side ジェイル
やはり一夏とオレの縁は不幸によって繋がっているようだ。
事の始まりはドイツから脱出し、交渉に入った時の事だった。隠してあったカメラの映像からオレが世界初の男性IS適合者であることが判明したことをドイツ側がカードとして切ってきたので、交渉中にこちらから堂々と世界中に発表してドイツ側のカードを潰してみたのだが、その数日後、もう一人の男性適合者が発見されたのだ。まあ一人位は居るんじゃないかなと思っていたのだが、コーヒーを飲みながら携帯端末でちょっと調べて見ると一夏の姿がそこにあり、驚いて端末にコーヒーをぶっかけてしまったのは記憶に新しい。
連絡を取ってみた所、オレの発表の翌日から世界中で検査が行われ、それで発覚したらしい。今は家に軟禁状態にされていてこれからの事を考えようにも情報が少な過ぎてどうしたらいいか分からなくて困っているらしい。姉である織斑千冬は帰国しようにも先日の一件の所為でドイツ軍に拘束されている為に頼れるのがオレしかいない状況なようだ。
「とりあえずは待機だ。オレも今は動けない状況だが、出来る限りすぐに片付ける。オレの方の対応が決まれば日本政府の政治的特徴から言えばそれに同調するはずだ。最悪、EU全体から圧力をかけてもらえる様に調整する」
『出来る限りすぐってどれ位なんだよ』
「分からん。だが長くとも2週間でけりをつけて1ヶ月以内には日本に向かう。おそらくだが最終的にはIS学園に通う事になるだろうな」
『なんでそんな事が分かるんだ?』
「IS学園は日本にはあるが完全に治外法権の一つの国だと考えれば良い。警備は世界でもトップクラスの上に十分な抑止力も存在している」
『抑止力?』
「ISだよ。あの学園には18機のISが存在し、専用機を持った生徒も居る。しかも世界各国の生徒が居るんだぞ。そこにケンカを売るって言うのは全ての国を敵に回すと言う事だ。少なくとも今そこに居るよりは安全だ」
『そうなのか?』
「少しは政治も勉強した方がいいぞ。とりあえず、今からISの勉強しておいて損は無い。IS学園の分かり難い参考書じゃなくてオレがまとめた分かり易い参考書を送ってやるから目を通していろ。結構専門用語が多いから、それに合わせた用語集も一緒に送っといてやるよ」
『すまない。いつも頼る形になって』
「気にするな。こっちが好きでやってるだけだ。すまないがそろそろ時間だ。何か有ったらメールしろ」
『すまない、ありがとう』
「じゃあな」
通話を切ると同時にラウラが休憩室の扉を開けて入ってくる。
「そろそろ時間です」
「分かった」
ラウラがオレの横を歩き、オレとラウラを囲む様にSPが護衛に付く。最も、普通のSPの護衛する位置から一歩距離を置かせている。
亡国機業の一番厄介な点は何処にでも居ると言う事だ。正確に言えばいつの間にか入れ替わっているのだ。それを考えると身内しか信じられない。サンクチュアリの面子と入れ替わればすぐに違和感を覚える。あの変人の巣窟に馴染める人員が亡国機業にいるとは思えない。
ラウラやシャルやニコルと入れ替わった場合、ISが異常を知らせてくるのでこれも問題無い。大統領からはSPを付ける様にと言われているが、ラウラ以外を信用するわけにはいかない。何があっても致命傷を受けない位置と言うのがこの距離なのだ。
だからこそ目の前で会議室の扉が爆発してSPが吹き飛ばされる中、オレ達二人はISを展開して無傷だった。オレ達の後ろに居たSP達はともかく前に居た者は即死したようだ。馬鹿みたいな威力の指向性爆薬だったようなので会議室の方は何ともないようだ。また亡国機業の奴らか。
「誰が仕掛けたかはそちらに任せますけど、お願い、聞いてもらえますよね?」
動物型ビットを会議室に居る全員に一機張り付けて、脅迫する。そろそろこの動物型ビットの総称も考えないとな。
「な、内容にもよる」
大統領が冷や汗を流しながらも答えてくれる。
「簡単ですよ。とっととこのつまらない会議を終わらせましょう。あの計画の同盟国以外へのポーズなんて辞めにして。計画通り、私はIS学園に通います。ちょうど同い年の、それも友人である織斑一夏と言う少年と共に通うという理由も出てきたのですから、調整の方は簡単でしょう」
「友人だったのか。なるほど、確かにそれなら多少は楽になるが、IS学園との交渉もあるしな」
「そちらには私が直接向かいます。唯一の家族が薄情な上に、政府のおざなりな対応で精神的に参ってきているようなので」
「ふむ、それは心配だな」
「ええ、ですので早く会いに行ってやりたいのでね。日本政府の対応もおそらくはこちらに合わせてくるはずですので」
「分かった。そちらの要求は予算だったな?」
「ええ、開発は金食い虫ですから」
「記者会見は明後日にまとめて行うことにしよう。それが終わればIS学園に向かってもらう」
「分かりました。こちらの窓口はデュノア社の第2開発局のユウダイまで回して下さい。本社の方には回さないで下さいよ。社長はこの件にはほとんど関わっていませんから」
「独立する気は無いのかね?」
「1から販売ルートを構築するのは面倒ですので。向こうは利益が十分に入って名も売れて、こっちは面倒な販売を押し付けれる。win-winの関係ですから。だが社長は欲深い。長期的な利益を捨てて短期での莫大な利益に目がくらむ可能性がありますので、そちらも十分に気を引き締めておいて下さい」
「そう言う男かね?」
「隠し子の面倒の一切を実の息子に押し付けて、10歳の実の息子にお前は道具だと言い切る男ですから。邪魔な道具は売るか捨てるかするでしょう。それに、あの男には未来が見えていない。いや、正確には言えば数歩先しか見えていない。気づいた時にはもう手遅れになっている。その時になって初めて自分が握りしめている保健の期限が切れている事に気づく。その程度の男ですよ。では、失礼します」
ラウラと共に会議室から出てユウダイに迎えに来る様に連絡してサンクチュアリに戻る。サンクチュアリまで戻ると、テレビ局や新聞社の人間がかなりの人数で入り口に待機していた。
「世界初の男性適合者の発表があってからずっとあんな感じで所員がぴりぴりしてる。まだ爆発してないがいつキレるか分からないぞ。今は地下からの侵入者が多いから、それの処分で忙しくて大丈夫なんだがな」
「それはまずいな。オレが降りたら耳を塞いでいろ」
サンクチュアリに車が近づくとすぐに詰め寄ってきて身動きが取れなくなる。それでもなんとか入り口まで車を進ませてからオレは車を降りる。するとターゲットをオレに変えて一切に走り出そうとする前に大声と殺気で怯ませる。
「静粛に!!」
怯んだ隙に素早く次の言葉を発する。
「私への質問は現時点では全てノーコメントだ、明後日の記者会見まで何も答えるつもりは無い。そしてここは国家において重要な軍事力であるISの開発所だ。これ以上の干渉は国家反逆罪に値すると判断して軍に出動を要請する。大人しく立ち去れ」
「インターナショ「それ以上発言するなら明後日の記者会見に参加させないぞ。言ったはずだ。私は何も話す気は無いし大人しく立ち去れと」横ぼ……う」
右腕だけISを展開してアサルトレールガンを向ける。
「こっちは何回も暗殺されそうになってピリピリしてるんだよ。先程も官邸で殺されかけてるんだ。これ以上苛立たせるな。明後日の記者会見も覚悟を決めておけ。巻き込まれて死んでもしらんぞ」
これによってなんとか散ってくれたが、どっと疲れが出た。四六時中暗殺に対する構えを解けなかったから精神的な疲れが大きい。それに最初の計画のスケジュールから大きく外れてしまった。いや、ここは致命的な物ではなかったと喜ぶ所だろう。ラウラもようやく気が抜けたのか眠そうにしている。
「ラウラ、護衛はもう良いぞ。ユウダイ、報告の方を頼む」
スーツ姿のラウラを解放してユウダイを伴って執務室に向かう。執務室のイスに腰掛けた所でようやくユウダイが報告を始める。
「あ~、何から報告した方が良い?」
「デカイ件からだ」
「そうだな。とりあえず色々とデカイ件があるんだが、一番の問題としては亡国機業がまたちょっかい掛けてきやがった」
「被害は?」
「地下の施設の一部が破壊されただけだ。ISを2機投入してきたからシャルちゃんを筆頭にADを12機投入して1機を撃破して鹵獲してある。鹵獲した方はヘル・ハウンド、もう1機は未確認の機体だ。おそらくは何処かの実験機だろう」
渡された資料にはボロボロの状態のヘル・ハウンドと交戦中のデータから抜き出したと思われる未確認のISの写真が添え付けられていた。
「タコみたいだな」
「所長、蛸を見たことあるのか?」
「一回だけな。結構おいしかったな」
「とりあえずこいつは今後タコと呼称するか。見ての通り、足を使って最高で10個の武装を使えるんだが、多勢に無勢で逃げて行った」
「13対2。しかも何人か動物型ビットを使えたよな」
「そこにシャルちゃんのエール・ド・ラ・ヴァリエールが加わって集中砲火だ。しかも奇襲で」
「だから施設のダメージだけか」
「後は弾薬の消耗位だ。それとヘル・ハウンドの搭乗者なんだが、過剰砲撃により絶対防御も発動しない位にエネルギーが底を付いてな」
「ああ、気にするな」
ここに侵入しようとした者の末路は焼却処分だけだ。今回は一人逃してしまっているが問題無い。
「いや、止めがシャルちゃんだったんだよ。それで今、ちょっと落ち込んで部屋に籠ってる。今はイルヴァとニコルが傍に付いてる」
「あ~、とうとう殺ったか。出来ればそんなこと、させたくなかったんだが」
「まあ、ウチの事を考えるといつかはとは思っていたが、あれが普通の反応だよな」
「なんだ?オレへの当てつけか?」
「普通に過ごしていた所長に言ってるんだよ」
「いやいや、オレも少しは葛藤とかあったんだぞ。それでも安全圏とは言い難い上に傍にはリリィまで居たからな。混乱したり落ち込む暇なんて無かったからな」
「それでも殺した相手からサブマシンガンと防弾チョッキを奪う余裕はあったんだろう」
「死にたくないし、守らなければならなかったからな。その中で最も効率の良い物を選んだだけだ」
「まあ確かにハンドガン一丁よりは奪って装備を整えた方がマシだわな。まあ所長の事は良いや。シャルちゃんのこと、なんとかしろよ。兄貴なんだろう」
「とは言ってもな、どうすれば良いかまったく分からん」
「そこは男の真価が試される場面だろう。シャルちゃんの事は任せたからな。他の件はこっちで片付けとくから予算と権限だけ回してくれ」
「他の件のリストを見せろ」
渡されたリストに目を通して見ると大なり小なり問題が発生しているようだ。まあ殆どの案件が当初から判明していた事柄なので、開発予算とは別にプールしてある予算から必要だと思われる分を組んで同時に権限を一時譲渡する。
「余った予算は好きな所に振り分けろ」
「了解」
ユウダイと別れてシャルの部屋に向かう。入り口の前でニコルが座り込んでいた。
「シャルは、まだ中か?」
「うん。ご飯は少しだけど食べてくれてる」
「鍵は?」
「開いてる。だけど、一人にしてって」
「そうか」
さて、いきなり躓いたな。無理矢理でも入った方が良いのか?それとも時間を置いた方が良いのか?どちらが正しいのだろう。
そう悩んでいると袖を引っ張られる。
「どうした、ニコル?」
「シャルロットお姉ちゃんを助けてあげて」
「無論そのつもりだが、どうすればいいのかオレには分からない」
「私にも分からない。だけど、私じゃ駄目なのは分かる。たぶん、所長にしか出来ない」
オレにしかできない、か。そんなに期待されてもな。だが、期待された以上はそれに応えなければな。
「今日はもう休め。なんとかしてみせる」
「分かった」
離れて行くニコルを見送ってからシャルの部屋の扉をノックする。返答は無いが、そのまま部屋に入る。部屋の中は薄暗く、ベッドには膝を抱えて毛布を頭から被っているシャルが居た。
その姿は一歩踏み間違えたオレの姿だったのかもしれない。
もしアレクシアに助けられなかったら、もし初めて人を殺した時に傍にリリィが居なかったら、もしアレクシアが死んで仇すらも死んでいたら、オレはああなっていたと直感する。オレはどうしたら良いか分からずに立ち尽くす。
こんな時にアレクシアが居たらどうしただろう?
一番頼りになる人物の事を思い浮かべ、そのままシャルの隣に座り優しく抱きしめてやる。アレクシアに初めて会った時にされた様に。ただ、なんと言ってやれば良いのか分からずに無言だったのはミスったかもしれない。
そのまま無言でしばらく過ごしていると今まで無反応だったシャルがオレに抱きついて静かに泣いていた。オレはアレクシアがしてくれた様にやさしく背中や頭を撫でてやる。
しばらく続けているといつの間にかシャルは眠ってしまっていた。それでもオレを掴む腕は放してくれなかったので毛布をちゃんとかけ直してやり、涙で濡れた頬を拭ってやる。
「すまない、オレなんかに付き合わせてしまった所為で辛い思いをさせてしまって」
オレに付き合わなければ、少なくとも人を殺す様な事はしなくても良かったはずだ。あの日、アレクシアの墓前で降りても良かったのだ。あるいはオレが無理にでも降ろせば良かったのかも知れない。
いや、IFの話は無しだ。これがありのままの現実だ。オレは兄としてこれからシャルが出す答えを尊重しなければならない。
オレの日記が読まれているのは知っている。サンクチュアリのメンバーは手放すことが出来ない重要な人材だ。それを手元に置き続ける為ならプライベート位、全て曝してやる。情に訴えてでも、最終的にレインが殺れるなら構わない。
あいつらも目的が在ってここに居る。腹の中では何を考えているか分からない。なら、お互いに利用しあえば良い。だが、シャルやラウラやニコルは違う。オレが一方的に利用してしまっている。だからこそ出来る限りの譲歩を行ってやらなければならない。利用するだけなのは駄目だ。オレはあの男と女とは違う。
いつの間にか眠っていたのか意識がぼんやりする。時計を見ると4時間程経っていたようだ。シャルは未だに眠って、いや
「起きているんだろう。寝た振りをしても無駄だ」
「……何で分かるかな?」
「呼吸。ちょっとだけ早かったぞ。それは置いておいて、オレは何も言わない。自分で考えて答えを出せ。オレはどんな答えを出そうともそれを尊重しよう。出来る限りだけどな」
「……もう少しだけ時間を頂戴。まだ色々と上手く飲み込めない」
「構わん。兄として、家族としてそれ位出来ないでどうする?」
そう言ってから気づいた。一夏は今も一人で過ごしているんだよな。今のシャルの様な不安を抱えて。織斑千冬は拘束されていてドイツに居ると聞いているが、一切の抵抗もしなかったとも聞いている。普通に帰国しようとした所に見送りに来ていた軍人が事情を説明した所、素直に拘束されたそうだ。
やはり一夏は織斑千冬に愛されていない。それどころかオレ以上に酷い環境だ。あの男はオレに対して道具としての愛情は与えてくれている。一夏にはそれすらない。
オレは唯一の友を救ってやりたい。損得勘定無しに純粋にあいつを助けてやりたい。
「……お兄ちゃん、私の答え、出て来るまで時間がかかりそうなんだ。だから」
「……駄目な兄ですまん、シャル。だが、今日と明日は時間がある。その間は出来るだけ傍に居よう」
「うん。今はもうちょっとこのままで」
「好きにすれば良いと言いたい所だが、少し待て。ここの所まともに食事をとっていないそうだな。それに酷い格好だぞ」
あまり言いたくないが酷いの一言に尽きる。おそらくはアレクシアに拾われた時のオレ位に酷い格好をしている。目の下には深い隈が出来ていて、髪はぐちゃぐちゃになっていて、止めとばかりに下着姿。人を殺すと言う禁忌に悩んでいたのは分かるが、下着姿で居るのはどうかと思う。
「鏡を見てみろ。一時間程で戻るから」
ベッドから降りて部屋を出る。後ろの方でシャルの声にならない悲鳴が聞こえた気がするが気にしないでおいてやる。
ロッカールームでシャワーを浴びてから私服に着替えて食堂に向かう。既に時刻は深夜と言っても良い時間であり、食堂には誰も
「おっ、所長。シャルちゃんはどうだった?」
セイヤがフライパンを片手に夜食を作っていた。
「セイヤか。とりあえずは部屋からは出てくれる。まだしばらくの間は不安定かも知れないが、ひとまずは大丈夫だ」
「そうか。そりゃあ、良かった。いやぁ、所長の妹だから問題無いと思ってたら普通の反応だったから慌てて何も出来なかったからな。震えだしたと思ったらいきなり絶叫しながら暴れだしたからな」
「ああ、オレもあったな。そんなこと」
厨房に入り、手を洗ってから冷蔵庫からタマネギ、セロリ、人参、ニンニクをみじん切りにする。
「あっ、あったんだ」
「現実逃避をしようにも隣にリリィが居て、ついでに武器の恐ろしさとISの歪さを理解して立ち直ったからな。殺した奴から武器を奪って邪魔な奴を撃ち殺して、ADの開発に没頭して、ようやく少しは葛藤を覚える余裕が出てくると思った所でトライアルでのテロ」
今度は冷蔵庫から牛と豚のひき肉を取り出して塩こしょうで味付けをしながらフライパンにオリーブオイルを熱し、炒める。
「ついでにトライアルでADの正式採用に加えて、負傷や検査による計画の遅延。各国との調整とかで悩んでいる暇も無しか」
「落ち着ける日が何時来るのかも分からんな。当分は忙しいままだな」
ひき肉に火が十分に通った所でニンニク、人参、タマネギ、セロリの順に同じフライパンで炒める。
「せめて表に居る連中が消えてくれれば良いんだけどな」
「それに関してだが、アレの開発の予算の目処が出来た。地下を大幅に拡張して建造に入って構わん」
「アレってどれだよ。予算の関係で保留の件は多いぞ」
「地下を大幅に拡張する時点で分かるだろう。空中母艦、結構要望が多かったからな。試作型の製造の指示が来た。分かっていると思うが設計図通りに作るんだぞ。改造はお披露目が終わった後だ」
野菜に火が通った所でフライパンの中身が浸る位まで赤ワインを注ぎ、ブイヨンスープの素と香辛料と水を加えて煮込む。この時にアクをしっかりと取っておく。
「さすが所長、話が分かるよな」
「1年で試作型を完成させて2年以内に量産型が進水出来る様にしろ。今の仕事と平行してだ」
「うぇ?」
「スケジュールが押しているんだよ。人員は2ヶ月以内に3倍まで増える。それでなんとかしろ」
「いやいやなんとかしろってお前」
アクが少なくなった所でホールトマトを投入して焦げない様に混ぜていく。それを行いながら今度は寸胴鍋に水を入れて沸騰させる。
「公社に出向いていた時に良い情報屋を紹介して貰ったからな。そいつの報告があがってきた。ここの所休まずにそいつらの面接を行った。それに合格した奴らが1ヶ月から2ヶ月でここに来るはずだ。居住スペースも地下に作るから結構大掛かりだぞ。その分、予算はしっかりと取ってきた。それはもうたっぷりとな。バカな事をしなければ2隻は作れる位に」
水が沸騰したらそこにパスタを投入する。
「……ごくり」
「あの艦の試算は見ているよな。地下の拡張に人員の増加や、色々と掛かる経費を引いたとしても半分位は有り余る。だが帳簿ではギリギリ黒字の方が良い。改装用の費用はまた別にとってあるから多少赤字でも良いかな?何が言いたいか分かるよな」
フライパンの中身を味見しながら塩こしょうで味を整えていく。
「本当に良いのか?自重を忘れちゃうぞ」
「半分は好きにしても良い。ただし計画の変更は有り得ん。ただ、現場の判断でオレに対してプレゼンを開けば変わるかもしれない。外には知られるな。オレ達の生命線は確実に死守しろ」
「所長を囮にしてその足下でオレ達が暗躍する。灯台下暗しとはよく言った物だよな」
フライパンで作ったボロネーゼソースにバターとパルメザンチーズを加えてから茹であがったパスタをフライパンに投入して一気に和える。
「灯台で最も重要なのは何処までも照らせる強い光ではなく、決して折れず曲がらない様に何処までも高く聳える為に必要な土台だと気づかない。これに気づいた者と気づけない者では大きく違う」
お盆に皿を2枚並べてそこにスパゲッティを盛りつけて調理道具を片付ける。
「まあ気づかれない様に土台は文字通り土の中、見ようとする者は罠にかかってチリすら残さないんだからな」
「まあな。知られるわけにはいかない。日本にある桜は根元に死体が埋まっているからあれほど綺麗に咲くと信じられていた。さて、サンクチュアリはどう見えるのだろうかな?」
「表向きは聖域、裏は魔窟。それが此所だろう」
「否定できんな」
調理道具を片付け終わったのでコップに水を注いで皿の隣に紙ナプキンを引いてフォークを置く。セイヤの方は話の途中で既に夜食が完成して食べ始めていた。
「それじゃあな。明日には所員全員に先程の話を回すから、今日は大人しく寝ておけよ」
「残念だが、現在も地下の復興中でまた徹夜だよ。借金分働いて返せってユウダイに言われてな」
「自業自得だ。それから何度も言うが、予算を勝手に使いすぎるなよ。ギリギリまで引っ張ってきたから、今回は絶対に追加予算は降りない。絶対に一隻建造してから余った分で自分たちの研究をしろよ。絶対だぞ、フリじゃないからな。これ以上は本気で売れる物も何も無いからな。分かってるな」
「分かってる、分かってる。さすがにこれ以上やると切り捨てられるのは分かってるって。でだ、実はこんな物を作ってる予定なんだが、売れると思うか?」
投げ渡された空間展開モニターに表示された企画書に目を通す。
「うん?ふむ、ほう、内容の方は?」
「ラウの方に任せているが最初はこれしか無いだろう」
続いて表示される企画書にも目を通す。セイヤにしてはまともだな。
「うむ、これなら一定数は必ず売れるな。利用者の安全性はちゃんと確認する事を条件にオレのポケットマネーから開発費を出しておこう」
「よっしゃあ!!」
「話は変わるがセイヤ」
「どうした?」
「盗聴機や隠しカメラに詳しい奴は居るか?」
「誰の部屋に仕掛けるんだ?」
セイヤが下種い顔で興味津々に答えてくる。
「逆だ。仕掛けられている盗聴機や隠しカメラを処理して欲しいんだ。日本まで出張して」
「日本?ああ、織斑一夏の」
「そうだ」
「捜して処理となるとオレとイルヴァ班長だけだな。仕掛ける方ならもう少し居るんだけどな」
「じゃあ、出張決定な。出張費や経費はこっちで出すから。5日後を目安に」
「ちぇ~、まあいいか。とりあえず了解した」
「それじゃあな」
話は終わったので遅い夕食を持ってシャルの部屋に戻る。
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