだ。ラウラ、曲射による先制攻撃だ。データと武装をそっちに回す」

 

曲射か、やった事が無いな。渡されたデータとカノン砲のチェックをしながらこっそりとセイヤに曲射のマニュアルを回してもらう。セイヤが言うにはカノン砲を衛星とリンクさせれば予測着弾点を自動で算出してくれるそうだ。

 

弾を込めてから肩に担いで衛星とリンクさせる。なるほど、確かに自動で着弾点が計算されているな。それにしても動きが早いな。もう道路の封鎖が完了している。

 

「所長、どれを狙う」

 

「道の中央を塞いでいる装甲車、次にその後方にある仮拠点に直撃弾を浴びせろ」

 

「了解した。うるさいから耳を塞いでくれ。3、2、1」

 

発射と同時に凄まじい反動と轟音を響かせながら砲弾が撃ち出されて行く。

 

「着弾まで6、5、4、3、2、1、着弾」

 

寸分違わずに装甲車に直撃した砲弾はそのまま地面にまで致命的なダメージを与えてしまう。

 

「所長、これは大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だ。このトラックにはPICが搭載されている。道が無くても空を飛べるから問題など無い。次弾装填」

 

次弾を装填し、照準を拠点に合わせる。

 

「次弾装填、照準の固定完了」

 

「撃て」

 

「撃ちます」

 

再び放たれた砲弾は仮拠点を吹き飛ばし、そして何人かの軍人がそれに巻き込まれて死んでいる。手足がもげていたりと長時間見ていると気分が悪くなる。

 

「こんな物でいいだろう。誰が運転しているか確認してないがPICを作動させる準備をしておけ」

 

所長は何事も無かったの様に指示を出して何かの操作を行い始める。

 

「全員、警戒を厳としたまま待機。おそらくはこれで問題無いと思うが気を抜くな。国境を越えればこっちの物だ。うん?どうした?そっちで勝手にしろ。あまり酷い目には遭わせるなよ」

 

「もしかしてあの人拉致って来たの!?」

 

シャルロットが騒いでいるが問題があったか?捕虜だろう、あいつは。

 

「降ろす暇が無かったんだよ。そこら辺に転がしておくのもアレだったからな」

 

「トラックに乗せずに置いてこれば良かったじゃん」

 

「もう遅い。このまま捕虜として扱う」

 

下手に暴れなければ変な事はしないから問題無いな。

しばらく警戒しながら待機していると再び検問が敷かれていたので、先程と同じ様に曲射によって無力化する。対策も一切せずに同じ事を繰り返してきた事に疑問が生じる。何かを仕掛けている。一体何を仕掛けてきた?あまり考えたくはないがアレか?

 

「所長、少しだけ止めて下さい」

 

「全体止まれ!!」

 

所長がすぐに指示を出してトラックが停止する。

 

「何かあるな」

 

「おそらくは地雷、もしかしたら遠隔操作型の対空地雷も想定した方が良い」

 

「対空地雷って、確か対空ロケットを浅く埋めた物だったな。セイヤ、地雷探知機とか持ってないか?持ってないか、いや、気にするな。オレが処理する」

 

「「はぁ?」」

 

シャルロットと私が唖然とする中、所長はトラックの屋根から飛び降りてネージュを展開し、少し進んだ所でジャケットアーマーを展開する。そして現れたのは7mの巨人。その身の丈にあった大剣を持ち、対レーザー、対ビーム処理が施されたマントを纏った黒い騎士。

 

ネージュのナノマシン精製能力をフルに使うことをコンセプトに開発されたジャケットアーマーだ。ISで最もエネルギーを消費するシールドを纏わずに分厚すぎる装甲で全て受け止めて致命傷を防ぎ、片面に取り付けられたブースターの加速を使った大剣の一撃で敵を粉砕し、ネージュのナノマシンで自己修復する不死の騎士。

 

その分コストも嵩んだおかげで評価が成功作と失敗作の間を行ったり来たりしているジャケットアーマーだと聞いた事がある。

 

初めて見たが、これに勝てるヴィジョンが見えて来ない。装甲はおそらくADのコンテナと同じ素材。それが中心にいる所長までの距離を逆算すれば薄い部分でも約2m。関節部は見えているが、関節に使われているのも装甲と同じ素材に見える。これが所長の傷の回復以上の早さで修復すると思うと戦意が沸いて来ない。果ての見えない戦いに心が折れる。

 

「少し待っていろ」

 

そう言って黒い巨人が歩き出す。一歩歩くたびに地面に足跡が残り、数歩歩いた所で足下が爆発する。

 

「ふむ、ラウラの言う通りだったな」

 

予想通り無傷で巨人が周囲一帯を踏み慣らしていく。足下が何回か爆発しているが何事も無かった様に歩き続ける。日本の大怪獣映画が確かこんな感じだったな。

 

「よし、除去は完了した。進めろ」

 

本来なら時間と労力が桁外れに必要な地雷撤去を力づくでどうにかした所長がジャケットアーマーを収納して戻ってくる。たぶん、衛星か何処かに仕掛けたカメラで見ている担当官は私達と同じく唖然としているか頭を抱えているだろうな。そして納得もしているだろう。これが最も有効な一手である事を。

 

『作っておいてなんだが、正直すまなかったと思う』

 

通信の向こうでユウダイが頭を下げているのが目に浮かんで来た。

 

『反省はしているが後悔はしていない!!』

 

訂正、こいつ分かっててやった確信犯だ。やはりサンクチュアリにまともな人員は殆ど居ないと思った方が良いな。シャルロットは比較的まともだが、どこかズレている気がする。他にも所長は身体からしてアレだし、イルヴァも性癖がアレだったし、ニコルは生まれからアレだし、私も人のことを言えないし。

 

もしかしたらラウが一番まともなのかもしれない。あいつは確か女癖が悪くてまともな評価を受けられなかっただけだ。そう考えるとちょっとへこむな。

 

「お~い、口を動かす暇があるなら先に手足を動かせ。追い付かれたら戦闘だぞ」

 

『『『うぃ~っす』』』

 

先程までの緊張感が消え去り、少しだらけた雰囲気になるが仕方ないだろう。ニコル以外誰も立ち直れていないから。その後は何事も無く国境を越え、軍に保護された。

 

これで所長は数日から十数日は休む暇無く交渉と調整の日々を送り、私はその護衛をこなすことになる。それが済めばサンクチュアリに戻って新しい武装の試射などを行って、誰かが起こした馬鹿な事件に巻き込まれて、シャルロット達と一緒に遊んだりする。

 

軍に居た頃とは違った忙しさだが、もの凄く居心地が良い。これがいつまでも、本当にいつまでも続く事を祈ろう。いや、神など信じていない私達が祈ってどうする。そんな暇があるなら力づくでもぎ取らなければな。

 

「所長」

 

「どうした?」

 

「これからもよろしくお願いします」

 

素人がする様な軽い敬礼と共にこっそりと練習していた笑顔を見せて所長に挨拶する。一瞬だけぽかんとしていた所長はすぐに立ち直り、私の頭を乱暴に撫でる。

 

「当たり前だ。これからも忙しい毎日が続くからな。しっかり守ってくれよ、ラウラ」

 

「はい」

 

 

side out

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。