side ジェイル
「では、そういうことでお願いします。轡木理事長」
「ええ。それから私、普段はここの用務員をしています。対外的には妻が理事を務めておりますので」
「分かりました」
「それにしてもお若いにも関わらずしっかりとされていますね。いえ、しっかりするしか無かったのでしょうね。貴方はまるで、いえ、失礼」
「人形の様に中身が無い。昔、そう言われた事がありますよ。全くもってその通りだ」
「……私は何も言いませんよ。同情もしません。貴方はそれを望んでおられるでしょう」
「良くお分かりで。私は辛い過去を拒否しない。辛い過去があるからこそ今の私がある。あの出来事がなければ私は私では無かったと断言出来る。辛い過去があるからこそ私は前に進める」
「やはり貴方はしっかりしておられる。私に出来る限りの事をさせて貰う事をここにもう一度誓わせてもらいましょう」
「ありがとうございます、轡木理事長。ですが、私よりも織斑一夏の事を気に掛けてもらいたいのです。一夏には守ってくれる人が、私しか居ない」
「やはり、あの噂は本当なのですか?織斑千冬は、織斑一夏君のことを好ましく思っていないというのは」
「はい。こちらでも幾つか確認しています。露骨に表面には出していませんし、虐待もありませんが、普通の中学1年である一夏をモンド・グロッソの際にはホテルの準備をした位で後は何もしませんでした。血縁関係者なら控え室に入れるのにそれを知らせず、ドイツ軍に拘束された後に引き取りに来たのも手の空いていた日本人スタッフ、そしてこの1年間ドイツに教官として出張していた間に連絡した事は一度も無く、あげくに文句の一つも言わずに未だにドイツ軍に拘束されたまま。オレは怒りすら覚える。傲慢にも程がある」
最後の部分で感情が出てしまった。落ち着け、この後は一夏とも会うんだ。あいつは今も姉である織斑千冬の事を信じている。現実に立ち向かうのはまだ早い。あいつが望むまで悟られるわけにはいかない。
「失礼。少し感情的になりました」
「いえいえ、本当に織斑君のことが大事なのですね」
「ええ、私が気を許せる唯一の友ですから。利害関係も一切無い、本当に気楽に接する事が出来る友です。私が出会う同年代はどうしても背後にある家の影がちらついてしまうのでね。気を許せる同年代というのは妹と護衛のラウラ、それから婚約者のリリアーヌだけです。それ以外は敵か、利用しあう敵しかいない」
「そうですね。政治の世界とはいつもそうです。私情は一切挟まずに、己の利となる物をどこまでも追い求めなければならない。幸福の絶対値は決まっており、それを取り合うのが政治という物ですから」
「それを理解していない者が、この世界には多すぎる。あるはずの無い幸福を産み出そうとする者、虚栄の剣を振るい幸福を得ようとする者、知らず知らずのうちに幸福を溜め込んでいく者、何故世界はこんなにも醜いんでしょうね?」
「全体的に醜くとも一部では美しく輝ける部分はあるでしょう。それが輝けるかどうかは別として」
「今の情勢では大半が輝けないでしょう。歴史を動かしてきたのは殆どが男でしたから」
歴史を紐解けば分かるだろう。権力を持っていたのは基本的に男であり、名声を集めてきたのも男だ。傷つき疲れ果てた国を思い立ち上がるのは女だが、それは意思をまとめあげたに過ぎない。歴史を切り開いてきた男達は自らの意思を世界に示し、その意思の元に集った者達と共に歴史を切り開いてきた。
だからこそあの女は英雄に成れない。世界に何も示さずに強力な力を好き勝手に振るうあの女の本質は子供。自分の思い通りにならないなら我が侭を行い、それを通すだけの力を持っている子供。質が悪すぎる。
「別に私は男女という壁を気にはしませんが、それでもどうしても性質的に女性は上に立ち辛いのが一般常識ですからね。遥か昔からそれが続いているおかげで今もそれが残っている。例え女尊男卑の世の中になってもだ。軍人は男の方が多いし、昔からある大企業のトップも男のまま、まあ元から女性が上の国は元からですので省くとしても素人が舵取りをしない様にという意見で上は固まっていますからね。変わったのは下だけで上は変わっていない。世界は常に安定を求めている。水が上から下に落ちる様に」
「だからこそ貴方や織斑君の様な者が現れた。ここが正念場ですね。淘汰されれば今度は女尊男卑を世界は安定させようとする」
「いえ、それは大丈夫です。手は既に二重にも三重にも打ってあります。例え私が倒れようとも既には水は流れ出しています。水の流れはいずれ川となり、多くの人の思惑を飲み込みつつ大河となって海へと至る。流れに乗れるかはその人次第です。日本ではこう言うんでしたっけ、既に賽は投げられた」
「どうやら世界がまた動き出している様ですね。私も備えを始めた方が良さそうだ」
「ええ、是非ともそうして下さい。気づいた時には何もする事も出来ずに飲み込まれないように、備えは万全にしておいた方が良い。それではそろそろ失礼させていただきます。見送りは結構ですので」
ソファーから立ち上がり部屋から出る。
「待たせたな」
「いえ、問題ありません」
今回も護衛にラウラを連れてきているが交渉みたいな物を聞いていると頭が痛くなるからと部屋の外で待機していたのだ。今回の日本への出張には他にセイヤとイルヴァ、それからココからの紹介でサンクチュアリに入所した元GIGENのマティアスの3人を連れてきている。今はセイヤとイルヴァが掘り出し物のパーツを捜しに行っているのでマティアスはそれの護衛を務めてもらっている。
「それよりも早く移動しましょう。先程から視線が集っていますので」
「分かった」
何処から情報が漏れたのかは分からないが、IS学園に送られている工作員が授業を抜け出してまでこちらを監視しているようだ。ハイパーセンサーで捉えた限りでは4名、いや5名か。一人だけ面白い奴が居る。だが、接触するわけにはいかないな。さて、どうやって此所から脱出するかな。しばらく考えた後に一つだけ思いついた。
「ラウラ、泳げるよな?」
「もちろんですが」
「ならばよし」
「泳いで戻るのですか?」
「堂々とモノレールの駅に一人居るからな。面倒事は避けるに限る」
校舎を出て一番近い海に接する場所に移動しスーツを脱ぐ。隣でラウラも同じ様にスーツを脱いで準備運動を始める。ちなみにだがラウラもズボンを履いている。護衛である以上スカートでは動き辛いのが問題になるからだ。まあそのおかげでISスーツを違和感なく下に着込む事が出来る。
「そう言えば海で泳ぐのは初めてだな」
「私もです。というかまともに見る事自体が初めてです」
「こんな物が地球の7割を占めているなんてな」
「凄いですよね」
準備運動が終わった所で海にゆっくりと入っていく。気温的にはまだ早いがこれ位なら問題無いな。
「それじゃあ疲れすぎない程度に泳ぐか」
二人して本土を目指して泳ぎ始める。最初は波の所為でいつもの様に泳げなかったが、流れがある事に気づいた事によって普通に泳ぐのよりも楽に泳ぐ事が出来た。
「所長、変な形の魚が泳いでます」
「あれは河豚だな。身体のあちこちに毒を持っていて種類によって毒の位置が変わるから調理するのに免許が居る魚だ。食べた事は無いが、美味いらしいぞ」
「毒持ちですか。食べるのに少し勇気が要りますね」
「基本は生で食べるらしいぞ」
「生ですか?」
「生だ。薄く切った物を醤油やタレに付けて食べる。慣れるまで時間がかかったな。あとは出来るだけ新鮮な物じゃなければ腹を壊す。取り扱いに注意しなければな」
「毒持ちの時点で気をつけるでしょう」
「残念だが、オレの身体、毒も効かないらしい。半分動物を辞めてるからな」
「あんまり自虐しているとシャルに怒られますよ」
「自虐じゃないから問題無いな。細かい事を気にするのは止めた」
「細かくない気がしますけど」
「ラウラは今更ヴォーダン・オージュのことや生まれの事を気にしないだろう。それと同じ事だ」
最初はあれこれ悩んだが、最近は便利な身体という事で納得する事にした。よくよく考えれば復讐が出来ればそれで良いのだから、別に不便という事は無い。
更にしばらく泳いで本土に戻った後、少し勿体ないと思うがミネラルウォーターで軽く身体の塩分を落としてからタオルで身体を拭いてスーツに着替え直す。
「これからどうするかな?一夏の所には明日行くからこの後の予定は無いのだが」
「なら所長、行きたい所があります」
「何処だ?」
「ガイドブックに載っていた店です。ケーキがおいしいと、あと種類も豊富らしくて」
「本当に好きだな。まあいいさ、場所は分かっているのか?」
「抜かり無く」
たぶんボヌゥールに地図を入れてきているんだろうな。とりあえずタクシーを拾ってラウラの言う店までやってきた。
それから30分後、オレ達二人はテーブルの下でうつぶせになりながらケーキを食べている。
『どっちが疫病神だと思う?おっ、結構旨いなこのモンブラン』
店内にはオレ達の様に伏せて震えている客と従業員、そして顔をマスクで隠して銃器を持った3人の男達が居た。男達の傍には札束がはみ出している鞄が転がっている。
『私の所為か?前回もケーキを食べてたら襲われたしな。むっ、甘すぎるな』
外から警察が拡声器で投降を呼びかけている。
『ほれ、紅茶』
テーブルの上からポットを回収して空になったカップに注いでやる。
『ありがとうございます。それにしてもよく日本で銃なんて手に入れましたよね。持ち方からしてなっていませんが』
『だよな~。というか逃走用の車の故障で店に立ち籠るってどうなんだろうな?』
オレも自前のコーヒーを格納領域から展開して飲む。
『ケーキも食べ終わった事だしそろそろこの茶番も終わらせましょう。奥の二人は私がやるので所長は手前のリーダー格を』
『仕留めたらすぐに裏口から逃げるぞ。監視カメラに顔を映さない様に気をつけろよ』
『了解です』
通信を切ると同時に今までケーキが乗っていた皿とカップを銀行強盗共の顔面目掛けて投げつけると同時にテーブルの下から走り出す。驚いて咄嗟に腕で顔を守っている所に容赦する事無く全力で股間に蹴りを入れる。ラウラは右側に居た男の顔面にドロップキックを決め、そのまま左側に居た男の顔面をカーフ・ブランディングでテーブルに叩き付ける。行動不能になった所でテーブルクロスを使って3人の両腕を縛って外に向かって蹴り飛ばす。
「オレ達が壊した分だ。釣りは取っておけ」
30万ほどの現金を置いて裏口から逃げ出す。
「ああもう、ちくしょうが。なんでいつも面倒事に巻き込まれるかな」
「今まではともかく今回は完全な偶発です。諦めて下さい。それで、これからどうします?」
「これ以上面倒事はご免だからな。ホテルに帰って設計でもやるさ。ラウラはどうする?」
「私が疫病神かどうかの確認の為にもう一件行って来ます」
「ああ、まあ、頑張れ」
気合いを入れて何処かへと去って行くラウラを見送る。あいつ、自分の仕事がオレの護衛だという事を覚えているのか?別に一人でも大丈夫だが。
ラウラと別れて10分後
「なんでお前とオレはお茶を飲んでるんだ、レイン?」
日本では珍しいオープンテラスがあるカフェの向かいの席には半年程前に殺し合ったばかりのレインが座って紅茶を飲みながらケーキを食べている。
「こんな街中で殺りあうわけにはいかないでしょう?あと、今日は非番だから」
まあこんな街中で殺し合いをするほど、オレは馬鹿ではないし復讐に囚われている訳では無い。無論、チャンスがあれば殺したいが、周りを巻き込んでまでやると色々と面倒事が発生するので自重はする。内心では今すぐにでも殺してやりたいのだが、いつか殺せれば良いと割り切る。
「前も思ったんだが、テロリストに非番なんかあるのかよ?」
「一応あるわよ。命令が無いときなんて1ヶ月単位とかで非番だから短期のバイトとかしてたりするわよ」
「……お前って世界の裏で暗躍しているテロリスト集団の幹部なんだよな?」
「幹部かどうかは知らないけど、そこそこ上の方には居るわよ」
「何顔バレしそうな事やってんだよ!?」
「そこはほら、私が優秀だから?」
「そこで疑問系なのか!?」
「たぶん優秀なはず。盗んで来たDNAを元に色々と掛け合わせて作られたから才能はあるはず?」
「おい、何処かで聞いた事のある設定だな」
「戦闘に関しては優秀だし、潜入工作もそこそこ出来るし、うん、優秀なはず」
「ちなみにアレクシアは勉強とか料理とか礼儀作法とかも完璧だったぞ」
「……優秀なはず!!」
「ああもう良い。もう良いからそんな涙目で震えるな。優秀だよ、腹が立つ位にお前は優秀だよ」
こうして話していると殺し合っている時とのギャップが激しすぎる。なんと言うか、サンクチュアリの面子と同じく純粋だけど不器用な人物だと感じる。出会いがアレでなければ、いや、アレクシアさえ殺されていなければ一緒に笑っていられたと思う。もう過ぎた事だけどな。
「何でオレが仇を慰めなければならないんだよ」
「なんかごめんなさい」
「もう良い。何も言わないでくれ。もう今日はゆっくりさせてくれ。何で轡木理事長との会話が一番癒されなくちゃいけないんだよ」
「轡木?ああ、IS学園の。結局IS学園に通うのね」
「そりゃあねえ、一応IS学園に通っても問題無い年齢だし」
「知識に操縦技能、設計、整備、どれをとっても教わる事が無いのに?」
「否定はしないが、若さから来るひらめきという点では若者も馬鹿には出来ないからな」
「貴方も若いでしょうが」
「精神的、能力的には既に成人を超えているからな」
「ついでに普通の人間も超えてるでしょう?」
「そうだけど。あまり言いふらすなよ」
「否定しないのね」
「対物ライフルで吹き飛ばされてから半年で普通に生活してるのを見れば分かるだろうが。半分以上、人間を辞めてる。まあラウラも普通の人間とは言い辛いし、ニコルもサイボーグだからな、特に気にする様な事ではない」
「所属しているIS操縦者の半分以上がまともな人間じゃないのね。こっちより珍しいわよ」
「そんでもって所属員の3割がオレに対して借金している状況だな」
「……本当に珍しいわね」
レインが頭を抱えているが、オレが頭を抱えたい。店員にコーヒーのお代わりを注文して空間展開モニターでサンクチュアリで留守番をしているユウダイの報告書を読む。先日の丸一日を使った記者会見によってサンクチュアリの前に大勢の人間が集る事は無くなったようだ。地下からの侵入は増えているようだが、問題は無いようだ。拡張の方も順調に進んでいる。戻る頃にはドッグが完成しているだろう。報告書を読み終えた後は最近増えた趣味の一つである読書を始める。
「何を読んでいるの?」
「部下の書いたSF小説。恒星間での物や人の移動が普通になった世界での大商人を目指す少年の話だ。ちゃんとした知識を持った奴が書くと此所まで面白いとは思わなかった」
「ふぅ~ん。それで今はどんな所なの?」
「ふむ、今は初期に中古で買った宇宙船が宇宙海賊によって沈められたので新しい船をどうするかを仲間と共に相談している所だな」
「成る程ね。新しいのを建造するか、もしくはまたもや中古を買うか」
「いや、海賊に殴り込みを掛けて掻っ払うらしい」
「……随分アグレッシブね」
「ああ、レーダーに引っかからない様に宇宙服とアンカーガンだけで海賊の船に取り付いて宇宙船の中に毒ガスを注入して皆殺しにしようとしている」
「私達でもそこまでしないわよ!?」
「小説だからな。多少は多めに見た方が良い。それにここまで過激にするのにもちゃんと訳がある。説明するのも面倒だから読んでみろ。ネット小説のサイトに投稿してるから」
「アドは?」
「これだ」
モニターの一部を切り離してそこにアドレスを記入して投げ渡す。それを受け取ったレインは自分の空間展開モニターに合わせてサイトにアクセスする。
「へぇ~、最近はこういうジャンルが主流なのね」
「うん?逆ハーのことか?オレとしてはどうでも良いジャンルだな。ISが登場する前はハーレムものが多かったが」
「枯れてるわね。以外と戦史物も多いわね。どういうジャンルが好み?」
「古くさい物の方が好きだな。あとは、宇宙を舞台にしている物もだな。松本零士の作品なんて特に好きだな」
「999だったかしら?」
「キャプテン・ハーロックやクイーン・エメラルダスなんてど真ん中だな。実写版の映画は最低だったが」
「実写版はハズレばかりね。有名人とかを俳優にしたり声優にするよりももっと他に気を使う場所が多いでしょうに」
「それには同意する。せめてセリフ回し位は完璧にして欲しかった」
「聞いててイライラするのよね、あれは」
「映画に集中出来なかったからな」
その後もくだらない話をしながらちょくちょく追加の注文をしていると何やらケンカらしき声が聞こえて来た。
「気にならないの?」
「気にすると面倒事に巻き込まれそうだからな。さっき銀行強盗に巻き込まれたからな」
「ああ、ネットニュースにあがってたわね。二人組の子供の男女が店に立てこもった銀行強盗3人を一瞬で捕縛して去って行ったって」
「男の方はオレ、女の方はお前の妹に当るかもしれない子だ」
「あらら、知らない所で妹が出来てたなんて。お父さん、なにやってるんですか」
「誰がお父さんだ」
「冗談は置いておいて、あの子、助けてあげなさいよ。今時珍しい頭の軽そうな男に言い寄られてるから」
レインが指を指す方に顔を向けると、赤い髪でボーイッシュな格好をした女の子がレインの言う通り頭の軽そうな男に言い寄られていた。街中で女性を口説くのはまあ理解できるが、相手が嫌がっている時点で止めないのと服のセンスはオレには理解出来ない。だらしない格好で同性からしても不快に感じるにやついた顔で女性を口説くのはどうなんだろうな。ラウと比べるとどちらを選ぶかは……まあ頭の軽い女なら話は別か。このまま放置しておこうかと考えていたのだが、男の方はかなり短気だったようだ。手を挙げると判断した所で飛び出し、振り上げた腕を掴む。
「あぁん?なんだてm」
話す価値も無いと判断して周囲から見えない様にナイフを男に突きつける。女の子には此所から去る様に手を振っておく。少し驚いた顔をしながらも頭を下げて走り去って行った。うん、普通に良い子だな
「何が言いたいか分かるよな」
小声で男に囁きながら少しだけ力を入れて軽く肌に刺す。
「こ、こんなことして、ただで済むと」
「オレの顔に見覚えは無い?多少はニュースで騒がれてるはずだけど」
じっくりと記者会見の時の様に作り笑いを見せてやると、どうやら知っていたのか顔を青ざめる。
「素直に引いた方が良いぞ。ここ、カメラに映ってる。女性を殴っていたらどうなっていただろうな?ちなみにこいつは隠れている。面倒は起こしたくない。後始末が面倒だからな」
そう言いながらナイフを持つ手とは逆の手に万札を持って男に握らせる。
「お互いこれで手打ちにしよう。断るなら」
ナイフを少しだけ動かしてやる。
「わ、分かったから。分かったから、それじゃあこれで」
走り去る男を見送ってからナイフを格納してレインの元に戻る。
「これで良いのか?」
「ちぇ~、さっきの女の子と甘酸っぱい雰囲気を作ってくれるかと思ってたのに」
「残念だが興味が無いな。少なくともお前を殺すまでは」
「あら、お姉さんに首ったけ?」
「冗談は、いや、殺したいという意味では首ったけだな」
「ふふふ、良い男にそれだけ執着されるなんて女冥利に尽きるわ。さて、そろそろ私は行くわ。次に会うのはどこからしね」
「出来れば戦場が良いな。お前を殺さなければ一歩も歩けそうにない」
「貴方がIS学園に通う様になればちょっかいをかけに行ってあげるわ。それまでに強くなっておきなさいよ。それから今日は楽しかったわ」
「……オレもだよ。お前がアレクシアさえ殺していなければ」
「それ以上は無しよ。もう過ぎてしまった事よ」
「そうだな。オレはもう少しここに居る。支払いはオレがやっておく」
「そう、ありがとうね。それじゃあ、また」
「ああ、またな」
立ち去って行くレインはすぐに人ごみに紛れて何処に行ったのかが分からなくなった。そんな所を見るとやっぱり優秀な奴なんだと実感する。
『所長』
しばらくするとラウラから通信が入った。
『やはり私は疫病神かもしれない』
頭を抱えながら支払いを済ませ、後処理の為にオレも人ごみに紛れる。
side out