side ジェイル
「調子の方はどうだ、シャル」
「うん、なんとか普通に動く位には大丈夫」
シャルとオレの体力測定から三日後、ようやくシャルが動ける様になったのでアンジュ・デュ・ヴァンの初搭乗が行なわれる事になった。現在、第一格納庫に施設内の警備をしている人員を除いた全員が集まっている。アレクシアは警備の方に回っている。いつもなら居るはずの人員が居ないのでADの情報が漏れると不味いのでそちらの警備に回ってもらっている。
「まずは搭乗だ。国等によっては装着とか言う場所もあるみたいだが、サンクチュアリでは搭乗だ。他のISとも異なり、肩、肘、脇腹、膝に若干痛みを伴う。心の準備ができたらヴァンに背中を向けて両手と足を開け。後はヴァンがこちらに合わせてくれる」
若干の痛みが伴う理由はユウダイが作った新しい神経接続機が、搭乗者の神経との接続の際に搭乗者に合わせて変化、変化の際に生じる電流が搭乗者に流れてしまう為らしい。その分、反応速度は上がっている。というか上がらないならそんな物を搭載する気は無い。
足や腕が固定される度にシャルが痛そうにしているが我慢してもらうしかない。フィッティングが終了すれば痛みが来る事はないのだから、コレ一回で済む可能性の方が高い。
「どうだ?」
「すごいね、適正値はAだ。それにフィッティングに必要なデータも搭乗しただけで一気に集まっている。コアとの相性がかなり良い。これなら」
ラウの言葉の後にヴァンが光を放つ。光が収まったそこにはフィッティングが終了したヴァンが立っている。
「これがIS」
「そうだ、センサー等に不調はあるか?」
「ううん。今までの視界よりも広いし、はっきりと見えるよ」
「そうか。なら少し歩いてみたり、走ってみよう。全力を出す必要はない」
「うん、やってみる」
それから五分間、シャルには好きに動いてもらう。その間もユウダイやラウが部下と共にデータを取り続けている。
「どこまで相性が良いんだ?一月もあれば第二形態移行しそうな勢いだぞ」
「ハイパーセンサー及びPICの最適化がどんどん進んでいく。まだ機能を十分に使ってもいないのに」
「色々と気になるが原因を突き止めるのは後にしよう。そろそろ空を飛んでも大丈夫だと思うがどうだ」
「僕達がが見る限りでは問題ないね」
「そうか、シャル。今度は空を飛んでみてくれ。最初はゆっくりと浮かぶだけで良い」
「大丈夫、行けるよ」
そう言ってシャルはいきなり空を自由に飛び回る。名の通り、まさに風の天使を幻想してしまう位に自由気ままに空を飛んでいる。
「今更だが、やりすぎたか?」
「やりすぎたんじゃねえか」
「やりすぎたんだろうね」
目の前に表示されている数値を見て少し呆れる。
そこに表示されている数値の全てが隣のモニターの数値を大幅に上回っている。
目の前のモニターはアンジュ・デュ・ヴァンの今取れたデータ、隣のモニターのは公開されたラファール・リヴァイヴのデータだ。シャルが今出している数値は全体的には3割、物によっては5割近く上回っている。
「トライアルも余裕だな」
「余裕と言うか勝負にならないだろう」
「これなら心配する必要もない、と言いたいけど」
「武器の方か。それは頑張って貰うしかない」
「とりあえずは小口径のビーム武器、次に実弾、それから口径を少しずつ大きくしていって、最後にADとの近接戦闘訓練って所で良いんじゃない?」
「その前にアレクシアに生身での格闘戦が待ってるだろうけどな」
「……彼女はまた地獄を見る事になるのか。今だけは自由にさせてあげても良いよね」
「「ああ」」
格納庫を自由に飛び回るシャルを外に連れ出して、エネルギーが底をつくまで自由に行動させる事にした。辛い現実から今だけは目を反らして健やかに過ごしてくれ。
あれから3週間の時が流れた。シャルは辛い現実に直面しながらも健気に頑張っている。オレからはこれ以上口には出来ない。そして手を貸せるのは、倒れているシャルによく効く湿布薬と栄養ドリンク、消化に良い食事を持っていってやる位しかできない。
それはさておき、オレは現在リリィをエスコートしながらとある店に向かっている。
「それにしてもこうやって街を歩くのは新鮮です」
目的の町まで車で来た後少し歩いていかないかと提案した所、了承を得られたので二人して歩いている。もちろん護衛にオリヴィエが影から着いてきている。まあ、この町で重犯罪等起こる可能性は無い。何故ならここには裏社会において恐れられる魔導士が住む町だ。そしてこの町は彼らの領域、ここでは誰もが狩られる立場にある殺戮場で中立地帯だ。魔導士達は自分たちの領域で好き勝手暴れない限りは手を出さないので色々な人間がバカンスに訪れる事でも有名だ。特に今オレの目の前にいる彼女の様に。
「おや?そこに居るのはジェイルじゃない。なになに、もしかしてデート?」
「そっちはバカンスかい、ココ」
色白で腰まで伸ばした銀髪、整った顔立ちに華奢な体付き、ココ・ヘクマティアル。彼女の様な色々と恨みを買うウェポン・ディーラーが護衛を付けずに歩ける位にこの町は平和だ。
「そうなのよ、やっぱ此所じゃないと安心して過ごせないでしょ。この前もいきなり街中でドンパチする羽目にもなったしね。近々南アメリカの方に活動範囲を移す予定だから英気を養う為にも此所に来てるのよ」
「南アメリカね。最近になって火種が燻ってたな。煽るのか?」
「ふふーふ、さあねえ?」
「派手に動くのは止めておけ。アレは何かキナ臭い」
「分かってるわ。それを確認する為にも兄もあそこに向かっているわ」
「キャスパーが?嫌な予感しかしないな」
「噂じゃあ、あそこに篠ノ之博士の研究所があるとかいうのが出回ってる位よ」
「ただのデマだな。十中八九研究所は宇宙、それも月にあるのが確実だろう」
「そうね。だけど仮の拠点位ならって思う奴が大半ね」
「あの、ジェイ。こちらの方は?」
会話に付いて来れていなかったリリィがオレにココのことを尋ねてくる。
「すまないな。ココ、こちらはマクレ家の令嬢リリアーヌだ」
「ああ、あの事件の。はじめまして、私はココ・ヘクマティアル。しがないウェポン・ディラーです」
「ヘクマティアル、確かHCLIの。はじめまして、リリアーヌ・マクレです。ジェイの婚約者です」
「え?」
「え?」
「え?」
上から順にオレ、リリィ、ココの順だ。
婚約者?
誰が?
リリィが。
誰の?
オレの。
「すまん、初耳なんだが」
「あれ?先方には了承は得たとお父様に言われたのですが」
なるほど、そこで食い違うか。ならば答えは簡単だ。
「社長の所で話が止まっている。おそらくはこっちが落ち着いた所でそれを伝えて混乱させるつもりだったな」
「相変わらず邪魔をされてるんですね」
「ああ、まあテストパイロットの方は予想以上に使えたからそれほどでもないよ。今はアレクシアの訓練に耐えている」
「……ジェイル、それってあのアレ?」
「アレは体力測定として研究所職員全員が受けた。その後はマンツーマンで体術とかを叩き込まれてる」
「バルメを圧倒出来るアレクシアに徹底的に叩き込まれるなんて大丈夫なの?」
「毎日の様に倒れてる。痕に残らない様にしているから質が悪い」
「お気の毒に」
「今度紹介しよう。それじゃあな」
「ええ、また会いましょう」
ココと別れて再びリリィと歩き出す。それにしても婚約者か。まあ昔から分かっていた事だ。道具であるオレを最大限に生かすならそれが普通の事だ。それが知り合いだった。ただそれだけの事だ。
「あの、ジェイ」
「うん?どうかしたか」
「もしかして嫌でしたか?婚約者の事」
「いや、婚約者云々は昔から理解していたさ。政略結婚になる事位はな。社長がそうだったし、オレもそうなるだろうってな。その相手が気の知れたリリィだっただけだ。十分に嬉しい事さ。リリィはどうなんだ?」
「私は、私は嬉しかったです。ジェイと一緒になれるのが。私だってマクレ家の娘だから、いずれは家の為に誰かと結婚しなければならない事位理解してました。恋愛結婚なんて無理だと。でも、ジェイに会えた。自分を犠牲にしてまで私を救ってくれた貴方に私は恋をした。だから婚約者の事をお父様にお願いして、それを了承してもらえて本当に嬉しかった。例えそれが会社や家の為でもあっても」
なるほど、これが人に愛されるという事か。今まで感じた事が無い感覚だ。シャルと家族になれた時とはまた違う温かさだ。
ああ、駄目だ。
オレの中の何かが壊れた音が聞こえた。
もうこれ以上危ない橋を渡れない。命綱を求めてしまう。自分を踏み台に出来ない。まだゴールに辿り着けていないのに歩けなくなってしまう。
もう一度、もう一度だけで良い。自分を形成しろ。歩けるだけで良い。歩くだけで辿り着ける道は既に築いた。だから余分になった部分を骨に回せ。倒れるわけにはいかないんだ。
なんとか自分を立て直したオレは、目的地に足を進める。ココと別れてからリリィはオレと腕を組んで歩いている。嬉しそうにしているリリィを見ると何も言えなくなるので好きにさせている。そして歩き始めて5分、ようやく目的地に到着した。
「ここだ」
「ここですか?」
目的地は町の中心地から少し外れた場所にある小さな一軒家を改造した看板すら上がっていないレストランだ。
「ここは知る人だけが知っている隠れた名店でな、オレが知る中ではここ以上の店は無い。安全面でもな。まあ、入ってみれば分かるさ」
ドアを潜り店内へと足を踏み入れる。客は誰も居らず、カウンターで新聞紙を広げている男に声をかける。
「二人だけど、大丈夫ですか。レイトさん」
「ああ、もちろんだ。そちらは?」
「オレの婚約者のリリアーヌです」
「ほう、それはまた。はじめましてだ、オレの名はレイト。巷では魔導士と呼ばれている者の1人だ。好きに呼んでくれ」
そう、目の前に居るこの二十代から三十代に見えるレイトは魔導士達の一人、というか筆頭である。魔導士と呼ばれる由縁は簡単だ。魔法が使える。普通なら与太話に過ぎないのだが実際に魔法を使っているとしか思えない様な奇跡を連続して起こし、普通では考えられない様な事を平然とこなしてしまう所から呼ばれ始め、本人達も否定しない。噂だと生身でISを撃破したとかそんなのがゴロゴロしている。正直に言えば、裏の世界では篠ノ之博士を越える危険度を誇る人物だ。
「さて本日のメニューだが、おなじみのシェフの気まぐれメニューしか無い。それで構わないな」
「ええ、今日は何料理ですか?」
「今日は日本の庶民料理だな。庶民料理と言っても馬鹿に出来ないおいしさがある」
「それは楽しみです」
店の奥に引っ込むレイトさんを見送り、料理を待つ間に色々とレイトさんの事をリリィに話す。そして、ようやく事の大きさに気付く。慌てふためく姿を見て面白いと感じる。
ああ、やはりオレは壊れたままの様だ。
この状況を楽しいと思っている。楽しむ余裕はまだ無いはずなのに。
オレがどんどん壊れていく。どこからおかしくなった?今日か?シャルに出会ってから?それともアレクシアと出会ってから?出会いがオレを壊していくのか?
だが、出会いによってオレは力を得ていく。ならばその矛盾がオレを壊していくのだろう。
オレが壊れるのが先か、目的を達するのが先か。
それはオレだけが知る事になる。
side out
いつもより短くなっていますが内容的にキリがいいのがここなので、今回はコレ位です。
次回、ADvsADVを予定しております。
お楽しみに。