side シャルロット
「だからオレは家族とどう接すれば良いのかが分からない。教えてくれ、家族とはどんなものなんだ?」
おにいちゃんの話を聞いて私は後悔した。あんな男でも誰かを側に置いていると思っていたけどそれは間違いだった。おにいちゃんは私なんかよりも辛い人生を送って来ていた。
私にはお母さんが居た。優しくて、温かくて、時々怖くて、愛してくれたお母さんが。けど、おにいちゃんには誰もいなかった。どれだけ辛くても、どれだけ悲しくても、誰にも手を差し伸べられずに、誰にも手を伸ばせずに、最後にはとうとう壊れてしまった。アレクシアさんとの約束の為に壊れた破片を集めて継ぎ接ぎの様にして再び立ち上がりはしたけれど、やっぱり人として大事な部分が無くして、もしかしたら最初からなかったのかもしれない。
私はなんと言っていいか分からずに黙り込んでしまった。
「やっぱり、こんなことを言うべきではなかったか?今なら全てを忘れて「それは駄目!!」……そうか、オレも嫌だな。だが、どうすれば良い?」
「そんなの私にも分からない。分からないけど忘れるなんて無理だよ。私は、私はもう家族と別れるなんて嫌だよ」
「……今日会ったばかりのオレを家族と言ってくれるのか」
「お母さんに聞かされた事が有ったから。私には会えないけどおにいちゃんが居るって。それにロッカールームで頭を撫でられた時、なぜかお母さんを思い出してそれが無くなるのが怖くて」
話しているうちに、またあの時の様に涙がこぼれて来た。そんな私を見て、おにいちゃんは同じ様に頭を撫でてくれた。
「お前がそれを望むのなら、オレは傍に居てやる。お互いどうすれば良いか分からないのなら、これから分かっていけば良いさ」
私はそれに頷いて答える。
side out
side ジェイル
何故こんな状況に陥った?とりあえず一旦落ち着いて考えよう。シャル(とりあえず愛称で呼んで欲しいと言われたので)を慰めてから色々と話をして、時間も時間だったから部屋に帰して、マグカップを片付けてから一度所長室に戻り報告書に眼を通して、部屋に帰って来た。そうしたら何故かシャルがオレの部屋にパジャマ姿の枕持参で居た。そのまま上目遣いで
「あの……迷惑じゃなかったら一緒に寝て欲しいんだけど」
と言われたら、兄としては許可を出すしかないだろう。だけどな
「なんで腕に抱きつくのかね」
一緒にベッドに入るとオレはすぐに眼を閉じる。シャルが話をしに部屋に来るまでに一度寝ていたのであまり眠いとは感じないが、すぐ隣で起きているとシャルが眠れないだろうと思い、寝たふりをする。しばらくの間、隣からごそごそと動く気配を感じていると、左腕に圧迫感を感じる様になった。簡潔に言えば抱きつかれた。しかも、すぐ後にシャルの寝息が聞こえて来た。
今日一日だけで色々と面倒なことが起こったからな、疲れたんだろう。
そう心では納得するも抱きつく必要性が全く分からない。言ってはなんだがオレも一応男でそれなりに性欲が出始めているんだが。まあ手を出すつもりは一切無いけど。
それにしても壊れた時と比べると随分環境が変わったものだな。1人だったオレの周りに37人の部下と1人の恩人、1人の友人に1人の家族が出来た。
幸運だ。
怖い位に幸運だ。
だからこそ恐ろしい。
これ以上は駄目だ。これ以上抱えればオレは歩けなくなる。
危険な橋を渡れず、綱渡りをするにも命綱を求め、目的の為に自分を踏み台に出来なくなる。そうなったらオレは終わりだ。オレを形成する根幹が崩れる。
また歩けなくなる。それはとても怖い事だ。歩けなくなればまた全てをなくしてしまう。ゴールに辿り着くまでは歩かせてくれ、神よ。
「さて、これが引き返せる最後のチャンスだシャル。この契約書にサインしたと同時に世界をっておい!!最後まで聞いてからサインしろよ」
「私達は兄妹で家族なんだよ。もう、離ればなれになるのは嫌」
翌日、昨日は色々と忙しく出来なかった契約を朝食が済み次第やる事にして、サンクチュアリの真の姿も話し終えて契約書を渡した。そして、最後の警告をしている途中、何の躊躇いもなくシャルは契約書にサインしてしまった。
「なんでここに集まる連中はこんなのばっかりなんだ?スタッフ全員、一人一人に契約の際に言ってるんだけどな。このセリフを最後まで言えたの7回しか無いんだぞ」
「それだけ魅力的なんでしょう。世界に疑問を問いかけて、それを正そうとするのが」
少し現実を見た方が良いかもしれないな。世界はそこまで綺麗じゃない。
「初めての回答だな。殆どの回答が『おもしろそうだから』、次点が『給料が良かったから』、3ページ目に給与が書いてあるから見てみろ」
契約書を開いて指定された部分を見たシャルは一度目を擦ってから、気合いを入れ直してもう一度見ている。
「うええええぇぇぇ!?こんなに!?絶対貰い過ぎだよ」
「他のテストパイロットもそれ位は貰っている。それどころかシャルの場合は年齢の事もあってそれでも減っている位だ。ちなみに他のスタッフもそれ位、班長はそれにプラス10%だ」
「だからって年収51038ユーロなんて」
「ISに関わるとそれ位になるんだよ。それに加えてウチは守秘義務が多くてな。ライバルであるリヴァイヴプロジェクトの方の平均年収は46342ユーロだ」
オレの給与は……内緒の方向で。貰い始めたのは活動を始めた2年前から、昨日シャルが使った分は800ユーロ程で資産の1%も減らなかったとだけ言わせてもらおう。
「それはさておき、これからの予定を説明するから落ち着け」
「あ、うん」
「これからシャル用に合わせたISスーツを作る必要があるから採寸を行なってもらう。既に医務室に武装班のイルヴァが待機してくれている。要望があるなら彼女に伝えてくれ。それが終わり次第、今度は機体班のユウダイとソフト班のラウから会議室でISに着いてのレクチャーを受けてもらう。それが終われば今度は体力測定をアレクシアと共に行なってもらう。終わればそれで今日は終了だ」
「はい」
「それから一つだけ。死ぬな」
「え?」
「死ぬな。以上」
混乱しているシャルを放置してダッシュでロッカールームに向かう。今日の仕事は昨日発案した地下試射場の建設の為の視察及び図面引き、並びに補強工事だ。シャルの無事を祈りながら今日も仕事に精を出す事にする。
side out
side シャル
逃げる様に出て行ったおにいちゃんを見送り、とりあえず指示された通りに動く事にして医務室に向かう。携帯端末の地図を見ながら歩いていき医務室に辿り着く。
「失礼します」
「イルヴァ。待ってた。来て」
医務室には私より少し背の高い眼鏡をかけた赤毛の女性が待っていた。
「服脱ぐ」
片手にメジャーを持ちながらイルヴァさんに服を脱がされる。
「何か希望、ある?」
手早く身体のサイズを測られながら希望を聞かれる。
「希望ですか?」
「色とか」
「色は、黒が良いです。デザインとかは出来るだけ露出が少ない方が」
「分かった。これで終わり。ばいばい」
僅かな時間で身体のサイズを全て測られ、それを空間展開型のキーボードで打ち込んでいくイルヴァさんを見て慣れているなぁ~、と思う。最後に手を振られながら医務室を後にする。
次は機体班のユウダイさんとソフト班のラウさんとアンジュ・デュ・ヴァンの説明を受ける為に会議室に向かう。
会議室には既に二人の男性が楽しそうに談笑していた。二人は私に気がついたのか談笑を止めて私に向き直った。
「はじめまして、オレはユウダイ・タグチ。機体班のチーフをやっている」
「僕はラウ・リヴァロル、ソフト班のチーフだよ」
「はじめまして、シャルロット・デュノアです」
「「デュノア?」」
やっぱりそういう反応になるよね。
「あの、ここの所長のジェイル・デュノアの妹です」
「ああ、成る程。君が社長の隠し子か。うん、ここではそんな事気にする人は居ないから気にしなくていいけど、外の人が居る時は母親の方の性を名乗る様にだけしておいてね」
「それにしてもジェイルと似てないな。あいつも君位に子供っぽさを出せば良いのに」
「愚痴は置いておいてヴァンの説明に移ろう。そっちの席に座って」
席に着くと同時に目の前に空間展開型のモニターが展開される。
「これがシャルロットちゃんが乗るサンクチュアリ製のIS、アンジュ・デュ・ヴァンさ」
「世にも数少ない全身装甲の機体だ。性能は現在発表されている機体全てを凌駕している最強の機体だ」
モニターに映し出されたISは一般のISとは違い人型をしていた。全体は青色を基調としていて背中には全長より大きな薄い黄色の4対8枚の翼を広げている。本当にお話の中の天使を機械で表現したかの様な綺麗なISだった。
「まだ特殊兵装が完成していないからフェイクパーツで完成している様に見せているだけだが、とりあえず動かす分には問題ない。フィッティング終わり次第それに合わせて製作を始める事になっている。フィッティングやシフトするたびに装甲やパーツを作り直さなければならなくなる。ISの面倒なところだ」
「その特殊兵装って言うのはこの背中の翼のこの部分」
ラウさんがキーボードを叩くと翼の一部分が赤く表示される。
「この部分が外れて、独立した攻撃ユニットになるんだ」
更にラウさんがキーボードを叩くと赤く表示されていた部分が本体から離れて空を飛びながらターゲットをビームで撃ったり、切り裂いたりしている。
「コレが完成形だ。シャルロットにはコレが出来る様になってもらいたいが、まずは普通の操縦の方に慣れてもらう必要がある。こんな事もするとだけ覚えてくれていたら良い」
「何か聞いておきたい事はあるかい?」
「えっと、何時からこれに?」
「2、3日後だね。今日中にはシャルロットちゃんのISスーツは完成するだろうけど、たぶん明日は動けそうに無いだろうしね」
「え?」
おにいちゃんも言っていたけどどういう事なんだろう?
「そういえばこの後アレクシアとの体力測定だったな。オレ達から言えるのは、死ぬな」
「そうだね。僕達にはシャルロットちゃんが無事に生き残るのを祈る位しか出来ないから」
「おにいちゃんも言っていたけど、何でそんなことを」
「行けば分かる。というよりここの所員全員が同じ道を辿った。若さで耐え抜け」
「ユウダイ、体力測定からの復帰が一番遅かったんだ」
「お前も遅い方だろうが」
「ああ、仮病だもの」
「……後でアレクシアにチクってやる」
「ちょっと、それはないよ。そんな事したらまた体力測定受ける羽目になりそうなんだから」
「うるさい、どうせならシャルロットの盾にでもなって散って来い。ジェイルの奴からボーナスが出るぞ。たぶん」
「それなら君がやればいいだろう。僕が倒れたら何人の女性が悲しむと思ってるんだい」
「うるせえ、お前の女癖の悪さを治すにはちょうど良いだろうが」
ユウダイさんとラウさんがケンカを始めてしまう。どうしようか悩んだ所にイルヴァさんともう1人の女性がやって来て、いきなり銃を二人に向かって撃った。だけど、弾は飛び出さずに吸盤みたいなものが二人の顔に張り付くだけで終わった。
「地下。呼んでる」
「イルヴァか。それにしても地下?誰が呼んでるんだ」
「ジェイル。早く」
「ジェイルがねぇ、仕方ない。この続きはまた今度だよ」
「分かってる。すまんな、シャルロット。アレクシアは第3格納庫に居るはずだから、動き易い服に着替えてから行くと良い。まだ準備に時間がかかるはずだからな」
「あの、私は一体何をさせられるんですか」
不安に駆られて4人に尋ねると、全員が何処か遠くを見始める。そして、急に叫び始める。
「無理無理無理無理、これは本気で不味い!?」
「このタイミングなら、って急に早く、ちょっと待って!?」
「水、駄目。滑る」
「何処からそんなの持って来たんですか!? お願いですから撃たないで下さい」
今からでも逃げたくなった。私、生き残れるのかな。しばらくすると4人とも落ち着いたのか見苦しい所を見せて悪かったと言って何処かに行ってしまった。話を聞く限りでは地下なんだろうけど、できれば私もそっちに行きたかった。
諦めて部屋でジャージに着替えて第3格納庫に向かう。そして格納庫の扉を開くとそこには様々な障害物で作られたアスレチックが広がっていた。
「シャルちゃん、こっちこっち」
おそらくスタート地点だと思われる場所にアレクシアさんが立って手を振っていた。そこまで歩いていく途中、幾つかの障害物を確認していく。垂直の壁にロープが垂らされている物とか、高さ3m位の所にレールが二本とその間にポールが一本の物とか、そり立っている壁とかがある。
「はいそれじゃあ簡単な説明、ここからスタートして舞台から落ちない様にしながら障害物を攻略していくだけよ。シャルちゃんに合わせてある程度楽にはなっているから頑張ってね。もし舞台から落ちた時は途中のチェックポイントから、最初のチェックポイントまでの間に落ちたらスタートからやり直しよ」
簡単そうだ。
この考えはすぐに捨て去る事になった。格納庫全体を見ておくべきだった。そうすれば、まだ逃げれたかもしれなかった。
side out
side ジェイル
「作業終了、お疲れ。資材の関係で明日は休みだ。次は何時休めるか分からんから十分に身体を休めておけ」
「「「「「お疲れ様でーす」」」」」
地下の地盤の補強工事は問題なく終了した。資材の発注も終わり、搬送されるのは明後日のため明日は仕事が無い。最も個人での研究も許可している為、完全に人員が居なくなる事はないだろう。かくいうオレもアレクシアのトレーニングが待っている。
「所長、昨日の被害の見積もり部屋に送っておきましたから」
「了解だ。セイヤには給料から引いておくと言っておけ。嫌ならお前が修理しろともだ」
「は〜い」
「所長、歓迎会の方は何時まで延期にします?」
「状況が落ち着くまでだ。おそらく一月はかかる。その分予算は多めに取るから我慢しろ」
「やったね」
「所長、さっき捕まえた侵入者はどうします?」
「イルヴァから試作武器を貰ってきて的にしろ」
「了解でーす」
所長室に戻る途中も部下から入る報告に次々と指示を出していく。その途中、通路の反対側から楽しそうにアレクシアが歩いてくるのが見えた。アレクシアがここに居るという事は体力測定が終了したのだろう。周りの部下もそれが分かったのか冷や汗を流しながら足を止める。
「……アレクシア、シャルの体力測定はどうだった」
「あの歳の女の子にしてはやるわね。第4チェックポイントまで到着したけど、そこで限界がきたのか倒れちゃったわ」
「第4チェックポイントまでだと!?」
「そう、一番脱落者が多かった八双飛びも何とかクリアしたわ」
体力測定の八双飛び、名前の通り八カ所の足場に飛び移って進む障害物だ。それだけなら問題ないのだが一定の感覚で周囲からゴムボールが撃ち出されるので、撃たれる前に一気に進むか、足場にぶら下がる様にして躱さなければならない場所。更に言えばその先がチェックポイントなので落ちれば障害を4つ程戻らなければならない。しかもその4つが全て腕の筋力と瞬発力が必要になる障害で体力を一気に削られるのだ。それをくぐり抜けれたのは僅かに8人、内1人がアレクシアだ。というかゴール出来たのはアレクシアだけだ。今のオレならギリギリクリア出来るかどうかと言った所だ。
「とりあえず医務室には運んでおいたから。それから」
肩に手を置かれて引きずられる。これはもしかして。
「せっかく組み立てたんだからこのまま片付けるのも勿体ないし、ジェイルがどれだけ強くなったか測るにはちょうど良いでしょう」
引きずられるオレに向かって全員が揃って敬礼を送ってくる。シャルよ、オレも今から追いかけてやる。
side out
途中で出て来た給料ですけど調べてみた所、ちょっと古い記録ですがフランスの平均的な月給は約2000ユーロ位みたいです。年収に変換すると24000ユーロ。円に直すと年収は約250万円弱です。それを考えるとシャルはかなり稼ぐことに。ジェイルの方は研究所の所長に加えて、モルモットになるまでの自由を謳歌する為のお金が入ってきています。原作まで、というか原作に入っても殆ど使う事なく貯まる一方です。
それでも庶民からすれば十分なお金を使いますけど。スーツとか、時計とか。お偉いさんに会う機会が多いので失礼にならない程度の物を揃えなければなりませんから。
最後に言っておきますが給料に関しては結構適当に決めてます。どれぐらいが適切かなんて分かりませんでしたから。明らかにおかしいという意見があれば変更します。