IS インフィニット・ストラトス 獣の指揮者   作:ユキアン

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やっと更新出来た。
早く原作に行きたいけどこのペースだとまだまだかかりそう。



第4話

 

 

side ジェイル

 

 

リリィ(リリアーヌの愛称。互いに愛称で呼び合う位には仲が良くなった)との会談から5日、ようやくテストパイロットが本社に到着するとの報告を受けてアレクシアと共に本社にやってきた。受付で件のテストパイロットは社長室に居ると聞き、そちらまで足を向ける。

 

「失礼します」

 

部屋では既に社長がオレを待っていたのだが、肝心のテストパイロットが予想外だった。

 

「社長、まさかそちらの彼女が」

 

「そうだ。お前に全て任せる」

 

頭が痛い。そんなにオレの邪魔をしたいのか?

 

「あ、あの、シャルロットです」

 

自己紹介してくるテストパイロットの方に顔を向ける。

 

「ああ、私が直属の上司になるジェイル・デュノアです。これからよろしくお願いします」

 

とりあえず、こちらも自己紹介をして握手の為に手をテストパイロットである少女に差しだす。そう、少女なのだ。どう贔屓目に見ても同年代の、もしかするとオレより年下の少女なのだ。幾ら何でも不味いだろうが。主に学業やら保護者やらが。どこから連れてきたんだ?あっ、ちなみにオレは普通にスキップで卒業してたりする。

握手をすると、この歳にしては若干皮が硬い感じがする。少なくともある程度の苦労をしてきているのだろうな、と思いながらこれからどうするか思考する。まずは、適性検査をして、それからIS(アンジュ・デシュを隠す為にアンジュ・デュ・ヴァン、風の天使と命名)に乗せてからメニューを相談しながら組むしかないな。それでもかなり苦労してもらう事になりそうだ。

 

「早速で悪いが研究所の方に向かおう。急だったので契約書などを用意持って来れていないんだ」

 

色々と確認したい事もあるのでひとまずは社長室から出る様に促す。

 

「それでは社長、失礼します」

 

「待て、ジェイルだけ残れ」

 

部屋を出ようとした所で社長に呼び止められる。

 

「アレクシア、彼女に業務内容を説明しておいてくれ。後で連絡する」

 

「わかりました」

 

アレクシアに少女を任せる。これで問題は無い。

 

「それで社長、どのようなご用件でしょうか?」

 

「トライアルの日程が決定された。三ヶ月後の8月21日だ。お前の方のプロジェクトの機体のトライアルも同時に行なわれる。大統領が直々に来るそうだ。身辺整理をしておけ」

 

余命宣告みたいだな、身辺整理の辺りが。だが、そんなのはお断りだ。以前のオレならともかく、今のオレにはやらねばならない事がある。だがトライアルか。ちょうど良いな。そのトライアル、利用させてもらおう。

 

「分かりました。所で話は変わりますが、彼女しか居ないのですか?テストパイロット」

 

「……事情がある。詳しくは本人に聞け。以上だ」

 

「……そうですか。失礼します」

 

社長室を出て考え事をしながらロビーに向かう。アレクシア達はおそらく荷物を取りに行っているはずだ。追いかけたりするより、待っていた方が良いだろう。ロビーのベンチに座って待っていると、早歩きで向かってくるアレクシアとそれを追いかける様に走ってくるシャルロットが見える。

 

「ジェイル、すまないけどタクシーで研究所に戻ってくれるかしら」

 

「一体どうした?」

 

「事情は後で話すわ。私はシャルちゃんを連れて買い物に行ってくるわ」

 

いきなりの事で事情が掴めないがそれが必要なのだろう。なら、オレが言うことは無いな。

 

「分かった。あまり遅くならな……待て、シャルロット。まさか、荷物はそれで全てなのか?」

 

シャルロットが持っている荷物を見て疑問が浮かび上がってくる。

 

「これが彼女の全財産だそうよ」

 

これが全財産?両手で持っている大型のスポーツバッグ一つが?

 

「アレクシア、こいつを預けておく」

 

財布を取り出して殆ど使う機会がないプライベート用のクレジットカードをアレクシアに手渡す。これから色々と苦労をしてもらう事になるんだ。これ位は払わせてもらわないとこちらの心情に悪い。

 

「少し遅くなるわよ」

 

「夕食までに戻ってこい。ユウダイやラウが歓迎会を開くとか言っていたからな」

 

「了解。行くわよ、シャルちゃん」

 

シャルロットを引きずる様にして駐車場に向かうアレクシアを見送ってからこれからの事を考える。

 

「研究所まで行ける金がなくなったな」

 

仕方なく走る事にする。

研究所まで20km程、1時間半程で帰れるか。

 

 

side out

 

 

 

side シャルロット

 

 

「すみません、こんなに色々と買って貰っちゃって」

 

「気にしなくて良いわよ。全部ジェイルのお金だし、そんなに高い物でもないし」

 

私から見れば十分に高い物だったんだけど。それに数も多いし。車にさっき買った服や小物を積んで補助席に座り、アレクシアさんが車を研究所に向けて走らせます。

 

「それにしてもあの社長、まさか隠し子が居たなんてね。後でジェイルにもちゃんと話すのよ。私はあなたの妹だって」

 

「……はい」

 

お母さんの話でしか聞いた事のない兄。最初に感じたのは違和感だった。お母さんに聞いた話とは違い、どこか薄っぺらい感じがする人だった。それはあの男にも言える。私と兄が似ているのはあの男と同じ色の髪だけ。これからちゃんと家族になれるのか不安になる。

 

「大丈夫よ。社長はともかく、ジェイルならシャルちゃんの事を受け止めてくれるわ。それに研究所の皆もそうよ。あそこに居るのは変人ばかりだけど、仲間意識がもの凄く強いわ。一週間もしないうちにあそこがシャルちゃんの居場所になっているはずよ」

 

そう言ってアレクシアさんが励ましてくれる。その笑顔を見ていると安心出来てくる。だからこそ聞いてみたい。

 

「あの、私の兄ってどんな人なんですか?」

 

「うん?ジェイルのこと?そうねぇ、初めて会った時は抜け殻だったかしら」

 

「抜け殻?」

 

予想外の言葉に首を傾げる。

 

「そう、もう生きる気力も何もかもを無くして倒れていた所を拾ったの。たぶん、放っておいたら死んでいたでしょうね」

 

「そんなに酷かったんですか!?」

 

「ええ、二度目に会ったときは別人と思う位に逞しくなっていたけどね。一年も経っていないのに遥かに成長して。それが一年と少し前の事よ」

 

「えっ?」

 

「私がジェイルに会ってまだ2年と少しよ」

 

ほんの少ししか見ていないけど、アレクシアさんと私の兄の間には確かな信頼があった。僅かな会話で互いが何を考えているのかが分かる位に。まるで何年も連れ添った夫婦の様に。

 

「まだ1ヶ月しか経っていないけど、研究所にいるスタッフの皆もある程度はジェイルの事を信頼しているわ。そうさせる位にジェイルは自分を大きく見せれる男よ」

 

「見せれる?」

 

「……一度抜け殻になった人間に中身を入れれるのは他人だけ。言ってしまえば依存しているのよ。時間が経てば依存は薄れていくけど、それには長い年月か他の依存対象を見つけなければならないの。だからジェイルは中身が薄い。最近になって少し厚くなったみたいだけど、それでも私が居なくなるか目標を達成した途端に世捨て人になってしまうわ。だからシャルちゃん」

 

私を見るアレクシアさんの眼は真剣だった。

 

「貴方は、ジェイルに取って依存し易い対象でもあるわ。一度ジェイルの懐に入れれば、ジェイルは表面には見せないけど確実に依存する。そして、持てる全ての手段を使って守ってくれる。貴方がジェイルを信頼して信用して力になっても良いと思ったときは依存されて、見守ってあげて」

 

「どうしてそんな事言うんですか。アレクシアさんが傍に居れば」

 

「私にはね、敵が多いの。最近はあまり見かけないけど、そろそろ居場所を嗅ぎ付けられて刺客が送られてくるか、堂々と軍隊が送り込まれてくるかしそうでね。私が傍に居てあげれる時間は少ないの」

 

敵?それも軍隊!?なんでそんなのに追われてるの?

 

「追われている理由は秘密よ。シャルちゃんまで狙われる可能性があるわ。それから、さっきのジェイルに関する話はシャルちゃんなりに考えて行動して。シャルちゃんが嫌なら依存される必要は無いわ。ジェイル自身から依存する様な事はあり得ないから、シャルちゃんの意思で全てが決まるわ。と言っても妹と知った時点である程度の保護は行なうでしょうけどね」

 

「えっと」

 

「まあ、簡単に言えばシャルちゃんが大人になって独り立ちする時まではジェイルは守ろうとしてくれるわ。なんだかんだで優しい子だから。でも、優先順位は良くても2位。ちなみに1位は私との約束。自分の命は4、5位?」

 

自分の命よりも大事な物を複数持っているって、そんなのはあまりにも

 

「そんなのおかしいですよ」

 

私にはそんな物なんて無い。有るとしても、それはお母さんの遺言である『幸せになりなさい』という言葉位。それも私の命を大事にするのが一番である物だ。

 

「抜け殻になった人とはそういう物よ。誰かに依存させないと自分の事は二の次。誰かに依存していても自分の事は2番。そんな悲しくて重いものなのよ」

 

悲しくて重いもの。確かにそうだ。助けてあげたい位に悲しい存在なのに、助けるには重過ぎて関わる事が出来そうにない。助けるには助ける側も全てを投げ出さなければならない。

 

「仲良くするのは良い。だけど、依存されるには覚悟を決めて動いて。じゃないと、二人ともが破滅を迎える事になる」

 

先程までと違ってその言葉はとても重く感じる。

 

「決めるのはシャルちゃんよ」

 

私はどうすれば良いのだろうか。

 

 

side out

 

 

 

 

side ユウダイ

 

 

「班長、37番のケーブルじゃ駄目みたいです」

 

「なら35番だ。それで駄目なら計算し直せ」

 

「班長、コンテナに使う装甲のサンプルが届きました」

 

「武装班の試射に使ってこい。データはしっかり取れよ」

 

「班長、所長が無理しすぎて倒れてます」

 

「医務室に放り込んでこい」

 

部下に次々と指示を出しながら手を休める事無く作業を続ける。

機体班の班長であるオレは、全体的な事を監督しながら個人の仕事であるパーツの作成を行なっている。現在はPICの小型化並びにバッテリーの容量増大を行なっている。

ジェイルが設計したADはISに比べると随分と大きい。ISが3m前後に対してADは7m、約2倍だ。その分エネルギーの消費も激しい上、被弾率も上昇。被弾する分シールドにエネルギーを回すと戦闘が行なえず、装甲を厚くする事で防御力を高めている。その分重量が増し、機動にエネルギーを取られるという悪循環を起こしている。それを改善する為にオレが行なっているのは先の2点以外にもあるが、ほとんどが小型化の作業だ。小型化しても性能が下がれば意味は無いので作業は難航している。それでも基礎フレームは既にPIC等の小型化が必須の状況になっている。

 

「班長、少し休憩してはどうです?疲れたままだと効率も下がりますよ」

 

オレの助手を務めているネリーに声を掛けられ、時計を見ると作業を始めてからそこそこの時間が経過していた。

 

「そうだな。少し休憩しよう」

 

「はい、コーヒーを入れて来ますね」

 

「いつも通り「砂糖とミルクをアリアリですよね」頼む」

 

硬くなっている身体を動かして解す。肩がバキバキッと音をたてる。まだ26なのに歳を感じてしまう。入社したての頃ならこんな事も無かったのだが。そんな風に過去を思い返すと今の自分は勝ち組なのでは?という疑問が浮かび上がる。

この若さで好きな仕事ができ、IS開発部門の班長という地位にも居る。大会社なだけあって給料も良いし、上司にも恵まれている。親友と言える奴も居るし、信頼の置ける部下も多い。これで隣に嫁さんでもいれば完璧な勝ち組だな。

やはりジェイルの話に飛びついて良かった。前の部署は最悪だったからな。

 

「班長、お待たせしました」

 

「おっ、ありがとう」

 

ネリーからコーヒーを受け取る。

 

「そういえば班長。聞きたい事があるんですけど」

 

「なんだ?」

 

コーヒーを啜りながら答える。

 

「班長って前の部署は何処だったんですか?」

 

「気になるのか?」

 

「はい。班長位に腕が立つ人なら噂位流れるはずなのに今まで聞いた事もありませんでしたから」

 

それはそうだろうな。左遷された身だからな。今の状況を考えると後悔なんて全く無いけど。

 

「入社当初はリヴァイヴプロジェクトの方に居たんだけど、上司との見解の違いから飛ばされて修理部門に3年程な」

 

「えっ?修理部門って確か社の備品が故障した時に」

 

「そう、あの修理部門。通称“ゴミ箱”の出身。他にも何人かが同郷で、ジェイルに拾って貰ったんだ。あいつには感謝しているよ。あいつは正当な評価をくれる。最初に会ったとき、あいつはオレがゴミ箱に送られる原因になった設計図を持って来た。そしてこう言ったのさ『コストやソフト面の事を一切考えていない。ゴミ箱に送られるのも当然だな』ってな」

 

あの時はかなり頭にきた。ただでさえゴミ箱で不満だけが募る毎日、そこに自分の欠点を子供に突きつけられた。頭にきて手元にあったコーヒーをぶっかけたのは後に反省した。まあ、これはオレの黒歴史なので話す必要は無いな。

 

「更にこう言うんだぜ『だが、それらを差し引いてもその才能を腐らせておくのは勿体ない。コストもソフト面での不備もこちらでなんとかする。お前はお前の才能を十分に活かせる職場に着きたいと思わないか?』てな」

 

「それで飛びついたんですね」

 

「いや、追い返した」

 

「え!?」

 

「完全に頭に来ててな。感情的に追い返しちまったんだよ」

 

はっはっは、と笑いながら答える。

 

「まあなんだ、落ち着いてから考えたんだよ。ジェイルが言った通り、オレの設計だと自分が手がけた部分しか巧くいかない。そうなるとオレの理想像とは大きく離れちまう。それ位なら多少は譲っても良いんじゃないかって。ゴミ箱で腐っている位なら、話を受けて周りの奴らに合わせるのも良いんじゃないのかって思う様になってな。後日、謝罪と共に勧誘を受けたんだよ」

 

「そうだったんですか」

 

「来てみると自重しなくても良い位のメンバーが揃っていたけどな。能力が高くて癖が強い奴ばっかだからな」

 

目の前に居るネリーもそうだ。開発者としての技能は低いが事務能力が高い上に細かい作業等を得意としている。ドジでおっちょこちょいだが、なぜかそのミスが良い方向にしか転ばない為に運命に愛された女性として崇められている。本人の知らない所で。

 

「そういうネリーは何処の部署だったんだ?」

 

「私ですか?私は営業の方からですよ」

 

営業からって、嘘だろう?

ネリーの額に手を伸ばし、反対の手を自分の額に当てて体温を測る。

 

「熱は無いみたいだな。ということはオレの聞き間違いか」

 

「失礼ですよ、班長」

 

非難の眼をオレに向けるネリー。オレが悪いのか?ここは多数決だな。

 

「全員作業を一時中断して集合」

 

作業を中断して集まったメンバーに向けてオレは事情を説明する。

 

「ネリーが以前所属していた部署を知っている奴挙手」

 

誰も手を挙げずに隣にいる奴らと確認しあっている。

 

「営業らしい」

 

「「「「「「嘘だぁぁぁぁぁぁーーー」」」」」」

 

やっぱそうだよな。

 

「わたし、営業の子に技術力で負けたの」

 

「僕もだ」

 

「オレも」

 

次々と膝を付いてうなだれていく部下を見て哀れになる。オレの隣に居る天然のせいで何人が再起不能に

 

「「「「「「まあ、いっか」」」」」」

 

ならなかった。タフだな、おい。時計を見るとそろそろ歓迎会の用意をする必要がある時間になっていた。

 

「はい、このまま食堂に移動。歓迎会の準備に取りかかれ。オレはジェイルを叩き起こしてくる」

 

「え?私の事は放置ですか!?」

 

ゾロゾロと食堂に向かう部下に紛れ込む。ネリーは放置する。

 

「ちょっと、待って下さいよ~」

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

side シャルロット

 

 

あの後、会話が無いまま目的地である研究所に到着した。居住区もあるらしくほとんどの職員がここで寝泊まりもしているらしい。それから最初に私が住む事になる部屋に案内される。部屋はワンルームでちょっとしたキッチンもある。

 

「はい、これが部屋の鍵。無くさない様にだけ気をつけてね。食事は時間内に食堂に行けば無料で食べられるわ。時間外でも自分で作る分には問題ないから。シャワーはロッカールームにあるのを使ってね。契約書とかが出来たか確認してくる間に浴びてくると良いわ。着替えは、そうねぇ」

 

アレクシアさんはポケットから懐中時計を取り出して時間を見る。

 

「今日買ったフォーマルスーツを着ておいて。一応は雇用契約をするんだからちゃんとした格好をしておいた方が良いから。それからちょっと早いけどコレも渡しておくわ」

 

手渡されるのは携帯端末だった。普通のよりちょっとデザインが変わっている感じがする。

 

「それはこの研究所内でのカードキーだったり身分証明に使われるから無くさない様にね。他にも地図とかも入っているから。もちろん普通の携帯としても使えるから。壊れたら私かネリー、後で紹介するからその人に言って頂戴」

 

「は、はぁ」

 

「それじゃあ、こっちの準備ができたら連絡するから」

 

そう言ってアレクシアさんは部屋を出て行ってしまう。とりあえずは荷物の整理をしよう。家具は備え付けの物があるからそれを利用すればいいよね。マグカップや紅茶を入れる為の道具をキッチンの棚に置く。服をクローゼットに入れて、下着とかをタンスに、まだいらないと思うけど今日買ったブラジャーもタンスに、タオルもタンス、パジャマ代わりのジャージもタンス、お母さんと撮った写真をベットの横に飾る。これと、首にかけているお母さんの形見のペンダントが私の全財産。お母さんとの思い出がある物は写真とこのペンダントだけで、他の物はあの男に全部処分された。私が持つ事を許されたのはこれだけ。だからこれだけは肌身離さずに持ち歩いている。

部屋の整理が一通り済んだので、とりあえず言われた通りにシャワーを浴びにいく。

携帯端末から地図を呼び出して歩いていく。ロッカールームにあるのを使う様にと言われていたのでロッカールームに歩いていく。途中、もの凄い音が漏れている部屋があった。地図を見ると第2格納庫となっている。おそらく実験でもしているのだろうと思いそのままスルーする。

 

「あっ、あった。ロッカールーム」

 

第2格納庫から少し進んだ所にある第1格納庫の近くにロッカールームがあった。その時、私は地図をちゃんと確認しておくべきだった。ドアを開けて中に入ろうとした私の視界に入ったのは

 

「うん?」

 

「え?」

 

頭をタオルで拭きながらこちらを向いている下半身にタオルを巻いただけで上半身裸のジェイル……ぃちゃんだった。そのまま私達の動きが止まる。その時、遠くで誰かの話ご「退避ーー!!」爆発音が聞こえてきたと同時に振動が起こった。

 

「危ない」

 

その振動で私はロッカールームに倒れ込みそうになった所をジェイル……おにいちゃんが抱きとめてくれた。もの凄く引き締まっていて、お母さんとは違って筋肉が硬いのに、何故か安心出来た。そして、安心したのが失敗だった。さっきの場面を思い出して、自分の状況が鮮明に想像出来てしまった。

殆ど全裸の男の人に抱きしめられてる!!

 

「今の声はセイヤか。早急に被害を確認する必要があるな」

 

ジェイル……おにいちゃんは恥ずかしくもないのか普通に私から離れて着替え始める。もちろんその間、私は他の方を向いていた。

 

「ちっ、ドアが歪んでいるか」

 

着替え終わったジェイル……おにいちゃんはロッカールームから出ようとしてドアが開かない事に気がつく。もしかして閉じ込められちゃった?焦る事無くジェイル……おにいちゃんは携帯端末を取り出してどこかに連絡を取り始める。

 

「被害報告、それからロッカールームに閉じ込められた、人を回せ。ちっ、そこまでか。分かった。できるだけ早くしてくれ」

 

話からするとしばらくの間、ここに閉じ込められるみたい。

 

「はぁ、2、30分は助けが来ないらしい。災難だったな」

 

そう言って床に座り込んでしまう。というか話し方とかが全然違う。最初に会ったときの違和感なんかも無くなって、こっちが本当の姿なんだってはっきりする。呆気にとられてしまった私を見てジェイルおにいちゃんが不思議そうな顔をして、すぐに原因に辿り着いたのか苦笑しながら話してくれた。

 

「こっちがオレの素だ。社長やら外に出るときは猫を被ってるだけだ。時間もある事だし色々と説明しよう。その前に、ようこそ我らがサンクチュアリへ」

 

「サンクチュアリ?」

 

「ここの研究所の名前だ。君が乗るIS、アンジュ・デュ・ヴァンに関連づけた名前だ」

 

「風の天使、それが私が乗るISの名前なの?」

 

「ああ、性能では現時点で発表されているISの全て凌駕する。現在は武装以外は完成している。まあ微調整があるから完全とは言えないんだが、ISに慣れるにはちょうど良いだろう」

 

え?全てのISを凌駕している?さすがにそんな事はあり得ないよね。

 

「無論ブリュンヒルデ対策、というよりは零落白夜対策は完璧だ。量産を前提にしながらもモンド・グロッソでの優勝を目指せる機体だ」

 

「うえええええええ!?それって責任重大なんじゃ」

 

「気楽に乗れば良い。駄目そうならアレクシアに鍛えてもらえばどうとでもなるさ」

 

「気楽にって言われても無理だよ。今まで触った事も無いのに」

 

「と言われても他に人員が居ない。大丈夫だ、オレ達を信用しろ。君なら出来る」

 

そう言って頭を撫でられる。ジェイルおにいちゃんの手はごつごつしていて、不器用な撫で方なはずなのに何故かお母さんを思い出してしまった。そう思った途端に涙がこぼれた。

 

「泣く程嫌だったのか」

 

どこか寂しそうに手を退けるおにいちゃんに首を横に振って答える。

 

「このまま撫でていた方が良いか?」

 

今度は首を縦に振って答える。

おにいちゃんは何も言わずにまた頭を撫で続けてくれた。私が泣き止んでもそれは続いた。

 

「もう大丈夫。ごめんなさい、急に泣いたりしちゃって」

 

泣き止んでから少しして自分が嫌になった。私はまだ兄妹であることを話していない。なのにいきなり頼ってしまった。

 

「気にするな。オレの配慮が足りなかっただけだ」

 

違う、それじゃあ駄目なの。

 

「違う、そうじゃないの。私が悪いの。私はまだ頼っちゃいけなかったのに」

 

また涙がこぼれてくる。先程とは違い今度は恐怖からだ。アレクシアさんはああ言っていたけど、もし拒絶されたら。あの温もりがもう手に入らないと思ったら怖かった。

 

「何を言っている?君はまだ幼い。誰かに頼ってはいけないはずは無い」

 

「駄目なの。私はまだ、言ってないから」

 

「言っていない?」

 

「私は、私の名前は、シャルロット・デュノア」

 

言った。本当はちゃんとした状況で言うはずだった。だけど、今言わなければならなかった。

 

「……デュノア?まさか」

 

「私は、あの男の愛人の娘で、貴方の妹なの」

 

私は下を向いていて、おにいちゃんがどんな顔をしているのかも分からない。

 

「……そうか。妹なのか」

 

「……うん」

 

それからおにいちゃんは何も話さなくなった。それがアレクシアさん達が助けに来るまで続いた。

 

 

 

後から聞いた事だけど、あのロッカールームは男性用だったらしく女性用は向かい側だったらしい。

 

 

side out

 

 

 

side ジェイル

 

 

ロッカールームから自室に戻ったオレはベッドに身を投げる。

 

「オレに妹か」

 

今まで一切聞いた事が無かったとすると隠し子だろう。それにしてもよく母からも隠れて愛人との子を作れたものだ。知られればどうなること……まさか厄介払い。だとすれば、いや、何故こちらに送り込む?それに母親の方はどうしたんだ?まさか人質?違う。あった時に持っていた荷物が全財産というのなら亡くなっているのか。それを引き取って責任を全部こっちに丸投げにしたのか。

 

「クソが!!」

 

苛立から枕に拳を突き立てる。

自分の子を道具扱いにする男の血が、自分の子に何の関心も持たない女の血が流れていると思うと自分を殺したくなる。

もちろん思うだけだ。やるとしてもアレクシアとの約束を達成してからだ。これ以上は考えても無駄なので思考を切り替える。というかどうやってシャルロットと付き合っていけば良いのか分からん。とりあえず誰かに相談してみるか?だが誰に?

その時、携帯が着信音を鳴り響かせる。画面にはリリアーヌと表示されている。

 

「リリィか。ふむ、相談しにくいな」

 

大会社の社長の隠し子。十分にスキャンダルな事だ。さすがに話せないな。これ以上待たせるのも失礼なので携帯を手に取る。

 

「お待たせして済みません」

 

『いえ、それよりもその話し方は』

 

「念には念を入れる必要がありますから。そちらの方は大丈夫でしょうか」

 

『なるほど。ええ、傍にはオリヴィエだけよ』

 

「それなら良かった。それで、何か用か?」

 

『少し気になる情報が入って来たの』

 

このタイミング、シャルロットの事しか無いな。

 

「生憎研究所に籠っていてね、何かあったのか?」

 

『デュノア社長がここ数日の予定をいくつかキャンセルして姿を消していたみたいなの。今、もの凄く注目が集まっているわ』

 

やはりか。だが、姿を消したというだけで詳細は掴めていないようだな。それほどまでにシャルロットとその母親に関して細心の注意を払っていたのだろう。

 

「そんな事が?態々すまないな。こちらでも注意しておく」

 

『気をつけて。何人かがサンクチュアリの方にも向かっているそうよ』

 

「それは確定情報なのか」

 

『ええ』

 

不味い。シャルロットの事がバレるのも不味いがADがバレるのはもっと不味い。

 

「少し待ってくれ」

 

一旦リリィとの電話を置き、内線電話の回線を館内放送に切り替える。

 

「全職員に告ぐ、パターンイエローアルファ。繰り返す、パターンイエローアルファ。ゴム弾、麻酔弾での発砲を許可する。状況によっては班長の許可で実弾の使用も認める。情報を漏らすな」

 

これで情報が漏れなければ良いのだが、対応が遅れたのが辛い。幾らかの情報の漏洩があったと考える必要がある。

 

『忙しくなりそうね』

 

「ああ。当分は情報の秘匿を優先する事になりそうだ。ただでさえ予定外な事が起こっているというのに」

 

『予定外?』

 

「アンジュ・デュ・ヴァンのテストパイロットが思ったよりも若い、というより同年代だった」

 

『……私の方から抗議しましょうか?』

 

「いや、逆にコレをチャンスと捉えている。性能で勝り、搭乗者を選ばないとなれば評価はうなぎ上りだ。それに、こんなことでリリィに借りを作る訳にもいかないさ」

 

『コレ位の事で借りになんてしませんよ。私はそれ以上の恩を受けているのですから』

 

「気にしなくて良いのだがな。今日は連絡をくれて助かった」

 

『本当はお食事に誘うつもりだったのですが、直前でこのような事を知ってしまったので次回という事で』

 

「そうだな。2週間もすればある程度は落ち着くだろう。その時はこちらから誘わせてもらおう」

 

『ええ、楽しみにしています。それではまた』

 

さて、コレでやる事が増えてしまった。情報操作に情報の秘匿、それからレストランを調べる必要がある。くそ、どうしてトラブルがこうも続くのだろうな。めんどうな。というか、結局シャルロットの事をどうするかが決まっていない。こうなれば直球でいくしかないな。

 

 

side out

 

 

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