山道を行く旅人がいた。
全身を覆えるほど大きな外套から美しい黒髪がのぞいている。
外套の上からでも分かるほどの女性特有の丸みを帯びたプロポーションと武人としての絞り込まれた体躯が素晴しい均整を作り出している。
しかしそんな彼女の容姿よりも目を引くのはその方に担いだ武器のほうであろう。
いくら乱れた世の中とはいえ偃月刀を担いで旅をする女性などそういるものではない。
彼女が不意に立ち止まり自らの前にある空気をつかむような動作をした。
手を開くとそこには一片の花びらがあった。
「桃か、 そろそろ出てきたらどうだ。」
先ほどから彼女は自らを見つめる視線に気づいていた。
複数あったその視線が集まり自分の行く手を阻むように位置を取るところを見るとここで仕掛けてくる積もりのようだ。
「へっへっへっへ、 よう、ねーちゃん邪魔するぜ。」
「ここは俺達の縄張りでなぁ~、無事に通してほしければ通行料として金目のものを置いていってもらおうか。」
「別に体で払ってもらってもこっちとしては、いっこうにかまわないんだな。べっべつにあんたが特別抱きたいとかじゃなんだから勘違いしないでほしいんだな。」
まったく意味のないツンデレである。
前方の草むらから五人の賊が顔を出し彼女の前方に陣取る。
「世も末だな、 ふぅ」
彼女そう言葉をもらしながら外套を脱ぐと
「ほ~ぅ」
賊のリーダー格とおぼしき人物がにやけながら声を上げた。
ほかの賊の面々も彼女に向かい、いやらしい視線を向ける。
とっ、何かに思い至り小柄な賊が声を上げる。
「アニキ、こいつ黒髪の山賊狩りじゃ。」
「あぁん、何だそれ?」
「知らねぇんですかい! あちこちで山賊を狩って廻ってる黒髪の美しい武芸者がいるって、今ちょいと噂になってますぜ。」
「あぁ 確かに黒髪”が”美しいな。」
「そうですね。黒髪”が”美しいですね。」
「き~さ~ま~ら~賊の分際でいい度胸だな! 我が名は関羽! 不埒な悪行を行う賊共め! 我が青龍偃月刀の錆としてくれ「あ~~~~~れ~~~~~~」あ~れ~?」
それは突然だった。
間の抜けた声とともに人が飛ばされてきた。
空から。
「「「「「ぎぃ~や~」」」」」
そしてそのまま賊達に突っ込み一掃した。
「……………」
眼前に広がる光景に呆気にとらわれ固まっている関羽。
この出会いが騒乱の運命の始まりになるなど彼女は知るよしも無かった。